スマッシュ積(単体的集合)

同義語:smash product of simplicial sets

概要

スマッシュ積(単体的集合)(smash product of simplicial sets)とは、点付き単体的集合 $(X,x)$、$(Y,y)$ に対し、積 $X\times Y$ から、ウェッジ和 $X\vee Y$ を一点に潰した点付き単体的集合 $X\wedge Y$ のことである。各次数では点付き集合のスマッシュ積であり、結合律・可換性・分配律が仮定なしに成り立ち、$1$ 次以上の非退化単体は積の非退化単体のうち両成分が基点でないものと対応する。幾何学的実現は、コンパクト生成化した積から潰したスマッシュ積と点付き同相であり、一方の実現が局所コンパクトなら通常のスマッシュ積になり、単体的円周の $n$ 個のスマッシュ積の実現は $S^n$ である。単体的懸垂 $X\wedge S^1$ はループ対象 $\operatorname{Map}_*(S^1,Y)$ の左随伴である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 単体的集合, ウェッジ和(単体的集合), スマッシュ積

点付き単体的集合 $(X,x)$、$(Y,y)$ のスマッシュ積 $X\wedge Y$ は、積 $X\times Y$ から、基点を通る部分 $X\vee Y$ を一点に潰した点付き単体的集合である。位相空間の スマッシュ積 と同じ形の構成であるが、単体的集合では積も商も次数ごとの集合の操作で計算できるので、結合律・分配律が仮定なしに成り立ち、非退化単体を数えることもできる。幾何学的実現は、コンパクト生成化した積を使えば、単体的集合のスマッシュ積を位相空間のスマッシュ積に写す。
この記事では、スマッシュ積を定義し、その普遍性・結合律・分配律と非退化単体の記述を証明する。例として単体的円周どうしのスマッシュ積を数え、その実現が 2 次元球面になることを確かめる。

定義

記号は ウェッジ和(単体的集合) に従う。単体的集合 $X$ の $n$ 単体の集合を $X_n$、順序を保つ写像 $\alpha\colon[m]\to[n]$ が定める写像を $\alpha^{*}\colon X_n\to X_m$、退化写像を $s_i:=(\sigma^i)^{*}\colon X_{n-1}\to X_n$ と書く。$n$ 単体が退化であるとは、ある $s_i$ の像に入ることをいう。点付き単体的集合 $(X,x)$ の基点 $x\in X_0$ から、一意な写像 $[n]\to[0]$ により定まる $n$ 単体を $x_n$ と書く。$\alpha^{*}(x_n)=x_m$ である。
単体的集合 $X,Y$ の積 $X\times Y$ は、次数ごとの積 $(X\times Y)_n=X_n\times Y_n$ に $\alpha^{*}(u,v)=(\alpha^{*}u,\alpha^{*}v)$ を入れたものである(単体的集合 の定理「極限と余極限の次数ごとの計算」)。とくに $(u,v)$ が退化であることは、ある $i$ について $u\in s_i(X_{n-1})$ かつ $v\in s_i(Y_{n-1})$ となることと同値である($(u,v)=s_i(u',v')=(s_iu',s_iv')$ だからである)。
単体的集合 $K$ の部分単体的集合 $A$ とは、部分集合の族 $A_n\subset K_n$ で、すべての $\alpha^{*}$ が $A_n$ を $A_m$ に写すものである。$A$ が空でないとき、各次数で $A_n$ を一点に潰した商集合 $(K/A)_n:=K_n/A_n$ に、$K$ の $\alpha^{*}$ が誘導する写像を入れたものは単体的集合になり($\alpha^{*}(A_n)\subset A_m$ なので well-defined、関手性は商写像が全射であることから従う)、潰した点の族を基点の単体とする点付き単体的集合とみなす。これを $K/A$ と書き、商写像を $q\colon K\to K/A$ と書く。

点付き単体的集合のスマッシュ積

点付き単体的集合 $(X,x)$、$(Y,y)$ に対し、$X\times Y$ の部分単体的集合 $X\vee Y$ を
$$ (X\vee Y)_n:=\bigl(X_n\times\{y_n\}\bigr)\cup\bigl(\{x_n\}\times Y_n\bigr) $$
で定める($\alpha^{*}(u,y_n)=(\alpha^{*}u,y_m)$ なので部分単体的集合である)。商
$$ X\wedge Y:=(X\times Y)/(X\vee Y) $$
を、$(X,x)$ と $(Y,y)$ のスマッシュ積(smash product)という。$(u,v)$ の類を $u\wedge v$ と書き、基点の $n$ 単体を $\ast_n$ と書く。$u\wedge y_n=x_n\wedge v=\ast_n$ である。

各次数では、$(X\wedge Y)_n$ は点付き集合 $(X_n,x_n)$ と $(Y_n,y_n)$ のスマッシュ積 $X_n\times Y_n/(X_n\times\{y_n\}\cup\{x_n\}\times Y_n)$ にほかならない。その元は、基点 $\ast_n$ と、$u\neq x_n$ かつ $v\neq y_n$ である $u\wedge v$ からなり、後者は $(u,v)$ からただ 1 通りに定まる。
部分単体的集合 $X\vee Y$ は、ウェッジ和(単体的集合) の定義「各次数の商による構成」のウェッジ和と点付き同型であり、スマッシュ積は「積からウェッジ和を潰したもの」と読める。

確かめを開く

各次数で $u\mapsto(u,y_n)$、$v\mapsto(x_n,v)$ が直和 $X_n\sqcup Y_n$ から $(X\vee Y)_n$ への全射を定め、2 つの単体が同じ元に写るのは $x_n$ と $y_n$ の場合に限る($(u,y_n)=(x_n,v)$ なら $u=x_n$、$v=y_n$)。この全射は $\alpha^{*}$ と可換なので、ウェッジ和からの各次数で全単射な単体的写像を誘導し、その逆写像も単体的である。

直感

$X\times Y$ の単体 $(u,v)$ のうち、$X\vee Y$ に入るのは、どちらかの成分が基点の単体であるもの、すなわち片方の成分が「何もしていない」ものである。スマッシュ積はそれらを一点にまとめ、両方の成分が本当に動いている単体だけを残す。位相空間では商位相と直積位相の相性のために結合律などに仮定が要ったが、単体的集合ではすべてが次数ごとの点付き集合のスマッシュ積に帰着し、位相の問題は幾何学的実現をとる段階にまとめて現れる。

例

2 点からなる単位

$\Delta^0$ を一点単体的集合(各次数が一元集合)とし、$S^0:=\Delta^0\sqcup\Delta^0$ を一方の成分の点を基点とする点付き単体的集合とする。各次数で $S^0_n=\{\ast_n,e_n\}$($e_n$ は基点でない成分の唯一の単体)である。$X\to X\wedge S^0$、$u\mapsto u\wedge e_n$ は点付き同型である。

確かめを開く

各次数で $(X\wedge S^0)_n$ の基点以外の元は $u\wedge e_n$($u\neq x_n$)とただ 1 通りに書け、$x_n\wedge e_n=\ast_n$ なので、この写像は全単射であり、$\alpha^{*}(e_n)=e_m$ から $\alpha^{*}$ と可換である。

単体的円周

$\Delta^1$ の $k$ 単体は順序を保つ写像 $[k]\to[1]$ であり、$\partial\Delta^1$ はそのうち定値な 2 つからなる部分単体的集合である(単体的集合 の定義「標準単体」「境界とホーン」)。単体的円周 $S^1:=\Delta^1/\partial\Delta^1$ の基点でない $k$ 単体は、全射 $\varphi_j\colon[k]\to[1]$($\varphi_j(t)=0$ $(t< j)$、$\varphi_j(t)=1$ $(t\ge j)$、$1\le j\le k$)の類であり、$k\ge1$ について $k$ 個ある。$S^1$ の中で $\varphi_j$ の類が $s_i$ の像に入ることは $\varphi_j(i)=\varphi_j(i+1)$、すなわち $i\neq j-1$ と同値である($s_i$ は基点の単体を基点の単体に写し、商写像は基点以外で単射なので、$[\varphi_j]=s_i[\psi]$ は $\varphi_j=\psi\circ\sigma^i$ と同値になる)。とくに $\varphi_1\in S^1_1$ だけが基点以外の非退化単体であり、基点の単体 $\ast_k$ はすべての $s_i$ の像に入る($k\ge1$)。

性質

普遍性と基本の同型

双点付き写像による普遍性

$(X,x)$、$(Y,y)$、$(Z,z)$ を点付き単体的集合とする。点付き単体的写像 $f\colon X\wedge Y\to Z$ に $F:=f\circ q\colon X\times Y\to Z$ を対応させると、点付き単体的写像 $X\wedge Y\to Z$ 全体と、単体的写像 $F\colon X\times Y\to Z$ で
$$ F(u,y_n)=z_n,\qquad F(x_n,v)=z_n\qquad(u\in X_n,\ v\in Y_n) $$
を満たすもの全体との間の全単射が得られる。

要点:各次数で商集合の普遍性を使い、単体性は商写像が全射であることから確かめる。

詳しい証明を開く

$q$ は $X\vee Y$ を基点の単体に写す単体的写像なので、$F=f\circ q$ は単体的で条件を満たす。$q$ は各次数で全射なので、$f\mapsto F$ は単射である。逆に条件を満たす $F$ が与えられると、各次数で $F_n$ は $(X\vee Y)_n$ を一点 $z_n$ に写すので、商集合の普遍性により $f_n\colon(X\wedge Y)_n\to Z_n$ で $f_n\circ q_n=F_n$ となるものがただ 1 つある。$f_m\circ\alpha^{*}$ と $\alpha^{*}\circ f_n$ は、$q_n$ と合成するとどちらも $F_m\circ\alpha^{*}=\alpha^{*}\circ F_n$ になり、$q_n$ が全射なので等しい。基点の単体は $z_n$ に写る。よって $f$ は点付き単体的写像で、$f\circ q=F$ である。$\square$

点付き単体的写像 $g\colon X\to X'$、$h\colon Y\to Y'$ に対し、$g\times h$ は $X\vee Y$ を $X'\vee Y'$ に写すので、prop-sss-universal により $g\wedge h\colon X\wedge Y\to X'\wedge Y'$、$u\wedge v\mapsto g(u)\wedge h(v)$ が定まり、合成と恒等写像を保つ。同様に、成分の入れ替え $X\times Y\to Y\times X$ は $X\vee Y$ を $Y\vee X$ に写し、点付き同型 $X\wedge Y\cong Y\wedge X$、$u\wedge v\mapsto v\wedge u$ を誘導する(逆写像も入れ替えが誘導する)。

結合律

点付き単体的集合 $(X,x)$、$(Y,y)$、$(Z,z)$ に対し、$X\times Y\times Z$ の部分単体的集合 $T$ を
$$ T_n:=\{(u,v,w)\mid u=x_n\text{ または }v=y_n\text{ または }w=z_n\} $$
で定める。このとき点付き同型
$$ (X\wedge Y)\wedge Z\ \cong\ (X\times Y\times Z)/T\ \cong\ X\wedge(Y\wedge Z) $$
が、$(u\wedge v)\wedge w\leftrightarrow[u,v,w]\leftrightarrow u\wedge(v\wedge w)$ で与えられる。位相空間の場合と違い、$X,Y,Z$ には何の仮定も要らない。

各次数で写像 $\Phi_n\colon X_n\times Y_n\times Z_n\to((X\wedge Y)\wedge Z)_n$、$(u,v,w)\mapsto(u\wedge v)\wedge w$ を考える。これは 2 つの商写像と恒等写像の積の合成なので全射であり、$\alpha^{*}$ と可換である。
$\Phi_n(u,v,w)$ が基点であることは、$u\wedge v$ が基点であるか $w=z_n$ であること、すなわち $u=x_n$ または $v=y_n$ または $w=z_n$ であること、すなわち $(u,v,w)\in T_n$ と同値である。$(u,v,w)\notin T_n$ のとき、$u\wedge v$ は基点でない元としてただ 1 つの $(u,v)$ から来るので、$\Phi_n(u,v,w)=\Phi_n(u',v',w')$(どちらも $T_n$ の外)なら $(u,v,w)=(u',v',w')$ である。したがって $\Phi_n$ は全単射 $\bar\Phi_n\colon(X\times Y\times Z)_n/T_n\to((X\wedge Y)\wedge Z)_n$ を誘導する。$T$ が部分単体的集合であることは $\alpha^{*}(x_n)=x_m$ などによる。$\bar\Phi=(\bar\Phi_n)$ は、商写像との合成が $\alpha^{*}$ と可換なので単体的写像であり(商写像が全射であることを使う)、各次数で全単射な単体的写像の逆写像は単体的なので、$\bar\Phi$ は同型である。基点は基点に写る。
$X\wedge(Y\wedge Z)$ についても、$(u,v,w)\mapsto u\wedge(v\wedge w)$ に同じ議論を当てはめればよい。$\square$

この定理と前の段落の可換性により、有限個の点付き単体的集合のスマッシュ積 $X_1\wedge\dots\wedge X_k$ は括弧の付け方によらず同型を除いて定まり、各次数で $X_{1,n}\times\dots\times X_{k,n}$ の元のうち、どれかの成分が基点の単体であるものを一点に潰した集合になる。

ウェッジ和との分配律

点付き単体的集合 $X,Y,Z$ に対し、点付き同型 $X\wedge(Y\vee Z)\cong(X\wedge Y)\vee(X\wedge Z)$ がある。

ウェッジ和の余積としての普遍性(ウェッジ和(単体的集合) の定理「点付き単体的集合の圏の余積」)により、包含 $Y\to Y\vee Z$、$Z\to Y\vee Z$ と恒等写像の $\wedge$ から点付き単体的写像 $\Psi\colon(X\wedge Y)\vee(X\wedge Z)\to X\wedge(Y\vee Z)$ が定まる。これが各次数で全単射であることを確かめる。

詳しい証明を開く

各次数で、左辺の基点以外の元は $u\wedge v$($u\neq x_n$、$v\in Y_n$ は基点でない)か $u\wedge w$($w\in Z_n$ は基点でない)の形にただ 1 通りに書け、$\Psi_n$ はそれを、$v$ または $w$ を $(Y\vee Z)_n$ の基点でない元とみなした $u\wedge v$、$u\wedge w$ に写す。$(Y\vee Z)_n$ の基点でない元は $Y_n$ か $Z_n$ の基点でない元とただ 1 通りに対応するので、$\Psi_n$ は全単射である。各次数で全単射な単体的写像なので、$\Psi$ は同型である。$\square$

非退化単体

商の非退化単体

$K$ を単体的集合、$A$ を空でない部分単体的集合、$q\colon K\to K/A$ を商写像とし、$n\ge1$ とする。

  1. $s\in K_n$ が非退化で $s\notin A_n$ ならば、$q_n(s)$ は非退化である。
  2. $q_n$ は、$A$ に入らない $K$ の非退化 $n$ 単体全体から、$K/A$ の非退化 $n$ 単体全体への全単射を与える。

まず、$n\ge1$ では基点の単体 $\ast_n$ は退化である。実際 $A_{n-1}$ の元 $a$ をとると($A$ は空でないので、ある $A_m$ の元に $[0]\to[m]$ が定める写像を当てて $A_0$ の元を得、さらに $[n-1]\to[0]$ が定める写像を当てれば $A_{n-1}$ の元が得られる)、$s_0(a)\in A_n$ なので $\ast_n=q_n(s_0(a))=s_0(q_{n-1}(a))$ である。
1:$q_n(s)$ が退化、すなわち $q_n(s)=s_i(p)$($p\in(K/A)_{n-1}$)と仮定する。$q_n(s)$ は基点でないので $p$ も基点でなく($s_i$ は基点を基点に写す)、$p=q_{n-1}(t)$、$t\notin A_{n-1}$ と書ける。$q$ は単体的なので $q_n(s)=q_n(s_i(t))$ であり、$s_i(t)\notin A_n$ である($A_n$ に入れば $q_n(s)$ が基点になる)。$q_n$ は $A_n$ の外で単射なので $s=s_i(t)$ となり、$s$ が非退化であることに反する。
2:1 により写像は定まり、$A_n$ の外での単射性から単射である。全射性:$K/A$ の非退化 $n$ 単体 $p$ は、上で見たとおり基点でないので $p=q_n(s)$、$s\notin A_n$ と書ける。$s$ が退化、$s=s_i(t)$ なら $p=s_i(q_{n-1}(t))$ も退化になるので、$s$ は非退化である。$\square$

スマッシュ積の非退化単体

$(X,x)$、$(Y,y)$ を点付き単体的集合とし、$n\ge1$ とする。$X\wedge Y$ の非退化 $n$ 単体は、$u\neq x_n$、$v\neq y_n$ であって、どの $i$ についても「$u\in s_i(X_{n-1})$ かつ $v\in s_i(Y_{n-1})$」とならない組 $(u,v)\in X_n\times Y_n$ の類 $u\wedge v$ と、一対一に対応する。$0$ 次では、$X_0$、$Y_0$ が有限集合のとき、$X\wedge Y$ の $0$ 単体(すべて非退化)は $(|X_0|-1)(|Y_0|-1)+1$ 個である。

$n\ge1$ の主張は、lem-sss-quotient-nondegenerate の 2 を $K=X\times Y$、$A=X\vee Y$ に当てはめ、$(u,v)\notin X\vee Y$ が $u\neq x_n$ かつ $v\neq y_n$ と同値であること、積の単体 $(u,v)$ が退化であることが「ある $i$ で $u\in s_i(X_{n-1})$ かつ $v\in s_i(Y_{n-1})$」と同値であること(節「定義」)を使えばよい。$0$ 次では、$(X\wedge Y)_0$ は基点と、$u\neq x$、$v\neq y$ の組の類からなる。$[0]$ から出る余退化はないので、$0$ 単体はすべて非退化である。$\square$

単体的円周どうしのスマッシュ積

ex-sss-circle の $S^1$ について $S^1\wedge S^1$ の非退化単体を数える。prop-sss-nondegenerate により、$k\ge1$ では、基点でない $\varphi_j,\varphi_{j'}\in S^1_k$ の組で、退化の添字の集合 $D(\varphi_j)=\{0,\dots,k-1\}\setminus\{j-1\}$ と $D(\varphi_{j'})$ が交わらないものを数えればよい。

  • $k=1$:$D(\varphi_1)=\emptyset$ なので、組 $(\varphi_1,\varphi_1)$ の 1 個。
  • $k=2$:$D(\varphi_1)=\{1\}$、$D(\varphi_2)=\{0\}$ なので、$(\varphi_1,\varphi_2)$ と $(\varphi_2,\varphi_1)$ の 2 個。
  • $k\ge3$:各 $D(\varphi_j)$ は $k$ 元集合 $\{0,\dots,k-1\}$ の $k-1$ 元部分集合であり、$2(k-1)>k$ なので 2 つは必ず交わる。0 個。
    $0$ 次は $(2-1)(2-1)+1=1$ 個である。よって $S^1\wedge S^1$ は、非退化単体を $0$ 次に 1 個、$1$ 次に 1 個、$2$ 次に 2 個もつ。$1$ 次の単体 $\varphi_1\wedge\varphi_1$ は、積 $\Delta^1\times\Delta^1$ の正方形の対角線にあたり、2 つの $2$ 単体は正方形を対角線で分けた 2 つの三角形にあたる。正方形の 4 辺はウェッジ和に入るので潰れている。非退化単体の個数の交代和は $1-1+2=2$ であり、2 次元球面の Euler 標数に等しい。

幾何学的実現との関係

記号は 幾何学的実現 に従い、単体的集合 $X$ の実現を $\lvert X\rvert$、部分単体的集合 $A$ の実現の像を $\lvert X\rvert_A$ と書く。位相空間 $P,Q$ について、$P\times_kQ$ は直積をコンパクト生成化した空間を表す(コンパクト生成空間)。点付き空間 $(P,p)$、$(Q,q')$ について、$P\vee Q:=(P\times\{q'\})\cup(\{p\}\times Q)$ とおく。

実現とスマッシュ積

点付き単体的集合 $(X,x)$、$(Y,y)$ について、点付き同相
$$ \lvert X\wedge Y\rvert\ \cong\ \bigl(\lvert X\rvert\times_k\lvert Y\rvert\bigr)\big/\bigl(\lvert X\rvert\vee\lvert Y\rvert\bigr) $$
がある。右辺の基点は潰した点、$\lvert X\rvert$、$\lvert Y\rvert$ の基点は $x$、$y$ の実現の点である。$\lvert Y\rvert$ が局所コンパクトなら(とくに $Y$ の非退化単体が有限個なら)、右辺は通常の直積位相によるスマッシュ積 $\lvert X\rvert\wedge\lvert Y\rvert$(スマッシュ積 の定義「スマッシュ積」)である。

段 1:押し出しとしての表示。 $X\wedge Y$ は、単体的集合の図式 $\Delta^0\leftarrow X\vee Y\hookrightarrow X\times Y$ の押し出しである。実際、余極限は次数ごとに計算され(単体的集合 の定理「極限と余極限の次数ごとの計算」)、各次数での押し出しは $(X\times Y)_n$ の部分集合 $(X\vee Y)_n$ を一点に潰した集合だからである($(X\vee Y)_n$ は空でない)。幾何学的実現は余極限を保つので(幾何学的実現 の系「余極限の保存」)、$\lvert X\wedge Y\rvert$ は一点空間と $\lvert X\times Y\rvert$ の $\lvert X\vee Y\rvert$ に沿った押し出し、すなわち $\lvert X\vee Y\rvert$ の像 $\lvert X\times Y\rvert_{X\vee Y}$ を一点に潰した商空間 $\lvert X\times Y\rvert/\lvert X\times Y\rvert_{X\vee Y}$ と同相である。
段 2:積の実現。 比較写像 $\pi\colon\lvert X\times Y\rvert\to\lvert X\rvert\times_k\lvert Y\rvert$、$[(u,v),t]\mapsto([u,t],[v,t])$ は同相写像である(幾何学的実現と積(Milnorの定理) の定理「幾何学的実現と積」)。$X\times\{y_\bullet\}$(各次数 $X_n\times\{y_n\}$)の単体 $(u,y_n)$ の上の点は $\pi$ で $([u,t],[y_n,t])=([u,t],\bar y)$ に写る。ここで $\bar y$ は $y$ の実現の点であり、$[y_n,t]=\bar y$ は $y_n$ が $y$ の退化であることによる。$u$ と $t$ を動かすと $[u,t]$ は $\lvert X\rvert$ 全体を動くので、$\pi(\lvert X\times Y\rvert_{X\times\{y_\bullet\}})=\lvert X\rvert\times\{\bar y\}$ である。同様に $\pi(\lvert X\times Y\rvert_{\{x_\bullet\}\times Y})=\{\bar x\}\times\lvert Y\rvert$ であり、$X\vee Y$ はこの 2 つの部分単体的集合の和なので、$\pi$ は $\lvert X\times Y\rvert_{X\vee Y}$ を $\lvert X\rvert\vee\lvert Y\rvert$ の上に写す。
段 3:商の同相。 同相写像 $\pi$ が部分集合 $B$ を部分集合 $B'$ の上に写すとき、$\pi$ は商空間の同相 $\lvert X\times Y\rvert/B\to(\lvert X\rvert\times_k\lvert Y\rvert)/B'$ を誘導する($\pi$ と $\pi^{-1}$ がそれぞれ商写像と合成して潰す点を潰す点に写すので、商位相の普遍性から両方向の連続写像が得られ、互いに逆である)。段 1 と合わせて主張の同相を得る。基点は潰した点どうしが対応する。
段 4:局所コンパクトな場合。 $\lvert X\rvert$ は CW 複体なので $k$-空間であり(幾何学的実現 の定理「幾何学的実現の CW 構造」)、$\lvert Y\rvert$ が局所コンパクトなら $\lvert X\rvert\times_k\lvert Y\rvert$ は直積位相の $\lvert X\rvert\times\lvert Y\rvert$ に等しい(コンパクト生成空間 の命題「$k$-空間の圏の直積」)。非退化単体が有限個なら $\lvert Y\rvert$ はコンパクト Hausdorff であり(幾何学的実現 の系「実現の位相的性質」)、局所コンパクトである。$\square$

単体的球面

$n\ge1$ について、単体的円周の $n$ 個のスマッシュ積 $S^1\wedge\dots\wedge S^1$ の幾何学的実現は、$n$ 次元球面 $S^n$ と点付き同相である。とくに $\lvert S^1\wedge S^1\rvert\cong S^2$ である。

$n=1$。 $S^1=\Delta^1/\partial\Delta^1$ は図式 $\Delta^0\leftarrow\partial\Delta^1\hookrightarrow\Delta^1$ の押し出しなので、prf-sss-realization の段 1 と同じく、$\lvert S^1\rvert$ は $\lvert\Delta^1\rvert=[0,1]$ から $\lvert\partial\Delta^1\rvert$ の像 $\{0,1\}$ を一点に潰した空間である。$e(t):=\exp(2\pi it)$ は $\{0,1\}$ を $1$ に写す $[0,1]$ から円周への商写像なので(スマッシュ積 の注意「被約懸垂の記述」)、$[0,1]/\{0,1\}$ は円周と点付き同相である。
帰納法。 $W_n:=S^1\wedge\dots\wedge S^1$($n$ 個)とおくと、thm-sss-associative により $W_n\cong W_{n-1}\wedge S^1$ であり、thm-sss-realization と球面のスマッシュ積に帰着する。

詳しい証明を開く

非退化単体が有限個の単体的集合どうしの積は非退化単体が有限個であり(幾何学的実現と積(Milnorの定理) の補題「積の非退化単体」)、その商も、lem-sss-quotient-nondegenerate の 2($1$ 次以上)と、$0$ 単体が商で増えないこと($0$ 次)から非退化単体が有限個である。$S^1$ の非退化単体は 2 個なので(ex-sss-circle)、帰納的に $W_{n-1}$ の非退化単体は有限個である。thm-sss-realization により $\lvert W_n\rvert\cong\lvert W_{n-1}\rvert\wedge\lvert S^1\rvert$ であり、帰納法の仮定と $n=1$ の場合、スマッシュ積が同相写像を同相写像に写すこと(スマッシュ積 の命題「双関手性」)から、これは $S^{n-1}\wedge S^1$ と点付き同相である。スマッシュ積 の命題「球面のスマッシュ積」により $S^{n-1}\wedge S^1\cong S^n$ である。$\square$

ex-sss-circle-circle の数え上げは、$\lvert S^1\wedge S^1\rvert\cong S^2$ の CW 構造($0$ 胞体 1 個、$1$ 胞体 1 個、$2$ 胞体 2 個)を与えている(幾何学的実現 の定理「幾何学的実現の CW 構造」)。
$X\wedge S^1$ は単体的集合の側での被約懸垂の模型であり、thm-sss-realization により $\lvert X\wedge S^1\rvert\cong\lvert X\rvert\wedge S^1$ は $\lvert X\rvert$ の被約懸垂である(スマッシュ積 の定義「被約懸垂とループ空間」)。単体的集合には Kan の懸垂という別の構成もあり、$S^1\wedge X$ とは同型でないがホモトピー同値で、実現は自然に同相になる(GJ09 Chapter III の冒頭、p. 139。この記事では証明しない)。

単体的ループ対象と懸垂の随伴

位相空間では、被約懸垂 $\Sigma$ はループ空間 $\Omega$ の左随伴である(スマッシュ積 の定義「被約懸垂とループ空間」)。単体的集合でも、$\Sigma_sX:=X\wedge S^1$ に対して右随伴となる「ループ対象」を、写像の単体的集合を使って定められる。以下、単体的集合 $K,Y$ について、$n$ 単体を写像 $K\times\Delta^n\to Y$ とし、順序写像 $\theta\colon[m]\to[n]$ の作用を $\mathrm{id}_K\times\theta$ との合成とする写像の単体的集合を $\operatorname{Map}(K,Y)$ と書く(単体的集合のKan–Quillenモデル構造 の節「単体的モデル構造」の記号)。$(\Delta^n)_m$ の元は順序写像 $[m]\to[n]$ である。

基点付き写像の単体的集合とループ対象

点付き単体的集合 $(K,k)$、$(Y,y)$ に対し、$\operatorname{Map}(K,Y)$ の部分単体的集合 $\operatorname{Map}_*(K,Y)$ を、$n$ 単体が写像 $f\colon K\times\Delta^n\to Y$ で、すべての $m$ と $\theta\in(\Delta^n)_m$ について $f(k_m,\theta)=y_m$ を満たすもの($\{k\}\times\Delta^n$ を基点の単体へ写すもの)として定める。基点は、各次数で値が基点の単体である定値写像 $c_n\colon K\times\Delta^n\to Y$ である。$\Omega_sY:=\operatorname{Map}_*(S^1,Y)$ を $Y$ の単体的ループ対象、$\Sigma_sX:=X\wedge S^1$ を単体的懸垂という。

条件は $\mathrm{id}_K\times\theta$ との合成で保たれるので、$\operatorname{Map}_*(K,Y)$ は部分単体的集合である。$\operatorname{Map}(\Delta^0,Y)$ は $\Delta^0\times\Delta^n\cong\Delta^n$ と 単体的集合 の定理「標準単体による単体の表示」により $Y$ と同一視でき、基点での評価 $\mathrm{ev}\colon\operatorname{Map}(K,Y)\to Y$($f$ を $\{k\}\times\Delta^n$ への制限へ送る)について、$\operatorname{Map}_*(K,Y)$ は頂点 $y$ の上のファイバー($y$ の退化からなる部分単体的集合の逆像)である。$\Omega_sY$ の頂点は点付き単体的写像 $S^1\to Y$、すなわち両端が $y$ である $Y$ の辺である。

懸垂とループ対象の随伴

点付き単体的集合 $(K,k)$、$(X,x)$、$(Y,y)$ について、点付き単体的写像 $f\colon K\wedge X\to Y$ に、$u\in X_n$ を $(f\circ q)\circ(\mathrm{id}_K\times\hat u)\colon K\times\Delta^n\to Y$ へ送る写像 $X\to\operatorname{Map}_*(K,Y)$ を対応させると($q\colon K\times X\to K\wedge X$ は商写像、$\hat u\colon\Delta^n\to X$ は $u$ が定める写像)、$X$ と $Y$ について自然な全単射
$$ \operatorname{Hom}_*(K\wedge X,\,Y)\ \cong\ \operatorname{Hom}_*\bigl(X,\,\operatorname{Map}_*(K,Y)\bigr) $$
が得られる。とくに、可換性 $X\wedge S^1\cong S^1\wedge X$ と合わせて $\operatorname{Hom}_*(\Sigma_sX,Y)\cong\operatorname{Hom}_*(X,\Omega_sY)$ であり、$\Sigma_s$ は $\Omega_s$ の左随伴である。

要点:積と写像の単体的集合の随伴で $F=f\circ q\colon K\times X\to Y$ と $G\colon X\to\operatorname{Map}(K,Y)$ を対応させ、「$K\vee X$ を基点へ送る」という条件が「$G$ が $\operatorname{Map}_*(K,Y)$ に値をとり基点を保つ」に一致することを確かめる。

詳しい証明を開く

単体的集合のKan–Quillenモデル構造 の補題「写像の単体的集合と積の随伴」の 1($A=K$、$B=Y$、そこでの $K$ を $X$ とする)により、写像 $F\colon K\times X\to Y$ と写像 $G\colon X\to\operatorname{Map}(K,Y)$ は $G(u)=F\circ(\mathrm{id}_K\times\hat u)$ で一対一に対応し、この対応は $X$ と $Y$ について自然である。$G(u)$ の値は $G(u)(a,\theta)=F(a,\theta^*u)$($a\in K_m$、$\theta\in(\Delta^n)_m$)である。

$G$ が $\operatorname{Map}_*(K,Y)$ に値をとること:これは、すべての $u\in X_n$ と $\theta\in(\Delta^n)_m$ について $F(k_m,\theta^*u)=y_m$ となることである。$\theta=\mathrm{id}_{[n]}$ とすれば、これは「すべての $v\in X_m$ について $F(k_m,v)=y_m$」と同値である(逆向きは $v=\theta^*u$ とすればよい)。

$G$ が基点を保つこと:$G(x_n)=c_n$ は、すべての $a\in K_m$ と $\theta$ について $F(a,\theta^*x_n)=F(a,x_m)=y_m$ となることであり、「すべての $a\in K_m$ について $F(a,x_m)=y_m$」と同値である。

二つを合わせると、$G$ が点付き単体的写像 $X\to\operatorname{Map}_*(K,Y)$ であることは、$F$ が $K\vee X$ を基点の単体へ送ることと同値である。prop-sss-universal により、そのような $F$ は点付き単体的写像 $f\colon K\wedge X\to Y$ と $F=f\circ q$ で一対一に対応する。自然性は、二つの対応がどちらも自然であることから従う。$\square$

随伴の単位 $X\to\Omega_s\Sigma_sX$ は $\operatorname{id}_{\Sigma_sX}$ に対応する写像で、$u\in X_n$ を、$S^1\times\Delta^n\to\Sigma_sX$、$(a,\theta)\mapsto\theta^*u\wedge a$ へ送る。

Kan 複体のループ対象

$Y$ が Kan複体 なら、任意の点付き単体的集合 $K$ について $\operatorname{Map}_*(K,Y)$ は Kan 複体である。とくに $\Omega_sY$ は Kan 複体である。

基点の包含 $i\colon\Delta^0\to K$ は単射で、$p\colon Y\to\Delta^0$ は Kan ファイブレーションである($Y$ が Kan 複体であることの言い換え)。単体的集合のKan–Quillenモデル構造 の系「単体的モデル構造」の 2 により、$r_{i,p}\colon\operatorname{Map}(K,Y)\to\operatorname{Map}(\Delta^0,Y)\times_{\operatorname{Map}(\Delta^0,\Delta^0)}\operatorname{Map}(K,\Delta^0)$ は Kan ファイブレーションである。$\operatorname{Map}(K,\Delta^0)$ と $\operatorname{Map}(\Delta^0,\Delta^0)$ は各次数で一点なので、右辺は $\operatorname{Map}(\Delta^0,Y)\cong Y$ であり、$r_{i,p}$ は評価 $\mathrm{ev}$ である。
$\operatorname{Map}_*(K,Y)$ は $\mathrm{ev}$ の $y$ の上のファイバーなので、Kan 複体である。実際、ホーン $h\colon\Lambda^n_j\to\operatorname{Map}_*(K,Y)$ について、$\mathrm{ev}\circ h$ は $y$ の退化への定値写像なので、$y$ の退化への定値写像 $\Delta^n\to Y$ と合わせて $\mathrm{ev}$ の持ち上げの問題ができる。その解 $\tilde h\colon\Delta^n\to\operatorname{Map}(K,Y)$ は $\mathrm{ev}\circ\tilde h$ が定値なので $\operatorname{Map}_*(K,Y)$ に値をとり、$h$ を延長する。$\square$

Kan でない場合:単体的円周のループ対象

$Y=S^1$ は Kan 複体でない。$\Omega_sS^1$ の頂点は、$S^1$ の辺 $\ast_1$ と $\varphi_1$ に対応する二つ(定値写像 $c$ と恒等写像)だけであり、辺はどちらの頂点もそれ自身にしか結ばない。したがって $\pi_0(\Omega_sS^1)$ は 2 元である。一方 $\lvert S^1\rvert$ は円周であり(cor-sss-spheres)、その基点付きループのホモトピー類は $\pi_1(S^1)\cong\mathbb Z$ と一対一に対応する。$\Omega_sS^1$ は円周のループ空間の連結成分を正しく表さない。

確かめを開く

点付き単体的写像 $S^1\to S^1$ は、$S^1$ の基点でない単体がすべて非退化な辺 $\varphi_1$ の退化であること(ex-sss-circle)から、$\varphi_1$ の行き先で決まり、行き先は $S^1_1=\{\ast_1,\varphi_1\}$ のどちらでもよい。ex-sss-circle の記号で $S^1_2$ の元は $\ast_2$、$\varphi_1=(0,1,1)$、$\varphi_2=(0,0,1)$ の類で、面は $d_0\varphi_1=\ast_1$、$d_1\varphi_1=d_2\varphi_1=\varphi_1$、$d_0\varphi_2=d_1\varphi_2=\varphi_1$、$d_2\varphi_2=\ast_1$ である($1$ 次の $\varphi_1$ を同じ記号で書いた)。

$\Omega_sS^1$ の辺 $H\colon S^1\times\Delta^1\to S^1$ をとり、$a:=H(\cdot,0)$、$b:=H(\cdot,1)$ を両端の頂点とする。$\Delta^1$ の $2$ 単体 $\psi_1=(0,1,1)$、$\psi_2=(0,0,1)$ と、$S^1\times\Delta^1$ の $2$ 単体 $T=(\varphi_1,\psi_2)$、$T'=(\varphi_2,\psi_1)$ を考える。どちらの $d_1$ も対角線の辺 $e=(\varphi_1,\mathrm{id}_{[1]})$ である。$T$ の面は $d_0T=(\ast_1,(0,1))$、$d_2T=(\varphi_1,(0,0))$ なので、$H(T)$ は $d_0=\ast_1$、$d_2=a(\varphi_1)$ を満たす。上の面の表から、$a(\varphi_1)=\ast_1$ なら $H(T)=\ast_2$、$a(\varphi_1)=\varphi_1$ なら $H(T)=\varphi_1$ であり、どちらでも $H(e)=d_1H(T)=a(\varphi_1)$ である。同様に $T'$ の面は $d_0T'=(\varphi_1,(1,1))$、$d_2T'=(\ast_1,(0,1))$ なので $H(T')$ は $d_0=b(\varphi_1)$、$d_2=\ast_1$ を満たし、$H(T')$ は $\ast_2$ か $\varphi_2$ で、$H(e)=b(\varphi_1)$ である。よって $a(\varphi_1)=b(\varphi_1)$、すなわち $a=b$ である。

このため、Kan でない $Y$ のループ対象は、まず $Y$ を Kan 複体に取り替えてから取る。Ex∞関手 の定理「Kan の定理」により $\operatorname{Ex}^\infty Y$ は Kan 複体で、定理「単位写像の性質」により $Y\to\operatorname{Ex}^\infty Y$ は弱同値なので、$\Omega_s\operatorname{Ex}^\infty Y$ を使う。Kan 複体 $Y$ のループ対象は、GJ09 では道の対象のファイバーとして定義され(§I.7、p. 31)、$\operatorname{Map}_*(S^1,Y)$ と同一視されている(§III.3、p. 167)。

反例:仮定を外すと崩れること

lem-sss-quotient-nondegenerate の仮定は、(a) 次数が $n\ge1$ であること、(b) 単体 $s$ が $A$ に入らないこと、である。1 つずつ外すと結論が崩れる。

外す条件反例成り立たなくなること
(a) $n\ge1$$K=\Delta^1$、$A=\partial\Delta^1$、$n=0$2 の全単射:$A$ に入らない非退化 $0$ 単体は $0$ 個だが、$K/A=S^1$ の非退化 $0$ 単体は 1 個ある
(b) $s\notin A_n$$K=A=\Delta^1$、$s$ は恒等写像 $[1]\to[1]$ の $1$ 単体1 の結論:$s$ は非退化だが、$q_1(s)$ は基点の $1$ 単体で退化である
表の反例の確かめ

どちらも定義から直接確かめられる。

確かめを開く

(a):$\Delta^1$ の $0$ 単体は 2 つの頂点だけで、どちらも $\partial\Delta^1$ に入る。$S^1$ の $0$ 単体は基点だけで、$0$ 単体はすべて非退化である。基点は $A$ を潰した点であり、$A$ の外から来る単体ではない。

(b):$\mathrm{id}_{[1]}$ は単射なので余退化を経由せず、$\Delta^1$ の非退化 $1$ 単体である(単体的集合 の例「標準単体の非退化単体」)。$K/K$ は各次数が一点の $\Delta^0$ であり、その $1$ 単体は $0$ 単体の $s_0$ による像なので退化である。

prop-sss-nondegenerate の条件「$u\neq x_n$ かつ $v\neq y_n$」は、(b) を積 $X\times Y$ と $X\vee Y$ に当てはめたものである。積の非退化単体でも、ウェッジ和に入るもの(たとえば $S^1\times S^1$ の $(\varphi_1,\ast_1)$)は潰れて退化単体になる。

補足:位相空間のスマッシュ積との比較

位相空間では、直積位相の商としてスマッシュ積を定義すると、結合律と分配律はコンパクト Hausdorff などの仮定のもとで示され(スマッシュ積 の系「コンパクトHausdorff空間での結合律」、命題「ウェッジ和との分配律」)、一般には保証されない(同じ記事の「注意:一般の位相空間では結合律が保証されない」)。単体的集合では thm-sss-associative と prop-sss-distributive が仮定なしに成り立ち、一点和・積・商の扱いはすべて次数ごとの集合の計算になる。位相の問題は thm-sss-realization でコンパクト生成化した積を使う点に集約される。どちらの因子の実現も局所コンパクトでないとき、通常の直積位相では積の実現の比較写像が同相にならない例がある(幾何学的実現と積(Milnorの定理) の例「反例:Dowker の例」)。

関連項目

参考文献

[1]
Paul G. Goerss, John F. Jardine, Simplicial Homotopy Theory, Birkhäuser, 2009, §I.7(p. 31、Kan 複体のループ対象の定義)、Chapter III の冒頭(p. 139、単体的円周とのスマッシュ積 $S^1\wedge X$ と Kan の懸垂はホモトピー同値だが同型でなく、実現は自然に同相であること)、§III.3(p. 167、ループ対象と $\operatorname{Map}_*(S^1,Y)$ の同一視)

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