スキーム論的像

同義語:scheme-theoretic image像閉部分スキーム

概要

スキーム論的像(scheme-theoretic image)とは、スキームの射 $f\colon X\to Y$ が経由する $Y$ の閉部分スキームのうち最小のもののことであり、どの射にも存在し、そのイデアル層は $f^\sharp\colon\mathcal{O}_Y\to f_*\mathcal{O}_X$ の核に含まれる最大の準連接イデアル層である。$f$ が準コンパクトならイデアル層は核そのもので、台は $f(X)$ の閉包に一致する。アフィンスキームの射 $\operatorname{Spec}B\to\operatorname{Spec}A$ では $\operatorname{Spec}A/\ker(A\to B)$ であり、$X$ が被約なら閉包の被約誘導構造になる。準コンパクトでない射では、台が閉包より大きくなることがある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 閉部分スキーム, 準連接層, 閉埋め込み, 被約スキーム

連続写像 $f\colon X\to Y$ の像 $f(X)$ は一般に閉集合でなく、閉集合として扱いたければ閉包 $\overline{f(X)}$ をとる。スキームの射 $f\colon X\to Y$ では、閉包の台の上にどんな関数の層を載せるかまで決めたい。$X$ が冪零元をもてば、像にもその「太さ」が残ってほしいからである。そこで、$f$ が経由する $Y$ の閉部分スキームのうち最小のものを考え、これを $f$ のスキーム論的像という。
スキーム論的像はつねに存在する。$f$ が準コンパクトなら、そのイデアル層は構造層の射 $f^\sharp\colon\mathcal{O}_Y\to f_*\mathcal{O}_X$ の核そのもので、台はちょうど $\overline{f(X)}$ である。アフィンスキームの射 $\operatorname{Spec}B\to\operatorname{Spec}A$ なら、環準同型 $A\to B$ の核 $\mathfrak{a}$ が定める $\operatorname{Spec}A/\mathfrak{a}$ がスキーム論的像になる。この記事では、存在、準コンパクトな射での記述、被約性・推移性・エピ射としての性質を証明し、準コンパクト性を外すと台が閉包より大きくなる例を挙げる。

定義

以下、スキーム $Y$ の閉部分スキームの包含 $Z\subset Z'$ は 閉部分スキーム の定義「閉部分スキーム」の意味とし、射 $f\colon X\to Y$ が閉部分スキーム $Z$ を経由するとは、$Z$ の閉埋め込み $i\colon Z\to Y$ と射 $g\colon X\to Z$ で $f=i\circ g$ となるものがあることをいう。

スキーム論的像

$f\colon X\to Y$ をスキームの射とする。$Y$ の閉部分スキーム $Z$ で次の 2 条件をみたすものを $f$ のスキーム論的像(scheme-theoretic image)といい、$Z_f$ と書く。

  1. $f$ は $Z$ を経由する。
  2. $f$ が経由する $Y$ の任意の閉部分スキーム $Z'$ について $Z\subset Z'$ である。
    また、$f^\sharp\colon\mathcal{O}_Y\to f_*\mathcal{O}_X$ の核を $\mathcal{K}_f:=\ker f^\sharp$ と書く。これは $\mathcal{O}_Y$ のイデアル層である。

条件 1・2 をみたす $Z$ はあればただ 1 つである。2 つあれば互いに含み合い、閉部分スキーム の定理「閉部分スキームと準連接イデアル層の対応」によりイデアル層が一致するからである。EGA ではこれを像閉部分スキーム(préschéma image fermée)と呼ぶ(EGA1 (9.5.3))。$Z_f=Y$ のとき $f$ はスキーム論的に稠密であるという(永田のコンパクト化 の記事と同じ用法)。
経由の判定には、閉部分スキーム の補題「閉埋め込みを経由する射」を使う:$f$ が閉部分スキーム $Z$ を経由することは、$Z$ のイデアル層 $\mathcal{I}_Z$ について合成 $\mathcal{I}_Z\to\mathcal{O}_Y\to f_*\mathcal{O}_X$ が $0$ であること、すなわち
$$ \mathcal{I}_Z\subset\mathcal{K}_f $$
と同値である。以下これを経由の判定と呼ぶ。

スキーム論的像の存在

任意のスキームの射 $f\colon X\to Y$ はスキーム論的像 $Z_f$ をもつ。$Z_f$ のイデアル層は、$\mathcal{K}_f$ に含まれる準連接イデアル層全体の和 $\mathcal{I}_f$ であり、$\mathcal{I}_f$ は $\mathcal{K}_f$ に含まれる準連接イデアル層のうち最大のものである。とくに $f(X)\subset Z_f$ であり、$Z_f$ の台は $\overline{f(X)}$ を含む。

$\mathcal{K}_f$ に含まれる準連接イデアル層の全体を $\Phi$ とする($0\in\Phi$)。直和 $\bigoplus_{\mathcal{J}\in\Phi}\mathcal{J}$ は準連接で、包含の和として得られる射 $\bigoplus_{\mathcal{J}\in\Phi}\mathcal{J}\to\mathcal{O}_Y$ の像が和 $\mathcal{I}_f$ である。準連接層の直和と、準連接層の間の射の像は準連接なので(準連接層 の定理「準連接層の圏の閉性」の 1・3)、$\mathcal{I}_f$ は準連接である。各 $\mathcal{J}\in\Phi$ は部分 $\mathcal{O}_Y$ 加群 $\mathcal{K}_f$ に含まれるので、像 $\mathcal{I}_f$ も $\mathcal{K}_f$ に含まれる。よって $\mathcal{I}_f\in\Phi$ で、これは $\Phi$ の最大元である。
$Z:=V(\mathcal{I}_f)$ を $\mathcal{I}_f$ が定める閉部分スキームとする。$\mathcal{I}_f\subset\mathcal{K}_f$ なので、経由の判定により $f$ は $Z$ を経由する。$f$ が閉部分スキーム $Z'$ を経由すれば、経由の判定により準連接イデアル層 $\mathcal{I}_{Z'}$ は $\mathcal{K}_f$ に含まれ、$\mathcal{I}_{Z'}\in\Phi$、したがって $\mathcal{I}_{Z'}\subset\mathcal{I}_f$ である。閉部分スキーム の定理「閉部分スキームと準連接イデアル層の対応」により $Z\subset Z'$ である。よって $Z$ はスキーム論的像である。
最後の主張:$f=i\circ g$ と書けば $f(X)=i(g(X))$ は $Z$ の台に含まれ、台は閉集合なので $\overline{f(X)}$ も含む。$\square$

準コンパクトな射のスキーム論的像

一般には $\mathcal{K}_f$ 自身は準連接とは限らず、$Z_f$ の台は $\overline{f(X)}$ より大きくなりうる(下の ex-sti-non-quasi-compact)。$\mathcal{K}_f$ が準連接なら、像は核で直接書ける。

準コンパクトな射のスキーム論的像

$f\colon X\to Y$ をスキームの射とし、次のどちらかを仮定する。

  • (a) $f_*\mathcal{O}_X$ が準連接である($f$ が準コンパクトかつ準分離なら成り立つ)。
  • (b) $f$ が準コンパクトである。
    このとき $\mathcal{K}_f$ は準連接で、次が成り立つ。
  1. $Z_f$ は $\mathcal{K}_f$ が定める閉部分スキーム $V(\mathcal{K}_f)$ である。
  2. $Z_f$ の台は $\overline{f(X)}$ である。とくに $f(X)$ は $Z_f$ で稠密である。
  3. 任意の開集合 $V\subset Y$ について、$f$ の制限 $f_V\colon f^{-1}(V)\to V$ のスキーム論的像は、$Z_f$ の開部分スキーム $Z_f\cap V$ である。
  4. $Z_f=Y$ であることと、$f^\sharp\colon\mathcal{O}_Y\to f_*\mathcal{O}_X$ が単射であることは同値である。

$\mathcal{K}_f$ の準連接性. (a) のとき、$\mathcal{K}_f$ は準連接層の射 $f^\sharp$ の核なので準連接である(準連接層 の定理「準連接層の圏の閉性」の 1)。$f$ が準コンパクトかつ準分離なら $f_*\mathcal{O}_X$ は準連接である(同記事の命題「準コンパクト準分離な射による順像」)。
(b) のとき、準連接性は局所的な性質なので、$Y$ のアフィン開集合 $V=\operatorname{Spec}A$ の上で示せばよい。$f$ は準コンパクトなので $f^{-1}(V)$ は有限個のアフィン開集合 $U_l=\operatorname{Spec}B_l$($l=1,\dots,n$)で覆われる。$f_l:=f|_{U_l}\colon U_l\to V$ とする。$V$ の開集合 $W$ について、層の公理により制限の写像
$$ \mathcal{O}_X(f^{-1}(W))\longrightarrow\prod_{l=1}^n\mathcal{O}_X(U_l\cap f^{-1}(W)) $$
は単射である。したがって $\mathcal{K}_f|_V$ は、射 $\mathcal{O}_V\to\bigoplus_{l=1}^n(f_l)_*\mathcal{O}_{U_l}$(成分が $f_l^\sharp$)の核に等しい。各 $f_l$ はアフィンスキームの射なので $(f_l)_*\mathcal{O}_{U_l}\cong\widetilde{B_l}$($B_l$ を $A$ 加群とみる)は準連接であり(同記事の補題「アフィンスキームの射による押し出し」)、有限直和と核も準連接だから、$\mathcal{K}_f|_V$ は準連接である。
1. $\mathcal{K}_f$ が準連接なら、$\mathcal{K}_f$ 自身が $\mathcal{K}_f$ に含まれる準連接イデアル層の最大のものである。thm-sti-existence により $Z_f=V(\mathcal{K}_f)$ である。
2. $\overline{f(X)}$ が $Z_f$ の台に含まれることは thm-sti-existence で見た。逆に $y\notin\overline{f(X)}$ とし、$y$ の開近傍 $V$ で $V\cap f(X)=\emptyset$ となるものをとる。$V$ に含まれる開集合 $W$ について $f^{-1}(W)=\emptyset$ だから $(f_*\mathcal{O}_X)(W)=\mathcal{O}_X(\emptyset)=0$、したがって $\mathcal{K}_f|_V=\mathcal{O}_V$ である。閉部分スキーム $V(\mathcal{I})$ の台は茎 $\mathcal{I}_y$ が $\mathcal{O}_{Y,y}$ と異なる点 $y$ の集合なので、$y$ は $Z_f=V(\mathcal{K}_f)$ の台に属さない。
3. $V$ の開集合 $W$ について $(f_V)_*\mathcal{O}_{f^{-1}(V)}(W)=\mathcal{O}_X(f^{-1}(W))=(f_*\mathcal{O}_X)(W)$ で、$f_V^\sharp=f^\sharp|_V$ である。よって $\mathcal{K}_{f_V}=\mathcal{K}_f|_V$ は準連接であり、1 を $f_V$ に使うと(1 の証明は $\mathcal{K}$ の準連接性しか使わない)、$f_V$ のスキーム論的像は $V(\mathcal{K}_f|_V)$、すなわち $Z_f$ の開部分スキーム $Z_f\cap V$ である。
4. 1 により、$Z_f=Y$ は $\mathcal{K}_f=0$ と同値である。$\square$

準コンパクト性 (b) は、準分離性を仮定しない点で (a) の十分条件より弱い。たとえば $X$ がNoetherスキームなら、任意の射 $f\colon X\to Y$ は準コンパクトである(Noether 位相空間の部分集合はすべて準コンパクト)。
永田のコンパクト化 の記事で使われている性質 (I1)・(I2) は、それぞれ定理の 3 と 2 である。

局所閉部分スキームの閉包

$X$ をスキーム、$U\subset X$ を開集合、$W$ を $U$ の閉部分スキームとし、合成 $j\colon W\to U\to X$ が準コンパクトであるとする。$j$ のスキーム論的像を $\overline{W}$ とすると、$\overline{W}$ の台は $W$ の台の $X$ における閉包であり、$\overline{W}\cap U=W$ が $U$ の閉部分スキームとして成り立つ。とくに $W$ は $\overline{W}$ の開部分スキームである。

台については thm-sti-quasi-compact の 2 による。3 を開集合 $U$ に使うと、$\overline{W}\cap U$ は $j^{-1}(U)=W\to U$ のスキーム論的像である。この射は閉埋め込みなので、そのイデアル層は $\mathcal{K}$ に等しく(閉埋め込みのイデアル層の定義)、準連接である。よって 1 によりスキーム論的像は $W$ 自身で、$\overline{W}\cap U=W$ である。$\square$

$\overline{W}$ を $W$ のスキーム論的閉包という。$X$ が局所 Noether なら $j$ はつねに準コンパクトである($X$ のアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$ では $A$ は Noether 環であり、その逆像は Noether 空間 $\operatorname{Spec}A$ の部分空間と同相だから準コンパクト)。

例

アフィンスキームの射

$\varphi\colon A\to B$ を環準同型、$f=\operatorname{Spec}\varphi\colon\operatorname{Spec}B\to\operatorname{Spec}A$ とする。$\operatorname{Spec}B$ は準コンパクトなので $f$ は準コンパクトで、thm-sti-quasi-compact により $\mathcal{K}_f$ は準連接である。アフィンスキーム上の準連接層は大域切断に付随する層であり(準連接層 の定理「準連接性の 3 つの特徴づけ」の 3)、大域切断をとる操作は核を保つので $\Gamma(\operatorname{Spec}A,\mathcal{K}_f)=\ker\varphi$ である。よって
$$ Z_f=\operatorname{Spec}A/\ker\varphi . $$
とくに $f$ がスキーム論的に稠密であることは $\varphi$ が単射であることと同値である。$k$ を体として具体例を挙げる。

  1. $f\colon\mathbb{A}^2_k\to\mathbb{A}^2_k$、$(x,y)\mapsto(x,xy)$:$k[u,v]\to k[x,y]$、$u\mapsto x$、$v\mapsto xy$ は単射($x$ と $xy$ は代数的に独立)なので $Z_f=\mathbb{A}^2_k$ である。点の像 $\{u\neq0\}\cup\{(0,0)\}$ は開でも閉でもないが、その閉包は $\mathbb{A}^2_k$ である。
  2. $f\colon\operatorname{Spec}k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)\to\mathbb{A}^2_k$、$u\mapsto\varepsilon$、$v\mapsto0$:核は $(u^2,v)$ で、$Z_f=V(u^2,v)$ は原点に $u$ 方向の接ベクトルを載せた 2 重点である。点の像は原点 1 点だが、$Z_f$ は被約な原点 $V(u,v)$ より大きい。
  3. $f\colon\operatorname{Spec}k\sqcup\operatorname{Spec}k\to\mathbb{A}^1_k$ を 2 点 $x=0$、$x=1$ への埋め込みとする。$k[x]\to k\times k$、$x\mapsto(0,1)$ の核は $(x(x-1))$ で、$Z_f=V(x(x-1))$ である。
  4. $X=\operatorname{Spec}k[x,y]/(xy)$(2 本の座標軸の和)の開集合 $D(x)$ の包含 $f$:$k[x,y]/(xy)\to k[x,x^{-1}]$($y\mapsto0$)の核は $(y)$ なので、$Z_f=V(y)$ は $x$ 軸である。開集合の閉包は、その開集合が稠密に入っている既約成分だけを拾う。

反例

次の表の各行は、上の定理や下の性質の仮定を 1 つだけ外したものである。

外す条件反例成り立たなくなること
$f$ の準コンパクト性$\coprod_{n\ge1}\operatorname{Spec}k[x]/(x^n)\to\mathbb{A}^1_k$$Z_f$ の台が $\overline{f(X)}$ であること、開集合への制限との両立
最小性を閉部分スキームの中で考えること$\operatorname{Spec}k(t)\to\operatorname{Spec}k[t]$経由する部分スキームのうち最小のものの存在
$X$ の被約性ex-sti-affine の 2$Z_f$ が $\overline{f(X)}$ の被約誘導構造であること
$T$ の $S$ 上の分離性原点を 2 重にした直線スキーム論的に稠密な射の右からの消去

3 行目は ex-sti-affine の 2 で見た。4 行目は prop-sti-epi の後で確かめる。

反例:準コンパクトでない射

$k$ を体、$X:=\coprod_{n\ge1}\operatorname{Spec}k[x]/(x^n)$、$f\colon X\to Y:=\mathbb{A}^1_k=\operatorname{Spec}k[x]$ を各成分の閉埋め込みとする。$Y$ の閉部分スキームは $V(J)$($J\subset k[x]$ はイデアル)の形で、$f$ が $V(J)$ を経由することは、各成分 $\operatorname{Spec}k[x]/(x^n)\to Y$ が経由すること、すなわち経由の判定によりすべての $n$ で $J\subset(x^n)$ となることと同値である。$\bigcap_n(x^n)=0$ なので $J=0$、すなわち $Z_f=\mathbb{A}^1_k$ である。

  • 満たす性質:$f$ は分離的(各成分が閉埋め込み)で、点の像 $f(X)=\{0\}$ は閉集合である。
  • 満たさない性質:$f$ は準コンパクトでない($f^{-1}(Y)=X$ は無限個の成分の非交和)。
  • 成り立たなくなること:$Z_f$ の台 $\mathbb{A}^1_k$ は $\overline{f(X)}=\{0\}$ と異なり、thm-sti-quasi-compact の 2 が成り立たない。開集合 $V=D(x)$ では $f^{-1}(V)=\emptyset$ なので $f_V$ のスキーム論的像は空だが、$Z_f\cap V=V$ であり、3 も成り立たない。$\mathcal{K}_f$ も準連接でない。準連接なら $\mathcal{K}_f\cong\widetilde{\Gamma(Y,\mathcal{K}_f)}$ であるが、$\Gamma(Y,\mathcal{K}_f)=\ker\bigl(k[x]\to\prod_nk[x]/(x^n)\bigr)=0$ である一方、$\mathcal{K}_f(D(x))=k[x,x^{-1}]\neq0$ だからである。
反例:閉でない部分スキームでの最小性

$k$ を体、$Y:=\operatorname{Spec}k[t]$、$f\colon\operatorname{Spec}k(t)\to Y$ を生成点 $\eta$ への射とする。$k[t]\to k(t)$ は単射なので、ex-sti-affine により $Z_f=Y$ である。
一方、$f$ が経由する $Y$ の(局所閉な)部分スキーム全体の中には最小のものがない。$0$ でない $a\in k[t]$ について $f$ は開部分スキーム $D(a)$ を経由する。最小のもの $W$ があれば、すべての $a\neq0$ で $W$ の台は $D(a)$ に含まれ、したがって $\bigcap_{a\neq0}D(a)=\{\eta\}$ に含まれる(閉点 $(p)$ は $D(p)$ に属さない)。$W$ は空でないので台は $\{\eta\}$ である。しかし $\{\eta\}$ は局所閉でない。$\{\eta\}=U\cap F$($U$ は開、$F$ は閉)なら $\eta\in F$ から $F=Y$、よって $\{\eta\}=U$ は開集合となるが、$Y$ の空でない開集合は有限個の閉点を除いたもので、$k[t]$ には既約なモニック多項式が無限個あるから、$\{\eta\}$ は開でない。
このように、「$f$ が経由する最小の部分スキーム」は閉部分スキームの中で考えて初めて意味をもつ。EGA1 (9.5.1)–(9.5.2) の主張も、閉部分スキームの中での最小性として読む。

性質

被約なスキームの像

$f\colon X\to Y$ をスキームの射とする。

  1. $X$ が被約スキームなら、$Z_f$ は閉集合 $\overline{f(X)}$ の被約誘導構造 $\overline{f(X)}_{\mathrm{red}}$ である。$f$ の準コンパクト性は仮定しない。
  2. $X$ が整スキームなら $Z_f$ も整スキームである。
  3. $\mathcal{K}_f$ が準連接で(たとえば $f$ が準コンパクトで)、$X$ が既約なら、$Z_f$ の台は既約である。

1.$T:=\overline{f(X)}$ とする。閉部分スキーム の命題「被約誘導構造」の 2 により、被約な $X$ からの射 $f$ は $T_{\mathrm{red}}$ を経由するので、$Z_f\subset T_{\mathrm{red}}$ である。とくに $Z_f$ の台は $T$ に含まれ、thm-sti-existence により $T$ を含むので、ちょうど $T$ である。アフィン開集合 $U=\operatorname{Spec}A$ の上で $T_{\mathrm{red}}\cap U=V(I)$、$Z_f\cap U=V(J)$ と書くと、$Z_f\subset T_{\mathrm{red}}$ より $I\subset J$、台が等しいので $V(I)=V(J)$ である。$I$ は根基イデアル($A/I$ が被約)なので $J\subset\sqrt{J}=\sqrt{I}=I$、したがって $I=J$ である。各アフィン開集合でイデアルが一致するので $Z_f=T_{\mathrm{red}}$ である。
2.整スキームは被約かつ既約である。1 により $Z_f=T_{\mathrm{red}}$ は被約で、台 $T$ は既約集合 $f(X)$(既約空間の連続像)の閉包なので既約である。
3.thm-sti-quasi-compact の 2 により $Z_f$ の台は $\overline{f(X)}$ で、2 と同じ理由で既約である。$\square$

スキーム論的像の推移性

$f\colon X\to Y$、$g\colon Y\to S$ をスキームの射とする。$f$ が $Z_f$ を経由する射を $f'\colon X\to Z_f$、$g$ を $Z_f$ に制限した射を $g':=g\circ i\colon Z_f\to S$($i$ は閉埋め込み)とすると、$g\circ f$ のスキーム論的像は $g'$ のスキーム論的像に等しい。

$g\circ f=g'\circ f'$ は $Z_{g'}$ を経由する。逆に $g\circ f$ が $S$ の閉部分スキーム $W$ を経由するとし、$Z_{g'}\subset W$ を示す。$P:=Z_f\times_SW$ とすると、射影 $p\colon P\to Z_f$ は閉埋め込み $W\to S$ の底変換なので閉埋め込みであり(閉埋め込み の命題「閉埋め込みの底変換」)、$i\circ p\colon P\to Y$ も閉埋め込みである(同記事の命題「閉埋め込みの合成」)。$g'\circ f'=g\circ f$ が $W$ を経由するので、ファイバー積の普遍性により $f'$ は $p$ を経由し、$f$ は閉部分スキーム $i\circ p$ を経由する。最小性により $Z_f\subset P$ であり、$P\subset Z_f$ と合わせて、閉部分スキームとして $P=Z_f$、すなわち $p$ は同型である。$g'\circ p$ は $W$ を経由するので、$g'=(g'\circ p)\circ p^{-1}$ も $W$ を経由し、$Z_{g'}\subset W$ である。$\square$

スキーム論的に稠密な射の消去

$S$ をスキーム、$f\colon X\to Y$ を $S$ スキームの射で $Z_f=Y$ をみたすもの、$T$ を $S$ 上分離的(分離射)なスキームとする。$S$ 上の 2 つの射 $g_1,g_2\colon Y\to T$ が $g_1\circ f=g_2\circ f$ をみたせば、$g_1=g_2$ である。

分離射 の命題「分離射への 2 つの射の一致点集合」により、$g_1$ と $g_2$ の一致点集合 $E\subset Y$ は閉部分スキームであり、射 $h$ が $E$ を経由することと $g_1\circ h=g_2\circ h$ は同値である。$f$ は $E$ を経由するので、最小性により $Y=Z_f\subset E$ である。よって $\mathrm{id}_Y$ が $E$ を経由し、$g_1=g_2$ である。$\square$

分離性は外せない。$k$ を体とし、$T$ を分離射 の例「反例:原点を 2 重にした直線」の $k$ スキーム、$g_1,g_2\colon\mathbb{A}^1_k\to T$ を 2 つのアフィン直線の包含、$f\colon D(x)\to\mathbb{A}^1_k$ を開集合の包含とする。$k[x]\to k[x,x^{-1}]$ は単射なので $Z_f=\mathbb{A}^1_k$ で(ex-sti-affine)、$g_1\circ f=g_2\circ f$ であるが、$g_1(0)=0_1\neq0_2=g_2(0)$ なので $g_1\neq g_2$ である。
$X,Y$ が $S$ 上分離的なら、prop-sti-epi は、スキーム論的に稠密な射が $S$ 上分離的なスキームの圏でエピ射であることを意味する(EGA1 (9.5.6)–(9.5.7))。

補足

文献

スキーム論的像は EGA1 §9.5 で導入され、Stacks の Morphisms の章 Section 29.6 にまとまっている。Har77 では II 章の演習 3.11(d) で定義が与えられる。

所在の一覧を開く

EGA1:(9.5.1)–(9.5.2)(核による構成、p. 176)、(9.5.3)(定義)・(9.5.4)(台は像の閉包)・(9.5.5)(推移性)・(9.5.6)(消去、p. 177)、(9.5.7)(エピ射、pp. 177–178)・(9.5.8)(開集合への制限)・(9.5.9)(被約・既約・整、p. 178)、(9.5.10)(局所閉部分スキームの閉包、p. 178)、(9.5.11)(p. 179)。Stacks:Lemma 29.6.1(Tag 01R6、存在、p. 2433)、Definition 29.6.2(Tag 01R7)、Lemma 29.6.3(Tag 01R8、準コンパクトな射、p. 2434)、Example 29.6.4(Tag 056A、アフィンの場合)、Lemma 29.6.7(Tag 056B、被約な場合、p. 2435)、Definition 29.7.1(Tag 01RB、スキーム論的閉包、p. 2435)。Har77:II 演習 3.11(d)(p. 92。演習で、証明は与えられていない)。

Stacks は「scheme theoretically dense」を開部分スキームについて、すべての開集合 $V$ で $U\cap V$ のスキーム論的閉包が $V$ になることと定義しており(Definition 29.7.1)、この記事の「スキーム論的に稠密」とは別の条件である。開集合の包含が準コンパクトなら、thm-sti-quasi-compact の 3 により両者は一致する(Stacks Lemma 29.7.3)。

関連項目

参考文献

[1]
Alexander Grothendieck, Jean Dieudonné, Éléments de géométrie algébrique I : Le langage des schémas, Publications Mathématiques de l'IHÉS, 1960, Chapitre I §9.5(像閉部分スキーム):(9.5.1)–(9.5.2) p. 176、(9.5.3)–(9.5.6) p. 177、(9.5.7) pp. 177–178、(9.5.8)–(9.5.10) p. 178、(9.5.11) p. 179
[3]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer, 1977, II, Exercise 3.11(d)(スキーム論的像の定義、p. 92)

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