局所デカルト閉圏(locally cartesian closed category)とは、すべての対象 $X$ についてスライス圏 $\mathcal C/X$ が Cartesian 閉である圏のことである。引き戻しをもつ圏では、これは各射 $f$ に沿った引き戻しの関手 $f^*$ が右随伴 $\Pi_f$(依存積)をもつことと同値で、合成の関手 $\Sigma_f$ とともに随伴の三つ組 $\Sigma_f\dashv f^*\dashv\Pi_f$ をなす。引き戻しが余極限を保つので始対象は厳密であり、終対象と余等化子をもてば正則圏になる。集合の圏・Heyting 代数・トポスが例であり、圏の圏は Cartesian 閉だが局所デカルト閉ではない。
前提知識: スライス圏, Cartesian閉圏, 引き戻し, 随伴関手
集合 $X$ 上の集合の族 $(A_x)_{x\in X}$ は、写像 $a\colon A\to X$($A_x=a^{-1}(x)$)と同じものである。族どうしの「ファイバーごとの写像の集合」$(B_x^{A_x})_{x\in X}$ をとる操作は、$X$ 上の集合の圏、すなわちスライス圏 $\mathbf{Set}/X$ の指数対象にあたる。この性質を、集合の圏に限らず、すべての対象 $X$ 上のスライス圏について要請した圏が局所デカルト閉圏である。
局所デカルト閉であることは、射 $f\colon Y\to X$ に沿った引き戻しの関手 $f^*$ が右随伴 $\Pi_f$ をもつことと同値である。$\Pi_f$ は集合の圏ではファイバーごとの直積で、合成の関手 $\Sigma_f$(ファイバーごとの直和)とともに随伴の三つ組 $\Sigma_f\dashv f^*\dashv\Pi_f$ をなす。この記事では、この同値を証明し、引き戻しが余極限を保つこと、始対象が厳密であること、終対象と余等化子をもてば正則圏になることを導く。例として集合の圏・Heyting 代数・トポスを、反例として Cartesian 閉だが局所デカルト閉でない圏の圏を扱う。
圏 $\mathcal C$ と対象 $X$ に対し、スライス圏 $\mathcal C/X$ は、射 $a\colon A\to X$ を対象とし、$b\circ h=a$ をみたす射 $h\colon A\to B$ を $(A,a)$ から $(B,b)$ への射とする圏である(スライス圏)。対象 $(A,a)$ を単に $a$ とも書く。
射 $f\colon Y\to X$ に対し、関手 $\Sigma_f\colon\mathcal C/Y\to\mathcal C/X$ を $(A,a)\mapsto(A,f\circ a)$(射はそのまま)で定める。$\mathcal C$ が引き戻しをもつとき、各 $(B,b)$ に引き戻し $Y\times_XB$ を 1 つ選び、関手 $f^*\colon\mathcal C/X\to\mathcal C/Y$ を $(B,b)\mapsto(Y\times_XB,\ \mathrm{pr}_1)$ で定める。$f^*$ を $f$ に沿った引き戻しの関手(基底変換)という。
$\mathcal C/Y$ の射 $(A,f\circ a)\to(B,b)$、すなわち $b\circ h=f\circ a$ をみたす $h\colon A\to B$ は、引き戻しの普遍性により $Y$ 上の射 $A\to Y\times_XB$ と 1 対 1 に対応する。よって $\Sigma_f\dashv f^*$ である。また $\mathcal C/X$ の終対象は $(X,\mathrm{id}_X)$ であり、2 つの対象 $(A,a)$、$(B,b)$ の積は引き戻し $A\times_XB$ に射 $a\circ\mathrm{pr}_1$ を付けたものである。とくに $\mathcal C/X$ が有限積をもつことと、$\mathcal C$ が $X$ 上の引き戻しをもつことは同じである。
圏 $\mathcal C$ が局所デカルト閉(locally cartesian closed)であるとは、$\mathcal C$ のすべての対象 $X$ について、スライス圏 $\mathcal C/X$ がCartesian閉圏であることをいう。そのような圏を局所デカルト閉圏(locally cartesian closed category)という。
定義は Rie16 Definition 4.6.2(p. 166)による。上の注意から、局所デカルト閉圏はすべての引き戻しをもつ。終対象 $1$ をもつ局所デカルト閉圏は、$\mathcal C\cong\mathcal C/1$ なので Cartesian 閉であり、有限極限をもつ(Rie16 Lemma 4.6.3・4.6.4、pp. 166–167)。終対象を定義に含める文献もあるので、この記事では終対象を使うときに「終対象をもつ」と明記する。
$(A,a)$ を $\mathcal C/X$ の対象とすると、$(\mathcal C/X)/(A,a)$ の対象は、$\mathcal C/X$ の射 $h\colon(E,e)\to(A,a)$、すなわち $a\circ h=e$ をみたす $h\colon E\to A$ であり、$e$ は $h$ から決まる。対応 $((E,e),h)\mapsto(E,h)$ は圏の同型 $(\mathcal C/X)/(A,a)\cong\mathcal C/A$ を与える。したがって局所デカルト閉圏のスライス圏はまた局所デカルト閉である(Rie16 Lemma 4.6.3)。
まず、Cartesian 閉圏で「ある対象の上の対象」の切断のなす対象を作る。
$\mathcal D$ を Cartesian 閉圏、$F$ をその対象とし、関手 $(-)\times F\colon\mathcal D\to\mathcal D/F$ を $A\mapsto(A\times F,\ \mathrm{pr}_2)$、$h\mapsto h\times\mathrm{id}_F$ で定める。$p\colon E\to F$ に対し、$\Gamma_F(p)$ を、図式
$$
\xymatrix{
\Gamma_F(p) \ar[r] \ar[d] & E^F \ar[d]^{p^F} \\
1 \ar[r]_{\ulcorner\mathrm{id}\urcorner} & F^F
}
$$
の引き戻しとする。ここで $p^F$ は $p$ との合成が引き起こす射、$\ulcorner\mathrm{id}\urcorner$ は射影 $1\times F\to F$ の転置である。このとき $\Gamma_F$ は関手 $\mathcal D/F\to\mathcal D$ に延び、$(-)\times F$ の右随伴になる。
集合の圏では $\Gamma_F(p)=\{s\colon F\to E\mid p\circ s=\mathrm{id}_F\}$、すなわち $p$ の切断の集合である。
射 $g\colon A\times F\to E$ の転置を $\tilde g\colon A\to E^F$ と書く。転置の $E$ についての自然性から、$p\circ g$ の転置は $p^F\circ\tilde g$ である。$A$ についての自然性から、射影 $\mathrm{pr}_2\colon A\times F\to F$($=\mathrm{pr}_2\circ(!_A\times\mathrm{id}_F)$、$!_A\colon A\to1$)の転置は $\ulcorner\mathrm{id}\urcorner\circ!_A$ である。転置は全単射なので
$$
p\circ g=\mathrm{pr}_2\iff p^F\circ\tilde g=\ulcorner\mathrm{id}\urcorner\circ!_A
$$
であり、右辺は $\tilde g$ が引き戻し $\Gamma_F(p)\to E^F$ をただ 1 通りに経由することと同値である。左辺は $g$ が $\mathcal D/F$ の射 $(A\times F,\mathrm{pr}_2)\to(E,p)$ であることにほかならない。よって
$$
\operatorname{Hom}_{\mathcal D/F}\bigl((A\times F,\mathrm{pr}_2),(E,p)\bigr)\cong\operatorname{Hom}_{\mathcal D}\bigl(A,\Gamma_F(p)\bigr)
$$
であり、この全単射は、転置と引き戻しの普遍性がともに自然であることから $A$ について自然である。各 $p$ で $\operatorname{Hom}((-)\times F,p)$ が表現されたので、$\Gamma_F$ は射の上でも一意に関手に延び、全単射は $p$ についても自然になる(随伴関手)。$\square$
$\mathcal C$ を引き戻しをもつ圏とする。次は同値である。
集合の圏では $\Pi_f$ と $\Sigma_f$ はファイバーごとの直積と直和になる(ex-lccc-set)。このため $\Pi_f$ を $f$ に沿った依存積(dependent product)、$\Sigma_f$ を依存和(dependent sum)ともいう(Rie16 Example 4.6.7、p. 169)。
1 ⇒ 2。$f\colon Y\to X$ をとり、$\mathcal D:=\mathcal C/X$、$F:=(Y,f)$ とおく。仮定より $\mathcal D$ は Cartesian 閉である。rem-lccc-slice-of-slice の同型 $\Phi\colon\mathcal D/F\cong\mathcal C/Y$ で $(-)\times F\colon\mathcal D\to\mathcal D/F$ を写すと、$(B,b)$ は、$\mathcal D$ での積 $(B,b)\times(Y,f)$、すなわち $B\times_XY$ に $Y$ への射影を付けたものに移る。これは $f^*(B,b)$ と自然に同型である(どちらも同じ図式の引き戻しなので、引き戻しの普遍性による同型が自然に定まる)。lem-lccc-sections により $(-)\times F$ は右随伴 $\Gamma_F$ をもつので、$f^*$ は右随伴 $\Pi_f:=\Gamma_F\circ\Phi^{-1}$ をもつ(自然に同型な関手は同じ右随伴をもつ)。
2 ⇒ 1。$X$ を対象とする。$\mathcal C/X$ は終対象 $(X,\mathrm{id}_X)$ と積をもつ。対象 $(B,b)$ を固定すると、$(A,a)\mapsto(A,a)\times(B,b)$ は、$b^*(A,a)=(B\times_XA,\mathrm{pr}_1)$ に $\Sigma_b$ を施したもの $(B\times_XA,\ b\circ\mathrm{pr}_1)$ と自然に同型である。すなわち $(-)\times(B,b)\cong\Sigma_b\circ b^*$ である。$\Sigma_b\dashv b^*$ と $b^*\dashv\Pi_b$ を合成すると、$\Sigma_b\circ b^*$ は右随伴 $\Pi_b\circ b^*$ をもつ。よって $\mathcal C/X$ は Cartesian 閉で、指数対象は $\Pi_b\,b^*(A,a)$ である。$\square$
1 ⇒ 2 の議論は MM92 I.9 Theorem 4(pp. 59–60)、同値全体は Rie16 Proposition 4.6.6(pp. 167–168)にある。上の証明は、終対象のない圏でも使えるように、スライス圏 $\mathcal C/X$ の中で切断の対象を作る形にしたものである。
集合の圏 $\mathbf{Set}$ は局所デカルト閉である。$f\colon Y\to X$ と $a\colon A\to Y$ に対し、$A_y:=a^{-1}(y)$ とおくと
$$
\Pi_f(A)=\Bigl\{(x,s)\Bigm| x\in X,\ s\colon f^{-1}(x)\to A,\ a\circ s=\text{包含}\Bigr\}\xrightarrow{\ (x,s)\mapsto x\ }X
$$
であり、$x$ 上のファイバーは直積 $\prod_{y\in f^{-1}(x)}A_y$ である。実際、$X$ 上の射 $\beta\colon B\to\Pi_f(A)$ は、各 $t\in B$ に $b(t)$ 上の切断 $s_t$ を与えることであり、これは $Y$ 上の射 $Y\times_XB\to A$、$(y,t)\mapsto s_t(y)$ と 1 対 1 に対応する。$\Sigma_f(A)$ のファイバーは直和 $\coprod_{y\in f^{-1}(x)}A_y$ である(MM92 I.9 Theorem 3、pp. 58–59、Rie16 Example 4.6.7、pp. 168–169)。
$f$ が包含 $Y\subset X$ で $a$ も単射のとき、$\Pi_f$ と $\Sigma_f$ は部分集合 $S\subset Y$ を $\{x\mid x\in Y\Rightarrow x\in S\}$ と $S$ に送る。これは量化子の随伴の $\forall_f$ と $\exists_f$ を部分集合に制限したものにあたる。
最大元 $1$ と二元の交わり $\wedge$ をもつ半順序集合 $H$ を、$x\le y$ のときに限り射 $x\to y$ がただ 1 つある圏とみなす。$H$ が Cartesian 閉(すなわち各 $a,b$ に $c\wedge a\le b\iff c\le(a\Rightarrow b)$ をみたす $a\Rightarrow b$ がある)なら、$H$ は局所デカルト閉であり、$y\le x$ に対し
$$
\Pi_{y\le x}(a)=(y\Rightarrow a)\wedge x\qquad(a\le y)
$$
である。とくにすべての Heyting代数 は局所デカルト閉である。
この圏で $x\to z\leftarrow y$ の引き戻しは $x\wedge y$ であり、スライス圏 $H/x$ は下集合 ${\downarrow}x=\{c\mid c\le x\}$ である。${\downarrow}x$ の終対象は $x$、積は $\wedge$ である。$a,b\le x$ に対し $(a\Rightarrow b)\wedge x\in{\downarrow}x$ とおくと、$c\le x$ について
$$
c\wedge a\le b\iff c\le a\Rightarrow b\iff c\le(a\Rightarrow b)\wedge x
$$
なので、これが ${\downarrow}x$ での指数対象である。よって $H$ は局所デカルト閉である。$y\le x$ に沿った引き戻しは $b\mapsto b\wedge y$ であり、$a\le y$、$c\le x$ について $c\wedge y\le a\iff c\le y\Rightarrow a\iff c\le(y\Rightarrow a)\wedge x$ だから、右随伴は上の式で与えられる。$\square$
小さい圏 $\mathcal A$ 上の前層の圏 $\widehat{\mathcal A}$ では、前層 $P$ 上のスライス圏が $P$ の元の圏 $\int P$ 上の前層の圏と同値になり(Rie16 Lemma 4.6.9、p. 169)、前層の圏は Cartesian 閉なので、$\widehat{\mathcal A}$ は局所デカルト閉である(同 Example 4.6.10、p. 170)。より一般に、初等トポス $\mathcal E$ の各スライス圏 $\mathcal E/X$ はまたトポスであり(MM92 IV.7 Theorem 1、p. 190)、とくに Cartesian 閉なので、トポスは終対象をもつ局所デカルト閉圏である。引き戻しの関手 $f^*$ は部分対象分類子と指数対象も保つ(同 IV.7 Theorem 2、p. 193)。この記事ではこれらを証明しない。
thm-lccc-pi により引き戻しの関手は右随伴をもつ。左随伴は余極限を保つので、次が従う。
$\mathcal C$ を局所デカルト閉圏とする。
1。$\iota_i\colon A_i\to A$ を余極限の入射とし、$A_i$ に射 $a\circ\iota_i$ を付けて $\mathcal C/X$ の図式とみる。$(A,a)$ はその $\mathcal C/X$ での余極限である。実際、$\mathcal C/X$ の余錐 $h_i\colon(A_i,a\circ\iota_i)\to(W,w)$ が $\mathcal C$ で誘導する $u\colon A\to W$ は、各 $i$ で $w\circ u\circ\iota_i=w\circ h_i=a\circ\iota_i$ をみたすので、余極限の普遍性の一意性により $w\circ u=a$ であり、$\mathcal C/X$ の射である。
$g^*$ は右随伴 $\Pi_g$ をもつ(thm-lccc-pi)ので余極限を保ち、$(Z\times_XA,\mathrm{pr}_1)$ は $(Z\times_XA_i,\mathrm{pr}_1)$ の $\mathcal C/Z$ での余極限である。これが $\mathcal C$ での余極限でもあることを示す。$\mathcal C$ は終対象と引き戻しをもつので積をもつ。$\mathcal C$ の余錐 $c_i\colon Z\times_XA_i\to W$ が与えられたとき、$(c_i,\mathrm{pr}_1)\colon Z\times_XA_i\to W\times Z$ は $\mathcal C/Z$ の対象 $(W\times Z,\mathrm{pr}_2)$ への余錐なので、$Z$ 上の射 $v\colon Z\times_XA\to W\times Z$ がただ 1 つ誘導され、$u:=\mathrm{pr}_1\circ v$ が求める射である。$u'$ も同じ条件をみたせば、$(u',\mathrm{pr}_1)$ も同じ余錐を誘導する $Z$ 上の射なので $v$ に等しく、$u'=u$ である。
2。$\mathcal C/0$ では $(0,\mathrm{id}_0)$ が始対象かつ終対象である($(B,b)$ に対し射 $0\to B$ はただ 1 つで、$b$ と合成すると $\mathrm{id}_0$ になる)。$k^*\colon\mathcal C/0\to\mathcal C/A$ は左随伴 $\Sigma_k$ と右随伴 $\Pi_k$ をもつので、終対象と始対象をともに保つ。よって $k^*(0,\mathrm{id}_0)$ は $\mathcal C/A$ の終対象 $(A,\mathrm{id}_A)$ とも始対象 $(0,\,0\to A)$ とも同型であり、$A\cong0$ である。$A$ は始対象なので $A$ から $0$ への射はただ 1 つであり、$k$ はこの同型に一致する。$\square$
2 の証明は MM92 IV.7 Proposition 4(p. 194)の議論を、局所デカルト閉圏に移したものである。
終対象をもつ局所デカルト閉圏 $\mathcal C$ が余等化子をもつなら、$\mathcal C$ は正則圏である。
$\mathcal C$ は終対象と引き戻しをもつので有限極限をもち、核対の余等化子は仮定により存在する。残るのは、正則エピ射が引き戻しで安定であることである。$e\colon A\to B$ を射 $u,v\colon R\to A$ の余等化子とし、$g\colon C\to B$ を任意の射とする。$e\circ u=e\circ v$ なので、$u,v$ は $\mathcal C/B$ の射 $(R,e\circ u)\to(A,e)$ とみなせる。
$e\colon(A,e)\to(B,\mathrm{id}_B)$ は $\mathcal C/B$ で $u,v$ の余等化子である。実際、$\mathcal C/B$ の射 $h\colon(A,e)\to(W,w)$ が $h\circ u=h\circ v$ をみたせば、$\mathcal C$ で $h=k\circ e$ となる $k\colon B\to W$ がただ 1 つあり、$w\circ k\circ e=w\circ h=e$ と、余等化子 $e$ がエピ射であることから $w\circ k=\mathrm{id}_B$ となる。
$g^*$ は左随伴なので、この余等化子を $\mathcal C/C$ の余等化子に写す。$g^*(B,\mathrm{id}_B)$ は $(C,\mathrm{id}_C)$ と同型だから、引き戻し $C\times_BA\to C$ は $\mathcal C/C$ で $g^*u,g^*v$ の余等化子であり、prop-lccc-colimits の 1 の証明の後半と同じ議論(積 $W\times C$ を使う)により $\mathcal C$ でも余等化子である。よって正則エピ射である。$\square$
小さい圏と関手の圏 $\mathbf{Cat}$ は Cartesian 閉である(指数対象は関手圏。Mac98 IV.6、p. 98)。しかし局所デカルト閉ではない。
$[n]$ を $0< 1< \dots< n$ を圏とみたものとする。$[1]+[1]$(2 つの $[1]$ の直和)の対象を $0,1,0',1'$、恒等射以外の射を $\alpha\colon0\to1$、$\beta\colon0'\to1'$ とする。関手 $u,v\colon[0]\to[1]+[1]$ を、唯一の対象をそれぞれ $1$、$0'$ に送るものとし、$q\colon[1]+[1]\to[2]$ を $0\mapsto0$、$1,0'\mapsto1$、$1'\mapsto2$ で定める。$q$ は $u,v$ の余等化子である。実際、関手 $H\colon[1]+[1]\to\mathcal Z$ が $H(1)=H(0')$ をみたせば、$[2]$ の射 $0\to1$、$1\to2$、$0\to2$ をそれぞれ $H(\alpha)$、$H(\beta)$、$H(\beta)\circ H(\alpha)$ に送る関手 $K$ が $K\circ q=H$ をみたし、$[2]$ の射は $0\to1$ と $1\to2$ の合成で尽くされるので $K$ は一意である。
$i\colon[1]\to[2]$ を $0\mapsto0$、$1\mapsto2$ で定める。$\mathbf{Cat}$ の引き戻しは対象と射のそれぞれで集合の引き戻しをとって得られる。$i$ に沿った $q$ の引き戻し $[1]\times_{[2]}([1]+[1])$ の対象は $(0,0)$ と $(1,1')$ で、恒等射以外の射はない($[1]$ の射 $0\to1$ は $[2]$ の $0\to2$ に移るが、$q$ で $0\to2$ に移る射はない)。$\mathbf{Cat}/[2]$ の対象 $([0],q\circ u)$ は $[2]$ の対象 $1$ を指す関手であり、$1$ は $i$ の像にないので、$i$ に沿ったその引き戻しは空な圏である。したがって $i^*$ は、$\mathbf{Cat}/[2]$ の余等化子 $q$(prop-lccc-colimits の 1 の証明の前半と同じく、$\mathbf{Cat}$ の余等化子は $[2]$ 上の余等化子でもある)を、空な圏からの 2 本の関手と、2 つの対象だけをもつ離散圏 $D$ から $[1]$ への関手 $D\to[1]$ に写す。空な圏からの 2 本の関手の余等化子は $D$ 自身なので、$i^*$ が余等化子を保つなら $D\to[1]$ は同型のはずだが、そうではない。よって $i^*$ は右随伴をもたない。thm-lccc-pi の 1 ⇒ 2 の証明は、$f\colon Y\to X$ について $\mathcal C/X$ が Cartesian 閉であることだけから $f^*$ の右随伴を作るので、$\mathbf{Cat}/[2]$ は Cartesian 閉でなく、$\mathbf{Cat}$ は局所デカルト閉でない。
各行は 1 つの条件だけを外す。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 終対象をもつ(スライスはすべて Cartesian 閉) | 自然数の順序 $(\mathbb N,\le)$ を圏とみたもの | $\mathcal C$ 自身が Cartesian 閉であること |
| すべてのスライスが Cartesian 閉($\mathcal C/1\cong\mathcal C$ は Cartesian 閉) | $\mathbf{Cat}$ | 引き戻しの関手が余等化子を保つこと |
| スライスの指数対象(有限極限はある) | アーベル群の圏 | 始対象の厳密性 |
1 行目:$(\mathbb N,\le)$ の各スライス ${\downarrow}n=\{0,\dots,n\}$ は有限の鎖で、$a\Rightarrow b$ を $a\le b$ なら $n$、そうでなければ $b$ とおくと $c\wedge a\le b\iff c\le(a\Rightarrow b)$ が成り立つので Cartesian 閉である。しかし最大元がないので終対象がなく、$(\mathbb N,\le)$ 自身は Cartesian 閉圏ではない。2 行目は ex-lccc-cat。3 行目:アーベル群の圏は有限極限をもち、零群 $0$ は始対象だが、任意のアーベル群 $A$ から $0$ への零写像があり、$A\ne0$ なら同型でない。よって prop-lccc-colimits の 2 により、アーベル群の圏は局所デカルト閉でない。実際、零群は終対象でもあるので、スライス $\mathcal C/0\cong\mathcal C$ が Cartesian 閉でない(Cartesian閉圏 の系「始対象と終対象が同型なら自明」)。
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