分数式(rational expression)とは、整式 $A$ と、$A$ を割り切らない次数 $1$ 以上の整式 $B$ を用いて $\frac AB$ の形に書いた式であり、整式と合わせて有理式という。$\frac AB=\frac CD$ は整式として $AD=BC$ が成り立つことと定め、この等しさは推移律を満たし、約分・通分・四則演算は表し方によらずに決まる。等しい有理式は両方の分母が $0$ でない点で同じ値をとり、逆に 1 文字の有理式は無限に多くの点で値が一致すれば式として等しいが、約分で分母が $0$ になる点が減って定義域が変わることがある。1 文字の既約分数式の表し方は定数倍を除いてただ 1 つである。
前提知識: 展開と因数分解の公式, 剰余の定理と因数定理, 恒等式と未定係数法
分数 $\frac{6}{8}$ は約分して $\frac34$ にでき、$\frac12-\frac13$ は通分して $\frac16$ になる。数学 II では、同じ計算を、分母と分子が文字の式であるものについて行う。まず 2 つの計算を見る。
$\dfrac{x^2-1}{x^2+3x+2}$ を約分する。分母と分子を因数分解すると
$$
\frac{x^2-1}{x^2+3x+2}=\frac{(x-1)(x+1)}{(x+1)(x+2)}
$$
となり、分母と分子に共通の因数 $x+1$ がある。これで割って
$$
\frac{x^2-1}{x^2+3x+2}=\frac{x-1}{x+2}
$$
を得る。$x=0$ を代入すると、左辺は $\frac{-1}{2}$、右辺も $\frac{-1}{2}$ で一致する。ところが $x=-1$ を代入すると、左辺は分母が $1-3+2=0$ になって値をもたないのに、右辺は $\frac{-2}{1}=-2$ という値をもつ。
$\dfrac1{x-1}-\dfrac1{x+1}$ を 1 つの分数の形にする。分母を $(x-1)(x+1)$ にそろえると
$$
\frac1{x-1}-\frac1{x+1}=\frac{x+1}{(x-1)(x+1)}-\frac{x-1}{(x-1)(x+1)}=\frac{(x+1)-(x-1)}{(x-1)(x+1)}=\frac{2}{x^2-1}
$$
である。$x=2$ で確かめると、左辺は $1-\frac13=\frac23$、右辺は $\frac{2}{3}$ である。
ex-rat-start-reduce の最後の観察は、気になる点を残す。約分の前と後の式は「等しい」と書いたのに、$x=-1$ では片方にしか値がない。この記事では、分母と分子が文字の式である分数(分数式)を定義し、次の問いに答える。
| 分数での計算 | 分数式での計算 | ボックス |
|---|---|---|
| $\frac ab=\frac cd\iff ad=bc$ | 分母を払った整式どうしで等しさを決める | def-rat-equal |
| $\frac{ac}{bc}=\frac ab$(約分) | 共通の因数で割っても同じ分数式 | prop-rat-reduce |
| 分母を $0$ にする数は代入できない | 値が決まるのは分母が $0$ にならない点だけ | thm-rat-values |
| 既約分数はただ 1 つ | 既約分数式は定数倍を除いてただ 1 つ | thm-rat-lowest-terms |
| 仮分数 $=$ 整数 $+$ 真分数 | 分数式 $=$ 整式 $+$(分子の次数が低い分数式) | prop-rat-division |
この記事では、係数が実数で、文字 $x$ についての整式(多項式)を考える。$0$ だけからなる整式を零の整式といい、$0$ と書く。整式 $P$ が零の整式でないことを $P\ne0$ と書く。これは「どの $x$ でも値が $0$ でない」という意味ではなく、係数の中に $0$ でないものがあるという意味である(たとえば $x-1\ne0$ だが、$x=1$ では値が $0$ になる)。
$A$、$B$ を整式とし、$B\ne0$ とする。記号
$$
\frac AB
$$
を、$A$ を分子、$B$ を分母とする式という。分母 $B$ が $x$ を含み($B$ の次数が $1$ 以上で)、分子 $A$ が $B$ で割り切れないとき、$\frac AB$ を分数式という。整式 $A$ は分母が $1$ の式 $\frac A1$ と同じものとみなす。整式と分数式を合わせて有理式という。
文字が 2 つ以上でも、以下の定義と演算はそのまま使える(thm-rat-identity と thm-rat-lowest-terms は 1 文字の場合だけを扱う)。分数式の等しさは、分数の $\frac ab=\frac cd\iff ad=bc$ を手本にして決める。
2 つの有理式 $\frac AB$、$\frac CD$($B\ne0$、$D\ne0$)が等しいとは、整式として
$$
AD=BC
$$
が成り立つこと、つまり展開して整理した $AD$ と $BC$ の係数がすべて一致することをいう。このとき $\frac AB=\frac CD$ と書く。
$\frac AB=\frac{A'}{B'}$ で $A=BP$($P$ は整式)なら、$BA'=AB'=B\cdot PB'$ なので、lem-rat-no-zero-divisor の後半により $A'=B'P$ である。つまり、ある表し方で分子が分母で割り切れれば、どの表し方でも割り切れる。1 文字の場合は、既約な形(def-rat-lowest-terms)の分母が定数かどうかで判定してもよい(thm-rat-lowest-terms)。
「等しい」と呼ぶからには、等しいものと等しいものはまた等しい、という性質(推移律)がほしい。整式の掛け算について、次の事実を使う。
$P\ne0$、$Q\ne0$ である整式 $P$、$Q$ について、$PQ\ne0$ である。したがって、$P\ne0$ のとき整式の等式 $PR=PS$ からは $R=S$ が出る。
方針:$PQ$ の最高次の係数が $0$ でないことを示す。
段 1。$P$ の次数を $m$、最高次の係数を $p\ne0$ とし、$Q$ の次数を $n$、最高次の係数を $q\ne0$ とする。$PQ$ を展開すると、$x^{m+n}$ の項は $P$ の $px^m$ と $Q$ の $qx^n$ を掛けたものだけから出て、その係数は $pq$ である。$x^{m+n}$ より次数の高い項は出てこない。
段 2。実数 $p$、$q$ はどちらも $0$ でないので、$pq\ne0$ である。よって $PQ$ は $x^{m+n}$ の係数が $0$ でなく、$PQ\ne0$ である。
段 3(後半)。$PR=PS$ なら $P(R-S)=0$ である。もし $R-S\ne0$ なら、段 1・段 2 により $P(R-S)\ne0$ となって矛盾する。よって $R-S=0$、つまり $R=S$ である。$\square$
同じ事実は、大学向けの 多項式 の命題「次数の計算法」でも扱う。
$\frac AB=\frac CD$ かつ $\frac CD=\frac EF$ ならば、$\frac AB=\frac EF$ である($B,D,F\ne0$)。
方針:示したい $AF=BE$ の両辺に $D$ を掛けたものを、仮定から作る。
段 1。仮定から、整式として $AD=BC$ と $CF=DE$ が成り立つ。
段 2。$AD=BC$ の両辺に $F$ を掛けると $ADF=BCF$ である。右辺の $CF$ に $CF=DE$ を使うと $BCF=B\cdot DE$ なので、
$$
D\cdot AF=ADF=BCF=D\cdot BE
$$
となる。
段 3。$D\ne0$ なので、lem-rat-no-zero-divisor の後半により $AF=BE$ である。これは $\frac AB=\frac EF$ ということである。$\square$
$B\ne0$、$C\ne0$ のとき
$$
\frac{AC}{BC}=\frac AB
$$
である。左辺から右辺へ書きかえることを約分、右辺から左辺へ書きかえることを(分母をそろえる目的で行うとき)通分という。
def-rat-equal により、$(AC)\cdot B=(BC)\cdot A$ を示せばよい。整式の掛け算は順序を入れかえてよいので、両辺はどちらも $ABC$ に等しい。また $BC\ne0$ は lem-rat-no-zero-divisor による。$\square$
ex-rat-start-reduce の約分は、この命題で $A=x-1$、$B=x+2$、$C=x+1$ としたものである。ex-rat-equal-check の 3 のように、共通の因数ではない項を消すことは約分ではない。
分数の四則演算の規則を、そのまま分数式に当てはめる。
有理式 $\frac AB$、$\frac CD$($B,D\ne0$)に対して、和・差・積を
$$
\frac AB+\frac CD:=\frac{AD+BC}{BD},\qquad \frac AB-\frac CD:=\frac{AD-BC}{BD},\qquad \frac AB\cdot\frac CD:=\frac{AC}{BD}
$$
と定める。さらに $C\ne0$ のとき、商を
$$
\frac AB\mathbin{÷}\frac CD:=\frac{AD}{BC}
$$
と定める。分母 $BD$、$BC$ は lem-rat-no-zero-divisor により零の整式でない。
$\dfrac{1+\frac1x}{1-\frac1x}$ を簡単にする。分子は $1+\frac1x=\frac{x+1}x$、分母は $1-\frac1x=\frac{x-1}x$ なので、def-rat-operations の商により
$$
\frac{1+\frac1x}{1-\frac1x}=\frac{x+1}x\mathbin{÷}\frac{x-1}x=\frac{(x+1)x}{x(x-1)}=\frac{x+1}{x-1}
$$
となる。最後の等号は共通の因数 $x$ での約分である。$x=2$ で確かめると、もとの式は $\frac{3/2}{1/2}=3$、結果も $\frac31=3$ である。
def-rat-operations は分子と分母を使って定めたので、同じ分数式を別の形で表したとき(たとえば $\frac1{x+1}$ と $\frac{x-1}{x^2-1}$)に結果が食い違わないかを確かめておく必要がある。
$\frac AB=\frac{A'}{B'}$ かつ $\frac CD=\frac{C'}{D'}$ ならば(分母はすべて $\ne0$)、
$$
\frac AB+\frac CD=\frac{A'}{B'}+\frac{C'}{D'},\qquad \frac AB\cdot\frac CD=\frac{A'}{B'}\cdot\frac{C'}{D'}
$$
である。差についても同じである。さらに $C\ne0$ ならば $C'\ne0$ であり、商についても同じことが成り立つ。
方針:仮定 $AB'=A'B$、$CD'=C'D$ を使い、def-rat-equal の条件を直接確かめる。
段 1(和)。示すことは
$$
(AD+BC)\cdot B'D'=BD\cdot(A'D'+B'C')
$$
である。左辺を展開すると $AB'\cdot DD'+BB'\cdot CD'$ となる。ここに $AB'=A'B$、$CD'=C'D$ を代入すると
$$
A'B\cdot DD'+BB'\cdot C'D=BD\cdot A'D'+BD\cdot B'C'=BD\,(A'D'+B'C')
$$
となり、右辺に一致する。差は $+$ を $-$ に変えて同じ計算をすればよい。
段 2(積)。示すことは $AC\cdot B'D'=BD\cdot A'C'$ である。左辺は $(AB')(CD')=(A'B)(C'D)=BD\cdot A'C'$ となって右辺に一致する。
段 3(商)。$C\ne0$ と $D'\ne0$ から、lem-rat-no-zero-divisor により $CD'\ne0$ である。$CD'=C'D$ なので $C'D\ne0$ であり、したがって $C'\ne0$ である($C'=0$ なら $C'D=0$ になる)。商 $\frac AB\mathbin{÷}\frac CD$ は積 $\frac AB\cdot\frac DC$ と同じ式であり、$\frac DC=\frac{D'}{C'}$ も $DC'=CD'$ から成り立つので、段 2 に帰着する。$\square$
有理式 $\frac AB$ に数 $a$ を代入した値は、$B(a)\ne0$ のときに $\frac{A(a)}{B(a)}$ と定める。$B(a)=0$ となる $a$ では値を定めない。
$\frac AB=\frac CD$ とする。実数 $a$ が $B(a)\ne0$ かつ $D(a)\ne0$ を満たすならば、
$$
\frac{A(a)}{B(a)}=\frac{C(a)}{D(a)}
$$
である。
仮定から整式として $AD=BC$ であり、係数が一致する整式には同じ数を代入して同じ値が出るので、$A(a)D(a)=B(a)C(a)$ である。$B(a)D(a)\ne0$ なので、両辺をこの数で割って結論を得る。$\square$
両方の分母が $0$ でないという条件は外せない。式としては等しくても、代入できる数の範囲(定義域)までは一致しないからである(ex-rat-start-reduce の $x=-1$)。
$f(x)=\dfrac{x^2-1}{x-1}$ と $g(x)=x+1$ は、ex-rat-equal-check の 1 により式として等しい。
逆向きに、値が多くの点で一致すれば、式として等しいことが言える。これは数値を代入して分数式の恒等式を確かめるときの根拠になる。
$\frac AB$、$\frac CD$ を 1 文字 $x$ の有理式とする。$B(a)\ne0$、$D(a)\ne0$ を満たす実数 $a$ のうち、無限に多くのもので
$$
\frac{A(a)}{B(a)}=\frac{C(a)}{D(a)}
$$
が成り立つならば、$\frac AB=\frac CD$(式として等しい)である。
方針:整式 $R:=AD-BC$ が無限に多くの根をもつことから、$R=0$ を導く。
段 1。仮定を満たす $a$ では、等式の両辺に $B(a)D(a)$ を掛けて $A(a)D(a)=B(a)C(a)$、つまり $R(a)=0$ となる。よって $R$ は無限に多くの根をもつ。
段 2。$R\ne0$ と仮定し、その次数を $m$ とする。恒等式と未定係数法 の定理「根の個数は次数以下」により、$R$ の相異なる根は高々 $m$ 個しかない。これは段 1 と矛盾する。よって $R=0$、すなわち整式として $AD=BC$ であり、$\frac AB=\frac CD$ である。$\square$
「無限に多くの点で」は、実際には「$AD$ と $BC$ の次数の大きいほうより 1 つ多い個数の点で」に弱めてよい(恒等式と未定係数法 の定理「多項式の一致の定理」)。ただし、点が少なすぎると結論は崩れる(ex-rat-cx-few-points)。
$\dfrac{1}{x(x+1)}=\dfrac1x-\dfrac1{x+1}$ を確かめる。右辺を通分すると $\frac{(x+1)-x}{x(x+1)}=\frac{1}{x(x+1)}$ で、def-rat-equal の意味で等しい。
数値の代入だけでも確かめられる。分母を払った整式はどちらも 2 次なので、thm-rat-identity の後の注意により、$x\ne0,-1$ の相異なる 3 点で値が一致すれば式として等しい。
$x=1$ では左辺 $\frac12$、右辺 $1-\frac12=\frac12$。$x=2$ では左辺 $\frac16$、右辺 $\frac12-\frac13=\frac16$。$x=3$ では左辺 $\frac1{12}$、右辺 $\frac13-\frac14=\frac1{12}$。
分数の $\frac68=\frac34$ で $\frac34$ がそれ以上約分できない形であるように、分数式にも「これ以上約分できない形」がある。
有理式 $\frac AB$($A\ne0$、$B\ne0$)で、$A$ と $B$ が次数 $1$ 以上の共通の因数をもたないとき、$\frac AB$ を既約であるという。
等しい有理式でも分子どうしが定数倍とは限らない(ex-rat-cx-not-lowest)。しかし、既約な形に限れば表し方は実質的に 1 つになる。
1 文字 $x$ の有理式 $\frac AB$、$\frac CD$ がともに既約で、$\frac AB=\frac CD$ であるとする。このとき $0$ でない実数 $c$ があって
$$
C=cA,\qquad D=cB
$$
となる。
方針:$B$ が $D$ を割り切り、$D$ が $B$ を割り切ることを示し、次数を比べる。
段 1(使う道具)。$A$ と $B$ は次数 $1$ 以上の共通の因数をもたないので、その最大公約式は $1$ である。大学向けの 多項式 の定理「Euclid の互除法と Bézout 表示」により、整式 $U$、$V$ で
$$
UA+VB=1
$$
となるものがある(この記事ではこの定理を証明しない)。
段 2($B$ は $D$ を割り切る)。段 1 の等式の両辺に $D$ を掛けると $UAD+VBD=D$ である。仮定 $AD=BC$ を代入すると
$$
D=U\cdot BC+VBD=B\,(UC+VD)
$$
となり、$D$ は $B$ と整式 $UC+VD$ の積である。
段 3($D$ は $B$ を割り切る)。$\frac CD$ も既約なので、段 1・段 2 と同じ議論を $C$、$D$ について行うと、$B=D\,W$ となる整式 $W$ がある。
段 4(次数を比べる)。段 2 で $E:=UC+VD$ とおくと $D=BE$ であり、段 3 と合わせて $B=DW=BEW$、つまり $B\cdot(EW-1)=0$ となる。$B\ne0$ なので lem-rat-no-zero-divisor により $EW=1$ である。整式の積の次数は次数の和なので(lem-rat-no-zero-divisor の証明の段 1)、$E$ と $W$ の次数はどちらも $0$、つまり $E$ は $0$ でない定数 $c$ である。よって $D=cB$ である。
段 5(分子)。$AD=BC$ に $D=cB$ を代入すると $cAB=BC$、つまり $B\,(cA-C)=0$ である。$B\ne0$ なので $C=cA$ である。$\square$
既約な形は分母と分子の最大公約式で割れば作れ、定理により、どの順で約分しても結果は定数倍を除いて同じである。
仮分数 $\frac{7}{3}$ を $2+\frac13$ と書けるように、分子の次数が分母の次数以上の分数式は、整式の割り算で分けられる。
$B$ の次数が $1$ 以上のとき、$A$ を $B$ で割った商を $Q$、余りを $R$($R=0$ か、$R$ の次数は $B$ の次数より小さい)とすると
$$
\frac AB=Q+\frac RB
$$
である。
割り算の定義から整式として $A=BQ+R$ である。右辺 $Q+\frac RB=\frac{Q}{1}+\frac RB$ は def-rat-operations により $\frac{QB+R}{B}=\frac AB$ である。商と余りの存在は 剰余の定理と因数定理(大学向けには 多項式 の定理「多項式の除法」)による。$\square$
余りの部分 $\frac RB$ をさらに簡単な分数式の和に分けるのが部分分数分解である(係数の決め方は 恒等式と未定係数法 の例「部分分数への分解」、分解できることの証明は 部分分数分解)。
文字が 2 つ以上の分数式も、同じ規則で計算できる。Engel形の不等式 の基本形は、分数式の差が 2 乗を分子にもつ形に書けることから出る。
$x>0$、$y>0$ のとき、
$$
\frac{a^2}x+\frac{b^2}y-\frac{(a+b)^2}{x+y}
$$
を通分する。分母を $xy(x+y)$ にそろえると、分子は
$$
a^2y(x+y)+b^2x(x+y)-(a+b)^2xy=a^2y^2+b^2x^2-2abxy=(ay-bx)^2
$$
となる($a^2xy$ と $b^2xy$ は打ち消し合う)。よって
$$
\frac{a^2}x+\frac{b^2}y-\frac{(a+b)^2}{x+y}=\frac{(ay-bx)^2}{xy(x+y)}\ge0
$$
であり、等号は $ay=bx$ のときに成り立つ。
$a=1$、$b=2$、$x=1$、$y=3$ では、左辺は $1+\frac43-\frac94=\frac{1}{12}$、右辺は $\frac{(3-2)^2}{1\cdot3\cdot4}=\frac1{12}$ である。
ここまでの定理の仮定を 1 つずつ外すと、次のように崩れる。
| 外した仮定 | 崩れること | ボックス |
|---|---|---|
| 約分は共通の因数で行う | 項を消すと別の式になる | ex-rat-equal-check の 3 |
| thm-rat-values の「両方の分母が $0$ でない点」 | 片方の式にしか値がない | ex-rat-domain |
| thm-rat-identity の「無限に多くの点」 | 一致しない式が何点かで同じ値をとる | ex-rat-cx-few-points |
| thm-rat-lowest-terms の「既約」 | 等しくても分子が定数倍にならない | ex-rat-cx-not-lowest |
$\dfrac1x$ と $x$ は、$x=1$ でも $x=-1$ でも値が一致する($1=1$、$-1=-1$)。しかし分母を払った $1\cdot1=1$ と $x\cdot x=x^2$ は整式として違うので、式としては等しくない。実際 $x=2$ では $\frac12\ne2$ である。値が一致するのは $x^2=1$ の 2 点だけで、thm-rat-identity の「無限に多くの点」には足りない。分母を払った整式は 2 次なので、thm-rat-identity の後の注意でいう「3 点」にも足りない。
$\dfrac1{x+1}$ と $\dfrac{x-1}{x^2-1}$ は等しい(ex-rat-equal-check の 2)。前者は既約だが、後者は分母と分子に共通の因数 $x-1$ があり既約でない。分子 $1$ と $x-1$ は定数倍の関係にない。thm-rat-lowest-terms の結論は、両方が既約であるときにだけ保証される。
$\dfrac1{x+1}$ と $\dfrac1x+\dfrac11$ は等しくない。後者を通分すると $\frac{1+x}{x}$ で、分母を払った $1\cdot x=x$ と $(x+1)(x+1)=x^2+2x+1$ は違う。$x=1$ でも $\frac12\ne2$ である。分子の和は $\frac{A+C}B=\frac AB+\frac CB$ と分けられるが、分母の和は分けられない。
分数 $\frac ab$ は、整数の組を「$ad=bc$ なら同じ」とみなして作った数である。def-rat-equal は、整数を整式に取りかえて同じことをしている。lem-rat-no-zero-divisor がこの作り方を可能にし、prop-rat-equal-transitive と thm-rat-operations が等しさと四則演算の矛盾のなさを保証する。
有理式全体は、$0$ でない式での割り算を含む四則演算で閉じた体になる。大学数学ではこれを有理関数体 $\mathbb R(x)$ といい(有理関数)、この作り方を商体の構成という(Sho08 §16.2)。thm-rat-lowest-terms は多項式の素因数分解の一意性から来る(Sho08 §16.3)。
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