基点の取り替え(ホモトピー群)(change of basepoint for homotopy groups)とは、空間 $X$ の点 $x_0$ から $x_1$ への道 $\gamma$ に沿って、$x_1$ を基点とする球面の写像の外側に $\gamma$ をまとわせ、ホモトピー群の同型 $\beta_\gamma\colon\pi_n(X,x_1)\to\pi_n(X,x_0)$ を作る操作である。$\beta_\gamma$ は $\gamma$ の端点を止めたホモトピー類だけで決まり、ループに当てると基本群が $\pi_n(X,x_0)$ に自己同型として作用する($n=1$ では共役)。弧状連結な空間では、基点を止めない写像 $S^n\to X$ のホモトピー類はこの作用の軌道と一対一に対応し、作用が自明な弧状連結空間を $n$-単純という。
前提知識: ホモトピー群, 基点の取り替え(基本群), ホモトピー, 被覆空間
空間 $X$ の $n$ 次ホモトピー群 $\pi_n(X,x)$ は基点 $x$ を決めて定義される。基点 $x_0$ から $x_1$ への道 $\gamma$ があれば、$x_1$ を基点とする球面の写像の外側に $\gamma$ をまとわせて $x_0$ を基点とする写像に作り替えられる。これが基点の取り替えの同型 $\beta_\gamma\colon\pi_n(X,x_1)\to\pi_n(X,x_0)$ である。$\beta_\gamma$ は $\gamma$ の端点を止めたホモトピー類だけで決まり、$x_0$ を回るループに当てると、基本群 $\pi_1(X,x_0)$ が $\pi_n(X,x_0)$ に自己同型として作用する。$n=1$ ではこの作用は共役である。
作用が自明な弧状連結空間($n$-単純な空間)では、$\pi_n$ を基点を気にせずに扱える。弧状連結な $X$ でも一般には、基点を止めない写像のホモトピー類 $[S^n,X]$ は $\pi_n(X,x_0)$ そのものではなく、作用の軌道の集合になる。この記事では、まず「基点が道をたどるホモトピー」についての補題を示し、そこから基点の取り替えの性質、自由ホモトピーとの関係、軌道による $[S^n,X]$ の記述を導く。例として、弧状連結な位相群は単純であること、偶数次元 $n\ge2$ の実射影空間 $\mathbb{RP}^n$ では基本群が $\pi_n(\mathbb{RP}^n)\cong\mathbb Z$ に $-1$ 倍で作用することを示す。
以下 $n\ge1$、$I=[0,1]$ とし、$I^n$ を $n$ 次元立方体、$\partial I^n$ をその境界とする。ホモトピー群 の定義「ホモトピー群の演算($n\geq1$)」のとおり、$\pi_n(X,x)$ を $f(\partial I^n)=\{x\}$ をみたす連続写像 $f\colon I^n\to X$ の、境界を止めたホモトピーによる類の集合とし、和 $f+g$ は第 1 座標に沿った貼り合わせで定める。道の積 $\gamma\cdot\eta$($\gamma$ をたどってから $\eta$ をたどる)、逆の道 $\bar\gamma$、定値道 $c_x$、端点を止めたホモトピーは 基本群 の定義に従う。
立方体の中心を $c=(\tfrac12,\dots,\tfrac12)$ とし、
$$
r(s):=2\max_{1\le i\le n}\bigl|s_i-\tfrac12\bigr|\qquad(s\in I^n)
$$
とおく。$r\colon I^n\to[0,1]$ は連続で、$r(s)=1$ となるのはちょうど $s\in\partial I^n$ のときである。また $r(c+t(s-c))=t\,r(s)$ が成り立つ。
$\gamma$ を $x_0$ から $x_1$ への道とし、$f\colon(I^n,\partial I^n)\to(X,x_1)$ とする。
$$
T_\gamma f(s):=\begin{cases}f\bigl(c+2(s-c)\bigr)&(r(s)\le\tfrac12)\\[2pt]\gamma\bigl(2-2r(s)\bigr)&(r(s)\ge\tfrac12)\end{cases}
$$
とおく。$r(s)=\tfrac12$ では $c+2(s-c)\in\partial I^n$ なので両方の式が $x_1=\gamma(1)$ を与え、$T_\gamma f$ は連続である。$\partial I^n$ の上では $\gamma(0)=x_0$ をとるので、$T_\gamma f\colon(I^n,\partial I^n)\to(X,x_0)$ である。写像
$$
\beta_\gamma\colon\pi_n(X,x_1)\to\pi_n(X,x_0),\qquad\beta_\gamma[f]:=[T_\gamma f]
$$
を、道 $\gamma$ に沿った基点の取り替え(change of basepoint)という(矛盾なく定まることは thm-cbh-basic で示す)。
$T_\gamma f$ は、$f$ を中心の半分の大きさの立方体に縮め、外側の殻 $\{\tfrac12\le r\le1\}$ の各動径に $\gamma$ を逆向きに置いたものである。向きは Hat02 §4.1(pp. 341–342)の $\gamma f$ と同じである。基点の取り替え(基本群) の $\Phi_C[\gamma]=[\bar C\cdot\gamma\cdot C]$ とは向きが逆で、$n=1$ では $\beta_\gamma=\Phi_{\bar\gamma}$ となる(prop-cbh-conjugation)。
$\pi_1$ の場合、基点を $x_1$ から $x_0$ へ移すには、$x_0$ から $\gamma$ で $x_1$ へ行き、ループを回り、$\gamma$ を逆にたどって戻ればよい。高次元では「行って戻る」を立方体の動径方向に並べる。境界の全体が $x_0$ に、内側の立方体の境界が $x_1$ に写り、その間を $\gamma$ がつなぐ。
この操作は「基点が道 $\gamma$ に沿って動く変形」と言い換えられる。$T_\gamma f$ の殻を少しずつ薄くしていくと、境界の値が $\gamma$ に沿って $x_0$ から $x_1$ へ動き、最後に $f$ に戻る。逆に、境界の値が $\gamma$ に沿って動く変形があれば、その両端は $\beta_\gamma$ で結ばれる。次の補題がこの言い換えを正確にしたもので、この記事の証明はすべてこれに帰着する。
$\gamma$ を $x_0$ から $x_1$ への道とする。
2 を先に示す。$\lambda(v):=\tfrac12(1+v)$ とし、
$$
F(s,v):=\begin{cases}f\bigl(c+(s-c)/\lambda(v)\bigr)&(r(s)\le\lambda(v))\\[2pt]\gamma\bigl(v+2(1-r(s))\bigr)&(r(s)\ge\lambda(v))\end{cases}
$$
とおく。第 1 式では $r(c+(s-c)/\lambda(v))=r(s)/\lambda(v)\le1$ なので $f$ の定義域に入る。第 2 式の範囲では $0\le2(1-r(s))\le2(1-\lambda(v))=1-v$ なので、$\gamma$ の引数は $[v,1]$ に入る。$r(s)=\lambda(v)$ では第 1 式は $f$ の境界値 $x_1$、第 2 式は $\gamma(1)=x_1$ で一致する。二つの範囲は $I^n\times I$ の閉集合なので、$F$ は連続である。$s\in\partial I^n$ では $r(s)=1\ge\lambda(v)$ なので $F(s,v)=\gamma(v)$ である。$v=0$ では $\lambda=\tfrac12$ で $F_0=T_\gamma f$ であり、$v=1$ では $\lambda=1$ で $F_1=f$ である。
1 を示す。
$$
G(s,v):=\begin{cases}F\bigl(c+2(s-c),\,v\bigr)&(r(s)\le\tfrac12)\\[2pt]\gamma\bigl(v(2-2r(s))\bigr)&(r(s)\ge\tfrac12)\end{cases}
$$
とおく。$r(s)=\tfrac12$ では $c+2(s-c)\in\partial I^n$ なので第 1 式は $\gamma(v)$ で、第 2 式と一致する。よって $G$ は連続であり、$s\in\partial I^n$ では $G(s,v)=\gamma(0)=x_0$ である。したがって $G$ は境界を止めたホモトピーで、$[G_0]=[G_1]$ である。$G_1=T_\gamma F_1$ であり、$G_0=T_{c_{x_0}}F_0$(定値道 $c_{x_0}$ の殻を付けたもの)である。最後に、2 を定値道 $c_{x_0}$ と $F_0$ に当てると、境界の値がつねに $x_0$ のホモトピーで $T_{c_{x_0}}F_0$ から $F_0$ へ移れるので、$[T_{c_{x_0}}F_0]=[F_0]$ である。以上から $[F_0]=[T_\gamma F_1]$ である。$\square$
1 の $F$ を、基点が $\gamma$ をたどるホモトピーとよぶ。1 は「始点は終点を $\gamma$ に沿って運んだもの」、2 は「運んだものと元のものは基点が $\gamma$ をたどるホモトピーで結ばれる」と読める。
$\gamma$ を $x_0$ から $x_1$ への道、$\eta$ を $x_1$ から $x_2$ への道とする。
1:$H$ を $f$ から $f'$ への境界を止めたホモトピー、$\Gamma\colon I\times I\to X$ を $\gamma$ から $\gamma'$ への端点を止めたホモトピーとする。$(s,u)\mapsto T_{\Gamma(\cdot,u)}H(\cdot,u)(s)$ は def-cbh-main の式に $(s,u)$ を代入したもので連続であり、境界では $\Gamma(0,u)=x_0$ をとる。よって $T_\gamma f$ と $T_{\gamma'}f'$ は境界を止めてホモトピックである。
2:$f,g\colon(I^n,\partial I^n)\to(X,x_1)$ に lem-cbh-trace の 2 を当てて $F,G$ を得る。各 $v$ で $F_v,G_v$ は境界の上で $\gamma(v)$ なので、第 1 座標に沿った貼り合わせ $K(\cdot,v):=F_v+G_v$ が定まる。継ぎ目 $s_1=\tfrac12$ では両側とも境界の値 $\gamma(v)$ をとるので $K$ は連続であり、$s\in\partial I^n$ では $K(s,v)=\gamma(v)$ である。$K_1=f+g$、$K_0=T_\gamma f+T_\gamma g$ なので、lem-cbh-trace の 1 から $\beta_\gamma[f]+\beta_\gamma[g]=[K_0]=\beta_\gamma[f+g]$ である。
3:$f\colon(I^n,\partial I^n)\to(X,x_2)$ とする。lem-cbh-trace の 2 を $\eta$ と $f$ に当てて $F$($F_0=T_\eta f$、$F_1=f$)を、$\gamma$ と $T_\eta f$ に当てて $G$($G_0=T_\gamma T_\eta f$、$G_1=T_\eta f$)を得る。$v\le\tfrac12$ で $G(s,2v)$、$v\ge\tfrac12$ で $F(s,2v-1)$ とおいた $K$ は、$G_1=F_0$ により連続で、境界の値は $(\gamma\cdot\eta)(v)$ である。補題の 1 から $[T_\gamma T_\eta f]=[K_0]=\beta_{\gamma\cdot\eta}[K_1]=\beta_{\gamma\cdot\eta}[f]$ である。また $F(s,v):=f(s)$ は定値道 $c_{x_2}$ をたどるホモトピーなので、補題の 1 から $[f]=\beta_{c_{x_2}}[f]$ である。
4:$\gamma\cdot\bar\gamma$ は $c_{x_0}$ と、$\bar\gamma\cdot\gamma$ は $c_{x_1}$ と端点を止めてホモトピックである(基本群 の定理「基本亜群の公理と基本群の群構造」)。1 と 3 から $\beta_\gamma\beta_{\bar\gamma}=\beta_{\gamma\cdot\bar\gamma}=\beta_{c_{x_0}}=\mathrm{id}$、同様に $\beta_{\bar\gamma}\beta_\gamma=\mathrm{id}$ である。弧状連結なら任意の二点が道で結べるので、後半が従う。
5:定義の式から $\varphi\circ T_\gamma f=T_{\varphi\circ\gamma}(\varphi\circ f)$ が写像として成り立つ。$\square$
thm-cbh-basic の 3 により、$x_0$ を基点とするループ $\gamma$ に $\beta_\gamma$ を対応させると、群の準同型
$$
\pi_1(X,x_0)\longrightarrow\operatorname{Aut}\bigl(\pi_n(X,x_0)\bigr),\qquad[\gamma]\longmapsto\beta_\gamma
$$
が得られる(1 により $\beta_\gamma$ は $[\gamma]$ だけで決まる)。これを $\pi_1(X,x_0)$ の $\pi_n(X,x_0)$ への作用という。$n\ge2$ では $\pi_n(X,x_0)$ は可換群なので、この作用によって群環 $\mathbb Z[\pi_1(X,x_0)]$ 上の加群になる(Hat02 p. 342)。
弧状連結な空間 $X$ が $n$-単純($n$-simple)であるとは、ある点 $x_0$ で $\pi_1(X,x_0)$ の $\pi_n(X,x_0)$ への作用が自明であることをいう。すべての $n\ge1$ について $n$-単純な空間を単純(simple)という。
この条件は $x_0$ の選び方によらない。実際、$x_0$ から $x_1$ への道 $\delta$ と $x_1$ のループ $\gamma$ について、thm-cbh-basic の 3 と 4 から $\beta_\delta\beta_\gamma\beta_\delta^{-1}=\beta_{\delta\cdot\gamma\cdot\bar\delta}$ であり、$\delta\cdot\gamma\cdot\bar\delta$ は $x_0$ のループである。よって $x_0$ で作用が自明なら $x_1$ でも自明である。文献によっては、単純な空間を abelian な空間ともよぶ(Hat02 p. 342)。
$n=1$ のとき、$x_0$ から $x_1$ への道 $\gamma$ と $x_1$ のループ $f$ について $\beta_\gamma[f]=[\gamma\cdot f\cdot\bar\gamma]$ である。とくに $\pi_1(X,x_0)$ の自分自身への作用は共役 $[f]\mapsto[\gamma][f][\gamma]^{-1}$ であり、弧状連結な空間が $1$-単純であることと、基本群が可換であることは同値である。
要点:$n=1$ では殻の式が $\gamma$、$f$、$\bar\gamma$ をこの順につないだ道になる。
$n=1$ では $c=\tfrac12$、$r(s)=|2s-1|$ なので、定義の式は$T_\gamma f(s)=\begin{cases}\gamma(4s)&(0\le s\le\tfrac14)\\ f(2s-\tfrac12)&(\tfrac14\le s\le\tfrac34)\\ \gamma(4-4s)&(\tfrac34\le s\le1)\end{cases}$となる。これは $\gamma$、$f$、$\bar\gamma$ を区間の長さ $\tfrac14,\tfrac12,\tfrac14$ で順につないだ道であり、区間の長さを変える再径数化で $\gamma\cdot f\cdot\bar\gamma$ と端点を止めてホモトピックである(基本群 の定理「基本亜群の公理と基本群の群構造」)。後半は前半を $x_1=x_0$ に当てればよい。$\square$
基点の取り替え(基本群) の記号では $\beta_\gamma=\Phi_{\bar\gamma}$ である。$n\ge2$ の作用は、$n=1$ の共役作用の高次元版にあたる。
ホモトピー群 の命題「関手性とホモトピー不変性」は、基点を止めたホモトピーで結ばれた写像が同じ準同型を誘導することを述べる。基点を止めないホモトピーでは、誘導準同型は基点の軌跡に沿った取り替えの分だけずれる。
要点:1 は補題の 1 そのもの。2 はホモトピー逆写像から左逆を作り、もう一方の合成が基点の取り替えの合成になることから全射を得る。
1:$a\colon(I^n,\partial I^n)\to(X,x)$ に対し $F(s,v):=\varphi(a(s),v)$ とおくと、境界では $F(s,v)=\varphi(x,v)=\delta(v)$ である。lem-cbh-trace の 1 から $[\varphi_0\circ a]=\beta_\delta[\varphi_1\circ a]$ である。
2:$g$ を $f$ のホモトピー逆写像とし、$\varphi$ を $\mathrm{id}_X$ から $gf$ へのホモトピー、$\psi$ を $\mathrm{id}_Y$ から $fg$ へのホモトピーとする。$\alpha(v):=\varphi(x,v)$ は $x$ から $gf(x)$ への道で、1 から $\mathrm{id}=\beta_\alpha(gf)_*=\beta_\alpha g_*f_*$ である。よって $L:=\beta_\alpha g_*\colon\pi_n(Y,f(x))\to\pi_n(X,x)$ は $f_*$ の左逆で、$f_*$ は単射である。次に $\delta(v):=\psi(f(x),v)$ は $f(x)$ から $fgf(x)$ への道で、1 から $\mathrm{id}=\beta_\delta(fg)_*$、すなわち $(fg)_*=\beta_\delta^{-1}$ である($(fg)_*$ は $\pi_n(Y,f(x))\to\pi_n(Y,fgf(x))$)。thm-cbh-basic の 5 から $f_*L=f_*\beta_\alpha g_*=\beta_{f\circ\alpha}(fg)_*=\beta_{f\circ\alpha}\beta_\delta^{-1}$ であり、これは同型の合成なので全単射である。よって $f_*$ は全射でもあり、同型である。可縮な空間は 1 点とホモトピー同値なので、最後の主張が従う。$\square$
1 で $\delta$ が定値でなければ、$(\varphi_0)_*$ と $(\varphi_1)_*$ が一致するとは限らない(節「反例」の表の 1 行目)。2 では、二つの準同型が等しいことではなく、同型であることだけを主張している。
$S^n$ を $I^n/\partial I^n$ と同一視し(ホモトピー群 の命題「$\pi_1$は基本群と一致する」の証明の同相)、$[S^n,X]$ を基点を止めない連続写像 $S^n\to X$ のホモトピー類の集合とする。基点付きの写像を基点を忘れて見ることで、写像 $\Phi\colon\pi_n(X,x_0)\to[S^n,X]$ が定まる。
$X$ を弧状連結な空間、$x_0\in X$、$n\ge1$ とする。$\Phi\colon\pi_n(X,x_0)\to[S^n,X]$ は全射であり、$\Phi(\xi)=\Phi(\xi')$ となるのは、$\xi'=\beta_\gamma\xi$ となる $x_0$ のループ $\gamma$ があるとき、またそのときに限る。したがって $\Phi$ は全単射
$$
\pi_n(X,x_0)/\pi_1(X,x_0)\;\xrightarrow{\ \cong\ }\;[S^n,X]
$$
を誘導する。ここで左辺は作用の軌道の集合である。
商写像 $q\colon I^n\to I^n/\partial I^n=S^n$ により、連続写像 $S^n\to X$ は $\partial I^n$ の上で定値な連続写像 $I^n\to X$ と一対一に対応する。$I$ はコンパクト Hausdorff なので $q\times\mathrm{id}_I$ も商写像であり、ホモトピー $S^n\times I\to X$ は、各 $v$ で $\partial I^n\times\{v\}$ の上で定値な連続写像 $I^n\times I\to X$ と一対一に対応する。その定値の値を $v$ の関数と見たものが、基点の軌跡である。
全射:$h\colon S^n\to X$ をとり、$x_1:=h(q(\partial I^n))$ とする。$h\circ q$ は $\pi_n(X,x_1)$ の元を代表する。弧状連結性から $x_0$ から $x_1$ への道 $\gamma$ をとり、lem-cbh-trace の 2 を $\gamma$ と $h\circ q$ に当てると、各 $v$ で境界の上で定値な $F$ が得られ、$T_\gamma(h\circ q)$ から $h\circ q$ への自由ホモトピーになる。よって $\Phi(\beta_\gamma[h\circ q])=[h]$ である。
同じ軌道の元は同じ類に移る:$x_0$ のループ $\gamma$ と $f\colon(I^n,\partial I^n)\to(X,x_0)$ に lem-cbh-trace の 2 を当てると、$T_\gamma f$ から $f$ への自由ホモトピーが得られるので、$\Phi(\beta_\gamma[f])=\Phi([f])$ である。
同じ類に移る元は同じ軌道にある:$f,f'\colon(I^n,\partial I^n)\to(X,x_0)$ が $S^n$ からの写像として自由ホモトピックなら、上の対応により、各 $v$ で境界の上で定値 $\delta(v)$ をとる $K\colon I^n\times I\to X$ で $K_0=f$、$K_1=f'$ となるものがある。$\delta(0)=\delta(1)=x_0$ なので $\delta$ は $x_0$ のループであり、lem-cbh-trace の 1 から $[f]=\beta_\delta[f']$ である。$\square$
弧状連結な空間 $X$ が $n$-単純なら、$\Phi\colon\pi_n(X,x_0)\to[S^n,X]$ は全単射である。とくに、基点を保つ二つの写像 $S^n\to X$ が自由ホモトピックなら、基点を止めてホモトピックである。また、二点 $x_0,x_1$ を結ぶ道 $\gamma$ による同型 $\beta_\gamma\colon\pi_n(X,x_1)\to\pi_n(X,x_0)$ は $\gamma$ の選び方によらない。
要点:軌道が 1 点ずつになる。道の取り替えはループの作用の分だけ違う。
前半は thm-cbh-orbits で軌道が 1 点ずつになることによる。後半は、$x_0$ から $x_1$ への二つの道 $\gamma,\gamma'$ について、thm-cbh-basic の 3・4 から $\beta_{\gamma'}^{-1}\beta_\gamma=\beta_{\bar\gamma'\cdot\gamma}$ であり、$\bar\gamma'\cdot\gamma$ は $x_1$ のループなので、$x_1$ での作用が自明であることから $\beta_\gamma=\beta_{\gamma'}$ となる。$\square$
thm-cbh-orbits は、Hat02 Proposition 4A.2(p. 422)の $Z=S^n$ の場合である。同書は CW 対 $(Z,z_0)$ からの写像についてホモトピー拡張性を使って示している。
被覆空間を通すと、作用は被覆変換として見える。
$p\colon\tilde X\to X$ を被覆写像、$\tilde x_0\in\tilde X$、$x_0:=p(\tilde x_0)$ とし、$x_0$ のループ $\gamma$ の $\tilde x_0$ を始点とする持ち上げ $\tilde\gamma$ の終点を $\tilde x_1$ とする。連続写像 $\tau\colon\tilde X\to\tilde X$ が $p\circ\tau=p$、$\tau(\tilde x_0)=\tilde x_1$ をみたすなら、
$$
\beta_\gamma\circ p_*=p_*\circ\beta_{\tilde\gamma}\circ\tau_*\colon\pi_n(\tilde X,\tilde x_0)\to\pi_n(X,x_0)
$$
である。
要点:殻の式に $p$ を合成する。
$\tilde f\colon(I^n,\partial I^n)\to(\tilde X,\tilde x_0)$ について、$\tau\circ\tilde f$ は $\tilde x_1$ を基点とする。thm-cbh-basic の 5 と $p\circ\tilde\gamma=\gamma$、$p\circ\tau=p$ から $p\circ T_{\tilde\gamma}(\tau\circ\tilde f)=T_\gamma(p\circ\tau\circ\tilde f)=T_\gamma(p\circ\tilde f)$ である。$\square$
$\tilde X$ が単連結なら、$\tilde x_0$ から $\tilde x_1$ への道はすべて端点を止めてホモトピックなので、$\beta_{\tilde\gamma}$ は道の選び方によらない。$n\ge2$ では $p_*$ は同型なので(ホモトピー群 の命題「被覆空間と$n$-単純性」)、$\gamma$ の作用は「被覆変換 $\tau$ で移してから、$\tilde X$ の中で基点を戻す」ことに等しい。
$n\ge2$ とし、$p\colon S^n\to\mathbb{RP}^n$ を商写像、$A(y)=-y$ を対蹠写像、$e_0\in S^n$、$x_0:=p(e_0)$ とする。$\pi_1(\mathbb{RP}^n,x_0)\cong\mathbb Z/2$ の生成元は、$e_0$ から $-e_0$ への道 $\lambda$ の像 $\ell:=p\circ\lambda$ の類である(ホモトピー群 の例「実射影空間での基本群の計算」)。$\pi_n(\mathbb{RP}^n,x_0)\cong\pi_n(S^n,e_0)\cong\mathbb Z$($p_*$ と写像度)のもとで、$[\ell]$ は $(-1)^{n+1}$ 倍として作用する。したがって $\mathbb{RP}^n$ は、$n$ が奇数なら $n$-単純であり、$n$ が偶数なら $n$-単純でない。$n$ が偶数のとき、thm-cbh-orbits により $[S^n,\mathbb{RP}^n]\cong\mathbb Z/\{\pm1\}$ であり、自由ホモトピー類は $p_*$ で対応する写像度の絶対値 $0,1,2,\dots$ で分類される。
要点:被覆変換は対蹠写像で、その写像度は $(-1)^{n+1}$ である。
prop-cbh-covering を $\tilde X=S^n$、$\tau=A$、$\tilde\gamma=\lambda$ に当てると、$\beta_\ell p_*[a]=p_*\beta_\lambda[A\circ a]$ である。$S^n$ は単連結なので $\beta_\lambda$ は道によらない。$\beta_\lambda[A\circ a]=[T_\lambda(A\circ a)]$ と $A\circ a$ は、lem-cbh-trace の 2 により $S^n$ からの写像として自由ホモトピックなので、写像度が等しい。写像度はホモトピー不変で合成について乗法的であり、$\deg A=(-1)^{n+1}$ である(写像度 の命題「直交変換の写像度」、Hat02 §2.2 の性質 (f)、p. 134)。基点付きの類 $\pi_n(S^n,e_0)\to\mathbb Z$ は写像度で同型なので(ホモトピー群 の例「球面自身: $\pi_n(S^n)\cong\mathbb{Z}$」)、$\beta_\lambda[A\circ a]=(-1)^{n+1}[a]$ であり、$\beta_\ell$ は $(-1)^{n+1}$ 倍である。軌道は $n$ が偶数なら $\{m,-m\}$ である。$\square$
$n=2$ の場合は 基点の取り替え(基本群) の例「実射影平面の中心と写像のループ」でも扱われている。一般の $n$ は Hat02 §4.2 演習 2(p. 389)の主張である。
$n\ge2$、$X=S^1\vee S^n$ とし、$t\in\pi_1(X)\cong\mathbb Z$ を円周を 1 周する生成元、$\iota\in\pi_n(X)$ を $S^n$ の包含の類とする。普遍被覆は直線 $\mathbb R$ の各整数点に $S^n$ を 1 つずつ付けた空間で、$\pi_n(X)$ は $t^k\iota$($k\in\mathbb Z$)を基底とする自由アーベル群、すなわち $\mathbb Z[t,t^{-1}]$ 上の階数 1 の自由加群になる(Hat02 Example 4.27、p. 364。この記事では証明しない)。$t\iota\neq\iota$ なので $X$ は $n$-単純でなく、thm-cbh-orbits により $[S^n,X]$ はローラン多項式環 $\mathbb Z[t,t^{-1}]$ を $t$ の冪倍で割った集合である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| ホモトピーが基点を止める | $S^n\to S^1\vee S^n$ の包含 $i$ と、$i$ を $S^1$ を 1 周するループ $\gamma$ に沿って運んだ写像 | 自由ホモトピックな二つの写像が同じ準同型 $\pi_n(S^n)\to\pi_n(S^1\vee S^n)$ を誘導すること |
| 道のホモトピーが端点を止める(thm-cbh-basic の 1) | $S^1\vee S^n$ の基点のループ $\gamma$ と定値道 | ホモトピックな二つの道が同じ $\beta$ を与えること |
| 空間が単連結(ex-cbh-group の 1) | $\mathbb{RP}^2$ | $\pi_1$ の $\pi_2$ への作用が自明であること |
| $n$-単純(cor-cbh-simple-free) | $\mathbb{RP}^2$ と、写像度 $1$ と $-1$ に対応する基点付き写像 $S^2\to\mathbb{RP}^2$ | 自由ホモトピックな基点付き写像が基点を止めてホモトピックであること |
| 空間が弧状連結(thm-cbh-basic の 4) | $S^2\sqcup\{y\}$ | 二点の $\pi_2$ が同型であること |
要点:各行は上の例と定理から確かめられる。
1 行目:$n\ge2$ とし、$i\colon S^n\to S^1\vee S^n$ を包含、$f:=T_\gamma(i\circ q)$ が誘導する写像 $S^n\to S^1\vee S^n$ を $i'$ とする。lem-cbh-trace の 2 から $i'$ と $i$ は自由ホモトピックである。$\iota_n:=[\mathrm{id}_{S^n}]$ の像は $i_*\iota_n=\iota$、$i'_*\iota_n=\beta_\gamma\iota=t\iota$ で、ex-cbh-wedge により異なる。thm-cbh-free の 1 の $\delta$ はここでは $\gamma$ である。
2 行目:$H(s,u):=\gamma((1-u)s)$ は $\gamma$ から定値道へのホモトピーだが、終点 $\gamma(1-u)$ が動く。$\beta_\gamma\iota=t\iota\neq\iota=\beta_{c}\iota$ である。
3 行目:ex-cbh-rpn の $n=2$ により、生成元は $\pi_2(\mathbb{RP}^2)\cong\mathbb Z$ に $-1$ 倍で作用する。
4 行目:$\xi:=p_*[a]$($\deg a=1$)と $-\xi$ は ex-cbh-rpn により同じ軌道にあり、thm-cbh-orbits から自由ホモトピックである。$\xi\neq-\xi$($\pi_2(\mathbb{RP}^2)\cong\mathbb Z$)なので、基点を止めてはホモトピックでない。
5 行目:孤立点 $y$ を通る道は定値道だけで、$\pi_2(S^2\sqcup\{y\},y)=0$ だが、$S^2$ の点では $\pi_2\cong\mathbb Z$ である(ホモトピー群 の例「球面自身: $\pi_n(S^n)\cong\mathbb{Z}$」)。
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