基本亜群

同義語:fundamental groupoid基本グルーポイド

概要

基本亜群(fundamental groupoid)とは、位相空間 $X$ の点を対象とし、点 $x$ から点 $y$ への道の端点を固定したホモトピー類を射とし、道の積を合成とする圏 $\Pi_1(X)$ である。すべての射が可逆な亜群で、連結成分は弧状連結成分、点 $x$ の自己同型群は基本群 $\pi_1(X,x)$ と同型であり、弧状連結なら $\Pi_1(X)$ は基本群一つと圏同値になる。連続写像は関手を、ホモトピーは自然同型を誘導し、ホモトピー同値は圏同値を与える。共通部分で閉じた開被覆について $\Pi_1(X)$ は各開集合の基本亜群の余極限であり、基点を一つに定めにくい場合の Van Kampen の定理を与える。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 基本群, 亜群, 関手, 自然変換, 圏同値

位相空間の基本亜群は、空間の点を対象とし、点から点への道の(端点を固定した)ホモトピー類を射とする圏である。すべての射は可逆なので亜群になり、各点での自己同型群はその点を基点とする基本群と同型である。基本群と違って基点を一つ選ぶ必要がなく、弧状連結でない空間や、基点を一つに定めにくい状況をそのまま扱える。この記事では、連続写像が関手を、ホモトピーが自然同型を誘導すること、弧状連結な空間の基本亜群が基本群一つと圏同値であること、そして開被覆についての Van Kampen の定理の亜群版を証明する。

定義

道、道の積 $\gamma\cdot\delta$($\gamma$ をたどってから $\delta$ をたどる道)、逆の道 $\bar\gamma$、定値道 $c_x$、端点を固定した道のホモトピー $\simeq$ とその類 $[\gamma]$ は 基本群 の定義「道の積と逆の道」「道のホモトピー」に従う。$I:=[0,1]$ とする。

基本亜群

位相空間 $X$ の基本亜群(fundamental groupoid)$\Pi_1(X)$ とは、次の圏である。

  • 対象は $X$ の点である。
  • 点 $x$ から点 $y$ への射の集合 $\Pi_1(X)(x,y)$ は、$x$ から $y$ への道の、端点を固定したホモトピー類の集合である。
  • $[\gamma]\colon x\to y$ と $[\delta]\colon y\to z$ の合成を $[\delta]\circ[\gamma]:=[\gamma\cdot\delta]$ とし、$x$ の恒等射を $[c_x]$ とする。
    部分集合 $A\subset X$ に対し、$A$ の点だけを対象とする $\Pi_1(X)$ の充満部分圏を $\Pi_1(X,A)$ と書く。
基本亜群は亜群である

$\Pi_1(X)$ は圏であり、すべての射は同型射である。$[\gamma]\colon x\to y$ の逆射は $[\bar\gamma]\colon y\to x$ である。

合成が代表の道の取り方によらないことは 基本群 の命題「道の積はホモトピー類の上で矛盾なく定まる」の 1 による。結合律、$[c_x]$ が両側の単位であること、$[\gamma\cdot\bar\gamma]=[c_x]$ と $[\bar\gamma\cdot\gamma]=[c_y]$ は、同じ記事の定理「基本亜群の公理と基本群の群構造」の 1・2・3 である。$\square$

ホモトピー類に移る前の道そのものでは、結合律は写像の等式として成り立たない(道(位相) の反例の表の 2 行目)。結合律が成り立つのは類の上だけであり、この事情が高次の圏を考える一つの動機になる(HTT09 §1.1.2、pp. 13–14)。
文献での記号は $\Pi(X)$(May99 §2.5)、$\pi_{\le1}X$(HTT09 Example 1.1.1.4、p. 3)などさまざまである。点 $x$ の自己同型の集合 $\Pi_1(X)(x,x)$ は $\pi_1(X,x)$ と同じ集合だが、合成の順序が積 $[\gamma][\delta]=[\gamma\cdot\delta]$ と逆なので、群としては $\pi_1(X,x)$ の反対群であり、逆元をとる写像で $\pi_1(X,x)$ と同型になる(亜群 の例「位相空間の基本亜群」)。$\Pi_1(X)$ の連結成分は $X$ の弧状連結成分である。

直感

基本群は「基点に戻ってくる輪」だけを見るが、基本亜群は「点から点への行き方」をすべて記録する。二点の間の行き方が本質的に何通りあるかが射の集合であり、輪の情報は各点の自己同型として含まれる。基点を一つ選ぶ代わりにすべての点を対等に扱うので、空間を開集合に分けて貼り合わせるとき、共通部分が弧状連結でなくても情報が失われない。

例

単連結な空間

$X$ が単連結空間なら、任意の二点 $x,y$ の間に射がちょうど一つある。道 $\gamma,\delta\colon x\to y$ について $\gamma\cdot\bar\delta$ は $x$ のループで、定値ループとホモトピックなので $[\gamma]=[\gamma\cdot\bar\delta\cdot\delta]=[\delta]$ だからである。したがって $\Pi_1(X)$ は、$X$ 上の「すべての二点が同値」という同値関係の亜群(亜群 の例「同値関係の亜群」)と同型である。$\mathbb R^n$ の空でない凸集合はこの例である。

離散空間と非交和

$X$ が離散空間なら、道は定値道だけなので、$\Pi_1(X)$ は射が恒等射だけの離散亜群である。より一般に、$X$ が二つの開集合の非交和 $X=X_1\sqcup X_2$ なら、$I$ は連結空間なので道は一方に含まれ、道のホモトピー($I\times I$ も連結)も同様である。よって $\Pi_1(X)$ は $\Pi_1(X_1)$ と $\Pi_1(X_2)$ の圏としての非交和である。

円周

単位円周 $S^1$ は弧状連結なので $\Pi_1(S^1)$ は連結であり、各点の自己同型群は $\pi_1(S^1)\cong\mathbb Z$ と同型である(基本群 の定理「円周の基本群」)。下の thm-fg-connected により、$\Pi_1(S^1)$ は一点と自己同型群 $\mathbb Z$ からなる亜群 $\mathbf B\mathbb Z$ と圏同値である。ただし $\Pi_1(S^1)$ の対象は非可算個あり、圏として同型ではない。

直積の基本亜群

位相空間 $X,Y$ と射影 $p\colon X\times Y\to X$、$q\colon X\times Y\to Y$ について、$(x,y)\mapsto(x,y)$、$[\gamma]\mapsto([p\circ\gamma],[q\circ\gamma])$ で定まる関手 $\Pi_1(X\times Y)\to\Pi_1(X)\times\Pi_1(Y)$ は圏の同型である。

関手であることは、基本群 の命題「道の積はホモトピー類の上で矛盾なく定まる」の 3(連続写像の合成が道の積と類を保つこと)による。対象の上では全単射である。射の上の全射性:$\alpha\colon x\to x'$、$\beta\colon y\to y'$ が道なら、$(\alpha,\beta)\colon I\to X\times Y$ は連続な道で、射影すると $\alpha,\beta$ に戻る。単射性:$X\times Y$ の道 $\gamma,\gamma'$ について $p\circ\gamma\simeq p\circ\gamma'$ を $H_1$、$q\circ\gamma\simeq q\circ\gamma'$ を $H_2$ が与えるなら、$(H_1,H_2)$ が $\gamma$ から $\gamma'$ への端点を固定したホモトピーである。$\square$

連続写像とホモトピー

連続写像 $f\colon X\to Y$ は、対象 $x$ を $f(x)$ へ、射 $[\gamma]$ を $[f\circ\gamma]$ へ送る関手 $f_*\colon\Pi_1(X)\to\Pi_1(Y)$ を誘導する。矛盾なく定まり合成と恒等射を保つことは、基本群 の命題「道の積はホモトピー類の上で矛盾なく定まる」の 3 による。$(g\circ f)_*=g_*\circ f_*$、$(\mathrm{id}_X)_*=\mathrm{id}$ は定義から明らかである。
次の補題は、正方形 $I\times I$ からの写像の、四辺をたどる二つの道を比べる。

正方形の補題

$K\colon I\times I\to X$ を連続写像とし、四辺の道を $b(s):=K(s,0)$、$u(s):=K(s,1)$、$l(t):=K(0,t)$、$r(t):=K(1,t)$ とおく。このとき $b\cdot r\simeq l\cdot u$(端点を固定したホモトピー)である。

$I\times I$ の中の二つの道 $\beta_1:=\beta_b\cdot\beta_r$、$\beta_2:=\beta_l\cdot\beta_u$ を考える。ここで $\beta_b(s)=(s,0)$、$\beta_r(t)=(1,t)$、$\beta_l(t)=(0,t)$、$\beta_u(s)=(s,1)$ であり、どちらも $(0,0)$ から $(1,1)$ への道である。$I\times I$ は凸なので、$G(s,v):=(1-v)\beta_1(s)+v\beta_2(s)$ は $I\times I$ に値をもつ端点を固定したホモトピーである。$K\circ\beta_1=b\cdot r$、$K\circ\beta_2=l\cdot u$ なので、$K\circ G$ が求めるホモトピーである。$\square$

誘導関手とホモトピー

$f,g\colon X\to Y$ を連続写像とする。

  1. $H\colon X\times I\to Y$ を $f$ から $g$ へのホモトピーとし、各点 $x$ について $h_x:=[H(x,\cdot)]\colon f(x)\to g(x)$ とおく。$h=(h_x)_{x\in X}$ は $f_*$ から $g_*$ への自然同型である。
  2. $f$ がホモトピー同値ならば、$f_*\colon\Pi_1(X)\to\Pi_1(Y)$ は圏同値である。したがって $f$ は弧状連結成分の間の全単射を誘導し、すべての $x\in X$ について $f_*\colon\pi_1(X,x)\to\pi_1(Y,f(x))$ は同型である。

1:$h_x$ は亜群の射なので同型である。自然性を示す。$\gamma$ を $x$ から $y$ への道とし、$K(s,t):=H(\gamma(s),t)$ に lem-fg-square を使う。四辺は $b=f\circ\gamma$、$u=g\circ\gamma$、$l=H(x,\cdot)$、$r=H(y,\cdot)$ なので、$(f\circ\gamma)\cdot H(y,\cdot)\simeq H(x,\cdot)\cdot(g\circ\gamma)$ である。合成の記号で書けば
$$ h_y\circ f_*[\gamma]=g_*[\gamma]\circ h_x $$
であり、これが自然性の四角形である。
2:$k\colon Y\to X$ をホモトピー逆写像とする。1 により $k_*\circ f_*=(k\circ f)_*\cong(\mathrm{id}_X)_*=\mathrm{id}$、$f_*\circ k_*\cong\mathrm{id}$ なので、$f_*$ は圏同値である。後半は、亜群 の定理「亜群の圏同値の判定」の (R1) から (R2) への方向による。$f_*$ が誘導する自己同型群の準同型 $\Pi_1(X)(x,x)\to\Pi_1(Y)(f(x),f(x))$ は、集合としては基本群の誘導準同型 $[\gamma]\mapsto[f\circ\gamma]$ と同じ写像なので、これも同型である。$\square$

1 は基本群の言葉では、基点が動くホモトピーの誘導準同型が基点の取り替えで表されること(基本群 の命題「ホモトピー不変性」の 1、基点の取り替え(基本群))にあたる。基本亜群では基点の移動が自然同型の成分 $h_x$ として最初から組み込まれている。

弧状連結な空間と基本群

弧状連結空間の基本亜群

選択公理を仮定する。$A\subset X$ が $X$ のすべての弧状連結成分と交わるなら、包含関手 $\Pi_1(X,A)\to\Pi_1(X)$ は圏同値である。とくに $X$ が弧状連結で $x\in X$ なら、$x$ だけを対象とする亜群 $\Pi_1(X,\{x\})$(自己同型群は $\pi_1(X,x)$ の反対群)の包含は圏同値である。

$X$ の各点 $y$ は、同じ弧状連結成分にある $A$ の点と道で結ばれるので、$\Pi_1(X)$ の中で $A$ の点と同型である。$\Pi_1(X,A)$ は充満部分圏なので、充満部分圏 の命題「代表を含む充満部分圏の包含は圏同値である」により、包含は圏同値である。$\square$

$X$ が弧状連結のとき、擬逆関手は具体的に書ける。各点 $y$ に $y$ から $x$ への道 $C_y$ を選び、$C_x:=c_x$ とする。射 $[\gamma]\colon y\to z$ を $x$ のループの類 $[\bar C_y\cdot\gamma\cdot C_z]$ に送る規則が擬逆関手であり、$y$ の自己同型の上では基点の取り替え $\Phi_{C_y}$(基点の取り替え(基本群))にほかならない。道 $C_y$ の選び方には標準的なものがないので、基本亜群から基本群への擬逆関手も標準的には選べない(亜群 の定理「連結な亜群は自己同型群と圏同値である」の直後の記述)。

Van Kampen の定理(亜群版)

$\mathcal O$ を $X$ の開集合の族とし、包含関係で順序を入れて圏とみなす。$U\subset V$ がともに $\mathcal O$ に属するとき、包含が誘導する関手を $\iota_{U,V}\colon\Pi_1(U)\to\Pi_1(V)$、包含 $U\subset X$ が誘導する関手を $\iota_U\colon\Pi_1(U)\to\Pi_1(X)$ と書く。

Van Kampenの定理(基本亜群)

$\mathcal O$ を $X$ の開被覆で、$U,V\in\mathcal O$ ならば $U\cap V\in\mathcal O$ を満たすものとする。亜群 $\mathcal G$ と、関手の族 $\eta_U\colon\Pi_1(U)\to\mathcal G$($U\in\mathcal O$)で、$U\subset V$ のとき $\eta_V\circ\iota_{U,V}=\eta_U$ を満たすものが与えられたとする。このとき、すべての $U\in\mathcal O$ について $\tilde\eta\circ\iota_U=\eta_U$ となる関手 $\tilde\eta\colon\Pi_1(X)\to\mathcal G$ がただ一つ存在する。すなわち $\Pi_1(X)$ は、図式 $U\mapsto\Pi_1(U)$ の小さな亜群の圏における余極限(余極限(圏論))である。

証明の考え方は単純である。道は有限個の小さな道に分ければ各片がどれかの $U$ に入るので、$\tilde\eta$ の値は各片の $\eta_U$ の値の合成として決まるしかない。問題は、それが分け方と道のホモトピーによらないことで、ホモトピーを小さな正方形に分けて lem-fg-square を一つずつ使う。

分割.道 $\gamma\colon I\to X$ について、$\{\gamma^{-1}(U)\}_{U\in\mathcal O}$ はコンパクト距離空間 $I$ の開被覆なので、Lebesgue数の補題により、分点 $0=s_0< s_1<\dots< s_m=1$ と $U_i\in\mathcal O$ を $\gamma([s_{i-1},s_i])\subset U_i$ となるようにとれる。$\gamma_i(s):=\gamma((1-s)s_{i-1}+ss_i)$ を $i$ 番目の片という。これを $\gamma$ の分割とよぶ。
対象と道の上の定義.$x\in U$ のとき $\tilde\eta(x):=\eta_U(x)$ とおく。$x\in U\cap U'$ なら $W:=U\cap U'\in\mathcal O$ で、$\eta_U(x)=\eta_U(\iota_{W,U}x)=\eta_W(x)=\eta_{U'}(x)$ なので $U$ によらない。道 $\gamma$ と分割に対し
$$ \tilde\eta(\gamma):=\eta_{U_m}[\gamma_m]\circ\cdots\circ\eta_{U_1}[\gamma_1] $$
とおく。片の終点と次の片の始点で上の対象の定義が一致するので、合成は定義される。
(a) 分割によらない.片 $\gamma_i$ が $U_i$ と $U_i'$ の両方に入れば、$W=U_i\cap U_i'$ に入り、$\eta_{U_i}[\gamma_i]=\eta_W[\gamma_i]=\eta_{U_i'}[\gamma_i]$ である。分点を一つ足して片 $\gamma_i$ を二つの片 $\gamma_i',\gamma_i''$ に分けると、$\gamma_i\simeq\gamma_i'\cdot\gamma_i''$ が $U_i$ の中で成り立つ(基本群 の補題「径数の取り替え」)ので、$\eta_{U_i}[\gamma_i]=\eta_{U_i}[\gamma_i'']\circ\eta_{U_i}[\gamma_i']$ であり値は変わらない。二つの分割には共通の細分があるので、$\tilde\eta(\gamma)$ は分割によらない。
(b) 道の積.$\gamma$ と $\delta$ の分割を $[0,\frac12]$ と $[\frac12,1]$ に縮めて並べると $\gamma\cdot\delta$ の分割になり、片は写像として元の片と一致する。よって $\tilde\eta(\gamma\cdot\delta)=\tilde\eta(\delta)\circ\tilde\eta(\gamma)$ である。定値道 $c_x$ は一つの片からなり、$\tilde\eta(c_x)=\mathrm{id}$ である。
(c) ホモトピー不変性.$H\colon I\times I\to X$ を $\gamma$ から $\delta$ への端点を固定したホモトピーとする。Lebesgue 数の補題により、$n$ を大きくとれば、正方形 $Q_{ij}:=[\frac{i-1}n,\frac in]\times[\frac{j-1}n,\frac jn]$ はそれぞれある $U_{ij}\in\mathcal O$ に $H$ で写る。格子の各辺を $H$ で写した道に $\tilde\eta$ を施し、lem-fg-square を $U_{ij}$ の中で各正方形に使って一列ずつ動かすと、$\tilde\eta(\gamma)=\tilde\eta(\delta)$ が得られる。

格子の議論を開く

横の辺 $h_{ij}(s):=H(\frac{i-1+s}n,\frac jn)$($1\le i\le n$、$0\le j\le n$)と縦の辺 $v_{ij}(t):=H(\frac in,\frac{j-1+t}n)$($0\le i\le n$、$1\le j\le n$)をとる。各辺は隣の正方形の $U$ に含まれる。正方形 $Q_{ij}$ に lem-fg-square を $U_{ij}$ の中で使い $\eta_{U_{ij}}$ を施すと、$\tilde\eta(v_{ij})\circ\tilde\eta(h_{i,j-1})=\tilde\eta(h_{ij})\circ\tilde\eta(v_{i-1,j})$ を得る。$j$ 段目の横の道 $\rho_j(s):=H(s,\frac jn)$ は片 $h_{1j},\dots,h_{nj}$ への分割をもつので、$\tilde\eta(\rho_j)=\tilde\eta(h_{nj})\circ\cdots\circ\tilde\eta(h_{1j})$ である。$k=0,\dots,n$ について $M_k:=\tilde\eta(h_{nj})\circ\cdots\circ\tilde\eta(h_{k+1,j})\circ\tilde\eta(v_{kj})\circ\tilde\eta(h_{k,j-1})\circ\cdots\circ\tilde\eta(h_{1,j-1})$ とおく。上の等式から $M_k=M_{k-1}$ である。左右の縦の辺 $v_{0j}$、$v_{nj}$ は端点が固定されているので定値道で、$\tilde\eta$ の値は恒等射である。よって $\tilde\eta(\rho_j)=M_0=M_n=\tilde\eta(\rho_{j-1})$ であり、$\tilde\eta(\gamma)=\tilde\eta(\rho_0)=\tilde\eta(\rho_n)=\tilde\eta(\delta)$ である。


存在と一意性.(c) により $\tilde\eta[\gamma]:=\tilde\eta(\gamma)$ は類の上で定まり、(b) により関手である。$U$ に含まれる道は一つの片からなる分割をもつので、$\tilde\eta\circ\iota_U=\eta_U$ である。逆に、条件を満たす関手は対象の上では $\eta_U$ と一致し、道の上では各片の値 $\eta_{U_i}[\gamma_i]$ の合成と一致しなければならない($[\gamma]$ は $\Pi_1(X)$ の中で片の類の合成である)。よって一意である。$\square$

May99 §2.7(p. 17)は $\mathcal O$ の元が弧状連結である場合にこの定理を述べているが、上の証明は弧状連結性を使わない。基点を一つ固定した群の版(Van Kampenの定理)は、$\mathcal O$ の元と共通部分が弧状連結で基点を含むとき、被覆が有限なら thm-fg-connected の擬逆関手を各 $U$ で両立するように選んでこの定理から導かれ、一般の場合は有限部分族の和集合への帰着で得られる(May99 §2.7、pp. 18–19)。共通部分が弧状連結でない場合の計算には、各成分から点を選んだ部分集合 $A$ での $\Pi_1(X,A)$ を使う版がある(Van Kampenの定理 の注意「一般化」)。

高次圏論・被覆空間との関係
  • $X$ の特異単体的集合 $\operatorname{Sing}X$ は Kan複体 であり、そのホモトピー圏は $\Pi_1(X)$ である(∞圏のホモトピー圏 の例「Kan複体の基本亜群」)。$\operatorname{Sing}X$ そのものは、道のホモトピーの間のホモトピーまで記録する $X$ の基本∞亜群とみなされる(HTT09 Example 1.1.2.5、p. 14)。
  • 被覆空間は基本亜群の言葉で分類できる。May99 Chapter 3 は亜群の被覆を先に分類し、それを空間の被覆へ移している。基点を固定した形は 被覆空間 の定理「被覆の圏と基本群が作用する集合」である。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
$X$ が弧状連結(thm-fg-connected)$X=S^1\sqcup\{p\}$、$x\in S^1$$\Pi_1(X,\{x\})\to\Pi_1(X)$ が圏同値であること
$f$ がホモトピー同値(thm-fg-functor の 2)$f\colon[0,1)\to S^1$、$f(s)=(\cos2\pi s,\sin2\pi s)$$f_*$ が圏同値であること
$\mathcal O$ が開集合からなる(thm-fg-van-kampen)$S^1$ を閉じた上半円 $A$ と開いた下半円 $B$ に分ける$\Pi_1(X)$ が余極限であること
$\mathcal O$ が共通部分で閉じる(thm-fg-van-kampen)$S^1$ を二つの開いた弧 $U,V$ で覆う$\Pi_1(X)$ が余極限であること
反例の確かめ

1 行目:$X$ の弧状連結成分は $S^1$ と $\{p\}$ の二つで、$\Pi_1(X)$ は二つの連結成分をもつ。$\Pi_1(X,\{x\})$ の対象は $x$ だけなので、$p$ はどの対象とも同型でなく、包含は本質的全射でない。
2 行目:$f$ は連続な全単射だが、$[0,1)$ は凸なので $\Pi_1([0,1))$ の自己同型群は自明であり、$\Pi_1(S^1)$ の自己同型群は $\mathbb Z$ と同型である(ex-fg-circle)。圏同値は自己同型群の同型を誘導する(亜群 の定理「亜群の圏同値の判定」)ので、$f_*$ は圏同値でない。$[0,1)$ は可縮で $S^1$ は可縮でないので、$f$ はホモトピー同値でない。
3 行目:$A:=\{(x,y)\in S^1\mid y\ge0\}$、$B:=S^1\setminus A$ とし、$\mathcal O:=\{A,B,\emptyset\}$ とする。$\mathcal O$ は $S^1$ を覆い、共通部分で閉じているが、$A$ は開集合でない。$\mathcal G:=\Pi_1(A)\sqcup\Pi_1(B)$(圏の非交和)と包含関手 $\eta_A,\eta_B$、空の亜群からの関手 $\eta_\emptyset$ は両立条件を満たす。$\tilde\eta\colon\Pi_1(S^1)\to\mathcal G$ が $\eta_A,\eta_B$ を延長すれば、$a\in A$ から $b\in B$ への $S^1$ の道の類は $\mathcal G$ の $a$ から $b$ への射に写るが、$\mathcal G$ では異なる成分の対象の間に射がない。よって延長は存在せず、$\Pi_1(S^1)$ は余極限でない。
4 行目:$U,V$ を $S^1$ の開いた弧で $U\cup V=S^1$、$U\not\subset V$、$V\not\subset U$ とし、$\mathcal O:=\{U,V\}$ とする。$U\cap V\ne\emptyset$ は $\mathcal O$ に属さない。$\mathcal G:=\Pi_1(U)\sqcup\Pi_1(V)$ と二つの包含関手は、$\mathcal O$ に包含関係がないので両立条件を自動的に満たす。延長 $\tilde\eta$ があれば、$x\in U\cap V$ について $\tilde\eta(x)$ は $\Pi_1(U)$ 側の $x$ と $\Pi_1(V)$ 側の $x$ の両方に等しくなければならず、これは $\mathcal G$ の異なる対象である。よって延長は存在しない。

関連項目

参考文献

[1]
J. P. May, A Concise Course in Algebraic Topology, Chicago Lectures in Mathematics, University of Chicago Press, 1999, Chapter 2:§5 基本亜群(p. 15)、§7 Van Kampen の定理(亜群版と群版、pp. 17–19)。Chapter 3(亜群の被覆と空間の被覆、pp. 21–30)
[2]
Jacob Lurie, Higher Topos Theory, Princeton University Press, 2009, Example 1.1.1.4(基本 n 亜群 $\pi_{\le n}X$、p. 3)、§1.1.2(道の連結の結合律、pp. 13–14)、Example 1.1.2.5($\operatorname{Sing}X$ を基本∞亜群とみなす、p. 14)

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