完全集合性質

同義語:perfect set property

概要

完全集合性質(perfect set property)とは、Polish 空間の部分集合が高々可算であるか空でない完全集合を含むという性質である。この性質をもつ集合の濃度は高々可算か連続体の濃度 $2^{\aleph_0}$ なので、その集合に限って連続体仮説が成り立つ。閉集合は Cantor–Bendixson の定理により、Borel 集合を含む解析集合は Suslin の定理によりこの性質をもつ。一方、選択公理のもとでは Bernstein 集合が反例になり、解析集合の補集合や射影集合がこの性質をもつかは ZFC だけでは決まらず、構成可能性・巨大基数・決定性の仮定に左右される。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 孤立点, Baire空間(記述集合論), Cantor集合, 選択公理

完全集合性質(perfect set property)とは、Polish 空間の部分集合 $A$ が「高々可算であるか、空でない完全集合を含む」という性質である。空でない完全集合は連続体と同じ濃度をもつので、完全集合性質をもつ集合については「可算と連続体の中間の濃度」が現れず、連続体仮説 がその集合に限って成り立つ。
閉集合は完全集合性質をもつ(Cantor–Bendixson の定理)。Suslin は、Borel 集合を含むより広い解析集合もこの性質をもつことを示した。一方、選択公理 を使うと完全集合性質をもたない集合が作れる。その間の集合、たとえば解析集合の補集合については、ZFC だけでは決まらない。この記事では、完全集合性質を定義し、解析集合が完全集合性質をもつこと(Suslin の定理)と、選択公理のもとで完全集合性質をもたない集合があること(Bernstein 集合)を証明し、決定性や巨大基数との関係を述べる。

定義

可算な開基をもつ完備距離化可能空間を Polish 空間 という(Baire空間(記述集合論)、完全距離化可能空間)。位相空間の閉集合で孤立点をもたないものを 完全集合 という(孤立点 の記事の定義「自己稠密集合・完全集合・散在的な空間」)。

完全集合性質

$X$ を Polish 空間とする。

  1. $A\subseteq X$ が 完全集合性質 をもつとは、$A$ が高々可算であるか、$A$ が $X$ の空でない完全集合を部分集合として含むことをいう。
  2. $X$ の部分集合の族 $\Gamma$ が完全集合性質をもつとは、$\Gamma$ のすべての元が完全集合性質をもつことをいう。

族についての言い方は古典的な記述集合論のもので、「性質 P」とも呼ばれる(Mos09 2C 節、p. 61)。

解析集合

Polish 空間 $X$ の部分集合 $A$ が 解析集合($\boldsymbol\Sigma^1_1$ 集合)であるとは、$A=\emptyset$ であるか、Baire 空間 $\mathcal N=\mathbb N^{\mathbb N}$ から $X$ への連続写像 $f$ で $A=f[\mathcal N]$ となるものがあることをいう。

Polish 空間の閉集合は(空でなければ)それ自身 Polish 空間なので、Baire空間(記述集合論) の定理「Polish 空間は $\mathcal{N}$ の連続像」により解析集合である。Borel集合 も解析集合である(Mos09 1F 節、p. 36。$X\times\mathcal N$ の閉集合の射影という定義との一致は同書の演習 1E.6、p. 33)。

直感

完全集合性質は「集合の濃度がわかる」ための性質である。空でない完全集合 $P$ の中では、どの点のまわりにも $P$ の点が詰まっているので、点を二つに分けることを無限にくり返せて、$P$ の中に Cantor集合 が埋め込まれる。したがって完全集合性質をもつ非可算集合は Cantor 集合を含み、ちょうど連続体の濃度をもつ。完全集合性質をもたない非可算集合があるとすれば、それはどの Cantor 集合も含まないほど「すかすか」で、しかもどの Cantor 集合の補集合にも収まらないほど「至る所にある」集合である。Bernstein 集合はこの二つを同時に満たすように、連続体の長さの超限再帰で作られる。

濃度との関係

完全集合性質と連続体仮説

$X$ を Polish 空間とする。

  1. $X$ の空でない完全集合の濃度は $2^{\aleph_0}$ である。$X$ 自身の濃度は $2^{\aleph_0}$ 以下である。
  2. $A\subseteq X$ が完全集合性質をもてば、$A$ は高々可算であるか、濃度がちょうど $2^{\aleph_0}$ である。

1:空でない $X$ は $\mathcal N$ の連続像であり(Baire空間(記述集合論) の定理「Polish 空間は $\mathcal{N}$ の連続像」)、$\lvert\mathcal N\rvert=\aleph_0^{\aleph_0}=2^{\aleph_0}$ なので $\lvert X\rvert\le2^{\aleph_0}$ である。空でない完全集合 $P$ は完備距離空間 $X$ の閉集合なので完備距離空間であり、相対位相で孤立点をもたない。孤立点 の記事の定理「完全集合への Cantor 集合の埋め込み」により $\lvert P\rvert\ge2^{\aleph_0}$ である。
2:$A$ が非可算なら空でない完全集合 $P\subseteq A$ を含み、1 から $2^{\aleph_0}=\lvert P\rvert\le\lvert A\rvert\le\lvert X\rvert\le2^{\aleph_0}$ である。$\square$

閉集合については、孤立点 の記事の定理「Cantor–Bendixson の定理」が、非可算な閉集合を完全集合(完全核)と高々可算集合に分解する。したがって Polish 空間の閉集合の族は完全集合性質をもつ。次の定理はこれを解析集合へ広げる。

主定理:解析集合の完全集合性質

以下、有限列の記法 $s\in\mathbb N^{<\mathbb N}$、基本開集合 $N_s\subseteq\mathcal N$、$\alpha|n$ は Baire空間(記述集合論) の記事のものを使う。$\{0,1\}$ の有限列 $t$ の後ろに $i$ を付けた列を $t^\frown i$ と書く。

Suslin の定理

Polish 空間の解析集合は完全集合性質をもつ。すなわち、非可算な解析集合は空でない完全集合を含み、濃度は $2^{\aleph_0}$ である。

証明の方針は Cantor–Bendixson の定理と同じで、「どの近くにも非可算個の像がある点」だけを残し、そこで像を二つずつに枝分かれさせて Cantor 集合を作る。

$X$ に完備な距離 $d$ を固定し、$f\colon\mathcal N\to X$ を連続、$A=f[\mathcal N]$ を非可算とする。
段 1:凝縮した部分。$U:=\bigcup\{N_s\mid f[N_s]\text{ は高々可算}\}$、$C:=\mathcal N\setminus U$ とおく。有限列は可算個なので、$f[U]$ は高々可算個の高々可算集合の和集合であり、高々可算である(可算選択公理を使う)。$s$ が $N_s\cap C\ne\emptyset$ を満たすとき、$x\in N_s\cap C$ をとると $x\notin U$ なので $f[N_s]$ は非可算であり、$f[N_s\cap U]\subseteq f[U]$ は高々可算だから、$f[N_s\cap C]$ は非可算である。$f[\mathcal N]$ が非可算なので $s=\emptyset$ について $N_\emptyset\cap C=C\ne\emptyset$ である。
段 2:枝分かれ。$\{0,1\}$ の有限列 $t$ ごとに有限列 $s_t\in\mathbb N^{<\mathbb N}$ を、$\lvert t\rvert$ についての帰納法で次を満たすように選ぶ。

  • (a) $N_{s_t}\cap C\neq\emptyset$。
  • (b) $s_{t^\frown i}$ は $s_t$ の真の延長($i=0,1$)。
  • (c) $\overline{f[N_{s_{t^\frown0}}]}\cap\overline{f[N_{s_{t^\frown1}}]}=\emptyset$。
  • (d) $\lvert t\rvert\ge1$ なら $\operatorname{diam}f[N_{s_t}]\le2^{-\lvert t\rvert}$。
    $s_\emptyset:=\emptyset$ とする。$s_t$ が決まったら、段 1 から $f[N_{s_t}\cap C]$ は非可算なので、$x_0,x_1\in N_{s_t}\cap C$ で $f(x_0)\ne f(x_1)$ となるものがとれる。$r:=\min\{d(f(x_0),f(x_1))/3,\ 2^{-\lvert t\rvert-2}\}$ とおく。$f$ の連続性から、$n>\lvert s_t\rvert$ を十分大きくとると $f[N_{x_i|n}]\subseteq B(f(x_i),r)$($i=0,1$)となり、$x_i\in N_{s_t}$ なので $x_i|n$ は $s_t$ の真の延長である。$s_{t^\frown i}:=x_i|n$ とする。$x_i\in N_{s_{t^\frown i}}\cap C$ なので (a)、作り方から (b) が成り立つ。$\overline{f[N_{s_{t^\frown i}}]}$ は閉球 $\overline B(f(x_i),r)$ に含まれ、二つの閉球の中心の距離は $3r$ 以上なので (c) が成り立ち、直径は $2r\le2^{-\lvert t\rvert-1}$ なので (d) が成り立つ。

段 3:Cantor 集合の像。$\beta\in\{0,1\}^{\mathbb N}$ について、(b) から $s_{\beta|0}\subsetneq s_{\beta|1}\subsetneq\cdots$ は延長の列なので、すべての $n$ で $z_\beta\in N_{s_{\beta|n}}$ となる $z_\beta\in\mathcal N$ がただ一つある。$g(\beta):=f(z_\beta)$ とおく。

  • 連続:$\beta|n=\beta'|n$($n\ge1$)なら $z_\beta,z_{\beta'}\in N_{s_{\beta|n}}$ なので、(d) から $d(g(\beta),g(\beta'))\le2^{-n}$。
  • 単射:$\beta\ne\beta'$ が初めて第 $n$ 項で異なれば、$t:=\beta|n$ について $g(\beta)$ と $g(\beta')$ は $\overline{f[N_{s_{t^\frown0}}]}$ と $\overline{f[N_{s_{t^\frown1}}]}$ に別々に入り、(c) から異なる。
    $\{0,1\}^{\mathbb N}$ はコンパクトで孤立点をもたない(Cantor集合)。$g$ は連続な単射なので、像 $P:=g[\{0,1\}^{\mathbb N}]$ はコンパクト、したがって $X$ の閉集合であり、$g$ は $P$ への同相写像である(孤立点 の記事の定理「完全集合への Cantor 集合の埋め込み」の証明の最後の段と同じ)。同相写像は孤立点を孤立点に写すので $P$ は孤立点をもたず、空でない完全集合である。$P\subseteq f[\mathcal N]=A$ である。濃度は prop-psp-cardinality による。$\square$

段 2 の選択は可算回の選択の連続であり、従属選択の公理を使っている。Mos09 は Suslin の定理を、木の「導来」を超限回くり返す別の証明で、$\kappa$-Suslin 集合についての Mansfield の一般化とともに示している(2C.2 The Perfect Set Theorem、pp. 59–61、Corollary 2C.3、p. 61)。

解析集合と Borel 集合の濃度

Polish 空間の解析集合、とくに Borel集合 は、高々可算であるか濃度 $2^{\aleph_0}$ をもつ。

thm-psp-suslin と prop-psp-cardinality の 2、および Borel 集合が解析集合であること(def-psp-analytic の後の注意)による。

選択公理のもとでの反例:Bernstein 集合

Bernstein 集合の存在

($\mathsf{ZFC}$)実数の集合 $B\subseteq\mathbb R$ で、$B$ と $\mathbb R\setminus B$ がともに $\mathbb R$ のすべての空でない完全集合と交わるものが存在する。このような $B$ は濃度 $2^{\aleph_0}$ をもつが、空でない完全集合を含まない。とくに $B$ は完全集合性質をもたない。

$\mathfrak c:=2^{\aleph_0}$ とし、$\mathfrak c$ を初期順序数(濃度 $\mathfrak c$ の最小の順序数)とみる。
完全集合の数え上げ。$\mathbb R$ の閉集合 $F$ は、補集合に含まれる有理端点の開区間の全体で決まるので、閉集合は高々 $\mathfrak c$ 個である。空でない完全集合は少なくとも一つある($[0,1]$)ので、選択公理 により空でない完全集合の全体を(重複を許して)$(P_\xi)_{\xi<\mathfrak c}$ と並べられる。prop-psp-cardinality の 1 により各 $\lvert P_\xi\rvert=\mathfrak c$ である。
超限再帰。$\xi<\mathfrak c$ について、すでに選んだ点 $\{a_\eta,b_\eta\mid\eta<\xi\}$ の濃度は $2\lvert\xi\rvert<\mathfrak c$($\mathfrak c$ は初期順序数)なので、$P_\xi$ の点でそれらと異なるものが $\mathfrak c$ 個残る。$\mathbb R$ の整列順序を一つ固定し、その中から最初の 2 点を $a_\xi< b_\xi$(整列順序で)として選ぶ。$B:=\{a_\xi\mid\xi<\mathfrak c\}$ とおく。
確かめ。$a_\xi\in B\cap P_\xi$ である。$b_\xi\notin B$ を示す:$\eta<\xi$ なら $a_\eta\ne b_\xi$($b_\xi$ は前に選んだ点と異なる)、$\eta=\xi$ なら $a_\xi\ne b_\xi$、$\eta>\xi$ なら $a_\eta$ は $b_\xi$ を含む前の点と異なるように選んだ。よって $b_\xi\in P_\xi\setminus B$ である。$a_\xi$ はすべて異なるので $\lvert B\rvert=\mathfrak c$ である。空でない完全集合 $P\subseteq B$ があれば $P=P_\xi$ となる $\xi$ があり、$b_\xi\in P\setminus B$ となって矛盾する。$\square$

この構成は Mos09 の演習 2C.4(p. 61)にある。選択公理は、完全集合の全体を長さ $\mathfrak c$ に並べるところと、$\mathbb R$ を整列するところで使っている。$\mathbb R$ の代わりに任意の非可算 Polish 空間でも同じ構成ができる。

選択公理・決定性・巨大基数

thm-psp-suslin と thm-psp-bernstein のあいだで、どの集合の族が完全集合性質をもつかは ZFC だけでは決まらない。次の結果が知られている。この記事では証明しない。

  • 解析集合の補集合での破れ:すべての実数が構成可能であるという仮定(たとえば $V=L$)のもとでは、解析集合の補集合($\boldsymbol\Pi^1_1$ 集合、射影階層)で、非可算なのに空でない完全集合を含まないものがある。Gödel が告知し、Addison が証明を与えた(Mos09 演習 5A.8、p. 212、5C 節の注、p. 215)。したがって Suslin の定理は ZFC では $\boldsymbol\Pi^1_1$ 集合に広げられない(同 p. 61)。
  • Solovay の結果:$\mathsf{ZFC}$ と到達不能基数の存在が無矛盾なら、$\mathsf{ZFC}$ に「非可算な射影集合はすべて空でない完全集合を含む」を加えた理論も無矛盾である(Mos09 定理 5B.6、p. 215。到達不能基数)。
  • 決定性:Davis は、I が有限列をまとめて指し II が $0$ か $1$ を指すゲーム $G^*(A)$ について、I が必勝なら $A$ が空でない完全集合を含み、II が必勝なら $A$ が可算であることを示した。したがって、Borel 同型による引き戻しなどで閉じた集合の族 $\Lambda$ について、$\Lambda$ に属する集合のゲーム $G^*$ がすべて決定されるなら、$\Lambda$ は完全集合性質をもつ(Mos09 演習 6A.10–6A.12、pp. 224–225。正確な閉包条件は同所)。決定性公理 のもとでは、すべての実数の集合が完全集合性質をもつ(決定性公理 の記事の節「決定性公理から従うこと」)。したがって、$\mathsf{ZF}+\mathsf{AD}$ が無矛盾である限り、thm-psp-bernstein は $\mathsf{ZF}$ だけでは証明できず、選択公理を必要とする。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
$A$ が解析集合(任意の集合にする。$\mathsf{ZFC}$)Bernstein 集合 $B$非可算なら空でない完全集合を含むこと(thm-psp-suslin)
$A$ が非可算$A=\mathbb Q$空でない完全集合を含むこと
空間が完備($X=\mathbb Q$ とする)$X=\mathbb Q$ 自身空でない完全集合は濃度 $2^{\aleph_0}$(prop-psp-cardinality の 1)
反例の確かめ

1 行目:$B$ は $\mathbb R$ の部分集合で、$\mathbb R$ は Polish 空間であり、$B$ は非可算である(thm-psp-bernstein)。2 行目:$\mathbb Q$ は $\mathbb R$ の解析集合(可算集合 $\{q_0,q_1,\dots\}$ は $\alpha\mapsto q_{\alpha(0)}$ による $\mathcal N$ の連続像)だが、空でない完全集合は prop-psp-cardinality の 1 より非可算なので $\mathbb Q$ に含まれない。完全集合性質の定義では高々可算な集合は除外されているので、これは性質の定義と矛盾しない。3 行目:$\mathbb Q$ は可算な開基をもつ距離空間で、$\mathbb Q$ 自身は $\mathbb Q$ の閉集合で孤立点をもたないので $\mathbb Q$ の完全集合だが、可算である。$\mathbb Q$ の位相と両立する完備な距離はない(孤立点 の記事の系「孤立点のない完備距離空間は非可算」の後の注意)。

補足

歴史と文献

閉集合の場合は Cantor と Bendixson、解析集合の場合は Suslin による(Lusin 1917 で告知された。Mos09 2I 節の注 7、p. 85)。Borel 集合は解析集合なので、Suslin の定理は Borel 集合についての連続体仮説を含む。完全集合性質は、Baireの性質 や Lebesgue 可測性とならぶ「実数の集合の正則性」の一つである。Bernstein 集合は、選択公理 の記事の例「Vitali集合の構成」と同じく、選択公理で作られる正則でない集合の例である。

関連項目

参考文献

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