開写像定理(非アルキメデス体)

同義語:非アルキメデス体上の開写像定理open mapping theorem over non-archimedean fields

概要

開写像定理(非アルキメデス体)(open mapping theorem over non-archimedean fields)とは、自明でない非アルキメデス的な絶対値について完備な体 $K$ の上の Banach 空間の間の連続な全射線形写像 $T$ は開写像であり、$Tv=w$ の解 $v$ を $\|v\|\le C\|w\|$ と選べる、という定理である。証明は実数体の場合と同じく Baire の範疇定理と級数の収束によるが、$\frac12$ 倍の代わりに $0<|\pi|<1$ なる $\pi$ の冪を掛け、閉球が加法群であることを使う。系として逆写像の連続性と閉グラフの判定が成り立ち、Noether 環である Banach 代数のイデアルの閉性や、affinoid 代数の間の準同型の自動連続性を導く、rigid 幾何の基礎の道具である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 開写像定理, Banach空間, Baireの範疇定理, 付値

何を述べる定理か

実数体・複素数体の上の Banach 空間について、連続な全射線形写像は開写像である(開写像定理)。$p$ 進数体 $\mathbb{Q}_p$ や $\mathbb{C}_p$(p進体)のような、自明でない非アルキメデス的な絶対値について完備な体の上でも、同じ定理が成り立つ。証明の骨組みは変わらず、値域の完備性から Baireの範疇定理 で「像の閉包が太い」ことを導き、定義域の完備性から級数の収束で閉包を取り除く。変わるのは、$\frac12$ 倍の代わりに絶対値が $1$ より小さい元 $\pi$ の冪を掛けることと、超距離不等式のおかげで閉球が加法群になり、差をとる評価がいらなくなることである。
この定理は rigid 幾何の基礎で何度も使われる。Noether 環である Banach 代数のイデアルはすべて閉であり、affinoid 代数の間の $K$ 代数の準同型は自動的に連続で、affinoid 代数の位相は表示によらない。

問い答え
何が成り立つか絶対値が自明でない完備な非アルキメデス付値体上の Banach 空間の間の連続な全射線形写像 $T$ は開写像で、$Tv=w$ の解 $v$ を $\Vert v\Vert \le C\Vert w\Vert $ と選べる(thm-open-mapping-theorem-non-archimedean)
実数・複素数の場合との違い$\frac12$ 倍を $\pi$ の冪に替え、閉球が加法群であることを使う(rem-open-mapping-theorem-non-archimedean-difference)
何に使うかNoether な Banach 代数のイデアルの閉性(prop-open-mapping-theorem-non-archimedean-ideals)、準同型の自動連続性(thm-open-mapping-theorem-non-archimedean-continuity)

設定と定義

以下、$K$ は体で、非アルキメデス的な絶対値 $|\cdot|$($|a+b|\le\max(|a|,|b|)$ を満たす付値)をもち、その絶対値は自明でなく($|a|\ne0,1$ となる $a\in K$ がある)、$K$ はこの絶対値について完備であるとする。$|a|>1$ なら $|a^{-1}|<1$ なので、$0<|\pi|<1$ を満たす $\pi\in K$ がとれる。この $\pi$ を以下固定する。$K^\circ:=\{a\in K\mid|a|\le1\}$ とおく。

非アルキメデス的な Banach 空間

$K$ 上のベクトル空間 $V$ と関数 $\|\cdot\|\colon V\to\mathbb{R}_{\ge0}$ の組が $K$ 上のノルム空間であるとは、次を満たすことをいう。

  1. $\|v\|=0$ と $v=0$ は同値である。
  2. $\|cv\|=|c|\,\|v\|$($c\in K$、$v\in V$)。
  3. $\|v+w\|\le\max(\|v\|,\|w\|)$(超距離不等式)。
    $d(v,w):=\|v-w\|$ について完備なものを $K$ 上の Banach 空間という。線形写像 $T\colon V\to W$ が有界であるとは、定数 $M$ があって $\|Tv\|\le M\|v\|$ がすべての $v$ で成り立つことをいう。$r>0$ に対し $D_V(r):=\{v\in V\mid\|v\|\le r\}$ と書く。

$K^n$ に $\|(c_i)\|:=\max_i|c_i|$ を入れたもの、$0$ に収束する $K$ の数列の空間 $c_0(K)$ に $\|(a_k)\|:=\max_k|a_k|$ を入れたもの、Tate代数 に Gauss ノルムを入れたものは、$K$ 上の Banach 空間である($K$ が完備なことから、実数の場合と同じく確かめられる)。

ノルム空間の基本性質

$V$ を $K$ 上のノルム空間とする。

  1. $D_V(r)$ は加法部分群で、$K^\circ$ の元を掛ける操作で閉じ、開集合かつ閉集合である。
  2. $V$ が Banach 空間なら、級数 $\sum_kv_k$ が収束することと $\|v_k\|\to0$ は同値で、そのとき $\|\sum_kv_k\|\le\max_k\|v_k\|$ である。
  3. 線形写像 $T\colon V\to W$ が連続であることと有界であることは同値である。

1.超距離不等式から $D_V(r)$ は和で閉じ、$\|-v\|=\|v\|$ である。$\|v\|\le r$、$\|u-v\|< r$ なら $\|u\|\le\max(\|v\|,\|u-v\|)\le r$ なので開集合であり、ノルムの連続性から閉集合である。
2.部分和 $s_n$ について $\|s_m-s_n\|\le\max_{n< k\le m}\|v_k\|$ なので、$\|v_k\|\to0$ なら $(s_n)$ は Cauchy 列で収束する。逆は $v_k=s_k-s_{k-1}\to0$ による。不等式は $\|s_n\|\le\max_{k\le n}\|v_k\|$ で極限をとればよい。
3.有界なら $\|Tv-Tv'\|\le M\|v-v'\|$ なので連続である。

連続なら有界であることの証明を開く

$0$ での連続性から、$\|v\|\le\delta$ なら $\|Tv\|\le1$ となる $\delta>0$ がある。$v\ne0$ とする。$k\in\mathbb{Z}$ を動かすと $|\pi|^k\|v\|$ は公比 $|\pi|$ の等比数列で $0$ にも $\infty$ にも近づくので、$|\pi|\delta< |\pi|^k\|v\|\le\delta$ となる $k$ がある。$\|\pi^kv\|\le\delta$ から $\|T(\pi^kv)\|\le1$、すなわち $\|Tv\|\le|\pi|^{-k}< \|v\|/(|\pi|\delta)$ である。よって $M:=1/(|\pi|\delta)$ ととれる。$\square$

主定理

非アルキメデス的 Banach 空間の開写像定理

$V,W$ を $K$ 上の Banach 空間、$T\colon V\to W$ を連続な全射線形写像とする。このとき定数 $C>0$ があって、すべての $w\in W$ について $Tv=w$ かつ $\|v\|\le C\|w\|$ を満たす $v\in V$ が存在する。特に $T$ は開写像である。

証明は 2 つの補題に分かれ、1 つ目で値域の完備性、2 つ目で定義域の完備性を使う。$\overline S$ は $S\subset W$ の閉包を表す。

像の閉包の内点

$V$ を $K$ 上のノルム空間、$W$ を $K$ 上の Banach 空間、$T\colon V\to W$ を全射な線形写像とする。ある $\varepsilon>0$ について $\{w\in W\mid\|w\|<\varepsilon\}\subset\overline{T(D_V(1))}$ である。

$S:=T(D_V(1))$ とおく。任意の $v$ は十分大きい $m$ で $\|\pi^mv\|\le1$ を満たすので $V=\bigcup_{m\ge0}\pi^{-m}D_V(1)$ であり、$T$ は全射なので $W=\bigcup_{m\ge0}\pi^{-m}\overline S$ である。$\pi^{-m}$ を掛ける写像は $W$ の同相写像なので、右辺は閉集合の可算和である。$W$ は空でない完備距離空間なので、Baireの範疇定理 の系「閉集合による可算被覆」により、ある $\pi^{-m}\overline S$、したがって $\overline S$ が開球 $\{w\mid\|w-w_0\|<\varepsilon\}$ を含む。
$D_V(1)$ は加法部分群なので(lem-open-mapping-theorem-non-archimedean-basic の 1)$S$ も加法部分群であり、引き算の連続性から $\overline S$ も加法部分群である。$\|w\|<\varepsilon$ なら $w_0+w$ と $w_0$ はともに $\overline S$ に属するので、$w=(w_0+w)-w_0\in\overline S$ である。$\square$

閉包を取り除く

$V$ を $K$ 上の Banach 空間、$W$ を $K$ 上のノルム空間、$T\colon V\to W$ を連続な線形写像とし、ある $\varepsilon>0$ について $\{w\mid\|w\|<\varepsilon\}\subset\overline{T(D_V(1))}$ とする。$C:=1/(\varepsilon|\pi|)$ とおくと、すべての $w\in W$ について $Tv=w$ かつ $\|v\|\le C\|w\|$ を満たす $v\in V$ が存在する。

段 1(近似):すべての $w$ について、$\|u\|\le C\|w\|$ かつ $\|w-Tu\|\le|\pi|\,\|w\|$ を満たす $u\in V$ がある。$w=0$ なら $u=0$ でよい。$w\ne0$ なら、$\varepsilon|\pi|\le|\pi|^k\|w\|<\varepsilon$ となる $k\in\mathbb{Z}$ をとる。$\pi^kw\in\overline{T(D_V(1))}$ なので、$\|u'\|\le1$ かつ $\|\pi^kw-Tu'\|\le\varepsilon|\pi|^2$ を満たす $u'$ がある。$u:=\pi^{-k}u'$ とおくと、$|\pi|^{-k}\le\|w\|/(\varepsilon|\pi|)=C\|w\|$ から
$$ \|u\|\le|\pi|^{-k}\le C\|w\|,\qquad\|w-Tu\|=|\pi|^{-k}\|\pi^kw-Tu'\|\le C\|w\|\cdot\varepsilon|\pi|^2=|\pi|\,\|w\| $$
である。
段 2(反復):$w_0:=w$ とし、$w_j$ に段 1 を当てて得た $u$ を $u_j$、$w_{j+1}:=w_j-Tu_j$ とおく。帰納的に $\|w_j\|\le|\pi|^j\|w\|$、$\|u_j\|\le C|\pi|^j\|w\|$ であり、$\|u_j\|\to0$ である。$V$ は Banach 空間なので lem-open-mapping-theorem-non-archimedean-basic の 2 により $v:=\sum_ju_j$ は収束し、$\|v\|\le\max_j\|u_j\|\le C\|w\|$ である。$T$ は連続なので $Tv=\lim_n\sum_{j\le n}Tu_j=\lim_n(w-w_{n+1})=w$ である。$\square$

lem-open-mapping-theorem-non-archimedean-baire で $\varepsilon$ をとり、lem-open-mapping-theorem-non-archimedean-iteration を当てれば、$C=1/(\varepsilon|\pi|)$ で主張の評価が成り立つ。開写像であること:$G\subset V$ を開集合、$x\in G$ とし、$x+D_V(r)\subset G$($r>0$)とする。$\|w\|\le r/C$ なら $\|v\|\le r$、$Tv=w$ となる $v$ があるので $Tx+w=T(x+v)\in T(G)$ である。よって $T(G)$ は $Tx$ の近傍を含み、開集合である。$\square$

実数・複素数の場合との違い

開写像定理 の記事の証明と比べると、違いは 3 点である。(1) 閉球 $D_V(1)$ が加法部分群なので、$\overline S-\overline S\subset\overline{T(D_V(2))}$ のような半径の倍化が起きない。(2) $\frac12$ 倍・$2^{-j}$ 倍の代わりに $\pi^k$ を掛ける。ノルムをスカラー倍で任意の正の実数にそろえることは一般にできない($|K^\times|$ は $\mathbb{R}_{>0}$ 全体とは限らない)ので、$\pi$ の冪で $|\pi|$ 倍ずつ動かして、段 1 で $|\pi|^k\|w\|$ を区間 $[\varepsilon|\pi|,\varepsilon)$ に入れ、定数に $|\pi|^{-1}$ が付く。(3) 級数の収束は、項が $0$ に収束することだけで判定できる。絶対値が自明でないことは $\pi$ の存在に使っている。

絶対値が自明な場合

絶対値が自明なとき($a\ne0$ なら $|a|=1$)は、thm-open-mapping-theorem-non-archimedean の量的な結論が成り立たない例がある。$V=W$ を $K$ の数列全体とし、$a\ne0$ に対し $\|a\|_V:=2^{-m(a)}$、$\|a\|_W:=3^{-m(a)}$($m(a)$ は $a_m\ne0$ となる最小の $m$)とおく。

例の確かめを開く

どちらも定義の 1〜3 を満たす($m(a+b)\ge\min(m(a),m(b))$、$c\ne0$ で $m(ca)=m(a)$)。$\|a-b\|_V\le2^{-n}$ は $a,b$ の第 $0$〜$(n-1)$ 項が一致することと同値なので、Cauchy 列は各項が最終的に一定になり、その極限の列に収束する。$W$ も同様で、どちらも完備である。恒等写像 $V\to W$ は $\|a\|_W\le\|a\|_V$ を満たす連続な全単射だが、第 $m$ 項だけが $1$ の列 $e_m$ について $\|e_m\|_V/\|e_m\|_W=(3/2)^m$ は有界でないので、$\|a\|_V\le C\|a\|_W$ となる $C$ はない。2 つのノルムは同じ位相を定めるので逆写像は連続であり、この例が壊すのは評価 $\|v\|\le C\|w\|$ と、lem-open-mapping-theorem-non-archimedean-basic の 3 の「連続なら有界」である。

系

以下 $V,W$ は $K$ 上の Banach 空間とする。

連続な全単射の逆写像

連続な線形全単射 $T\colon V\to W$ の逆写像は連続で、$\|T^{-1}w\|\le C\|w\|$ を満たす。

thm-open-mapping-theorem-non-archimedean の $v$ は $T^{-1}w$ しかないので、$\|T^{-1}w\|\le C\|w\|$ である。$\square$

これは 有界逆写像定理 の非アルキメデス版である。同じく 閉グラフ定理 も成り立つ。

グラフが閉な線形写像

線形写像 $T\colon V\to W$ のグラフ $\Gamma:=\{(v,Tv)\}$ が $V\times W$ の閉集合なら、$T$ は連続である。

$V\times W$ に $\|(v,w)\|:=\max(\|v\|,\|w\|)$ を入れると $K$ 上の Banach 空間であり、閉部分空間 $\Gamma$ も Banach 空間である。射影 $p\colon\Gamma\to V$ は連続な線形全単射なので、cor-open-mapping-theorem-non-archimedean-inverse により $p^{-1}$ は連続である。$T$ は $p^{-1}$ と射影 $\Gamma\to W$ の合成なので連続である。$\square$

閉グラフの条件は「$v_j\to0$ かつ $Tv_j\to y$ なら $y=0$」と同値である($T$ は線形なので、差をとれば一般の収束列に帰着する)。この形で後の thm-open-mapping-theorem-non-archimedean-continuity に使う。

完備なノルムの比較

$K$ 上のベクトル空間 $E$ の 2 つのノルム $\|\cdot\|_1,\|\cdot\|_2$ がどちらも完備で、$\|x\|_2\le c\|x\|_1$ を満たすなら、2 つは同値である。すなわち $\|x\|_1\le c'\|x\|_2$ となる $c'$ がある。

恒等写像 $(E,\|\cdot\|_1)\to(E,\|\cdot\|_2)$ は連続な全単射なので、cor-open-mapping-theorem-non-archimedean-inverse を当てればよい。$\square$

閉部分空間 $U\subset V$ について、$V/U$ に剰余ノルム $\|x+U\|:=\inf_{u\in U}\|x+u\|$ を入れる。

剰余ノルムと全射
  1. $U\subset V$ が閉部分空間なら、剰余ノルムは $V/U$ の非アルキメデス的なノルムで、$V/U$ は $K$ 上の Banach 空間であり、射影 $q\colon V\to V/U$ は $\|q(x)\|\le\|x\|$ を満たす。
  2. $T\colon V\to W$ が連続な全射線形写像なら、$\ker T$ は閉で、$T$ が誘導する $V/\ker T\to W$ は連続な線形全単射で、逆写像も連続である。

2 は 1 と cor-open-mapping-theorem-non-archimedean-inverse から従う(誘導された写像の連続性は $\|Tx\|=\|T(x+u)\|\le M\|x+u\|$ の下限をとればよい)。1 は実数の場合と同じだが、完備性を級数で確かめる。

1 の証明を開く

ノルムの公理:$\|x+U\|=0$ なら $x\in\overline U=U$ である。超距離不等式は $\|x+y+u+u'\|\le\max(\|x+u\|,\|y+u'\|)$ の下限をとればよい。完備性:まず、$K$ 上のノルム空間 $E$ で「項が $0$ に収束する級数がすべて収束する」なら $E$ は完備である。実際 Cauchy 列 $(y_n)$ から $\|y_{n_{j+1}}-y_{n_j}\|\le2^{-j}$ となる部分列をとれば、$\sum_j(y_{n_{j+1}}-y_{n_j})$ が収束して部分列が収束し、Cauchy 列なので全体も収束する。$V/U$ の元の列 $\xi_k$ で $\|\xi_k\|\to0$ のものに対し、代表元 $x_k$ を $\|x_k\|<\|\xi_k\|+\frac1k$ となるようにとると $\|x_k\|\to0$ なので、$\sum_kx_k$ は $V$ で収束し(lem-open-mapping-theorem-non-archimedean-basic の 2)、$q$ は連続なので $\sum_k\xi_k=q(\sum_kx_k)$ も収束する。$\square$

例と反例

thm-open-mapping-theorem-non-archimedean とその系は、次のように仮定を 1 つ外すと成り立たなくなる。

外す条件反例成り立たなくなること
値域の完備性$c_0(K)$ から $c_0(K)$ に $\Vert a\Vert ':=\max_k\lvert \pi\rvert ^k\lvert a_k\rvert $ を入れた空間への恒等写像逆写像の連続性
全射性$c_0(K)$ 上の $(a_k)_k\mapsto(\pi^ka_k)_k$開写像であること
閉グラフの系で定義域の完備性有限個の項を除いて $0$ の数列の空間 $c_{00}(K)$ から $c_0(K)$ への $(a_k)_k\mapsto(\pi^{-k}a_k)_k$グラフが閉なら連続であること
反例の確かめ

$e_k$ を第 $k$ 項だけが $1$ の数列とし、数列は $k\ge0$ で添字づける。
1 行目:$\|a\|'\le\|a\|$ なので恒等写像は連続な全単射だが、$\|e_k\|=1$、$\|e_k\|'=|\pi|^k\to0$ なので逆写像は連続でない。$\|\cdot\|'$ は完備でない。実際 $x_n:=\sum_{k\le n}e_k$ は $\|x_m-x_n\|'=|\pi|^{n+1}$($m>n$)で Cauchy 列だが、各項の取り出し $a\mapsto a_k$ は $|a_k|\le|\pi|^{-k}\|a\|'$ で連続なので、極限 $x$ があればすべての項が $1$ となり、$x\in c_0(K)$ に反する。
2 行目:写像は $\|\cdot\|$ を増やさない単射で、像は $c_{00}(K)$ を含むので稠密である。$y_k:=\pi^{\lceil k/2\rceil}$ とおくと $y\in c_0(K)$ だが、$y$ の逆像の候補 $(\pi^{\lceil k/2\rceil-k})_k$ は絶対値が $\infty$ に発散するので $c_0(K)$ に属さず、全射でない。開写像でないこと:$m\ge0$ を任意にとると、ノルム $|\pi|^m$ の $\pi^me_k$ のただ一つの逆像 $\pi^{m-k}e_k$ のノルムは $|\pi|^{m-k}$ で、$k>m$ なら $1$ を超える。よって閉球 $D(1)$ の像は $0$ のどの近傍も含まず、開集合でない。
3 行目:$c_{00}(K)$ に $\max_k|a_k|$ を入れると完備でない($\sum_{k\le n}\pi^ke_k$ が Cauchy 列で、極限が $c_{00}(K)$ にない)。グラフは閉である。$a^{(j)}\to a$ かつ $Ta^{(j)}\to b$ なら、各項で $b_k=\pi^{-k}a_k$ となるので $b=Ta$ である。しかし $\|Te_k\|=|\pi|^{-k}$ は有界でない。値域 $c_0(K)$ は完備で、外れているのは定義域の完備性だけである。

応用:Banach 代数と affinoid 代数

この節では、$K$ 上の Banach 代数を、単位元をもつ可換な $K$ 代数 $B$ で、$K$ 上の Banach 空間であり $\|xy\|\le\|x\|\,\|y\|$ を満たすものとする。affinoid代数 $A$ は、表示 $\alpha\colon T_n\to A$ の剰余ノルム $|\cdot|_\alpha$ によってこの意味の Banach 代数になり、Noether 環である(affinoid代数 の定理「Noether 性とイデアルの閉性」)。

Noether な Banach 代数のイデアル

$K$ 上の Banach 代数 $B$ が Noether環 なら、$B$ の任意のイデアルは閉である。

$\mathfrak a$ をイデアルとする。閉包 $\bar{\mathfrak a}$ もイデアルで、$B$ は Noether 環なので $\bar{\mathfrak a}=(f_1,\dots,f_r)$ と書ける。$B^r$ に成分の最大のノルムを入れると、$\varphi(b_1,\dots,b_r):=\sum_ib_if_i$ は Banach 空間 $B^r$ から閉部分空間 $\bar{\mathfrak a}$ への連続な全射線形写像なので、thm-open-mapping-theorem-non-archimedean の定数 $C$ がとれる。$\mathfrak a$ の元 $g_i$ で $f_i$ を近似し、$\theta:=C\max_i\|f_i-g_i\|<1$ とする。$\psi(b_1,\dots,b_r):=\sum_ib_ig_i$ の像は $\mathfrak a$ に含まれ、$\psi$ が $\bar{\mathfrak a}$ の元をすべて表すことを、誤差を $\theta$ 倍ずつ縮める反復で示す。

反復の詳細を開く

$y\in\bar{\mathfrak a}$ をとり、$y_0:=y$ とする。$y_k\in\bar{\mathfrak a}$ に対し、$\varphi(x_k)=y_k$、$\|x_k\|\le C\|y_k\|$ を満たす $x_k=(x_{k,i})_i\in B^r$ をとり、$y_{k+1}:=y_k-\psi(x_k)=\sum_ix_{k,i}(f_i-g_i)$ とおく。$y_{k+1}\in\bar{\mathfrak a}$ で、$\|y_{k+1}\|\le\max_i\|x_{k,i}\|\,\|f_i-g_i\|\le\theta\|y_k\|$ である。よって $\|x_k\|\le C\theta^k\|y\|\to0$ であり、$x:=\sum_kx_k$ は $B^r$ で収束し、$\psi$ の連続性から $\psi(x)=\sum_k(y_k-y_{k+1})=y$ である。$\psi(x)\in\mathfrak a$ なので $\bar{\mathfrak a}=\mathfrak a$ である。$\square$

有限次元の商を通る写像

$V$ を $K$ 上の Banach 空間、$I\subset V$ を閉部分空間で $V/I$ が有限次元のものとし、$E$ を $K$ 上のノルム空間とする。$I$ の上で $0$ になる線形写像 $f\colon V\to E$ は連続である。

$f$ は射影 $q\colon V\to V/I$ と線形写像 $\bar f\colon V/I\to E$ の合成で、$q$ は連続である(prop-open-mapping-theorem-non-archimedean-quotient の 1)。$V/I$ の基底 $e_1,\dots,e_d$ をとり、$S\colon K^d\to V/I$、$(c_i)\mapsto\sum_ic_ie_i$ とおく。$\|S(c)\|\le\max_i|c_i|\max_i\|e_i\|$ なので $S$ は Banach 空間の間の連続な線形全単射であり、cor-open-mapping-theorem-non-archimedean-inverse により $S^{-1}$ も連続である。$\bar f\circ S$ は同じ評価で連続なので、$\bar f=(\bar f\circ S)\circ S^{-1}$ も連続である。$\square$

準同型の自動連続性

$A$ を Noether 環である $K$ 上の Banach 代数、$B$ を affinoid 代数とし、$B$ に表示の剰余ノルムを 1 つ入れる。このとき任意の $K$ 代数の準同型 $\phi\colon A\to B$ は連続である。特に次が成り立つ。

  1. affinoid 代数の間の $K$ 代数の準同型は、剰余ノルムについて連続である。
  2. affinoid 代数の 2 つの表示の剰余ノルムは同値であり、affinoid 代数の位相は表示によらない。

cor-open-mapping-theorem-non-archimedean-closed-graph により、$x_j\to0$ かつ $\phi(x_j)\to y$ なら $y=0$ であることを示せばよい。$B$ の極大イデアル $\mathfrak n$ と $k\ge1$ をとり、$q\colon B\to B/\mathfrak n^k$ を射影とする。$\mathfrak n^k$ は閉なので(prop-open-mapping-theorem-non-archimedean-ideals)$B/\mathfrak n^k$ に剰余ノルムが入り、$q$ は連続である。$B/\mathfrak n^k$ は有限次元である(affinoid代数 の例「有限次元の代数」)。$\psi:=q\circ\phi$ の核 $I$ は $A$ のイデアルで閉であり、$A/I$ は $B/\mathfrak n^k$ に単射に写るので有限次元である。lem-open-mapping-theorem-non-archimedean-finite により $\psi$ は連続で、
$$ q(y)=\lim_jq(\phi(x_j))=\lim_j\psi(x_j)=0 $$
となる。よって $y$ は、すべての極大イデアル $\mathfrak n$ とすべての $k$ について $\mathfrak n^k$ に属する。Krullの交叉定理 の 1($M=B$、イデアル $\mathfrak n$)により $(1-b)y=0$ となる $b\in\mathfrak n$ があるので、$y$ の零化イデアルは $\mathfrak n$ に含まれない。$\mathfrak n$ は任意なので零化イデアルは $B$ 全体で、$y=0$ である。
1 は、affinoid 代数が Noether 環である Banach 代数であることによる。2 は、表示 $\alpha,\beta$ について恒等写像 $(B,|\cdot|_\alpha)\to(B,|\cdot|_\beta)$ とその逆が 1 により連続、したがって有界であること(lem-open-mapping-theorem-non-archimedean-basic の 3)による。$\square$

主張は BGR84 §6.1.3 定理 1(p. 229)にあり、そこでは Banach 代数の一般論(同書 §3.7.5)から導かれる。ここでは閉グラフの形の開写像定理と Krull の交叉定理に帰着させた。2 から、affinoid 代数は位相の付いた $K$ 代数として表示によらずに定まり、affinoid 代数の圏の射を単に $K$ 代数の準同型としてよいことが分かる。これは affinoid部分領域 の普遍性を、連続性を気にせずに述べるための土台である。

定理の所在

BGR84 §2.8.1(p. 123)は、完備で絶対値が自明でない $K$ の上の Banach 空間について開写像定理(同書では Banach の定理と呼ぶ)を証明なしで述べ、閉グラフ定理をそこから導いている。この記事の証明は、実数体の場合の 開写像定理 の証明を上の 3 点で書き直したものである。

関連項目

参考文献

[1]
Siegfried Bosch, Ulrich Güntzer, Reinhold Remmert, Non-Archimedean Analysis: A Systematic Approach to Rigid Analytic Geometry, Springer, 1984, §2.8.1 p. 123(Banach の定理・閉グラフ定理)、§6.1.3 定理 1 p. 229(準同型の連続性)

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