群の拡大

同義語:群拡大group extension

概要

群の拡大(group extension)とは、群 $N$ を正規部分群として含み、剰余群が群 $Q$ となる群 $E$ を、完全列 $1\to N\to E\to Q\to1$ として埋め込みと射影の組を込めて考えたものである。$N$ と $Q$ だけでは $E$ は決まらず、$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ も $(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^2$ も $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ の $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ による拡大である。核 $A$ がアーベル群なら拡大は $Q$ の $A$ への作用を定め、作用を固定すると拡大の同値類は $H^2(Q,A)$ の元と一対一に対応し、分裂する拡大(半直積)が $0$ にあたる。有限群は単純群を順に拡大して得られるので、拡大の問題は有限群論の基本の問題である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 正規部分群, 剰余群, 半直積, 群コホモロジー

群 $E$ が正規部分群 $N$ をもつと、$E$ は $N$ と剰余群 $Q=E/N$ に分かれる。逆向きに、$N$ と $Q$ を与えて「$N$ を正規部分群にもち、商が $Q$ になる群 $E$」をすべて求める問題を 拡大の問題 といい、そのような $E$(と埋め込み・射影の組)を 群の拡大 という。$N$ と $Q$ だけでは $E$ は決まらない。$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ と $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ はどちらも $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ の $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ による拡大である。有限群は 組成列 により単純群を順に拡大して得られるので、単純群 を知ることと拡大の仕方を知ることが有限群の理解の 2 本の柱になる。
この記事の主定理は、$N=A$ がアーベル群のときの分類である。拡大は $Q$ の $A$ への作用を定め、作用を固定すると、拡大の同値類は 群コホモロジー $H^2(Q,A)$ の元とちょうど一対一に対応し、分裂する拡大(半直積)は $0$ に対応する。証明は、$Q$ の元の持ち上げを選び、持ち上げどうしの積のずれ(因子団)を記録するという素朴な方法による。応用として、巡回群の中心拡大を $A/nA$ で数え、「同値な拡大」と「中の群が同型な拡大」が違う概念であることを例で見る。

定義

群の拡大

$N$、$Q$ を群とする。群 $E$ と準同型 $\iota\colon N\to E$、$\pi\colon E\to Q$ の組で、$\iota$ が単射、$\pi$ が全射、$\iota(N)=\ker\pi$ となるもの、すなわち完全列
$$ 1\to N\xrightarrow{\ \iota\ }E\xrightarrow{\ \pi\ }Q\to1 $$
を $N$ の $Q$ による拡大(extension)という。$\iota(N)$ が $E$ の中心に含まれるとき 中心拡大 という。

$\iota(N)=\ker\pi$ は $E$ の正規部分群で、準同型定理により $E/\iota(N)\cong Q$ である。逆に正規部分群 $N\subset E$ からは、包含と商写像による拡大 $1\to N\to E\to E/N\to1$ が得られる。
呼び方には 2 通りの流儀がある。この記事と 半直積 では、核にあたる $N$ を先に書いて「$N$ の $Q$ による拡大」という。群コホモロジー や Wei94 §6.6 のように、商にあたる $Q$ を主語にして「$Q$ の $N$ による拡大」(extension of $Q$ by $N$)という文献も多い。どちらの流儀かは完全列を書けば紛れない。

拡大の同値と分裂

$N$ の $Q$ による 2 つの拡大 $(E,\iota,\pi)$、$(E',\iota',\pi')$ について、準同型 $\varphi\colon E\to E'$ で $\varphi\circ\iota=\iota'$、$\pi'\circ\varphi=\pi$ をみたすものがあるとき、2 つの拡大は 同値 であるという。拡大 $(E,\iota,\pi)$ は、準同型 $s\colon Q\to E$ で $\pi\circ s=\mathrm{id}_Q$ となるものがあるとき 分裂する という。

分裂することは、$E$ が $\iota(N)$ と $Q$ の半直積に、$\iota$ と $\pi$ を保って同型になることと同値である(半直積 の定理「分裂の判定」)。同値の定義では $\varphi$ に同型を求めていないが、次の命題により自動的に同型であり、同値は同値関係になる。

拡大の射は同型

def-gext-equivalence の $\varphi$ は群の同型である。

要点:$N$ と $Q$ の上で恒等写像になるので、核も余りも出ない。

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単射:$\varphi(e)=1$ とすると $\pi(e)=\pi'(\varphi(e))=1$ なので $e=\iota(n)$($n\in N$)と書け、$\iota'(n)=\varphi(\iota(n))=1$ から $n=1$、$e=1$ である。全射:$e'\in E'$ について $\pi$ は全射なので $\pi(e)=\pi'(e')$ となる $e$ がある。$\pi'(\varphi(e)^{-1}e')=1$ なので $\varphi(e)^{-1}e'=\iota'(n)=\varphi(\iota(n))$ と書け、$e'=\varphi(e\,\iota(n))$ である。$\square$

核がアーベル群のとき

作用

以下 $N=A$ はアーベル群とし、$A$ の演算は加法で書く。$E$ の中では $\iota(a)\iota(b)=\iota(a+b)$ である。

拡大が定める作用

$A$ の $Q$ による拡大 $(E,\iota,\pi)$ について、$q\in Q$、$a\in A$ に対し、$\pi(e)=q$ となる $e\in E$ をとって
$$ \iota(q\cdot a)=e\,\iota(a)\,e^{-1} $$
で $q\cdot a\in A$ を定める。これは $e$ の選び方によらず、$A$ を $Q$ 加群(群コホモロジー の定義「$G$ 加群」)にする。同値な拡大は同じ作用を定める。

要点:持ち上げの違いは $\iota(A)$ の元で、$A$ が可換なのでその共役は効かない。

詳しい証明を開く

$\iota(A)=\ker\pi$ は正規なので $e\,\iota(a)\,e^{-1}\in\iota(A)$ であり、$\iota$ の単射性から $q\cdot a$ が定まる。別の持ち上げは $e'=e\,\iota(b)$ と書け、$e'\iota(a)e'^{-1}=e\,\iota(b+a-b)\,e^{-1}=e\,\iota(a)\,e^{-1}$ である。$a\mapsto q\cdot a$ は共役なので準同型である。$1\in Q$ の持ち上げに $1\in E$ をとれば $1\cdot a=a$、$p,q$ の持ち上げ $e,f$ の積 $ef$ は $pq$ の持ち上げなので $(pq)\cdot a=p\cdot(q\cdot a)$ である。同値 $\varphi$ があれば、$\varphi(e)$ は $\pi'$ で $q$ に移り、$\varphi(e)\iota'(a)\varphi(e)^{-1}=\varphi(e\,\iota(a)\,e^{-1})=\iota'(q\cdot a)$ である。$\square$

作用が自明であることは、$\iota(A)$ が $E$ の中心に含まれること、すなわち中心拡大であることと同じである。$Q$ 加群 $A$ を固定し、作用がこの $Q$ 加群の構造に一致する $A$ の $Q$ による拡大の同値類の全体を $\mathcal{E}(Q,A)$ と書く(次の thm-gext-classification の証明で見るとおり、どの拡大も集合 $A\times Q$ の上の拡大と同値なので、これは集合である)。

因子団

正規化された切断と因子団

$(E,\iota,\pi)$ を $A$ の $Q$ による拡大とする。写像(準同型とは限らない)$s\colon Q\to E$ で $\pi\circ s=\mathrm{id}_Q$、$s(1)=1$ をみたすものを 正規化された切断 という。$s(p)s(q)$ と $s(pq)$ はともに $\pi$ で $pq$ に移るので、
$$ s(p)\,s(q)=\iota\bigl(f(p,q)\bigr)\,s(pq)\qquad(p,q\in Q) $$
となる $f(p,q)\in A$ がただ 1 つある。写像 $f\colon Q\times Q\to A$ を $s$ に関する 因子団(factor set)という。

$E$ の元は $\iota(a)s(p)$($a\in A$、$p\in Q$)とただ 1 通りに書ける($p=\pi(e)$、$\iota(a)=e\,s(p)^{-1}$)。積はこの表示で
$$ \iota(a)s(p)\cdot\iota(b)s(q)=\iota(a)\,\bigl(s(p)\iota(b)s(p)^{-1}\bigr)\,s(p)s(q)=\iota\bigl(a+p\cdot b+f(p,q)\bigr)\,s(pq) $$
となる(以下、これを 積の式 (1) とよぶ)。つまり、$E$ の群構造は $A$、作用、因子団 $f$ だけで決まる。
$Q$ の $A$ 係数の $2$ コサイクルとは、$f\colon Q\times Q\to A$ で
$$ p\cdot f(q,r)-f(pq,r)+f(p,qr)-f(p,q)=0\qquad(p,q,r\in Q) $$
をみたすもの(以下、これを コサイクル条件 (2) とよぶ)であり、$2$ コバウンダリとは $g\colon Q\to A$ により $(d^1g)(p,q)=p\cdot g(q)-g(pq)+g(p)$ と書けるものである(群コホモロジー の命題「低い次数のコホモロジー」の 4)。$f(1,q)=f(q,1)=0$ をみたすコサイクルを 正規化されている という。

因子団はコサイクル
  1. 因子団 $f$ は正規化された $2$ コサイクルである。
  2. 正規化された切断 $s$ を $s_1(p)=\iota(g(p))\,s(p)$($g\colon Q\to A$、$g(1)=0$)に取り替えると、因子団は $f+d^1g$ に変わる。逆に、どの正規化された切断もこの形に書ける。
  3. 同値 $\varphi\colon E\to E'$ があれば、$\varphi\circ s$ は $E'$ の正規化された切断で、その因子団は $f$ に等しい。
  4. $H^2(Q,A)$ のどの類も、正規化されたコサイクルを含む。

要点:1 と 2 は結合法則と切断の取り替えの計算で、3 は $\varphi$ が $\iota$ を保つことから従う。

詳しい証明を開く

1、2:$s(p)$ は $p$ の持ち上げなので、prop-gext-action により $s(p)\iota(b)s(p)^{-1}=\iota(p\cdot b)$ である。これを使うと、$(s(p)s(q))s(r)=\iota(f(p,q))\,s(pq)s(r)=\iota\bigl(f(p,q)+f(pq,r)\bigr)s(pqr)$、$s(p)(s(q)s(r))=s(p)\iota(f(q,r))s(p)^{-1}\cdot s(p)s(qr)=\iota\bigl(p\cdot f(q,r)+f(p,qr)\bigr)s(pqr)$ である。結合法則で両者は等しく、$\iota$ は単射なので $f(p,q)+f(pq,r)=p\cdot f(q,r)+f(p,qr)$、すなわちコサイクル条件 (2) が成り立つ。また $s_1(p)s_1(q)=\iota(g(p))s(p)\iota(g(q))s(q)=\iota\bigl(g(p)+p\cdot g(q)+f(p,q)\bigr)s(pq)=\iota\bigl(g(p)+p\cdot g(q)-g(pq)+f(p,q)\bigr)s_1(pq)$ なので、$s_1$ の因子団は $f+d^1g$ である(群コホモロジー の節「2 次コホモロジーと群の拡大」と同じ計算)。正規化は $s(1)=1$ から $s(1)s(q)=s(q)$、$s(q)s(1)=s(q)$ となることによる。別の正規化された切断 $s_1$ については $s_1(p)s(p)^{-1}\in\ker\pi$ なので $s_1(p)=\iota(g(p))s(p)$ と書け、$s_1(1)=s(1)=1$ から $g(1)=0$ である。

3:$\pi'\circ\varphi\circ s=\pi\circ s=\mathrm{id}$、$\varphi(s(1))=1$ であり、定義の式に $\varphi$ を施すと $\varphi(s(p))\varphi(s(q))=\iota'(f(p,q))\,\varphi(s(pq))$ となる。

4:コサイクル $f$ をとり $c=f(1,1)$ とおく。(2) に $p=q=1$ を入れると $f(1,r)=c$、$q=r=1$ を入れると $f(p,1)=p\cdot c$ である。定数写像 $g\equiv c$ について $(d^1g)(p,q)=p\cdot c$ なので、$f-d^1g$ は $f$ と同じ類の正規化されたコサイクルである。$\square$

ねじれた積

因子団による拡大

$A$ を $Q$ 加群、$f$ を正規化された $2$ コサイクルとする。集合 $A\times Q$ に積
$$ (a,p)(b,q)=\bigl(a+p\cdot b+f(p,q),\ pq\bigr) $$
を入れたものを $E_f$ と書き、$\iota_f(a)=(a,1)$、$\pi_f(a,p)=p$ とおく。

$E_f$ は拡大である

$E_f$ は $(0,1)$ を単位元とする群で、$(E_f,\iota_f,\pi_f)$ は $A$ の $Q$ による拡大である。その作用は与えた $Q$ 加群の構造に一致し、$s_f(p)=(0,p)$ は因子団 $f$ をもつ正規化された切断である。$f=0$ のとき $E_0$ は半直積 $A\rtimes Q$ である。

要点:結合法則はコサイクル条件 (2) そのものである。

詳しい証明を開く

結合法則:両辺の第 2 成分は $pqr$ で、第 1 成分は

$$((a,p)(b,q))(c,r)\colon\ a+p\cdot b+f(p,q)+pq\cdot c+f(pq,r),$$

$$(a,p)((b,q)(c,r))\colon\ a+p\cdot b+pq\cdot c+p\cdot f(q,r)+f(p,qr)$$

であり、差は (2) の左辺なので $0$ である。単位元:$f(1,q)=f(p,1)=0$ から $(0,1)(b,q)=(b,q)$、$(a,p)(0,1)=(a,p)$ である。逆元:$(x,p^{-1})(a,p)=(x+p^{-1}\cdot a+f(p^{-1},p),1)$ なので $x=-p^{-1}\cdot a-f(p^{-1},p)$ とすれば左逆元になる。単位元をもつ結合的な積で、すべての元が左逆元をもてば群である($ya=1$、$zy=1$ なら $a=(zy)a=z(ya)=z$ なので $ay=zy=1$)。

$\pi_f$ は準同型で全射、核は $A\times\{1\}$、$\iota_f$ は単射準同型($(a,1)(b,1)=(a+b,1)$)である。$(0,p)(a,1)=(p\cdot a,p)=(p\cdot a,1)(0,p)$ なので作用は $p\cdot a$ に一致し、$(0,p)(0,q)=(f(p,q),pq)=(f(p,q),1)(0,pq)$ なので $s_f$ の因子団は $f$ である。$f=0$ の積 $(a+p\cdot b,pq)$ は、半直積 の定義の積を加法で書いたものである。$\square$

主定理:$H^2$ による分類

拡大の分類

$Q$ を群、$A$ を $Q$ 加群とする。

  1. 拡大 $(E,\iota,\pi)\in\mathcal{E}(Q,A)$ に、正規化された切断の因子団の類 $[f]\in H^2(Q,A)$ を対応させる写像
    $$ \Phi\colon\mathcal{E}(Q,A)\to H^2(Q,A) $$
    は、切断と同値類の代表の選び方によらずに定まり、全単射である。逆写像は $[f]\mapsto(E_f,\iota_f,\pi_f)$($f$ は類の中の正規化されたコサイクル)で与えられる。
  2. 拡大が分裂することと $\Phi$ の値が $0$ であることは同値である。分裂する拡大はすべて半直積 $A\rtimes Q$ と同値で、1 つの類をなす。
  3. 作用を固定した $A$ の $Q$ による拡大がすべて分裂するのは、$H^2(Q,A)=0$ のときであり、そのときに限る。
切断を合わせて積の式 (1) を比べる

well-defined。 同じ拡大の 2 つの正規化された切断の因子団は、lem-gext-cocycle の 2 により $d^1g$ だけ違い、同じ類を定める。同値な拡大には、同じ 3 により同じ因子団をもつ切断がある。
全射。 $H^2(Q,A)$ の類は正規化されたコサイクル $f$ を含み(lem-gext-cocycle の 4)、prop-gext-twisted により $E_f\in\mathcal{E}(Q,A)$ の切断 $s_f$ の因子団は $f$ なので、$\Phi(E_f)=[f]$ である。
単射。 $\Phi(E)=\Phi(E')$ とし、正規化された切断 $s$、$s'$ の因子団を $f$、$f'$ とする。$f'=f+d^1g$ と書くと、両辺の $(1,1)$ での値から $g(1)=(d^1g)(1,1)=0$ である。$s_1(p)=\iota(g(p))s(p)$ とおくと、lem-gext-cocycle の 2 により $s_1$ の因子団は $f'$ である。そこで
$$ \varphi\colon E\to E',\qquad\varphi\bigl(\iota(a)s_1(p)\bigr)=\iota'(a)\,s'(p) $$
と定める。両辺の表示はただ 1 通りなので $\varphi$ は全単射で、積の式 (1) が $E$ と $E'$ で同じ式($A$、作用、因子団 $f'$ だけで書ける)になるので準同型である。$\varphi(\iota(a))=\iota'(a)$、$\pi'(\varphi(\iota(a)s_1(p)))=p$ なので、$\varphi$ は拡大の同値である。
逆写像の記述は、全射の議論と単射性から従う。とくに、どの拡大も集合 $A\times Q$ の上の $E_f$ と同値である。
2。 分裂するなら準同型の切断 $s$ をとれる。$s(1)=1$ で $s(p)s(q)=s(pq)$ なので因子団は $0$ である。逆に $\Phi(E)=0$ なら、単射性の議論で $E$ は $E_0=A\rtimes Q$ と同値であり、$s_0(p)=(0,p)$ は準同型なので分裂する(同値は分裂を保つ)。
3。 2 と、$\Phi$ が全単射であることから従う。$\square$

$\mathcal{E}(Q,A)$ にはもともと群の構造がないが、$\Phi$ を通して $H^2(Q,A)$ の加法を移すことができる。加群の拡大を $\operatorname{Ext}^1$ で分類する話(加群の拡大)の、群の版にあたる。$Q$ を有限群とする場合が、群コホモロジー で引用されている Schreier の定理である。

巡回群の中心拡大

巡回群の中心拡大

$Q=\langle q\rangle$ を位数 $n$ の巡回群、$A$ をアーベル群とし、$Q$ を $A$ に自明に作用させる。中心拡大 $(E,\iota,\pi)$ について $\pi(e)=q$ となる $e$ をとると、$e^n=\iota(c)$ となる $c\in A$ がある。$c$ の類 $\bar c\in A/nA$ は $e$ と同値類の代表の選び方によらず、対応 $E\mapsto\bar c$ は全単射 $\mathcal{E}(Q,A)\to A/nA$ を与える。したがって $H^2(Q,A)$ と $A/nA$ の元の個数は等しい。

繰り上がりのコサイクル

要点:$e^i$($0\le i< n$)を切断に選ぶと、因子団は「指数の和が $n$ 以上になったら $c$」という繰り上がりの形になる。

詳しい証明を開く

$n=1$ では $\mathcal{E}(Q,A)$ も $A/nA$ も 1 点なので $n\ge2$ とする。$\pi(e^n)=q^n=1$ なので $e^n\in\iota(A)$ である。別の持ち上げ $\iota(a)e$ については、$\iota(a)$ が中心にあるので $(\iota(a)e)^n=\iota(na+c)$ となり、類は変わらない。同値 $\varphi$ があれば $\varphi(e)$ は $q$ の持ち上げで $\varphi(e)^n=\iota'(c)$ である。

$s(q^i)=e^i$($0\le i< n$)は正規化された切断で、$0\le i,j< n$ について $e^ie^j=e^{i+j}$ は、$i+j< n$ なら $s(q^{i+j})$、$i+j\ge n$ なら $\iota(c)\,e^{i+j-n}=\iota(c)\,s(q^{i+j})$ である。よって因子団は

$$f_c(q^i,q^j)=\begin{cases}0&(i+j< n)\\ c&(i+j\ge n)\end{cases}$$

で、$c$ だけで決まる。単射:2 つの中心拡大の $c$、$c'$ が $c'=c+na$ をみたせば、$E'$ の側の持ち上げを $\iota'(-a)e'$ に取り替えて $c'=c$ にでき、両者は同じ因子団 $f_c$ をもつ切断をもつので、thm-gext-classification の単射性の議論により同値である。全射:$c\in A$ について $f_c$ は正規化されたコサイクルである(自明な作用では (2) は $f(p,q)+f(pq,r)=f(q,r)+f(p,qr)$ となる。$p,q,r$ に $q^i,q^j,q^k$($0\le i,j,k< n$)を代入すると、両辺とも $i+j+k$ を 2 回に分けて足すときの繰り上がりの回数に $c$ を掛けたもので、どちらも $c\cdot\lfloor(i+j+k)/n\rfloor$ に等しい)。$E_{f_c}$ で $e=(0,q)$ をとると、$1\le i< n$ について $e^i=(0,q^i)$ であり、$e^n=(f_c(q^{n-1},q),1)=(c,1)$ である。$\square$

例

位数 $p$ の巡回群による拡大

$p$ を素数、$A=Q=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ とする。$\operatorname{Aut}(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})$ の位数は $p-1$ なので(自己同型 の命題「有限巡回群の自己同型群」)、$Q$ から $\operatorname{Aut}(A)$ への準同型は自明であり、どの拡大も中心拡大である。prop-gext-cyclic により同値類は $A/pA=A$ の元と一対一で、ちょうど $p$ 個ある。

  • $\bar c=0$ の類は分裂する拡大 $\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ である。
  • $k\in\{1,\dots,p-1\}$ について、$E=\mathbb{Z}/p^2\mathbb{Z}$、$\iota_k(a)=kpa$、$\pi(x)=x\bmod p$ は拡大で、$e=1$ をとると $e^p$ にあたる $p\cdot1=p=\iota_k(k')$($kk'\equiv1\bmod p$)なので類は $\bar c=k'$ である。$k$ を動かすと $0$ 以外の $p-1$ 個の類がすべて現れる。
    したがって $p-1$ 個の互いに同値でない拡大の中の群がどれも $\mathbb{Z}/p^2\mathbb{Z}$ である。中の群 $E$ の同型類は 2 つしかないが、同値類は $p$ 個ある。$p=2$ では 2 つの類が $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ と $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ である(群コホモロジー の例「位数 4 の巡回群と $H^2(\mathbb{Z}/2,\mathbb{Z}/2)$」)。
Heisenberg 群

整数成分の上三角単位行列の群 $H=\left\{\begin{pmatrix}1&a&c\\0&1&b\\0&0&1\end{pmatrix}\right\}$(Heisenberg群)は、$\pi\colon(a,b,c)\mapsto(a,b)\in\mathbb{Z}^2$ と、核 $\{a=b=0\}\cong\mathbb{Z}$ の埋め込みにより、$\mathbb{Z}$ の $\mathbb{Z}^2$ による中心拡大である。切断 $s(a,b)=(a,b,0)$ について $s(a,b)s(a',b')=(a+a',b+b',ab')$ なので、因子団は $f((a,b),(a',b'))=ab'$ である。$H$ は可換でない($(1,0,0)$ と $(0,1,0)$ の積の順で $c$ が $1$ と $0$ になる)。分裂する中心拡大は $\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}^2$ と同型で可換なので、この拡大は分裂せず、$[f]\ne0$ である。

四元数群と二面体群

四元数群 $Q_8$ の中心 $\{\pm1\}$ による商は Klein四元群 $V$ と同型で、$Q_8$ は $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ の $V$ による中心拡大である。$Q_8$ の位数 $2$ の元は $-1$ だけなので、$V$ の位数 $2$ の元の持ち上げとなる位数 $2$ の元がなく、分裂しない。位数 $8$ の 二面体群 $D_4=\langle r,s\mid r^4=s^2=1,\ srs^{-1}=r^{-1}\rangle$ も中心 $\langle r^2\rangle$ による商が $V$ で、$V$ と同型な部分群 $\{1,r^2,s,r^2s\}$、$\{1,r^2,rs,r^3s\}$ はどちらも $r^2$ を含むので、中心と交わらない補群がなく分裂しない。$Q_8\not\cong D_4$ なので、$H^2(V,\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})$ は少なくとも $0$ と 2 つの $0$ でない類をもつ。実際には $8$ 個の元からなる(DF04 §17.4 の例「Groups of Order 8」、pp. 830–831。この記事では証明しない)。

作用が違う 2 つの分裂拡大

$A=\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$、$Q=\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ とする。$Q$ の作用は自明なものと $a\mapsto-a$ の 2 通りで、前者の半直積が $\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$、後者が 対称群 $S_3$ である。どちらも分裂するが、定める作用が違うので同値でない(prop-gext-action)。$Q$ 加群を固定しない拡大の全体は 1 つの $H^2$ では数えられず、作用ごとに $H^2(Q,A)$ を考える必要がある。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
核 $N$ がアーベル群$1\to S_3\to S_3\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\to1$持ち上げによる共役が持ち上げの選び方によらないこと(prop-gext-action)
拡大を同値で分類する(中の群の同型で分類しない)$p=3$ の ex-gext-zp類と $H^2(Q,A)$ の元が一対一(同型類は 2 つ、$H^2$ は 3 元)
$Q$ 加群の構造を固定するex-gext-s3 の $\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ と $S_3$分裂する拡大が 1 つの類をなすこと(thm-gext-classification の 2)
1 行目の確かめ

$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ の生成元の持ち上げとして $(1,1)$ と $(\sigma,1)$($\sigma\in S_3$ は互換)をとると、$S_3$ の元 $\tau$ への共役はそれぞれ $\tau$ と $\sigma\tau\sigma^{-1}$ である。$\tau=(1\,2\,3)$、$\sigma=(1\,2)$ では $\sigma\tau\sigma^{-1}=(1\,3\,2)\ne\tau$ なので、共役は持ち上げの選び方による。持ち上げの違いは $N$ の元で、その共役は内部自己同型なので、内部自己同型の分だけの曖昧さが残り、$Q$ から $\operatorname{Aut}(N)/\operatorname{Inn}(N)$(自己同型 の定義「内部自己同型と外部自己同型」)への準同型だけが定まる。

補足

拡大の問題と組成列

有限群 $G$ の組成列 $\{e\}=G_0\subset G_1\subset\cdots\subset G_r=G$ の各段 $G_{i-1}\subset G_i$ は、$G_{i-1}$ の単純群 $G_i/G_{i-1}$ による拡大である。$N$ と $Q$ が可換でも拡大 $E$ は可換とは限らず(剰余群 の反例、ex-gext-q8-d4)、組成因子は群を決めない。どの拡大が現れるかを $N$ と $Q$ から調べるのが拡大の問題で、核が可換なら thm-gext-classification がその答えを与える。同じ言葉は、線型代数群や可換群スキームの完全列 $0\to L\to G\to B\to0$ にも使われる(Néronモデル の Chevalley の構造定理など)。その場合は中の $G$ にも代数的な構造を課した拡大を考える。

文献

拡大の同値、因子団、因子団がコサイクルであること、$H^2$ による分類は Wei94 §6.6(Definition 6.6.1(p. 182)、Classification Theorem 6.6.3(p. 183)、Lemma 6.6.5・Theorem 6.6.7(p. 184)、6.6.8 と分類定理の証明(p. 185))と DF04 §17.4(Theorem 36、p. 828。同節の例 (1)〜(3)、pp. 829–830)にある。この記事の証明は記事の中で完結している。

関連項目

参考文献

[1]
Charles A. Weibel, An Introduction to Homological Algebra, Cambridge Studies in Advanced Mathematics 38, Cambridge University Press, 1994, §6.6 Factor Sets and H2:Definition 6.6.1(p. 182)、Classification Theorem 6.6.3(p. 183)、Lemma 6.6.5・Theorem 6.6.7(p. 184)、6.6.8 と分類定理の証明(p. 185)
[2]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., John Wiley & Sons, 2004, §17.4 Group Extensions, Factor Sets and H2(G,A):Theorem 36(p. 828)、例 (1)〜(3)(pp. 829–830)、例「Groups of Order 8 and H2(Z2×Z2, Z/2Z)」(pp. 830–831)

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