群の表示複体

同義語:表示複体presentation complex

概要

群の表示複体(presentation complex)とは、群 $G$ の表示 $\langle S\mid R\rangle$ から、生成元ごとの円周を 1 点で束ねたブーケに、関係子ごとにその語をたどるループに沿って 2 胞体を貼り付けて作る 2 次元以下の CW 複体である。弧状連結な空間に 2 胞体の族を貼ると基本群が貼ったループの生成する正規部分群で割れるという定理から、その基本群は $G$ と同型になり、どの群も 2 次元 CW 複体の基本群として実現される。複体のホモトピー型は表示の取り方によって変わり、有限表示では生成元と関係子の個数の差がアーベル化の階数で上から押さえられる。普遍被覆は Cayley 複体であり、3 次元以上の胞体を適切に足すと $K(G,1)$ が得られる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 群の表示, 基本群, Van Kampenの定理, CW複体

群 $G$ の表示 $\langle S\mid R\rangle$ が与えられたとする。生成元 $s\in S$ ごとに円周を 1 つ用意して 1 点で束ね、関係子 $r\in R$ ごとに、$r$ の文字の順に円周をたどる閉曲線に沿って円板を 1 枚貼り付けると、2 次元以下の CW複体 ができる。これが 表示複体 である。円周の束の基本群は $S$ 上の 自由群 であり、円板を貼るとその縁のループが自明になるので、表示複体の基本群は「$S$ の語を $R$ の関係で割った群」、すなわち $G$ になる。こうして、どの群も 2 次元 CW 複体の基本群として実現される。
この記事では、表示複体を定義し、その基本群が $G$ であることを、次のより一般の定理から証明する:弧状連結な空間に 2 胞体の族(無限個でもよい)を貼ると、基本群は、貼り付けたループたちが生成する正規部分群で割った商になる(thm-pc-attach)。そのあと例を挙げ、同じ群でも表示によって複体のホモトピー型が変わること、有限表示の生成元と関係子の個数の不等式、3 次元以上の胞体を足して Eilenberg–MacLane空間 に近づける見方を述べる。表示複体の普遍被覆は、群の元を頂点とする Cayley複体 である。

定義

$S$ を集合、$F(S)$ を $S$ 上の自由群とする。$s_j\in S$、$\varepsilon_j=\pm1$ による文字の有限列 $w=s_1^{\varepsilon_1}s_2^{\varepsilon_2}\cdots s_k^{\varepsilon_k}$($k\ge0$)を 語 といい、$F(S)$ の元とみなす。語の族 $R$ に対し、$R$ を含む最小の正規部分群(正規閉包)を $N(R)\subset F(S)$ と書く。群 $G$ と同型 $G\cong F(S)/N(R)$ の組を $G$ の 表示 $P=\langle S\mid R\rangle$ という(群の表示 の定義「群の表示」)。$S$ と $R$ は無限でも空でもよい。この記事では $R$ を添字の付いた族として扱い、同じ語を別の関係子として何度並べてもよいとする。
円周を $S^1=\{z\in\mathbb{C}\mid|z|=1\}$、その基点を $1$、閉円板を $D^2=\{z\in\mathbb{C}\mid|z|\le1\}$ とする。連続写像 $\varphi\colon S^1\to X$ から得られるループ $t\mapsto\varphi(e^{2\pi it})$($t\in[0,1]$)も同じ記号 $\varphi$ で書く。道 $\gamma$ の逆向きの道を $\bar\gamma$、道の積を $\gamma\cdot\delta$($\gamma$ のあとに $\delta$ をたどる)と書く。

円周のブーケと語のループ

1 点 $v$ に、$s\in S$ ごとに 1 胞体 $e_s$ を両端とも $v$ に貼り付けた 1 次元 CW 複体を $B_S$ と書き、円周のブーケ という($S$ で添字付けた円周の ウェッジ和)。$e_s$ の特性写像 $\chi_s\colon[0,1]\to B_S$ は $\chi_s(0)=\chi_s(1)=v$ を満たすループであり、そのホモトピー類を $a_s\in\pi_1(B_S,v)$ と書く。
語 $w=s_1^{\varepsilon_1}\cdots s_k^{\varepsilon_k}$($k\ge1$)に対し、$S^1$ を点 $e^{2\pi ij/k}$($0\le j\le k$)で $k$ 個の弧に分け、$j$ 番目の弧 $\{e^{2\pi it}\mid(j-1)/k\le t\le j/k\}$ を、$\varepsilon_j=1$ なら $\chi_{s_j}$ と同じ向きに、$\varepsilon_j=-1$ なら逆向きに、パラメータ $t$ について 1 次式で $e_{s_j}$ の閉包へ写す写像を $\varphi_w\colon S^1\to B_S$ とする。空の語($k=0$)では $\varphi_w$ を $v$ への定値写像とする。

ループ $\varphi_w$ は、ループ $\chi_{s_1}^{\varepsilon_1},\dots,\chi_{s_k}^{\varepsilon_k}$($\chi^{-1}:=\bar\chi$)を順につないだものをパラメータの取り替えで書き直したものなので、そのホモトピー類は $a_{s_1}^{\varepsilon_1}\cdots a_{s_k}^{\varepsilon_k}$ である(基本群 の定義「道の積と逆の道」)。

表示複体

表示 $P=\langle S\mid R\rangle$ に対し、$B_S$ に $r\in R$ ごとに 2 胞体 $e_r$ を接着写像 $\varphi_r\colon\partial D^2=S^1\to B_S$ で貼り付けた空間(CW複体 の定義「$n$ 胞体の貼り付け」)を $X_P$ と書き、$P$ の 表示複体(presentation complex)という。

$X_P$ は、0 胞体 1 個、1 胞体 $|S|$ 個、2 胞体 $|R|$ 個からなる 2 次元以下の CW 複体である。$X_P$ は群 $G$ だけでは決まらず、表示 $P$ の取り方による(ex-pc-trivial)。

2 胞体の貼り付けと基本群

この節では、$X$ を弧状連結な空間、$x_0\in X$ とし、連続写像の族 $(\varphi_\alpha\colon S^1\to X)_{\alpha\in\Lambda}$($\Lambda$ は無限でも空でもよい)を接着写像として $X$ に 2 胞体 $e_\alpha$ を貼り付けた空間を $Y$、特性写像を $\Phi_\alpha\colon D^2\to Y$ とする。CW複体 の補題「貼り付けの基本性質」により、$X$ は $Y$ の閉部分空間、各 $e_\alpha=\Phi_\alpha(\operatorname{Int}D^2)$ は $Y$ の開集合で $\Phi_\alpha|_{\operatorname{Int}D^2}$ は $e_\alpha$ への同相写像であり、$Y$ の部分集合 $C$ が閉であることは、$C\cap X$ が $X$ で閉かつすべての $\alpha$ で $\Phi_\alpha^{-1}(C)$ が閉であることと同値である(以下、これを閉集合の判定と呼ぶ)。
各 $\alpha$ について $x_0$ から $\varphi_\alpha(1)$ への道 $\gamma_\alpha$ を 1 つ選び、$\pi_1(X,x_0)$ の元の族 $[\gamma_\alpha\cdot\varphi_\alpha\cdot\bar\gamma_\alpha]$($\alpha\in\Lambda$)が生成する正規部分群を $N$ とする。

コンパクト集合が出会う胞体

$n\ge1$ とし、空間 $A$ に $n$ 胞体の族 $(e_\alpha)_{\alpha\in\Lambda}$ を貼り付けた空間を $Z$ とする。

  1. $Z$ のコンパクト部分集合は、有限個の $e_\alpha$ としか交わらない。
  2. 部分集合 $F\subset\Lambda$ について $Z_F:=A\cup\bigcup_{\alpha\in F}e_\alpha$ は $Z$ の閉集合であり、部分空間として、$A$ に $F$ の胞体だけを貼り付けた空間と同相である。

要点:各胞体から 1 点ずつ選んだ集合は、どの部分集合も閉なので、無限ならコンパクトになりえない。

詳しい証明を開く

1:コンパクト集合 $K$ が相異なる $\alpha_1,\alpha_2,\dots$ の胞体と交わるとして、$z_m\in K\cap e_{\alpha_m}$ を選び $D:=\{z_m\mid m\ge1\}$ とする。$T\subset D$ を任意の部分集合とすると、$T\cap A=\emptyset$ であり、$\Phi_\alpha(\partial D^n)\subset A$ で $\Phi_\alpha$ は内部で単射、各 $e_\alpha$ は $D$ の点を高々 1 つしか含まないので、$\Phi_\alpha^{-1}(T)$ は高々 1 点で閉である。閉集合の判定により $T$ は閉である。よって $D$ は $K$ の閉集合でコンパクトであり、各 $\{z_m\}=D\setminus(D\setminus\{z_m\})$ は $D$ の開集合である。1 点集合たちによる開被覆が有限部分被覆をもたないので矛盾する。

2:$Z_F\cap A=A$、$\alpha\in F$ なら $\Phi_\alpha^{-1}(Z_F)=D^n$、$\alpha\notin F$ なら $\Phi_\alpha^{-1}(Z_F)=\partial D^n$ なので $Z_F$ は閉である。$F$ の胞体だけを貼った空間を $Z'$、その特性写像を $\Phi'_\alpha$ とする。非交和の包含から誘導される写像 $j\colon Z'\to Z_F$ は連続な全単射である。$C\subset Z'$ が閉なら、$j(C)\cap A=C\cap A$ は閉、$\alpha\in F$ では $\Phi_\alpha^{-1}(j(C))=\Phi'^{-1}_\alpha(C)$ は閉、$\alpha\notin F$ では $\Phi_\alpha^{-1}(j(C))=\varphi_\alpha^{-1}(C\cap A)$ は $\partial D^n$ の閉集合なので閉である。よって $j(C)$ は $Z$ の閉集合であり、$j$ は閉写像、したがって同相写像である。

2 胞体の貼り付けと基本群

包含 $X\hookrightarrow Y$ が誘導する準同型 $i_*\colon\pi_1(X,x_0)\to\pi_1(Y,x_0)$ は全射であり、その核は $N$ である。したがって $\pi_1(Y,x_0)\cong\pi_1(X,x_0)/N$ である。とくに $N$ は道 $\gamma_\alpha$ の選び方によらない。

段 1(胞体が 1 つのとき):$\Lambda=\{\alpha\}$ とし、$\Phi:=\Phi_\alpha$、$\varphi:=\varphi_\alpha$、$\gamma:=\gamma_\alpha$、$c:=\Phi(0)$、$y_1:=\Phi(1/2)$ とおく。$U:=Y\setminus\{c\}$ と $V:=e_\alpha$ は $Y$ の開集合で、$Y=U\cup V$ である。
$U$ の上のホモトピー $H$ を、$X$ の上では恒等写像、$z\in D^2\setminus\{0\}$ については $H(\Phi(z),t):=\Phi\bigl((1-t)z+tz/|z|\bigr)$ と定める。$|z|=1$ では両者は一致する。$U$ は $X\sqcup(D^2\setminus\{0\})$ の飽和な開集合の像なので、商写像の制限は商写像であり、$[0,1]$ は局所コンパクトなので積をとっても商写像のままである(錐(位相) の注意「Whiteheadの補題の扱い」、Hat02 Proposition A.17, p. 532)。よって $H$ は連続で、$X$ は $U$ の変位レトラクトである(とくに $U$ は弧状連結である)。$r:=H(\cdot,1)$ について包含 $X\hookrightarrow U$ は基本群の同型を誘導し、その逆は $r_*$ である(変位レトラクト の命題「変位レトラクトはホモトピー同値」、基本群 の命題「ホモトピー不変性」)。
$V$ は開円板と同相で可縮であり、$U\cap V=\Phi(\operatorname{Int}D^2\setminus\{0\})$ は穴のあいた開円板と同相で弧状連結、$\pi_1(U\cap V,y_1)\cong\mathbb{Z}$ はループ $\sigma(t):=\Phi(\tfrac12e^{2\pi it})$ の類で生成される。Van Kampenの定理 を基点 $y_1$ で $U,V$ に当てると、$\pi_1(V,y_1)$ が自明なので、融合積の定義(Van Kampenの定理 の定義「群の融合積」で $G_2$ を自明群としたもの)から、包含が誘導する $\pi_1(U,y_1)\to\pi_1(Y,y_1)$ は全射で、核は $[\sigma]$ が生成する正規部分群である。
基点を $x_0$ に戻す。$\delta(t):=\Phi(1-t/2)$ は $\varphi(1)=\Phi(1)$ から $y_1$ への $U$ の中の道であり、$h:=\gamma\cdot\delta$ とおく。$h$ による基点の取り替えの同型(基本群 の命題「基点の取り替え」)は包含と可換なので、$\pi_1(U,x_0)\to\pi_1(Y,x_0)$ は全射で、核は $[h\cdot\sigma\cdot\bar h]$ が生成する正規部分群である。$r(\Phi(z))=\varphi(z/|z|)$ なので、$r\circ\delta$ は定値道、$r\circ\sigma=\varphi$ であり、$r_*[h\cdot\sigma\cdot\bar h]=[\gamma\cdot\varphi\cdot\bar\gamma]$ である。$i_*$ は同型 $\pi_1(X,x_0)\to\pi_1(U,x_0)$ と上の全射の合成なので、全射で、核は $[\gamma\cdot\varphi\cdot\bar\gamma]$ が生成する正規部分群 $N$ である。
段 2($\Lambda$ が有限のとき):$|\Lambda|$ についての帰納法による。$\Lambda=\emptyset$ なら $Y=X$ である。$\Lambda=\Lambda'\sqcup\{\beta\}$ とし、$Y':=X\cup\bigcup_{\alpha\in\Lambda'}e_\alpha$ とする。lem-pc-compact の 2 により $Y'$ は $\Lambda'$ の胞体を貼った空間であり、閉集合の判定を比べると、$Y$ は $Y'$ に $e_\beta$ を $\varphi_\beta\colon S^1\to X\subset Y'$ で貼った空間と同じ位相をもつ。$i_*$ は $\pi_1(X,x_0)\to\pi_1(Y',x_0)\to\pi_1(Y,x_0)$ と分解し、帰納法の仮定により前者は全射で核は $\Lambda'$ についての $N'$、段 1 により後者は全射で核は $[\gamma_\beta\cdot\varphi_\beta\cdot\bar\gamma_\beta]$ の像が生成する正規部分群である。前者を $f$、$x:=[\gamma_\beta\cdot\varphi_\beta\cdot\bar\gamma_\beta]$ とすると、$f$ は全射なので $x$ が生成する正規部分群の $f$ による像は $f(x)$ が生成する正規部分群であり、合成の核はその $f$ による逆像、すなわち $N'$ と $x$ が生成する正規部分群 $N$ である。
段 3(一般の場合):有限な $F\subset\Lambda$ について $Y_F:=X\cup\bigcup_{\alpha\in F}e_\alpha$ は、lem-pc-compact の 2 により $F$ の胞体を貼った空間である。
全射:$x_0$ を基点とする $Y$ のループ $f$ の像はコンパクトなので、lem-pc-compact の 1 により有限な $F$ について $Y_F$ に含まれる。段 2 により $f$ は $Y_F$ の中で、したがって $Y$ の中で $X$ のループにホモトピックである。
$N\subset\ker i_*$:$\psi(t,s):=\Phi_\alpha\bigl((1-s)e^{2\pi it}+s\bigr)$ は、基点 $\varphi_\alpha(1)$ を動かさずにループ $\varphi_\alpha$ を定値ループへ縮めるホモトピーなので、$[\gamma_\alpha\cdot\varphi_\alpha\cdot\bar\gamma_\alpha]$ は $\pi_1(Y,x_0)$ で自明である。
$\ker i_*\subset N$:$X$ のループ $g$ が $Y$ の中でホモトピー $G\colon[0,1]^2\to Y$ により定値ループにホモトピックなら、$G$ の像はコンパクトなので有限な $F$ について $Y_F$ に含まれる。段 2 により $[g]$ は $F$ についての $N_F$ に属し、$N_F\subset N$ である。
最後に、別の道 $\eta_\alpha$ を選んでも $[\eta_\alpha\cdot\varphi_\alpha\cdot\bar\eta_\alpha]=[\eta_\alpha\cdot\bar\gamma_\alpha][\gamma_\alpha\cdot\varphi_\alpha\cdot\bar\gamma_\alpha][\eta_\alpha\cdot\bar\gamma_\alpha]^{-1}$ は共役なので、生成される正規部分群は変わらない(核として一意に決まることからも分かる)。$\square$

胞体が有限個なら段 3 は要らない。無限個の胞体を貼るときにコンパクト性の議論(lem-pc-compact)が必要になる。段 1 の議論は、2 胞体の代わりに $n\ge3$ 次元の胞体を貼る場合にも使え、そのときは $U\cap V$ が $S^{n-1}$ にホモトピー同値で単連結なので、核が自明になる(prop-pc-higher)。

表示複体の基本群

円周のブーケの基本群

$s\mapsto a_s$ が定める準同型 $\theta_S\colon F(S)\to\pi_1(B_S,v)$ は同型である。

要点:有限個の円周なら Van Kampen の定理、無限個ならコンパクト性で有限個に帰着する。

詳しい証明を開く

$S$ が有限のとき、$|S|$ についての帰納法による。$S=S'\sqcup\{s\}$ なら $B_S=B_{S'}\vee B_{\{s\}}$ で、$v$ は各辺の端に近い部分からなる開近傍をもち、$v$ はその強変位レトラクトである。Van Kampenの定理 の系「ウェッジ和の基本群」により $\pi_1(B_S,v)\cong\pi_1(B_{S'},v)\ast\pi_1(B_{\{s\}},v)$ であり、帰納法の仮定と円周の基本群(基本群 の定理「円周の基本群」)、自由積が群の圏の余積であること(自由積 の命題「自由積は群の圏の余積」)から、$\theta_S$ が自由群の普遍性をもつことが分かり、同型である。

一般の場合、全射:ループの像はコンパクトなので、lem-pc-compact($A=\{v\}$、$n=1$)により有限な $T\subset S$ について $B_T$ に入り、有限の場合から $a_s$($s\in T$)の積で表せる。単射:$w\in\ker\theta_S$ は有限な $T$ について $F(T)$ に入る。$B_T$ の上で恒等、$s\notin T$ の $e_s$ を $v$ に潰す写像 $\rho\colon B_S\to B_T$ は、非交和の上で連続で同一視と両立するので連続であり、$\rho_*\theta_S(w)=\theta_T(w)=1$ である。有限の場合から $w=1$ である。

表示複体の基本群

$P=\langle S\mid R\rangle$ を群 $G$ の表示とする。$s\mapsto[\chi_s]\in\pi_1(X_P,v)$ は同型
$$ G\cong F(S)/N(R)\xrightarrow{\ \cong\ }\pi_1(X_P,v) $$
を誘導する。

thm-pc-attach を $X=B_S$(弧状連結)、$x_0=v$、接着写像 $\varphi_r$($r\in R$)に当てる。$\varphi_r(1)=v$ なので $\gamma_r$ を定値道にとれ、$N$ は $[\varphi_r]$($r\in R$)が生成する正規部分群である。$[\varphi_r]=\theta_S(r)$ であり、$\theta_S$ は同型(lem-pc-rose)なので $N=\theta_S(N(R))$ である。よって
$$ \pi_1(X_P,v)\cong\pi_1(B_S,v)/\theta_S(N(R))\cong F(S)/N(R) $$
であり、この同型は $s$ を包含 $B_S\hookrightarrow X_P$ による $a_s$ の像 $[\chi_s]$ に写す。$\square$

どの群も 2 次元複体の基本群

任意の群 $G$ に対し、$\pi_1(X)\cong G$ となる 2 次元以下の CW 複体 $X$ が存在する。$G$ が有限表示なら(群の表示 の定義「有限表示」)、$X$ は有限 CW 複体にとれる。

$G$ は表示をもつ(群の表示 の命題「すべての群は表示を持つ」)ので、その表示複体に thm-pc-main を当てる。有限表示なら胞体は有限個である。$\square$

逆向きに、有限 CW 複体の基本群はいつも有限表示である。

有限 CW 複体の基本群は有限表示

$K$ を連結な有限 CW 複体、$x_0$ をその $0$ 胞体とする。$\pi_1(K,x_0)$ は有限表示をもつ。

要点:1 骨格の基本群は有限個の生成元の自由群で、2 胞体ごとに関係子が 1 つ増え、3 次元以上の胞体は基本群を変えない。

詳しい証明を開く

1 骨格 $K^1$ は弧状連結である。実際、$K^1$ の各点はその点を含む $1$ 胞体(または $0$ 胞体そのもの)の中で $0$ 胞体と道で結べる。$0$ 胞体 $v,w$ を結ぶ $K$ の道 $\gamma\colon[0,1]\to K$ をとると、$[0,1]$ を $0$ 胞体 $0,1$ と $1$ 胞体 $(0,1)$ からなる CW 複体とみたとき $\gamma$ は部分複体 $\{0,1\}$ の上で胞体的なので、胞体近似定理 の定理「胞体近似定理」により端点を止めたまま胞体写像 $\gamma'$ にホモトピックであり、$\gamma'([0,1])\subset K^1$ は $v$ と $w$ を $K^1$ の中で結ぶ。$K$ は連結な CW 複体なので弧状連結であり(Hat02 Appendix, Proposition A.4, p. 522 により局所可縮)、どの $0$ 胞体も $x_0$ と $K$ の中で結べるから、$K^1$ は弧状連結である。

$K^1$ は有限な連結グラフなので、その基本群は有限個の元 $a_1,\dots,a_m$(極大木に含まれない辺に対応する)を基底とする自由群である(Hat02 §1.A, Proposition 1A.2, p. 84)。$K^2$ は $K^1$ に有限個の $2$ 胞体 $e_1,\dots,e_k$ を貼った空間なので、thm-pc-attach により $\pi_1(K^2,x_0)\cong\pi_1(K^1,x_0)/N$ であり、$N$ は $k$ 個の元 $[\gamma_\beta\cdot\varphi_\beta\cdot\bar\gamma_\beta]$ が生成する正規部分群である。これらを $a_1,\dots,a_m$ の語 $r_1,\dots,r_k$ として書けば、$\pi_1(K^2,x_0)\cong\langle a_1,\dots,a_m\mid r_1,\dots,r_k\rangle$ となる。$n\ge3$ について $K^n$ は $K^{n-1}$ に $n$ 胞体を貼った空間なので、prop-pc-higher により $\pi_1(K^{n-1},x_0)\to\pi_1(K^n,x_0)$ は同型であり、$K$ は有限次元なので有限回の合成で $\pi_1(K^2,x_0)\cong\pi_1(K,x_0)$ となる。$\square$

とくに、有限 CW 複体の $K(G,1)$ が存在するような群 $G$ は有限表示である(Eilenberg–MacLane空間 の命題「有限次元の $K(G,1)$ をもつ群」)。cor-pc-every-group と合わせると、群 $G$ が有限表示であることと、有限 2 次元 CW 複体の基本群として実現できることは同値である。

例

表示複体の例
  1. 自由群:$\langle S\mid\ \rangle$ の表示複体は円周のブーケ $B_S$ である。
  2. 整数の格子:$\langle a,b\mid aba^{-1}b^{-1}\rangle$ の表示複体は、正方形の 4 辺を $a,b,a^{-1},b^{-1}$ の順にたどる辺の向かい合う 2 組を貼り合わせたもので、トーラス $T^2$ である。thm-pc-main から $\pi_1(T^2)\cong\mathbb{Z}^2$ が再び得られる。
  3. 閉曲面:$\langle a_1,b_1,\dots,a_g,b_g\mid a_1b_1a_1^{-1}b_1^{-1}\cdots a_gb_ga_g^{-1}b_g^{-1}\rangle$ の表示複体は、$4g$ 角形の辺をこの語の順に貼り合わせた種数 $g$ の向き付け可能な閉曲面である(CW複体 の例「トーラスと閉曲面」)。
  4. 巡回群:$\langle a\mid a^n\rangle$($n\ge1$)の表示複体は、円周に円板を $z\mapsto z^n$ で貼った空間である。$n=1$ なら円板で可縮、$n=2$ なら 射影平面 $\mathbb{RP}^2$ である(CW複体 の命題「射影空間の CW 構造」で $n=2$ とし、$\mathbb{RP}^1$ を同相写像 $[z]\mapsto z^2$ で $S^1$ と同一視すると、接着写像 $S^1\to\mathbb{RP}^1$ は $z\mapsto z^2$ になる)。
自明な群の 3 つの表示

自明な群の表示 $\langle\ \mid\ \rangle$、$\langle a\mid a\rangle$、$\langle a\mid a,a\rangle$ の表示複体は、それぞれ 1 点、円板 $D^2$、2 枚の円板の縁を貼り合わせた球面 $S^2$ である。前の 2 つは可縮だが、$H_2(S^2)\cong\mathbb{Z}$ なので $S^2$ は可縮でない(胞体ホモロジー の例「球面のホモロジー」)。同じ群の表示複体でも、ホモトピー同値とは限らない。

Baumslag–Solitar 群 BS(1,2)

表示 $P=\langle t,b\mid tbt^{-1}b^{-2}\rangle$(関係式で書けば $tbt^{-1}=b^2$)の群を $G$ とする。表示複体 $X_P$ は、0 胞体 $v$ が 1 個、1 胞体 $e_t,e_b$ が 2 個、2 胞体が 1 個で、2 胞体の縁は語 $tbt^{-1}b^{-1}b^{-1}$ の順に $e_t,e_b,e_t^{-1},e_b^{-1},e_b^{-1}$ をたどる 5 角形として貼られる。thm-pc-main により $\pi_1(X_P,v)\cong G$ である。
$G$ は次の半直積 $\mathbb{Z}[1/2]\rtimes\mathbb{Z}$ と同型である。台集合は $\mathbb{Z}[1/2]\times\mathbb{Z}$($\mathbb{Z}[1/2]$ は分母が $2$ の冪の有理数の加法群)で、積は
$$ (r,k)(s,l):=(r+2^ks,\ k+l) $$
とする($\mathbb{Z}$ の生成元 $1$ が $\mathbb{Z}[1/2]$ に 2 倍で作用する)。単位元は $(0,0)$、$(r,k)$ の逆元は $(-2^{-k}r,-k)$ である。同型は $t\mapsto(0,1)$、$b\mapsto(1,0)$ で与えられる。
この同型から、$b$ は無限位数で $\langle b\rangle\cong\mathbb{Z}$、$tbt^{-1}=b^2\neq b$ なので $G$ は可換でなく、$t$ による共役は部分群 $\langle b\rangle$ をその真部分群 $\langle b^2\rangle$ に写す。この最後の性質から、$X_P$ の被覆空間で、自分自身への同型でない被覆の射をもつものが作れる(被覆空間 の例「同型でない自己被覆」)。また $G$ のアーベル化は $b=1$ とした $\langle t\rangle\cong\mathbb{Z}$ で階数 $1$ なので、$|S|-|R|=2-1=1$ は prop-pc-deficiency の不等式の等号であり、$H_2(X_P)=0$ である(同命題の証明から、等号は $H_2(X_P)=0$ のときに限る)。

同型の証明を開く

$\mathbb{Z}[1/2]\rtimes\mathbb{Z}$ は群である:$((r,k)(s,l))(u,m)=(r+2^ks+2^{k+l}u,\ k+l+m)=(r,k)((s,l)(u,m))$ であり、$(r,k)(-2^{-k}r,-k)=(0,0)$、$(-2^{-k}r,-k)(r,k)=(-2^{-k}r+2^{-k}r,0)=(0,0)$ である。

準同型 $\Phi\colon G\to\mathbb{Z}[1/2]\rtimes\mathbb{Z}$.$(0,1)(1,0)(0,-1)=(2,1)(0,-1)=(2,0)=(1,0)^2$ なので、$t\mapsto(0,1)$、$b\mapsto(1,0)$ は関係子 $tbt^{-1}b^{-2}$ を単位元に送り、準同型 $\Phi$ を定める(群の表示 の命題「表示からの準同型」)。$n\ge0$、$m\in\mathbb{Z}$ について $(0,-n)(m,0)(0,n)=(2^{-n}m,-n)(0,n)=(2^{-n}m,0)$ なので $\Phi(t^{-n}b^mt^n)=(m/2^n,0)$ である。

逆の準同型 $\Psi$.$G$ の中で $t^{-1}b^2t=b$(関係式の両辺を $t^{-1}$ と $t$ で挟む)なので、$t^{-1}b^{2m}t=(t^{-1}b^2t)^m=b^m$、したがって $t^{-(n+1)}b^{2m}t^{n+1}=t^{-n}b^mt^n$ である。よって $\beta(m/2^n):=t^{-n}b^mt^n$($n\ge0$)は表し方によらず定まる(二つの表し方は分母をそろえると一致する)。分母をそろえれば $\beta(r)\beta(s)=\beta(r+s)$ であり、$n\ge1$ にとれば $t\beta(m/2^n)t^{-1}=\beta(m/2^{n-1})$、すなわち $t\beta(r)t^{-1}=\beta(2r)$ である。これを繰り返し、逆向きにも使うと、すべての $k\in\mathbb{Z}$ で $t^k\beta(s)t^{-k}=\beta(2^ks)$ となる。$\Psi(r,k):=\beta(r)t^k$ とおくと $$\Psi(r,k)\Psi(s,l)=\beta(r)\,t^k\beta(s)t^{-k}\,t^{k+l}=\beta(r)\beta(2^ks)t^{k+l}=\Psi\bigl((r,k)(s,l)\bigr)$$ なので $\Psi$ は準同型である。

$\Psi\Phi$ は生成元 $t,b$ を $\Psi(0,1)=t$、$\Psi(1,0)=\beta(1)=b$ に送るので恒等写像であり、$\Phi\Psi(r,k)=\Phi(\beta(r))\Phi(t)^k=(r,0)(0,k)=(r,k)$ なので $\Phi\Psi$ も恒等写像である。よって $\Phi$ は同型である。$b$ の像 $(1,0)$ は無限位数で、$b^2$ の像 $(2,0)$ が生成する部分群 $2\mathbb{Z}\times\{0\}$ は $(1,0)$ を含まないので、$\langle b^2\rangle\subsetneq\langle b\rangle$ である。$tbt^{-1}=b^2$ から $t\langle b\rangle t^{-1}=\langle b^2\rangle$ である。

生成元と関係子の個数

有限表示の生成元と関係子の個数

$P=\langle S\mid R\rangle$ を群 $G$ の有限表示とし、$G$ のアーベル化 $G^{\mathrm{ab}}$(アーベル化)の階数を $\operatorname{rank}G^{\mathrm{ab}}$ と書く。このとき
$$ |S|-|R|\le\operatorname{rank}G^{\mathrm{ab}} $$
である。とくに $G$ が有限群なら $|R|\ge|S|$ である。

$X_P$ は有限 CW 複体で、$i$ 胞体の個数は $1,|S|,|R|$($i=0,1,2$)である。$b_i:=\operatorname{rank}H_i(X_P)$ とおくと、胞体ホモロジー の系「胞体の個数から従うこと」の 4 により $1-|S|+|R|=b_0-b_1+b_2$ である。$X_P$ は弧状連結なので $b_0=1$ である。Hurewiczの定理 の定理「1 次元の Hurewicz の定理」と thm-pc-main により $H_1(X_P)\cong\pi_1(X_P)^{\mathrm{ab}}\cong G^{\mathrm{ab}}$ なので $b_1=\operatorname{rank}G^{\mathrm{ab}}$ である。よって $|S|-|R|=b_1-b_2\le b_1$ である。$G$ が有限なら $G^{\mathrm{ab}}$ も有限で $\operatorname{rank}G^{\mathrm{ab}}=0$ である。$\square$

たとえば有限群 $\mathbb{Z}/2\times\mathbb{Z}/2$ を 2 つの生成元で表示するには、関係子が 2 個以上必要である。$|S|-|R|$ を表示の不足数(deficiency)といい、証明から、等号 $|S|-|R|=\operatorname{rank}G^{\mathrm{ab}}$ は $b_2=0$ のときに限って成り立つ($X_P$ は 2 次元なので $H_2(X_P)$ は 2 胞体の自由アーベル群の部分群で、$b_2=0$ は $H_2(X_P)=0$ と同値である)。$\langle a,b\mid aba^{-1}b^{-1}\rangle$ では $|S|-|R|=1< 2=\operatorname{rank}\mathbb{Z}^2$ で、$b_2=\operatorname{rank}H_2(T^2)=1$ である。

3 次元以上の胞体と $K(G,1)$

3 次元以上の胞体の貼り付け

$X$ を弧状連結な空間、$x_0\in X$ とし、$n\ge3$ として $X$ に $n$ 胞体の族(無限個でもよい)を貼り付けた空間を $Y$ とする。包含が誘導する $\pi_1(X,x_0)\to\pi_1(Y,x_0)$ は同型である。

要点:prf-thm-pc-attach の $D^2$ を $D^n$ に替えて同じ議論をする。

詳しい証明を開く

胞体が 1 つのとき、段 1 と同じ $U,V$ をとると、$U$ は $X$ を変位レトラクトにもち、$V$ は可縮、$U\cap V$ は $\operatorname{Int}D^n\setminus\{0\}$ と同相で $S^{n-1}$ にホモトピー同値である。$n-1\ge2$ なので $S^{n-1}$ は単連結(Van Kampenの定理 の例「球面の単連結性」)で、Van Kampen の定理から $\pi_1(U)\to\pi_1(Y)$ は同型である。$U\cap V$ の基点から $x_0$ への道による基点の取り替えで、$\pi_1(X,x_0)\to\pi_1(Y,x_0)$ も同型である。有限個の場合は帰納法、一般の場合は段 3 と同じく lem-pc-compact で有限個に帰着する。

表示複体 $X_P$ に 3 次元以上の胞体を貼って高次のホモトピー群を順に消していくと、prop-pc-higher により基本群は $G$ のまま保たれ、$2$ 骨格が $X_P$ の $K(G,1)$ が得られる(Eilenberg–MacLane空間 の定理「Eilenberg–MacLane 空間の存在」)。$X_P$ 自身が $K(G,1)$ であることは、その普遍被覆が可縮であることと同値である(同記事の注意「普遍被覆による言い換え」)。$X_P$ の普遍被覆は Cayley複体 として具体的に書け、$\langle a,b\mid aba^{-1}b^{-1}\rangle$ では平面の格子(可縮)、$\langle a\mid a^2\rangle$ では球面 $S^2$(可縮でない)になる。よって $T^2$ は $K(\mathbb{Z}^2,1)$ だが、$\mathbb{RP}^2$ は $K(\mathbb{Z}/2,1)$ でない。

条件を外したときの反例

外す条件反例成り立たなくなること
貼る胞体の次元が 21 点 $X$ に 1 胞体を両端とも貼ると $Y=S^1$$\pi_1(X)\to\pi_1(Y)\cong\mathbb{Z}$ が全射でない
核を正規部分群として生成する$B_{\{a,b\}}$ に $a$ に沿って 2 胞体を貼る核は $bab^{-1}$ を含むが、$a$ が生成する部分群 $\{a^m\}$ は $bab^{-1}$ を含まない
1 胞体をすべて 1 点に貼る2 点を 2 本の 1 胞体 $a,b$ で結んだ円周生成元 2 個・関係子なしなのに基本群は $\mathbb{Z}$ で、$F_2$ でない
反例の確かめを開く

2 行目:$bab^{-1}$ は既約語で、$a^m$(既約語 $a^m$)と異なるので $F_2$ で $bab^{-1}\ne a^m$ である(自由群 の定理「既約語の群」)。核が $bab^{-1}$ を含むことは thm-pc-attach による。3 行目:この空間は円周と同相である。

出典

thm-pc-attach と prop-pc-higher は Hat02 Proposition 1.26 (a)(b)(p. 50)、表示複体と cor-pc-every-group は Corollary 1.28(p. 52)、巡回群の例は Example 1.29(p. 52)にある。同書の証明は、すべての 2 胞体に帯をつないだ空間に Van Kampen の定理を当てるもので、この記事の証明(胞体 1 つの場合から帰納法とコンパクト性で一般の場合へ進む)とは道筋が異なる。

関連項目

参考文献

[1]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002, §1.2:Proposition 1.26(2 胞体・n 胞体の貼り付けと基本群, p. 50)、Corollary 1.28(表示複体, p. 52)、Example 1.29(巡回群, p. 52)。Appendix:Proposition A.17(商写像と局所コンパクト空間の積, p. 532)、§1.A Proposition 1A.2, p. 84、Appendix Proposition A.4, p. 522

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