係数体

同義語:coefficient field

概要

係数体(coefficient field)とは、局所環 $(R,\mathfrak m,k)$ の部分体 $K$ で、剰余写像の制限 $K\to k$ が同型になるものをいい、剰余写像の環準同型による切断 $s:k\to R$ を選ぶことと同じである。等標数の局所環が極大イデアル進位相について完備かつ分離的であれば、剰余体の完全性や有限性を仮定せずに係数体が存在し、極大イデアルが有限生成ならその係数体上の冪級数環の商として表される。標数零では超越基底と単根を持ち上げ、正標数では無限でもよい $p$ 基底を用いて各精度の切断を両立させて構成する。係数体は一般に一意でなく、指定した部分体を含むものが取れるとも限らず、$\mathbb Z_p$ のような混標数の環には存在しない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 局所環, 剰余体, 完備化, 体拡大, 形式的冪級数

剰余体を環の中へ戻す

局所環を極大イデアルで割ると体が得られる。しかし、商として得られた体がもとの環の部分体として入っているとは限らない。剰余体の各元の代表を一つずつ選ぶだけでは、代表の和や積が剰余体の演算と一致する保証はない。係数体は、この選択を環準同型として同時に行う仕組みである。
完備局所環では、極大イデアルの冪による精度を一段ずつ上げられる。この性質と等標数という条件を合わせると、剰余写像に体を戻す切断が存在する。標数零では分離多項式の単根を持ち上げ、正の標数ではFrobeniusと体の基底を使って、任意の剰余体の元を高精度で表す。剰余体は有限体でも完全体でも有限生成体でもよい、という仮定に縮める必要はない。
以下は MatCA §28 の係数体の存在と Mat86 §29 の完備局所環の構造を背景とする。存在証明は標数ごとに以下で与える。完備化の忠実平坦性や、完備局所環の既存の冪級数表示を先に用いて係数体を作るのではない。むしろ係数体を作った後に、そのような表示の係数を選べるようになる。

定義と切断

以下、局所環 $(R,\mathfrak m)$ は非零で単位元をもち、$k=R/\mathfrak m$、$\pi:R\to k$ を剰余写像とする。零環には剰余体がないので、この定義の対象ではない。

係数体

$R$ の部分体 $K\subset R$ で、$\pi|_K:K\to k$ が同型となるものを 係数体という。単に環の一部の係数を置く体という意味ではなく、剰余体全体を同型に代表することを要求する。

切断による特徴づけ

係数体を選ぶことと、単位を保つ環準同型 $s:k\to R$ で $\pi s=\operatorname{id}_k$ となるものを選ぶことは同じである。

係数体 $K$ が与えられたら、$\pi|_K$ の逆写像を $R$ への包含と合成して $s$ を得る。逆に切断 $s$ があれば、$s(a)=0$ から $a=\pi s(a)=0$ なので $s$ は単射である。非零元 $a\in k$ の逆元について $s(a)s(a^{-1})=s(1)=1$ となるため、像 $s(k)$ は体である。その剰余写像は $s$ の逆なので係数体になる。この計算は、代表元の集合が閉じているという曖昧な理由ではなく、環準同型の演算と単位の保存を使っている。$\square$

局所環内の体の非零元は環内でも単元であるから、体と極大イデアルの交叉は零である。しかし任意の部分体は剰余体の一部しか代表しない場合がある。例えば $\mathbb Q(u)[\![x]\!]$ における $\mathbb Q$ は部分体であるが係数体ではない。一方 $\mathbb Q(u)$ の定数級数は係数体である。
係数体の存在には等標数が必要である。部分体と環は同じ単位をもち、その標数は一致する。また部分体は剰余体へ単射で送られるので、剰余体の標数とも一致する。したがって $R$ と $k$ の標数が異なれば係数体は存在しない。この場合に使う係数環は体とは別の概念である。

存在定理

等標数完備局所環の係数体

局所環 $(R,\mathfrak m,k)$ が等標数で、自然写像
$$ R\longrightarrow\varprojlim_{n\ge1}R/\mathfrak m^n $$
が同型であるとする。このとき $R$ は係数体をもつ。特に任意の等標数完備Noether局所環に成立する。剰余体の完全性、有限生成性、有限 $p$ 次数は要求しない。

ここで完備とは、各精度で両立する元の族がもとの環の元に一意に戻ることを意味する。分離性 $\bigcap_n\mathfrak m^n=0$ もこの同型に含まれる。以下の二つの証明はこの逆極限の性質だけを使い、Noether性は係数体の存在自体には必要としない。

標数零の構成

等標数零なら整数 $n\ne0$ の剰余は $k$ 内で非零なので、$n\cdot1_R$ は単元である。従って $R$ は素体 $\mathbb Q$ を部分体として含む。以下、この埋込みは固定する。

単根の持上げ

単根の持上げ

上の完備局所環で $f(T)\in R[T]$ とし、$a\in k$ が $\overline f(a)=0$、$\overline {f'}(a)\ne0$ を満たすとする。このとき $f(y)=0$、$\pi(y)=a$ となる $y\in R$ が一意に存在する。

$a$ の代表 $y_0$ を取る。$f(y_0)\in\mathfrak m$ で、$f'(y_0)$ は単元である。帰納的に
$$ y_{j+1}=y_j-f(y_j)f'(y_j)^{-1} $$
と定める。$f(y_j)\in\mathfrak m^{2^j}$ なら、多項式のTaylor展開から $f(y_{j+1})\in\mathfrak m^{2^{j+1}}$ となる。一次の項が選んだ補正で消え、残りの項は補正の二乗を含むからである。すべての $y_j$ の剰余は $a$ なので導関数は毎回単元である。差 $y_{j+1}-y_j$ は $\mathfrak m^{2^j}$ に入り、完備性によって極限 $y$ が存在する。多項式評価は連続だから $f(y)=0$ である。
同じ剰余をもつ二つの根 $y,z$ について、多項式の因数分解により
$$ f(y)-f(z)=(y-z)(f'(z)+(y-z)c) $$
と書ける。$y-z\in\mathfrak m$、$f'(z)$ は単元なので括弧は単元である。左辺は零、従って $y=z$ となる。Noether性も、極大イデアルの有限生成も使っていない。$\square$

超越部分を先に持ち上げる

$k/\mathbb Q$ の超越基底 $\{t_\lambda\}_{\lambda\in L}$ を選ぶ。添字集合が無限でもよい。各 $t_\lambda$ の代表 $\widetilde t_\lambda\in R$ を選び、$\mathbb Q[T_\lambda]\to R$ を代入で定める。
この写像は単射である。実際、非零多項式は有限個の変数しか含まず、その剰余は超越基底の代数的独立性から非零である。従って代入された元は $R$ の単元でもある。すべての非零多項式を反転できるので、写像は有理関数体
$$ F=\mathbb Q(t_\lambda:\lambda\in L) $$
の埋込み $F\to R$ へ延びる。この埋込みを通した剰余は、もとの $F\subset k$ の包含である。無限個の変数についても、一つの分数に現れる変数が有限であることから定義できる。

代数部分の両立を証明する

$k/F$ は代数拡大であり、標数零なので分離的である。有限部分拡大 $E/F$ を取る。有限個の代数生成元を順に加えれば、各段は $F_i[T]/(f_i)$ と書け、$f_i$ は分離的な既約モニック多項式である。すでに $F_i\to R$ が剰余包含を持ち上げていれば、次の生成元の剰余は $\overline f_i$ の単根なので、前の補題で一意な根を持ち上げられる。これにより $F_i[T]/(f_i)\to R$ が定まる。体からの単位を保つ写像は単射であり、すべての非零元の逆元も保存する。したがって有限拡大全体の埋込み $s_E:E\to R$ を得る。
これらの写像は生成元の選択によらず一意である。$a\in E$ の $F$ 上の最小多項式は分離的なので、$s_E(a)$ はその持ち上げた多項式の、剰余 $a$ をもつ唯一の根である。従って同じ $a$ について異なる有限部分拡大で構成しても値は一致する。
任意の有限個の $k$ の元はある有限 $E/F$ に入る。そこで和、積、単位、逆元が保存されるので、$s(a)=s_E(a)$ という定義は $k$ 全体の環準同型となる。$\pi s=\operatorname{id}_k$ であるから、その像は係数体である。これで標数零の場合が証明された。$\square$

ここでは代数拡大全体が有限であるとは仮定していない。有限部分体上での構成と、単根の一意性による両立が、無限代数拡大の場合を支える。また、有限分離拡大を一つの原始元で表せることを前提にする必要もなく、有限個の生成元を順に加えるだけで足りる。

正の標数と無限の $p$ 基底

標数 $p$ の場合、分離多項式の持上げだけでは剰余体の任意の元を扱えない。$k$ が不完全なら $p$ 乗根に関係する方程式の導関数は零になるためである。この障害を、各精度で $p$ 乗誤差が消えることによって避ける。

任意の体に $p$ 基底を選ぶ

p基底

標数 $p$ の体 $k$ の部分集合 $\mathcal B$ が $p$ 基底であるとは、有限台の単項式
$$ b^\alpha=\prod_{b\in\mathcal B}b^{\alpha_b},\qquad 0\le\alpha_b< p $$
が $k^p$ 上の $k$ のベクトル空間基底になることである。有限台とは、非零指数が有限個だけという意味である。$\mathcal B$ 自身は無限集合でもよい。

p基底の存在と全反復

任意の標数 $p$ の体には $p$ 基底が存在する。$\mathcal B$ が $p$ 基底なら、任意の $n\ge1$ に対して、有限台で $0\le\alpha_b< p^n$ の単項式が $k^{p^n}$ 上の $k$ の基底となる。

まず、$p$ 制限単項式が $k^p$ 上線形独立になる集合を考える。独立性は有限関係で調べる条件なので、鎖の合併も独立性を保つ。Zornの補題によって極大な集合 $\mathcal B$ を選べる。
有限部分集合 $b_1,\ldots,b_r$ では、各 $b_i^p\in k^p$ であり、独立性から $k^p[b_1,\ldots,b_r]$ の次元は $p^r$ である。この環は有限次元整域だから体であり、$k^p(b_1,\ldots,b_r)$ と同じである。従って全制限単項式の線形包は体 $k^p(\mathcal B)$ になる。
もし $a\in k$ がこの体に入らなければ、$a^p\in k^p$ であるため $a$ のこの体上の次数は $p$ である。多項式 $T^p-a^p$ の唯一の根は $a$ で、その最小多項式の次数は一か $p$ であり、一なら $a$ はすでに体内にあるからである。よって $1,a,\ldots,a^{p-1}$ は独立で、$\mathcal B$ に $a$ を追加しても制限単項式は独立になる。これは極大性に反する。従って $k=k^p(\mathcal B)$ であり、生成性も成立する。
全反復の主張を帰納的に示す。$k/k^p$ の基底を $b^i$、$0\le i_b< p$ とする。Frobeniusは体として $k$ と $k^p$ を同型にし、$k^{p^n}$ と $k^{p^{n+1}}$ も対応させる。従って帰納仮説から $k^p/k^{p^{n+1}}$ の基底は $b^{p\beta}$、$0\le\beta_b< p^n$ となる。二つの基底を掛け合わせると、$k/k^{p^{n+1}}$ の基底は $b^{i+p\beta}$ となる。指数 $i+p\beta$ はちょうど $0,\ldots,p^{n+1}-1$ を一意に走る。どの関係も有限個の単項式しか含まないので、無限の $p$ 基底についてもこの独立性と生成性の議論が成立する。$\square$

各精度での切断を定める

$p$ 基底 $\mathcal B$ を固定し、各 $b\in\mathcal B$ の代表 $\widetilde b\in R$ を一度だけ選ぶ。前の補題から任意の $a\in k$ は一意に
$$ a=\sum_\alpha c_\alpha^{p^n}b^\alpha,\qquad c_\alpha\in k,\quad 0\le\alpha_b< p^n $$
と書ける。和は有限であり、係数の $p^n$ 乗根 $c_\alpha$ は体内で一意である。各 $c_\alpha$ の任意の代表 $\widetilde c_\alpha\in R$ を選び、
$$ s_n(a)=\sum_\alpha\widetilde c_\alpha^{p^n}\widetilde b^\alpha \quad\text{in }R/\mathfrak m^{p^n} $$
と定める。これは剰余体の元を、精度 $p^n$ まで戻す写像である。

各段の環準同型と両立

$s_n$ は代表の選択によらない単位を保つ環準同型で、剰余写像と合成すると恒等写像になる。また $s_{n+1}$ の $R/\mathfrak m^{p^n}$ への像は $s_n$ と一致する。

二つの代表の差は $\mathfrak m$ に入り、その $p^n$ 乗は $\mathfrak m^{p^n}$ に入る。標数 $p$ では $(u+v)^{p^n}=u^{p^n}+v^{p^n}$ なので、代表の選択による差は指定した商で零になる。従って $s_n$ は定まる。剰余を取ればもとの基底表示へ戻るため、剰余との合成は恒等写像である。
加法について、二つの元を同じ有限な指数集合に合わせて表示すれば、係数の和の $p^n$ 乗根はそれぞれの根の和となる。その代表として $\widetilde c_\alpha+\widetilde d_\alpha$ を選べるので、標数 $p$ の二項式により $s_n(a+a')=s_n(a)+s_n(a')$ となる。
積の一つの項を調べる。指数の和を成分ごとに
$$ \alpha+\beta=\gamma+p^n\eta, \qquad 0\le\gamma_b< p^n $$
と分ける。係数は $c_\alpha^{p^n}d_\beta^{p^n}b^{p^n\eta}=(c_\alpha d_\beta b^\eta)^{p^n}$ となる。その根の代表として $\widetilde c_\alpha\widetilde d_\beta\widetilde b^\eta$ を選べば、$R$ 内で元の積の項と完全に一致する。複数の項が同じ $\gamma$ に集まる場合も、加法について示した式で係数を足せる。従って積が保存される。$1$ の表示は定数一項なので単位も保存される。
両立を示すため $s_{n+1}$ を小さい商 $R/\mathfrak m^{p^n}$ へ送った写像を $t$ とする。$n\ge1$ なので、基底の一元 $b$ は指数一の項であり、$t(b)=\widetilde b=s_n(b)$ である。また任意の $c\in k$ について $s_{n+1}(c)$ の任意の代表は $c$ の代表である。この代表と $\widetilde c$ の差は $\mathfrak m$ に入るので
$$ t(c^{p^n})=t(c)^{p^n}=\widetilde c^{p^n}=s_n(c^{p^n}). $$
$k$ の全元は $k^{p^n}$ の係数と $b$ の有限単項式で生成される。二つの環準同型はこれらの元で一致したから全体でも一致する。ここで両立は、各段で基底の代表を新たに選び直すことからではなく、最初に固定した $\widetilde b$ と、$p^n$ 乗で消える代表誤差によって得られる。$\square$

逆極限から体を得る

$p^n$ は無限に大きくなるので、イデアル $\mathfrak m^{p^n}$ は全冪 $\mathfrak m^r$ の中で余終である。各 $r$ に対して $p^n\ge r$ の段を選び、$s_n$ を $R/\mathfrak m^r$ へ送れば、選んだ十分大きい $n$ によらず同じ値となる。従って前の補題の両立族は
$$ s:k\longrightarrow\varprojlim_nR/\mathfrak m^{p^n} =\varprojlim_rR/\mathfrak m^r=R $$
を定める。
逆極限の和と積は各商で計算されるので、$s$ は単位を保つ環準同型である。その剰余は各元についてもとの元であるから $\pi s=\operatorname{id}_k$ となる。非零元 $a$ の逆元は $s(a^{-1})$ であり、$s(a)s(a^{-1})=1$ が全精度で成立して、分離性により $R$ 内でも成立する。従って像は係数体である。これで任意の剰余体について正の標数の場合が証明された。$\square$

この方法は $p$ 基底が有限であることを使わない。一つの剰余体の元の表示は常に有限和であるが、元を変えれば必要な基底元の有限集合も変わる。すべての元に共通な有限基底を要求せずに、各元の表示とその有限演算を通して写像を構成している。F有限性は $p$ 基底を有限にできる条件だが、係数体の存在はそれより広い。

完全な剰余体の場合と非一意性

剰余体 $k$ が完全な標数 $p$ の体なら $p$ 基底は空である。各 $a\in k$ に唯一の $p^n$ 乗根 $a^{p^{-n}}$ があり、構成は
$$ s_n(a)=\widetilde {a^{p^{-n}}}^{\,p^n}\pmod{\mathfrak m^{p^n}} $$
だけになる。この場合には係数体の切断は一意である。実際、任意の切断 $u$ について $u(a)=u(a^{p^{-n}})^{p^n}$ であり、右辺は指定した精度で上の値と一致する。すべての $n$ で一致するから、分離性によって $u=s$ となる。
不完全体では、$p$ 基底元の代表の選択が係数体を変えることがある。標数零でも超越基底の代表は一般に自由に選べるため、係数体は必ずしも一意でない。「係数体が存在する」と「環の構造から一つの係数体が一意に指定される」は区別する。

二つの異なる係数体

$R=\mathbb Q(u)[\![x]\!]$ を考える。定数級数の体 $\mathbb Q(u)$ は係数体である。別の写像 $\mathbb Q(u)\to R$ を $u\mapsto u+x$ と定める。任意の非零多項式 $g(u)$ の像 $g(u+x)$ は非零の定数項 $g(u)$ をもつため単元であり、分数にも写像が延びる。剰余写像との合成は恒等なので、その像 $\mathbb Q(u+x)$ も係数体である。
この二つは異なる。$u+x$ は定数級数ではないからである。どちらも剰余体全体を代表するが、その代表の選び方が違う。この例は係数体の存在から一意性を結論することへの反例となる。

指定した部分体を保てるとは限らない

標数零で $R$ に部分体 $F$ がすでに入っていれば、その剰余像を固定したまま前の構成を $F$ 上で行える。剰余体の超越基底を $F$ 上で選び、残る代数拡大は標数零によって分離的だからである。単根の持上げも $F$ の埋込みを変更しない。
正の標数では、この追加要求は一般には成立しない。全剰余体が素体 $\mathbb F_p$ 上で係数体として戻ることと、指定した不完全な部分体をそのまま含むことは別である。

指定した部分体を含めない反例

$k=\mathbb F_p(u)$、$R=k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ とする。$R$ は極大イデアル $(\varepsilon)$ をもつ等標数完備Noether局所環であり、定数 $k$ が係数体となる。
一方、$\mathbb F_p(t)$ を $t\mapsto u^p+\varepsilon$ によって $R$ へ埋め込む。非零多項式の剰余は非零多項式 $g(u^p)$ なので単元となり、写像は分数体へ延びて単射である。この部分体を含む係数体があると仮定する。その係数体における剰余 $u$ の代表 $v$ は、剰余同型から $v^p=u^p+\varepsilon$ を満たさなければならない。しかし任意の元 $a+b\varepsilon$ の $p$ 乗は $a^p$ であり、$\varepsilon$ の項をもたない。これは矛盾である。
従って係数体は存在するが、指定された部分体を含むものは存在しない。反例の障害は剰余の拡大 $\mathbb F_p(u)/\mathbb F_p(u^p)$ が純非分離であることにある。任意剰余体の存在定理の仮定を弱めた反例ではなく、部分体を保存するという結論を強めた場合の反例である。

冪級数表示へ進む

係数体を選ぶと、極大イデアルの生成元を使って環の全元を級数として表せる。これは係数体の存在の証明で仮定したことではなく、その後に得られる帰結である。

有限生成極大イデアルと級数表示

等標数完備分離局所環で係数体 $K$ が選ばれ、$\mathfrak m=(x_1,\ldots,x_e)$ が有限生成であるとする。このとき
$$ K[\![X_1,\ldots,X_e]\!]\longrightarrow R,\qquad X_i\longmapsto x_i $$
は全射である。従って $R$ はNoether環になる。

級数の評価は、各次数未満の切断を $R/\mathfrak m^r$ で評価して定める。この族は両立し、完全性によって一意な元へ戻る。和と積は各商で有限多項式として計算されるから、評価は環準同型である。
$a\in R$ を取る。まずその剰余を $c_0\in K$ で代表させる。$a-c_0\in\mathfrak m$ である。次数 $r$ 未満の多項式 $P$ で $a-P(x)\in\mathfrak m^r$ まで近似したとする。$\mathfrak m^r$ は次数 $r$ の有限個の単項式で生成されるので、差を $\sum_{|\alpha|=r}a_\alpha x^\alpha$ と書ける。各 $a_\alpha$ を剰余で同じ $c_\alpha\in K$ に替えると、誤差は $\mathfrak m^{r+1}$ に入る。こうして次の次数の項を決められる。
全次数で選んだ項は形式級数となり、その評価と $a$ の差はすべての $\mathfrak m^r$ に属する。分離性により差は零となるので全射である。体上有限変数形式級数環はNoetherであり、その商もNoetherとなる。$e=0$ の場合には $R=K$ である。$\square$

一般の全射表示には関係式の核がある。$e$ が埋め込み次元であっても、次元が $e$ より小さければ多項式的な関係が残る。例えば $K[\![X,Y]\!]/(XY)$ は係数体をもつが正則局所環ではない。係数体が存在することと、環が形式級数環そのものであることを混同しない。正則局所環の場合の核の消失には、別に次元と生成元数の一致を使う。

混標数との境界

混標数環には係数体がない

$\mathbb Z_p$ は剰余体 $\mathbb F_p$ をもつ完備Noether局所環である。しかし係数体は存在しない。もし $\mathbb F_p$ と同型な部分体を単位を保って含めば、$p\cdot1=0$ が $\mathbb Z_p$ 内でも成立することになり、標数零と矛盾する。
この例は「任意の完備局所環に係数体がある」という等標数条件を落とした主張への反例である。混標数では代わりに剰余体を代表するCohen係数環を使うが、それは体ではなく離散付値環などの局所環となる。

同様に $\mathbb Z/p^2\mathbb Z$ も剰余体の標数 $p$ と環の標数 $p^2$ が違うため係数体をもたない。有限な環で位相的に完備であっても、標数の障害は消えない。本記事の存在定理は等標数の場合に限る。混標数での係数環の存在や、指定した剰余体写像の持上げは扱わない。

構成を使うときの手順

まず局所環の標数と剰余体の標数を比較する。異なるなら体を戻す切断は存在しないので、係数環の問題へ移る。等標数であれば、極大イデアル進位相の完備性と分離性を確認する。単にすべてのCauchy列がある意味で収束するだけでなく、逆極限との同型を使えることを確認する。
標数零では、剰余体の超越基底の代表を選んで有理関数体を先に埋める。分母の単元性は非零の剰余によって保証される。その後の代数部分は単根を唯一に持ち上げるため、有限部分拡大で作った写像が全体で一致する。有限生成体に限って作って終えるのではなく、有限部分体の合併の全演算を検査することが必要である。
正の標数では、完全体なら $p$ 乗根による一意な構成を使える。不完全体では $p$ 基底の代表を固定する。各元の有限な桁表示によって $R/\mathfrak m^{p^n}$ への切断を定め、その環演算と段階間の両立を確認する。誤差が $p^n$ 乗で精度の外へ出ることが、単根の補題の代わりを果たす。
いずれの場合にも最後は体の非零元の逆元を写す。元の集合が剰余体と全単射であるだけでは係数体の条件として足りず、和と積と単位が保存されることが必要である。この構成を終えた後で初めて、級数の係数をその体から選べる。極大イデアルの有限生成を使った級数全射表示は、その次の独立した段階である。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する