右アノダイン射(right anodyne map)とは、単体的集合の写像であって、すべての右ファイブレーション($0<k\le n$ のホーン $\Lambda^n_k\subset\Delta^n$ に対して右持ち上げ性質をもつ写像)に対して左持ち上げ性質をもつものである。右アノダイン射は、これらのホーンの包含から余積・押し出し・可算列の合成・レトラクトで作られる写像にほかならず、単射かつ弱同値である。単射 $A_0\subset A$ とアノダイン拡大 $B_0\subset B$ から作る包含 $(A_0\star B)\cup(A\star B_0)\subset A\star B$ は右アノダインであり、最後の頂点の包含 $\{n\}\subset\Delta^n$ や右錐の錐点の包含も右アノダインである。単射については ∞圏の意味の共終性と同値で、余極限の計算に使われる。
前提知識: ホーンと充填条件, Kan–Quillenモデル構造, 結(単体的集合)
単体的集合の写像 $p\colon X\to S$ が右ファイブレーション(左ファイブレーションと右ファイブレーション)であるとは、$0< k\le n$ のホーン $\Lambda^n_k\subset\Delta^n$(右ホーン)に対して右持ち上げ性質をもつことであった(ホーンと充填条件 の定義「充填条件とファイブレーション」)。右ファイブレーションは、圏論の「亜群でファイバー付けられた圏」(左ファイブレーションと右ファイブレーション の定義「亜群でファイバー付けられた圏」)の ∞圏版であり、∞圏のスライスの射影がその典型例である(スライス圏(∞圏))。右アノダイン射 は、すべての右ファイブレーションに対して左持ち上げ性質をもつ写像である。右アノダイン射に沿って延長する問題は、どの右ファイブレーションの上でも解ける。この記事では、右アノダイン射が右ホーンから貼り合わせと合成とレトラクトで作られることを確かめ、結 $\star$ との相性(単射とアノダイン拡大から結で作る包含、最後の頂点の包含 $\{n\}\subset\Delta^n$)を証明する。さらに、単射との押し出し積が右アノダインであること、右アノダインな包含が ∞圏の意味で共終であること、共終な写像が弱同値であることを示す。
単体的集合の写像 $i\colon A\to B$ が 右アノダイン(right anodyne)であるとは、すべての右ファイブレーションに対して左持ち上げ性質をもつことをいう。同様に、すべての左ファイブレーション($0\le k< n$ のホーンに対する右持ち上げ性質をもつ写像)に対して左持ち上げ性質をもつ写像を 左アノダイン、すべての内側ファイブレーションに対して左持ち上げ性質をもつ写像を 内部アノダイン(内部ホーンと内部アノダイン射)という(HTT09 Definition 2.0.0.3、p. 53)。
右ホーンの包含の集合を
$$
R:=\{\Lambda^n_k\subset\Delta^n\mid n\ge1,\ 0< k\le n\}
$$
とおく。右ファイブレーションは $R$ のすべてに右持ち上げ性質をもつ写像なので、$R$ の写像は定義から右アノダインである。とくに $\Lambda^1_1=\{1\}\subset\Delta^1$ は右アノダインであり、右ファイブレーションでは「終点を指定した辺の持ち上げ」ができる。
1 は Kan–Quillenモデル構造 の補題「左持ち上げ性質で定まるクラスの閉包性」による。
2:$R$ 胞体複体とそのレトラクトが右アノダインであることは 1 による。逆に、Kan–Quillenモデル構造 の補題「小対象の議論」の証明は、$\mathcal K$ の写像が単射で始域の非退化単体が有限個であることだけを使うので、$\mathcal K=R$ でもそのまま成り立つ。右アノダインな $i$ を $i=pj$($j$ は $R$ 胞体複体、$p$ は右ファイブレーション)と分解し、$i$ と $p$ の正方形(上辺 $j$、下辺 $\mathrm{id}$)の持ち上げ $s$ をとると $ps=\mathrm{id}$、$si=j$ なので、$i$ は $j$ のレトラクトである。単射の押し出し・合成・レトラクトは単射である。
3:頂点の順序の反転 $[n]\to[n]$、$r\mapsto n-r$ は $\Lambda^n_k$ を $\Lambda^n_{n-k}$ に移すので、$p$ が右ファイブレーションであることと $p^{\mathrm{op}}$ が左ファイブレーションであることは同値であり、持ち上げの問題は反転で 1 対 1 に対応する(HTT09 Remark 2.0.0.7、p. 55)。$\square$
右ファイブレーションは内側ファイブレーションであり、Kan ファイブレーションは右ファイブレーションである(持ち上げを求めるホーンが少ないほど条件は弱い)。左持ち上げ性質を求める相手が少ないほど条件は弱いので 1 と 2 の前半が従う。アノダイン拡大が弱同値であることは Kan–Quillenモデル構造 の命題「弱同値の基本性質」の 3 である。$\square$
| 名前 | 生成するホーン $\Lambda^n_k$ | 持ち上げの相手 | 典型例 |
|---|---|---|---|
| アノダイン拡大 | $0\le k\le n$ | Kan ファイブレーション | $\{0\}\subset\Delta^1$ |
| 右アノダイン射 | $0< k\le n$ | 右ファイブレーション | $\{n\}\subset\Delta^n$ |
| 左アノダイン射 | $0\le k< n$ | 左ファイブレーション | $\{0\}\subset\Delta^n$ |
| 内部アノダイン射 | $0< k< n$ | 内側ファイブレーション | $\Lambda^2_1\subset\Delta^2$ |
圏 $\mathcal C$ の充満部分圏 $\mathcal D$ が 下に閉じている とは、射 $c\to d$ で $d\in\mathcal D$ なら $c\in\mathcal D$ となることをいう。このとき脈体の包含 $N(\mathcal D)\subset N(\mathcal C)$ は右ファイブレーションである。
実際、$0< k\le n$ と、ホーン $u\colon\Lambda^n_k\to N(\mathcal D)$ を延長する $\sigma\colon\Delta^n\to N(\mathcal C)$ をとる。$n\ge2$ ならホーンはすべての頂点を含むので $\sigma$ の頂点はすべて $\mathcal D$ にあり、$\mathcal D$ は充満なので $\sigma$ は $N(\mathcal D)$ の単体である。$n=1$、$k=1$ なら $\sigma$ は辺 $c\to d$ で $d\in\mathcal D$ なので、下に閉じていることから $c\in\mathcal D$ であり、やはり $\sigma\in N(\mathcal D)$ である。包含は単射なので、$\sigma$ が求める持ち上げである。
$\{0\}\subset\Delta^1$ は $\Lambda^1_0\subset\Delta^1$ なのでアノダイン拡大だが、右アノダインではない。ex-ra-sieve により $\{0\}=N(\{0\})\subset N([1])=\Delta^1$ は右ファイブレーションである($\{0\}$ は $[1]$ の下に閉じた充満部分圏)。正方形(上辺 $\{0\}\to\{0\}$、左辺と右辺が包含、下辺 $\mathrm{id}_{\Delta^1}$)の持ち上げ $h\colon\Delta^1\to\{0\}$ は、包含との合成が $\mathrm{id}_{\Delta^1}$ にならないので存在しない。
同じ理由で、一般に $\{0\}\subset\Delta^n$($n\ge1$)は右アノダインでない($\{0\}\subset\Delta^n$ と下に閉じた $N(\{0\})\subset\Delta^n$ を比べればよい)。これに対し、下の cor-ra-cone により最後の頂点の包含 $\{n\}\subset\Delta^n$ は右アノダインである。
$\Lambda^2_2\subset\Delta^2$ は右ホーンなので右アノダインだが、内部アノダインでない。対象 $a,b,c$ と射 $a\to c$、$b\to c$(と恒等射)だけをもつ順序集合 $Q$ の脈体は $\Lambda^2_2$ と同型である(非退化な $2$ 単体がない)。$N(Q)$ は圏の脈体なので準圏、すなわち $N(Q)\to\Delta^0$ は内側ファイブレーションである。同型 $\Lambda^2_2\to N(Q)$ を $\Delta^2$ に延ばすには $a$ から $b$ への辺が要るが、$Q$ にその射はない。
記号は 結(単体的集合) に従う。単射 $f\colon A_0\subset A$、$g\colon B_0\subset B$ について、$A\star B$ の部分単体的集合の包含
$$
J(f,g)\colon(A_0\star B)\cup(A\star B_0)\subset A\star B
$$
を考える。2 つの部分の共通部分は $A_0\star B_0$ である(結(単体的集合) の命題「結は連結な余極限を保つ」の 3)。また $f\star L\colon A_0\star L\subset A\star L$ と書く。単体の $A$ 部分・$B$ 部分の記述から、次数 $n$ での補集合は
$$
(A\star B)_n\setminus\mathrm{dom}\,J(f,g)=\coprod_{i+j=n-1}(A_i\setminus A_{0,i})\times(B_j\setminus B_{0,j}),
$$
$$
(A\star L)_n\setminus(A_0\star L)_n=(A_n\setminus A_{0,n})\ \sqcup\coprod_{i+j=n-1}(A_i\setminus A_{0,i})\times L_j
$$
である。いずれも $A\setminus A_0$ の各次数の集合について「余積と両立する」形をしている。
可換な正方形 $S\subset T$、$S'\subset T'$($S\to S'$、$T\to T'$)で、各次数で $T\setminus S$ が $T'\setminus S'$ に全単射に写るものは押し出しである(Kan–Quillenモデル構造 の節「1 単射と小対象の議論」の補集合による判定)。
$\mathcal R$ を、余積・押し出し・可算列の合成・レトラクトで閉じた写像のクラスとする。
要点:補集合の公式が $A\setminus A_0$ について「足し算的」なので、$f$ を単体を貼る段階に分ければ、$J(f,g)$ も対応する段階に分かれる。
1:Kan–Quillenモデル構造 の補題「単射は単体を貼って作れる」により、$A^{(-1)}=A_0$、$A^{(r)}=A^{(r-1)}\sqcup_{\coprod_{S_r}\partial\Delta^r}\coprod_{S_r}\Delta^r$、$A=\bigcup_rA^{(r)}$ と書ける。$E_r:=(A^{(r)}\star B)\cup(A\star B_0)$ とおくと、$E_{-1}$ は $J(f,g)$ の始域、$\bigcup_rE_r=A\star B$ である。$E_{r-1}\subset E_r$ と $J(A^{(r-1)}\subset A^{(r)},g)$ の正方形(始域から $E_{r-1}$ への包含)では、補集合はどちらも「$A$ 部分が $A^{(r)}\setminus A^{(r-1)}$、$B$ 部分が $B\setminus B_0$ に入る単体」なので押し出しである。さらに $J(A^{(r-1)}\subset A^{(r)},g)$ は $\coprod_{S_r}J(\partial\Delta^r\subset\Delta^r,g)$ の押し出しである:$\coprod_{S_r}(\Delta^r\setminus\partial\Delta^r)\to A^{(r)}\setminus A^{(r-1)}$ が各次数で全単射なので、補集合の公式により補集合どうしが全単射に対応する。よって $J(f,g)$ は $J(\partial\Delta^r\subset\Delta^r,g)$ たちの余積の押し出しの可算列の合成であり、$\mathcal R$ に入る。$f\star L$ も同じ段階 $A^{(r)}\star L$ と第 2 の補集合の公式で示せる。
2:$g$ が $G$ 胞体複体なら、$B$ の側で同じ議論を行う(補集合の公式は $B\setminus B_0$ についても足し算的である)。$g$ が $g'$ のレトラクトなら、結の関手性により $J(f,g)$ は $J(f,g')$ のレトラクトである。$\square$
$f\colon A_0\subset A$ を単射、$g\colon B_0\subset B$ をアノダイン拡大(同じことだが、弱同値である単射)とする。このとき $J(f,g)\colon(A_0\star B)\cup(A\star B_0)\subset A\star B$ は右アノダインである(HTT09 Lemma 4.2.3.5、p. 251)。
アノダイン拡大と弱同値である単射が同じであることは Kan–Quillenモデル構造 の定理「Kan–Quillen モデル構造」の 2 による。右アノダイン射の全体を $\mathcal R$ とすると、prop-ra-generation の 1 により lem-ra-transfer が使える。
段 1:$f=(\partial\Delta^m\subset\Delta^m)$、$g=(\Lambda^n_i\subset\Delta^n)$($n\ge1$、$0\le i\le n$)のとき、結(単体的集合) の定理「境界とホーンの結」の 2 により $J(f,g)$ はホーンの包含 $\Lambda^{m+n+1}_{m+1+i}\subset\Delta^{m+n+1}$ である。$0< m+1+i\le m+n+1$ なので、これは $R$ の写像であり右アノダインである。添字 $i$ は $0$ から $n$ のどれでもよいことに注意する。
段 2:$f=(\partial\Delta^m\subset\Delta^m)$ を固定する。段 1 により、すべてのホーンの包含 $g$ で $J(f,g)\in\mathcal R$ である。アノダイン拡大はホーンの包含からなる胞体複体のレトラクトなので(Kan–Quillenモデル構造 の系「単射とアノダイン拡大の特徴づけ」の 2)、lem-ra-transfer の 2 により、すべてのアノダイン拡大 $g$ で $J(f,g)\in\mathcal R$ である。
段 3:アノダイン拡大 $g$ を固定すると、段 2 と lem-ra-transfer の 1 により、すべての単射 $f$ で $J(f,g)\in\mathcal R$ である。$\square$
単射 $f\colon A_0\subset A$ について、$A_0\star\Delta^0\subset A\star\Delta^0$ は右アノダインである。とくに次が成り立つ。
$f=(\partial\Delta^m\subset\Delta^m)$ なら、結(単体的集合) の定理「境界とホーンの結」の 4 により $f\star\Delta^0$ は $\Lambda^{m+1}_{m+1}\subset\Delta^{m+1}$ であり、右アノダインである。一般の単射には lem-ra-transfer の 1($f\star L$ の場合、$L=\Delta^0$)を使う。$\Delta^{n-1}\star\Delta^0=\Delta^n$ で錐点は頂点 $n$ である。$\square$
2 を右ファイブレーション $p\colon X\to S$ との持ち上げとして読むと、「$S$ の $n$ 単体 $\sigma$ と、$\sigma$ の最後の頂点の上にある $X$ の頂点 $x$ について、$\sigma$ の上にあり $x$ で終わる $n$ 単体が $X$ にある」ことになる。
$\lvert B\rvert$ は空でないので $B$ は頂点 $b$ をもつ。$\{b\}\subset B$ は単射で、$\lvert\{b\}\rvert\to\lvert B\rvert$ は弱ホモトピー同値なので(どちらも 1 点と弱ホモトピー同値)、アノダイン拡大である。$M:=(A\star\{b\})\cup(A_0\star B)\subset A\star B$ とおき、包含を $A_0\star B\subset M\subset A\star B$ と分ける。前半は、補集合がどちらも「$A$ 部分が $A\setminus A_0$、$B$ 部分が $\{b\}$ の単体か空」なので $A_0\star\{b\}\subset A\star\{b\}$ の押し出しであり、cor-ra-cone と prop-ra-generation の 1 により右アノダインである。後半はちょうど $J(A_0\subset A,\ \{b\}\subset B)$ であり、thm-ra-join により右アノダインである。右アノダイン射の合成は右アノダインである。$\square$
$i\colon A\subset A'$ を右アノダイン射、$j\colon B\subset B'$ を単射とする。押し出し積
$$
i\mathbin{\square}j\colon(A\times B')\cup(A'\times B)\subset A'\times B'
$$
は右アノダインである。左アノダイン射についても同じことが成り立つ(HTT09 Corollary 2.1.2.7、p. 64 は左アノダイン射の形で述べている)。
要点:$\{1\}\subset\Delta^1$ との押し出し積は右ホーンだけで貼れる。右ホーンはその押し出し積のレトラクトなので、単射との押し出し積が右アノダインになり、閉包性で一般の右アノダイン射に広がる。
押し出し積の記号と性質($u\mathbin{\square}v\cong v\mathbin{\square}u$、$(u\mathbin{\square}v)\mathbin{\square}w=u\mathbin{\square}(v\mathbin{\square}w)$)は Kan–Quillenモデル構造 の節「2 アノダイン拡大と単射の積」に従い、$\varepsilon=(\{1\}\subset\Delta^1)$ とおく。
(a) 閉包性。単射 $u$ を固定し、$u\mathbin{\square}v$ が右アノダインとなる単射 $v$ の全体を $\mathcal T_u$ とする。Kan–Quillenモデル構造 の命題「Gabriel–Zisman の定理」の証明の 2 の (a)(b)(c) は、押し出し積の補集合の計算と、クラスが押し出し・余積・可算列の合成・レトラクトで閉じていることだけを使うので、prop-ra-generation の 1 によりここでもそのまま成り立つ。よって $\mathcal T_u$ は押し出し・余積・可算列の合成・レトラクトで閉じている。
(b) 境界と $\varepsilon$。$(\partial\Delta^n\subset\Delta^n)\mathbin{\square}\varepsilon\colon\partial\Delta^n\times\Delta^1\cup\Delta^n\times\{1\}\subset\Delta^n\times\Delta^1$ は右アノダインである。実際 Kan–Quillenモデル構造 の補題「角柱の補題」の証明では、$\varepsilon=1$ のとき $(n+1)$ 単体 $x_j$($0\le j\le n$)を $\Lambda^{n+1}_{j+1}$ に沿って順に貼っている。添字 $j+1$ は $1$ 以上なので、これらはすべて右ホーンである。
(c) 単射と $\varepsilon$。(a) を $u=\varepsilon$ に使うと、$\mathcal T_\varepsilon$ は (b) により境界の包含をすべて含み、単射は境界の包含の余積の押し出しの可算列の合成なので(Kan–Quillenモデル構造 の補題「単射は単体を貼って作れる」)、すべての単射 $v$ で $v\mathbin{\square}\varepsilon$ は右アノダインである。
(d) 右ホーンはレトラクト。$h=(\Lambda^n_k\subset\Delta^n)$、$0< k\le n$ とする。順序写像 $s\colon[n]\to[n]\times[1]$、$s(m)=(m,0)$ と $t\colon[n]\times[1]\to[n]$、$t(m,0)=m$、$t(m,1)=\max(m,k)$ をとる。$t$ は順序を保ち($(m,0)\le(m',1)$ なら $m\le m'\le\max(m',k)$)、$ts=\mathrm{id}$ である。$s$ は $\Lambda^n_k$ を $\Lambda^n_k\times\{0\}$ に写す。$t$ は $\Delta^n\times\{1\}$ を、頂点 $0$ を値にとらない面($k\ne0$ なので $\Lambda^n_k$ に入る)に写す。$\Lambda^n_k\times\Delta^1$ の単体は第 1 成分がある $j\ne k$ を値にとらない鎖であり、$\max$ が新たに作る値は $k$ だけなので、その像も $j$ を値にとらない。よって $t$ は $h\mathbin{\square}\varepsilon$ の始域 $\Lambda^n_k\times\Delta^1\cup\Delta^n\times\{1\}$ を $\Lambda^n_k$ に写し、$h$ は $h\mathbin{\square}\varepsilon$ のレトラクトである。
(e) 結論。単射 $j$ を固定する。右ホーン $h$ について、$j\mathbin{\square}h$ は $j\mathbin{\square}(h\mathbin{\square}\varepsilon)=(j\mathbin{\square}h)\mathbin{\square}\varepsilon$ のレトラクトであり、$j\mathbin{\square}h$ は単射なので (c) によりこれは右アノダインである。よって $\mathcal T_j$ は $R$ を含み、(a) により $R$ 胞体複体とそのレトラクト、すなわち prop-ra-generation の 2 によりすべての右アノダイン射を含む。$i\mathbin{\square}j\cong j\mathbin{\square}i$ なので主張が従う。左アノダイン射については、反対単体的集合をとる操作が積と和集合を保つので $(i\mathbin{\square}j)^{\mathrm{op}}=i^{\mathrm{op}}\mathbin{\square}j^{\mathrm{op}}$ であり、prop-ra-generation の 3 で右アノダイン射の場合に帰着する。$\square$
単体的集合の写像 $f\colon K\to K'$ と右ファイブレーション $p\colon X\to K'$ について、$n$ 単体を $pg=f\circ\mathrm{pr}_K$ をみたす写像 $g\colon K\times\Delta^n\to X$ とする単体的集合を $\operatorname{Map}_{K'}(K,X)$ と書く($f$ の上の切断の空間)。$f$ が(∞圏の意味で)共終 であるとは、すべての右ファイブレーション $p\colon X\to K'$ について、$f$ との合成が定める制限 $\operatorname{Map}_{K'}(K',X)\to\operatorname{Map}_{K'}(K,X)$ がホモトピー同値(Kan–Quillenモデル構造 の定義「単体的ホモトピー類とホモトピー同値」)であることをいう(HTT09 Definition 4.1.1.1、p. 223。共終関手 の節「∞圏での共終写像」)。
要点:1 は押し出し積への持ち上げに書き直す。2 は定数の右ファイブレーション $S\times K'\to K'$ で試し、Kan 複体への写像による判定を使う。
1。Kan–Quillenモデル構造 の補題「写像の単体的集合と積の随伴」の 1 と同じ対応により、境界 $\partial\Delta^n\subset\Delta^n$ に対する $\rho$ の持ち上げの問題は、$p$ と合成すると射影になる写像 $K'\times\partial\Delta^n\cup K\times\Delta^n\to X$ を、同じ条件をみたす $K'\times\Delta^n\to X$ に延ばす問題であり、$i\mathbin{\square}(\partial\Delta^n\subset\Delta^n)$ と $p$ の持ち上げの問題(下辺は射影 $K'\times\Delta^n\to K'$)にほかならない。prop-ra-product によりこれは右アノダインなので、右ファイブレーション $p$ に対して解がある。よって $\rho$ は自明 Kan ファイブレーションであり、Kan–Quillenモデル構造 の命題「弱同値の基本性質」の 2 により、切断 $s$ で $\rho s=\mathrm{id}$ かつ $\mathrm{id}$ から $s\rho$ へのホモトピーがあるものをもつ。とくに $\rho$ はホモトピー同値である。
2。$S$ を Kan 複体とする。射影 $S\times K'\to K'$ は Kan ファイブレーション $S\to\Delta^0$ の引き戻しなので右ファイブレーションである。$K'$ の上の写像 $K'\times\Delta^n\to S\times K'$ は $S$ 成分で決まり、$f$ の上の写像 $K\times\Delta^n\to S\times K'$ も $S$ 成分で決まるので、$\operatorname{Map}_{K'}(K',S\times K')\cong\operatorname{Map}(K',S)$、$\operatorname{Map}_{K'}(K,S\times K')\cong\operatorname{Map}(K,S)$ であり(右辺は Kan–Quillenモデル構造 の節「8 単体的モデル構造」の写像の単体的集合)、制限は $g\mapsto g\circ(f\times\mathrm{id})$ にあたる。$f$ は共終なのでこれはホモトピー同値である。ホモトピー $H\colon M\times\Delta^1\to N$ は各頂点 $m$ について $H_0(m)$ と $H_1(m)$ を結ぶ辺 $H(m,-)$ を与えるので、ホモトピー同値は頂点を辺で結ばれる関係で割った集合の全単射を誘導する。$\operatorname{Map}(K,S)$ についてのこの集合は $[K,S]$ なので、$f^*\colon[K',S]\to[K,S]$ はすべての Kan 複体 $S$ で全単射である。Kan–Quillenモデル構造 の定理「Kan 複体への写像による判定」の 1 により、$f$ は弱同値である。$\square$
逆に、共終な包含は右アノダインである(HTT09 Proposition 4.1.1.3 の (4)、pp. 223–224。この記事では証明しない)。したがって単射が共終であることと右アノダインであることは同値であり、cor-ra-cone の 2 は、$\Delta^n$ を添字とする図式の余極限が最後の頂点での値で計算できることを意味する。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 生成するホーンの添字が $k>0$ | $\{0\}=\Lambda^1_0\subset\Delta^1$(ex-ra-first-vertex) | 右アノダインであること(アノダイン拡大ではある) |
| 添字が $k< n$(内側) | $\Lambda^2_2\subset\Delta^2$(ex-ra-not-inner) | 内部アノダインであること(右アノダインではある) |
| $g$ がアノダイン拡大(thm-ra-join) | $f=g=(\emptyset\subset\Delta^0)$ | $J(f,g)$ が右アノダインであること |
| $B$ が弱可縮(cor-ra-contractible) | $A_0=\emptyset\subset A=\Delta^0$、$B=\partial\Delta^1$ | $A_0\star B\subset A\star B$ が右アノダインであること |
3 行目:$J(f,g)=(\emptyset\star\Delta^0)\cup(\Delta^0\star\emptyset)\subset\Delta^0\star\Delta^0$ は 2 頂点の包含 $\partial\Delta^1\subset\Delta^1$ である。実現は 2 点から線分への包含で弱同値でないので、prop-ra-inclusions の 2 により右アノダインでない。$f$ は単射のままで、外したのは $g$ が弱同値であることだけである。4 行目:$A_0\star B=\partial\Delta^1$ は $A\star B=\Delta^0\star\partial\Delta^1=\Lambda^2_0$ の頂点 $1,2$ である。実現は 2 点から可縮な $\lvert\Lambda^2_0\rvert$ への包含で弱同値でないので、右アノダインでない。
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