奇跡的平坦性

同義語:miracle flatness奇跡的平坦性定理

概要

奇跡的平坦性(miracle flatness)とは、正則局所環 $A$ から Cohen–Macaulay な Noether局所環 $B$ への局所準同型が、次元の等式 $\dim B=\dim A+\dim B/\mathfrak m_AB$ をみたすなら平坦であるという定理である。平坦な局所準同型ではこの等式が常に成り立つので、この仮定のもとで平坦性と次元の等式は同値になる。証明の要は、底の正則パラメータ系の像が $B$ 正則列になることで、そこから Koszul 複体と局所平坦性判定により平坦性が従う。スキームの射では、正則な底への Cohen–Macaulay なスキームからの射が、各点でファイバーの次元が期待どおりなら平坦であることを意味する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 平坦加群, 正則局所環, Cohen–Macaulay環, 正則列, 平坦局所準同型の次元公式と深さ公式

Noether局所環の平坦な局所準同型 $(A,\mathfrak m)\to(B,\mathfrak n)$ では、次元が底とファイバーの和になる。
$$ \dim B=\dim A+\dim B/\mathfrak mB $$
これは 平坦局所準同型の次元公式と深さ公式 の主定理の前半である。逆は一般には成り立たない。平面の原点での爆発の座標近傍のように、平坦でなく、ファイバーが余分に大きい局所準同型がある。ところが、底 $A$ が正則局所環で、上の環 $B$ が Cohen–Macaulay環 なら、この次元の等式だけで平坦性が従う。これが奇跡的平坦性(miracle flatness)である。
平坦性は、すべてのイデアルとのテンソル積を調べる条件である。それが次元という一つの数の等式に置き換わる点に、この定理の強さがある。幾何の言葉では、正則な多様体への Cohen–Macaulay な多様体からの射は、ファイバーの次元が期待どおりなら平坦である。たとえば、多項式 $g$ が定める超曲面の族 $g=0$ が平坦であることは、各ファイバーで $g$ が恒等的に $0$ にならないことと同値になる(prop-mf-hypersurface)。
この記事では、まず正則局所環の上で平坦性を正則列で言い換え(prop-mf-regular-sequence)、そこから奇跡的平坦性を証明する(thm-mf-main)。続いてスキームの射の形に直し、例と、三つの仮定のそれぞれを外した反例を挙げる。

設定と記号

この記事では、環は単位元をもつ可換環とする。Noether局所環を $(A,\mathfrak m,k)$ と書けば、$\mathfrak m$ は極大イデアル、$k=A/\mathfrak m$ は剰余体である。Noether局所環の間の環準同型 $\varphi\colon(A,\mathfrak m)\to(B,\mathfrak n)$ が $\varphi(\mathfrak m)\subset\mathfrak n$ をみたすとき局所準同型といい、$F:=B/\mathfrak mB$ をその閉ファイバーという。$F$ は $0$ でない Noether 局所環である。$A$ の元 $a$ の像 $\varphi(a)$ を単に $a$ と書く。
$A$ が $d$ 次元の正則局所環のとき、$\mathfrak m$ を生成する $d$ 個の元の組を正則パラメータ系という(正則局所環 の定義「正則局所環と正則パラメータ系」)。正則パラメータ系は $A$ 正則列である(正則局所環 の命題「正則パラメータ系は正則列で、正則局所環は Cohen–Macaulay」)。
$B$ の元の列 $x_1,\dots,x_r\in\mathfrak n$ が $B$ 正則列であるとは、各 $i$ で $x_i$ の掛け算が $B/(x_1,\dots,x_{i-1})B$ 上で単射であり、$B/(x_1,\dots,x_r)B\ne0$ となることをいう(正則列 の定義「加群上の正則列」)。局所準同型では $x_i\in\mathfrak m$ の像は $\mathfrak n$ に入り、$B/\mathfrak mB\ne0$ なので、最後の条件は正則パラメータ系の像について自動的にみたされる。
次の既存の結果を使う。

  • Cohen–Macaulay環 の定理「パラメータ系による判定」の後半:Cohen–Macaulay な Noether 局所環 $R$ の極大イデアルの元 $x_1,\dots,x_c$ について、$x_1,\dots,x_c$ が $R$ 正則列であることと $\dim R/(x_1,\dots,x_c)=\dim R-c$ は同値である。
  • Koszul複体 の定理「正則列のKoszulホモロジー」と節「自由解像度とTorの計算」:$x_1,\dots,x_d$ が $A$ 正則列なら、Koszul 複体 $K(\boldsymbol x;A)$ は $A/(\boldsymbol x)$ の自由分解であり、任意の $A$ 加群 $M$ について $\operatorname{Tor}_q^A(A/(\boldsymbol x),M)\cong H_q(\boldsymbol x;M)$ である。列が $M$ 正則列なら $q>0$ で $H_q(\boldsymbol x;M)=0$ である。
  • 局所平坦性判定 の系「有限加群についての局所平坦性判定」:Noether局所環の局所準同型 $A\to B$ について、$\operatorname{Tor}_1^A(k,B)=0$ なら $B$ は $A$ 上平坦である($M=B$、$I=\mathfrak m$ とし、$B/\mathfrak mB$ が体 $k$ 上平坦であることを使う)。

正則な底の上の平坦性と正則列

奇跡的平坦性の証明の大部分は、底が正則なら平坦性が「正則パラメータ系を $B$ に移しても正則列のまま」という条件に言い換えられる、という次の命題にある。ここでは $B$ の Cohen–Macaulay 性を仮定しない。

正則な底の上の平坦性の判定

$(A,\mathfrak m,k)$ を $d$ 次元の正則局所環、$(B,\mathfrak n)$ を Noether局所環、$\varphi\colon A\to B$ を局所準同型とする。次は同値である。

  1. $B$ は $A$ 上平坦である。
  2. $A$ の任意の正則パラメータ系 $x_1,\dots,x_d$ について、その像は $B$ 正則列である。
  3. $A$ のある正則パラメータ系 $x_1,\dots,x_d$ について、その像は $B$ 正則列である。
  4. すべての $i\ge1$ について $\operatorname{Tor}_i^A(k,B)=0$ である。

1 ⇒ 2. $x_1,\dots,x_d$ を正則パラメータ系とし、$J_i=(x_1,\dots,x_{i-1})A$ とおく。$x_1,\dots,x_d$ は $A$ 正則列なので、$x_i$ の掛け算 $A/J_i\to A/J_i$ は単射である。$B$ が平坦なので、これに $-\otimes_AB$ を施した写像も単射であり、$(A/J_i)\otimes_AB=B/J_iB$ だから、$x_i$ の掛け算 $B/J_iB\to B/J_iB$ は単射である。最後の商は $B/(\boldsymbol x)B=B/\mathfrak mB\ne0$ である。よって像は $B$ 正則列である。
2 ⇒ 3. $\dim_k\mathfrak m/\mathfrak m^2=d$ なので、Nakayamaの補題 により $\mathfrak m$ は $d$ 個の元で生成され、正則パラメータ系が存在する。
3 ⇒ 4. $\boldsymbol x=(x_1,\dots,x_d)$ は $A$ 正則列で、$(\boldsymbol x)=\mathfrak m$ だから $A/(\boldsymbol x)=k$ である。Koszul 複体 $K(\boldsymbol x;A)$ は $k$ の自由分解なので、$B$ を $A$ 加群とみて
$$ \operatorname{Tor}_i^A(k,B)\cong H_i(\boldsymbol x;B) $$
を得る。右辺の複体 $K(\boldsymbol x;A)\otimes_AB=K(\boldsymbol x;B)$ の微分は $x_j$ の像を掛ける写像であり、仮定から $\boldsymbol x$ の像は $B$ 正則列なので、$i>0$ で $H_i(\boldsymbol x;B)=0$ である。
4 ⇒ 1. $i=1$ の場合を 局所平坦性判定 の系「有限加群についての局所平坦性判定」に使えばよい。$B$ は有限生成 $B$ 加群($B$ 自身)であり、$\mathfrak mB\subset\mathfrak n$ である。$A$ 上有限生成である必要はない。$\square$

2 と 3 の同値は、底が正則なら正則パラメータ系の選び方によらないことを意味する。また 4 で $\operatorname{Tor}$ がすべて消えることは 1 から直接にも分かる(平坦加群との $\operatorname{Tor}$ は消える)が、ここでは 3 から計算した。

主定理

奇跡的平坦性

$(A,\mathfrak m,k)$ を正則局所環、$(B,\mathfrak n)$ を Cohen–Macaulay な Noether局所環、$\varphi\colon A\to B$ を局所準同型とし、$F=B/\mathfrak mB$ をその閉ファイバーとする。このとき
$$ \dim B=\dim A+\dim F $$
が成り立つことと、$B$ が $A$ 上平坦であることは同値である。

平坦なら等式が成り立つことは、平坦局所準同型の次元公式と深さ公式 の定理「平坦局所準同型の次元公式と深さ公式」である(この向きには正則性も Cohen–Macaulay 性も要らない)。
逆を示す。$d=\dim A$ とし、等式 $\dim F=\dim B-d$ を仮定する。$x_1,\dots,x_d$ を $A$ の正則パラメータ系とする。$(x_1,\dots,x_d)A=\mathfrak m$ なので $(x_1,\dots,x_d)B=\mathfrak mB$ であり、
$$ \dim B/(x_1,\dots,x_d)B=\dim F=\dim B-d $$
となる。特に $d\le\dim B$ である。$B$ は Cohen–Macaulay なので、Cohen–Macaulay環 の定理「パラメータ系による判定」の後半($c=d$ の場合)により、$x_1,\dots,x_d$ の像は $B$ 正則列である。よって prop-mf-regular-sequence の 3 ⇒ 1 により、$B$ は $A$ 上平坦である。$\square$

仮定の使われ方を整理しておく。

  • Cohen–Macaulay 性は、「$B$ を $d$ 個の元で割ると次元がちょうど $d$ 下がる」という数の情報を、「その $d$ 個が $B$ 正則列である」という代数の情報に変えるところだけで使う。
  • 底の正則性は、極大イデアル $\mathfrak m$ 全体が $d$ 個の $A$ 正則列で生成されることとして使う。これにより、閉ファイバー $F$ を $d$ 個の元で切った商として表せ、Koszul 複体で $\operatorname{Tor}_1^A(k,B)$ を計算できる。
  • 次元の等式は、その $d$ 個の元の像が $B$ のパラメータ系の一部になることを保証する。
    どれか一つを外すと結論は成り立たない(節「仮定を外した反例」)。
閉ファイバーの Cohen–Macaulay 性

thm-mf-main の仮定と次元の等式のもとで、閉ファイバー $F$ は Cohen–Macaulay 環であり、$A$ の任意の正則パラメータ系の像は $B$ 正則列である。

定理により $B$ は平坦なので、prop-mf-regular-sequence の 1 ⇒ 2 から後半を得る。$F=B/(x_1,\dots,x_d)B$ は Cohen–Macaulay 環を正則列で割った商なので、Cohen–Macaulay環 の補題「正則元による深さ降下と CM 商」を $d$ 回使って Cohen–Macaulay である。$\square$

逆向きの情報として、平坦な局所準同型 $A\to B$ では「$B$ が Cohen–Macaulay」と「$A$ と $F$ がともに Cohen–Macaulay」が同値である(平坦局所準同型の次元公式と深さ公式 の系「Cohen–Macaulay性の上昇と下降」)。正則局所環は Cohen–Macaulay なので、底が正則で平坦なら、$B$ が Cohen–Macaulay であることと閉ファイバーが Cohen–Macaulay であることは同値になる。

スキームの射での形

スキームの射 $f\colon X\to Y$ が点 $x$ で平坦であるとは、局所環の準同型 $\mathcal O_{Y,f(x)}\to\mathcal O_{X,x}$ が平坦であることをいう(平坦射 の定義「スキームの平坦射」)。$y=f(x)$ の上のファイバー $X_y=X\times_Y\operatorname{Spec}\kappa(y)$(スキームのファイバー)を考える。

奇跡的平坦性のスキーム版

$f\colon X\to Y$ を局所 Noether スキームの射、$x\in X$、$y=f(x)$ とする。$\mathcal O_{Y,y}$ が正則局所環で、$\mathcal O_{X,x}$ が Cohen–Macaulay なら、$f$ が $x$ で平坦であることと
$$ \dim\mathcal O_{X,x}=\dim\mathcal O_{Y,y}+\dim\mathcal O_{X_y,x} $$
は同値である。

$\mathcal O_{X_y,x}\cong\mathcal O_{X,x}/\mathfrak m_y\mathcal O_{X,x}$ を示せば、右辺は局所準同型 $\mathcal O_{Y,y}\to\mathcal O_{X,x}$ の閉ファイバーなので、thm-mf-main から従う。$y$ のアフィン近傍 $\operatorname{Spec}R$ と $x$ のアフィン近傍 $\operatorname{Spec}S\subset f^{-1}(\operatorname{Spec}R)$ をとり、$x,y$ を素イデアル $\mathfrak q\subset S$、$\mathfrak p\subset R$ とみると、ファイバーの $x$ の近傍は $\operatorname{Spec}(S\otimes_R\kappa(\mathfrak p))$ で、その $x$ での局所環は $S_{\mathfrak q}/\mathfrak pS_{\mathfrak q}$ である(局所化と剰余をとる操作は交換する)。$\square$

体の上の有限型のスキームでは、閉点だけを調べればよい。

閉点での判定

$k$ を体、$f\colon X\to Y$ を $k$ 上局所有限型のスキームの間の $k$ 上の射とする。$X$ のすべての閉点 $x$ について、$y=f(x)$ として、$\mathcal O_{Y,y}$ が正則局所環、$\mathcal O_{X,x}$ が Cohen–Macaulay で、thm-mf-scheme の次元の等式が成り立つとする。このとき $f$ は平坦射である。

要点:アフィン開集合 $U=\operatorname{Spec}S$ の極大イデアルは $X$ の閉点なので、そこでの平坦性から $S$ 全体の平坦性が従う。

詳しい証明を開く

$X$ と $Y$ は局所 Noether である。$Y$ のアフィン開集合 $V=\operatorname{Spec}R$ と、アフィン開集合 $U=\operatorname{Spec}S\subset f^{-1}(V)$ をとる。このような $U$ は $X$ を覆うので、$f|_U\colon U\to V$ が平坦であることを示せばよい。

$S$ の極大イデアル $\mathfrak n$ は $U$ の閉点である。$U$ も $k$ 上局所有限型なので、閉点 の定理「有限型スキームにおける閉点の稠密性」により剰余体 $\kappa(\mathfrak n)$ は $k$ の有限次拡大であり、同じ定理を $X$ に使うと、$\mathfrak n$ は $X$ の閉点である。仮定と thm-mf-scheme により、$\mathfrak p=\mathfrak n\cap R$ として $R_{\mathfrak p}\to S_{\mathfrak n}$ は平坦である。これがすべての極大イデアルで成り立つので、平坦射 の命題「平坦性の局所性」の 3 ⇒ 1 により $S$ は $R$ 上平坦であり、同じ命題の後半により $f|_U$ は平坦射である。$\square$

既約な多様体での読み方

$X$、$Y$ が $k$ 上有限型の既約なスキームで、$Y$ が正則、$X$ が Cohen–Macaulay、$\dim X=m$、$\dim Y=n$ とする。閉点 $x$ では $\dim\mathcal O_{X,x}=m$、$\dim\mathcal O_{Y,f(x)}=n$ であり($f(x)$ も閉点で、体上有限型の整域の高さ公式による。平坦射 の定理「ファイバーの次元」の証明と同じ計算)、平坦性なしでも $\dim\mathcal O_{X_y,x}\ge m-n$ である(平坦局所準同型の次元公式と深さ公式 の命題「次元の上界」)。一方 $\dim\mathcal O_{X_y,x}\le\dim X_y$ である。従って、閉点 $y$ の上のファイバーがすべて空か $m-n$ 次元なら、閉点 $x$ で $\dim\mathcal O_{X_y,x}=m-n$ となって cor-mf-closed-points の仮定がみたされ、$f$ は平坦である。この形は Mat89 の Theorem 23.1 の系(p. 179)にある。

例

正則局所環上の有限な拡大の自由性

$(A,\mathfrak m,k)$ を正則局所環、$A\subset B$ を部分環とし、$B$ は Noether局所環で、$A$ 加群として有限生成であるとする。このとき、$B$ が Cohen–Macaulay であることと、$B$ が自由 $A$ 加群であることは同値である。

要点:有限な拡大では次元が等しく閉ファイバーは $0$ 次元なので、次元の等式は自動的に成り立つ。あとは主定理と、平坦な有限生成加群が自由であることを使う。

詳しい証明を開く

$B$ は $A$ 上有限なので整拡大である(整拡大 の定理「有限生成な加群による判定」)。$B$ の極大イデアル $\mathfrak n$ について $\mathfrak n\cap A$ は極大イデアルなので(整拡大 の系「極大イデアルの縮約」)$\mathfrak n\cap A=\mathfrak m$ であり、包含 $A\to B$ は局所準同型である。整拡大では次元が変わらないので(上昇定理 の系「整拡大では次元が変わらない」)$\dim B=\dim A$ である。閉ファイバー $F=B/\mathfrak mB$ は有限次元の $k$ ベクトル空間なので、その素イデアル $\mathfrak q$ について $F/\mathfrak q$ は $k$ 上有限次元の整域、すなわち体であり、$\dim F=0$ である。よって次元の等式 $\dim B=\dim A+\dim F$ が成り立つ。

$B$ が Cohen–Macaulay なら、thm-mf-main により $B$ は $A$ 上平坦であり、Noether局所環上の有限生成平坦加群は自由なので(平坦加群 の定理「有限表示の平坦加群と局所環」)、$B$ は自由 $A$ 加群である。逆に $B$ が自由なら平坦であり、$A$ は Cohen–Macaulay、$F$ は $0$ 次元なので Cohen–Macaulay である(Cohen–Macaulay環 の系「次元0と1のCM性」)。平坦局所準同型の次元公式と深さ公式 の系「Cohen–Macaulay性の上昇と下降」により $B$ は Cohen–Macaulay である。$\square$

このとき $B$ の $A$ 上の階数は $\dim_kB/\mathfrak mB$ に等しい。Cohen–Macaulay 性という $B$ だけの性質が、$A$ 上の加群としての自由性という相対的な性質と一致する点がこの命題の要である。後の ex-mf-cusp と ex-mf-two-planes は、それぞれ底の正則性と $B$ の Cohen–Macaulay 性が欠けたために自由性(平坦性)が失われる例である。
次は超曲面の族の場合である。体 $k$ と多項式環 $P=k[t_1,\dots,t_m,x_1,\dots,x_n]$ をとる。$\mathbb A^m_k=\operatorname{Spec}k[t_1,\dots,t_m]$ の閉点 $y$ について、$g\in P$ の係数($t$ の多項式)を剰余体 $\kappa(y)$ に移したものを $g_y\in\kappa(y)[x_1,\dots,x_n]$ と書く。$X=\operatorname{Spec}P/(g)$ の $y$ の上のファイバーは $\operatorname{Spec}\kappa(y)[x_1,\dots,x_n]/(g_y)$ である。

超曲面の族の平坦性

$g\in P$ を $0$ でない多項式、$X=\operatorname{Spec}P/(g)$、$f\colon X\to\mathbb A^m_k$ を $t$ 座標への射影とする。$f$ が平坦射であることと、$\mathbb A^m_k$ のすべての閉点 $y$ で $g_y\ne0$ であることは同値である。

要点:閉点 $x$ では $\dim\mathcal O_{X,x}=n+m-1$、$\dim\mathcal O_{Y,f(x)}=m$ で、ファイバーの局所環の次元は $g_{f(x)}\ne0$ なら $n-1$、$g_{f(x)}=0$ なら $n$ である。前者なら cor-mf-closed-points で平坦、後者なら次元の等式が破れて平坦でない。

詳しい証明を開く

$X$ の閉点 $x$ は $g$ を含む $P$ の極大イデアル $M$ に対応する。$P_M$ は $n+m$ 次元の正則局所環であり($\mathbb A^{n+m}_k$ は正則スキームである。正則スキーム の例「正則スキームの例」の 2。次元は 次元公式 の補題「多項式環の全極大イデアルの高さ」)、特に整域である。$g$ は $P_M$ の $0$ でない非単元なので零因子でなく、正則局所環 の定理「正則元による商の次元」により$$\dim\mathcal O_{X,x}=\dim P_M/gP_M=n+m-1$$である。また $P_M$ は Cohen–Macaulay なので、Cohen–Macaulay環 の補題「正則元による深さ降下と CM 商」により $\mathcal O_{X,x}$ は Cohen–Macaulay である。

$y=f(x)$ とする。閉点 の定理「有限型スキームにおける閉点の稠密性」により $\kappa(x)$ は $k$ 上有限次であり、$\kappa(y)\subset\kappa(x)$ も $k$ 上有限次なので $y$ は閉点である。同じ理由で $\mathcal O_{Y,y}$($Y=\mathbb A^m_k$)は $m$ 次元の正則局所環である。$x$ はファイバー $X_y$ の点で、$\kappa(x)$ は $\kappa(y)$ 上有限次なので $X_y$ の閉点であり、$\mathcal O_{X_y,x}$ は $\kappa(y)[x_1,\dots,x_n]$ の極大イデアル $M'$ での局所化($n$ 次元の整域)を $g_y$ で割ったものである。

$g_y\ne0$ なら、$g_y\in M'$ は零因子でない非単元なので $\dim\mathcal O_{X_y,x}=n-1$ であり、$n+m-1=m+(n-1)$ となって thm-mf-scheme の等式が成り立つ。これがすべての閉点で成り立てば、cor-mf-closed-points により $f$ は平坦である。

逆に、ある閉点 $y$ で $g_y=0$ なら、$X_y=\mathbb A^n_{\kappa(y)}$ は空でない。その閉点 $x$ は $X$ の閉点であり(剰余体が $k$ 上有限次)、$\dim\mathcal O_{X_y,x}=n$ である。$\dim\mathcal O_{X,x}=n+m-1< m+n$ なので次元の等式が成り立たず、$f$ は $x$ で平坦でない(平坦局所準同型の次元公式と深さ公式 の主定理)。$\square$

三つの族

$m=1$ とし、$t$ を底の座標とする。

  1. $g=uv-t$($n=2$、変数 $u,v$)。$g_c=uv-c$ は $c$ によらず $0$ でないので、族 $uv=t$ は平坦である。双曲線 $uv=c$ が $c=0$ で 2 本の直線に退化するが、平坦性は保たれる。これは 平坦射 の例「平坦族の例:$xy=t$」と同じ結論を、基底を書かずに得たものである。
  2. $g=tu$($n=1$、変数 $u$)。$X$ は $tu=0$、すなわち底の直線と $t=0$ の上の直線の和で、$g_0=0$ なので $f$ は平坦でない。$t=0$ の上だけファイバーが $1$ 次元になる。平坦射 の例「反例:$xy=0$ から $x$ 軸への射影」と同じ状況である。
  3. $g=tu-1$($n=1$、変数 $u$)。$g_0=-1\ne0$ なので平坦である。$t=0$ の上のファイバーは空であり、prop-mf-hypersurface はファイバーが空になることを妨げない。$X\cong\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]$ で、$f$ は開埋め込みである。

仮定を外した反例

以下 $k$ は体とする。三つの例は、thm-mf-main の三つの仮定(次元の等式、底の正則性、$B$ の Cohen–Macaulay 性)のうち一つだけを外し、残りの二つをみたす。

次元の等式を外す:爆発の座標近傍

$A=k[x,y]_{(x,y)}$、$B=k[x,z]_{(x,z)}$、$\varphi(x)=x$、$\varphi(y)=xz$ とする(平坦局所準同型の次元公式と深さ公式 の例「平坦でない局所準同型」と同じもの)。$A$ も $B$ も $2$ 次元の正則局所環で、$B$ は Cohen–Macaulay である。閉ファイバーは $F=B/xB\cong k[z]_{(z)}$ で $\dim F=1$ なので、$\dim B=2<3=\dim A+\dim F$ である。
prop-mf-regular-sequence で平坦でないことを直接確かめられる。正則パラメータ系 $x,y$ の像は $x,xz$ である。$B/xB$ の上で $xz$ の掛け算は $0$ であり、$B/xB\ne0$ なので単射でない。よって $x,xz$ は $B$ 正則列でなく、$B$ は $A$ 上平坦でない。

底の正則性を外す:尖点の正規化

$A=k[x,y]_{(x,y)}/(y^2-x^3)$、$B=k[t]_{(t)}$ とし、$\varphi(x)=t^2$、$\varphi(y)=t^3$ で定まる準同型を考える($y^2-x^3$ は $0$ に移り、$(x,y)$ に入らない多項式は定数項が $0$ でないので $B$ の単元に移る)。$\varphi$ は局所準同型である。$A$ は $1$ 次元の Noether局所整域で、$\mathfrak m=(x,y)A$ について $\mathfrak m/\mathfrak m^2$ は $\bar x,\bar y$ を基底とする $2$ 次元の $k$ ベクトル空間であり、正則局所環でない(正則局所環 の例「反例:尖点の局所環」)。$B$ は離散付値環なので正則、特に Cohen–Macaulay である。閉ファイバーは $F=B/(t^2,t^3)B=B/t^2B\cong k[t]/(t^2)$ で $\dim F=0$ なので、次元の等式 $1=1+0$ は成り立つ。
$B$ は $A$ 上平坦でない。元 $x\otimes t-y\otimes1\in\mathfrak m\otimes_AB$ が $0$ でないのに $B$ では $0$ に移ることで分かる。

平坦でないことの確認を開く

$B$ は $A$ 上平坦でない。平坦なら、包含 $\mathfrak m\to A$ に $-\otimes_AB$ を施した写像 $\mathfrak m\otimes_AB\to B$ は単射である。元 $\xi=x\otimes t-y\otimes1$ はこの写像で $t^2\cdot t-t^3=0$ に移る。一方、全射 $\mathfrak m\to\mathfrak m/\mathfrak m^2$ と $B\to B/\mathfrak n=k$ が誘導する写像$$\mathfrak m\otimes_AB\longrightarrow(\mathfrak m/\mathfrak m^2)\otimes_Ak=\mathfrak m/\mathfrak m^2$$で、$\xi$ は $\bar x\otimes\bar t-\bar y\otimes\bar1=-\bar y\otimes\bar1$ に移り($t\in\mathfrak n$ なので $\bar t=0$)、これは右辺の $-\bar y\ne0$ に当たる。よって $\xi\ne0$ であり、単射性に反する。

Cohen–Macaulay性を外す:一点で交わる二つの平面

$R=k[x,y,z,w]/I$、$I=(x,y)\cap(z,w)=(xz,xw,yz,yw)$ とし、$B=R_N$($N=(x,y,z,w)$)を $\mathbb A^4_k$ の二つの平面 $x=y=0$ と $z=w=0$ の和の原点での局所環とする。$A=k[a,b]_{(a,b)}$ から $\varphi(a)=x+z$、$\varphi(b)=y+w$ で局所準同型を定める。$A$ は $2$ 次元の正則局所環である。$B$ は被約で、極小素イデアルは $(x,y)$ と $(z,w)$ であり、どちらで割っても $2$ 次元の正則局所環になるので $\dim B=2$ である。閉ファイバーは $z=-x$、$w=-y$ を代入して
$$ F=B/(a,b)B\cong\bigl(k[x,y]/(x^2,xy,y^2)\bigr)_{(x,y)} $$
で $\dim F=0$ なので、次元の等式 $2=2+0$ は成り立つ。
$a,b$ の像は $B$ 正則列でない($b$ は $B/aB$ の零因子である)ので、prop-mf-regular-sequence の 1 ⇒ 2 により $B$ は $A$ 上平坦でない。底は正則で次元の等式も成り立つので、thm-mf-main から $B$ は Cohen–Macaulay でないことも分かる。

正則列でないことの確認を開く

$a,b$ の像は $B$ 正則列でない。$a=x+z$ はどちらの極小素イデアルにも入らず、Noether 環の零因子の全体は随伴素イデアルの和集合であり(随伴素イデアル の定理「零因子を検出する和集合」)、被約な Noether 環の随伴素イデアルは極小素イデアルに限るので(Cohen–Macaulay環 の命題「被約なネーター環には埋込素がない」)、$a$ は零因子でない。しかし $z=-x$ を代入すると$$B/aB\cong\bigl(k[x,y,w]/(x^2,xy,xw,yw)\bigr)_{(x,y,w)}$$であり、$b=y+w$ について $b\cdot x=xy+xw=0$ である。ここで $x\ne0$ である。実際、$x/1=0$ なら定数項 $c\ne0$ の多項式 $s$ で $sx\in(x^2,xy,xw,yw)$ となるが、$sx$ の $1$ 次の部分 $cx$ は $2$ 次の単項式で生成されたイデアルに入らない。よって $b$ は $B/aB$ の零因子である。

外す条件反例成り立たなくなること
次元の等式 $\dim B=\dim A+\dim F$ex-mf-blowup:$k[x,y]_{(x,y)}\to k[x,z]_{(x,z)}$、$y\mapsto xz$($A$、$B$ は正則)平坦性。正則パラメータ系の像が $B$ 正則列でない
底 $A$ が正則局所環ex-mf-cusp:尖点の局所環から $k[t]_{(t)}$ へ($B$ は正則、次元の等式は成立)平坦性。$\mathfrak m\otimes_AB\to B$ が単射でない
$B$ が Cohen–Macaulayex-mf-two-planes:$k[a,b]_{(a,b)}$ から二つの平面の和の局所環へ($A$ は正則、次元の等式は成立)平坦性。正則パラメータ系の像が $B$ 正則列でない

三つ目の例では、$B$ が平坦でないことと Cohen–Macaulay でないことが同時に分かる。逆に言えば、底が正則で次元の等式が成り立つ局所準同型では、平坦性の破れは $B$ の Cohen–Macaulay 性の破れを意味する。

補足

文献と証明の比較

thm-mf-main の平坦性を導く向きは Mat89 Theorem 23.1(p. 179)にあり、スキームの射の形(rem-mf-irreducible の形)は同じ頁の系である。同書の証明は $\dim A$ に関する帰納法で、$x\in\mathfrak m\setminus\mathfrak m^2$ で割って次元を一つずつ下げ、局所平坦性判定(同書 Theorem 22.3)を各段で使う。この記事では、正則パラメータ系の全体を一度に $B$ に移し、Koszul 複体で $\operatorname{Tor}_1^A(k,B)$ を計算する形にまとめた(prop-mf-regular-sequence)。同じ主張は StacksMF Lemma 10.128.1 にもある。

この定理は、平坦性の判定のうち「次元を数える」型の代表である。底が正則でない場合や $B$ が Cohen–Macaulay でない場合には次元だけでは判定できず、局所平坦性判定 のように $\operatorname{Tor}_1$ やイデアルとのテンソル積を調べる判定法を使う。底が Noether 整域のアフィンスキームで射が有限型の場合には、底のある空でない開集合の上では射が平坦になる(一般自由性定理)。奇跡的平坦性は、平坦性がどこで破れうるかを、ファイバーの次元の跳ね上がりで見分ける道具になる。

関連項目

参考文献

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