総和記号

同義語:summation notationΣ記法の使い方Σ記法sigma notation

概要

総和記号(summation notation)とは、数列の第 $m$ 項から第 $n$ 項までの和を $\sum_{k=m}^{n}a_k$ と書く記号 $\sum$ であり、1 項ずつ足す帰納的な定義で定める。有限和について、和と $k$ によらない数の倍は $\sum$ の外に出せ、範囲の分割・添字のずらし・逆順への並べかえができ、隣どうしの差の和は $\sum_{k=1}^{n}(b_{k+1}-b_k)=b_{n+1}-b_1$ になる。2 重の和は長方形の範囲で順序を入れかえてよく、三角形の範囲では内側の範囲を付けかえて入れかえる。積の和は和の積にならず、無限個の項ではくくり方で値が変わるので、性質は有限個の項に限る。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 数列, 数学的帰納法, 等差数列と等比数列

高校での出発点:長い和を短く書く

$1+3+5+\dots+19$ のような長い和を、項を全部並べずに書く記号が $\sum$(シグマ)である。数学 B の数列では、この記号で和を書き、和の公式を組み合わせて計算する。まず書き方を 2 つの例で見る。

奇数の和を $\sum$ で書く

$1,3,5,\dots,19$ は第 $k$ 項が $2k-1$ の数列の第 $1$ 項から第 $10$ 項までなので、
$$ 1+3+5+\dots+19=\sum_{k=1}^{10}(2k-1) $$
と書く。実際に足すと $100=10^2$ になる。後で ex-sum-linear-use の方法で、一般に $\sum_{k=1}^{n}(2k-1)=n^2$ であることを確かめる。

文字を取りかえても同じ和

$$ \sum_{k=1}^{4}k^2=1^2+2^2+3^2+4^2=30,\qquad \sum_{j=1}^{4}j^2=1^2+2^2+3^2+4^2=30 $$
である。$k$ や $j$ は「何番目の項か」を表すだけの文字で、どの文字を使っても和は変わらない。一方、$\sum_{k=1}^{4}k^2$ と $\sum_{k=2}^{5}k^2=4+9+16+25=54$ は違う。範囲が値を決める。

この記事では、$\sum$ の意味を定義し、次の問いに答える。

  1. $\sum$ の中の和や定数倍は、外に出してよいか。→ thm-sum-linear
  2. 添字をずらしたり、和を分けたりしてよいのはどんなときか。→ prop-sum-index
  3. 打ち消し合う和は、どう計算するか。→ prop-sum-telescoping
  4. $\sum$ を 2 つ重ねた和は、順序を入れかえてよいか。→ thm-sum-double、cor-sum-triangle
    高校の計算使う性質ボックス
    $\sum(3k^2-k+2)=3\sum k^2-\sum k+2n$和・定数倍を外に出すthm-sum-linear
    逆順に並べて足す(Gauss の足し算)添字の反転 $k\mapsto n+1-k$prop-sum-index
    $\sum\frac1{k(k+1)}=1-\frac1{n+1}$隣どうしが打ち消し合うprop-sum-telescoping
    行列の積の結合法則、分散の公式2 重の和の順序交換thm-sum-double

総和記号の定義

総和記号

数列 $(a_k)$ と、$a_m,\dots,a_n$ が定まっている整数 $m\le n$ に対し、第 $m$ 項から第 $n$ 項までの和を
$$ \sum_{k=m}^{n}a_k=a_m+a_{m+1}+\dots+a_n $$
と書く。正確には、$n$ についての帰納的な定義
$$ \sum_{k=m}^{m}a_k:=a_m,\qquad \sum_{k=m}^{n+1}a_k:=\left(\sum_{k=m}^{n}a_k\right)+a_{n+1}\quad(n\ge m) $$
で定める。$\sum$ を総和記号、$k$ を添字、$m$ と $n$ を和の下端と上端という。和の項の個数は $n-m+1$ である。また $n=m-1$ のとき(項が 1 つもないとき)は $\sum_{k=m}^{m-1}a_k:=0$ と約束する。

定義の後半は、「第 $n+1$ 項までの和は、第 $n$ 項までの和に $a_{n+1}$ を足したもの」という当たり前のことを式にしたものである。この形にしておくと、$\sum$ についての性質を数学的帰納法で証明できる(Lev24 §4.1.3 も、数列の部分和を $\sum$ で書き、1 つ前の部分和に項を足す漸化式として表している)。添字 $k$ は和の外では意味をもたず(ex-sum-start-dummy)、項 $a_k$ が $k$ の式で書かれているときは、その式に $k=m,m+1,\dots,n$ を順に代入して足す。

$\sum$ を開いて計算する
  1. $\displaystyle\sum_{k=3}^{6}2^k=2^3+2^4+2^5+2^6=8+16+32+64=120$。項の個数は $6-3+1=4$ である。
  2. $\displaystyle\sum_{k=1}^{5}3=3+3+3+3+3=15$。項が $k$ を含まないときも、項は $5$ 個あるので、答えは $3$ ではなく $15$ である。
  3. $\displaystyle\sum_{k=1}^{3}k\,2^k=1\cdot2+2\cdot4+3\cdot8=34$。

主定理 1:和と定数倍は外に出せる

総和記号の線形性

数列 $(a_k)$、$(b_k)$ と、$k$ によらない数 $c$、整数 $n\ge1$ について次が成り立つ。

  1. $\displaystyle\sum_{k=1}^{n}(a_k+b_k)=\sum_{k=1}^{n}a_k+\sum_{k=1}^{n}b_k$
  2. $\displaystyle\sum_{k=1}^{n}c\,a_k=c\sum_{k=1}^{n}a_k$
  3. $\displaystyle\sum_{k=1}^{n}c=nc$
    下端が $1$ でない場合($\sum_{k=m}^{n}$)も同じことが成り立つ。ただし 3 は $\sum_{k=m}^{n}c=(n-m+1)c$ になる。
$n$ についての帰納法

方針:def-sum-def の帰納的な定義を使い、$n$ についての数学的帰納法で示す。
1 の証明。$n=1$ では両辺とも $a_1+b_1$ である。$n$ で成り立つとすると、定義により
$$ \sum_{k=1}^{n+1}(a_k+b_k)=\sum_{k=1}^{n}(a_k+b_k)+(a_{n+1}+b_{n+1})=\left(\sum_{k=1}^{n}a_k+\sum_{k=1}^{n}b_k\right)+a_{n+1}+b_{n+1} $$
である(2 つ目の等号で帰納法の仮定を使った)。足す順序を入れかえて $\left(\sum_{k=1}^{n}a_k+a_{n+1}\right)+\left(\sum_{k=1}^{n}b_k+b_{n+1}\right)$ とし、もう一度定義を使うと $\sum_{k=1}^{n+1}a_k+\sum_{k=1}^{n+1}b_k$ になる。よって $n+1$ でも成り立つ。
2 の証明。$n=1$ では両辺とも $ca_1$ である。$n$ で成り立つとすると
$$ \sum_{k=1}^{n+1}c\,a_k=\sum_{k=1}^{n}c\,a_k+c\,a_{n+1}=c\sum_{k=1}^{n}a_k+c\,a_{n+1}=c\left(\sum_{k=1}^{n}a_k+a_{n+1}\right)=c\sum_{k=1}^{n+1}a_k $$
である(3 つ目の等号は分配法則)。
3 の証明。$n=1$ では両辺とも $c$ である。$n$ で成り立つとすると $\sum_{k=1}^{n+1}c=\sum_{k=1}^{n}c+c=nc+c=(n+1)c$ である。
下端が $m$ の場合は、上の証明の $1$ を $m$ に、$n$ を項の個数に読みかえれば同じである。$\square$

線形性と、次の基本の和の公式を組み合わせると、多くの和が計算できる。これらの公式の証明はそれぞれの記事にある。

和値証明のある記事
$\sum_{k=1}^{n}k$$\frac{n(n+1)}2$等差数列と等比数列 の定理「等差数列の和」
$\sum_{k=1}^{n}k^2$$\frac{n(n+1)(2n+1)}6$数列の和と差分 の定理「べき和の公式」
$\sum_{k=1}^{n}k^3$$\left(\frac{n(n+1)}2\right)^2$立方数の和と三角数 の定理「立方数の和」
$\sum_{k=1}^{n}r^{k-1}$($r\ne1$)$\frac{1-r^n}{1-r}$等差数列と等比数列 の定理「等比数列の和」
線形性で和を計算する
  1. $\displaystyle\sum_{k=1}^{n}(2k-1)=2\sum_{k=1}^{n}k-\sum_{k=1}^{n}1=2\cdot\frac{n(n+1)}2-n=n^2$。$n=10$ では ex-sum-start-odd の $100$ になる。
  2. $\displaystyle\sum_{k=1}^{n}(3k^2-k+2)=3\cdot\frac{n(n+1)(2n+1)}6-\frac{n(n+1)}2+2n$。前の 2 項は $\frac{n(n+1)}2\{(2n+1)-1\}=n^2(n+1)$ とまとまるので、和は $n^3+n^2+2n$ である。$n=2$ で確かめると、項を開いて $(3-1+2)+(12-2+2)=4+12=16$、式でも $8+4+4=16$ である。
反例:積の和は和の積ではない

線形性は「和」と「$k$ によらない数を掛けること」についての性質で、積については成り立たない。$a_k=b_k=k$、$n=2$ とすると
$$ \sum_{k=1}^{2}a_kb_k=1+4=5,\qquad \left(\sum_{k=1}^{2}a_k\right)\left(\sum_{k=1}^{2}b_k\right)=3\cdot3=9 $$
で、等しくない。同じように、$\sum_{k=1}^{n}k\,a_k$ の $k$ は添字とともに動くので、$\sum$ の外に出せない。

和を分ける・添字をずらす・逆に並べる

範囲の分割・添字のずらし・反転

数列 $(a_k)$ と整数 $m\le n$ について次が成り立つ。

  1. (分割)$m\le l< n$ を満たす整数 $l$ について $\displaystyle\sum_{k=m}^{n}a_k=\sum_{k=m}^{l}a_k+\sum_{k=l+1}^{n}a_k$。
  2. (ずらし)整数 $p$ について $\displaystyle\sum_{k=m}^{n}a_{k+p}=\sum_{j=m+p}^{n+p}a_j$。
  3. (反転)$\displaystyle\sum_{k=1}^{n}a_k=\sum_{k=1}^{n}a_{n+1-k}$($n\ge1$)。
上端についての帰納法

方針:どれも def-sum-def の「1 項ずつ足す」定義に戻り、上端 $n$ についての帰納法で示す。
1 の証明。$n=l+1$ のとき、右辺の第 2 の和は $a_{l+1}$ だけなので、右辺は $\sum_{k=m}^{l}a_k+a_{l+1}$ で、定義によりこれは左辺 $\sum_{k=m}^{l+1}a_k$ である。$n$ で成り立つとすると
$$ \sum_{k=m}^{n+1}a_k=\sum_{k=m}^{n}a_k+a_{n+1}=\sum_{k=m}^{l}a_k+\left(\sum_{k=l+1}^{n}a_k+a_{n+1}\right)=\sum_{k=m}^{l}a_k+\sum_{k=l+1}^{n+1}a_k $$
であり、$n+1$ でも成り立つ。
2 の証明。$n=m$ のとき、両辺はどちらも $a_{m+p}$ である。$n$ で成り立つとすると、左辺に $a_{n+1+p}$ を足したものと右辺に $a_{n+1+p}$ を足したものが等しいので、定義により $\sum_{k=m}^{n+1}a_{k+p}=\sum_{j=m+p}^{n+1+p}a_j$ である。
3 の証明。$n=1$ では両辺とも $a_1$ である。$n$ 項のどんな数列についても成り立つとして、$n+1$ 項の場合を示す。1 の分割($l=1$)で最初の項を分け、2 のずらし($k=j+1$、$p=1$)で添字を付けかえると
$$ \sum_{k=1}^{n+1}a_{n+2-k}=a_{n+1}+\sum_{k=2}^{n+1}a_{n+2-k}=a_{n+1}+\sum_{j=1}^{n}a_{n+1-j} $$
となる。最後の和は、$a_1,\dots,a_n$ を逆に並べた和なので、帰納法の仮定により $\sum_{j=1}^{n}a_j$ に等しい。よって全体は $a_{n+1}+\sum_{j=1}^{n}a_j=\sum_{k=1}^{n+1}a_k$ である。$\square$

反転とずらしを使う
  1. (反転)$S=\sum_{k=1}^{n}k$ とおく。3 により $S=\sum_{k=1}^{n}(n+1-k)$ でもあるので、線形性から $2S=\sum_{k=1}^{n}\{k+(n+1-k)\}=\sum_{k=1}^{n}(n+1)=n(n+1)$ である。これは 等差数列と等比数列 の「逆順に並べて足す」計算を $\sum$ で書いたものである。
  2. (ずらし)$\sum_{k=0}^{n-1}2^k$ と $\sum_{j=1}^{n}2^{j-1}$ は同じ和である(2 で $a_j=2^{j-1}$、$m=0$、$n-1$ を上端、$p=1$ とする)。$n=3$ ではどちらも $1+2+4=7$ である。

打ち消し合う和

階差の和

数列 $(b_k)$ と整数 $n\ge1$ について
$$ \sum_{k=1}^{n}(b_{k+1}-b_k)=b_{n+1}-b_1 $$
である。

線形性とずらしで 2 つの和に分ける

方針:差の和を 2 つの和の差に分け、片方の添字をずらして、共通の部分を消す。
段 1。$n=1$ では左辺が $b_2-b_1$ で、右辺と同じである。以下 $n\ge2$ とする。
段 2。thm-sum-linear の 1 と 2($c=-1$)により、左辺は $\sum_{k=1}^{n}b_{k+1}-\sum_{k=1}^{n}b_k$ である。prop-sum-index の 2($p=1$)と 1($l=n$ で最後の項を分ける)により
$$ \sum_{k=1}^{n}b_{k+1}=\sum_{j=2}^{n+1}b_j=\sum_{j=2}^{n}b_j+b_{n+1} $$
であり、同じく 1($l=1$)により $\sum_{k=1}^{n}b_k=b_1+\sum_{k=2}^{n}b_k$ である。
段 3。2 つを引くと、共通の $\sum_{j=2}^{n}b_j$ が消えて $b_{n+1}-b_1$ が残る。$\square$

これは 数列の和と差分 の定理「和と差分の基本定理」の 1 と同じ内容で、階差数列の公式 $a_n=a_1+\sum_{k=1}^{n-1}(a_{k+1}-a_k)$ も、$n\ge2$ では上端を $n-1$ としたこの形であり、$n=1$ でも空の和の約束により成り立つ。和を計算するには、項 $a_k$ を「隣どうしの差」$b_{k+1}-b_k$ の形に書きかえればよい。

打ち消し合いで計算する
  1. 分数式 の例「数値の代入で恒等式を確かめる」の等式 $\frac1{k(k+1)}=\frac1k-\frac1{k+1}$ により、$b_k=-\frac1k$ とおけば項は $b_{k+1}-b_k$ の形で、
    $$ \sum_{k=1}^{n}\frac1{k(k+1)}=b_{n+1}-b_1=1-\frac1{n+1}=\frac n{n+1} $$
    である。$n=3$ では $\frac12+\frac16+\frac1{12}=\frac34$ で一致する。
  2. 分母を有理化すると $\frac1{\sqrt{k+1}+\sqrt k}=\frac{\sqrt{k+1}-\sqrt k}{(k+1)-k}=\sqrt{k+1}-\sqrt k$ なので、$\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\frac1{\sqrt{k+1}+\sqrt k}=\sqrt{n+1}-1$ である。$n=3$ では $\sqrt4-1=1$ になる。
  3. $k\cdot k!=(k+1)!-k!$($(k+1)!=(k+1)\cdot k!$ から)なので、$\displaystyle\sum_{k=1}^{n}k\cdot k!=(n+1)!-1$ である。$n=3$ では $1+4+18=23=4!-1$ である。

主定理 2:2 重の和の順序交換

表のように 2 つの添字をもつ数 $a_{ij}$($i=1,\dots,m$、$j=1,\dots,n$)の合計は、「行ごとに足してから行の和を足す」ことも、「列ごとに足してから列の和を足す」こともできる。

2 重の和

$$ \sum_{i=1}^{m}\sum_{j=1}^{n}a_{ij}:=\sum_{i=1}^{m}\left(\sum_{j=1}^{n}a_{ij}\right) $$
と定める。内側の和を先に計算し、その結果を $i$ について足す。

2 重の和の順序交換

$$ \sum_{i=1}^{m}\sum_{j=1}^{n}a_{ij}=\sum_{j=1}^{n}\sum_{i=1}^{m}a_{ij} $$

行の数についての帰納法

方針:$m$ についての帰納法で示す。新しい行を足すところで thm-sum-linear の 1 を使う。
段 1($m=1$)。左辺は $\sum_{j=1}^{n}a_{1j}$、右辺は各 $j$ の内側の和が $a_{1j}$ だけなので同じく $\sum_{j=1}^{n}a_{1j}$ である。
段 2($m$ から $m+1$ へ)。$m$ で成り立つとする。定義と帰納法の仮定により
$$ \sum_{i=1}^{m+1}\sum_{j=1}^{n}a_{ij}=\sum_{i=1}^{m}\sum_{j=1}^{n}a_{ij}+\sum_{j=1}^{n}a_{m+1,j}=\sum_{j=1}^{n}\sum_{i=1}^{m}a_{ij}+\sum_{j=1}^{n}a_{m+1,j} $$
である。右辺の 2 つの $j$ についての和を thm-sum-linear の 1 で 1 つにまとめると
$$ \sum_{j=1}^{n}\left(\sum_{i=1}^{m}a_{ij}+a_{m+1,j}\right)=\sum_{j=1}^{n}\sum_{i=1}^{m+1}a_{ij} $$
となり、$m+1$ でも成り立つ。$\square$

和の積と 2 重の和

$$ \left(\sum_{i=1}^{m}a_i\right)\left(\sum_{j=1}^{n}b_j\right)=\sum_{i=1}^{m}\sum_{j=1}^{n}a_ib_j $$

定数倍を 2 回外に出す

$B:=\sum_{j=1}^{n}b_j$ は $i$ によらない数なので、thm-sum-linear の 2 により左辺は $\sum_{i=1}^{m}a_iB$ である。各 $i$ について $a_i$ は $j$ によらないので、再び 2 により $a_iB=\sum_{j=1}^{n}a_ib_j$ である。$\square$

添字の範囲が長方形でなく、$j\le i$ のような三角形のときは、範囲を書きかえてから交換する。

三角形の範囲での順序交換

$$ \sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{i}a_{ij}=\sum_{j=1}^{n}\sum_{i=j}^{n}a_{ij} $$

足りない所に 0 を置いて長方形にする

方針:$j>i$ の所に $0$ を置いて $n\times n$ の長方形の和にし、thm-sum-double を使う。
段 1。$c_{ij}:=a_{ij}$($j\le i$ のとき)、$c_{ij}:=0$($j>i$ のとき)と定める。
段 2。各 $i$ について、$\sum_{j=1}^{n}c_{ij}$ は prop-sum-index の 1 で $j\le i$ と $j>i$ に分けると $\sum_{j=1}^{i}a_{ij}+0$ である($i=n$ なら分ける必要はない)。同じく各 $j$ について、$i< j$ と $i\ge j$ に分けると $\sum_{i=1}^{n}c_{ij}=0+\sum_{i=j}^{n}a_{ij}$ である($j=1$ なら分ける必要はない)。
段 3。thm-sum-double を $c_{ij}$ に使うと、$\sum_i\sum_jc_{ij}=\sum_j\sum_ic_{ij}$ であり、段 2 によりこれは示したい等式である。$\square$

2 重の和を使う計算
  1. (和の 2 乗)cor-sum-product で $b=a$、$m=n=3$ とすると、$(a_1+a_2+a_3)^2=\sum_{i=1}^{3}\sum_{j=1}^{3}a_ia_j$ である。9 個の項を $i=j$ の 3 個と $i\ne j$ の 6 個に分けると、$i\ne j$ の項は $a_ia_j=a_ja_i$ の組で 2 回ずつ現れるので
    $$ (a_1+a_2+a_3)^2=\sum_{i=1}^{3}a_i^2+2\sum_{i=1}^{2}\sum_{j=i+1}^{3}a_ia_j $$
    となる。$a_1=1$、$a_2=2$、$a_3=3$ では、左辺 $36$、右辺 $14+2(2+3+6)=36$ である。
  2. (三角形の範囲)$\sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{i}1=\sum_{i=1}^{n}i=\frac{n(n+1)}2$ を、cor-sum-triangle で順序を入れかえて計算すると $\sum_{j=1}^{n}\sum_{i=j}^{n}1=\sum_{j=1}^{n}(n-j+1)$ で、prop-sum-index の 3 によりこれも $\sum_{k=1}^{n}k$ である。
  3. (行列の積)行列の積の成分は $\sum_j a_{ij}b_{jk}$ と書かれる。行列の演算(高校数学) の定理「行列の積の結合法則と分配法則」の証明は、$\sum_k\sum_j a_{ij}b_{jk}c_{kl}$ と $\sum_j\sum_k a_{ij}b_{jk}c_{kl}$ が等しいこと、つまり thm-sum-double に帰着する。
平均と分散の計算

データ $x_1,\dots,x_n$ の平均を $\bar x=\frac1n\sum_{i=1}^{n}x_i$ とすると、$\sum_{i=1}^{n}x_i=n\bar x$ である。$(x_i-\bar x)^2=x_i^2-2\bar x\,x_i+\bar x^2$ を足して、$\bar x$ が $i$ によらないことから thm-sum-linear を使うと
$$ \sum_{i=1}^{n}(x_i-\bar x)^2=\sum_{i=1}^{n}x_i^2-2\bar x\sum_{i=1}^{n}x_i+n\bar x^2=\sum_{i=1}^{n}x_i^2-n\bar x^2 $$
となる。両辺を $n$ で割ったものが分散の公式(平均値と二乗誤差 の系「分散の公式」)である。データ $2,4,9$ では $\bar x=5$ で、左辺は $9+1+16=26$、右辺は $4+16+81-3\cdot25=26$ である。

例と反例

ここまでの性質の条件を 1 つずつ外すと、次のように崩れる。

外した条件崩れることボックス
thm-sum-linear の「$c$ は $k$ によらない」積の和が和の積にならないex-sum-cx-product
prop-sum-index の 1 の「$l$ までと $l+1$ から」分け目の項を 2 回数えるex-sum-cx-list の 1
prop-sum-index の 2 の「範囲も $p$ だけずらす」別の項の和になるex-sum-cx-list の 2
cor-sum-triangle の「内側の範囲を $i=j$ から $n$ に」足す項の組が変わるex-sum-cx-list の 3
項が有限個であることくくり方で値が変わるex-sum-cx-list の 4
反例:範囲の扱いを誤る
  1. $\sum_{k=1}^{4}k=10$ だが、分け目を重ねて $\sum_{k=1}^{2}k+\sum_{k=2}^{4}k$ とすると $3+9=12$ になる。$k=2$ の項を 2 回数えている。
  2. $\sum_{k=1}^{3}(k+1)=2+3+4=9$ だが、添字だけ付けかえて範囲をそのままにした $\sum_{k=1}^{3}k=6$ とは違う。正しくは $\sum_{j=2}^{4}j=9$ である。
  3. $a_{ij}=i$ とすると $\sum_{i=1}^{2}\sum_{j=1}^{i}i=1+(2+2)=5$ である。内側の範囲をそのまま写して $\sum_{j=1}^{2}\sum_{i=1}^{j}i=1+(1+2)=4$ とすると違う値になる。cor-sum-triangle のとおり $\sum_{j=1}^{2}\sum_{i=j}^{2}i=(1+2)+2=5$ とすれば一致する。
  4. 項が無限に続く $1-1+1-1+\cdots$ は、$(1-1)+(1-1)+\cdots$ とくくれば $0$、$1+(-1+1)+(-1+1)+\cdots$ とくくれば $1$ に見える。この記事の性質はどれも項が有限個のときのもので、無限個の項の和(級数)は極限として定義し直す必要がある(無限級数の和と収束判定)。

大学数学で見る:有限集合の上の和

大学数学で見ると:足す順序によらない和

thm-sum-double と prop-sum-index の 3 は、「有限個の数の和は、足す順序とくくり方によらない」という事実の特別な場合である。大学数学では、この事実を使って、有限集合 $S$ の上の和 $\sum_{s\in S}a_s$ を順序を決めずに定義する。たとえば cor-sum-triangle は、集合 $\{(i,j):1\le j\le i\le n\}$ の上の和を 2 通りに数えたものである。確率で使う $E(X)=\sum_{\omega}X(\omega)P(\{\omega\})$ もこの形の和である(確率変数の期待値と分散)。
掛け算についても同じ形の記号 $\prod_{k=1}^{n}a_k=a_1a_2\cdots a_n$ がある。項が無限個になると順序の入れかえは無条件にはできず、ex-sum-cx-list の 4 のようなことが起こる。

和 $\sum$ と積分 $\int$ はよく似ている。prop-sum-telescoping は微積分学の基本定理 $\int_a^bF'(x)\,dx=F(b)-F(a)$ の和の版であり、thm-sum-double は 2 重積分の順序交換の和の版である(和と積分の対応表)。

さらに先へ

  • べき和の公式へ:$\sum k^2$、$\sum k^3$ を打ち消し合う和で求める方法は 数列の和と差分 で扱う。
  • 部分和の和へ:$\sum a_kb_k$ を、$b_k$ の差と $a_k$ の部分和で書きかえる Abel の変形は Abel summation by parts で扱う。

関連項目

参考文献

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