Presburger算術

同義語:Presburger arithmeticプレスバーガー算術

概要

Presburger算術(Presburger arithmetic)とは、自然数の構造 $(\mathbb{N},0,{}',+)$ で真な、後者と加法だけの言語の文の全体である。整数の上で「$m$ で割り切れる」という述語と順序を言語に加えると量化記号消去が成り立ち、その書き換えが計算できることから Presburger 算術は決定可能になる。また 1 変数で定義できる自然数の集合は最終的に周期的であり、平方数の集合も乗法も加法では定義できない。乗法を加えた真の算術は決定不能であり、Presburger 算術の判定も 2 重指数時間を要する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 決定可能な理論, 量化記号消去, 一階述語論理

自然数の加法だけを使って書ける主張、たとえば「どの自然数も偶数か奇数のどちらかである」「$x+x+x=y+y$ を満たす $x,y$ で $y$ が奇数のものがある」の真偽は、機械的に判定できる。一方、乗法も使ってよいとすると、自然数についての主張の真偽を判定する手順は存在しない(決定可能な理論 の記事の節「例」の表の真の算術の行)。Presburger 算術 は、加法だけの言語で書いた自然数の真な文の全体であり、Presburger は 1929 年に発表した論文でその完全性と判定の手順を示した(Sta84 p. 8 の英訳。原論文は整数の加法についての公理系を扱っている)。
判定の鍵は 量化記号消去 である。ただし加法の言語のままでは量化記号は消えない。「$x$ は偶数である」は $\exists y\,(y+y=x)$ と書けるが、量化記号を使わずに加法と順序だけでは書けない。そこで「$m$ で割り切れる」という述語を言語に加える。すると量化記号が消え、判定の手順が得られ、さらに 1 変数で定義できる集合がすべて最終的に周期的であることも分かる。この最後の事実から、乗法が加法では定義できないことが従う。

定義

$\mathbb{N}=\{0,1,2,\dots\}$ とし、言語 $L_{\mathrm{A}}=\{0,{}',+\}$(定数記号 $0$、1 変数の関数記号 $'$、2 変数の関数記号 $+$)の構造 $\mathcal N:=(\mathbb{N},0,{}',+)$ を、$x'$ を後者 $x+1$、$+$ を加法と解釈して考える。等号は論理記号として使える。

Presburger 算術

$\mathcal N$ で真な $L_{\mathrm{A}}$ の文の全体
$$ \operatorname{Th}(\mathcal N)=\{\sigma\mid\sigma\text{ は }L_{\mathrm{A}}\text{ の文で }\mathcal N\models\sigma\} $$
を Presburger 算術(Presburger arithmetic)という。

構造の理論なので、Presburger 算術は 完全な理論 である。問題は、それが 決定可能な理論 であるかどうかであり、これが主定理(thm-pr-decidable)である。順序 $x\le y$ は $\exists z\,(x+z=y)$ と、定数 $1$ は $0'$ と書けるので、順序や $1$ を加えても表せる主張は変わらない。
量化記号を消すためには、整数の上で、より多くの記号をもつ言語を使う。$m\ge2$ ごとに 1 変数の関係記号 $D_m$ を用意し、
$$ L_{\mathrm{Z}}:=\{0,1,+,-,<\}\cup\{D_m\mid m\ge2\} $$
とおく($-$ は 1 変数の関数記号)。$L_{\mathrm{Z}}$ 構造 $\mathcal Z$ を、台集合 $\mathbb{Z}$ で $0,1,+,-,<$ を通常の意味に、$D_m(a)$ を「$m$ は $a$ を割り切る」と解釈して定める。
記法. 自然数 $k$ に対し、$\underline k:=1+\cdots+1$($k$ 個、$\underline0:=0$)とし、項 $t$ に対し $k\cdot t:=t+\cdots+t$($k$ 個、$0\cdot t:=0$)、$(-k)\cdot t:=-(k\cdot t)$ とする。$s-t$ は $s+(-t)$ の略記である。

量化記号消去

項と原子論理式の標準形
  1. $L_{\mathrm{Z}}$ の項 $t$ と変数 $x$ に対し、整数 $k$ と $x$ を含まない項 $u$ があって、$\mathcal Z\models t=k\cdot x+u$(自由変数のすべての値について)が成り立つ。
  2. $L_{\mathrm{Z}}$ のリテラルは、$\mathcal Z$ において、$s< t$ と $D_m(t)$ の形の原子論理式から $\land$ と $\lor$ だけで作った論理式と同値である。
    どちらも、与えられた項・リテラルから書き換えを計算する手順がある。

1:項の組み立て方についての帰納法による。変数 $x$ は $1\cdot x+0$、ほかの変数と $0,1$ は $0\cdot x+t$ である。$t_1=k_1\cdot x+u_1$、$t_2=k_2\cdot x+u_2$ なら、$\mathbb{Z}$ が可換環であることから $t_1+t_2=(k_1+k_2)\cdot x+(u_1+u_2)$、$-t_1=(-k_1)\cdot x+(-u_1)$ が $\mathcal Z$ で成り立つ。
2:$\mathbb{Z}$ では隣り合う整数の間に整数がないので、次が成り立つ。
$$ s=t\iff s< t+1\land t< s+1,\qquad \lnot(s=t)\iff s< t\lor t< s,\qquad \lnot(s< t)\iff t< s+1, $$
$$ \lnot D_m(t)\iff D_m(t-\underline1)\lor D_m(t-\underline2)\lor\cdots\lor D_m(t-\underline{m-1}). $$
最後の式は、$t$ を $m$ で割った余りが $1,\dots,m-1$ のどれかであることを言っている。$\top$ は $0<1$ と、$\bot$ は $1<0$ と同値である。$\square$

$\mathcal Z$ の量化記号消去

$L_{\mathrm{Z}}$ のすべての論理式 $\varphi$ に対し、自由変数が $\varphi$ の自由変数の中にある量化記号のない論理式 $\varphi^\ast$ で、$\mathcal Z\models\varphi\leftrightarrow\varphi^\ast$ を満たすものがある。さらに $\varphi^\ast$ は $\varphi$ から計算できる。

量化記号消去 の記事の補題「存在量化記号 1 つへの還元」により、リテラルの連言 $\theta$ について $\exists x\,\theta$ を量化記号のない論理式に書き直せばよい。その補題の証明は論理式の組み立てに沿った書き換えなので、各段の書き直しが計算できれば全体も計算できる。lem-pr-normal の 2 で $\theta$ を書き直し、選言標準形に展開して $\exists x$ を選言の各項に分配すると(同補題の証明と同じ)、$\varphi$ が $s< t$ と $D_m(t)$ の形の原子論理式の連言のとき $\exists x\,\varphi$ を書き直せば足りる。
段 1(係数をそろえる). lem-pr-normal の 1 で各原子論理式の項を $k\cdot x+u$ の形にする。$k_1\cdot x+u_1< k_2\cdot x+u_2$ は、$k_1>k_2$ なら $(k_1-k_2)\cdot x< u_2-u_1$ と、$k_1< k_2$ なら $u_1-u_2<(k_2-k_1)\cdot x$ と同値である。$D_m(k\cdot x+u)$ は、$k<0$ なら $D_m((-k)\cdot x-u)$ と同値である。$x$ の係数が $0$ の原子論理式 $\alpha$ は $x$ を含まないので、$\exists x\,(\alpha\land\psi)\leftrightarrow\alpha\land\exists x\,\psi$ により外へ出す。こうして $x$ を含む原子論理式は、正の整数 $c$ と $x$ を含まない項 $u$ による
$$ c\cdot x< u,\qquad u< c\cdot x,\qquad D_m(c\cdot x+u) $$
の形になる。現れる $c$ の最小公倍数を $\lambda$ とする($x$ を含む原子論理式が 1 つも残らなければ、$\exists x$ の中身は空の連言、すなわち $0<1$ なので、$\exists x\,\varphi$ は外へ出した原子論理式の連言と同値であり、以下は要らない)。正の整数を両辺に掛けても大小と整除は保たれるので、それぞれを
$$ \lambda\cdot x<\tfrac{\lambda}{c}\cdot u,\qquad \tfrac{\lambda}{c}\cdot u<\lambda\cdot x,\qquad D_{m\lambda/c}\bigl(\lambda\cdot x+\tfrac{\lambda}{c}\cdot u\bigr) $$
に替える。整数 $z$ が $\lambda\cdot x$ の形に書けるのは $\lambda\mid z$ のときちょうどなので、$\lambda\cdot x$ を新しい変数 $z$ に置き換え、$\lambda\ge2$ なら連言に $D_\lambda(z)$ を加えると、$\exists x\,\varphi$ は次の形の論理式と同値になる。
$$ \exists z\,\psi(z),\qquad \psi(z):=\bigwedge_{i\in I}a_i< z\ \land\ \bigwedge_{j\in J}z< b_j\ \land\ \bigwedge_{k\in K}D_{m_k}(z+c_k). $$
ここで $a_i,b_j,c_k$ は $z$ を含まない項で、自由変数は $\exists x\,\varphi$ の自由変数の中にある。
段 2($z$ を消す). $M$ を $m_k$($k\in K$)の最小公倍数とする($K=\emptyset$ なら $M:=1$)。$z\equiv z'\pmod M$ なら、すべての $k$ で $D_{m_k}(z+c_k)$ と $D_{m_k}(z'+c_k)$ の真偽は一致する。
$I=\emptyset$ のとき、$\exists z\,\psi(z)$ は
$$ \bigvee_{r=0}^{M-1}\ \bigwedge_{k\in K}D_{m_k}(\underline r+c_k) $$
と同値である。$\psi(z)$ を満たす $z$ があれば、$z\equiv r\pmod M$ となる $0\le r< M$ がこの選言を満たす。逆に $r$ が選言を満たすなら、$z:=r-qM$ は $q$ が十分大きければすべての $b_j$ より小さく、整除の条件も満たす。
$I\ne\emptyset$ のとき、$\exists z\,\psi(z)$ は
$$ \bigvee_{i\in I}\ \bigvee_{r=1}^{M}\psi(a_i+\underline r) $$
と同値である。右から左は明らかである。左を満たす $z$ をとり、$a_i$ の値の最大のものを $a_{i_0}$ とする。$z-a_{i_0}\ge1$ なので、$r\equiv z-a_{i_0}\pmod M$ となる $1\le r\le M$ は $r\le z-a_{i_0}$ を満たす。$z':=a_{i_0}+r$ とおくと、$a_i\le a_{i_0}< z'$、$z'\le z< b_j$、$z'\equiv z\pmod M$ なので $\psi(z')$ が成り立つ。
どちらの場合も結果は量化記号を含まず、自由変数は増えていない。段 1・段 2 の書き換えはどれも有限の計算である。$\square$

$z$ の候補を「下限のすぐ上の $M$ 個」に限れることが証明の中心である。整数には隙間がないので「下限より大きい最小の元」が考えられ、整除の条件は周期 $M$ でしか $z$ を区別しない。

量化記号を消す例

$\varphi(x,y):=\exists z\,(x< z\land z< y\land D_2(z))$($x$ と $y$ の間に偶数がある)では、$I=\{x\}$、$M=2$ なので、prf-pr-qe の段 2 により
$$ \varphi\iff\bigl(x+1< y\land D_2(x+1)\bigr)\lor\bigl(x+2< y\land D_2(x+2)\bigr) $$
となる。実際、$y-x\ge3$ なら $x+1$ と $x+2$ の一方が偶数で、$y-x=2$ なら間の整数は $x+1$ だけなので、$x$ が奇数のときちょうど条件が成り立つ。$y-x\le1$ なら間に整数はない。右辺もこの場合分けと一致する。

決定可能性

整数の理論の決定可能性

$\operatorname{Th}(\mathcal Z)$($\mathcal Z$ で真な $L_{\mathrm{Z}}$ の文の全体)は決定可能である。

決定可能な理論 の記事の命題「量化記号消去による判定」を $T:=\operatorname{Th}(\mathcal Z)$ に当てはめる。thm-pr-qe により、文 $\sigma$ から量化記号のない文 $\sigma^\ast$ が計算でき、$\mathcal Z\models\sigma\leftrightarrow\sigma^\ast$ である。量化記号のない文は、変数を含まない項についての原子論理式 $s< t$、$s=t$、$D_m(t)$ から結合子で作られる。変数を含まない項の値は整数として計算でき、大小・相等・整除は計算で判定できるので、$\sigma^\ast$ の真偽も計算できる。$\square$

自然数の側へ移すには、$\mathbb{N}$ が $\mathbb{Z}$ の中で「$0< x$ または $x=0$」と書けることを使う。$L_{\mathrm{A}}$ の論理式 $\varphi$ に対し、$L_{\mathrm{Z}}$ の論理式 $\varphi^{\mathrm Z}$ を、項の中の $t'$ をすべて $t+1$ に替え、量化記号を
$$ (\exists x\,\psi)^{\mathrm Z}:=\exists x\,\bigl((0< x\lor x=0)\land\psi^{\mathrm Z}\bigr),\qquad (\forall x\,\psi)^{\mathrm Z}:=\forall x\,\bigl((0< x\lor x=0)\to\psi^{\mathrm Z}\bigr) $$
と制限し、結合子はそのまま通して定める。この変換は記号列の書き換えなので計算できる。

整数への翻訳

$L_{\mathrm{A}}$ の論理式 $\varphi(x_1,\dots,x_n)$ と $a_1,\dots,a_n\in\mathbb{N}$ について、$\mathcal N\models\varphi(\bar a)\iff\mathcal Z\models\varphi^{\mathrm Z}(\bar a)$ である。

項 $t$ の $\mathcal N$ での値と、$t'$ を $t+1$ に替えた項の $\mathcal Z$ での値は、自然数の値の割り当てのもとで一致する(項の組み立てについての帰納法。$\mathbb{N}$ は $\mathbb{Z}$ の中で $0$、$x\mapsto x+1$、$+$ で閉じており、演算は同じである)。よって $L_{\mathrm{A}}$ の原子論理式 $s=t$ では主張が成り立つ。結合子の段は充足関係の定義からすぐ従う。$\exists x\,\psi$ の段では、$\mathcal N\models\exists x\,\psi(x,\bar a)$ は「ある $b\in\mathbb{N}$ で $\mathcal N\models\psi(b,\bar a)$」であり、帰納法の仮定によりこれは「ある $b\in\mathbb{Z}$ で $0< b$ または $b=0$ であり、$\mathcal Z\models\psi^{\mathrm Z}(b,\bar a)$」と同値で、これが $\mathcal Z\models(\exists x\,\psi)^{\mathrm Z}(\bar a)$ である。$\forall$ も同様である。$\square$

Presburger 算術の決定可能性

Presburger 算術 $\operatorname{Th}(\mathcal N)$ は決定可能である。

lem-pr-translation の $n=0$ の場合により、$L_{\mathrm{A}}$ の文 $\sigma$ について $\mathcal N\models\sigma\iff\mathcal Z\models\sigma^{\mathrm Z}$ である。$\sigma\mapsto\sigma^{\mathrm Z}$ は計算でき、cor-pr-z-decidable により右辺は判定できる。$\square$

文の判定

文 $\sigma:=\forall x\,\exists y\,(y+y=x\lor y+y+0'=x)$(どの自然数も偶数か奇数)を判定する。$\sigma^{\mathrm Z}$ の内側 $\exists y\,((0< y\lor y=0)\land(y+y=x\lor y+y+1=x))$ に prf-pr-qe を当てると、$\lambda=2$、$z=2y$ として、$-1< y$($0< y\lor y=0$ と同値)は $-2< z$ になり、$z$ の条件は「$D_2(z)$、$-2< z$、$z=x$ または $z+1=x$」になる。等式は $z$ を決めるので、量化記号のない形は
$$ \bigl(D_2(x)\land-2< x\bigr)\lor\bigl(D_2(x-1)\land-2< x-1\bigr) $$
と同値になる。外側の $\forall x\,((0< x\lor x=0)\to\cdots)$ は、$x=0$ では第 1 項、$x>0$ では $x$ の偶奇に応じてどちらかの項が成り立つので真である。よって $\sigma$ は Presburger 算術に属する。

定義できる集合

$A\subset\mathbb{N}$ が 最終的に周期的 であるとは、整数 $N_0\ge0$、$p\ge1$ があって、$a\ge N_0$ ならば $a\in A\iff a+p\in A$ となることをいう。最終的に周期的な集合の全体は、補集合・有限個の和・共通部分で閉じている(2 つの集合の $N_0$ の大きい方と、$p$ の積をとればよい)。

定義できる集合は最終的に周期的

$L_{\mathrm{A}}$ の論理式 $\varphi(x)$(自由変数は $x$ だけ)について、$A:=\{a\in\mathbb{N}\mid\mathcal N\models\varphi(a)\}$ は最終的に周期的である。

lem-pr-translation と thm-pr-qe により、$A=\{a\in\mathbb{N}\mid\mathcal Z\models\psi(a)\}$ となる量化記号のない $L_{\mathrm{Z}}$ の論理式 $\psi(x)$ がある。$\psi$ は原子論理式から結合子で作られるので、各原子論理式が定める $\mathbb{N}$ の部分集合が最終的に周期的であることを示せばよい。lem-pr-normal の 1 により、原子論理式は整数 $k$、$c$ を使って $k\cdot x+\underline c$ の形の項($c<0$ なら $-\underline{\lvert c\rvert}$)についての $s< t$、$s=t$、$D_m(t)$ に書き直せる。$s< t$ と $s=t$ は $kx< c$ または $kx=c$ の形になり、$\mathbb{N}$ の中で定める集合は、$k\ne0$ なら有限集合か有限集合の補集合、$k=0$ なら $\emptyset$ か $\mathbb{N}$ であって、どれも最終的に周期的($p=1$)である。$D_m(kx+c)$ が定める集合は周期 $m$ で周期的である。$\square$

乗法は定義できない

平方数の集合 $Q:=\{n^2\mid n\in\mathbb{N}\}$ は $\mathcal N$ で定義できない。とくに、$L_{\mathrm{A}}$ の論理式 $\mu(x,y,z)$ で、すべての $a,b,c\in\mathbb{N}$ について $\mathcal N\models\mu(a,b,c)\iff ab=c$ となるものは存在しない。

$Q$ が最終的に周期的であるとし、$N_0,p$ をとる。$2n+1>p$ かつ $n^2\ge N_0$ となる $n$ をとると、$n^2\in Q$ から $n^2+p\in Q$ となるが、$n^2< n^2+p< n^2+2n+1=(n+1)^2$ なので $n^2+p$ は平方数でない。よって $Q$ は最終的に周期的でなく、cor-pr-definable により定義できない。そのような $\mu$ があれば $\exists y\,\mu(y,y,x)$ が $Q$ を定義するので、存在しない。$\square$

素数の集合や $2$ の冪の集合も、同じく最終的に周期的でないので定義できない。周期 $p$ と $N_0$ に対し、隣り合う 2 元の差が $p$ を超える箇所を $N_0$ 以上でとり、小さい方を $q$ とすると、$q$ は集合に入るが $q+p$ は入らない。そのような箇所は、素数では $k!+2,\dots,k!+k$($k>p+1$)が合成数であることから、$2$ の冪では $2^{k+1}-2^k=2^k$ から、いくらでも大きいところにある。加法だけの言語で表せることは、本質的に「1 次の不等式と合同式」に限られる。

反例:条件を外すと成り立たない

外す条件反例成り立たなくなること
言語が整除の述語 $D_m$ を含む(thm-pr-qe)言語 $\{0,1,+,-,<\}$ での $\mathbb{Z}$量化記号消去:$\exists y\,(y+y=x)$ は量化記号のない論理式と同値でない
言語が乗法を含まない(thm-pr-decidable)真の算術 $\operatorname{Th}(\mathbb{N},0,{}',+,\times,<)$決定可能性:決定不能である(OLT26 Corollary 36.6、p. 576)
反例の確かめ

1 行目:言語 $\{0,1,+,-,<\}$ の量化記号のない論理式 $\psi(x)$ を考える。lem-pr-normal の 1 と同じ帰納法により、各原子論理式は $\mathbb{Z}$ で $kx< c$ か $kx=c$($k,c\in\mathbb{Z}$)と同値である。その定める $\mathbb{Z}$ の部分集合は、十分大きいすべての $x$ を含むか、十分大きいどの $x$ も含まないかのどちらかであり、この性質は補集合・和・共通部分で保たれる。偶数の集合はこのどちらでもないので、$\exists y\,(y+y=x)$ と同値な $\psi$ はない。
2 行目:真の算術の決定不能性は 決定可能な理論 の記事の節「例」の表にあり、この記事では証明しない。cor-pr-multiplication は、乗法を加えることで定義できる集合が本当に増えることを示している。

補足

  • 計算の量. 判定の手順は存在するが、速くはない。Fischer と Rabin は、どの判定の手順(非決定的なものも含む)についても、十分大きいすべての $n$ に対して、判定に $2^{2^{cn}}$ 段より多くかかる長さ $n$ の文があることを示した($c>0$ は定数。FR74 の要旨)。prf-pr-qe の段 2 で選言の項数が $M$ 倍に増えることが、この難しさの一端である。
  • 整数と自然数. Presburger の原論文は整数の加法と $0,1$ についての公理系を与え、その完全性を示している(Sta84 pp. 8–10 の英訳)。この記事では整数の理論を経由して自然数の理論の決定可能性を導いた。
  • 計算の模型との関係. Minskyのレジスタ機械 の記事の定理「1 レジスタの機械の停止集合」も、停止集合が最終的に周期的になることを示している。加法と 0 との比較だけでは周期性の外に出られないという共通の現象である。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する