内部同値関係(internal equivalence relation)とは、有限極限をもつ圏の対象 $A$ への射の対 $R\rightrightarrows A$ で、$A\times A$ へのモノ射を与え、反射律・対称律・推移律を射の分解として満たすものであり、各対象 $T$ からの射の集合の上の同値関係を自然に与えることと同値である。射の核対はつねに内部同値関係で、ある射の核対になる同値関係を有効という。正則圏であってすべての内部同値関係が有効な圏を Barr 完全圏といい、集合の圏・群の圏・初等トポスはその例である。捩れのないアーベル群の圏は正則だが、法 2 の合同が有効でないので Barr 完全でない。
集合 $A$ の上の同値関係は、直積 $A\times A$ の部分集合で、反射律・対称律・推移律をみたすものである。内部同値関係は、この定義を有限極限(圏論)をもつ圏の中で述べ直したもので、部分集合の代わりに $A\times A$ へのモノ射を使い、3 つの法則を射の分解として書く。
集合の圏では、写像 $f\colon A\to B$ から「$f(x)=f(y)$」という同値関係が得られ、逆に任意の同値関係は商集合への射影から得られる。一般の圏では前者は射の核対として残るが、後者は成り立つとは限らない。同値関係がある射の核対になっているとき有効であるといい、正則圏であってすべての内部同値関係が有効なものを Barr 完全圏という。この記事では、内部同値関係を一般化された元で言い換える定理を証明し、群の圏と初等トポスではすべての内部同値関係が有効であることを示す。さらに、捩れのないアーベル群の圏が正則だが Barr 完全でないことを確かめる。
$\mathcal C$ を有限極限をもつ圏とする。対象 $T$ から $A$ への射 $x\colon T\to A$ を、$A$ の $T$ に値をもつ元(一般化された元)とよぶ。
対象 $A$ の上の関係とは、対象 $R$ と射の対 $d_0,d_1\colon R\to A$ であって、$(d_0,d_1)\colon R\to A\times A$ がモノ射であるものをいう。対象 $T$ と $x,y\colon T\to A$ について、$d_0\circ r=x$、$d_1\circ r=y$ をみたす $r\colon T\to R$ が存在するとき $(x,y)\in_T R$ と書き、そのような対 $(x,y)$ の集合を $R_T\subset\operatorname{Hom}(T,A)\times\operatorname{Hom}(T,A)$ と書く。
$(d_0,d_1)$ がモノ射なので、$(x,y)\in_TR$ を与える $r$ はただ 1 つである。また $(x,y)\in_TR$ で $t\colon T'\to T$ なら、$r\circ t$ により $(x\circ t,y\circ t)\in_{T'}R$ である。
対象 $A$ の上の関係 $d_0,d_1\colon R\to A$ が内部同値関係(internal equivalence relation)であるとは、次の 3 条件をみたすことをいう。
この形の定義は MM92 付録 §1(p. 573)、BW05 1.8.4(p. 43)による。集合の圏では $P$ は $((a,b),(b,c))$ の形の組の集合であり、3 は「$(a,b)\in R$、$(b,c)\in R$ なら $(a,c)\in R$」にあたる。
射 $f\colon A\to B$ の $f$ 自身に沿った引き戻し $p,q\colon A\times_BA\to A$ を $f$ の核対(kernel pair)という。内部同値関係 $d_0,d_1\colon R\to A$ が有効(effective)であるとは、ある射 $f\colon A\to B$ の核対と $A\times A$ の部分対象として一致することをいう。正則圏であって、すべての内部同値関係が有効である圏を Barr 完全圏(Barr-exact category)という。
有効な同値関係は合同(congruence)ともよばれる(BW05 1.8.4、p. 44)。「完全圏」という語は、有限極限と有限余極限をもつ圏の意味(BW05 7.1.1)や、加法圏に完全列の構造を与えた Quillen の意味でも使われるので、この記事では Barr 完全圏と書く。
対象 $A$ の上の関係 $d_0,d_1\colon R\to A$ について、次は同値である。
1 ⇒ 2:$x\colon T\to A$ について $\rho\circ x$ が $(x,x)\in_TR$ を与える。$(x,y)\in_TR$ を $r$ が与えるなら、$\sigma\circ r$ が $(y,x)\in_TR$ を与える。$(x,y)\in_TR$、$(y,z)\in_TR$ をそれぞれ $r,r'$ が与えるなら、$d_1\circ r=y=d_0\circ r'$ なので引き戻しの普遍性から $\pi_1\circ k=r$、$\pi_2\circ k=r'$ となる $k\colon T\to P$ があり、$\tau\circ k$ について $d_0\circ\tau\circ k=d_0\circ r=x$、$d_1\circ\tau\circ k=d_1\circ r'=z$ だから $(x,z)\in_TR$ である。
2 ⇒ 1:$T=A$ として $(\mathrm{id}_A,\mathrm{id}_A)\in_AR$ を与える射が $\rho$ である。$T=R$ とすると、$\mathrm{id}_R$ が $(d_0,d_1)\in_RR$ を与えるので、対称性から $(d_1,d_0)\in_RR$ であり、これを与える射が $\sigma$ である。$T=P$ とすると、$\pi_1,\pi_2$ がそれぞれ $(d_0\pi_1,d_1\pi_1)\in_PR$、$(d_0\pi_2,d_1\pi_2)\in_PR$ を与え、$d_1\pi_1=d_0\pi_2$ だから推移性により $(d_0\pi_1,d_1\pi_2)\in_PR$ であり、これを与える射が $\tau$ である。$\square$
$(d_0,d_1)$ がモノ射なので、$\rho,\sigma,\tau$ は存在すれば一意である。この定理により、内部同値関係についての議論は、各 $T$ ごとの集合の同値関係の議論に帰着する。
射 $f\colon A\to B$ の核対 $p,q\colon K\to A$ は $A$ の上の内部同値関係であり、$(x,y)\in_TK$ であることと $f\circ x=f\circ y$ は同値である。
引き戻しの普遍性から、$f\circ x=f\circ y$ となる $x,y\colon T\to A$ に対し $p\circ k=x$、$q\circ k=y$ をみたす $k\colon T\to K$ がただ 1 つある。一意性から $(p,q)$ はモノ射であり、$K_T=\{(x,y)\mid f\circ x=f\circ y\}$ である。これは $\operatorname{Hom}(T,A)$ の上の同値関係なので、thm-ier-yoneda により $K$ は内部同値関係である。$\square$
内部同値関係 $d_0,d_1\colon R\to A$ がある射 $f\colon A\to B$ の核対であり、$d_0,d_1$ の余等化子 $c\colon A\to Q$ が存在するとする。このとき $R$ は $c$ の核対でもある。
$f\circ d_0=f\circ d_1$ なので、$f=g\circ c$ となる $g\colon Q\to B$ がある。$(x,y)\in_TR$ なら $x=d_0r$、$y=d_1r$ として $c\circ x=c\circ y$ である。逆に $c\circ x=c\circ y$ なら $f\circ x=g\circ c\circ x=g\circ c\circ y=f\circ y$ だから、$R$ が $f$ の核対であることから $(x,y)\in_TR$ である。よって $R_T$ は $c$ の核対の $T$ に値をもつ元の集合と一致する(prop-ier-kernel-pair)。2 つの部分対象 $R$ と $c$ の核対は互いを経由する($T$ としてそれぞれの定義域をとる)ので、部分対象として一致する。$\square$
この主張は MM92 IV 章の演習 14 (b)(p. 215)、付録 §1(p. 574)にある。とくに、余等化子をもつ圏で内部同値関係が有効であることは、それがその余等化子の核対であることと同値である。
集合の圏 $\mathbf{Set}$ で $T$ を 1 点集合にとると、$\operatorname{Hom}(T,A)=A$ であり、関係はモノ射の像 $R\subset A\times A$ と同一視できる。thm-ier-yoneda により、内部同値関係は通常の同値関係 $R\subset A\times A$ にほかならない。商集合への射影 $c\colon A\to A/R$ について $c(x)=c(y)\iff(x,y)\in R$ なので、$R$ は $c$ の核対であり有効である。$\mathbf{Set}$ は正則圏(正則圏 の例「集合の圏」)なので Barr 完全圏である。
群の圏 $\mathbf{Grp}$ の任意の内部同値関係は有効である。したがって $\mathbf{Grp}$ は Barr 完全圏である。
$\mathbf{Grp}$ の有限極限は台集合の上で成分ごとの演算で計算され、モノ射は単射準同型である。よって $G$ の上の関係は部分群 $R\le G\times G$ と同一視できる。$\mathbb Z$ からの準同型は $1$ の像で決まるので $\operatorname{Hom}(\mathbb Z,G)=G$ であり、thm-ier-yoneda を $T=\mathbb Z$ に当てると、$R$ は集合 $G$ の上の同値関係である。
$N=\{g\in G\mid(g,e)\in R\}$ とおく。$R$ は部分群なので $N$ は部分群である。反射律より $(x,x)\in R$ なので、$g\in N$ なら $(xgx^{-1},e)=(x,x)(g,e)(x,x)^{-1}\in R$ であり、$N$ は正規部分群である。さらに $(a,b)\in R$ なら $(ab^{-1},e)=(a,b)(b^{-1},b^{-1})\in R$、逆に $(ab^{-1},e)\in R$ なら $(a,b)=(ab^{-1},e)(b,b)\in R$ である。よって
$$
R=\{(a,b)\in G\times G\mid ab^{-1}\in N\}
$$
であり、これは商準同型 $G\to G/N$ の核対(prop-ier-kernel-pair)である。$\mathbf{Grp}$ が正則圏であることは 正則圏 の例「群・代数系・トポス」にある。$\square$
この証明では対称律と推移律を使っていない。群の圏では、反射的な関係(部分群 $R\le G\times G$ で対角線を含むもの)は自動的に同値関係になる。環上の加群の圏でも、$N=\{a\mid(a,0)\in R\}$ を部分加群として同じ議論ができる。
初等トポス $\mathcal E$ の任意の内部同値関係は有効である。したがって $\mathcal E$ は Barr 完全圏である。
$d_0,d_1\colon R\to A$ を内部同値関係、$\chi_R\colon A\times A\to\Omega$ を部分対象 $R$ の分類射とし、$\rho\colon A\to\Omega^A$ をその転置($\mathrm{ev}\circ(\rho\times\mathrm{id}_A)=\chi_R$)とする。集合の圏では $\rho$ は $a$ を同値類 $\{b\mid(a,b)\in R\}$ に送る写像である。$R$ が $\rho$ の核対であることを示す。
$x,y\colon T\to A$ とする。$\rho\circ x$ の転置は $\chi_R\circ(x\times\mathrm{id}_A)$ なので、$\rho\circ x=\rho\circ y$ は $\chi_R\circ(x\times\mathrm{id}_A)=\chi_R\circ(y\times\mathrm{id}_A)$、すなわち $T\times A$ の部分対象として $(x\times\mathrm{id}_A)^*R=(y\times\mathrm{id}_A)^*R$ であることと同値である。引き戻しの定義から、$(t,z)\colon U\to T\times A$ が $(x\times\mathrm{id}_A)^*R$ を経由することは $(x\circ t,z)\in_UR$ と同値である。
$(x,y)\in_TR$ とする。$(t,z)$ が $(x\circ t,z)\in_UR$ をみたすとき、$(x\circ t,y\circ t)\in_UR$ と対称性・推移性(thm-ier-yoneda)から $(y\circ t,z)\in_UR$ である。$U$ として部分対象の定義域をとると $(x\times\mathrm{id}_A)^*R\le(y\times\mathrm{id}_A)^*R$ がわかり、$x,y$ を入れ替えて逆の包含も得られる。よって $\rho\circ x=\rho\circ y$ である。
逆に $\rho\circ x=\rho\circ y$ とする。反射律より $(y,y)\in_TR$ なので、$(\mathrm{id}_T,y)\colon T\to T\times A$ は $(y\times\mathrm{id}_A)^*R=(x\times\mathrm{id}_A)^*R$ を経由し、$(x,y)\in_TR$ である。
以上ですべての $T$ について $R_T=\{(x,y)\mid\rho\circ x=\rho\circ y\}$ が示された。prop-ier-kernel-pair と prop-ier-quotient の証明の最後と同じ議論で、$R$ は $\rho$ の核対と部分対象として一致する。トポスが正則圏であることは 正則圏 の例「群・代数系・トポス」にある。$\square$
この定理は MM92 IV 章の演習 14(p. 215)に誘導つきの演習として置かれている。上の証明はその (c)〜(e) の段を一般化された元で書き直したものである。
捩れのないアーベル群($na=0$、$n\ge1$ なら $a=0$)と準同型のなす圏 $\mathbf{Ab}_{\mathrm{tf}}$ は正則圏であるが、Barr 完全圏でない。実際、
$$
R=\{(a,b)\in\mathbb Z\times\mathbb Z\mid a\equiv b\pmod 2\}
$$
は $\mathbb Z$ の上の内部同値関係であるが、有効でない。
有限極限:捩れのない群の直積・部分群は捩れがないので、$\mathbf{Ab}$ の有限極限はそのまま $\mathbf{Ab}_{\mathrm{tf}}$ の有限極限である。余等化子:$u,v\colon A\to B$ について $C=B/\operatorname{im}(u-v)$、$C_{\mathrm{tor}}$ をその捩れ部分群とすると、$B\to C/C_{\mathrm{tor}}$ が $\mathbf{Ab}_{\mathrm{tf}}$ での余等化子である。$C/C_{\mathrm{tor}}$ に捩れがないこと:$n(c+C_{\mathrm{tor}})=0$ なら $nc\in C_{\mathrm{tor}}$ なので $mnc=0$ となる $m\ge1$ があり、$c\in C_{\mathrm{tor}}$。普遍性:$g\colon B\to D$($D$ は捩れがない)が $gu=gv$ をみたすなら $g$ は $C$ を経由し、$C$ の捩れ元の像は $D$ の捩れ元なので $0$ であり、$g$ は $C/C_{\mathrm{tor}}$ を経由する。$B\to C/C_{\mathrm{tor}}$ は全射なので経由の仕方は一意である。よって余等化子はつねに存在して全射であり、正則エピ射は全射準同型である。逆に全射 $e\colon B\to E$ の核対 $p,q$ について $\operatorname{im}(p-q)=\ker e$、$B/\ker e\cong E$ は捩れがないので、$e$ は核対の余等化子である。全射の引き戻しは(台集合の上で計算されるので)全射である。以上で正則圏の 3 条件が確かめられた。
$R$ は $\mathbb Z\times\mathbb Z$ の部分群なので捩れがなく、包含はモノ射である。$\rho(n)=(n,n)$、$\sigma(a,b)=(b,a)$、$\tau((a,b),(b,c))=(a,c)$ はいずれも準同型で、def-ier-equivalence の 3 条件をみたす($\mathbf{Ab}_{\mathrm{tf}}$ の引き戻し $P=R\times_{\mathbb Z}R$ は $\mathbf{Ab}$ の引き戻しである)。
$R$ がある $f\colon\mathbb Z\to D$($D$ は捩れがない)の核対だとする。核対は $\mathbf{Ab}$ と同じく $\{(a,b)\mid f(a)=f(b)\}$ である。$(0,2)\in R$ から $f(2)=f(0)=0$、すなわち $2f(1)=0$ で、$D$ に捩れがないので $f(1)=0$、$f=0$ となる。すると核対は $\mathbb Z\times\mathbb Z$ 全体で、$(0,1)\notin R$ に反する。$\square$
$R$ の余等化子は、$\mathbb Z/2\mathbb Z$ を捩れ部分で割った $0$ である。商をとると同値類の区別がすべて消えてしまうことが、有効でないことの現れである。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 対称律 | $\mathbf{Set}$ の $\mathbb Z$ 上の順序 $\le$ | 核対であること(核対は対称) |
| 推移律 | $\mathbf{Set}$ の $\mathbb Z$ 上の $\{(a,b)\mid\lvert a-b\rvert\le1\}$ | 核対であること(核対は推移的) |
| 内部同値関係の有効性 | $\mathbf{Ab}_{\mathrm{tf}}$ と $R$(ex-ier-torsion-free) | Barr 完全であること(正則性は残る) |
1・2 行目の関係は反射律をみたし、それぞれ 1 つの法則だけを破る。prop-ier-kernel-pair により、どの射の核対にもならない。
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