自明群(trivial group)とは、単位元だけからなる群、すなわち位数 $1$ の群のことである。位数 $1$ の群は互いに一意な同型写像で同型なので、自明群は同型を除いて一意に定まり、$1$ や $\{e\}$、加法的には $0$ と書かれる。位数 $1$ の巡回群 $C_1$、対称群 $S_0$・$S_1$、交代群 $A_2$、$GL_1(\mathbb{F}_2)$、任意の体上の $SL_1(K)$・$PGL_1(K)$ はいずれも自明群と同型である。自明群は任意の群の部分群であり、群の圏の始対象かつ終対象(零対象)であり、準同型の核が自明であることは単射性と同値である。
一元集合 $G=\{e\}$ に二項演算を $e\cdot e=e$ で定めると、$(G,\cdot)$ は $e$ を単位元とする群になる。この群を自明群(trivial group)という。単位元だけからなる群、すなわち位数 $1$ の群を総称して自明群と呼ぶこともあり、群 $G$ が自明であるとは $G$ が単位元だけからなることをいう。
位数 $1$ の群は互いに同型なので(prop-trivial-group-unique)、「自明群」は同型を除いて一意に定まる。記号としては $1$、$\{1\}$、$\{e\}$、加法的に書くときは $0$、$\{0\}$ が用いられる。
自明群は「何もしない操作だけからなる群」であり、群の中で最も小さいものである。すべての群に部分群として含まれ、すべての群からの準同型の終点にもなるので、群の圏における基準点(零対象)の役割を果たす。群論の多くの主張は「自明でない群」について述べられ、自明群は退化した場合として除外されるか、別に扱われる。
この記事の後半では、自明群をほかの性質で言い換える判定(準同型の個数による特徴づけ、位数が互いに素な群の間の準同型、自己同型群が自明な有限群、生成元と関係式が潰れて自明群になる表示)を証明し、条件を外すと結論が崩れる反例を表にまとめる。
次の群はいずれも位数 $1$ であり、自明群と同型である(prop-trivial-group-unique)。
次の例は「群 ⇒ 自明群」および「体 $K$ によらず $GL_1(K)$ は自明群」が成り立たないことを示す。位数 $2$ の群 $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}=\{0,1\}$ は $1\neq0$ なので自明でない。また、$1$ 次一般線形群 $GL_1(K)$($K^\times$ と同型)は、$K=\mathbb{F}_3=\{0,1,2\}$ のとき $\mathbb{F}_3^\times=\{1,2\}$ で位数 $2$ なので自明でない。一般に $GL_1(K)$ が自明であるのは $K^\times=\{1\}$、すなわち $K$ がちょうど二つの元 $0,1$ を持つときに限る。そのような体は同型を除いて $\mathbb{F}_2$ ただ一つである($1+1\in\{0,1\}$ であり、$1+1=1$ とすると $1=0$ となって矛盾するので $1+1=0$ となり、加法と乗法の表が定まる)。
位数 $1$ の群は、単位元だけからなる。位数 $1$ の任意の二つの群は同型であり、同型写像は一意である。
群は単位元 $e$ を含むので、位数 $1$ の群は $\{e\}$ であり、演算は $e\cdot e=e$ に限る。$G=\{e\}$、$H=\{e'\}$ を位数 $1$ の群とすると、写像 $f\colon G\to H$ は $f(e)=e'$ ただ一つであり、$f(e\cdot e)=f(e)=e'=e'\cdot e'=f(e)f(e)$ なので準同型、また全単射である。$\square$
$1$ を自明群とする。任意の群 $G$ に対し、群準同型 $1\to G$ はただ一つ存在し(単位元を単位元に写す写像)、群準同型 $G\to1$ もただ一つ存在する(すべての元を $e$ に写す写像)。すなわち自明群は群の圏の始対象かつ終対象(零対象)である。
群準同型は単位元を単位元に写すので、$1=\{e\}\to G$ の準同型は $e\mapsto e_G$ に限り、この写像は $f(e\cdot e)=e_G=e_Ge_G$ を満たすので準同型である。$G\to1$ の写像は定数写像 $g\mapsto e$ に限り、$f(gh)=e=e\cdot e=f(g)f(h)$ なので準同型である。$\square$
任意の群 $G$ について、$\{e_G\}$ は $G$ の部分群であり(自明な部分群)、$G$ の任意の部分群に含まれる。$\{e_G\}$ は $G$ の正規部分群であり、商群 $G/\{e_G\}$ は $G$ と同型である。
$e_Ge_G=e_G$、$e_G^{-1}=e_G$ なので $\{e_G\}$ は部分群であり、任意の部分群は単位元を含む。任意の $g\in G$ について $ge_Gg^{-1}=e_G$ なので正規部分群である。商群 $G/\{e_G\}$ の各剰余類は $g\{e_G\}=\{g\}$ であり、$g\mapsto\{g\}$ は全単射な準同型である。$\square$
群準同型 $f\colon G\to H$ について、$f$ が単射であることと核 $\ker f=\{g\in G\mid f(g)=e_H\}$ が自明であることとは同値である。また、$f$ の像 $f(G)$ が自明であることと $f$ が定数写像 $g\mapsto e_H$ であることとは同値である。
$f$ が単射なら、$f(g)=e_H=f(e_G)$ から $g=e_G$ なので $\ker f=\{e_G\}$ である。逆に $\ker f=\{e_G\}$ とし、$f(g)=f(h)$ とすると $f(gh^{-1})=f(g)f(h)^{-1}=e_H$ なので $gh^{-1}=e_G$、すなわち $g=h$ である。後半:$f(G)=\{e_H\}$ とは、すべての $g$ について $f(g)=e_H$ ということである。$\square$
定数写像 $g\mapsto e_H$ を自明な準同型と呼ぶ。上の命題により、準同型が自明であることと像が自明群であることは同じである。
零対象であること(prop-trivial-group-zero-object)は、逆向きにも自明群を特徴づける。群 $G,H$ に対し、$G$ から $H$ への群準同型全体の集合を $\operatorname{Hom}(G,H)$ と書く。自明な準同型があるので $\operatorname{Hom}(G,H)$ は空でない。
群 $G$ について、次の条件は同値である。
1 ⇒ 3 と 1 ⇒ 4 は prop-trivial-group-zero-object である。
3 ⇒ 2:$H=G$ とすると、$\mathrm{id}_G$ と自明な準同型 $g\mapsto e_G$ はどちらも $\operatorname{Hom}(G,G)$ の元であり、この集合の元は $1$ 個だけなので両者は等しい。
4 ⇒ 1:$H=\mathbb{Z}$(加法群)とする。各 $g\in G$ に対し、写像 $\varphi_g\colon\mathbb{Z}\to G$、$n\mapsto g^n$ は指数法則 $g^{m+n}=g^mg^n$ により群準同型であり、$\varphi_g(1)=g$ である。$g\neq g'$ なら $\varphi_g(1)\neq\varphi_{g'}(1)$ なので $\varphi_g\neq\varphi_{g'}$ である。したがって $g\mapsto\varphi_g$ は $G$ から $\operatorname{Hom}(\mathbb{Z},G)$ への単射であり、後者が $1$ 個の元しかもたないので $G$ も $1$ 個の元しかもたない。
2 ⇒ 1:任意の $g\in G$ について $g=\mathrm{id}_G(g)=e_G$ だから、$G=\{e_G\}$ である。
以上で 1 ⇒ 3 ⇒ 2 ⇒ 1 と 1 ⇒ 4 ⇒ 1 が示された。$\square$
条件 3 だけを「ある特定の群 $H$ について」に弱めると、自明群の特徴づけにならない。例えば $H$ を自明群にとれば、どの群 $G$ についても $\operatorname{Hom}(G,H)$ は $1$ 個の元からなる。次の節の命題も、特定の $H$ への準同型がすべて自明になる状況を与える。
有限群の間では、位数の算術だけから準同型や部分群の交わりが自明群になることが分かる。以下では Lagrangeの定理 の定理「Lagrangeの定理」(有限群の部分群の位数は群の位数を割り切る)と、同じ記事の系「核と像の位数公式」(有限群 $G$ からの準同型 $f$ について $\lvert G\rvert=\lvert\ker f\rvert\,\lvert\operatorname{im}f\rvert$)を用いる。部分群の交わりについては、同じ記事の系「互いに素な位数」が、位数が互いに素な二つの有限部分群の交わりは $\{e\}$ であることを示している。
$G,H$ を有限群とし、$\lvert G\rvert$ と $\lvert H\rvert$ が互いに素であるとする。このとき、任意の群準同型 $f\colon G\to H$ は自明な準同型である。
像 $\operatorname{im}f$ は $H$ の部分群なので、Lagrangeの定理により $\lvert\operatorname{im}f\rvert$ は $\lvert H\rvert$ を割り切る。また核と像の位数公式 $\lvert G\rvert=\lvert\ker f\rvert\,\lvert\operatorname{im}f\rvert$ により、$\lvert\operatorname{im}f\rvert$ は $\lvert G\rvert$ も割り切る。$\lvert G\rvert$ と $\lvert H\rvert$ の公約数は $1$ だけなので $\lvert\operatorname{im}f\rvert=1$、すなわち像は自明群であり、prop-trivial-group-hom により $f$ は自明な準同型である。$\square$
$\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ から $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ への準同型は自明なものだけである(位数 $3$ と $4$ は互いに素)。一方、$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$、$a\bmod2\mapsto 2a\bmod4$ は well-defined な準同型で($a\equiv a'\pmod2$ なら $2a\equiv2a'\pmod4$)、$1\bmod2$ を $2\bmod4\neq0$ に写すので自明でない。位数 $2$ と $4$ は互いに素でないので、prop-trivial-group-coprime-hom の仮定を外すと結論が崩れる例になっている。
有限群 $G$ が直積 $G\times G$ と同型ならば、$G$ は自明群である。
同型な有限群は位数が等しいので $\lvert G\rvert=\lvert G\times G\rvert=\lvert G\rvert^2$ である。$\lvert G\rvert\geq1$ なので両辺を $\lvert G\rvert$ で割って $\lvert G\rvert=1$ を得る。$\square$
有限性を外すと prop-trivial-group-square は成り立たない。自然数で添字付けた列 $(a_0,a_1,a_2,\ldots)$ で、各 $a_n\in\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ かつ $a_n\neq0$ となる $n$ が有限個であるもの全体を $V$ とし、成分ごとの和で群とみなす。写像
$$
\Phi\colon V\times V\to V,\qquad ((a_n)_n,(b_n)_n)\mapsto(a_0,b_0,a_1,b_1,a_2,b_2,\ldots)
$$
(偶数番目に $a$、奇数番目に $b$ を並べる)は成分ごとの和を保つので準同型であり、逆写像は偶数番目と奇数番目の成分を取り出す写像である。したがって $V\times V\cong V$ だが、$V$ は自明群でない。
群 $G$ から自分自身への同型写像全体は、写像の合成について群 $\operatorname{Aut}(G)$ をなす。$\operatorname{Aut}(G)$ はつねに $\mathrm{id}_G$ を含むので、自明群であることは「$\mathrm{id}_G$ 以外の自己同型がない」ことを意味する。
有限群 $G$ について、$\operatorname{Aut}(G)$ が自明群であることと、$\lvert G\rvert\leq2$ であることは同値である。
$\lvert G\rvert=1$ なら $G$ から $G$ への写像は $1$ つしかない。$\lvert G\rvert=2$、$G=\{e,a\}$ なら、自己同型は単位元を単位元に写す全単射なので $a$ も固定し、恒等写像に限る。
逆に $\operatorname{Aut}(G)$ が自明群であるとする。
段 1($G$ は可換).各 $g\in G$ について共役 $c_g(x)=gxg^{-1}$ は自己同型なので $c_g=\mathrm{id}_G$、すなわちすべての $x$ について $gx=xg$ である。
段 2(すべての元の平方が $e$).$G$ は可換なので、逆元をとる写像 $\iota(x)=x^{-1}$ は $\iota(xy)=y^{-1}x^{-1}=x^{-1}y^{-1}=\iota(x)\iota(y)$ を満たす全単射であり、自己同型である。よって $\iota=\mathrm{id}_G$、すなわちすべての $x$ について $x^2=e$ である。
段 3($\mathbb{F}_2$ 上のベクトル空間).$G$ を加法的に書くと、$x+x=0$ がすべての $x$ で成り立つので、$0\cdot x=0$、$1\cdot x=x$ と定めた作用により $G$ は $2$ 元体 $\mathbb{F}_2$ 上のベクトル空間になる。$G$ は有限なので有限次元であり、基底 $v_1,\ldots,v_n$ をとると $\lvert G\rvert=2^n$ である。
段 4(次元は $1$ 以下).$n\geq2$ とすると、$v_1$ と $v_2$ を入れ替えてほかの基底ベクトルを固定する線形写像は、加法を保つ全単射なので $G$ の自己同型であり、$v_1\neq v_2$ だから恒等写像でない。これは仮定に反するので $n\leq1$、すなわち $\lvert G\rvert\leq2$ である。$\square$
この命題から、「$\operatorname{Aut}(G)$ が自明群 ⇒ $G$ が自明群」は成り立たないことが分かる。反例は位数 $2$ の群 $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ で、自己同型群は自明だが群自身は自明でない。
生成元と関係式で群を定めると(群の表示)、見かけに反して自明群になることがある。
生成元 $a,b$ と関係式
$$
a^{-1}ba=b^2,\qquad b^{-1}ab=a^2
$$
で定まる群 $G$ は自明群である。実際、二つの関係式はそれぞれ $ba=ab^2$、$ab=ba^2$ と同値である。すると
$$
ab=ba^2=(ba)a=(ab^2)a=a(b^2a)
$$
となり、左から $a^{-1}$ を掛けて $b=b^2a$、さらに左から $b^{-1}$ を掛けて $e=ba$、すなわち $a=b^{-1}$ を得る。これを最初の関係式に代入すると $a^{-1}ba=b\cdot b\cdot b^{-1}=b$ なので $b=b^2$、よって $b=e$ であり、$a=b^{-1}=e$ となる。$G$ は $a,b$ で生成されるので $G=\{e\}$ である。
一般の有限表示について、それが自明群を与えるかどうかを判定するアルゴリズムは存在しないことが知られている(Mil25 §2 の小節 The word problem。この記事では証明しない)。上の例のように個別の表示で自明性を示せることはあるが、一般的な手続きはない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 位数が互いに素 | $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$、$1\mapsto2$ | 準同型がすべて自明になる |
| 有限群 | 有限台の $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ の列の群 $V$ | $G\cong G\times G$ なら自明群 |
| 任意の群 $H$ について | $H$ を自明群に固定する | $\operatorname{Hom}(G,H)$ が $1$ 元なら $G$ は自明 |
| $G\neq\{e\}$(単純群の定義) | 自明群 | 単純群は位数 $2$ 以上 |
表の 1 行目は ex-trivial-group-cyclic-hom、2 行目は ex-trivial-group-square-infinite、3 行目は thm-trivial-group-characterization の後の注意、4 行目は次の節の単純群の定義の注意による。また prop-trivial-group-trivial-aut の後の注意のとおり、自己同型群が自明であることだけからは群が自明であることは従わない($\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$)。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する