素モデルと原子モデル

同義語:素モデル原子モデルprime modelatomic model

概要

素モデルと原子モデル(prime model and atomic model)とは、完全な理論のモデルのうち、どのモデルにも初等的に埋め込めるもの(素モデル)と、どの元の組の型も孤立しているもの(原子モデル)である。可算言語の完全な理論では、素モデルとは可算な原子モデルのことで、同型を除いてただ 1 つに決まる。素モデルがあることは孤立した型が型の空間で稠密であることと同値で、型が可算個しかない理論はいつも素モデルをもつ。代数的数の体は標数 0 の代数閉体の理論の素モデルであり、互いに独立な 1 項述語を可算個もつ理論は素モデルをもたない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 型(モデル理論), 省略型定理, 初等部分モデル, 完全な理論

完全な理論 $T$ の 素モデル(prime model)とは、$T$ のどのモデルにも初等的に埋め込めるモデル、つまり $T$ のモデルの中で「いちばん小さい」モデルである。たとえば代数的数の全体 $\overline{\mathbb Q}$ は、標数 $0$ の代数閉体の理論の素モデルである。一方 原子モデル(atomic model)とは、どの元の組の型も 1 つの論理式で決まってしまう(孤立している)モデルである。素モデルは「どこへでも写せる」という外からの性質で、原子モデルは「元の組がどれも 1 つの論理式で記述できる」という内側の性質であり、一見別の概念である。
可算言語の完全な理論では、この 2 つが一致する。素モデルとは可算な原子モデルのことであり、それは同型を除いてただ 1 つに決まる。さらに素モデルがあるための条件は、孤立した型が十分に多いこと(型の空間で稠密であること)として理論の側だけで書け、型が可算個しかない理論はいつもこの条件を満たす。これらの結果は、可算モデルの個数を調べた Vaught の研究にさかのぼる(Mor65 p. 530 の脚注、PT25 §1)。この記事ではこれらをすべて証明し、例として稠密な線形順序・整数の順序・標数 $0$ の代数閉体の素モデルを求め、素モデルをもたない完全な理論を構成する。

定義

以下この記事を通じて、$L$ は可算な一階言語、$T$ は無限のモデルをもつ $L$ の 完全な理論 とする。$T$ が完全なので、各 $k$ について「少なくとも $k$ 個の元がある」という文が $T$ に属し、$T$ のモデルはすべて無限である。初等部分モデル の定理「下向き Löwenheim–Skolem の定理」により、$T$ は可算無限なモデルをもつ。型・実現・省略・型の空間 $S_n(T)$・孤立の意味は 型(モデル理論) の定義「型」「実現と省略」「型の空間」「孤立した型」のとおりとし、$M\models T$、$\bar a\in M^n$ について $\bar a$ の型を $\operatorname{tp}^M(\bar a)$ と書く。$L$ の論理式 $\varphi(\bar x)$ が $T$ と無矛盾 であるとは、$T\cup\{\exists\bar x\,\varphi\}$ が充足可能であることをいう。$T$ が完全なので、これは $\exists\bar x\,\varphi$ が $T$ のすべてのモデルで真であることと同じである。初等埋め込みは 初等埋め込み の定義「埋め込みと初等埋め込み」のとおりである。

素モデルと原子モデル
  1. $T$ のモデル $M$ が 素モデル であるとは、$T$ の任意のモデル $N$ について、初等埋め込み $M\to N$ が存在することをいう。
  2. $T$ のモデル $M$ が 原子モデル であるとは、任意の $n\ge1$ と $\bar a\in M^n$ について、$\operatorname{tp}^M(\bar a)$ が $T$ のもとで孤立していることをいう。
  3. $T$ で 孤立した型が稠密 であるとは、任意の $n\ge1$ と、$T$ と無矛盾な任意の論理式 $\varphi(x_1,\dots,x_n)$ について、$\varphi$ を含む孤立した完全型 $p\in S_n(T)$ が存在することをいう。

3 は、$S_n(T)$ の空でない基本開集合 $[\varphi]$ がどれも孤立点を含むこと、すなわち孤立点の全体が $S_n(T)$ で稠密であることと同じである(型(モデル理論) の命題「孤立した完全型と孤立点」により、孤立した完全型は $S_n(T)$ の孤立点と同じものである)。完全型 $p$ を孤立させる論理式 $\theta$ は必ず $p$ に属し(同命題)、$\theta$ を満たす組の型は $p$ に限られる。実際、$\theta\in q\in S_n(T)$ なら、$p$ の各元 $\psi$ について $T\models\forall\bar x\,(\theta\to\psi)$ なので $\psi\in q$ となり(型(モデル理論) の命題「型の基本性質」の 4)、$p\subset q$ と完全性から $p=q$ である。
型と孤立を使う議論では、型を保つ写像を次のように扱う。$M,N\models T$、$\bar a\in M^n$、$\bar b\in N^n$ について $\operatorname{tp}^M(\bar a)=\operatorname{tp}^N(\bar b)$ であるとき、$a_i\mapsto b_i$ は矛盾なく定まる単射であり(論理式 $x_i=x_j$ を見ればよい)、$\{a_1,\dots,a_n\}$ の元に関する論理式の真偽を保つ。$n=0$ の場合は、$M$ と $N$ が同じ文を満たすことを意味するものとし、$T$ が完全なのでこれはいつも成り立つ。

素モデルと原子モデルの最初の例
  1. 端点のない稠密な線形順序の理論 $\mathrm{DLO}$(量化記号消去 の定義「端点のない稠密な全順序の理論」)は完全で $\omega$-範疇的なので(カテゴリー性 の定理「Cantor の定理」)、Ryll-Nardzewskiの定理 の 1 ⇒ 3 により、どの $n$ についても $S_n(\mathrm{DLO})$ のすべての元が孤立している。したがって $\mathrm{DLO}$ のモデルはすべて原子モデルであり、$(\mathbb Q,<)$ も $(\mathbb R,<)$ も原子モデルである。$(\mathbb Q,<)$ は素モデルだが(後の thm-pam-atomic-prime)、$(\mathbb R,<)$ は素モデルでない。非可算な $\mathbb R$ から可算な $\mathbb Q$ への単射はないからである。
  2. 標数 $0$ の代数閉体の理論 $\mathrm{ACF}_0$ では、$\overline{\mathbb Q}$ が素モデルで、$\mathbb C$ は素モデルでも原子モデルでもない(後の ex-pam-acf)。

原子モデルと素モデルの関係

原子モデルの元は、孤立させる論理式を手がかりにして、ほかのモデルの中に 1 つずつ写し込める。これが次の補題で、この記事のほとんどの証明の中心である。

型を保つ対応を 1 元延ばす

$M$ を $T$ の原子モデル、$N$ を $T$ のモデルとし、$\bar a\in M^n$、$\bar b\in N^n$($n\ge0$)が $\operatorname{tp}^M(\bar a)=\operatorname{tp}^N(\bar b)$ を満たすとする。このとき、任意の $a\in M$ に対して $b\in N$ で $\operatorname{tp}^M(\bar a,a)=\operatorname{tp}^N(\bar b,b)$ となるものがある。

$M$ は原子モデルなので $\operatorname{tp}^M(\bar a,a)\in S_{n+1}(T)$ は孤立している。よって Ryll-Nardzewskiの定理 の補題「往復の一歩」がそのまま当てはまる。その証明の筋は次のとおりである。$\operatorname{tp}^M(\bar a,a)$ を孤立させる論理式 $\varphi(\bar x,y)$ は型に属するので、$\exists y\,\varphi(\bar x,y)$ が $\operatorname{tp}^M(\bar a)=\operatorname{tp}^N(\bar b)$ に属し($n=0$ なら $T$ の完全性により $N$ で真な文になり)、$N\models\varphi(\bar b,b)$ となる $b$ がとれる。$\varphi$ が孤立させるので、$\psi\in\operatorname{tp}^M(\bar a,a)$ なら $T\models\forall\bar x\,\forall y\,(\varphi\to\psi)$ から $N\models\psi(\bar b,b)$ であり、$\operatorname{tp}^M(\bar a,a)\subset\operatorname{tp}^N(\bar b,b)$ となる。両辺は完全型なので等しい。$\square$

可算な原子モデルは素モデル

$T$ の可算な原子モデルは素モデルである。

$M$ の元に番号を付け、lem-pam-extend で 1 元ずつ $N$ に写す。

詳細

$M$ を可算な原子モデル、$N$ を $T$ の任意のモデルとし、$M=\{a_0,a_1,a_2,\dots\}$ と番号を付ける。$k$ についての帰納法で $b_0,b_1,\dots\in N$ を、各 $k$ について $\operatorname{tp}^M(a_0,\dots,a_{k-1})=\operatorname{tp}^N(b_0,\dots,b_{k-1})$ となるように選ぶ。$k=0$ では $T$ の完全性から成り立ち、$k$ から $k+1$ へは lem-pam-extend を $a=a_k$ に当てればよい。

$j(a_k):=b_k$ と定める。$a_k=a_l$ なら論理式 $x_k=x_l$ が型に属するので $b_k=b_l$ であり、$j$ は矛盾なく定まる。$L$ の論理式 $\psi(x_1,\dots,x_m)$ と $M$ の元 $a_{k_1},\dots,a_{k_m}$ について、$k>\max k_i$ をとると、$\operatorname{tp}^M(a_0,\dots,a_{k-1})=\operatorname{tp}^N(b_0,\dots,b_{k-1})$ から $M\models\psi(a_{k_1},\dots,a_{k_m})\iff N\models\psi(b_{k_1},\dots,b_{k_m})$ である。よって $j$ は初等埋め込みである。$\square$

逆向きには 省略型定理 を使う。

素モデルは可算な原子モデル

$T$ の素モデルは可算な原子モデルである。

可算性は可算なモデルへの埋め込みから、原子性は孤立していない型を省略するモデルへの埋め込みから従う。

詳細

$M$ を素モデルとする。$T$ の可算なモデル $N_0$ をとると、初等埋め込み $M\to N_0$ がある。埋め込みは単射なので $M$ は可算である。

$\bar a\in M^n$ について $p:=\operatorname{tp}^M(\bar a)$ が孤立していないと仮定する。省略型定理 の定理「省略型定理」($p_i:=p$ とする)により、$p$ を省略する $T$ のモデル $N$ がある。初等埋め込み $j\colon M\to N$ をとると、$\operatorname{tp}^N(j(\bar a))=\operatorname{tp}^M(\bar a)=p$ となり、$N$ が $p$ を実現してしまう。これは矛盾なので、$p$ は孤立している。$\square$

2 つの定理を合わせると、$T$ の素モデルとは $T$ の可算な原子モデルのことである。可算性の条件は外せない。ex-pam-first の 1 の $(\mathbb R,<)$ は原子モデルだが素モデルでない。
可算な原子モデルどうしでは、lem-pam-extend を両側から使う往復の議論ができる。

可算な原子モデルの一意性

$T$ の可算な原子モデル $M,N$ は同型である。したがって、$T$ の素モデルは存在すれば同型を除いてただ 1 つである。

prf-pam-atomic-prime の構成を、$M$ の元と $N$ の元を交互に加えながら行う。

詳細

$M=\{a_0,a_1,\dots\}$、$N=\{b_0,b_1,\dots\}$ と番号を付ける。有限列 $\bar c\in M^k$、$\bar d\in N^k$ で $\operatorname{tp}^M(\bar c)=\operatorname{tp}^N(\bar d)$ を満たすものを、空の列から始めて次のように延ばす。偶数回目の段では、$M$ の元のうち $\bar c$ に現れない番号最小の $a_i$ をとり、lem-pam-extend($M$ が原子モデル)で $d\in N$ を選んで $(\bar c,a_i)$、$(\bar d,d)$ にする。奇数回目の段では、$N$ の元のうち $\bar d$ に現れない番号最小の $b_i$ をとり、$M$ と $N$ の役割を入れ替えた lem-pam-extend($N$ が原子モデル。型が等しいという条件は対称である)で $c\in M$ を選ぶ。

こうして得られる無限列 $(c_k)$、$(d_k)$ について、$c_k\mapsto d_k$ は prf-pam-atomic-prime と同じ理由で矛盾なく定まる初等埋め込みである。偶数回目の段により $M$ のすべての元が $c_k$ に現れ、奇数回目の段により $N$ のすべての元が $d_k$ に現れるので、この写像は全単射である。全単射な初等埋め込みは同型写像である(初等埋め込み の定義のあとの説明)。後半は、thm-pam-prime-atomic により素モデルは可算な原子モデルだからである。$\square$

この往復は カテゴリー性 の記事の定理「Cantor の定理」の証明と同じ形をしていて、そこで「隙間に元を選ぶ」段が、ここでは孤立させる論理式の証人を選ぶ段に置き換わっている。Ryll-Nardzewskiの定理 の 3 ⇒ 1 の証明も同じ議論である。

素モデルの存在

素モデルがあるかどうかは、モデルを作らずに型の空間だけで判定できる。

素モデルの存在の判定法

$T$ が素モデルをもつことと、$T$ で孤立した型が稠密であることは同値である。

必要性は素モデルの中で論理式の証人をとればよい。十分性は「孤立した型を実現しない」という型を作り、省略型定理 でそれを省略する。

詳細

必要性. $M$ を素モデルとし、$\varphi(\bar x)$ を $T$ と無矛盾な論理式とする。$T$ が完全なので $M\models\exists\bar x\,\varphi$ であり、$M\models\varphi(\bar a)$ となる $\bar a$ がある。thm-pam-prime-atomic により $\operatorname{tp}^M(\bar a)$ は孤立していて、$\varphi$ を含む。

十分性. $n\ge1$ ごとに、完全型 $q\in S_n(T)$ を孤立させる論理式 $\theta(x_1,\dots,x_n)$ の全体を $\Theta_n$ とし、$\Sigma_n(\bar x):=\{\lnot\theta\mid\theta\in\Theta_n\}$ とおく。$\Sigma_n$ が $T$ のもとで孤立していないことを示す。論理式 $\varphi(\bar x)$ が $\Sigma_n$ を孤立させたとすると、$\varphi$ は $T$ と無矛盾なので、稠密性により $\varphi$ を含む孤立した完全型 $p$ があり、$p$ を孤立させる $\theta$ は $p$ に属する。$\theta\in\Theta_n$ なので $T\models\forall\bar x\,(\varphi\to\lnot\theta)$ であるが、$\varphi,\theta\in p$ で $p$ はあるモデルの組で実現されるので(型(モデル理論) の命題「型の基本性質」の 2)、$\varphi\land\theta$ を満たす組がある。これは矛盾である。

$L$ は可算なので、省略型定理 の定理「省略型定理」を $\Sigma_1,\Sigma_2,\dots$ に当てると、これらをすべて省略する $T$ の高々可算なモデル $M$ がある。$T$ のモデルは無限なので $M$ は可算無限である。$\bar a\in M^n$ は $\Sigma_n$ を実現しないので、ある $\theta\in\Theta_n$ について $M\models\theta(\bar a)$ である。$\theta$ が孤立させる完全型を $q$ とすると、「定義」の節の注意により $\operatorname{tp}^M(\bar a)=q$ であり、これは孤立している。よって $M$ は可算な原子モデルで、thm-pam-atomic-prime により素モデルである。$\square$

稠密性を確かめるには、型の個数を数えればよいことが多い。$L$ が可算なので $L$ の論理式は可算個で、$S_n(T)$ の濃度は $2^{\aleph_0}$ 以下である。

型が可算個なら素モデルがある

各 $n\ge1$ について $S_n(T)$ が可算ならば、$T$ で孤立した型は稠密であり、したがって $T$ は素モデルをもつ。より詳しく、$T$ と無矛盾な論理式 $\varphi(x_1,\dots,x_n)$ を含む孤立した完全型がなければ、$\varphi$ を含む完全型は $2^{\aleph_0}$ 個ある。

孤立した型がないところでは論理式をいつまでも 2 つに分けられるので、2 分木の枝の数だけ型ができる。

詳細

$\varphi$ を含む孤立した完全型がないとする。$T$ と無矛盾で $T\models\forall\bar x\,(\psi\to\varphi)$ を満たす論理式 $\psi(\bar x)$ には、$\psi\land\chi$ と $\psi\land\lnot\chi$ がどちらも $T$ と無矛盾になる論理式 $\chi(\bar x)$ があることを示す。そのような $\chi$ がないとすると、各 $\chi$ について $\psi\land\lnot\chi$ か $\psi\land\chi$ の一方は $T$ と矛盾し、それぞれ $T\models\forall\bar x\,(\psi\to\chi)$、$T\models\forall\bar x\,(\psi\to\lnot\chi)$ を意味する。よって $p:=\{\chi\mid T\models\forall\bar x\,(\psi\to\chi)\}$ は各 $\chi$ かその否定を含み、$\psi$ を実現する組で実現されるので $T$ の完全型である。$\psi$ は $p$ を孤立させ、$\varphi\in p$ なので、仮定に反する。

有限の 0・1 列 $s$ ごとに論理式 $\varphi_s$ を、$\varphi_\emptyset:=\varphi$ とし、$\varphi_s$ に対して上の $\chi$ を 1 つ選んで $\varphi_{s0}:=\varphi_s\land\chi$、$\varphi_{s1}:=\varphi_s\land\lnot\chi$ と定める。どの $\varphi_s$ も $T$ と無矛盾で $\varphi$ を導くので、この操作は続けられる。無限の 0・1 列 $\sigma$ について $\Phi_\sigma:=\{\varphi_{\sigma\restriction k}\mid k\in\mathbb N\}$ の有限部分集合は最も長い列の論理式から導かれるので、$\Phi_\sigma$ は $T$ の型であり、ある完全型 $p_\sigma\supset\Phi_\sigma$ に含まれる(型(モデル理論) の命題「型の基本性質」の 3)。$\sigma\ne\tau$ が初めて $s$ の次で分かれるなら、一方の $p$ は $\chi$ を、他方は $\lnot\chi$ を含むので $p_\sigma\ne p_\tau$ である。よって $\varphi$ を含む完全型は $2^{\aleph_0}$ 個以上ある。後半の主張の対偶が前半で、素モデルの存在は thm-pam-existence による。$\square$

逆は成り立たない。$S_n(T)$ が $2^{\aleph_0}$ 個の元をもっても、孤立した型が稠密で素モデルをもつことがある(後の ex-pam-named)。

例

まず、自己同型を使って型が孤立していることを確かめる方法を用意する。

自己同型で移り合う組の型

$M\models T$、$\bar a\in M^n$ とし、論理式 $\theta(\bar x)$ が $M\models\theta(\bar a)$ を満たすとする。$M\models\theta(\bar b)$ となるすべての $\bar b\in M^n$ について、$\bar a$ を $\bar b$ に移す $M$ の自己同型があるならば、$\theta$ は $\operatorname{tp}^M(\bar a)$ を孤立させる。

自己同型は論理式の真偽を保つ(一階述語論理 の系「定義可能な関係は自己同型で保たれる」)。$\psi\in\operatorname{tp}^M(\bar a)$ とし、$M\models\theta(\bar b)$ とすると、$\bar a$ を $\bar b$ に移す自己同型により $M\models\psi(\bar b)$ である。よって $M\models\forall\bar x\,(\theta\to\psi)$ で、$T$ が完全で $M\models T$ なので $T\models\forall\bar x\,(\theta\to\psi)$ である。$M$ が $\exists\bar x\,\theta$ を満たすので $\theta$ は $T$ と無矛盾であり、$\theta$ は $\operatorname{tp}^M(\bar a)$ を孤立させる。$\square$

整数の順序

$T:=\operatorname{Th}(\mathbb Z,<)$ とする。$(\mathbb Z,<)$ は $T$ の素モデルである。

2 元の差を書く論理式で組の型が孤立することを lem-pam-automorphism で確かめる。

詳細

$k\ge1$ について $\delta_k(x,y)$ を「$x< y$ で、$x< z< y$ となる $z$ がちょうど $k-1$ 個ある」を表す論理式とし、$\delta_0(x,y)$ を $x=y$ とする。$\mathbb Z$ では $\delta_k(x,y)\iff y=x+k$ である。$\bar a\in\mathbb Z^n$ について $m:=\min_ia_i=a_{i_0}$ とし、$\theta(\bar x):=\bigwedge_{i=1}^n\delta_{a_i-m}(x_{i_0},x_i)$ とおく。$\mathbb Z\models\theta(\bar b)$ なら $b_i=b_{i_0}+(a_i-m)$ なので、平行移動 $x\mapsto x+(b_{i_0}-m)$ は $\bar a$ を $\bar b$ に移す自己同型である。lem-pam-automorphism により $\operatorname{tp}(\bar a)$ は孤立している。よって $(\mathbb Z,<)$ は可算な原子モデルで、thm-pam-atomic-prime により素モデルである。$\square$

$T$ は $\omega$-範疇的でない(Ryll-Nardzewskiの定理 の例「$\omega$-範疇的でない理論」の 3)。そのため孤立していない完全型があり、省略型定理 の系「同型でない可算なモデル」により、それを実現する可算なモデル、すなわち原子モデルでも素モデルでもない可算なモデルがある。

代数閉体の素モデル

標数 $0$ の代数閉体の理論 $\mathrm{ACF}_0$ について、$\mathbb Q$ の代数閉包 $\overline{\mathbb Q}$ は素モデルであり、したがって原子モデルである。$\overline{\mathbb Q}(t)$ の代数閉包($t$ は超越元)は可算だが、素モデルでも原子モデルでもない。

体の埋め込みを作り、代数閉体の間の包含が初等的であることを使う。

詳細

$\mathrm{ACF}_0$ は完全である(量化記号消去 の系「代数閉体の理論の帰結」の 1)。$K\models\mathrm{ACF}_0$ は標数 $0$ なので $\mathbb Q$ を部分体として含み、$K$ の元のうち $\mathbb Q$ 上代数的なものの全体 $\Omega$ は $\mathbb Q$ の代数閉包である(代数閉包 の命題「代数閉体の中での相対的閉包」)。$\overline{\mathbb Q}$ は $\mathbb Q$ の代数拡大なので、$\mathbb Q$ 上の体の埋め込み $\iota\colon\overline{\mathbb Q}\to\Omega\subset K$ がある(同記事の定理「代数拡大の埋め込み」)。像 $\iota(\overline{\mathbb Q})$ は $\overline{\mathbb Q}$ と同型なので代数閉体で、同系の 2 により $\iota(\overline{\mathbb Q})\preccurlyeq K$ である。$\iota$ は $\overline{\mathbb Q}$ から像への同型なので、初等埋め込み $\overline{\mathbb Q}\to K$ になる。よって $\overline{\mathbb Q}$ は素モデルで、thm-pam-prime-atomic により原子モデルである。

$N:=\overline{\overline{\mathbb Q}(t)}$ とする。初等埋め込み $j\colon N\to\overline{\mathbb Q}$ があれば、$\operatorname{tp}(j(t))=\operatorname{tp}(t)$ である。$\overline{\mathbb Q}$ の元 $j(t)$ は $0$ でない整数係数の多項式 $f$ の根で、論理式 $f(x)=0$(係数は $1+\dots+1$ と $-$ で書ける)が $\operatorname{tp}(j(t))$ に属するが、$t$ は超越的なので $\operatorname{tp}(t)$ には属さない。これは矛盾なので $N$ は素モデルでなく、$N$ は可算なので thm-pam-atomic-prime により原子モデルでもない。$\square$

$\mathrm{ACF}_0$ の $1$ 変数の完全型は、量化記号消去(量化記号消去 の定理「代数閉体の量化記号消去」)により、満たす整数係数の多項式の方程式だけで決まる。したがって $S_1(\mathrm{ACF}_0)$ は、$\mathbb Q$ 上の既約多項式ごとの型と超越元の型からなる可算集合である。既約多項式 $f$ の型は論理式 $f(x)=0$ で孤立する($f$ の根が満たす多項式の方程式 $g(x)=0$ は $f$ が $g$ を割り切るものに限られる)。一方、$\mathrm{ACF}_0$ は完全なので、孤立した型は $\mathrm{ACF}_0$ のすべてのモデルで実現されるが(型(モデル理論) の命題「孤立した型はすべてのモデルで実現される」)、素モデル $\overline{\mathbb Q}$ は超越元を含まないので、超越元の型は孤立していない。$\mathbb C$ はこの型を実現するので原子モデルでない。

型が非可算個でも素モデルをもつ理論

言語 $\{<\}\cup\{c_q\mid q\in\mathbb Q\}$($c_q$ は定数記号)の構造 $\mathbb Q^\sharp:=(\mathbb Q,<,q)_{q\in\mathbb Q}$ の理論 $T^\sharp$ を考える。$\mathbb Q^\sharp$ の元はどれも定数で名付けられているので、$\bar a\in\mathbb Q^n$ の型は論理式 $\bigwedge_ix_i=c_{a_i}$ で孤立する(この論理式を満たす組は $\bar a$ だけである)。よって $\mathbb Q^\sharp$ は可算な原子モデルで、$T^\sharp$ の素モデルである。一方、無理数 $r$ ごとに $\{c_q< x\mid q< r\}\cup\{x< c_q\mid r< q\}$ を含む完全型があり(型(モデル理論) の例「有理数の上の型」と同じ計算)、$S_1(T^\sharp)$ は $2^{\aleph_0}$ 個の元をもつ。thm-pam-small の逆は成り立たない。

素モデルをもたない完全な理論

孤立した型が稠密でない理論の典型は、互いに独立な性質を可算個並べた理論である。

独立な述語の理論

1 項関係記号 $P_0,P_1,\dots$ からなる言語を $L_P$ とする。$\varepsilon=(\varepsilon_0,\dots,\varepsilon_{n-1})\in\{0,1\}^n$ について、$P^1:=P$、$P^0:=\lnot P$ として $\chi_\varepsilon(x):=\bigwedge_{i< n}P_i^{\varepsilon_i}(x)$ とおく。すべての $n$、$\varepsilon\in\{0,1\}^n$、$k\ge1$ についての文「$\chi_\varepsilon$ を満たす元が少なくとも $k$ 個ある」からなる理論を $T_P$ とする。

$T_P$ のモデルとは、$P_0,\dots,P_{n-1}$ の属する・属さないの組み合わせ $2^n$ 通りのどれをとっても、それに当てはまる元が無限個ある $L_P$ 構造である。たとえば、自然数の有限部分集合 $F$ と自然数 $k$ の対 $(F,k)$ の全体を台集合とし、$P_i:=\{(F,k)\mid i\in F\}$ と解釈すると、$\chi_\varepsilon$ を満たす元は $F\cap\{0,\dots,n-1\}=\{i\mid\varepsilon_i=1\}$ となる対で、$k$ を動かせば無限個あるので、$T_P$ の可算なモデルになる。

独立な述語の理論は素モデルをもたない

$T_P$ は完全で、$S_1(T_P)$ のどの元も孤立していない。とくに $T_P$ は原子モデルも素モデルももたず、$S_1(T_P)$ は $2^{\aleph_0}$ 個の元をもつ。

完全性は有限個の述語に制限した理論の $\omega$-範疇性から、孤立しないことは 1 元の所属を書き換えることから従う。

詳細

完全性. $L_n:=\{P_0,\dots,P_{n-1}\}$ とし、$T_P$ の文のうち $L_n$ の文であるものの全体を $T_n$ とする。$T_n$ のモデルは $2^n$ 個の「区画」$\chi_\varepsilon$($\varepsilon\in\{0,1\}^n$)がどれも無限な $L_n$ 構造で(長さが $n$ より短い $\varepsilon$ の区画は長さ $n$ の区画の和になる)、有限のモデルをもたない。可算なモデル 2 つでは対応する区画がどれも可算無限なので、区画ごとに全単射をとって合わせれば同型写像になる。よって $T_n$ は $\aleph_0$-範疇的で、Löwenheim–Skolemの定理 の定理「Łoś–Vaught の判定法」により完全である。$L_P$ の文 $\sigma$ は有限個の記号しか使わないので、ある $n$ について $L_n$ の文であり、$T_n\models\sigma$ か $T_n\models\lnot\sigma$ が成り立つ。$T_n\subset T_P$ なので $T_P$ は完全である。

孤立しないこと. $\varphi(x)$ を $T_P$ と無矛盾な論理式とし、$\varphi$ が $L_n$ の論理式となる $n$ をとる。$T_P$ のモデル $M$ と $M\models\varphi(a)$ となる $a$ をとり、$P_n$ の解釈だけを $a$ のところで入れ替えた($a\in P_n^M$ なら除き、そうでなければ加えた)構造を $M'$ とする。どの区画も高々 1 元しか増減しないので、$M'$ も $T_P$ のモデルである。$M$ と $M'$ は $L_n$ の記号の解釈が同じなので、$M'\models\varphi(a)$ である(論理式の真偽はそれに現れない記号の解釈によらない)。$M$ と $M'$ の一方で $P_n(a)$、他方で $\lnot P_n(a)$ が成り立つので、$\varphi\land P_n(x)$ と $\varphi\land\lnot P_n(x)$ はどちらも $T_P$ と無矛盾である。$\varphi$ が完全型 $p$ を孤立させたとすると、$P_n(x)$ か $\lnot P_n(x)$ が $p$ に属し、$T_P\models\forall x\,(\varphi\to P_n(x))$ か $T_P\models\forall x\,(\varphi\to\lnot P_n(x))$ となって矛盾する。

$T_P$ のモデルのどの元 $a$ についても $\operatorname{tp}(a)$ は孤立していないので、原子モデルはなく、thm-pam-prime-atomic により素モデルもない。最後の主張は thm-pam-small の後半を $\varphi:=(x=x)$ に当てればよい。$\square$

$S_1(T_P)$ の元は、各 $P_i$ に属するか属さないかの指定 $\{0,1\}^{\mathbb N}$ と 1 対 1 に対応する(可算なモデルの中で、$L_n$ の区画ごとの置換は $L_n$ 構造の自己同型なので、$L_n$ の論理式の真偽は元の属する区画だけで決まる)。したがって型の空間 $S_1(T_P)$ は Cantor 集合と同相になる。孤立点をもたない Stone 空間(型(モデル理論) の定理「型の空間は Stone 空間」)の典型である。

パラメータの上の素モデル

素モデルの考え方は、パラメータの集合の上でも使われる。$T$ のモデル $N$ の部分集合 $A$ について、$A$ の各元を定数で名付けた $L_A$ 構造 $N_A$(型(モデル理論) の節「パラメータの上の型」の記号)の理論 $\operatorname{Th}(N_A)$ の素モデルを、$A$ 上の素モデル という。$A$ が可算なら $L_A$ も可算なので、この記事の結果がそのまま当てはまる。Morley は、全超越的(totally transcendental)な理論では任意のパラメータの集合 $A$ の上の型の空間で孤立点が稠密であることを示し、それを使って任意の $A$ の上に素モデルを構成した(Mor65 Lemma 4.2・Theorem 4.3、p. 530。この記事では証明しない)。同論文の脚注は、$A$ が可算な場合の素モデルの存在を Vaught に帰している(Mor65 p. 530)。これは Morleyの範疇性定理 の証明の道具の 1 つである。

反例:条件を外すと成り立たない

外す条件反例成り立たなくなること
可算(thm-pam-atomic-prime)$\mathrm{DLO}$ の $(\mathbb R,<)$原子モデルが素モデルであること
可算(thm-pam-unique)$\mathrm{DLO}$ の $(\mathbb Q,<)$ と $(\mathbb R,<)$原子モデルどうしが同型であること
孤立した型が稠密(thm-pam-existence)独立な述語の理論 $T_P$素モデルが存在すること
$T$ が完全標数を指定しない代数閉体の理論 $\mathrm{ACF}$素モデルが存在すること
反例の確かめ

1・2 行目は ex-pam-first の 1、3 行目は thm-pam-no-prime による。4 行目は標数を比べればよい。

詳細

1 行目:$(\mathbb R,<)$ はすべての型が孤立する理論のモデルなので原子モデルだが、可算な $(\mathbb Q,<)$ に単射で写せないので素モデルでない。2 行目:$(\mathbb Q,<)$ と $(\mathbb R,<)$ はどちらも原子モデルだが、濃度が違うので同型でない。可算な原子モデルどうしなら同型になる(thm-pam-unique。$\mathrm{DLO}$ では カテゴリー性 の定理「Cantor の定理」でもある)。3 行目:thm-pam-no-prime のとおりである。4 行目:完全でない理論についても、素モデルを def-pam-main と同じ言葉で定義する。$\mathrm{ACF}$ のモデル $M$ が素モデルなら、$\overline{\mathbb Q}$ と $\overline{\mathbb F_2}$ のどちらにも初等的に埋め込める。初等埋め込みは文 $1+1=0$ の真偽を保つが、この文は $\overline{\mathbb F_2}$ で真、$\overline{\mathbb Q}$ で偽なので、そのような $M$ はない。$\mathrm{ACF}_0$ と $\mathrm{ACF}_2$ のように標数を固定して完全にすれば、素モデル $\overline{\mathbb Q}$、$\overline{\mathbb F_2}$ がある(ex-pam-acf と同じ議論)。

関連項目

参考文献

[1]
Michael Morley, Categoricity in power, Transactions of the American Mathematical Society 114, pp. 514–538, 1965, §4、p. 530(Lemma 4.2:全超越的な理論ではパラメータの集合の上の型の空間で孤立点が稠密、パラメータの集合の上の素モデルの定義、Theorem 4.3:孤立点が稠密なら素モデルが存在、脚注:可算な場合の Vaught の結果)
[2]
Anand Pillay, Predrag Tanović, The number of countable models of first-order theories, arXiv:2508.06854, 2025, arXiv:2508.06854v1(2025-08-09)。§1 Vaught's conjecture(p. 1:可算モデルの個数の研究が Vaught の 1959 年の講演と 1961 年の論文に始まること)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する