群コホモロジーの位相的解釈

同義語:topological interpretation of group cohomology

概要

群コホモロジーの位相的解釈(topological interpretation of group cohomology)とは、弧状連結・局所弧状連結・半局所単連結で 2 次以上のホモトピー群が消える空間 $K$ について、群 $G=\pi_1(K)$ のコホモロジー $H^n(G,M)$ が、$G$ 加群 $M$ を係数とする $K$ の局所係数のコホモロジーと同型になるという事実である。普遍被覆の特異鎖が $\mathbb{Z}$ の自由 $\mathbb{Z}[G]$ 分解になることから従い、作用が自明な係数では通常の特異コホモロジーと一致し、可換環を係数とするとカップ積も一致する。$K$ が CW 複体なら普遍被覆の胞体鎖でも計算でき、トーラスから $\mathbb{Z}^n$ のコホモロジー環が外積代数であることなどが分かる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 群コホモロジー, Eilenberg–MacLane空間, 普遍被覆, 特異コホモロジー

群コホモロジーの位相的解釈(topological interpretation of group cohomology)は、群 $G$ のコホモロジー $H^n(G,M)$ が、基本群が $G$ で 2 次以上のホモトピー群が消える空間($K(G,1)$ 空間)のコホモロジーと一致するという事実である。空間 $K$ の普遍被覆 $\tilde K$ の特異鎖は、被覆変換群 $G$ の作用で自由 $\mathbb{Z}[G]$ 加群の複体になり、$\tilde K$ のホモトピー群がすべて消えるので $\mathbb{Z}$ の自由分解になる。そのため $H^n(G,M)$ は、$G$ 加群 $M$ を係数とする $K$ の局所係数のコホモロジーとして読め、作用が自明な係数では通常の特異コホモロジーそのものになり、カップ積も一致する。
逆向きに使うと、円周・トーラス・グラフ・射影空間・Klein の壺のような具体的な空間の胞体分割が、群コホモロジーを計算する小さな自由分解を与える。たとえば $\mathbb{Z}^n$ のコホモロジー環はトーラス $T^n$ のコホモロジー環として外積代数になり、自由群のコホモロジーは $2$ 次以上で消える。

設定

以下 $K$ を弧状連結・局所弧状連結・半局所単連結な空間とし、点 $b\in K$ と 普遍被覆 $p\colon\tilde K\to K$ を固定する。被覆変換群を $G$ と書くと、$G\cong\pi_1(K,b)$ であり、$G$ はファイバーに自由かつ推移的に作用する(被覆変換群 の系「普遍被覆の被覆変換群」)。この同型で $\pi_1(K,b)$ と $G$ を同一視する。
空間 $X$ の特異鎖複体を $S_\bullet(X)$ と書く(特異単体 $\sigma\colon\Delta^q\to X$ を基底とする自由アーベル群の複体)。$G$ は合成 $\tilde\sigma\mapsto g\circ\tilde\sigma$ で $S_\bullet(\tilde K)$ に作用する。群のホモロジー の補題「特異単体の持ち上げ」により、各 $S_q(\tilde K)$ は $K$ の特異 $q$ 単体ごとに持ち上げを 1 つずつ選んだものを基底とする自由 $\mathbb{Z}[G]$ 加群で、境界写像は $G$ 準同型である。$0$ 単体の係数の和 $\varepsilon\colon S_0(\tilde K)\to\mathbb{Z}$ も $G$ 準同型である($\mathbb{Z}$ には自明に作用させる)。

非球面的な空間

$i\ge2$ のすべての $i$ について $\pi_i(K,b)=0$ となるとき、$K$ は 非球面的(aspherical)であるという。これは $K$ が Eilenberg–MacLane空間 の意味の $K(G,1)$ であることと同じである。

被覆写像は $i\ge2$ のホモトピー群の同型を誘導し(ホモトピー群 の命題「被覆空間と$n$-単純性」)、$\tilde K$ は単連結なので、$K$ が非球面的であることは $\tilde K$ のすべてのホモトピー群が消えること($\tilde K$ が弱可縮であること)と同値である。CW 複体であることは仮定しない。

局所係数のコホモロジー

$M$ を $G$ 加群とする(群コホモロジー の定義「$G$ 加群」)。$G$ 準同型の群
$$ C^n(K;M):=\operatorname{Hom}_G\bigl(S_n(\tilde K),M\bigr) $$
に $\delta\varphi:=\varphi\circ\partial$ で余境界を入れた余鎖複体のコホモロジーを $H^n(K;M)$ と書き、$M$ を係数とする $K$ の 局所係数のコホモロジー という。

$M$ は $\pi_1(K,b)$ の作用をもつアーベル群であり、作用が非自明なとき $H^n(K;M)$ は $M$ の下のアーベル群を係数とする特異コホモロジーとは一般に異なる(ex-tgc-sign)。この定義は Hat02 §3.H(p. 328)と同じで、同書(p. 334)は、$M$ から作った群の束(局所係数系 の局所系と同じ考え方のもの)を係数とし、各特異単体にその束への持ち上げを対応させる余鎖による定義と一致することを述べている。作用が自明なら通常のコホモロジーに戻る。

自明な作用の係数

$G$ がアーベル群 $A$ に自明に作用するとき、$\Psi(\varphi):=\varphi\circ p_\#$ は余鎖複体の同型
$$ \Psi\colon\operatorname{Hom}\bigl(S_\bullet(K),A\bigr)\to C^\bullet(K;A) $$
である。したがって $H^n(K;A)$ は $A$ 係数の特異コホモロジーと一致する。

不変な余鎖は軌道の上で一定

$p\circ g=p$($g\in G$)なので $\Psi(\varphi)(g\tilde\sigma)=\varphi(p\circ\tilde\sigma)=\Psi(\varphi)(\tilde\sigma)$ であり、作用が自明な $A$ への写像として $\Psi(\varphi)$ は $G$ 準同型である。逆に $G$ 準同型 $F\colon S_n(\tilde K)\to A$ は $F(g\tilde\sigma)=F(\tilde\sigma)$ を満たし、$K$ の特異単体 $\sigma$ の持ち上げは 1 つの $G$ 軌道をなすので、$\varphi(\sigma):=F(\tilde\sigma)$($\tilde\sigma$ は $\sigma$ の持ち上げ)は持ち上げの選び方によらず、$\Psi(\varphi)=F$ を満たす。よって $\Psi$ は全単射で、$p_\#$ は鎖写像なので $\Psi$ は余境界と可換である。$\square$

主定理

非球面的な空間のコホモロジー

$K$ が非球面的なら、$G$ 加群 $M$ ごとに同型
$$ \theta_M\colon H^n(G,M)\xrightarrow{\ \cong\ }H^n(K;M)\qquad(n\ge0) $$
があって、次を満たす。

  1. $\theta_M$ は $M$ について自然である。
  2. $G$ 加群の短完全列 $0\to M'\to M\to M''\to0$ について、群コホモロジー の定理「群コホモロジーの長完全列」の接続準同型と、余鎖複体の短完全列 $0\to C^\bullet(K;M')\to C^\bullet(K;M)\to C^\bullet(K;M'')\to0$ の接続準同型は、$\theta$ と可換である。
  3. $G$ が自明に作用するアーベル群 $A$ について、prop-tgc-trivial と合わせて $H^n(G,A)\cong H^n(K;A)$(特異コホモロジー)である。
普遍被覆の特異鎖は自由分解

要点:$\tilde K$ は弱可縮なので $S_\bullet(\tilde K)\xrightarrow{\varepsilon}\mathbb{Z}$ は自由分解であり、標準分解との比較写像が同型を与える。比較写像は係数によらないので、自然性と接続準同型との両立もそこから出る。

詳しい証明を開く

自由分解.$\tilde K$ は弱可縮なので、一点への写像は弱ホモトピー同値であり、ホモロジーの同型を誘導する(Hat02 §4.1 Proposition 4.21, p. 356)。よって $q>0$ で $H_q(S_\bullet(\tilde K))=0$ である。$\tilde K$ は弧状連結なので $H_0(S_\bullet(\tilde K))\cong\mathbb{Z}$ で、$\varepsilon\circ\partial_1=0$ と $\varepsilon$ の全射性から、$\varepsilon$ は同型 $H_0\cong\mathbb{Z}$ を誘導し、$\ker\varepsilon=\operatorname{im}\partial_1$ である。各項は自由なので、$S_\bullet(\tilde K)\xrightarrow{\varepsilon}\mathbb{Z}$ は $\mathbb{Z}$ の自由 $\mathbb{Z}[G]$ 分解である。

同型.標準分解 $X_\bullet\to\mathbb{Z}$(群コホモロジー の定理「標準分解」)との間に、$\mathrm{id}_{\mathbb{Z}}$ の上の $G$ 準同型の鎖写像 $u\colon S_\bullet(\tilde K)\to X_\bullet$ をとる(導来関手 の命題「比較定理」。$u$ は鎖ホモトピーを除いて一意である)。群コホモロジー の定理「標準分解」の 3 の同型 $\Phi\colon\operatorname{Hom}_G(X_\bullet,M)\cong C^\bullet(G,M)$ を使って $\theta_M:=u^*\circ\Phi^{-1}$ とおくと、群コホモロジー の系「射影分解による計算」の証明のとおり $u^*$ はコホモロジーの同型を誘導する。鎖ホモトピーは $u^*$ を余鎖ホモトピーに移すので、$\theta_M$ は $u$ の選び方によらない。

1 と 2.$G$ 準同型 $f\colon M\to N$ との合成は $u^*$ とも $\Phi$ とも可換なので、$\theta$ は自然である。$S_n(\tilde K)$ と $X_n$ は自由 $\mathbb{Z}[G]$ 加群なので、$\operatorname{Hom}_G(S_n(\tilde K),-)$ と $\operatorname{Hom}_G(X_n,-)$ は短完全列を短完全列に移す。よって $u^*$ は余鎖複体の短完全列の射 $\bigl(0\to\operatorname{Hom}_G(X_\bullet,M')\to\cdots\bigr)\to\bigl(0\to C^\bullet(K;M')\to\cdots\bigr)$ を与え、長完全列 の命題「接続準同型の自然性」により接続準同型と可換である。群コホモロジーの接続準同型は $C^\bullet(G,-)$ の短完全列から作られ(群コホモロジー の定理「群コホモロジーの長完全列」の証明)、$\Phi$ は $M$ について自然な複体の同型なので、これは $\operatorname{Hom}_G(X_\bullet,-)$ の短完全列の接続準同型と同じものである。

3.prop-tgc-trivial から従う。$\square$

この定理は $K$ の CW 構造を使わない。二つの非球面的な空間の基本群が同型なら、局所係数を含めてコホモロジーは同型である。CW 複体の $K(G,1)$ どうしはホモトピー同値なので(Eilenberg–MacLane空間 の定理「Eilenberg–MacLane 空間の一意性」)、群 $G$ の分類空間(分類空間)のコホモロジーとして $H^*(G,M)$ を定義することもできる。$K$ が CW 複体で係数が $\mathbb{Z}$ の場合は Wei94 §6.10 Theorem 6.10.5(pp. 204–205)にあたる。ホモロジーについての同じ主張は 群のホモロジー の定理「$K(G,1)$ のホモロジー」である。

カップ積との両立

カップ積との両立

$A$ を単位元をもつ可換環とし、$G$ を $A$ に自明に作用させる。$K$ が非球面的なら、thm-tgc-main の 3 の同型は、群コホモロジーのカップ積(群コホモロジー の定義「対角近似とカップ積」)と特異コホモロジーのカップ積(カップ積 の定義「カップ積」)について、次数付き環の同型
$$ H^*(G,A)\cong H^*(K;A) $$
である。

特異単体を前後の面に分ける写像は対角近似

要点:$\tilde K$ の特異単体を前の面と後ろの面に分ける写像 $D$ は、自由分解 $S_\bullet(\tilde K)$ の対角近似であり、$\Psi$ は特異コホモロジーのカップ積を $D$ で定めた積に移す。対角近似の選び方によらないことから結論が出る。

詳しい証明を開く

特異単体 $\tau\colon\Delta^n\to\tilde K$ と $0\le r\le n$ について、前の面 $\tau|[e_0,\dots,e_r]$ と後ろの面 $\tau|[e_r,\dots,e_n]$ をとり、$$D(\tau):=\sum_{r=0}^n\tau|[e_0,\dots,e_r]\otimes\tau|[e_r,\dots,e_n]\in\bigl(S_\bullet(\tilde K)\otimes S_\bullet(\tilde K)\bigr)_n$$ とおく(テンソル積の微分と対角作用は 群コホモロジー の節「カップ積」の規約)。$g\circ(\tau|[\dots])=(g\circ\tau)|[\dots]$ なので $D$ は $G$ 準同型である。

鎖写像であること.$\partial D(\tau)$ を展開する。$r$ 番目の項から、前の面の頂点 $e_i$($0\le i\le r$)を除いた項が符号 $(-1)^i$ で、後ろの面の頂点 $e_i$($r\le i\le n$)を除いた項が符号 $(-1)^r(-1)^{i-r}=(-1)^i$ で現れる($0$ 単体の境界は $0$ なので、$r=0$ の前の面と $r=n$ の後ろの面からは項が出ない)。$r$ 番目の項の後ろの面から $e_r$ を除いた項 $(-1)^r\tau|[e_0,\dots,e_r]\otimes\tau|[e_{r+1},\dots,e_n]$ と、$r+1$ 番目の項の前の面から $e_{r+1}$ を除いた項 $(-1)^{r+1}\tau|[e_0,\dots,e_r]\otimes\tau|[e_{r+1},\dots,e_n]$ は打ち消し合う。残るのは、$e_i$ を前の面($i< r$)または後ろの面($i>r$)から除いた項で、$i$ ごとにまとめると $\sum_i(-1)^iD(\tau\circ\delta^i)=D(\partial\tau)$ に等しい。$0$ 単体 $\tau$ では $D(\tau)=\tau\otimes\tau$ なので $(\varepsilon\otimes\varepsilon)\circ D=\varepsilon$ である。よって $D$ は対角近似である。

積の比較.$\varphi\in\operatorname{Hom}(S_r(K),A)$、$\psi\in\operatorname{Hom}(S_s(K),A)$ と $\tau\colon\Delta^{r+s}\to\tilde K$ について、$p\circ(\tau|[e_0,\dots,e_r])=(p\circ\tau)|[e_0,\dots,e_r]$ などから$$\Psi(\varphi\smile\psi)(\tau)=\varphi\bigl((p\circ\tau)|[e_0,\dots,e_r]\bigr)\,\psi\bigl((p\circ\tau)|[e_r,\dots,e_{r+s}]\bigr)=\bigl((\Psi\varphi\times\Psi\psi)\circ D\bigr)(\tau)$$である。右辺は $D$ で定めたカップ積 $\Psi\varphi\smile_D\Psi\psi$ なので、$\Psi$ は特異コホモロジーのカップ積を $D$ で定めた積に移す。群コホモロジー の定理「カップ積の基本性質」の 3 を $P_\bullet=S_\bullet(\tilde K)$、$D_P=D$ と prf-tgc-main の比較写像 $u$ に当てると、$u^*$ は標準分解の積を $D$ で定めた積に移す。したがって $\theta_A=u^*\circ\Phi^{-1}$ と $\Psi$ を合成した同型は積を保つ。単位元 $1\in H^0$ は両側で定値の余鎖 $1$ の類であり、互いに対応する。$\square$

たとえば $\mathbb{RP}^\infty$ は $K(\mathbb{Z}/2,1)$ なので、$H^*(\mathbb{Z}/2,\mathbb{F}_2)\cong\mathbb{F}_2[\omega]$(Z/2の群コホモロジー環)は $\mathbb{RP}^\infty$ の $\mathbb{F}_2$ 係数のコホモロジー環と同じものである。

胞体鎖による計算

$K$ が CW 複体なら、普遍被覆の胞体鎖が、特異鎖よりずっと小さい自由分解を与える。

普遍被覆の胞体鎖による計算

$K$ を CW 複体で $K(G,1)$ であるものとし、$\tilde K$ に 群のホモロジー の補題「被覆空間の胞体構造」の CW 構造を入れ、胞体鎖複体を $C_\bullet(\tilde K)$ とする。

  1. $G$ 加群 $M$ について $H^n(G,M)\cong H^n\bigl(\operatorname{Hom}_G(C_\bullet(\tilde K),M)\bigr)$ である。
  2. $G$ が自明に作用するアーベル群 $A$ について、右辺は $K$ の胞体コホモロジー $H^n\bigl(\operatorname{Hom}(C_\bullet(K),A)\bigr)$ に等しい。
  3. $K$ が $d$ 次元なら、すべての $G$ 加群 $M$ と $n>d$ について $H^n(G,M)=0$ である。
胞体鎖も自由分解

群のホモロジー の命題「普遍被覆の胞体鎖による自由分解」の 3 により $C_\bullet(\tilde K)\to\mathbb{Z}$ は自由分解なので、1 は 群コホモロジー の系「射影分解による計算」である。2:作用が自明なので $\operatorname{Hom}_G(C_n(\tilde K),A)=\operatorname{Hom}(C_n(\tilde K)_G,A)$ であり、同じ命題の 2 の同型 $C_\bullet(\tilde K)_G\cong C_\bullet(K)$ は鎖写像から来るので、余鎖複体の同型 $\operatorname{Hom}(C_\bullet(K),A)\cong\operatorname{Hom}_G(C_\bullet(\tilde K),A)$ を与える。3:$q>d$ で $C_q(\tilde K)=0$ なので、$n>d$ では余鎖群が $0$ である。$\square$

2 の胞体コホモロジーは特異コホモロジーと同型なので(Hat02 §3.1 Theorem 3.5, p. 203)、thm-tgc-main の 3 と同じ群を与える。3 から、有限次元の CW 複体の $K(G,1)$ をもつ群は単位元以外に有限位数の元をもたないことが従う(Eilenberg–MacLane空間 の命題「有限次元の $K(G,1)$ をもつ群」)。

例

自由アーベル群とトーラス

$n$ 次元 トーラス $T^n=(S^1)^n$ は CW 複体の $K(\mathbb{Z}^n,1)$ である(Eilenberg–MacLane空間 の例「円周とトーラス」)。単位元をもつ可換環 $A$ について、$H^*(T^n;A)$ は次数 $1$ の元 $\alpha_1,\dots,\alpha_n$ が生成する外積代数 $\Lambda_A[\alpha_1,\dots,\alpha_n]$ である(Hat02 §3.2 の p. 213 の記述と Theorem 3.15・Example 3.16, p. 216。この記事では証明しない)。thm-tgc-ring により
$$ H^*(\mathbb{Z}^n,A)\cong\Lambda_A[\alpha_1,\dots,\alpha_n],\qquad H^k(\mathbb{Z}^n,A)\cong A^{\binom nk} $$
であり、$k>n$ では $0$ である。$n=1$ の $H^0=H^1=A$ は、群コホモロジー の例「無限巡回群」で自明な作用の場合と一致する。次数 $1$ の元どうしの積は $\alpha_i\smile\alpha_j=-\alpha_j\smile\alpha_i$、$\alpha_i\smile\alpha_i=0$ を満たし、$\alpha_1\smile\cdots\smile\alpha_n$ が $H^n$ を生成する。

自由群とグラフ

$r$ 個の円周の一点和 $\bigvee_{i=1}^rS^1$ は、$0$ 胞体 $1$ 個と $1$ 胞体 $r$ 個からなる CW 複体で、階数 $r$ の自由群 $F_r$ の $K(F_r,1)$ である(Eilenberg–MacLane空間 の例「円周とトーラス」)。$1$ 次元なので、prop-tgc-cellular の 3 によりすべての $F_r$ 加群 $M$ と $n\ge2$ について $H^n(F_r,M)=0$ である。自明な作用のアーベル群 $A$ では、胞体鎖の境界写像が $0$(各 $1$ 胞体の両端が同じ $0$ 胞体)なので $H^0(F_r,A)=A$、$H^1(F_r,A)\cong A^r$ である。後者は、群コホモロジー の命題「低い次数のコホモロジー」の 3 の $H^1=\operatorname{Hom}(F_r,A)$ が、生成元の行き先で決まって $A^r$ になることと一致する。$H^2=0$ なので、次数 $1$ の元どうしのカップ積はすべて $0$ である。

符号の作用と無限次元実射影空間

$G=\{1,t\}$ を位数 $2$ の群とする。無限次元射影空間 $\mathbb{RP}^\infty$ は $K(\mathbb{Z}/2,1)$ である(Eilenberg–MacLane空間 の例「射影空間とレンズ空間」)。巡回群のコホモロジーの周期性 の補題「巡回群の周期的な自由分解」の分解($t-1$ 倍と $N=1+t$ 倍が交互に並ぶ)で計算する。$\operatorname{Hom}_G(\mathbb{Z}[G],M)\cong M$($F\mapsto F(1)$)のもとで、これらの掛け算との合成は $M$ の上の $t-1$ 倍、$1+t$ 倍になる。

  • 自明な作用の $\mathbb{Z}$:余鎖複体は $\mathbb{Z}\xrightarrow{0}\mathbb{Z}\xrightarrow{2}\mathbb{Z}\xrightarrow{0}\mathbb{Z}\xrightarrow{2}\cdots$ で、$H^n(G,\mathbb{Z})$ は $n=0$ で $\mathbb{Z}$、正の偶数で $\mathbb{Z}/2$、奇数で $0$ である。thm-tgc-main の 3 により、これが $\mathbb{RP}^\infty$ の整数係数の特異コホモロジーである。
  • 符号の作用の $\mathbb{Z}^-$($tm=-m$):余鎖複体は $\mathbb{Z}\xrightarrow{-2}\mathbb{Z}\xrightarrow{0}\mathbb{Z}\xrightarrow{-2}\mathbb{Z}\xrightarrow{0}\cdots$ で、$H^n(G,\mathbb{Z}^-)$ は偶数で $0$、奇数で $\mathbb{Z}/2$ である。thm-tgc-main により、これは $\mathbb{RP}^\infty$ の $\mathbb{Z}^-$ を係数とする局所係数のコホモロジーである。$H^0=0$、$H^1=\mathbb{Z}/2$ は 群コホモロジー の例「符号の作用」と一致する。
    同じ下のアーベル群 $\mathbb{Z}$ でも、作用を変えると $H^1$ は $0$ から $\mathbb{Z}/2$ に変わる。
Klein の壺の基本群

Kleinの壺 $K$ の基本群は表示 $\Gamma\cong\langle\alpha,\beta\mid\alpha\beta\alpha^{-1}\beta\rangle$ をもつ可換でない群であり(同記事の命題「Klein の壺の基本群」)、$K$ は $K(\Gamma,1)$ である(Eilenberg–MacLane空間 の例「円周とトーラス」の閉曲面の場合)。$H_0(K)\cong\mathbb{Z}$、$H_1(K)\cong\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/2$、$n\ge2$ で $H_n(K)=0$ なので(同記事の命題「Klein の壺の Δ 複体構造とホモロジー」)、普遍係数定理 により
$$ H^0(\Gamma,\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z},\qquad H^1(\Gamma,\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z},\qquad H^2(\Gamma,\mathbb{Z})\cong\operatorname{Ext}(\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/2,\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}/2 $$
であり、$n\ge3$ で $H^n(\Gamma,\mathbb{Z})=0$ である。$H^1(\Gamma,\mathbb{Z})=\operatorname{Hom}(\Gamma,\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}$ は、アーベル化 $\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/2$ から $\mathbb{Z}$ への準同型が $\mathbb{Z}/2$ の成分で消えることとも合っている。

反例

thm-tgc-main の仮定を一つずつ外す。

外す条件反例成り立たなくなること
$i\ge2$ で $\pi_i(K)=0$$K=S^2$($G=1$)$H^2(K;\mathbb{Z})\cong H^2(G,\mathbb{Z})$
$K$ が弧状連結$K=S^1\sqcup S^1$($G=\pi_1(K,b)\cong\mathbb{Z}$)$H^0(K;\mathbb{Z})\cong H^0(G,\mathbb{Z})$
係数への作用が自明(thm-tgc-main の 3)$K=\mathbb{RP}^\infty$、$M=\mathbb{Z}^-$$H^1(G,M)$ が $M$ の下のアーベル群 $\mathbb{Z}$ を係数とする特異コホモロジー $H^1(K;\mathbb{Z})$ と一致すること
反例の確かめ
各行の確かめを開く
  1. $S^2$ は単連結で、弧状連結・局所弧状連結であり、自分自身が普遍被覆である。自明な群では $\mathbb{Z}$ 自身が自由分解なので $H^2(1,\mathbb{Z})=0$ だが、$H^2(S^2;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}$ である(Hat02 §3.1 Theorem 3.5 の胞体コホモロジーで、胞体が $0$ 次と $2$ 次に $1$ つずつ)。$\pi_2(S^2)\cong\mathbb{Z}\ne0$ である(ホモトピー群 の例「球面自身: $\pi_n(S^n)\cong\mathbb{Z}$」)。
  2. $K$ は局所弧状連結・半局所単連結で、各点を基点とする $i\ge2$ のホモトピー群は、その点を含む円周の $\pi_i(S^1)=0$ である。$H^0(K;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}^2$(弧状連結成分ごとに $\mathbb{Z}$)だが、$H^0(\mathbb{Z},\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}$(自明な作用の不変元の全体。群コホモロジー の命題「低い次数のコホモロジー」の 1)である。弧状連結でない空間には、全体を覆う普遍被覆と被覆変換群の推移的な作用がない。
  3. ex-tgc-sign により $H^1(G,\mathbb{Z}^-)\cong\mathbb{Z}/2$ だが、$H^1(\mathbb{RP}^\infty;\mathbb{Z})\cong H^1(G,\mathbb{Z})=0$ である。局所係数のコホモロジーとしては一致している(thm-tgc-main)。

補足

  • ホモロジー:同じ自由分解に $\mathbb{Z}[G]$ 上のテンソル積をとると、群のホモロジーが $K(G,1)$ のホモロジーと一致する(群のホモロジー の定理「$K(G,1)$ のホモロジー」)。
  • 群の準同型と写像:連結な CW 複体 $K$ と $K(H,1)$ である $L$ について、準同型 $\pi_1(K)\to\pi_1(L)$ は基点付き写像 $K\to L$ で実現され、そのような写像は基点を止めたホモトピーを除いて一意である(Hat02 §1.B Proposition 1B.9, p. 90)。そのため群の性質を空間の写像として扱える。部分群に対応する被覆空間との比較は 移送準同型(被覆空間) で扱う。
  • 中心と写像のループ:CW 複体の $K(G,1)$ では、恒等写像から恒等写像へのホモトピーで基点が描くループの類は、ちょうど $G$ の中心の元である(Gottlieb群)。

関連項目

参考文献

[1]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002, §1.B Proposition 1B.9(p. 90)、§3.1 Theorem 3.5(p. 203)、§3.2 の p. 213 の記述と Theorem 3.15・Example 3.16(p. 216)、§3.H 局所係数のコホモロジーの定義(p. 328、p. 334)、§4.1 Proposition 4.21(p. 356)

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