米田の補題(豊穣圏)は、表現可能な豊穣前層からの豊穣自然変換対象が、表現対象での前層の値と同型になることを述べる。一般の対称モノイダル閉圏における定式化と証明、通常版への帰着、単体的豊穣圏の複数の表示を通じた∞圏版との接続を説明する。
通常の米田の補題は、表現可能関手からの自然変換を、ある対象での一つの値によって分類する。射の集まりがアーベル群や単体的集合の構造を持つ場合には、その構造も含めて分類したい。豊穣版では、自然変換を集めた「対象」と関手の値が、豊穣化の基礎となる圏の中で同型になる。
本記事は一般の豊穣米田の補題を扱う独立記事である。通常の圏・関手・自然変換、積・等化子・随伴の基礎を前提とし、定理に必要な豊穣圏・豊穣前層・自然変換対象は本文で定義する。末尾では単体的集合による豊穣化を取り上げ、どの条件で $(\infty,1)$-圏の米田の補題へつながるかを説明する。一般の豊穣圏そのものを∞圏と同一視するわけではない。
対称モノイダル圏(symmetric monoidal category)とは、圏 $\mathcal V$ にテンソル積 $\otimes$、単位対象 $I$、結合・単位・対称性の自然同型を備え、それらが五角形・三角形・対称性の整合条件を満たすものである。閉(closed)であるとは、各対象 $U$ に対して $-\otimes U$ が右随伴 $[U,-]$ を持つことである。従って自然な全単射
$$
\operatorname{Hom}_{\mathcal V}(T\otimes U,V)
\cong\operatorname{Hom}_{\mathcal V}(T,[U,V])
$$
がある。$[U,V]$ は内部Hom対象(internal hom object)であり、通常の射集合 $\operatorname{Hom}_{\mathcal V}(U,V)$ とは区別する。
以下では、$\mathcal V$ は局所小で、小さい極限をすべて持つ対称モノイダル閉圏とする。小ささは固定した宇宙に関して解釈し、前層全体の圏を扱うときは必要に応じて大きい宇宙へ移る。この仮定と後述する $\mathcal C$ の小ささは、豊穣前層圏全体を構成するための分かりやすい十分条件であり、米田の補題に必要な最小条件だとは主張しない。結合・単位・対称性の同型は式中で適宜省略する(Kel05 §§1.1–1.6, 2.1–2.2)。
例は $\mathbf{Set}$ の直積、アーベル群の圏 $\mathbf{Ab}$ の $\otimes_{\mathbb Z}$、単体的集合の圏 $\mathrm{sSet}$ の直積である。単位対象は順に一点集合、$\mathbb Z$、$\Delta^0$ となる。
$\mathcal V$-豊穣圏($\mathcal V$-enriched category)$\mathcal C$ は、対象の集まりと、各二対象 $x,y$ に対するHom対象 $\mathcal C(x,y)\in\mathcal V$、合成と単位の射
$$
\mathcal C(y,z)\otimes\mathcal C(x,y)\longrightarrow\mathcal C(x,z),
\qquad
j_x:I\longrightarrow\mathcal C(x,x)
$$
からなり、結合律と左右の単位律を満たす。対象の集まりが小さい集合であるとき、小さい豊穣圏という。
台となる通常の圏 $\mathcal C_0$ は対象を共有し、射集合を
$$
\operatorname{Hom}_{\mathcal C_0}(x,y)
=\operatorname{Hom}_{\mathcal V}(I,\mathcal C(x,y))
$$
とする。反対豊穣圏 $\mathcal C^{\mathrm{op}}$ のHomは $\mathcal C^{\mathrm{op}}(x,y)=\mathcal C(y,x)$ であり、合成には $\mathcal V$ の対称性を使う。
$\mathcal V$ 自身も内部Hom $[U,V]$ によって $\mathcal V$-豊穣圏になる。以下、$\mathcal C$ は小さい $\mathcal V$-豊穣圏とする。
豊穣前層(enriched presheaf)$F:\mathcal C^{\mathrm{op}}\to\mathcal V$ とは、各 $x$ に対象 $F(x)$ を割り当て、作用の射
$$
\rho^F_{x,y}:\mathcal C(x,y)\otimes F(y)\longrightarrow F(x)
$$
を備えるものである。作用は単位を恒等射へ送り、合成と可換する。すなわち $\mathcal C(y,z)\otimes\mathcal C(x,y)\otimes F(z)$ から $F(x)$ への「先に合成する」射と「$F(z)$ から二段階で作用させる」射が、対称性と結合の同型を介して一致する。
この作用を内部Homへの射 $\mathcal C(x,y)\to[F(y),F(x)]$ として記述したものが、$\mathcal V$-関手の通常の定義である。
豊穣自然変換(enriched natural transformation)$\alpha:F\to G$ は射 $\alpha_x:F(x)\to G(x)$ の族であり、すべての $x,y$ に対して
$$
\alpha_x\circ\rho^F_{x,y}
=\rho^G_{x,y}\circ(1_{\mathcal C(x,y)}\otimes\alpha_y)
$$
を満たす。これは $\mathcal V$ の射としての等式である。$\mathcal C_0$ の射だけを代入して自然性を調べる条件と、無条件に同じだとはしない。
$c\in\mathcal C$ に対して
$$h_c=\mathcal C(-,c):\mathcal C^{\mathrm{op}}\longrightarrow\mathcal V$$
を表現可能な豊穣前層(representable enriched presheaf)という。$h_c(x)=\mathcal C(x,c)$ であり、その作用は合成による前合成である。対称性を介した
$$
\mathcal C(x,y)\otimes\mathcal C(y,c)\longrightarrow\mathcal C(x,c)
$$
が作用の射を与える。
豊穣米田の補題の左辺は、豊穣自然変換の集合ではなく、次の $\mathcal V$ の対象である。
豊穣前層 $F,G$ に対し
$$
P=\prod_x[F(x),G(x)],
\qquad
Q=\prod_{x,y}[\mathcal C(x,y)\otimes F(y),G(x)]
$$
を取る。$P$ から $Q$ への二つの射は、それぞれ「$F$ の作用の後に $x$ 成分を適用する」「$y$ 成分を適用した後に $G$ の作用を使う」ことで、内部Homの随伴から定まる。
この二つの射の等化子を
$$
E(F,G):=[\mathcal C^{\mathrm{op}},\mathcal V](F,G)
=\int_{x\in\mathcal C}[F(x),G(x)]
$$
と書き、豊穣自然変換対象(enriched natural transformation object)という。最後の積分記号は豊穣endの記法である。ここでは上の等化子がその具体的な定義であり、通常の圏 $\mathcal C_0$ 上のendに無条件に置き換えたものではない(Kel05 §§2.1–2.2)。
積分記号が表すのは、対象ごとに独立な成分を単に集めるだけでなく、すべてのHom対象に沿う自然性条件を同時に課して「添字 $x$ を消去する」操作である。積 $P$ は候補となる全成分を集め、等化子は各 $x,y$ の間を移る二通りの作用が一致するものだけを残す。この意味でendは、各点のデータを全添字にわたる整合条件のもとでまとめる「積分」に似た役割を果たす。ただし、数値を加算したり測度を用いたりする積分ではない。
任意のパラメータ対象 $T\in\mathcal V$ に対し、射 $T\to E(F,G)$ は、射の族
$$\alpha_x:T\otimes F(x)\longrightarrow G(x)$$
で、作用と可換するものに対応する。実際、内部Homの随伴により積 $P$ への射がこの族に対応し、等化子の条件が自然性になる。$T$ とHom対象の順序を入れ替えるときは対称性を用いる。
特に $T=I$ とすれば、通常の集合としての豊穣自然変換全体は
$$
\operatorname{Nat}_{\mathcal V}(F,G)
\cong\operatorname{Hom}_{\mathcal V}(I,E(F,G))
$$
である。$E(F,G)$ をHom対象とし、成分ごとの合成と恒等射を使うことで、豊穣前層圏 $[\mathcal C^{\mathrm{op}},\mathcal V]$ ができる。
次を仮定する。
具体的な評価射は、endから $c$ 成分への射と単位との前合成を合わせた
$$
E(h_c,F)\longrightarrow[\mathcal C(c,c),F(c)]
\xrightarrow{[j_c,1]}[I,F(c)]\cong F(c)
$$
である。「恒等射を代入する」という操作は一般の $\mathcal V$ でもこの意味で定義できる。
任意の $T\in\mathcal V$ を取る。射 $T\to E(h_c,F)$ は豊穣自然な族
$$
\alpha_x:T\otimes\mathcal C(x,c)\longrightarrow F(x)
$$
に対応する。この族を
$$
u_\alpha:
T\cong T\otimes I
\xrightarrow{1\otimes j_c}T\otimes\mathcal C(c,c)
\xrightarrow{\alpha_c}F(c)
$$
へ送る。
逆に $u:T\to F(c)$ を与えたとき、対称性を $\tau$ と書き、
$$
\alpha^u_x:
T\otimes\mathcal C(x,c)
\xrightarrow{\tau}\mathcal C(x,c)\otimes T
\xrightarrow{1\otimes u}\mathcal C(x,c)\otimes F(c)
\xrightarrow{\rho^F_{x,c}}F(x)
$$
と定める。作用の結合律により、この族は豊穣自然である。
二つの構成が互いに逆であることを確認する。$u$ から作った族を $j_c$ で評価すると、作用の単位律により $u$ に戻る。逆方向では、$\alpha$ の自然性をHom対象 $\mathcal C(x,c)$ に関して適用する。これは、$T\otimes\mathcal C(x,c)\otimes\mathcal C(c,c)$ から $F(x)$ への、合成を先に使う射と $\alpha_c$ を先に使う射の一致である。最後の因子に $j_c$ を代入すれば、表現可能前層の単位律によって
$$
\alpha_x=\rho^F_{x,c}\circ(1\otimes u_\alpha)\circ\tau
$$
を得る。従って $\alpha^{u_\alpha}=\alpha$ である。
以上の対応は $T$ に関して自然であり、評価射が誘導する
$$
\operatorname{Hom}_{\mathcal V}(T,E(h_c,F))
\longrightarrow\operatorname{Hom}_{\mathcal V}(T,F(c))
$$
はすべての $T$ で全単射である。ここで通常の米田の補題を外部のブラックボックスとして使う必要はない。$T=F(c)$、$u=1_{F(c)}$ として上の逆対応を適用すると、射
$$
s:F(c)\longrightarrow E(h_c,F)
$$
が得られる。$u$ を評価して元に戻る計算から $\operatorname{ev}_{j_c}s=1_{F(c)}$ であり、任意のパラメータ族 $\alpha$ を復元する計算を $T=E(h_c,F)$、$\alpha$ を普遍族として読めば $s\operatorname{ev}_{j_c}=1_{E(h_c,F)}$ である。従って評価射は $s$ を逆射とする同型である。
$F$ に関する自然性は豊穣自然変換と評価の可換性から従う。$c$ に関する自然性は、Hom対象 $\mathcal C(c',c)$ の作用との可換性である。上の逆対応は各作用を合成して定めたので、いずれも作用の結合律と単位律から従う。この確認は $\mathcal C_0$ の射だけでなく、Hom対象全体に対して行っている。
$T=I$ だけで確認を終えず、すべての $T$ で対応を構成した点が重要である。これによって、単なる自然変換集合の全単射より強い、$\mathcal V$ の対象の同型が得られる。
後合成によって定まる $\mathcal V$-関手
$$Y:\mathcal C\longrightarrow[\mathcal C^{\mathrm{op}},\mathcal V],\qquad c\longmapsto h_c$$
は豊穣充満忠実である。すなわち、Hom対象間の射
$$
\mathcal C(c,d)\longrightarrow
[\mathcal C^{\mathrm{op}},\mathcal V](h_c,h_d)
$$
は $\mathcal V$ の同型である。
定理で $F=h_d$ とすれば、評価先は $h_d(c)=\mathcal C(c,d)$ となる。後合成から作った自然変換を $j_c$ で評価すると、合成の単位律によって元のHom対象の恒等射が得られる。従って定理の同型は、$Y$ のHom対象間の射の逆である。
自然な全単射
$$
\operatorname{Nat}_{\mathcal V}(h_c,F)
\cong\operatorname{Hom}_{\mathcal V}(I,F(c))
$$
がある。共変形では、豊穣関手 $G:\mathcal C\to\mathcal V$ に対して
$$
[\mathcal C,\mathcal V](\mathcal C(c,-),G)\cong G(c)
$$
となる。
第一の式は主定理に $\operatorname{Hom}_{\mathcal V}(I,-)$ を適用し、豊穣自然変換対象の定義を使えば従う。共変形は $\mathcal C^{\mathrm{op}}$ に主定理を適用する。
$\mathcal V=\mathbf{Set}$、$\otimes=\times$、$I=\{*\}$ とすると、豊穣圏は通常の圏、豊穣前層は集合値の反変関手、豊穣自然変換対象は自然変換の集合そのものである。主定理は
$$
\operatorname{Nat}(\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(-,c),F)\cong F(c)
$$
に一致する。共変形が通常版の記事の $h^c=\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(c,-)$ に対応する。
一般の $\mathcal V$ で $\mathcal C_0$ に移っただけでは、任意の集合値関手についての主張に変わるわけではない。$F$ の豊穣構造と豊穣自然性の条件が残っていることに注意する。
単位的環 $R$ を、対象が一つ $*$、Hom対象が加法群 $R$、合成が乗法である $\mathbf{Ab}$-豊穣圏とみなす。合成の順を $g\circ f=gf$ とする。この圏上の反変豊穣前層は右 $R$-加群 $M$ であり、表現可能前層は右正則加群 $R_R$ である。
補題はアーベル群の同型
$$\operatorname{Hom}_{\mathrm{Mod}\text{-}R}(R_R,M)\cong M$$
を与える。対応は $\varphi\mapsto\varphi(1)$、逆は $m\mapsto(r\mapsto mr)$ である。右 $R$ 線形性により $\varphi(r)=\varphi(1)r$ となり、加法も保存される。この同型を、追加の構造を指定せず右 $R$-加群の同型だと読み替えてはいけない。
$\Delta$ を有限非空全順序集合 $[n]=\{0,\ldots,n\}$ と順序保存写像の圏とする。単体的集合は関手 $\Delta^{\mathrm{op}}\to\mathbf{Set}$ であり、$\Delta^n$ は $[n]$ が表す標準単体である。$\mathrm{sSet}$ は直積に関して閉で、内部Homは
$$[K,L]_n=\operatorname{Hom}_{\mathrm{sSet}}(\Delta^n\times K,L)$$
となる。
$\mathcal A$ が $\mathrm{sSet}$-豊穣圏なら、自然変換対象の $n$-単体は、豊穣自然な単体的写像の族
$$\alpha_x:\Delta^n\times\mathcal A(x,a)\longrightarrow F(x)$$
である。主定理の対応は、各次元で $\alpha\mapsto\alpha_a(-,\operatorname{id}_a)$ と、その逆である前層の作用を用いた写像で与えられる。これは面・退化と可換するので
$$[\mathcal A^{\mathrm{op}},\mathrm{sSet}](h_a,F)\cong F(a)$$
は単体的集合の厳密な同型になる。この段階の定理には、Homや $F(a)$ がKan複体であるという仮定は必要ない。
$\mathcal V=\mathbf{Cat}$ を小さい圏の圏、テンソル積を直積、単位を一点圏 $\mathbf 1$ とする。二対象の離散圏 $D$ から、一つの非恒等射 $0\to1$ を持つ圏 $[1]$ への、対象上恒等な関手 $D\to[1]$ を考える。
これは $\operatorname{Hom}_{\mathbf{Cat}}(\mathbf1,D)\to\operatorname{Hom}_{\mathbf{Cat}}(\mathbf1,[1])$ には全単射を誘導するが、圏の同型ではない。対象は同じでも $D$ には $0\to1$ の射がないからである。従って、一般の豊穣米田の補題を、単位対象からの「要素」の全単射だけで証明したことにはできない。
ここからは単体的集合・モデル圏論を用いる発展部分である。基本モデルはquasicategory(準圏)、意味する∞圏は $(\infty,1)$-圏とする。一般の豊穣化にホモトピー理論を自動的に付け加えるのではなく、$\mathcal V=\mathrm{sSet}$ を選び、適切な写像空間と比較定理を使う。
標準単体の $i$ 番目以外の余次元1の面を合わせたホーンを $\Lambda_i^n\subset\Delta^n$ と書く。すべての $n\geq1$、$0\leq i\leq n$ でホーンからの写像を標準単体全体に延長できる単体的集合を Kan複体という。各Hom対象がKan複体である $\mathrm{sSet}$-豊穣圏 $\mathcal A$ を局所Kanな単体的圏(locally Kan simplicial category)という。
単体的圏のホモトピー圏 $h\mathcal A$ は対象を共有し、射集合を $\pi_0\mathcal A(x,y)$ とする。単体的関手 $U:\mathcal A\to\mathcal B$ が Dwyer–Kan同値(DK-equivalence)であるとは、各Homに弱ホモトピー同値を誘導し、$hU$ が圏同値となることである。弱ホモトピー同値はKan置換後の $\pi_0$ とすべての基点での高次ホモトピー群を保つという意味で使う。
準圏は、内部ホーン $0< i< n$ の充填を要求する単体的集合である。局所Kanな $\mathcal A$ からはホモトピー整合的脈体 $N_{\mathrm{hc}}\mathcal A$ によって準圏を得る。
この脈体の $n$-単体は、単体的関手 $\mathfrak C[\Delta^n]\to\mathcal A$ である。$\mathfrak C[\Delta^n]$ の対象は $0,\ldots,n$ で、$i\leq j$ のHomは両端 $i,j$ を含む $\{i,\ldots,j\}$ の部分集合の包含順序の脈体、$i>j$ のHomは空とする。合成は和集合による。この構成が射と高次の合成整合性を同時に記録する。
局所Kan条件のもとで
$$
\operatorname{Map}_{N_{\mathrm{hc}}\mathcal A}(x,y)\simeq\mathcal A(x,y)
$$
となり、単体的豊穣Homが∞圏の写像空間を表す。単体的圏のBergnerモデル構造では弱同値がDK同値、fibrant対象が局所Kanな圏であり、準圏のJoyalモデル構造とQuillen同値で比較できる。従って任意の小さい準圏も、この形で同値を除いて表示できる(HTT09 §1.1.5、定理2.2.5.1、§2.2.4)。これらはここでは証明せず使用する比較定理である。
同じ単体的豊穣圏の枠組みに、異なる出発点から到達できる。
| 出発点 | 用いる単体的豊穣圏 | 準圏へ移る際の条件・役割 |
|---|---|---|
| 既に単体的なHomと合成がある圏 $\mathcal A$ | $\mathcal A$、必要ならBergnerのfibrant置換 $\mathcal A^{\mathrm{fib}}$ | 各HomをKanにしてから $N_{\mathrm{hc}}$ を取る。置換はHomだけでなく合成も保つ圏全体の操作 |
| 単体的モデル圏 $\mathcal M$ | cofibrantかつfibrantな対象の充満豊穣部分圏 $\mathcal M^{\mathrm{cf}}$ | HomがKan複体になり、導来写像空間を計算する |
| 通常の圏 $\mathcal D$ と弱同値として指定した射の部分圏 $W$ | 単体的局所化、例えばハンモック局所化 $L^H(\mathcal D,W)$ | 元から豊穣化されていなくても構成できる。必要なfibrant置換の後に脈体を取り、$W$ を反転した∞圏を表す |
第二行でいうモデル圏は、弱同値・ファイブレーション・コファイブレーションに持ち上げと分解の公理を課した圏である。始対象からの射がコファイブレーションならcofibrant、終対象への射がファイブレーションならfibrantという。単体的モデル圏では単体的豊穣化・tensor・cotensorがこれらの公理と両立し、cofibrantな $X$ とfibrantな $Y$ のHomがKan複体となる。一般の二対象では、cofibrant置換 $QX\to X$、fibrant置換 $Y\to RY$ を用いた
$$\operatorname{Map}_{\mathcal M}(QX,RY)$$
が導来写像空間を計算する。任意の二対象の元のHomを、そのまま導来写像空間とはしない。
第三行の入力は、同じ対象をすべて含む部分圏 $W\subset\mathcal D$ を指定した相対圏である。ハンモック局所化は、逆向きの矢印を $W$ に属するものに制限したジグザグと、それらを結ぶ可換図式の高次データから単体的Homを作る。単体的局所化とハンモック局所化は同じ局所化を表すための異なる構成であり、図式の同値類だけを取る通常の局所化とは区別する。この補足では局所化の一般構成の全証明までは扱わず、比較結果を使用する(Rie20 §§6.1–6.2)。
同じ単体的モデル圏 $\mathcal M$ について、その通常の圏と弱同値から得た $L^H(\mathcal M_0,W)$ と $\mathcal M^{\mathrm{cf}}$ は、DK同値のジグザグで比較される。特に、前者の写像空間と後者の適切に置換したHomは同じホモトピー型を持つ(Rie20 命題6.1.7)。これは二つの表示が一致する根拠であり、単に似た形の式が現れるという類比ではない。大きいモデル圏では宇宙を上げるなど、大きさの扱いも必要となる。
これらは「単体的豊穣圏による表示」を得る複数の方法であり、その三行が互いに独立した三種類のモデル構造という意味ではない。準圏、Segal圏、complete Segal spaceは別の表示であり、単体的豊穣圏との比較はさらに別の定理である(Rie20 §8.2)。本記事の米田の補題の計算には、すべての表示を同時に使う必要はない。
$\mathcal A$ を小さい局所Kanな単体的圏、$\mathcal C=N_{\mathrm{hc}}\mathcal A$ とする。空間の∞圏 $\mathcal S$ はKan複体の単体的圏のホモトピー整合的脈体で表示する。空間値前層の∞圏は $\mathcal P(\mathcal C)=\operatorname{Fun}(\mathcal C^{\mathrm{op}},\mathcal S)$ である。
豊穣前層の圏 $[\mathcal A^{\mathrm{op}},\mathrm{sSet}]$ に、弱同値・ファイブレーションを各対象で定めるprojectiveモデル構造を入れる。これは $\mathcal P(\mathcal C)$ のモデルになり、cofibrant–fibrant対象の部分圏の脈体との比較によって∞圏の前層 $F$ を豊穣前層 $\widetilde F$ で表せる(HTT09 命題4.2.4.4、付録A.3.3–A.3.4)。
$h_a=\mathcal A(-,a)$ はprojective-cofibrantである。自明なファイブレーション $E\to B$ に対する $h_a$ からの射の持ち上げは、豊穣米田により $B(a)$ の頂点を $E(a)$ に持ち上げる問題に帰着し、これは可能だからである。また $\mathcal A$ が局所Kanなので $h_a$ はfibrantである。従って、cofibrant–fibrantな $\widetilde F$ への豊穣自然変換対象は導来写像空間を計算し、
$$
\operatorname{Map}_{\mathcal P(\mathcal C)}(y(a),F)
\simeq[\mathcal A^{\mathrm{op}},\mathrm{sSet}](h_a,\widetilde F)
\cong\widetilde F(a)\simeq F(a)
$$
となる。中央が本記事の豊穣米田の同型であり、その前後にモデル比較を入れたものが∞圏版である(HTT09 §5.1.3)。
したがって、厳密な豊穣自然変換対象を何でも∞圏の写像空間としてよいのではない。またHomが任意の単体的集合である豊穣圏の脈体を、置換せず準圏だと宣言してはいけない。一般の $\mathbf{Ab}$-豊穣圏や $\mathbf{Cat}$-豊穣圏を同じ式だけで $(\infty,1)$-圏化できるという主張も、本記事の範囲外である。
別稿「米田の補題(∞圏)」では、準圏側の写像空間と空間値前層を直接定義し、この比較を使う証明、通常版への帰着、右ファイブレーションによる表示を扱う。本記事の一般の $\mathcal V$ における定理と、∞圏版のホモトピー不変な主張は、それぞれ独立して読むことができる。
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