必要条件と十分条件

概要

必要条件と十分条件(necessary and sufficient conditions)とは、範囲 $U$ のすべての $x$ で「$p(x)$ ならば $q(x)$」が成り立つとき、$p$ を $q$ であるための十分条件、$q$ を $p$ であるための必要条件とよぶ言葉であり、両向きが成り立つとき互いに必要十分条件(同値)という。条件を十分性で比べる関係は前順序であり、同値な条件を同じとみなすと真理集合の包含の順序と一致する。条件 $p_1,\dots,p_n$($n\ge2$)の同値が、示した含意だけから条件の中身によらず従うのは、含意の有向グラフが強連結なときに限り、少なくとも $n$ 本の含意が要る。極値や素数の判定では必要条件と十分条件のあいだに隙間が残る。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 論理と命題, 含意, 全称記号, 述語

「$p$ ならば $q$」がいつも成り立つとき、$p$ を $q$ であるための 十分条件(sufficient condition)、$q$ を $p$ であるための 必要条件(necessary condition)という。一つの含意に、二つの読み方を与える言葉である。$p$ が成り立てば $q$ が保証される($q$ のためには $p$ だけで足りる)という読み方と、$q$ が成り立たなければ $p$ は成り立ちえない($p$ のためには $q$ が欠かせない)という読み方である。両向きの含意が成り立つとき、$p$ と $q$ は互いに 必要十分条件 であるという。
数学の定理の多くは、ある性質の必要条件か十分条件、あるいは必要十分条件(特徴づけ)を与える形をしている。この記事では、変数の範囲と前提を明示して必要条件・十分条件を定め、証明の中で「必要性」「十分性」が指す向きを整理する。そのうえで次のことを証明する。条件を十分性で比べる関係は前順序であり、同値な条件を同じとみなすと部分集合の包含の順序になる。いくつかの条件が同値であることを示すとき、証明すべき含意の組は「含意の有向グラフが強連結であること」で特徴づけられ、少なくとも条件の個数と同じ本数の含意が要る。最後に、極値と素数の例で必要条件と十分条件のあいだに隙間が残ることを見て、パラメータを含む必要十分条件を「必要性で絞り、十分性で確かめる」手順で求める。
真理集合の包含・逆・裏・対偶・量化子の否定といった高校数学の範囲は、集合と論理:必要条件・十分条件 で扱っている。この記事は、その先の大学の数学で必要条件と十分条件を使う場面を扱う。

定義

変数 $x$ の動く範囲を集合 $U$ とする($x$ は組 $(x_1,\dots,x_k)$ でもよい)。$U$ 上の 条件 とは、各 $x\in U$ について真偽の定まる主張 $p(x)$ のことであり(述語)、その真理集合を $T_p:=\{x\in U\mid p(x)\}$ と書く。条件 $p,q$ から作る条件 $\lnot p$、$p\land q$、$p\lor q$ は、各 $x$ ごとに否定・連言・選言をとって定める(論理と命題)。

十分条件・必要条件・必要十分条件

$U$ 上の条件 $p,q$ について、すべての $x\in U$ で $p(x)$ ならば $q(x)$ が真であるとき、$U$ 上で $p\Rightarrow q$ が成り立つという。このとき $p$ は $q$ であるための 十分条件、$q$ は $p$ であるための 必要条件 であるという。
$p\Rightarrow q$ と $q\Rightarrow p$ がともに成り立つとき、$p$ は $q$ であるための 必要十分条件 である、あるいは $p$ と $q$ は($U$ 上で)同値 であるといい、$p\Leftrightarrow q$ と書く。

「$U$ 上で $p\Rightarrow q$」は、各 $x$ ごとの含意をすべての $x$ について束ねた一つの命題 $\forall x\in U\,(p(x)\to q(x))$ である(全称記号)。集合と論理:必要条件・十分条件 の定理「含意と包含」により、これは $T_p\subset T_q$ と同値であり、$p\Leftrightarrow q$ は $T_p=T_q$ と同値である。十分条件は小さいほうの真理集合、必要条件は大きいほうの真理集合に対応する。
定理はしばしば「$f$ が連続であるとき」のような 前提 $h$ のもとで述べられる。前提 $h$ のもとで $p$ が $q$ の十分条件であるとは、$U$ 上で $h\land p\Rightarrow q$ が成り立つこと、すなわち範囲を $T_h$ に制限したうえで $p\Rightarrow q$ が成り立つことである。範囲や前提を変えると、十分性・必要性は変わりうる(集合と論理:必要条件・十分条件 の例「反例:全体集合を変えると結論が変わる」、下の ex-nsc-table-check)。また $T_p=\emptyset$ なら $p$ はどの条件の十分条件でもあり、$T_q=U$ なら $q$ はどの条件の必要条件でもある(空虚な真)。

証明の中での「必要性」と「十分性」

「$q$ であるための必要十分条件は $p$ である」を証明するとき、必要性 とは「$p$ が $q$ の必要条件であること」、すなわち $q\Rightarrow p$ を指す。十分性 とは $p\Rightarrow q$ を指す。必要性の証明では $q$ を仮定して $p$ を導き、十分性の証明では $p$ を仮定して $q$ を導く。主張を「$p\Leftrightarrow q$」の形に書き、いまどちら向きの矢印を示しているかを明記すると、向きの取り違えが起きない。
英語では "$P$ only if $Q$" が $P\Rightarrow Q$、"$P$ if $Q$" が $Q\Rightarrow P$ を表し、"$P$ if and only if $Q$" が両向きを表す(Ham34 §2.3–2.4、pp. 44–47)。定義の文の「〜のとき、〜という」は、慣習として両向きの意味で用いる。

言い回しを矢印に直す

実数列 $(a_n)$ について考える。

  1. 「級数 $\sum a_n$ が収束するためには、$a_n\to0$ が必要である」は「$\sum a_n$ が収束 $\Rightarrow$ $a_n\to0$」である。部分和を $S_n$、和を $s$ とすると $a_n=S_n-S_{n-1}\to s-s=0$ だからである。逆は成り立たない(調和級数 の例「反例:項が0に収束しても級数は収束するとは限らない」)。
  2. 「$\sum|a_n|$ の収束は、$\sum a_n$ の収束の十分条件である」は「$\sum|a_n|$ が収束 $\Rightarrow$ $\sum a_n$ が収束」である(絶対収束 の定理「絶対収束する級数の収束」)。逆は成り立たない(同記事の例「反例:条件収束する級数」)。
    1 では「必要」の語が文の後半にあり、2 では「十分」の語が文の後半にある。どちらも、何が何を保証するかを矢印に書き直せば向きが決まる。

十分性による条件の比較

条件 $p,q$ について、$U$ 上で $p\Rightarrow q$ が成り立つことを $p\preceq q$ と書き、$p$ は $q$ より 強い($q$ は $p$ より 弱い)という。強い条件ほど満たす $x$ が少ない。$U$ 上の条件全体を、各 $x$ に真偽を対応させる写像 $U\to\{\text{真},\text{偽}\}$ と同一視して $\mathcal C(U)$ と書く。

強さの比較の構造

$U$ を集合とする。

  1. $\preceq$ は $\mathcal C(U)$ 上の前順序である。すなわち $p\preceq p$ であり、$p\preceq q$ かつ $q\preceq r$ ならば $p\preceq r$ である。
  2. $p\preceq q$ かつ $q\preceq p$ であることは、$p\Leftrightarrow q$ であることと同値である。
  3. 同値な条件を同じとみなした集合 $\mathcal C(U)/{\Leftrightarrow}$ から冪集合 $\mathcal P(U)$ への写像 $[p]\mapsto T_p$ は矛盾なく定まり、$\preceq$ から引き起こされる順序と包含 $\subset$ の間の順序同型である。
  4. 条件 $p,q,r$ について、$r\preceq p\land q$ であることは「$r\preceq p$ かつ $r\preceq q$」と同値であり、$p\lor q\preceq r$ であることは「$p\preceq r$ かつ $q\preceq r$」と同値である。
  5. $p\preceq q$ であることは、$\lnot q\preceq\lnot p$ であることと同値である。

4 は、$p\land q$ が「$p$ と $q$ の両方の十分条件」のうちで最も弱いものであり、$p\lor q$ が「$p$ と $q$ の両方の必要条件」のうちで最も強いものであることを述べている。5 は対偶による言い換えである。

真理集合の包含に移す

集合と論理:必要条件・十分条件 の定理「含意と包含」により、$p\preceq q$ は $T_p\subset T_q$ と同値であり、$T_{\lnot p}=U\setminus T_p$、$T_{p\land q}=T_p\cap T_q$、$T_{p\lor q}=T_p\cup T_q$ である。以下ではこれを使って、各主張を部分集合の主張に移す。
1:$T_p\subset T_p$ であり、$T_p\subset T_q\subset T_r$ なら $T_p\subset T_r$ である。
2:$T_p\subset T_q$ かつ $T_q\subset T_p$ は $T_p=T_q$ と同値であり、これは $p\Leftrightarrow q$ と同値である。
3:2 により、$p\Leftrightarrow q$ なら $T_p=T_q$ なので写像は矛盾なく定まり、逆に $T_p=T_q$ なら $p\Leftrightarrow q$ なので単射である。任意の $A\subset U$ は条件「$x\in A$」の真理集合なので全射である。$[p]\le[q]$ を $p\preceq q$ で定めると(2 によりこれは代表の選び方によらない)、$[p]\le[q]$ は $T_p\subset T_q$ と同値なので、写像とその逆写像はどちらも順序を保つ。
4:$T_r\subset T_p\cap T_q$ は「$T_r\subset T_p$ かつ $T_r\subset T_q$」と同値であり、$T_p\cup T_q\subset T_r$ は「$T_p\subset T_r$ かつ $T_q\subset T_r$」と同値である。
5:補集合をとると包含の向きが逆になるので、$T_p\subset T_q$ は $U\setminus T_q\subset U\setminus T_p$、すなわち $T_{\lnot q}\subset T_{\lnot p}$ と同値である。$\square$

共通の十分条件と共通の必要条件

$U=\mathbb Z$ とし、$d\mid x$ を「$x$ は $d$ の倍数」とする。$12\mid x\preceq 4\mid x\preceq 2\mid x$ である。

  • 「$4\mid x$ かつ $6\mid x$」は「$12\mid x$」と同値である($4$ と $6$ の最小公倍数は $12$)。thm-nsc-preorder の 4 により、$4\mid x$ と $6\mid x$ の両方の十分条件のうちで最も弱いものは $12\mid x$ である。
  • 「$4\mid x$ または $6\mid x$」は、$4\mid x$ と $6\mid x$ の両方の必要条件のうちで最も強い。$2\mid x$ も両方の必要条件だが、$x=2$ は $2\mid x$ を満たし「$4\mid x$ または $6\mid x$」を満たさないので、$2\mid x$ は真に弱い。

同値な条件の列

「次の条件は同値である」という形の定理は、条件 $p_1,\dots,p_n$ がどの 2 つも同値であることを主張する。そのためにどの含意を証明すればよいかは、含意の組をグラフとして見ると判定できる。

示した含意のグラフと同値の強制

$n\ge2$ とし、$E$ を相異なる番号の順序対 $(i,j)$($1\le i,j\le n$、$i\ne j$)からなる集合とする。頂点集合 $\{1,\dots,n\}$、辺集合 $E$ の有向グラフを $G_E$ と書く。$E$ が 同値を強制する とは、どの集合 $U$ と $U$ 上のどの条件 $p_1,\dots,p_n$ についても、すべての $(i,j)\in E$ で $p_i\Rightarrow p_j$ が成り立つならば、$p_1,\dots,p_n$ がどの 2 つも同値になることをいう。

$E$ は「すでに証明した含意の一覧」であり、同値を強制するとは、条件の中身によらず、一覧の含意だけから同値が従うことを意味する。

同値を強制する含意の組

$n\ge2$ と $E$ を def-nsc-forcing のとおりとする。

  1. $E$ が同値を強制することと、$G_E$ が強連結であること(有向グラフ の定義「到達可能性と強連結性」)は同値である。
  2. $E$ が同値を強制するならば、$E$ は $n$ 個以上の元をもつ。巡回する組 $E_{\mathrm{cyc}}:=\{(1,2),(2,3),\dots,(n-1,n),(n,1)\}$ はちょうど $n$ 個の元をもち、同値を強制する。
到達できる頂点で真偽を決める

1 の「強連結ならば同値を強制する」:$U$ 上の条件 $p_1,\dots,p_n$ が、すべての $(i,j)\in E$ で $p_i\Rightarrow p_j$ を満たすとする。任意の $i\ne j$ について、強連結性から $G_E$ に $i$ から $j$ への有向道 $i=v_0\to v_1\to\cdots\to v_k=j$ がある。各辺について $p_{v_{l-1}}\Rightarrow p_{v_l}$ が成り立つので、thm-nsc-preorder の 1(推移律)を $k-1$ 回使って $p_i\Rightarrow p_j$ を得る。$i,j$ は任意なので、どの 2 つも同値である。
1 の「同値を強制するならば強連結」:対偶を示す。$G_E$ が強連結でないとすると、頂点 $i,j$ で、$i$ から $j$ への有向道がないものがある。$i$ から有向道で到達できる頂点全体($i$ 自身を含む)を $S$ とすると、$i\in S$、$j\notin S$ である。1 点集合 $U=\{\ast\}$ をとり、条件 $p_k$ を「$p_k(\ast)$ が真 $\iff$ $k\in S$」で定める。$(a,b)\in E$ とする。$a\in S$ なら、$i$ から $a$ への有向道に辺 $(a,b)$ をつないで $b\in S$ となるので、$p_a(\ast)$ も $p_b(\ast)$ も真であり、$p_a\Rightarrow p_b$ が成り立つ。$a\notin S$ なら $p_a(\ast)$ が偽なので、$p_a\Rightarrow p_b$ は成り立つ。よって $E$ のすべての含意が成り立つが、$p_i(\ast)$ は真で $p_j(\ast)$ は偽なので、$p_i\Rightarrow p_j$ は成り立たない。したがって $E$ は同値を強制しない。
2:$E$ が同値を強制するなら、1 により $G_E$ は強連結である。各頂点 $a$ について、$n\ge2$ なので $a$ と異なる頂点 $b$ があり、$a$ から $b$ への有向道の最初の辺は $a$ から出る $E$ の元である。始点の異なる辺は異なるので、頂点ごとに選んだこれらの辺は相異なり、$E$ は $n$ 個以上の元をもつ。$E_{\mathrm{cyc}}$ では、頂点 $i$ から $i\to i+1\to\cdots\to n\to1\to\cdots$ と辺をたどれば、どの頂点にも到達できるので $G_{E_{\mathrm{cyc}}}$ は強連結であり、1 により同値を強制する。$\square$

反例を作るときに 1 点集合 $U=\{\ast\}$ で足りたことは、$E$ が同値を強制するかどうかが、命題の真偽の組合せだけで決まる問題であることを示している。巡回する組が最も少ない本数ですむことは Ham34 §7.2(pp. 149–150)が図で説明しており、2 はその主張の証明にあたる。

3 つの条件を循環で結ぶ

$U=\mathbb Z$ とし、$p_1$:$n$ は偶数、$p_2$:$n^2$ は $4$ の倍数、$p_3$:$n^2$ は偶数、とする。

  • $p_1\Rightarrow p_2$:$n=2k$ なら $n^2=4k^2$ である。
  • $p_2\Rightarrow p_3$:$4$ の倍数は偶数である。
  • $p_3\Rightarrow p_1$:対偶を示す。$n=2k+1$ なら $n^2=2(2k^2+2k)+1$ は奇数である。
    $E=E_{\mathrm{cyc}}$($n=3$)なので、thm-nsc-tfae により $p_1,p_2,p_3$ は同値である。$p_2\Rightarrow p_1$ のような残りの含意は、個別に証明しなくても従う。

必要条件と十分条件のあいだの隙間

ある性質 $q$ について、必要条件 $r$($q\Rightarrow r$)と十分条件 $s$($s\Rightarrow q$)が分かっていても、$s\preceq q\preceq r$ という挟み込みが得られるだけである。$r$ を満たすが $s$ を満たさない $x$ については、$q$ を満たすかどうかがこの二つからは決まらない。

極小の 1 階と 2 階の条件

開区間 $I$ 上の $C^2$ 級関数 $f\colon I\to\mathbb R$ と $a\in I$ について、極値 の定理を $1$ 変数で使うと次が分かる。

  • 必要条件:$f$ が $a$ で極小をとるならば、$f'(a)=0$ かつ $f''(a)\ge0$ である(定理「極値点での勾配(Fermat の定理)」と定理「2 階の必要条件」)。
  • 十分条件:$f'(a)=0$ かつ $f''(a)>0$ ならば、$f$ は $a$ で狭義の極小をとる(定理「2 階の十分条件」)。
    どちらも逆は成り立たない。$f(x)=x^3$、$a=0$ は $f'(0)=f''(0)=0$ を満たすので必要条件を満たすが、$x<0$ で $f(x)<0=f(0)$ なので極小をとらない。$f(x)=x^4$、$a=0$ は $x\ne0$ で $f(x)>0=f(0)$ なので狭義の極小をとるが、$f''(0)=0$ なので十分条件を満たさない。$f'(a)=f''(a)=0$ の点が隙間にあたり、そこでは高階の導関数で判定する(極値 の定理「高階の導関数による判定」)。
素数であるための条件
  • 正の整数 $n$ について、$2^n-1$ が素数であるためには、$n$ が素数であることが必要である(Mersenne素数 の系「素数になるための指数の条件」)。十分ではない。$11$ は素数だが $2^{11}-1=2047=23\cdot89$ である(同記事の例「反例:指数が素数でも合成数になるMersenne数」)。
  • 整数 $n\ge2$ について、「$n$ と互いに素なすべての整数 $a$ で $a^{n-1}\equiv1\pmod n$」は、$n$ が素数であるための必要条件である(Fermatの小定理)。十分ではない。$561=3\cdot11\cdot17$ は合成数だがこの合同式を満たす(Carmichael数 の例「最小の Carmichael 数 $561$」)。
  • 整数 $n\ge2$ について、$(n-1)!\equiv-1\pmod n$ は、$n$ が素数であるための必要十分条件である(Wilsonの定理)。必要十分条件は判定に使えるが、$(n-1)!$ の計算は大きな $n$ では重く、素数判定の方法としての効率は別の問題である。

パラメータを含む必要十分条件

「すべての $x$ について〜が成り立つような $a$ の必要十分条件を求めよ」という問題では、パラメータ $a$ についての条件 $q(a)$ が与えられ、それと同値な扱いやすい条件 $p(a)$ を探す。典型的な手順は次の 2 段である。

  1. 必要性で絞る:$q(a)$ を仮定し、$x$ に特別な値を代入したり、$x$ の近くでの振る舞いを調べたりして、$a$ が満たすべき条件 $p(a)$ を導く。
  2. 十分性で確かめる:$p(a)$ を仮定して、すべての $x$ について $q(a)$ の中身を示す。
    1 だけでは、求めた $p(a)$ が $q(a)$ より弱すぎることがある。2 を確かめて初めて $p\Leftrightarrow q$ になる。
2 次式がつねに正であるための条件

実数 $b,c$ について、次の 2 条件は同値である。

  1. すべての実数 $x$ について $x^2+bx+c>0$ である。
  2. $b^2-4c<0$ である。
平方完成で特別な値を探す

すべての実数 $x$ について
$$x^2+bx+c=\left(x+\frac b2\right)^2+\frac{4c-b^2}4$$
が成り立つ。
必要性(1 $\Rightarrow$ 2):1 で $x=-b/2$ とおくと、右辺の第 1 項が $0$ になり、$(4c-b^2)/4>0$、すなわち $b^2-4c<0$ を得る。
十分性(2 $\Rightarrow$ 1):2 を仮定すると $(4c-b^2)/4>0$ である。どの実数 $x$ でも $(x+b/2)^2\ge0$ なので、右辺は正である。$\square$

必要性で代入する値の選び方が重要である。$x=0$ を代入すれば $c>0$ という必要条件が得られるが、これは十分でない。$b=3$、$c=1$ は $c>0$ を満たすが、$x=-1$ で $x^2+3x+1=-1<0$ である。$x=-b/2$ は値が最小になる点なので、この点だけで条件を確かめれば足りる。

指数関数が 1 次式で下から押さえられる条件

実数 $a$ について、次の 2 条件は同値である。

  1. すべての実数 $x$ について $e^x\ge1+ax$ である。
  2. $a=1$ である。
原点での微分で絞る

$g_a(x):=e^x-1-ax$ とおくと $g_a(0)=0$ であり、$g_a'(x)=e^x-a$ である(指数関数の微分)。
必要性(1 $\Rightarrow$ 2):1 は「すべての $x$ で $g_a(x)\ge0=g_a(0)$」を意味するので、$g_a$ は開区間 $\mathbb R$ の点 $0$ で最小値、特に極小をとる。極値 の定理「極値点での勾配(Fermat の定理)」により $g_a'(0)=1-a=0$、すなわち $a=1$ である。
十分性(2 $\Rightarrow$ 1):$g_1'(x)=e^x-1$ であり、$e^x$ は狭義単調増加で $e^0=1$ なので、$x<0$ で $g_1'(x)<0$、$x>0$ で $g_1'(x)>0$ である。$x>0$ なら、平均値の定理 により $g_1(x)-g_1(0)=g_1'(\xi)x$ となる $\xi\in(0,x)$ があり、$g_1'(\xi)>0$ なので $g_1(x)>0$ である。$x<0$ なら同じく $\xi\in(x,0)$ で $g_1(x)-g_1(0)=g_1'(\xi)x$ となり、$g_1'(\xi)<0$、$x<0$ なので $g_1(x)>0$ である。よってすべての $x$ で $g_1(x)\ge0$、すなわち $e^x\ge1+x$ である。$\square$

必要性の証明は $x=0$ の近くだけを見ている。1 の不等式は $x=0$ で等号が成り立つので、$0$ の近くで $1+ax$ が $e^x$ を下から押さえるには、傾き $a$ が $e^x$ の $0$ での傾き $1$ と一致しなければならない。十分性の証明は、すべての $x$ にわたる議論である。

反例:条件を外すと成り立たない

外す条件反例成り立たなくなること
含意の有向グラフが強連結(thm-nsc-tfae)$n=3$、$E=\{(1,2),(1,3),(2,3)\}$、$U=\{\ast\}$ で $p_1,p_2$ を偽、$p_3$ を真とする$p_1,p_2,p_3$ の同値
極値をとる点が区間の内点(Fermat の定理)$f(x)=x$ を閉区間 $[0,1]$ 上で考え、$a=0$ とする「最小値をとる点では微分係数が $0$」
正であることを調べる $x$ の範囲が $\mathbb R$ 全体(thm-nsc-quadratic)範囲を $x\ge0$ に限り、$b=3$、$c=1$ とする「$b^2-4c<0$ が必要」
不等式を調べる $x$ の範囲が $\mathbb R$ 全体(thm-nsc-exp)範囲を $x\ge0$ に限り、$a=0$ とする「$a=1$ が必要」
表の確かめ

1 行目:$E$ の含意 $p_1\Rightarrow p_2$、$p_1\Rightarrow p_3$ は前件 $p_1(\ast)$ が偽なので成り立ち、$p_2\Rightarrow p_3$ も前件が偽なので成り立つ。しかし $p_3(\ast)$ は真で $p_1(\ast)$ は偽なので、$p_3\Rightarrow p_1$ は成り立たない。$G_E$ では頂点 $3$ から出る辺がなく、強連結でない(thm-nsc-tfae の証明で $i=3$ とした場合にあたる)。
2 行目:$f(x)=x$ は $[0,1]$ 上で $0$ で最小値をとるが、$0$ での(右側の)微分係数は $1$ である。$0$ は区間 $[0,1]$ の端点であり、左側の差分商を考えられないので、Fermat の定理の証明が使えない。
3 行目:$x\ge0$ なら $x^2+3x+1\ge1>0$ だが、$b^2-4c=9-4=5>0$ である。範囲を $x\ge0$ に限ると、thm-nsc-quadratic の必要性の証明で使った $x=-b/2=-3/2$ が範囲の外に出る。
4 行目:$x\ge0$ なら $e^x\ge1=1+0\cdot x$ である。範囲を $x\ge0$ に限ると $0$ が端点になり、必要性の証明で使った Fermat の定理が使えない。実際、$x\ge0$ の範囲では、$e^x\ge1+ax$ がすべての $x\ge0$ で成り立つことは $a\le1$ と同値になる。$a\le1$ なら $e^x\ge1+x\ge1+ax$(thm-nsc-exp)であり、$a>1$ なら、$g_a(x):=e^x-1-ax$ は $g_a(0)=0$、$g_a'(0)=1-a<0$ を満たすので、十分小さい $x>0$ で $g_a(x)<0$ となるからである。

補足

  • 含意の真偽と必要・十分の語。 「$p$ は $q$ の十分条件」は、$p$ が成り立つ場合に $q$ が成り立つことだけを述べ、$p$ が成り立たない場合については何も述べない。これは含意 $p\to q$ が前件の偽のときに真になる約束(含意・空虚な真)に対応している。
  • 前提の置き方。 ex-nsc-extremum の「$C^2$ 級」や「$a$ は開区間の点」は前提であり、条件の外に置いている。前提を条件の側に繰り入れると、主張の形が変わる。たとえば「$a$ が内点であること」を前提から外して条件に入れると、Fermat の定理は「$a$ が内点で、$f$ が $a$ で微分可能で、$a$ で極値をとる」ことの必要条件として $f'(a)=0$ を述べる形になる。
  • 論理学での扱い。 一階の論理では、「$p$ は $q$ の十分条件」は理論 $T$ のもとで文 $\forall x\,(p(x)\to q(x))$ が成り立つことにあたり、どの構造で成り立つかを問う意味論の見方と、$T$ から証明できるかを問う証明論の見方がある(一階述語論理)。
  • 文献。 必要条件・十分条件・必要十分条件の言い回しは Ham34 §2.3(pp. 44–45)と §2.4(pp. 46–47)、必要十分条件の証明の型と同値な条件の列の証明法は §7.1–7.2(pp. 147–150)にある。

関連項目

参考文献

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