エキゾチックR⁴

同義語:exotic R⁴エキゾチックR4exotic R4fake R4R4の異種な滑らかな構造

概要

エキゾチックR⁴(exotic $\mathbb{R}^4$)とは、$\mathbb{R}^4$ と同相だが標準的な $\mathbb{R}^4$ と微分同相でない滑らかな 4 次元多様体のことである。$n\ne4$ なら $\mathbb{R}^n$ と同相な滑らかな多様体は $\mathbb{R}^n$ と微分同相だが、$\mathbb{R}^4$ の上には互いに微分同相でない滑らかな構造が非可算個ある(Taubes)。存在は Freedman の定理と Donaldson の定理の食い違いから導かれ、$S^2\times S^2$ から位相的には切り離せる芯を滑らかに切り離せると仮定すると、Donaldson の定理に反する閉多様体ができる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 可微分多様体, 円板定理, Freedmanの定理, Donaldsonの定理, 境界に沿った貼り合わせと連結和

エキゾチック $\mathbb{R}^4$(exotic $\mathbb{R}^4$)は、$\mathbb{R}^4$ と同相だが、標準的な $\mathbb{R}^4$ と微分同相でない滑らかな $4$ 次元多様体である。$n\ne4$ なら $\mathbb{R}^n$ と同相な滑らかな多様体はすべて $\mathbb{R}^n$ と微分同相になるので、この現象は $4$ 次元だけで起こる。しかも $\mathbb{R}^4$ の上には、互いに微分同相でない滑らかな構造が非可算個ある(Taubes)。
エキゾチック $\mathbb{R}^4$ の存在は、Freedmanの定理 と Donaldsonの定理 の食い違いから導かれた。位相的には、$\mathbb{C}P^2\#10\overline{\mathbb{C}P^2}$ の中で $S^2\times S^2$ の「芯」を切り離せるが、滑らかにそれができると、Donaldson の定理に反する負定値の多様体が作れてしまう。この矛盾が、ある開集合の上の滑らかな構造が標準的でないことを示す。
この記事では、滑らかな構造が標準的であることを「どのコンパクト集合も滑らかな $4$ 次元球体の内部に入る」ことで判定する命題を、円板定理 から完全に証明する。そのうえで、Freedman の仕事から得られる開集合と埋め込みの存在を所在付きで引用し、そこからエキゾチック $\mathbb{R}^4$ の存在を Donaldson の定理で導く議論を示す。Taubes の非可算個の構成、小さいエキゾチック $\mathbb{R}^4$ の存在は引用する。

定義と規約

多様体は Hausdorff かつ第 2 可算で境界のないものとし、「滑らか」は $C^\infty$ 級を指す。$\mathbb{R}^n$ の開球を $B_\rho:=\{x:\lvert x\rvert<\rho\}$、閉球を $D(\rho):=\{x:\lvert x\rvert\le\rho\}$、$D^n:=D(1)$ とする。$\mathbb{R}^n$ には標準的な滑らかな構造を入れる。

エキゾチック $\mathbb{R}^4$

滑らかな $4$ 次元多様体 $R$ が $\mathbb{R}^4$ と同相で、$\mathbb{R}^4$ と微分同相でないとき、$R$ をエキゾチック $\mathbb{R}^4$ という。同相写像 $h\colon R\to\mathbb{R}^4$ で $R$ の滑らかな構造を $\mathbb{R}^4$ の上に移したものを、$\mathbb{R}^4$ の上のエキゾチックな滑らかな構造という。

$\mathbb{R}^4$ と微分同相な滑らかな構造を標準的という。$\mathbb{R}^4$ の上の滑らかな構造 $\mathcal{A}$ が標準的であるとは、$(\mathbb{R}^4,\mathcal{A})$ から標準的な $\mathbb{R}^4$ への微分同相写像があることで、恒等写像が微分同相であることではない(たとえば同相写像 $\varphi(x)=(x_1^3,x_2,x_3,x_4)$ を大域的な座標とする構造では、恒等写像は滑らかでないが、$\varphi$ が標準的な $\mathbb{R}^4$ への微分同相写像なので標準的である)。
滑らかな円板は 円板定理 の定義「滑らかな円板」の意味とする。すなわち $f\colon D^n\to M$ が滑らかな円板であるとは、ある $\rho>1$ と、$B_\rho$ から $M$ の開集合への微分同相写像 $F$ で $F\vert_{D^n}=f$ となるものがあることである。$\lambda>0$ について、$g\colon D(\lambda)\to M$ が半径 $\lambda$ の滑らかな円板であるとは、$x\mapsto g(\lambda x)$ が滑らかな円板であることとする。向きを保つかどうかも同じく $x\mapsto g(\lambda x)$ で判定する。

主な事実

エキゾチック $\mathbb{R}^4$ についての主な事実
  1. $n\ne4$ なら、$\mathbb{R}^n$ と同相な滑らかな多様体は $\mathbb{R}^n$ と微分同相である。
  2. エキゾチック $\mathbb{R}^4$ が存在する。
  3. 互いに微分同相でないエキゾチック $\mathbb{R}^4$ が非可算個存在する(Taubes)。
次元による違い

1 と 2 を合わせると、$\mathbb{R}^n$ について「同相ならば微分同相」が成り立たないのは $n=4$ だけであることが分かる。3 はさらに、$4$ 次元では滑らかな構造が 1 つに定まらないだけでなく、非可算個の異なる構造があることを述べる。この現象は 4 次元に固有であり、位相的な事実と滑らかな事実のずれが他の次元よりはるかに大きい。以下の節では、2 の証明の筋道として、位相的に切り離せる球面が滑らかには切り離せないという形の議論を行う。

1 は Lee13 Ch. 2(p. 40)による。$n\le3$ では位相多様体の滑らかな構造が微分同相を除いて一意であることから従う(同所。Moise の仕事による。Moiseの定理)。3 は Lee13 Ch. 2(p. 40)、Rud01 Summary 2(p. 86。$4$ 次元では PL 構造と滑らかな構造が 1 対 1 に対応する(同 p. 14)ので、同じことを PL 多様体で述べている)、Kos93 Ch. VIII §7(p. 165)、Kir89 Ch. XIV(p. 95)による。1 と 3 はこの記事では証明しない。2 は、Freedman の仕事から得られる事実(thm-exo-ingredients)を引用したうえで、節「存在の証明」で Donaldson の定理から導く。

滑らかな球体による判定

標準的な $\mathbb{R}^4$ では、どのコンパクト集合も十分大きな丸い球の内部に入る。この性質が標準性を特徴づける。

滑らかな球体による標準性の判定

$R$ を $\mathbb{R}^4$ と同相な滑らかな多様体とする。次の 2 つは同値である。

  1. $R$ は $\mathbb{R}^4$ と微分同相である。
  2. $R$ の任意のコンパクト集合 $K$ について、滑らかな円板 $f\colon D^4\to R$ で $K\subset f(B_1)$ となるものがある。

1 ⇒ 2. $\Phi\colon R\to\mathbb{R}^4$ を微分同相写像とする。$\Phi(K)$ はコンパクトなので、ある $r>0$ で $\Phi(K)\subset B_r$ である。$F(x):=\Phi^{-1}(rx)$ は $B_2$ から $R$ の開集合への微分同相写像なので、$f:=F\vert_{D^4}$ は滑らかな円板で、$f(B_1)=\Phi^{-1}(B_r)\supset K$ である。
2 ⇒ 1. $R$ は単連結な多様体なので向き付け可能である(Hat02 Proposition 3.25、p. 234)。向きを 1 つ固定する。滑らかな円板 $f$ が向きを逆にするなら、鏡映 $r$ との合成 $f\circ r$ は向きを保ち、$f\circ r(B_1)=f(B_1)$ である。よって 2 の $f$ はつねに向きを保つものにとれる。
$R$ は第 2 可算で局所コンパクトなので、コンパクト集合の増大列 $K_1\subset K_2\subset\cdots$ で $\bigcup_iK_i=R$ となるものがある。次の性質をもつ向きを保つ半径 $i$ の滑らかな円板 $E_i\colon D(i)\to R$($i=1,2,\dots$)を帰納的に作る。
(a) $K_i\subset E_i(D(i))$。(b) $E_{i+1}\vert_{D(i)}=E_i$。
$E_1$ は、2 を $K_1$ に当てはめた向きを保つ円板でよい。$E_i$ まで作ったとする。$K':=K_{i+1}\cup E_i(D(i))$ はコンパクトなので、2 により向きを保つ滑らかな円板 $f$ で $K'\subset f(B_1)$ となるものがある。$f$ を延ばす開埋め込みを $B_\rho$ の上で $F$ とし、$G(x):=F\bigl(x/(i+1)\bigr)$ とおくと、$G$ は $B_{(i+1)\rho}$ から $R$ の開集合への向きを保つ微分同相写像で、$G(B_{i+1})=f(B_1)\supset K'$ である。
$E_i$ を延ばす開埋め込みを $F_i\colon B_{i\rho'}\to R$ とする。$E_i(D(i))$ はコンパクトで開集合 $G(B_{i+1})$ に含まれるので、$\rho'>1$ を小さく取り直して $F_i(B_{i\rho'})\subset G(B_{i+1})$ としてよい。すると $h:=G^{-1}\circ E_i\colon D(i)\to B_{i+1}$ は、開埋め込み $G^{-1}\circ F_i$ の制限であり、連結な多様体 $B_{i+1}$ の中の向きを保つ半径 $i$ の滑らかな円板である。包含 $\iota\colon D(i)\to B_{i+1}$ も向きを保つ半径 $i$ の滑らかな円板である。$x\mapsto h(ix)$ と $x\mapsto ix$ に 円板定理(定理「円板定理」の 1)を当てはめると、$B_{i+1}$ の向きを保つ微分同相写像 $\Phi$ で、あるコンパクト集合 $C\subset B_{i+1}$ の外で恒等写像となり、$\Phi\circ h=\iota$ となるものがある。
$\Phi$ を $B_{(i+1)\rho}\setminus C$ の上で恒等写像として延ばすと、$B_{(i+1)\rho}$ の微分同相写像になる。そこで
$$ E_{i+1}:=G\circ\Phi^{-1}\big\vert_{D(i+1)} $$
とおくと、$E_{i+1}$ は開埋め込み $G\circ\Phi^{-1}\colon B_{(i+1)\rho}\to R$ の制限なので、向きを保つ半径 $i+1$ の滑らかな円板である。$x\in D(i)$ について $\Phi(h(x))=x$ なので $\Phi^{-1}(x)=h(x)$ で、
$$ E_{i+1}(x)=G(h(x))=G\bigl(G^{-1}(E_i(x))\bigr)=E_i(x) $$
となり (b) が成り立つ。$\Phi^{-1}(B_{i+1})=B_{i+1}$ なので $E_{i+1}(D(i+1))\supset G(B_{i+1})\supset K_{i+1}$ で、(a) が成り立つ。
(b) により、$x\in D(i)$ について $E(x):=E_i(x)$ と定めた写像 $E\colon\mathbb{R}^4\to R$ は $i$ の取り方によらない。各 $B_{i+1}$ の上で $E$ は開埋め込みの制限 $E_{i+1}\vert_{B_{i+1}}$ に一致するので、$E$ は滑らかで、各点の近くで微分同相である。$x,y\in\mathbb{R}^4$ はある $D(j)$ に入り、$E_j$ は単射なので、$E$ は単射である。(a) により $E(\mathbb{R}^4)\supset\bigcup_iK_i=R$ で、$E$ は全射である。全単射で局所的に微分同相な写像は微分同相写像なので、$R$ は $\mathbb{R}^4$ と微分同相である。$\square$

エキゾチックであることの言い換え

$\mathbb{R}^4$ と同相な滑らかな多様体 $R$ がエキゾチックであることと、$R$ のあるコンパクト集合 $K$ が、どの滑らかな円板 $f$ についても $f(B_1)$ に含まれないことは同値である。

これは prop-exo-balls の対偶である。証明で円板定理が効いているのは、$2$ つの滑らかな球体が入れ子になっているとき、そのあいだの領域が標準的な殻になるようにそろえ直せる、という点である。

存在の証明

$M:=\mathbb{C}P^2\#10\,\overline{\mathbb{C}P^2}$ とする($\mathbb{C}P^2$ は複素構造の向き、$\overline{\mathbb{C}P^2}=-\mathbb{C}P^2$)。$M$ は滑らかで単連結な閉 $4$ 次元多様体で、交叉形式は $\langle1\rangle\oplus10\langle-1\rangle$ である(FNOP25 Example 8.2 (2)・Proposition 8.3、p. 61)。単連結なので $H_2(M)$ はねじれをもたず、交叉形式を Poincaré 双対で $H_2(M)$ の上の形式 $x\cdot y$ と見る。

形式の分解

交叉形式の分解
  1. $H_2(M)$ の元 $\alpha$、$\beta$ で、$\alpha\cdot\alpha=\beta\cdot\beta=0$、$\alpha\cdot\beta=1$ となり、$A:=\mathbb{Z}\alpha\oplus\mathbb{Z}\beta$ の直交補空間 $A^\perp$ が $-(E_8\oplus\langle1\rangle)$ と同型なものがある。さらに $H_2(M)=A\oplus A^\perp$ である。
  2. 一般に、形式 $L$ が直交直和 $L=A\oplus B$ で $A$ がユニモジュラなら、$B=A^\perp$ である。

2. $B\subset A^\perp$ は直交性から明らかである。$x\in A^\perp$ を $x=a+b$($a\in A$、$b\in B$)と書くと、すべての $a'\in A$ で $a\cdot a'=x\cdot a'-b\cdot a'=0$ である。$A$ はユニモジュラなので非退化で、$a=0$ となる。よって $x=b\in B$ である。
1. 形式 $L':=-(E_8\oplus\langle1\rangle)\oplus H$ を考える。$L'$ はユニモジュラ(直和の Gram 行列の行列式は $\pm1$ の積)で、$-\langle1\rangle$ の生成元の長さが $-1$ なので奇、$H$ が正と負の方向をもつので不定値である。階数は $8+1+2=11$、符号数は $-9+0=-9$ である。Rokhlinの定理 の定理「奇で不定値の形式の分類」により $L'\cong p\langle1\rangle\oplus q\langle-1\rangle$ で、$p+q=11$、$p-q=-9$ から $p=1$、$q=10$ である。よって同型 $L'\cong H_2(M)$ があり、$H$ の標準的な基底の像を $\alpha$、$\beta$ とすれば $\alpha\cdot\alpha=\beta\cdot\beta=0$、$\alpha\cdot\beta=1$ である。$H_2(M)=A\oplus B$($B$ は $-(E_8\oplus\langle1\rangle)$ の像)は直交直和で、$A\cong H$ はユニモジュラなので、2 により $A^\perp=B\cong-(E_8\oplus\langle1\rangle)$ である。$\square$

引用する事実

次の事実は Freedman の仕事(Casson ハンドルが位相的には標準的なハンドルと同相であること、位相的な固有 h 同境定理)を使う。

Freedman の仕事から得られる開集合と埋め込み

lem-exo-form の $\alpha$、$\beta$ について、$M$ の開集合 $W$、$W$ に含まれるコンパクト集合 $C$、滑らかな開埋め込み $j\colon W\to S^2\times S^2$ で、次をみたすものがある。

  1. $C$ は、1 点で交わる 2 つの位相的に埋め込まれた $2$ 次元球面の和で、それらの基本類は $H_2(M)$ で $\alpha$ と $\beta$ である。$W$ は連結である。
  2. $R_\Sigma:=(S^2\times S^2)\setminus j(C)$ は $\mathbb{R}^4$ と同相である。
この定理の位置づけ

この定理は証明を与えず、Freedman の仕事から得られる位相的な事実として引用する。ここで得られるのは、位相的には $\mathbb{R}^4$ と同相な開集合 $R_\Sigma$ と、それを含む $S^2\times S^2$ の構造である。滑らかさについては何も保証されておらず、$R_\Sigma$ の滑らかな構造は $S^2\times S^2$ から受け継ぐものを使う。次の定理で、この滑らかな構造が標準的な $\mathbb{R}^4$ と異なることを、Donaldson の定理との矛盾を利用して示す。

これは Kir89 Ch. XIV Theorem 1 の証明(pp. 95–96)の前半で、$W$ は $0$ ハンドルに $2$ つの Casson ハンドルをつけて境界を除いたもの($S^2\times S^2$ から 1 点を除いたものと同相)、$C$ はその位相的な芯であり、2 は Freedman の位相的な固有 h 同境定理による(同所。Casson ハンドルについては Kir89 Ch. XII–XIII、pp. 72–94)。この記事では証明しない。
$R_\Sigma$ は $S^2\times S^2$ の開集合なので、$S^2\times S^2$ から滑らかな構造を受け継ぐ。$K:=(S^2\times S^2)\setminus j(W)$ とおく。$K$ はコンパクト $S^2\times S^2$ の閉集合なのでコンパクトで、$j(C)\subset j(W)$ なので $K\subset R_\Sigma$ である。

証明

エキゾチック $\mathbb{R}^4$ の存在

$S^2\times S^2$ から滑らかな構造を受け継いだ $R_\Sigma$ はエキゾチック $\mathbb{R}^4$ である。さらに、$R_\Sigma$ のどの滑らかな円板 $f$ についても $K\not\subset f(B_1)$ である。

$R_\Sigma$ が $\mathbb{R}^4$ と同相であることは thm-exo-ingredients の 2 である。後半を示せば、cor-exo-balls により $R_\Sigma$ はエキゾチックである。
滑らかな円板 $f\colon D^4\to R_\Sigma$ で $K\subset f(B_1)$ となるものがあったとする。
段 1:分解。 $V':=(S^2\times S^2)\setminus f(B_1)$ は、境界 $S:=f(\partial D^4)$ をもつコンパクトな滑らかな部分多様体である。$K\subset f(B_1)$ なので $V'\subset j(W)$ であり、$f(B_1)\subset R_\Sigma$ は $j(C)$ と交わらないので $j(C)\subset V'$ である。$V:=j^{-1}(V')$ とおくと、$V$ は $M$ のコンパクトな滑らかな部分多様体で、境界は $S':=j^{-1}(S)$($S^3$ と微分同相)、$C\subset V$ である。$X:=M\setminus(V\setminus S')$ とおくと、$X$ は境界 $S'$ をもつコンパクトな滑らかな部分多様体で、$M=V\cup X$、$V\cap X=S'$ である。$X$ の連結成分で $S'$ と交わらないものは $M$ の開かつ閉な部分集合になるので、$M$ の連結性からそのような成分はなく、$S'$ は連結なので $X$ は連結である。
$X$ に $4$ 次元の球体 $D^4$ を $S'$ に沿って貼った滑らかな閉多様体を $M'$ とする(境界に沿った貼り合わせと連結和 の定理「貼り合わせの滑らかな構造」)。$W$ は連結なので、$S^2\times S^2$ に $j$ が向きを保つような向きを入れられる。$V\cup_{S}f(D^4)$ は $S^2\times S^2$ そのものなので、$M$ は $S^2\times S^2$ と $M'$ から球体を 1 つずつ除いて境界の球面で貼ったもの、すなわち連結和 $(S^2\times S^2)\#M'$ である。$M'$ は連結な滑らかな閉多様体である。
段 2:交叉形式。 連結和の交叉形式の公式(FNOP25 Proposition 8.3、p. 61)により、包含から来る同型 $H_2(V)\oplus H_2(X)\to H_2(M)$ があり、これは $Q_{S^2\times S^2}\oplus Q_{M'}$ を $M$ の交叉形式に移す($H_2(V)\cong H_2(S^2\times S^2)$、$H_2(X)\cong H_2(M')$ は球体を除いても $H_2$ が変わらないことによる)。$H_2(V)$、$H_2(X)$ の $H_2(M)$ での像を $P$、$P'$ とすると、$H_2(M)=P\oplus P'$ は直交直和で、$P\cong H$、$P'\cong Q_{M'}$ である。
$C\subset V$ なので $\alpha,\beta\in P$ である。$A=\mathbb{Z}\alpha\oplus\mathbb{Z}\beta$ と $P$ はどちらも階数 $2$ で、$A\subset P$ である。Gram 行列の行列式は $A$ で $-1$、$P$ で $-1$ で、指数 $[P:A]$ について $\det(A)=[P:A]^2\det(P)$ なので $[P:A]=1$、すなわち $P=A$ である。lem-exo-form の 2 により $P'=A^\perp\cong-(E_8\oplus\langle1\rangle)$ である。よって $Q_{M'}\cong-(E_8\oplus\langle1\rangle)$ で、これは負定値で階数 $9$ である。
段 3:矛盾。 $M'$ は連結な滑らかな閉 $4$ 次元多様体で、交叉形式は負定値なので、Donaldsonの定理 により $Q_{M'}\cong9\langle-1\rangle$ である。一方、正定値な形式 $E_8\oplus\langle1\rangle$ は長さ $1$ の元をちょうど $2$ 個しかもたず(Donaldsonの定理 の例「対角化できない定値な形式」の 3)、$2\ne18$ なので対角化できない(同じ記事の補題「長さ 1 のベクトルの分離」の 3)。したがって $-(E_8\oplus\langle1\rangle)$ も $9\langle-1\rangle$ と同型でなく、矛盾する。$\square$

この議論は Kir89 Ch. XIV Theorem 1 の証明(pp. 95–96)の後半を、prop-exo-balls で整えたものである。段 1 の $S'$ は、$M$ の中で $\alpha$、$\beta$ の側と $-(E_8\oplus\langle1\rangle)$ の側を分ける滑らかな $3$ 次元球面になる。位相的にはそのような球面がある($C$ の近くの $W$ は $S^2\times S^2$ から 1 点を除いたものと同相である)が、滑らかにはない。これが Freedman の定理(位相)と Donaldson の定理(滑らか)の食い違いの現れである。
$R_\Sigma$ のコンパクト集合 $K$ は、どの滑らかな球体の内部にも入らない。同じ議論で、$K$ は滑らかなホモトピー $4$ 球面の中に滑らかに埋め込めない($\mathbb{R}^4$ と同相な $K$ の開近傍がホモトピー $4$ 球面 $Q$ に滑らかに入れば、$M$ の中の $W$ の部分を $Q$ の一部で取り替えて、交叉形式 $-(E_8\oplus\langle1\rangle)$ の滑らかな閉多様体が作れてしまう。Kir89 Ch. XIV Remark 2、p. 96)。とくに $R_\Sigma$ は $S^4$ にも標準的な $\mathbb{R}^4$ にも滑らかに埋め込めない。

ほかのエキゾチック $\mathbb{R}^4$

エキゾチック $\mathbb{R}^4$ の例
  1. 可算個の族(Gompf):$R_\Sigma$ の可算個の写しを、無限遠へ向かう滑らかな弧に沿って順につないだ「端の連結和」$E$ は $\mathbb{R}^4$ と同相である。$E$ の中で半径 $i$ の開球(位相的な座標でとったもの)に $E$ から受け継いだ滑らかな構造を入れると、$i=1,2,3,\dots$ で互いに微分同相でないエキゾチック $\mathbb{R}^4$ が得られる(Kir89 Ch. XIV Theorem 2、pp. 96–98)。区別には、$i< j$ で微分同相があると、$K$ の写しを含むホモトピー $4$ 球面が作れて、存在の証明の後に述べた注意(Kir89 Remark 2)に反する、という議論を使う。
  2. $S^4$ に埋め込めるもの(Casson と Freedman):$S^4$ に滑らかに埋め込めるエキゾチック $\mathbb{R}^4$ がある(Kir89 Ch. XIV Theorem 3、pp. 98–101)。構成には、h 同境だが微分同相でない滑らかな閉多様体の組($\mathbb{C}P^2\#9\overline{\mathbb{C}P^2}$ と Dolgachev 曲面。Donaldsonの定理 の補足)を使う。$R_\Sigma$ と違って $S^4$ に滑らかに埋め込める。
  3. 非可算個の族(Taubes):$R_\Sigma$ の中の十分大きな半径 $r$ の開球(位相的な座標でとったもの)に受け継いだ滑らかな構造は、$r$ ごとに互いに微分同相でないエキゾチック $\mathbb{R}^4$ を与え、非可算個の族になる(Kir89 Ch. XIV、p. 95。区別は Taubes による)。

2 の例 $R_\Theta\subset S^4$ でも、cor-exo-balls により、$R_\Theta$ のあるコンパクト集合 $K$ は $R_\Theta$ の中のどの滑らかな球体の内部にも入らない。一方 $S^4$ の中では、$R_\Theta$ の外の点のまわりの小さな球体を $S^4$ から除いたものが、$K$ を含む滑らかな球体になる。prop-exo-balls の条件 2 は、球体が $R$ の中に収まることを要求している。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
次元 $n\ne4$$R_\Sigma$$\mathbb{R}^n$ と同相な滑らかな多様体は $\mathbb{R}^n$ と微分同相
次元 $n\ne4$$R_\Sigma$$\mathbb{R}^n$ と同相な滑らかな多様体は $S^n$ に滑らかに埋め込める
次元 $n\ne4$$R_\Sigma$ と $\mathbb{R}^4$ を結ぶ固有 h 同境両端が $\mathbb{R}^n$ と同相な固有 h 同境の両端は微分同相
どのコンパクト集合も滑らかな球体の内部に入ること$R_\Sigma$ と $K$$\mathbb{R}^4$ と同相な滑らかな多様体は $\mathbb{R}^4$ と微分同相
反例の確認

1 行目:$n\ne4$ では thm-exo-facts の 1 により成り立つ。$n=4$ では thm-exo-existence の $R_\Sigma$ が $\mathbb{R}^4$ と同相で微分同相でない。
2 行目:$n\ne4$ なら $\mathbb{R}^n$ と微分同相なので、$S^n$ から 1 点を除いた開集合として $S^n$ に埋め込める(立体射影)。$R_\Sigma$ は thm-exo-existence の後の注意のとおり $S^4$ に滑らかに埋め込めない。
3 行目:$n\ne4$ なら両端がともに $\mathbb{R}^n$ と微分同相なので結論は自明に成り立つ。$R_\Sigma\times[0,1]$ から、$R_\Sigma\times\{1\}$ のうち $\mathbb{R}^4$ と微分同相な 1 つの座標近傍以外を除くと、$R_\Sigma$ と $\mathbb{R}^4$ を結ぶコンパクトでない固有 h 同境が得られる(Kir89 Ch. XIV、p. 98)が、両端は微分同相でない。コンパクトな場合の h同境定理 も $5$ 次元では成り立たない(Donaldsonの定理 の補足)。
4 行目:prop-exo-balls の条件 2 を外すと結論は成り立たない。$R_\Sigma$ は $\mathbb{R}^4$ と同相だが、コンパクト集合 $K$ がどの滑らかな球体の内部にも入らず(thm-exo-existence)、$\mathbb{R}^4$ と微分同相でない。

補足

  • 積をとると消える:エキゾチック $\mathbb{R}^4$ の $R$ について、$R\times\mathbb{R}$ は $\mathbb{R}^5$ と同相な滑らかな多様体なので、thm-exo-facts の 1($n=5$)により $\mathbb{R}^5$ と微分同相である。エキゾチック性は $4$ 次元に固有の現象である。
  • 普遍的なエキゾチック $\mathbb{R}^4$:Freedman と Taylor は、ほかのすべてのエキゾチック $\mathbb{R}^4$ を開集合として含むエキゾチック $\mathbb{R}^4$ を構成した(Kir89 Ch. XIV、p. 95)。
  • コンパクトな場合:$S^4$ の上にエキゾチックな滑らかな構造があるか(滑らかな $4$ 次元 Poincaré 予想)は、この記事の方法では分からない。$S^4$ と同相な滑らかな多様体は、Freedman の定理により $S^4$ と同相であることまでは分かる(Freedmanの定理 の系「4 次元の位相的な Poincaré 予想」)。
  • 3 次元以下:位相多様体の滑らかな構造は微分同相を除いて一意なので(Lee13 Ch. 2、p. 40、Moiseの定理)、エキゾチックな $\mathbb{R}^3$ はない。

関連項目

参考文献

[1]
Robion C. Kirby, The Topology of 4-Manifolds, Lecture Notes in Mathematics 1374, Springer-Verlag, 1989, Ch. XII–XIII(Casson ハンドルと Freedman の仕事、pp. 72–94);Ch. XIV(エキゾチック R^4:Freedman–Taylor と Taubes への言及 p. 95、Theorem 1 の証明と Remark 1・2 pp. 95–96、Theorem 2(Gompf)pp. 96–98、固有 h 同境の例と Theorem 3(Casson と Freedman)pp. 98–101)
[2]
Stefan Friedl, Matthias Nagel, Patrick Orson, Mark Powell, The foundations of four-manifold theory in the topological category, New York Journal of Mathematics Monographs, New York Journal of Mathematics Monographs 6(2025)。arXiv:1910.07372 の刊行版。頁は刊行版の頁:Example 8.2・Proposition 8.3(p. 61)
[3]
John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, Graduate Texts in Mathematics 218, Springer, 2013, Ch. 2(p. 40。n≠4 なら R^n の滑らかな構造は一意、R^4 には非可算個、3 次元以下の位相多様体の滑らかな構造の一意性)
[4]
Yuli B. Rudyak, Piecewise Linear Structures on Topological Manifolds, arXiv:math/0105047, arXiv:math/0105047v2(2014-12-24。のち World Scientific 2016 から同名の本として刊行)。Introduction(7 次元未満の PL 多様体の滑らかな構造は一意、p. 14);§21 Summary 2(R^4 と同相な PL 多様体が非可算個、p. 86)
[5]
Antoni A. Kosinski, Differential Manifolds, Pure and Applied Mathematics 138, Academic Press, 1993, Ch. VIII §7(R^4 の上の非可算個の滑らかな構造、p. 165)

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