可逆イデアル

同義語:invertible ideal可逆分数イデアル

概要

可逆イデアル(invertible ideal)とは、整域 $A$ の非零分数イデアル $I$ で、商体 $K$ の中の $I^{-1}=\{b\in K\mid bI\subset A\}$ との積が $II^{-1}=A$ となるものである。これは $I$ が有限生成で各極大イデアルでの局所化が単項であることと同値であり、さらに $I$ が $A$ 加群として射影的であることとも同値である。可逆な $I$ と任意の分数イデアル $J$ に対し乗法写像 $I\otimes_AJ\to IJ$ は同型であり、極大イデアルが有限個の環では可逆イデアルは単項になる。一方、$k[X,Y]$ のイデアル $(X,Y)$ は二元生成でも可逆でない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 整域, イデアル, 局所化, 加群, テンソル積

定義と見方

可逆イデアルは、イデアルの積について逆元をもつイデアルである。元の逆数を環の中に求めると、単元しか割れない。しかしイデアルを商体の中の加群として扱えば、単元でない元が生成するイデアルにも逆元を与えられる。この考え方は、単項イデアルだけでなく、各点で一つの元により生成されるイデアルを統一して扱うために役立つ。
以下、環は単位元をもつ可換環とし、$A$ は整域、$K=\operatorname{Frac}(A)$ はその商体とする。Noether 性は仮定しない。積や包含を比較するときは、すべての分数イデアルを同じ体 $K$ の部分加群として見る。抽象的に同型な加群であることと、$K$ の中で等しいことは区別する。

共通分母をもつ商体内の加群

$A$ の分数イデアルとは、$K$ の部分 $A$ 加群 $I$ で、ある $0\ne d\in A$ に対して $dI\subset A$ となるものである。本記事では可逆性を考える分数イデアルは $I\ne0$ とする。$I\subset A$ なら通常のイデアルである。$0\ne a\in K$ が生成する $aA$ を単項分数イデアルという。

分数イデアルの条件は、元ごとに分母を払えるというだけの条件ではない。$I$ 全体に共通する一つの分母が必要である。たとえば $\mathbb Q$ の各元は整数を分母にもつが、$\mathbb Q$ 全体の分母を一つの非零整数で払うことはできない。したがって $\mathbb Q$ は $\mathbb Z$ の分数イデアルではない。一方、$\frac16\mathbb Z$ は分母 $6$ で払える。
有限生成の部分加群 $I=Aa_1+\cdots+Aa_n\subset K$ は分数イデアルである。各 $a_i$ の分母の積を共通分母にすればよい。逆に、分数イデアルであることから有限生成とは限らない。Noether 整域の場合に限っては、$dI$ が有限生成イデアルなので $I$ も有限生成となる。可逆性は、Noether 性を仮定せずに有限生成性を取り出せる、より強い条件である。

積と逆分数イデアル

分数イデアル $I,J$ の積 $IJ$ は、$a\in I$、$b\in J$ の積 $ab$ の有限和全体である。非零分数イデアル $I$ に対して
$$ I^{-1}:=(A:I)=\{b\in K\mid bI\subset A\} $$
と定める。$II^{-1}=A$ が成り立つとき、$I$ は可逆であるという。

積は体内の積を使って定めるが、積集合そのものとは限らない。有限和を取ることが必要である。また $I^{-1}$ という記号は可逆性を保証しない。どんな非零分数イデアルにもこの加群は定義できるものの、一般には $II^{-1}$ は $A$ の真のイデアルにとどまる。可逆性の内容は、この積が環全体に届くことである。
定義した $I^{-1}$ は非零分数イデアルである。共通分母 $d$ は $dI\subset A$ を満たすので $d\in I^{-1}$ である。また $0\ne a\in I$ を取れば $aI^{-1}\subset A$ となる。$a$ が $A$ 外にある場合でも、その分母をさらに払えば $A$ の非零元による共通分母が得られる。定義から常に $II^{-1}\subset A$ である。

整数環での計算

$I=6\mathbb Z$ なら $I^{-1}=\frac16\mathbb Z$ であり、$II^{-1}=\mathbb Z$ である。逆元を通常の整数イデアルの範囲だけで探すと見つからないが、分数イデアルの範囲では存在する。また $\frac23\mathbb Z$ の逆元は $\frac32\mathbb Z$ である。可逆なイデアルの逆元が環の中に含まれる必要はない。

単項分数イデアルの可逆性、可逆イデアルの有限生成性、および積の消去律は、一般の整域で次のように直接確かめられる。Dedekind整域 の「可逆イデアルの基本性質」も同じ内容である。

可逆イデアルの基本性質
  1. $0\ne a\in K$ に対して $(aA)^{-1}=a^{-1}A$ であり、$aA$ は可逆である。
  2. 可逆な分数イデアル $I$ は有限生成である。より詳しく、$1=\sum_{i=1}^n a_ib_i$、$a_i\in I$、$b_i\in I^{-1}$ と書けば $I=Aa_1+\cdots+Aa_n$ である。
  3. $I$ が可逆で、分数イデアル $J,J'$ が $IJ=IJ'$ を満たすなら $J=J'$ である。
  1. $b\in K$ について、$b(aA)\subset A$ は $ba\in A$ と同値であり、これは $b\in a^{-1}A$ と同値である。よって $(aA)^{-1}=a^{-1}A$ で、$(aA)(a^{-1}A)=A$ となる。
  2. $II^{-1}=A$ は $1$ を含むので、積の定義から有限個の $a_i\in I$、$b_i\in I^{-1}$ により $1=\sum_i a_ib_i$ と書ける。任意の $z\in I$ に対して $b_iz\in b_iI\subset A$ であり、
    $$ z=\sum_i(b_iz)a_i\in Aa_1+\cdots+Aa_n $$
    となる。逆の包含は $a_i\in I$ から明らかなので、$I=Aa_1+\cdots+Aa_n$ である。
  3. $K$ の部分加群の積は結合的で可換なので、$J=AJ=(I^{-1}I)J=I^{-1}(IJ)=I^{-1}(IJ')=(I^{-1}I)J'=J'$ である。$\square$

本記事では、この有限生成性を出発点に、局所化と射影加群による二つの判定を詳しく扱う。すべてのイデアルが可逆になる環を分類する問題は、ここで扱う一つのイデアルの可逆性を判定する問題とは別である。

局所的に一つの元で生成されること

極大イデアル $\mathfrak m$ による局所化 $A_{\mathfrak m}$ は、$\mathfrak m$ 外の元を逆にした環である。$I_{\mathfrak m}$ も $K$ 内の部分加群として見られる。局所的に単項という条件は、各 $\mathfrak m$ に対して、生成元 $a_{\mathfrak m}$ が一つ見つかるという意味である。その生成元が極大イデアルによらず同じであるとは要求しない。

有限生成イデアルの逆元と局所化

非零有限生成分数イデアル $I$ と乗法的集合 $S\subset A\setminus\{0\}$ に対して、商体 $K$ の中で
$$ S^{-1}(I^{-1})=(S^{-1}I)^{-1} $$
が成り立つ。右辺の逆元は環 $S^{-1}A$ に対して取る。

左辺の元を $b/s$ と書くと、$bI\subset A$ より $(b/s)(S^{-1}I)\subset S^{-1}A$ なので左辺は右辺に含まれる。逆に $w(S^{-1}I)\subset S^{-1}A$ とする。$I=(a_1,\ldots,a_n)$ と書けば、各 $wa_i$ は $S^{-1}A$ に属する。各分母を払う $s_i\in S$ を選び、$s=\prod_i s_i$ とおけば $sw a_i\in A$ がすべての $i$ について成り立つ。したがって $sw I\subset A$、つまり $sw\in I^{-1}$ であり、$w\in S^{-1}(I^{-1})$ となる。$\square$

この証明では有限生成性が、各生成元の分母を一つの分母へまとめるために使われている。無限に多くの生成元がある場合、元ごとに分母を払えても、それらを一度に払う元があるとは限らない。局所化をイデアルの逆元と交換する場面では、この有限性を確認する必要がある。

可逆性の局所判定

非零分数イデアル $I$ について、次は同値である。

  1. $I$ は可逆である。
  2. $I$ は有限生成であり、すべての極大イデアル $\mathfrak m$ に対して $I_{\mathfrak m}$ は $A_{\mathfrak m}$ 上単項である。

まず $I$ が可逆とする。有限生成性は lem-invertible-ideal-basic の 2 による。積が環全体であることから、有限個の $a_i\in I$、$b_i\in I^{-1}$ を使って $1=\sum_i a_i b_i$ と書ける。$A_{\mathfrak m}$ において、この和の項がすべて極大イデアルに属することはない。したがって、ある $j$ の $a_jb_j$ は単元である。任意の $z\in I_{\mathfrak m}$ に対して
$$ \frac{z}{a_j}=\frac{b_jz}{a_jb_j}\in A_{\mathfrak m} $$
であるから、$I_{\mathfrak m}=a_jA_{\mathfrak m}$ となる。
逆に条件 2 を仮定する。前の補題により、$I_{\mathfrak m}=a_{\mathfrak m}A_{\mathfrak m}$ なら $(I^{-1})_{\mathfrak m}=a_{\mathfrak m}^{-1}A_{\mathfrak m}$ である。よって $(II^{-1})_{\mathfrak m}=A_{\mathfrak m}$ が全極大イデアルで成り立つ。もし $II^{-1}$ が真のイデアルなら、それを含む極大イデアル $\mathfrak m$ がある。その局所化が環全体であることは、$II^{-1}$ に属する元が $\mathfrak m$ 外にあることを意味し、包含に反する。したがって $II^{-1}=A$ であり、$I$ は可逆である。$\square$

可逆イデアルの局所生成元は、一般には環全体の生成元にまとめられない。局所生成元の比は、それぞれが定義される領域の重なりで単元になる。生成元の取り替えにこの単元が現れることが、後述する階数一の加群としての見方につながる。単項イデアルは大域的な生成元を一つ選べる場合であり、可逆イデアルは各局所環でなら選べる場合である。

半局所環では大域的に単項

$A$ の極大イデアルが $\mathfrak m_1,\ldots,\mathfrak m_r$ だけであるとする。可逆イデアル $I$ の局所生成元を $a_i\in I$ から選べる。実際、分母は局所環の単元なので、分母を払った元でも生成する。相異なる極大イデアルは互いに素なので、中国剰余定理から $e_i\equiv1\pmod{\mathfrak m_i}$、$e_i\equiv0\pmod{\mathfrak m_j}$($j\ne i$)となる $e_i$ を選ぶ。$a=\sum_i e_i a_i$ とおくと、$I_{\mathfrak m_i}/\mathfrak m_i I_{\mathfrak m_i}$ における $a$ の像は $a_i$ の像に等しく、$a$ も生成元になる。ここでは局所的に $I_{\mathfrak m_i}=a_iA_{\mathfrak m_i}$ と書いて、$a/a_i$ の剰余が $1$ であることを使う。全極大点で $(a)_{\mathfrak m_i}=I_{\mathfrak m_i}$ だから $I=(a)$ である。最後の等号は商 $I/(a)$ が全極大点で零なら零になることによる。

この例は、有限個の点での選択は中国剰余定理でまとめられることを示している。極大イデアルが無限にある場合に同じ有限和の構成をそのまま使うことはできない。また半局所という条件だけで、任意のイデアルが単項になるわけではない。ここでは可逆イデアルの局所的な単項性を先に使っている。

射影加群としての特徴づけ

加群 $P$ が射影であるとは、自由加群の直和因子となることをいう。同値な持上げによる定義では、加群の全射に対して $P$ からの写像を持ち上げられることを要求する。射影加群は必ずしも自由ではない。可逆イデアルの場合には、この自由との差が局所生成元を大域的に一つにまとめられるかどうかに現れる。
非零分数イデアル $I$ の階数は一である。実際 $I\otimes_A K$ は自然な乗法写像により $K$ と同型である。$0\ne a\in I$ を一つ選べば、商体で $a$ を逆にすることで任意の元を得られる。階数という条件だけでは可逆性は出ない。可逆性を加群の言葉へ移す際に重要なのは、階数一であることに加えて射影であることである。

分数イデアル上の線型写像

非零分数イデアル $I$ 上の任意の $A$ 線型写像 $\lambda\colon I\to A$ は、ある $b\in I^{-1}$ による乗法 $z\mapsto bz$ である。したがって $\operatorname{Hom}_A(I,A)$ は自然に $I^{-1}$ と同一視できる。

$0\ne a\in I$ と共通分母 $0\ne d\in A$ を選ぶ。任意の $z\in I$ に対して $da,dz\in A$ であり、$I$ の中で $(da)z=(dz)a$ である。線型性から $(da)\lambda(z)=(dz)\lambda(a)$ が従う。体 $K$ で $da$ を消去すると $\lambda(z)=bz$、ただし $b=\lambda(a)/a$ となる。像が $A$ に入るので $bI\subset A$、つまり $b\in I^{-1}$ である。逆にそのような乗法が線型写像を与えることは直接確認できる。$\square$

可逆性と射影性

非零分数イデアル $I$ は、可逆であることと $A$ 加群として射影であることが同値である。射影性の側では有限生成性を別に仮定する必要がない。

$I$ が可逆なら $1=\sum_{i=1}^n a_i b_i$、$a_i\in I$、$b_i\in I^{-1}$ と書ける。$\phi\colon A^n\to I$ を $\phi(e_i)=a_i$ で定め、$\psi\colon I\to A^n$ を $\psi(z)=(b_1z,\ldots,b_nz)$ で定める。すべての成分は $A$ に属し、$\phi\psi(z)=z$ である。したがって $I$ は $A^n$ の直和因子であり、射影である。
逆に $I$ が射影とする。$I$ への自由加群の全射 $\phi\colon F=\bigoplus_{i\in T}Ae_i\to I$ と、その分裂 $\psi\colon I\to F$ を選ぶ。$\psi$ の第 $i$ 成分は前の補題により $b_i\in I^{-1}$ による乗法である。$0\ne a\in I$ を固定すると、直和の元 $\psi(a)$ の台は有限集合 $T_0$ に含まれる。$i\notin T_0$ なら $b_i a=0$ であり、整域なので $b_i=0$ である。つまり、この一つの元について有限台であることから、$\psi$ 全体が同じ有限個の座標に入ることが分かる。
$a_i=\phi(e_i)$ とおく。$\phi\psi=\operatorname{id}_I$ を非零元 $a$ に適用して $a=\sum_{i\in T_0}a_i b_i a$ を得る。体内で $a$ を消去すれば $1=\sum_{i\in T_0}a_i b_i\in II^{-1}$ である。定義から逆の包含 $II^{-1}\subset A$ もあるので等号となり、$I$ は可逆である。$\square$

この証明は、一般の射影加群が有限生成とは限らないことと矛盾しない。分数イデアルは同じ商体に入る階数一の加群なので、一つの非零元が線型写像の全座標を検出する。無限直和の座標を一つずつ調べる代わりに、一つの元の有限台からすべての写像の有限台を得られる点が特徴である。
可逆性を証明する具体的な証拠として、有限等式 $1=\sum_i a_i b_i$ は特に使いやすい。この等式には、積に対する逆元の存在だけでなく、自由加群への埋込みとそこからの射影が同時に記録されている。$b_i$ は抽象的な線型汎関数を商体内の元として書いたものである。局所化では、ある一項 $a_i b_i$ が単元になることで、同じ証拠から局所生成元も得られる。

積とテンソル積

イデアルの積 $IJ$ と加群のテンソル積 $I\otimes_A J$ は、定義から同じものではない。前者は商体の部分加群であり、後者は双線型写像を表す抽象的な加群である。常に乗法による全射 $\mu\colon I\otimes_A J\to IJ$ があるが、一般には核が生じる。可逆な因子があるときには、この違いがなくなる。

可逆な因子をもつ積

$I$ が可逆で、$J$ が任意の分数イデアルなら、乗法写像 $I\otimes_A J\to IJ$ は同型である。

$1=\sum_i a_i b_i$ を上のように選ぶ。$z\in IJ$ に対して $b_i z\in J$ であるから、$\nu(z)=\sum_i a_i\otimes b_i z$ と定められる。$\mu\nu(z)=\sum_i a_i b_i z=z$ である。一方 $a\in I$、$y\in J$ に対して、$b_i a\in A$ をテンソル積の係数として移すと
$$ \nu\mu(a\otimes y)=\sum_i a_i\otimes (b_i a)y =\sum_i (b_i a)a_i\otimes y=a\otimes y $$
となる。純テンソルが全体を生成するので $\nu\mu$ も恒等写像である。$\square$

特に $I\otimes_A I^{-1}\cong A$ となる。この同型は、$I^{-1}$ が $I$ の加群としての逆を表すことを示す。また可逆分数イデアルの積は可逆で、逆元は逆元同士の積になる。分数イデアルの積で作る群と、階数一の射影加群をテンソル積で組み合わせる見方が一致する理由は、この乗法同型にある。
抽象的な同型類だけを考えると、$I$ と $aI$ は非零 $a\in K$ の乗法により同型である。逆に分数イデアル間の同型は商体内の非零元による乗法である。前の線型写像の証明で、値域を別の分数イデアルに変えても同じ消去計算が使えるからである。可逆イデアルを単項分数イデアル倍の違いまで同一視することは、階数一の射影加群の同型類を考えることに対応する。
この対応は イデアル類群 や Picard群 への入口になる。ただし任意のイデアルを集めて群を作ることはできない。可逆なものに制限して初めて積に逆元があり、単項分数イデアルによる商を取れる。Dedekind 整域ではすべての非零分数イデアルが可逆なので、その制限が見えにくくなる。一般の整域でこの区別を残すことが大切である。

可逆性が失敗する反例

以下の多項式の反例では $k$ を体とする。

外す条件反例成り立たなくなること
局所的な単項性$k[X,Y]$ の $(X,Y)$有限生成でも可逆でない
可逆な因子$(X,Y)\otimes (X,Y)$乗法写像が単射でない
非零性零イデアル積で環全体を得られない
反例:二生成であっても可逆でない

$A=k[X,Y]$、$I=(X,Y)$、$\mathfrak m=(X,Y)$ とする。$I_{\mathfrak m}$ が単項なら、$I_{\mathfrak m}/\mathfrak m I_{\mathfrak m}$ は剰余体 $k$ 上高々一次元となる。しかしこの商は $\mathfrak m A_{\mathfrak m}/\mathfrak m^2 A_{\mathfrak m}$ であり、$X,Y$ の像を基底とする二次元空間である。独立性は、$cX+dY$ が二次以上の項だけからなるとき一次係数 $c,d$ がともに零になることによる。局所化しても、分母の定数項が非零なのでこの一次項の判定は変わらない。したがって $I_{\mathfrak m}$ は単項でなく、局所判定により $I$ は可逆でない。満たす条件は非零・有限生成であり、失敗する条件は局所単項性である。

反例:テンソル積には余分な核がある

同じ $I=(X,Y)$ に対し、$w=X\otimes Y-Y\otimes X\in I\otimes_A I$ は乗法写像で $XY-YX=0$ に写るが、$w$ 自身は零でない。
非零性を示すため、$A$ の元 $h$ の定数項を $h(0)$ と書き、$k$ を $h\cdot c=h(0)c$ により $A$ 加群とみる。$f\in I$ の $X$ の係数を $f_X$、$Y$ の係数を $f_Y$ と書く。$I$ の元は定数項が零の多項式なので、$h\in A$、$f\in I$ に対し $hf$ の一次の項は $h(0)$ と $f$ の一次の項の積だけから生じ、$(hf)_X=h(0)f_X$、$(hf)_Y=h(0)f_Y$ となる。従って
$$ \beta\colon I\times I\to k,\qquad \beta(f,g)=f_Xg_Y $$
は各変数について加法的で、$\beta(hf,g)=h(0)\beta(f,g)=\beta(f,hg)$ を満たす $A$ 双線型写像である。テンソル積の普遍性により、$\tilde\beta(f\otimes g)=f_Xg_Y$ となる $A$ 線型写像 $\tilde\beta\colon I\otimes_A I\to k$ が得られる。すると
$X$ の $X$ 係数は $1$、$Y$ 係数は $0$ であり、$Y$ については逆なので、$\tilde\beta(X\otimes Y)=1\cdot1=1$、$\tilde\beta(Y\otimes X)=0\cdot0=0$ となる。よって $\tilde\beta(w)=1\ne0$ であるから $w\ne0$ である。乗法写像の核が零でないので、$I\otimes_AI\to I^2$ は同型でない。したがって積の生成元を掛け合わせる操作だけでは、テンソル積の関係がすべて消えるとは限らない。同じ元は 平坦加群 の「反例:捩れをもたないが平坦でないイデアル」にも現れる。

この二つの反例は同じイデアルについて異なる情報を与える。最初は可逆性を各点で一つの生成元を選べるかという問題に変え、次は積の写像に消去できない関係が残ることを示す。どちらも、有限生成という条件だけでは十分でないことを具体的に説明する。環が Noether であることや整閉であることだけを確認しても、このイデアルの局所単項性は得られない。

使い方と対象の境界

可逆イデアルを扱うときは、まず対象が非零分数イデアルであることを確かめ、次に有限生成と局所単項性を調べる方法が有効である。すでに $1=\sum_i a_i b_i$ という表示があるなら、それを使って直接可逆性を証明できる。射影加群として与えられている場合には、分裂の座標を商体内の乗法に直して同じ等式を取り出せる。これらは別々の証明技法というより、同じ有限な証拠を異なる場所から取り出す方法である。
環全体の性質として、すべての非零有限生成イデアルが可逆である整域を Prüfer整域 という。そこでは有限生成イデアルの局所形が特に簡単になる。一方、すべての非零イデアルが可逆である場合には有限生成性もすべてのイデアルへ及ぶ。このより強い状況が Dedekind 整域のイデアル論的特徴づけであり、素イデアル分解との関係は Dedekind整域 の記事で扱われる。
零因子をもつ環では、非零元で分母を払うという操作がそのままでは使えない。全商環では正則元、すなわち非零因子を分母にする必要があり、可逆加群をイデアルとして実現する条件も改めて考えることになる。本記事の消去計算は整域の商体を使っているので、零因子をもつ環にはそのままでは適用できない。また一般の階数一加群も、有限生成や射影性がなければここで述べた可逆イデアルの特徴づけには入らない。
分数イデアルという形を使う利点は、写像を商体の元の乗法として計算できることである。局所生成元、逆元、双対、テンソル積が同じ体の中で見えるため、抽象加群だけで扱うよりも式を追いやすい。可逆性の三つの姿を比較するときには、積に関する条件、各局所環での条件、自由加群からの分裂という条件のそれぞれが、どこで有限性を使って結ばれるかを確認するとよい。
定義と射影性・局所単項性の対応は Mat86 §11, Theorem 11.3 に対応する。非零有限生成イデアルすべてにこの判定を適用する方向は、同節 Exercise 11.9 と Prüfer整域 の記事につながる。

関連項目

参考文献

[1]
Hideyuki Matsumura (translated by Miles Reid), Commutative Ring Theory, Cambridge Studies in Advanced Mathematics 8, Cambridge University Press, 1989, §11, Theorem 11.3(可逆分数イデアル、射影性、局所単項性)、Exercise 11.9(Prüfer 整域)

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