特殊直交群

同義語:special orthogonal group回転群rotation group

概要

特殊直交群(special orthogonal group)とは、行列式が $1$ の $n$ 次実直交行列の全体 $\mathrm{SO}(n)$ であり、長さと向きを保つ $\mathbb{R}^n$ の 1 次変換の群として回転群とも呼ばれる。どの元も互いに直交する平面の回転の積であり、隣り合う座標平面の回転 $n(n-1)/2$ 個の積でもあり(3 次元では Euler 角)、交代行列の指数関数として書ける。$\mathrm{SO}(3)$ では回転角によって共役類が決まり、$\mathrm{SO}(3)$ は単純群である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 直交群, 直交行列, 正規部分群, 行列の指数関数

平面の回転は角 $\theta$ の回転行列 $R(\theta)=\begin{pmatrix}\cos\theta&-\sin\theta\\\sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix}$ で表され、空間の回転はある軸のまわりの回転である。これらを $n$ 次元に広げたものが 特殊直交群 $\mathrm{SO}(n)$、すなわち行列式が $1$ の $n$ 次直交行列の群であり、回転群 とも呼ばれる。$\mathrm{SO}(n)$ は長さと角度と向きを保つ 1 次変換の全体である。
$\mathrm{SO}(n)$ が $\mathrm{O}(n)$ の指数 $2$ の正規部分群であること、コンパクトで弧状連結であること、中心が $n$ の偶奇で変わることは 直交群 の記事で示した。この記事では、回転群の元を「簡単な回転」の積に分ける定理と、回転群の群としての構造を調べる。証明する主な結果は次の 4 つである。$\mathrm{SO}(n)$ の元は互いに直交する平面の回転の積であり、さらに隣り合う座標平面の回転 $\frac{n(n-1)}2$ 個の積である(3 次元では Euler 角による表示)。$\mathrm{SO}(n)$ のどの元も交代行列の指数関数として書ける。$\mathrm{SO}(3)$ の 2 つの元が共役であることと回転角が等しいことは同値である。そして $\mathrm{SO}(3)$ は単純群である。

定義

$\mathbb{R}^n$ の元は縦ベクトルとし、標準内積を $x\cdot y=x^{\top}y$ と書く。

特殊直交群

$n\ge1$ に対し
$$ \mathrm{SO}(n):=\{A\in M_n(\mathbb{R})\mid A^{\top}A=I,\ \det A=1\} $$
を $n$ 次の 特殊直交群(special orthogonal group)または 回転群(rotation group)という。その元を $\mathbb{R}^n$ の 回転 という。

$\mathrm{SO}(n)=\mathrm{O}(n)\cap\mathrm{SL}_n(\mathbb{R})$ は行列の積について群である(直交群 の定義「直交群と特殊直交群」)。回転の典型は、1 つの平面の中だけで回り、その平面に直交する方向を動かさない変換である。

平面回転

$u,v\in\mathbb{R}^n$ を長さ $1$ の直交するベクトルとし、$\theta\in\mathbb{R}$ とする。線形変換 $R_{u,v}(\theta)$ を
$$ u\mapsto\cos\theta\,u+\sin\theta\,v,\qquad v\mapsto-\sin\theta\,u+\cos\theta\,v,\qquad x\mapsto x\ \ (x\perp u,\ x\perp v) $$
で定め、平面 $\operatorname{span}\{u,v\}$ の中の角 $\theta$ の 平面回転 という。とくに $R_{ij}(\theta):=R_{e_i,e_j}(\theta)$($i\neq j$)を 座標平面の回転 という。

$u,v$ を最初の 2 列とする直交行列 $P$ をとると($u,v$ を正規直交基底に延長して並べればよい)、$R_{u,v}(\theta)=P\operatorname{diag}(R(\theta),I_{n-2})P^{\top}$ である。右辺は直交行列の積で、行列式は $\det R(\theta)=1$ なので、平面回転は $\mathrm{SO}(n)$ に属する。$R_{u,v}(\alpha)R_{u,v}(\beta)=R_{u,v}(\alpha+\beta)$ であり、$R_{u,v}(\theta)^{-1}=R_{u,v}(-\theta)$ である。

直感

$\mathrm{SO}(n)$ の元は「原点を動かさない剛体の運動で、鏡に映す操作を含まないもの」である。3 次元の回転は 1 本の軸のまわりの回転だが、4 次元以上では、互いに直交する 2 つの平面でそれぞれ別の角だけ回る、といった回転がある。$\mathbb{R}^4$ の $\operatorname{diag}(R(\alpha),R(\beta))$ は、$\alpha,\beta$ のどちらも $2\pi$ の整数倍でなければ $0$ 以外に動かないベクトルをもたず、「軸」をもたない。それでも、どの回転も互いに直交する平面の回転に分かれる、というのが thm-so-planes である。
回転を合成する順序を変えると結果は一般に変わる。$\mathbb{R}^3$ で $x$ 軸のまわりに $90^\circ$ 回してから $z$ 軸のまわりに $90^\circ$ 回すのと、逆の順に回すのとでは、$e_1$ の行き先が異なる。この非可換性が十分に強いことを表すのが、$\mathrm{SO}(3)$ が単純群であるという thm-so3-simple である。回転のなす集合はなめらかに繋がった空間でもあり(直交群 の定理「直交群の位相」)、単純性の証明では、この連続性を使って「単位行列に近い回転」を作る。

例

平面の回転群 $\mathrm{SO}(2)$

$\mathrm{SO}(2)=\{R(\theta)\mid\theta\in\mathbb{R}\}$ であり(回転・鏡映と行列の群 の定理「2 次の直交行列の分類」)、$R(\alpha)R(\beta)=R(\alpha+\beta)$ なので可換である。$a+bi\mapsto\begin{pmatrix}a&-b\\b&a\end{pmatrix}$ は、絶対値 $1$ の複素数のなす乗法群から $\mathrm{SO}(2)$ への同型を与える($\cos\theta+i\sin\theta\mapsto R(\theta)$)。

空間の回転と回転角

$u\in\mathbb{R}^3$ を長さ $1$ のベクトル、$\theta\in\mathbb{R}$ とし、$u$ を第 3 列とし $\det P=1$ となる直交行列 $P=(p_1,p_2,u)$ をとる。$P\operatorname{diag}(R(\theta),1)P^{\top}=R_{p_1,p_2}(\theta)$ は、$u$ を動かさず、$u$ に直交する平面 $\operatorname{span}\{p_1,p_2\}$ を角 $\theta$ だけ回す。これを 軸 $u$ のまわりの角 $\theta$ の回転 という。成分で書くと、$x\in\mathbb{R}^3$ に対して
$$ x\mapsto\cos\theta\,x+\sin\theta\,(u\times x)+(1-\cos\theta)(u\cdot x)\,u $$
である(Rodrigues の公式)。実際、$\det P=1$ なので $u\times p_1=p_2$、$u\times p_2=-p_1$ であり、右辺は $x=u$ を $u$ に、$x=p_1$ を $\cos\theta\,p_1+\sin\theta\,p_2$ に、$x=p_2$ を $-\sin\theta\,p_1+\cos\theta\,p_2$ に移すので、基底の上で左辺と一致する。跡は $\operatorname{tr}\operatorname{diag}(R(\theta),1)=1+2\cos\theta$ である。

立方体を自分自身に移す回転

各行と各列に $0$ でない成分がちょうど 1 つずつあり、それが $\pm1$ である $3$ 次の行列(符号付き置換行列)は直交行列で、立方体 $[-1,1]^3$ を自分自身に移す(直交群 の例「置換行列と符号付き置換行列」)。そのうち行列式が $1$ のものは $2^3\cdot3!/2=24$ 個あり、$\mathrm{SO}(3)$ の位数 $24$ の有限部分群をなす。たとえば $R_{12}(\frac\pi2)$($z$ 軸のまわりの $90^\circ$ 回転)や、$e_1\mapsto e_2\mapsto e_3\mapsto e_1$ と巡回させる行列(対角線 $e_1+e_2+e_3$ のまわりの $120^\circ$ 回転)がこれに属する。

回転の分解

直交する平面の回転への分解

直交する平面の回転の積

$A\in\mathrm{SO}(n)$ とする。$2m\le n$ を満たす $m\ge0$、正規直交系 $u_1,v_1,\dots,u_m,v_m$、実数 $\varphi_1,\dots,\varphi_m$ で
$$ A=R_{u_1,v_1}(\varphi_1)R_{u_2,v_2}(\varphi_2)\cdots R_{u_m,v_m}(\varphi_m) $$
となるものがある。右辺の因子は互いに可換である。

標準形のブロックを 1 つずつ取り出す

直交行列 の定理「直交行列の標準形」により、$P\in\mathrm{O}(n)$ で $P^{\top}AP=\operatorname{diag}(R(\theta_1),\dots,R(\theta_k),I_p,-I_q)$ となるものがある。$1=\det A=(-1)^q$ なので $q$ は偶数であり、$-I_2=R(\pi)$ なので、$-I_q$ を $q/2$ 個の $R(\pi)$ に置き換えると、$P^{\top}AP=D$ は $m:=k+q/2$ 個の $2\times2$ ブロック $R(\varphi_j)$ と $1$ の対角成分からなるブロック対角行列になる。$j$ 番目のブロックが第 $s_j,s_j+1$ 行・列を占めるとし、$D_j$ を「$D$ の $j$ 番目のブロック以外を単位行列に替えた行列」とすると、$D=D_1D_2\cdots D_m$ で、$D_j$ どうしは可換である(占める位置が重ならない)。$P$ の第 $s$ 列を $p_s$ と書くと、$PD_jP^{\top}p_{s_j}=PD_je_{s_j}=\cos\varphi_j\,p_{s_j}+\sin\varphi_j\,p_{s_j+1}$、同様に $PD_jP^{\top}p_{s_j+1}=-\sin\varphi_j\,p_{s_j}+\cos\varphi_j\,p_{s_j+1}$ で、ほかの $p_s$ は動かないので、$PD_jP^{\top}=R_{p_{s_j},p_{s_j+1}}(\varphi_j)$ である。よって $A=PDP^{\top}=\prod_j PD_jP^{\top}$ が求める分解である。$\square$

鏡映 $H_w=I-2ww^{\top}$($w$ は長さ $1$。直交行列 の定義「鏡映の行列」)を 2 つ掛けると平面回転になる。

鏡映 2 つの積
  1. $u,v$ を長さ $1$ の直交するベクトル、$w:=-\sin\frac\theta2\,u+\cos\frac\theta2\,v$ とすると、$R_{u,v}(\theta)=H_wH_v$ である。
  2. 長さ $1$ の $a,b$ が線形独立なら、$H_aH_b$ は平面 $\operatorname{span}\{a,b\}$ の中の平面回転である。
基底の行き先を比べる

1:$H_vu=u$、$H_vv=-v$ であり、$w\cdot u=-\sin\frac\theta2$、$w\cdot v=\cos\frac\theta2$ なので、倍角の公式により
$$ H_wH_vu=u+2\sin\tfrac\theta2\,w=\cos\theta\,u+\sin\theta\,v,\qquad H_wH_vv=-v+2\cos\tfrac\theta2\,w=-\sin\theta\,u+\cos\theta\,v $$
である。$u,v$ に直交する $x$ は $v,w$ にも直交するので $H_wH_vx=x$ である。よって $H_wH_v=R_{u,v}(\theta)$ である。
2:$W:=\operatorname{span}\{a,b\}$ とおく。$W^{\perp}$ の元は $H_a,H_b$ で動かないので、$Q:=H_aH_b$ は $W^\perp$ を各点固定し、$W$ を $W$ に移す。$W$ の正規直交基底 $u,v$ をとり、$Q$ の $W$ への制限をこの基底で表した $2\times2$ 行列を $Q_W$ とすると、$Q_W$ は直交行列で、$\det Q_W=\det Q=(-1)^2=1$ である。2 次の直交行列で行列式が $1$ のものは $R(\theta)$ の形なので(回転・鏡映と行列の群 の定理「2 次の直交行列の分類」)、$Q=R_{u,v}(\theta)$ である。$\square$

直交行列 の定理「鏡映の積への分解」により、直交行列は $n$ 個以下の鏡映の積で、$k$ 個の鏡映の積の行列式は $(-1)^k$ である。したがって $\mathrm{SO}(n)$ の元は、ちょうど偶数個($n$ 個以下)の鏡映の積として書ける行列である。それを 2 つずつ組にすると、lem-so-two-reflections の 2 により平面回転の積になり(組の 2 つの鏡映が同じなら積は $I$ である)、逆に thm-so-planes の各平面回転は 2 つの鏡映の積に分かれる。

座標平面の回転と Euler 角

thm-so-planes の平面は $A$ によって変わる。決まった平面だけで済ませることもできる。$R_{i,i+1}(\theta)$ は、第 $i,i+1$ 座標に $R(\theta)$ を施し、ほかの座標を動かさない行列である。

隣り合う座標平面の回転による分解

$n\ge1$ とする。どの $A\in\mathrm{SO}(n)$ も、$R_{i,i+1}(\theta)$($1\le i\le n-1$、$\theta\in\mathbb{R}$)の形の行列 $\frac{n(n-1)}2$ 個の積として書ける。

最後の列を $e_n$ に回し込む

$n$ についての帰納法で示す。$n=1$ では $\mathrm{SO}(1)=\{1\}$ で、空の積($0$ 個)である。$n\ge2$ とし、$x:=Ae_n$ とおく。$x$ は長さ $1$ である。
段 1:$(a,b)\in\mathbb{R}^2$ を $r(\cos\psi,\sin\psi)$($r=\sqrt{a^2+b^2}$)と書き、$\theta:=\frac\pi2-\psi$ とおくと、$R(\theta)\binom ab=r\binom{\cos(\psi+\theta)}{\sin(\psi+\theta)}=\binom0r$ である。これを使って、$G_1=R_{12}(\theta_1)$ で第 1 座標を $0$、第 2 座標を $r_2=\sqrt{x_1^2+x_2^2}$ にし、次に $G_2=R_{23}(\theta_2)$ で第 2 座標を $0$、第 3 座標を $\sqrt{r_2^2+x_3^2}$ にする。これを続けると、$G:=G_{n-1}\cdots G_2G_1$ について、$Gx$ の第 $1,\dots,n-1$ 座標は $0$、第 $n$ 座標は $\sqrt{x_1^2+\dots+x_n^2}=1$ となる。すなわち $GAe_n=e_n$ である。
段 2:$GA\in\mathrm{SO}(n)$ は $e_n$ を動かさないので、直交群 の定理「球面への推移的な作用」の 2 により $GA=\operatorname{diag}(B,1)$、$B\in\mathrm{SO}(n-1)$ と書ける。帰納法の仮定により $B$ は $(n-1)$ 次の $R_{i,i+1}(\theta)$ の $\frac{(n-1)(n-2)}2$ 個の積であり、$\operatorname{diag}(R_{i,i+1}(\theta),1)$ は $n$ 次の $R_{i,i+1}(\theta)$ である。$G_i^{-1}=R_{i,i+1}(-\theta_i)$ なので、$A=G_1^{-1}G_2^{-1}\cdots G_{n-1}^{-1}\operatorname{diag}(B,1)$ は $(n-1)+\frac{(n-1)(n-2)}2=\frac{n(n-1)}2$ 個の積である。$\square$

$n=3$ では、$R_{12}(\theta)$ は $z$ 軸($e_3$)のまわりの回転、$R_{23}(\theta)$ は $x$ 軸($e_1$)のまわりの回転である。証明をそのまま読むと次が得られる。

Euler 角

どの $A\in\mathrm{SO}(3)$ も、実数 $\alpha,\beta,\gamma$ によって $A=R_{12}(\alpha)R_{23}(\beta)R_{12}(\gamma)$ と書ける。すなわち、空間のどの回転も「$z$ 軸のまわり、$x$ 軸のまわり、$z$ 軸のまわり」の 3 つの回転の積である。

帰納法の 1 段を 3 次元で読む

prf-so-givens で $n=3$ とすると $A=G_1^{-1}G_2^{-1}\operatorname{diag}(B,1)$、$G_1^{-1}=R_{12}(-\theta_1)$、$G_2^{-1}=R_{23}(-\theta_2)$、$B\in\mathrm{SO}(2)$ である。ex-so-2 により $B=R(\gamma)$ と書けて、$\operatorname{diag}(B,1)=R_{12}(\gamma)$ である。$\alpha=-\theta_1$、$\beta=-\theta_2$ とおけばよい。$\square$

$\alpha,\beta,\gamma$ を回転 $A$ の Euler 角という。剛体の姿勢を 3 つの角で表す方法として力学で使われる。

指数写像

交代行列($X^{\top}=-X$)の全体を $\mathfrak{so}(n)$ と書く。

指数写像の全射性

$n\ge1$ について、$\{e^X\mid X\in\mathfrak{so}(n)\}=\mathrm{SO}(n)$ である。

平面回転は交代行列の指数関数

$X\in\mathfrak{so}(n)$ なら、行列の指数関数 の命題「相似・転置・固有ベクトル」の (R2) により $(e^X)^{\top}=e^{X^{\top}}=e^{-X}$ であり、$X$ と $-X$ は可換なので同じ記事の定理「可換な行列の指数法則」により $e^{-X}e^X=e^0=I$ である。また定理「指数関数の固有値と行列式」の (R2) により $\det e^X=e^{\operatorname{tr}X}=e^0=1$ である。よって $e^X\in\mathrm{SO}(n)$ である。
逆に $A\in\mathrm{SO}(n)$ とし、prf-so-planes のように $A=PDP^{\top}$($P\in\mathrm{O}(n)$、$D$ は $2\times2$ ブロック $R(\varphi_j)$ と $1$ からなるブロック対角行列)と書く。$J:=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}$ について $e^{\varphi J}=R(\varphi)$ である(行列の指数関数 の例「回転と Euler の公式」)。$Y$ を、$D$ の各ブロック $R(\varphi_j)$ の位置に $\varphi_jJ$ を置き、ほかを $0$ にした行列とする。ブロック対角行列の冪はブロックごとの冪なので、指数関数の級数もブロックごとに計算でき、$e^Y=D$ である。$Y$ は交代行列で、$X:=PYP^{\top}$ も $X^{\top}=PY^{\top}P^{\top}=-X$ を満たす。行列の指数関数 の命題「相似・転置・固有ベクトル」の (R1) により $e^X=Pe^YP^{-1}=PDP^{\top}=A$ である。$\square$

$\mathrm{O}(n)$ の行列式 $-1$ の元は、実行列の指数関数としては書けない(行列の指数関数 の定理「指数関数の固有値と行列式」の (R3) により $\det e^X>0$)。また、行列式 $1$ の $2$ 次実行列の全体 $\mathrm{SL}_2(\mathbb{R})$ では、トレースが $0$ の行列の指数関数の像は全体にならない(同じ記事の例「反例:実行列の指数写像は全射でない」)。コンパクトで連結な $\mathrm{SO}(n)$ では、このようなことが起きない。

3 次元の回転群の構造

回転角と共役類

$R_z(\theta):=R_{12}(\theta)=\operatorname{diag}(R(\theta),1)$ とおく。

$\mathrm{SO}(3)$ の共役類
  1. どの $A\in\mathrm{SO}(3)$ についても、$P\in\mathrm{SO}(3)$ と $\theta\in[0,\pi]$ で $A=PR_z(\theta)P^{\top}$ となるものがあり、$\theta$ は $\operatorname{tr}A=1+2\cos\theta$ によってただ 1 つに決まる。この $\theta$ を $A$ の 回転角 という。
  2. $A,B\in\mathrm{SO}(3)$ が $\mathrm{SO}(3)$ の中で共役であることと、回転角が等しいこと($\operatorname{tr}A=\operatorname{tr}B$)は同値である。
標準形の向きを揃える

1:直交行列 の定理「直交行列の標準形」で $n=3$ とすると、$2k+p+q=3$ で、$\det A=(-1)^q=1$ から $q$ は偶数なので、$(k,p,q)$ は $(1,1,0)$、$(0,3,0)$、$(0,1,2)$ のどれかである。最後の場合の $\operatorname{diag}(1,-1,-1)$ は、座標を並べ替える置換行列で $\operatorname{diag}(-1,-1,1)=R_z(\pi)$ と共役である。$(0,3,0)$ は $I=R_z(0)$ である。並べ替えの行列を $P$ に繰り込めば、$P\in\mathrm{O}(3)$ と $\theta\in[0,\pi]$ で $A=PR_z(\theta)P^{\top}$ と書ける。$\det P=-1$ なら、$S:=\operatorname{diag}(1,1,-1)$ は $R_z(\theta)$ と可換なので、$P$ を $PS\in\mathrm{SO}(3)$ に替えても $A=(PS)R_z(\theta)(PS)^{\top}$ である。跡は共役で変わらないので $\operatorname{tr}A=\operatorname{tr}R_z(\theta)=1+2\cos\theta$ であり、$\cos$ は $[0,\pi]$ で単射なので $\theta$ はただ 1 つに決まる。
2:共役な行列の跡は等しい。逆に $\operatorname{tr}A=\operatorname{tr}B$ なら 1 により回転角 $\theta$ が等しく、$A=PR_z(\theta)P^{\top}$、$B=QR_z(\theta)Q^{\top}$($P,Q\in\mathrm{SO}(3)$)なので、$B=(QP^{\top})A(QP^{\top})^{\top}$ で $QP^{\top}\in\mathrm{SO}(3)$ である。$\square$

1 から、$A$ は $Pe_3$ を動かさず、$Pe_3$ に直交する平面を角 $\theta$ だけ回す。すなわち、どの空間の回転も、ある軸のまわりの回転である(二重被覆群 の定理「回転軸の定理」)。$\theta=\pi$ の回転は $180^\circ$ 回転で、$A^2=I$ を満たす。

単純性

$\mathrm{SO}(3)$ は単純群

$\mathrm{SO}(3)$ の正規部分群は $\{I\}$ と $\mathrm{SO}(3)$ だけである。すなわち $\mathrm{SO}(3)$ は単純群である。

交換子で小さな回転を作る

$N$ を $\{I\}$ でない正規部分群とする。
段 1(小さな角の回転は $N$ に入る):$g\in N$、$g\neq I$ をとり、回転角を $\alpha\in(0,\pi]$ とする。thm-so3-conjugacy により $g$ は $R_z(\alpha)$ と共役で、$N$ は正規なので、$R_z(\alpha)\in N$ である。改めて $g:=R_z(\alpha)$ とし、$x$ 軸のまわりの回転 $k_t:=R_{23}(t)$ を使って
$$ c(t):=g\,k_t\,g^{-1}k_t^{-1}\qquad(t\in[0,\tfrac\pi2]) $$
とおく。$g\in N$ と、正規性による $k_tg^{-1}k_t^{-1}\in N$ から、$c(t)\in N$ である。$c(t)$ の成分は $t$ の連続関数なので、$f(t):=\operatorname{tr}c(t)$ は連続で、$f(0)=\operatorname{tr}I=3$ である。$t=\frac\pi2$ で計算すると $f(\frac\pi2)=\cos^2\alpha+2\cos\alpha$ であり、$3-f(\frac\pi2)=(3+\cos\alpha)(1-\cos\alpha)>0$ である($\alpha\in(0,\pi]$ なので $\cos\alpha<1$)。

詳細

$a=\cos\alpha$、$b=\sin\alpha$ とおくと $g=\begin{pmatrix}a&-b&0\\b&a&0\\0&0&1\end{pmatrix}$、$k:=k_{\pi/2}=\begin{pmatrix}1&0&0\\0&0&-1\\0&1&0\end{pmatrix}$ であり、

$$gkg^{-1}=\begin{pmatrix}a^2&ab&b\\ab&b^2&-a\\-b&a&0\end{pmatrix},\qquad gkg^{-1}k^{-1}=\begin{pmatrix}a^2&-b&ab\\ab&a&b^2\\-b&0&a\end{pmatrix}$$

となる($k^{-1}=k^{\top}$)。跡は $a^2+2a$ である。


中間値の定理により、$f$ は $[f(\frac\pi2),3]$ のすべての値をとる。$\theta_0\in(0,\pi]$ を $1+2\cos\theta_0=f(\frac\pi2)$ で定める($f(\frac\pi2)$ は $\mathrm{SO}(3)$ の元の跡なので $[-1,3)$ に属する)。$\theta\in[0,\theta_0]$ なら $1+2\cos\theta\in[f(\frac\pi2),3]$ なので、ある $t$ で $c(t)\in N$ の回転角が $\theta$ になる。thm-so3-conjugacy の 2 により、回転角 $\theta$ の回転はすべて $c(t)$ と共役であり、$N$ に属する。
段 2(すべての回転が $N$ に入る):$A\in\mathrm{SO}(3)$ を $A=PR_z(\theta)P^{\top}$($P\in\mathrm{SO}(3)$、$\theta\in[0,\pi]$)と書き、$\theta/m\le\theta_0$ となる正の整数 $m$ をとる。$B:=PR_z(\theta/m)P^{\top}$ の回転角は $\theta/m$ なので、段 1 により $B\in N$ であり、$A=B^m\in N$ である。よって $N=\mathrm{SO}(3)$ である。$\square$

$\mathrm{SO}(3)$ の交換子部分群は正規部分群であり(交換子部分群)、$\mathrm{SO}(3)$ は可換でないので $\{I\}$ ではない。したがって thm-so3-simple により、交換子部分群は $\mathrm{SO}(3)$ 全体である。すなわち、どの空間の回転も交換子 $ghg^{-1}h^{-1}$ の積として書ける。
$\mathrm{SO}(3)$ は位相空間としては単連結でなく、基本群は位数 $2$ の群であり(SO(3)とSU(2) の定理「回転群の基本群」)、2 対 1 の全射準同型 $\mathrm{SU}(2)\to\mathrm{SO}(3)$ がある(同じ記事の定理「二重被覆 $\mathrm{SU}(2)\to\mathrm{SO}(3)$」)。この準同型は、絶対値 $1$ の四元数による共役作用として書くこともできる(Voi21 Proposition 2.4.18・Corollary 2.4.21、pp. 29–30)。群として単純であることと、位相的に 2 重に被覆されることは両立している。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
$n=3$(thm-so3-simple)を $n=2$ にする$\mathrm{SO}(2)$単純群であること
$n=3$(thm-so3-simple)を $n=4$ にする$\mathrm{SO}(4)$単純群であること
$n=3$(thm-so3-conjugacy の 2)を $n=4$ にする$\operatorname{diag}(R(\frac\pi2),I_2)$ と $\operatorname{diag}(R(\frac\pi3),R(\frac\pi3))$跡が等しければ共役であること
行列式が $1$(thm-so-exp)$\mathrm{O}(n)$ の元 $\operatorname{diag}(-1,1,\dots,1)$交代行列の指数関数として書けること
内積が正定値(thm-so-exp)$\mathrm{SO}(1,1)$ の元 $-I$指数写像の全射性
反例:表の各行の確かめ

1・2 行目は、$\{\pm I\}$ が真の正規部分群になることによる。3 行目は固有値が異なること、4 行目は行列式の符号、5 行目は $(1,1)$ 成分の符号による。

詳細

1 行目:$\mathrm{SO}(2)$ は可換なので、部分群 $\{\pm I\}$ は正規部分群で、$\{I\}$ とも $\mathrm{SO}(2)$ とも異なる。

2 行目:$-I\in\mathrm{SO}(4)$ はすべての行列と可換なので、$\{\pm I\}$ は $\mathrm{SO}(4)$ の正規部分群である(直交群 の定理「直交群の中心」)。

3 行目:どちらも $\mathrm{SO}(4)$ の元で跡は $0+2=2$ と $1+1=2$ で等しいが、固有値は $\pm i,1,1$ と $e^{\pm i\pi/3}$(各 $2$ 個)で異なるので、共役でない。

4 行目:実行列 $X$ について $\det e^X=e^{\operatorname{tr}X}>0$ なので、行列式 $-1$ の行列は $e^X$ と書けない。

5 行目:$G=\operatorname{diag}(1,-1)$ とし、$\mathrm{SO}(1,1)=\{A\mid A^{\top}GA=G,\ \det A=1\}$ に対応する行列の集合 $\{X\mid X^{\top}G+GX=0\}$ を考える。$X=\begin{pmatrix}p&q\\r&s\end{pmatrix}$ について条件は $p=s=0$、$q=r$ なので、$X=t\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ であり、$e^X=\begin{pmatrix}\cosh t&\sinh t\\\sinh t&\cosh t\end{pmatrix}$ の $(1,1)$ 成分は正である。一方 $-I$ は $\mathrm{SO}(1,1)$ に属するので、指数写像の像は $\mathrm{SO}(1,1)$ 全体にならない。$\mathrm{SO}(1,1)$ は弧状連結でもない(直交群 の例「不定値の形式の直交群 $\mathrm{O}(1,1)$」)。

補足

高い次元の回転群

$n$ が偶数なら $-I$ は $\mathrm{SO}(n)$ の中心に属し(直交群 の定理「直交群の中心」)、$\{\pm I\}$ が真の正規部分群なので $\mathrm{SO}(n)$ は単純でない。thm-so3-simple の証明は、回転角で共役類が決まることを使っており、$\mathrm{SO}(4)$ 以上ではその形のままでは使えない。$\mathrm{SO}(n)$ は $\frac{n(n-1)}2$ 次元のコンパクトな Lie群 で、その Lie 環が thm-so-exp の $\mathfrak{so}(n)$ である(Lie群 の定理「古典群は行列 Lie 群である」)。

文献

特殊直交群 $\mathrm{SO}(n)$ の定義は Jud25 p. 216、$\mathrm{SO}(n)$ を回転の群とする定義と、$\mathrm{SO}(3)$ の元が軸のまわりの回転であることを使った絶対値 $1$ の四元数による $\mathrm{SO}(3)$ の表示は Voi21 §2.4(pp. 29–30)にある。この記事の定理は、引用した記事の定理を除いて記事の中で証明した。

関連項目

参考文献

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