Grothendieckスペクトル系列(Grothendieck spectral sequence)とは、十分な入射対象をもつアーベル圏の間の左完全関手 $G\colon\mathcal A\to\mathcal B$、$F\colon\mathcal B\to\mathcal C$ について、$G$ が入射対象を $F$ 非輪状な対象に写すとき、各対象 $A$ に対して存在する第 1 象限のスペクトル系列 $E_2^{p,q}=R^pF(R^qG(A))\Rightarrow R^{p+q}(FG)(A)$ のことである。証明は、$A$ の入射分解に $G$ を施した複体の Cartan–Eilenberg 分解の 2 つのフィルトレーションを比べる。層の Leray スペクトル系列、群の Lyndon–Hochschild–Serre スペクトル系列、Ext の底変換はその例である。
前提知識: 導来関手, スペクトル系列, 二重複体, Cartan–Eilenberg分解
2 つの左完全関手 $G\colon\mathcal A\to\mathcal B$、$F\colon\mathcal B\to\mathcal C$ を合成した $F\circ G$ の 導来関手 は、$F$ と $G$ の導来関手から計算できるだろうか。$F$ が完全なら答えは単純($R^n(FG)\cong F\circ R^nG$)だが、一般には $R^n(FG)$ は $R^pF$ と $R^qG$ の組み合わせ($p+q=n$)から「積み上がって」できていて、その積み上がり方を記述するのが Grothendieck スペクトル系列(Grothendieck spectral sequence)
$$
E_2^{p,q}=R^pF\bigl(R^qG(A)\bigr)\ \Longrightarrow\ R^{p+q}(FG)(A)
$$
である。仮定は、$G$ が入射対象を $F$ で計算しやすい対象($F$ 非輪状な対象)に写すことだけである。
この 1 つの定理から、層の Lerayスペクトル系列、群コホモロジー の Lyndon–Hochschild–Serre スペクトル系列、Ext の底変換のスペクトル系列などが一斉に得られる。証明は、$A$ の入射分解に $G$ を施した複体の Cartan–Eilenberg分解 をとり、その二重複体の 2 つのフィルトレーションを比べるものである。
$\mathcal A$、$\mathcal B$、$\mathcal C$ をアーベル圏とし、$\mathcal A$ と $\mathcal B$ は十分な入射対象をもつとする。$G\colon\mathcal A\to\mathcal B$、$F\colon\mathcal B\to\mathcal C$ は左完全な加法関手とする。左完全関手の合成は左完全なので、$FG$ の右導来関手 $R^n(FG)$ も定まる。
左完全関手 $F\colon\mathcal B\to\mathcal C$ について、$\mathcal B$ の対象 $B$ が $F$ 非輪状($F$-acyclic)であるとは、すべての $q>0$ で $R^qF(B)=0$ となることをいう。入射対象は $F$ 非輪状である(導来関手 の命題「射影対象・入射対象での高次導来関手の消滅」)。
$\mathcal A$ に十分な入射対象が要るのは $R^qG$ と $R^n(FG)$ を定めるため、$\mathcal B$ に要るのは $R^pF$ を定め、証明で複体 $G(I^\bullet)$ の Cartan–Eilenberg 分解をとるためである。$\mathcal C$ には何も仮定しない。
仮定「$G$ が入射対象を $F$ 非輪状な対象に写す」を確かめるには、次の補題がよく使われる。
加法関手 $G\colon\mathcal A\to\mathcal B$ が完全な関手 $L\colon\mathcal B\to\mathcal A$ の右随伴なら、$G$ は入射対象を入射対象に写す。とくに $G(I)$ は任意の左完全関手 $F$ について $F$ 非輪状である。
要点:$\operatorname{Hom}(-,G(I))\cong\operatorname{Hom}(L(-),I)$ は完全関手の合成である。
$I$ を $\mathcal A$ の入射対象とする。随伴関手 の同型 $\operatorname{Hom}_{\mathcal B}(B,G(I))\cong\operatorname{Hom}_{\mathcal A}(L(B),I)$ は $B$ について自然である。右辺は、完全関手 $L$ と完全な反変関手 $\operatorname{Hom}_{\mathcal A}(-,I)$(入射対象・射影対象 の命題「Hom 関手の完全性による特徴づけ」の双対)の合成なので、$B$ について完全である。よって $\operatorname{Hom}_{\mathcal B}(-,G(I))$ は完全で、$G(I)$ は入射対象である。$\square$
上の設定で、$G$ が $\mathcal A$ の入射対象を $F$ 非輪状な対象に写すとする。このとき $\mathcal A$ の各対象 $A$ について、第 1 象限のスペクトル系列
$$
E_2^{p,q}=R^pF\bigl(R^qG(A)\bigr)\ \Longrightarrow\ R^{p+q}(FG)(A)
$$
がある。すなわち $R^n(FG)(A)$ に有限の減少フィルトレーション $R^n(FG)(A)=\Phi^0\supset\Phi^1\supset\cdots\supset\Phi^{n+1}=0$ があり、$\Phi^p/\Phi^{p+1}\cong E_\infty^{p,n-p}$ となる。
$A$ の入射分解 $A\to I^\bullet$ を選び、$\mathcal B$ の複体 $K:=G(I^\bullet)$ を考える。$K$ は次数 $0$ 以上にあり、導来関手の定義から
$$
H^q(K)=H^q\bigl(G(I^\bullet)\bigr)=R^qG(A)
$$
である。仮定により、各項 $K^p=G(I^p)$ は $F$ 非輪状である。
$K$ の Cartan–Eilenberg 分解 $K\to J$ を選び(Cartan–Eilenberg分解 の定理「Cartan–Eilenberg分解の存在と全複体」)、$\mathcal C$ の二重複体 $F(J)$ と、その全複体のコホモロジー、すなわち超導来関手 $\mathbf R^nF(K)=H^n(\operatorname{Tot}F(J))$ を考える。これを 2 通りに計算する。
列の側。$K$ の項はすべて $F$ 非輪状なので、Cartan–Eilenberg分解 の系「非輪状な項をもつ複体」により
$$
\mathbf R^nF(K)\cong H^n\bigl(F(K)\bigr)=H^n\bigl(FG(I^\bullet)\bigr)=R^n(FG)(A)
$$
である。最後の等号は、$I^\bullet$ が $A$ の入射分解であることと $FG$ の右導来関手の定義による。
行の側。Cartan–Eilenberg分解 の定理「超導来関手の2つのスペクトル系列」の第 2 の系列は
$$
E_2^{p,q}=R^pF\bigl(H^q(K)\bigr)=R^pF\bigl(R^qG(A)\bigr)\ \Longrightarrow\ \mathbf R^{p+q}F(K)
$$
である。$J$ は $p\ge0$、$q\ge0$ の範囲にあるので、これは第 1 象限のスペクトル系列であり、収束は 二重複体 の定理「二重複体の2つのスペクトル系列」による(行によるフィルトレーションは各全次数で有界である)。
2 つを合わせれば、$R^{p+q}(FG)(A)$ に収束する第 1 象限のスペクトル系列 $E_2^{p,q}=R^pF(R^qG(A))$ が得られる。$\square$
証明の要点は、Cartan–Eilenberg 分解の 2 つのスペクトル系列のうち、列による系列が仮定によって 1 本の行に退化し、その値が $R^n(FG)(A)$ になることである。退化していない行による系列がそのまま主定理になる。
$R^n(FG)(A)$ を計算するには、$A$ の入射分解 $I^\bullet$ に $FG$ を施せばよい。これを $F$ と $G(I^\bullet)$ に分けて見る。$G(I^\bullet)$ は一般に $G(A)$ の分解ではなく、そのコホモロジーは $R^qG(A)$ である。つまり $G(I^\bullet)$ は、$G(A)$ だけでなく高次の $R^qG(A)$ もすべて抱えた複体である。この複体に $F$ を「正しく」施したもの、すなわち超導来関手 $\mathbf R^nF(G(I^\bullet))$ は、複体のコホモロジー $R^qG(A)$ ごとの導来関手 $R^pF(R^qG(A))$ から積み上がる。これが行による系列である。
一方、$F$ を「素朴に」施した $F(G(I^\bullet))$ のコホモロジーが $R^n(FG)(A)$ である。素朴な計算と正しい計算が一致するのは、複体の項が $F$ 非輪状なときである。仮定「$G$ が入射対象を $F$ 非輪状な対象に写す」は、ちょうどこの一致を保証するために置かれている。仮定が破れると、素朴な $R^n(FG)$ と正しい超導来関手がずれることがあり、そのときスペクトル系列は $R^n(FG)$ に収束しない(下の反例の表の 1 行目)。
微分積分の連鎖律が合成写像の微分を各写像の微分の積で表すように、このスペクトル系列は合成関手の導来関手を各関手の導来関手の「合成」から組み立てる。ただし組み立ては同型ではなく、フィルトレーションと高次の微分 $d_r$ を通じてである。
第 1 象限のスペクトル系列には、行 $q=0$ への包含と列 $p=0$ からの射影にあたる 辺写像
$$
R^pF\bigl(G(A)\bigr)=E_2^{p,0}\twoheadrightarrow E_\infty^{p,0}\hookrightarrow R^p(FG)(A),\qquad R^q(FG)(A)\twoheadrightarrow E_\infty^{0,q}\hookrightarrow E_2^{0,q}=F\bigl(R^qG(A)\bigr)
$$
がある。これらが、$G(A)\to G(I^\bullet)$ と $F$ の左完全性から得られる自然な写像に一致することは Wei94 Theorem 5.8.3(p. 151)に述べられている。この記事では証明しない。cor-gss-five-term の最初と 2 番目の写像はこの辺写像である。
入射分解と Cartan–Eilenberg 分解の射の持ち上げ(Cartan–Eilenberg分解 の注意「射の持ち上げとホモトピー」)を使うと、$E_2$ 以降の系列は $A$ について関手的になる(Gro57 Théorème 2.4.1、p. 148)。導来圏の言葉では、同じ仮定のもとで $\mathbf R^+(FG)\cong\mathbf R^+F\circ\mathbf R^+G$ が成り立ち(Wei94 Corollary 10.8.3、pp. 403–404、三角関手と導来関手の再定式化)、スペクトル系列はこの同型の右辺に超コホモロジーのスペクトル系列を当てたものとして読める。この記事ではこれらを証明しない。
主定理の設定で、対象 $A$ について次が成り立つ。
要点:どちらもスペクトル系列を使わずに、入射分解に $G$ を施した複体から直接わかる。
1:$A\to I^\bullet$ を入射分解とすると、仮定から $0\to G(A)\to G(I^0)\to G(I^1)\to\cdots$ は完全であり($H^0=G(A)$ は $G$ の左完全性による)、各項は $F$ 非輪状である。導来関手 の命題「非輪状分解による計算」により $R^nF(G(A))\cong H^n(F(G(I^\bullet)))=R^n(FG)(A)$ である。
2:完全関手はコホモロジーと可換なので、$R^n(FG)(A)=H^n(F(G(I^\bullet)))\cong F(H^n(G(I^\bullet)))=F(R^nG(A))$ である。
主定理の言葉では、1 は $E_2$ が行 $q=0$ に集中する場合、2 は列 $p=0$ に集中する場合で、どちらも $E_2=E_\infty$ となる(1 は スペクトル系列 の命題「退化補題(単一の行に集中する場合)」による。2 では $r\ge2$ の $d_r$ は第 $0$ 列と第 $\pm r$ 列を結ぶので、すべて $0$ である)。$\square$
主定理の設定で、完全列
$$
0\to R^1F(GA)\to R^1(FG)(A)\to F\bigl(R^1G(A)\bigr)\to R^2F(GA)\to R^2(FG)(A)
$$
がある。
要点:第 1 象限では $E_2^{1,0}$ は動かず、$E_2^{0,1}$ と $E_2^{2,0}$ の間の $d_2$ だけが残る。
$H^n:=R^n(FG)(A)$ とおく。第 1 象限なので、$d_r\colon E_r^{p,q}\to E_r^{p+r,q-r+1}$ は $q-r+1<0$ または $p-r<0$ の項とは関わらない。$E_2^{1,0}$ には入る微分も出る微分もないので $E_\infty^{1,0}=E_2^{1,0}$ である。$E_2^{0,1}$ から出る微分は $d_2\colon E_2^{0,1}\to E_2^{2,0}$ だけで($r\ge3$ では行き先の $q$ が負)、入る微分はない。$E_2^{2,0}$ に入る微分は $d_2$ だけで、出る微分はない。よって $E_\infty^{0,1}=\ker d_2$、$E_\infty^{2,0}=\operatorname{coker}d_2$ である。$H^1$ のフィルトレーションは $\Phi^2H^1=0$ なので短完全列 $0\to E_\infty^{1,0}\to H^1\to E_\infty^{0,1}\to0$ を与え、$H^2$ のフィルトレーションの最後の段 $\Phi^2H^2=E_\infty^{2,0}$ は $H^2$ の部分対象である。これらをつなぐと
$$0\to E_2^{1,0}\to H^1\to E_2^{0,1}\xrightarrow{d_2}E_2^{2,0}\to H^2$$
が完全になる。$E_2^{1,0}=R^1F(GA)$、$E_2^{0,1}=F(R^1G(A))$、$E_2^{2,0}=R^2F(GA)$ である($R^0G=G$、$R^0F=F$)。$\square$
右完全関手と射影対象についても、矢印を逆にした同じ形の定理がある。
$\mathcal A$、$\mathcal B$ は十分な射影対象をもつアーベル圏、$G\colon\mathcal A\to\mathcal B$、$F\colon\mathcal B\to\mathcal C$ は右完全な加法関手で、$G$ は射影対象を $F$ 非輪状な対象($q>0$ で $L_qF=0$)に写すとする。このとき各 $A$ について、第 1 象限のホモロジー的スペクトル系列
$$
E^2_{p,q}=L_pF\bigl(L_qG(A)\bigr)\ \Longrightarrow\ L_{p+q}(FG)(A)
$$
がある。
要点:反対圏 に移れば主定理になる。
$G^{\mathrm{op}}\colon\mathcal A^{\mathrm{op}}\to\mathcal B^{\mathrm{op}}$、$F^{\mathrm{op}}\colon\mathcal B^{\mathrm{op}}\to\mathcal C^{\mathrm{op}}$ は左完全で、$\mathcal A^{\mathrm{op}}$、$\mathcal B^{\mathrm{op}}$ は十分な入射対象(もとの射影対象)をもつ。射影分解は反対圏での入射分解なので $R^q(G^{\mathrm{op}})=(L_qG)^{\mathrm{op}}$ などが成り立ち、仮定は「$G^{\mathrm{op}}$ が入射対象を $F^{\mathrm{op}}$ 非輪状な対象に写す」になる。thm-gss-main を当てて $\mathcal C$ に戻せば、フィルトレーションの向きと微分の向きが逆になった系列として主張を得る(Wei94 Corollary 5.8.4、p. 151)。$\square$
たとえば環の準同型 $R\to S$、右 $R$ 加群 $M$、左 $S$ 加群 $N$ について、$G=-\otimes_RS$、$F=-\otimes_SN$ とおけば $FG\cong-\otimes_RN$ であり、$G$ は自由加群を自由加群に、したがって射影加群(自由加群の直和因子)を射影加群に写すので、Tor の底変換のスペクトル系列 $E^2_{p,q}=\operatorname{Tor}^S_p\bigl(\operatorname{Tor}^R_q(M,S),N\bigr)\Rightarrow\operatorname{Tor}^R_{p+q}(M,N)$ が得られる(Wei94 Applications 5.8.5、p. 152)。
連続写像 $f\colon X\to Y$ について、$G=f_*$(層の順像)、$F=\Gamma(Y,-)$ とおくと $FG=\Gamma(X,-)$ である。$f_*$ は完全関手 $f^{-1}$ の右随伴なので、lem-gss-adjoint により入射的な層を入射的な層に写す。主定理から $E_2^{p,q}=H^p(Y,R^qf_*\mathcal F)\Rightarrow H^{p+q}(X,\mathcal F)$ が得られる。これが Lerayスペクトル系列 であり、同記事の定理「合成関手のスペクトル系列」は主定理そのものである。
環の準同型 $\varphi\colon R\to S$、$S$ 加群 $M$、$R$ 加群 $N$ をとる。$G=\operatorname{Hom}_R(S,-)\colon R\text{-Mod}\to S\text{-Mod}$($S$ の作用は $(s h)(t)=h(ts)$)、$F=\operatorname{Hom}_S(M,-)$ とおく。随伴 $\operatorname{Hom}_S(M,\operatorname{Hom}_R(S,N))\cong\operatorname{Hom}_R(M,N)$(右辺の $M$ は $\varphi$ で $R$ 加群とみる)から $FG\cong\operatorname{Hom}_R(M,-)$ である。$G$ は完全関手であるスカラーの制限 $S\text{-Mod}\to R\text{-Mod}$ の右随伴なので、lem-gss-adjoint により入射対象を保つ。$R^qG(N)$ の下にある群は $\operatorname{Ext}^q_R(S,N)$ である。主定理から
$$
E_2^{p,q}=\operatorname{Ext}^p_S\bigl(M,\operatorname{Ext}^q_R(S,N)\bigr)\ \Longrightarrow\ \operatorname{Ext}^{p+q}_R(M,N)
$$
を得る(Wei94 Applications 5.8.5、p. 152 が Grothendieck スペクトル系列の特別な場合として挙げるもの)。$R=\mathbb Z$、$S=\mathbb F_p$($p$ は素数)なら、$\mathbb F_p$ 上の加群はすべて入射的で短完全列はすべて分裂するので $F$ は完全で、cor-gss-degenerate の 2 から $\operatorname{Ext}^n_{\mathbb Z}(M,N)\cong\operatorname{Hom}_{\mathbb F_p}\bigl(M,\operatorname{Ext}^n_{\mathbb Z}(\mathbb Z/p,N)\bigr)$ である。たとえば $M=\mathbb F_p$ なら $\operatorname{Ext}^1_{\mathbb Z}(\mathbb Z/p,N)\cong N/pN$ がそのまま現れる。
随伴の同型は $h\mapsto(m\mapsto h(m)(1))$、逆は $g\mapsto(m\mapsto(t\mapsto g(tm)))$ で、$S$ 線型性と $R$ 線型性が対応する。スカラーの制限は下にある群を変えないので完全である。$R$ 加群の入射分解 $N\to I^\bullet$ に $G$ を施した複体の下にある群は $\operatorname{Hom}_R(S,I^\bullet)$ なので、$R^qG(N)$ の下にある群は $\operatorname{Ext}^q_R(S,N)$ である。$\mathbb F_p$ 上では $F=\operatorname{Hom}_{\mathbb F_p}(M,-)$ は完全である。$\operatorname{Ext}^1_{\mathbb Z}(\mathbb Z/p,N)$ は分解 $0\to\mathbb Z\xrightarrow{p}\mathbb Z\to\mathbb Z/p\to0$ に $\operatorname{Hom}(-,N)$ を施して $N\xrightarrow{p}N$ の余核 $N/pN$ である。
群 $\Gamma$ とその 正規部分群 $N$、$Q=\Gamma/N$、$\Gamma$ 加群 $A$ をとる。$G=(-)^N\colon\Gamma\text{-Mod}\to Q\text{-Mod}$、$F=(-)^Q$ とおくと $FG=(-)^\Gamma$ である。$(-)^N$ は、$Q$ 加群を $\Gamma$ 加群とみる完全関手の右随伴なので入射対象を保つ。主定理から
$$
E_2^{p,q}=H^p\bigl(Q,H^q(N,A)\bigr)\ \Longrightarrow\ H^{p+q}(\Gamma,A)
$$
を得る(Wei94 6.8.2、pp. 195–196)。低次の項の完全列 $0\to H^1(Q,A^N)\to H^1(\Gamma,A)\to H^1(N,A)^Q\to H^2(Q,A^N)\to H^2(\Gamma,A)$ の最初の 3 項は、群コホモロジー の命題「インフレーション・制限完全列」と同じ形である。写像がインフレーションと制限に一致することは、この記事では証明しない。
$\operatorname{Hom}_\Gamma(B,A)\cong\operatorname{Hom}_Q(B,A^N)$($B$ は $N$ が自明に作用する $\Gamma$ 加群、すなわち $Q$ 加群)は、$N$ が自明に作用する加群からの $\Gamma$ 準同型の像が $A^N$ に入ることによる。$Q$ 加群の $(-)^Q$ の導来関手は $H^p(Q,-)$、$\Gamma$ 加群の $(-)^\Gamma$ の導来関手は $H^n(\Gamma,-)$ である(群コホモロジー の定理「標準分解」と Ext関手 の命題「射影計算と入射計算の一致」)。$R^q((-)^N)(A)$ の下にある群が $H^q(N,A)$ であることは次による。$\Gamma$ 加群を $N$ 加群とみる制限は、$\mathbb Z[\Gamma]\otimes_{\mathbb Z[N]}(-)$ の右随伴であり、$\mathbb Z[\Gamma]$ は右 $\mathbb Z[N]$ 加群として剰余類の代表を基底とする自由加群なので、この左随伴は完全である。lem-gss-adjoint により $\Gamma$ 加群の入射分解 $A\to I^\bullet$ は $N$ 加群としても入射分解であり、$H^q((I^\bullet)^N)=H^q(N,A)$ となる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $G$ が入射対象を $F$ 非輪状な対象に写す | $\mathcal A=\mathcal B=\mathcal C=$ アーベル群の圏、$G=F=\operatorname{Hom}(\mathbb Z/2,-)$、$A=\mathbb Q/\mathbb Z$ | $E_2^{p,q}=R^pF(R^qG(A))$ から $R^{p+q}(FG)(A)$ に収束するスペクトル系列は存在しない($E_2^{1,0}\cong\mathbb Z/2$ だが $R^1(FG)(A)=0$) |
| cor-gss-degenerate の 1 の「$q>0$ で $R^qG(A)=0$」 | ex-gss-ext-base-change で $R=\mathbb Z$、$S=\mathbb F_2$、$M=\mathbb F_2$、$N=\mathbb Z/2$ | $R^1(FG)(N)=\operatorname{Ext}^1_{\mathbb Z}(\mathbb Z/2,\mathbb Z/2)\cong\mathbb Z/2$ だが $R^1F(G(N))=\operatorname{Ext}^1_{\mathbb F_2}(\mathbb F_2,\mathbb Z/2)=0$ |
1 行目:$FG(B)=\operatorname{Hom}(\mathbb Z/2,\operatorname{Hom}(\mathbb Z/2,B))\cong\operatorname{Hom}(\mathbb Z/2\otimes\mathbb Z/2,B)\cong\operatorname{Hom}(\mathbb Z/2,B)$ なので $FG\cong G$ であり、$\mathbb Q/\mathbb Z$ は入射的なので $R^1(FG)(\mathbb Q/\mathbb Z)=\operatorname{Ext}^1(\mathbb Z/2,\mathbb Q/\mathbb Z)=0$ である。一方 $G(\mathbb Q/\mathbb Z)=\{0,1/2\}\cong\mathbb Z/2$ で、$q>0$ では $R^qG(\mathbb Q/\mathbb Z)=0$ なので、仮にスペクトル系列があれば $E_2$ は行 $q=0$ に集中して退化し、$R^1(FG)(A)\cong E_2^{1,0}=\operatorname{Ext}^1(\mathbb Z/2,\mathbb Z/2)\cong\mathbb Z/2$ となって矛盾する。仮定が破れているのは、入射対象 $\mathbb Q/\mathbb Z$ の像 $\mathbb Z/2$ が $\operatorname{Ext}^1(\mathbb Z/2,\mathbb Z/2)\ne0$ により $F$ 非輪状でないからである。
2 行目:主定理の仮定はみたされている。$R^1G(N)=\operatorname{Ext}^1_{\mathbb Z}(\mathbb Z/2,\mathbb Z/2)\cong\mathbb Z/2\ne0$ が系の仮定を破り、$E_2^{0,1}=\operatorname{Hom}_{\mathbb F_2}(\mathbb F_2,\mathbb Z/2)\cong\mathbb Z/2$ が $R^1(FG)(N)$ に寄与する。$\mathbb F_2$ 上の加群は入射的なので $R^1F=0$ である。
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