Hilbertの第3問題(Hilbert's third problem)とは、底面積と高さの等しい 2 つの四面体を、有限個の多面体に切って並べ直すことで(合同な多面体を付け足すことも許して)互いに移せるかを問う問題である。Dehn は、辺の長さと二面角を組にした Dehn 不変量 $D(P)=\sum_e\ell(e)\otimes[\theta(e)]\in\mathbb{R}\otimes_{\mathbb{Q}}(\mathbb{R}/\pi\mathbb{Q})$ が分割と合同変換で変わらないことを示した。立方体では $D=0$、正四面体では二面角 $\arccos\frac13$ が $\pi$ の有理数倍でないので $D\neq0$ となり、体積の等しい立方体と正四面体は分割合同でない。問題は否定的に解かれ、四面体の体積の公式には極限の議論が欠かせないことが分かる。
前提知識: テンソル積, Hamel基底, 多面体, Bolyai–Gerwienの定理
平面では、面積の等しい 2 つの多角形は、一方を有限個の多角形に切って並べ直すと他方にできる(Bolyai–Gerwienの定理)。空間でも同じことが言えるなら、四面体の体積が「底面積 × 高さ ÷ 3」であることを、極限を使わずに切り貼りだけで示せるはずである。Hilbert は 1900 年の講演の印刷版で、これが不可能であることの厳密な証明を問題 3 として挙げた。求められたのは、底面積と高さの等しい 2 つの四面体で、合同な四面体に分割し合えず、合同な四面体を付け足しても分割し合える 2 つの多面体にできないものである(Hil02 問題 3、p. 449)。これを Hilbertの第3問題(Hilbert's third problem)という。
この問題はすぐに Dehn が解いた(Hil02 p. 449 の脚注)。鍵は、辺の長さと二面角を組にした量
$$
D(P)=\sum_{e}\ell(e)\otimes\bigl[\theta(e)\bigr]\in\mathbb{R}\otimes_{\mathbb{Q}}(\mathbb{R}/\pi\mathbb{Q})
$$
(Dehn 不変量)が切り貼りで変わらないことである。立方体では二面角がすべて $\pi/2$ なので $D=0$ になり、正四面体では二面角 $\arccos\frac13$ が $\pi$ の有理数倍でないので $D\neq0$ になる。この記事では、凸でない多面体まで含めて Dehn 不変量が定まり分割で加法的であることを示し(thm-h3-invariance)、Hilbert の問いに答える(thm-h3-dehn、cor-h3-hilbert)。高校数学の言葉による入門は 錐体の体積とHilbertの第3問題 にある。
この記事で 凸多面体 とは、多面体 の意味の有界な多面体(有限個の閉半空間の共通部分で有界なもの)で、$\mathbb{R}^3$ の中で内部が空でないものをいう。多面体 とは、有限個の凸多面体の和集合のことをいう(凸とは限らない。多面体 の記事の「多面体」は半空間の共通部分のことで、意味が違う)。凸多面体は内部の閉包に等しいので、多面体も内部の閉包に等しい。合同変換 は $\mathbb{R}^3$ の距離を保つ全単射で、裏返し(向きを逆にするもの)も含める。
多面体 $P$ が多面体 $P_1,\dots,P_m$ に 分割 されるとは、$P=P_1\cup\cdots\cup P_m$ であり、$i\neq j$ なら $P_i$ と $P_j$ の内部が交わらないことをいう。多面体 $P,Q$ が 分割合同(scissors congruent)であるとは、$P$ の分割 $P_1,\dots,P_m$、$Q$ の分割 $Q_1,\dots,Q_m$ と合同変換 $g_1,\dots,g_m$ で $g_i(P_i)=Q_i$ となるものがあることをいい、$P\sim Q$ と書く。
分割の片どうしの重なりは境界に含まれ、境界は有限個の平面に含まれるので体積 $0$ である。したがって分割合同な多面体は体積が等しい。問題は逆である。
多面体 $A_1,\dots,A_k$ に対し、内部が互いに交わらない凸多面体 $C_1,\dots,C_N$ で、各 $A_i$ がそのうちのいくつかの和集合になるものがある。さらに、$C_j$ の内部と $C_{j'}$($j'\ne j$)は交わらない。
要点:すべての凸多面体を定める平面で空間を切ると、有界な小部屋(凸多面体)ができ、各 $A_i$ はその小部屋の和集合になる。
各 $A_i$ を凸多面体の和集合に書き、現れるすべての凸多面体を定める閉半空間の境界平面を $H_1,\dots,H_r$ とする。$\mathbb{R}^3\setminus(H_1\cup\cdots\cup H_r)$ の点 $y$ に、各 $H_s$ のどちら側にあるかの符号の列を対応させる。同じ符号の列をもつ点の集合は開半空間の共通部分なので凸な開集合で、符号の列は有限通りである。これらの集合のうち有界で空でないものの閉包を $C_1,\dots,C_N$ とする。各 $C_j$ は有界な閉半空間の共通部分で内部が空でないので凸多面体である。
符号の列が違う 2 つの集合 $U_j,U_{j'}$ では、ある $H_s$ について $U_j$ は開半空間の一方に、$U_{j'}$ は他方にあるので、$U_j$ と $\overline{U_{j'}}=C_{j'}$ は交わらない。$C_j$ の内部は $U_j$ に等しい($C_j$ の内部の点で $H_s$ 上にあるものがあれば、その近くに $H_s$ の反対側の点が $C_j$ に入り、$C_j\subset\overline{U_j}$ が $H_s$ の片側の閉半空間に含まれることに反する)。よって最後の主張が成り立ち、とくに内部は互いに交わらない。
$A_i$ に現れる凸多面体 $K$ をとる。$K$ の内部から平面 $H_1,\dots,H_r$ を除いた集合は $K$ の内部で稠密であり(平面は内点をもたない閉集合である)、$K$ は内部の閉包なので、$K$ はこの集合の閉包に等しい。この集合の点 $y$ を含む $U_j$ は、$K$ を定めるどの平面についても $y$ と同じ側の開半空間に含まれるので、$K$ の内部に含まれ、とくに有界である。よって $K$ は、$U_j\subset K$ となる $j$ についての $C_j$ の和集合に等しい。$A_i$ はそのような $K$ の和集合である。$\square$
分割合同は多面体の間の同値関係である。
要点:2 つの分割を、真ん中の多面体の上で lem-h3-refine の共通の細分にそろえる。
反射律と対称律は定義から明らかである。$P\sim Q$ が $P_i$、$Q_i=g_i(P_i)$($1\le i\le m$)で、$Q\sim R$ が $Q'_j$、$R_j=h_j(Q'_j)$($1\le j\le n$)で与えられているとする。lem-h3-refine を $Q_1,\dots,Q_m,Q'_1,\dots,Q'_n$ に使い、得られた凸多面体のうち $Q$ に含まれるものを $C_1,\dots,C_N$ とする。$Q$ は $C_k$ たちの和集合であり、各 $C_k$ はちょうど 1 つの $Q_i$ とちょうど 1 つの $Q'_j$ に含まれる($C_k$ の内部は、$C_k$ を含まない片とは交わらず、$Q_i$ たちの内部は互いに交わらないから)。$C_k\subset Q_i\cap Q'_j$ のとき $P$ の片として $g_i^{-1}(C_k)$、$R$ の片として $h_j(C_k)$ をとると、どちらも $C_k$ と合同で、$g_i^{-1}$ と $h_j$ は内部を内部に移すので、それぞれ $P$、$R$ の分割になる。よって $P\sim R$ である。$\square$
実数全体 $\mathbb{R}$ と、その $\pi$ の有理数倍全体による商 $\mathbb{R}/\pi\mathbb{Q}$ は、どちらも $\mathbb{Q}$ 上のベクトル空間である($\pi\mathbb{Q}$ は $\mathbb{Q}$ 部分空間)。$\theta\in\mathbb{R}$ の類を $[\theta]$ と書く。$[\pi/2]=[\pi]=[2\pi]=[0]=0$ である。
$$
\mathcal{V}:=\mathbb{R}\otimes_{\mathbb{Q}}(\mathbb{R}/\pi\mathbb{Q})
$$
を $\mathbb{Q}$ 上のテンソル積とする(テンソル積 の定義「テンソル積の普遍性」)。$\ell\otimes[\theta]$ は $\ell$ についても $[\theta]$ についても $\mathbb{Q}$ 線形である。
($\mathsf{ZFC}$)$\ell\neq0$ かつ $\theta\notin\pi\mathbb{Q}$ なら、$\ell\otimes[\theta]\neq0$ である。
要点:$\ell$ と $[\theta]$ でそれぞれ $1$ をとる $\mathbb{Q}$ 線形写像の積で、$\ell\otimes[\theta]$ を $1$ に送る。
$\{\ell\}$ は $\mathbb{Q}$ 上のベクトル空間 $\mathbb{R}$ で線形独立なので、Hamel基底 の定理「Hamel 基底の存在」により $\ell$ を含む Hamel 基底がとれる。$\ell$ の係数を取り出す写像を $f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{Q}$ とすると、$f$ は $\mathbb{Q}$ 線形で $f(\ell)=1$ である。同じく $[\theta]\neq0$ なので、$\mathbb{Q}$ 線形写像 $g\colon\mathbb{R}/\pi\mathbb{Q}\to\mathbb{Q}$ で $g([\theta])=1$ となるものがある。$(x,y)\mapsto f(x)g(y)$ は $\mathbb{Q}$ 双線形なので、テンソル積の普遍性により $\mathbb{Q}$ 線形写像 $\mathcal{V}\to\mathbb{Q}$ で $x\otimes y\mapsto f(x)g(y)$ となるものがある。これは $\ell\otimes[\theta]$ を $1$ に送るので、$\ell\otimes[\theta]\neq0$ である。$\square$
$L$ を直線、$x\in L$ とし、$\Pi_x$ を $x$ を通り $L$ に垂直な平面、$D_r(x)\subset\Pi_x$ を $x$ を中心とする半径 $r$ の閉円板とする。$\Pi_x$ の中の面積(2 次元の Lebesgue 測度)を $\operatorname{A}$ と書く。多面体 $P$ について、極限
$$
\alpha_P(L,x):=\lim_{r\to+0}\frac{2\operatorname{A}\bigl(P\cap D_r(x)\bigr)}{r^2}
$$
が存在するとき、これを $P$ の $L$ に沿った $x$ での角 という。中心角 $\alpha$ の扇形の面積は $\alpha r^2/2$ なので、$P$ を $\Pi_x$ で切った断面が $x$ の近くで扇形に見えるなら、$\alpha_P(L,x)$ はその中心角である。
凸多面体 $K=\{y\mid a_i\cdot y\le b_i\ (1\le i\le m)\}$ の辺 $e$(多面体 の定義「面・頂点・辺・ファセット」の意味の 1 次元の面)を含む直線を $L$ とする。$e$ の端点でない点 $x\in e$ をとると、$K$ を $\Pi_x$ で切った断面は、$x$ の近くで中心角 $\theta$($0<\theta<\pi$)の扇形になり、$\theta$ は $x$ によらない(lem-h3-convex-angle)。この $\theta=:\theta(e)$ を辺 $e$ の 二面角 という。
$K$ を凸多面体、$L$ を直線とする。$L$ の有限部分集合 $F$ があって、$L\setminus F$ の各点 $x$ で $\alpha_K(L,x)$ が存在し、$L\setminus F$ の各連結成分の上で一定である。さらに $x\in L\setminus F$ について、
方針:$x$ の近くでは、等号で効いている不等式だけが $K$ の形を決める。等号の平面がすべて $L$ を含むなら、断面は扇形になる。
段 1($F$ のとり方)。$F$ を、$K\cap L$ の端点($K\cap L$ は線分・1 点・空のいずれか)と、平面 $\{a_i\cdot y=b_i\}$ のうち $L$ を含まないものと $L$ との交点を集めた集合とする。各平面は $L$ と高々 1 点で交わるので、$F$ は有限である。$L\setminus F$ の連結成分の上では、各 $i$ について $a_i\cdot y-b_i$ の符号が一定である($L$ を含む平面では恒等的に $0$、含まない平面では成分の中で $0$ にならない)。
段 2(局所的な形)。$x\in K$ について $I(x):=\{i\mid a_i\cdot x=b_i\}$、$C_x:=\{y\mid a_i\cdot(y-x)\le0\ (i\in I(x))\}$ とおく。$i\notin I(x)$ では $a_i\cdot x< b_i$ で、連続性から $x$ の近くでも成り立つので、ある $\rho>0$ で $K\cap B_\rho(x)=C_x\cap B_\rho(x)$ である。
段 3(場合分け)。$x\in L\setminus F$ とする。$x\notin K$ なら $K$ は閉集合なので小さい $r$ で $K\cap D_r(x)=\emptyset$、$\alpha=0$ である。$x$ が $K$ の内部の点なら小さい $r$ で $D_r(x)\subset K$、$\alpha=2\pi$ である。$x$ が境界の点なら $I(x)\neq\emptyset$ で、$x\notin F$ なので $i\in I(x)$ の平面はすべて $L$ を含む。すると $C_x$ は $L$ の方向に平行移動しても変わらず、$S_x:=C_x\cap\Pi_x$ は $x$ を頂点とする $\Pi_x$ の閉凸錐($x$ を通る直線で区切られた閉半平面の共通部分)である。$x$ を通る直線で区切られた閉半平面を 1 つ以上集めた共通部分は、半平面か、中心角 $\theta\in(0,\pi)$ の扇形状の領域か、面積 $0$ の集合(点・半直線・直線)である。$r<\rho$ で $K\cap D_r(x)=S_x\cap D_r(x)$ なので、$\alpha_K(L,x)$ は $S_x$ の中心角(半平面なら $\pi$、面積 $0$ なら $0$)に等しい。$I(x)$ は成分の上で一定なので(段 1)、$\alpha$ も一定である。
段 4(辺になる場合)。中心角が $0<\theta<\pi$ のときは、$S_x$ を区切る直線は少なくとも 2 本で向きが違うので、$I(x)$ の平面のうち法線の向きが違う 2 枚がともに $L$ を含み、それらの共通部分は $L$ である。$c:=\sum_{i\in I(x)}a_i$、$\delta:=\sum_{i\in I(x)}b_i$ とおくと、$K$ 上で $c\cdot y\le\delta$ で、等号は $I(x)$ のすべての不等式が等号のときに限るので、面 $K\cap\{c\cdot y=\delta\}$ は $K\cap L$ に等しい。これは $x$ を含む線分(段 1 により $x$ のまわりの成分を含む)なので 1 次元で、$K\cap L$ は辺である。以上で、辺でない場合には $\alpha\in\{0,\pi,2\pi\}$ であること、つまり 2 が示された。
逆に $K\cap L$ が辺 $e$ で $x$ が $e$ の端点でない点とする。$L$ を含まない平面 $\{a_i\cdot y=b_i\}$ が $x$ を通れば、$L$ の上で $a_i\cdot y-b_i$ は $x$ で符号を変えるので、$x$ の片側の $e$ の点が $K$ の外に出てしまう。よって $x\in L\setminus F$ であり、$e$ の端点でない点の全体は $L\setminus F$ の 1 つの成分で、その上で $\alpha$ は一定である。$K$ は内部の閉包なので $x$ のいくらでも近くに $K$ の内部の点があり、$S_x$ は面積 $0$ の集合でない。$S_x$ が半平面なら $C_x$ は閉半空間で、$x$ を通る $K$ の支持平面はその境界平面 $H$ だけなので、$x$ を含む面は $K\cap H$(2 次元)と $K$ 自身だけになり、$K\cap L$ が辺であることに反する。よって $S_x$ は中心角 $\theta(e)\in(0,\pi)$ の扇形状の領域である。$\square$
多面体 $P$ が多面体 $P_1,\dots,P_m$ に分割され、$L$ を直線とする。$L$ の有限部分集合 $F$ があって、$L\setminus F$ の各点 $x$ で $\alpha_P(L,x)$ と $\alpha_{P_i}(L,x)$($1\le i\le m$)がすべて存在し、$L\setminus F$ の各連結成分の上で一定であり、
$$
\alpha_P(L,x)=\sum_{i=1}^m\alpha_{P_i}(L,x)
$$
が成り立つ。
要点:片どうしの重なりは有限個の平面に含まれ、$\Pi_x$ がそのどれかと一致する $x$ は有限個しかない。それ以外の $x$ では、断面の面積がそのまま足し合わさる。
段 1(重なりは境界にある).$i\neq j$ で $y\in P_i\cap P_j$ が $P_i$ の内部の点なら、$y$ の近傍 $U$ が $P_i$ に含まれる。$P_j$ は内部の閉包なので $U$ は $P_j$ の内部の点を含み、それは $P_i$ の内部の点でもあって、内部が交わらないことに反する。よって $P_i\cap P_j\subset\partial P_i$ である。凸多面体の和集合の境界は、各凸多面体の境界の和集合に含まれ、凸多面体の境界は、それを定める不等式の境界平面の和集合に含まれる(多面体 の命題「凸多面体の境界」)。よって、すべての $P_i$ に現れる凸多面体の境界平面を $H_1,\dots,H_r$ とすると、重なりはすべて $H_1\cup\cdots\cup H_r$ に含まれる。
段 2(断面の面積).$\Pi_x$ が $H_s$ に等しくなる $x\in L$ は、各 $s$ について高々 1 つである。それらを除いた $x$ では、$\Pi_x\cap H_s$ は直線か空なので、$\Pi_x$ の中で重なりの面積は $0$ である。集合の指示関数について $\mathbf 1_P\le\sum_i\mathbf 1_{P_i}\le\mathbf 1_P+\sum_{i< j}\mathbf 1_{P_i\cap P_j}$ なので、すべての $r>0$ で $\operatorname{A}(P\cap D_r(x))=\sum_i\operatorname{A}(P_i\cap D_r(x))$ である。
段 3(角の存在).1 つの多面体 $Q$ に lem-h3-refine を使うと、$Q$ は内部が交わらない凸多面体 $C_1,\dots,C_N$ に分割される。この分割に段 2 を使い、各 $C_k$ に lem-h3-convex-angle を使うと、有限個の点を除いて $2\operatorname{A}(Q\cap D_r(x))/r^2=\sum_k2\operatorname{A}(C_k\cap D_r(x))/r^2$ の各項が $r\to+0$ で収束し、その極限は成分の上で一定である。よって $\alpha_Q(L,x)$ は有限個の点を除いて存在し、局所的に一定である。これを $P$ と各 $P_i$ に使い、例外の点をすべて $F$ に入れれば、段 2 から主張が従う。$\square$
多面体 $P$ と直線 $L$ について、lem-h3-additive-angle($m=1$ の場合)の $F$ をとり、$L$ の上に順に並んだ点 $x_0,x_1,\dots,x_N$ を、$F$ と $P\cap L$ が線分 $[x_0,x_N]$ に含まれ、$F\subset\{x_0,\dots,x_N\}$ となるようにとる。開線分 $(x_{k-1},x_k)$ の上の $\alpha_P(L,\cdot)$ の値を $\alpha_k$ として
$$
D_L(P):=\sum_{k=1}^N\lvert x_k-x_{k-1}\rvert\otimes[\alpha_k]\in\mathcal{V}
$$
とおく。$P$ の Dehn 不変量(Dehn invariant)を
$$
D(P):=\sum_{L}D_L(P)
$$
($L$ は $D_L(P)\neq0$ となる直線を動く。それが有限個であることは prop-h3-convex の後で示す)と定める。
点を 1 つ加えると、1 つの項が同じ角の 2 つの項 $a\otimes[\alpha]+b\otimes[\alpha]=(a+b)\otimes[\alpha]$ に分かれるだけなので、$D_L(P)$ は点のとり方によらない(2 通りのとり方は両方の点を合わせたとり方と比べればよい)。$[x_0,x_N]$ の外では $P$ の外なので角は $0$ で、$[0]=0$ だから、外へ点を足しても変わらない。
凸多面体 $K$ と直線 $L$ について、$K\cap L$ が $K$ の辺 $e$ なら $D_L(K)=\ell(e)\otimes[\theta(e)]$($\ell(e)$ は $e$ の長さ)、そうでなければ $D_L(K)=0$ である。$K$ の辺は有限個で、
$$
D(K)=\sum_{e}\ell(e)\otimes\bigl[\theta(e)\bigr]
$$
($e$ は $K$ のすべての辺を動く)である。
$K\cap L$ が辺でなければ、lem-h3-convex-angle の 2 により有限個の点を除いて角は $0,\pi,2\pi$ のどれかで、$[0]=[\pi]=[2\pi]=0$ なので $D_L(K)=0$ である。$K\cap L$ が辺 $e$ なら、$L$ の上で $e$ の外の点は $K$ の外にあって角は $0$、$e$ の端点でない点では同じ補題の 1 により角は $\theta(e)$ なので、$D_L(K)=\ell(e)\otimes[\theta(e)]$ である。辺 $e$ は、その端点でない点で等号になる不等式の集合 $I$ によって $e=K\cap\bigcap_{i\in I}\{a_i\cdot y=b_i\}$ と書けるので(prf-h3-convex-angle 段 4)、辺は有限個であり、各辺を含む直線はちょうど 1 本である。$\square$
一般の多面体 $P$ では、lem-h3-refine により $P$ を凸多面体 $C_1,\dots,C_N$ に分割し、lem-h3-additive-angle で例外の点をそろえて区切り点をとると、$\mathbb{Q}$ 線形性から $D_L(P)=\sum_kD_L(C_k)$ となる。prop-h3-convex により右辺が $0$ でない $L$ は、どれかの $C_k$ の辺を含む有限個の直線だけである。よって $D(P)$ は有限和として定まる。
二面角の計算には次を使う。辺 $e$ を共有する 2 つの面の外向きの単位法線を $n_1,n_2$ とすると、どちらも $e$ に垂直なので $\Pi_x$ に平行で、断面の扇形は $\{v\mid n_1\cdot v\le0,\ n_2\cdot v\le0\}$ である。その中心角は $\theta(e)=\pi-\angle(n_1,n_2)$ である。
$\varphi=\arccos\frac13$ について、$\varphi/\pi$ は無理数である。
整数係数の多項式 $p_n$ を $p_0(t)=2$、$p_1(t)=t$、$p_{n+1}(t)=t\,p_n(t)-p_{n-1}(t)$ で定める。$n\ge1$ では $p_n$ は最高次の係数が $1$ の $n$ 次式である。加法定理 $2\cos s\cdot2\cos ns=2\cos(n+1)s+2\cos(n-1)s$ と帰納法により、$p_n(2\cos s)=2\cos ns$ である。
$\varphi=\frac pq\pi$($p,q$ は正の整数)と仮定すると、$2q\varphi=2p\pi$ なので $p_{2q}(\frac23)=2\cos2q\varphi=2$ である。よって $\frac23$ は、最高次の係数が $1$ の整数係数多項式 $p_{2q}(t)-2$ の根である。ところが、そのような多項式の有理数の根は整数である($t=\frac ab$(既約、$b\ge1$)を代入して $b^{2q}$ 倍すると $a^{2q}$ が $b$ で割り切れるので $b=1$)。$\frac23$ は整数でないので矛盾する。$\square$
体積の等しい正四面体と立方体は分割合同でない。さらに、合同な多面体をそれぞれに付け足しても(thm-h3-invariance の 4 の形で)分割合同にならない。
1 辺 $a$ の正四面体 $T$ と立方体 $C$ について、ex-h3-values により $D(C)=0$、$D(T)=6a\otimes[\varphi]$ である。$6a\neq0$ で、lem-h3-irrational により $\varphi\notin\pi\mathbb{Q}$ なので、lem-h3-nonzero により $D(T)\neq0$ である。thm-h3-invariance の 3・4 により、$T\sim C$ も、付け足したうえでの分割合同も起こらない。$\square$
Hilbert の問いは「底面積と高さの等しい四面体」についてだった。次の 2 つの四面体がその答えになる。
$K:=\operatorname{conv}\{0,e_1,e_2,e_3\}$ と $L:=\operatorname{conv}\{0,e_1,e_1+e_2,e_1+e_2+e_3\}$ は、どちらも平面 $z=0$ 上の面積 $\frac12$ の三角形を底面とし高さ $1$ の四面体だが、分割合同でなく、合同な多面体を付け足しても分割合同にならない。
$L$ は $\{1\ge x\ge y\ge z\ge0\}$ に等しい。立方体 $[0,1]^3$ は、座標を並べ替えた 6 つの四面体 $\{1\ge x_{\sigma(1)}\ge x_{\sigma(2)}\ge x_{\sigma(3)}\ge0\}$($\sigma$ は置換)に分割される。どの点も座標を大きい順に並べる方法があり、2 つに同時に入る点は座標に等しいものがある点(体積 $0$ の平面の上)だけだからである。各片は座標の入れ替え(合同変換)で $L$ に移るので、thm-h3-invariance により $0=D([0,1]^3)=6D(L)$ で、$\mathcal{V}$ は $\mathbb{Q}$ 上のベクトル空間なので $D(L)=0$ である。
$K$ の座標軸上の 3 辺(長さ $1$)は二面角 $\pi/2$ で寄与は $0$ である。残りの 3 辺(長さ $\sqrt2$)、たとえば $e_1e_2$ では、面 $z=0$ と面 $x+y+z=1$ の外向きの法線 $(0,0,-1)$、$(1,1,1)/\sqrt3$ の内積が $-1/\sqrt3$ なので、二面角 $\psi$ は $\cos\psi=1/\sqrt3$ を満たす。$\cos2\psi=2\cos^2\psi-1=-\frac13=\cos(\pi-\varphi)$ で、$0<2\psi<\pi$、$0<\pi-\varphi<\pi$ なので $2\psi=\pi-\varphi$、$[\psi]=-\frac12[\varphi]$ である。対称性から 3 辺とも同じなので
$$
D(K)=3\sqrt2\otimes\Bigl(-\frac12[\varphi]\Bigr)=-\frac{3\sqrt2}{2}\otimes[\varphi]\neq0
$$
である(lem-h3-irrational、lem-h3-nonzero)。$D(K)\neq D(L)$ なので、thm-h3-invariance の 3・4 により結論が従う。$\square$
したがって、底面積と高さの等しい四面体の体積が等しいことを、有限回の切り貼りと合同な片の付け足しだけで示すことはできない。四面体の体積の公式には、取り尽くし法や積分のような極限の議論が欠かせない。
Dehn 不変量が $0$ の多面体は、立方体と分割合同になりうる。柱体では、平面の Bolyai–Gerwienの定理 からこれが直接示せる。ここで 多角形 は Bolyai–Gerwienの定理 の記事の意味(自分と交わらない閉じた折れ線で囲まれた図形)とする。多角形は有限個の三角形の和集合なので(同記事の補題「三角形分割」)、$B\times[0,h]$ は三角柱の和集合で、多面体である。
平面の多角形 $B$ と $h>0$ について、柱体 $B\times[0,h]$ は、体積の等しい立方体と分割合同である。
要点:平面の切り貼りに高さ方向の区間を掛けると空間の切り貼りになる。底面を長方形にし、2 回向きを変えて同じことをすると立方体になる。
段 1(平面の分割合同を持ち上げる).平面の多角形 $B,B'$ が分割合同で、$B$ の分割 $B_i$、$B'$ の分割 $B'_i=g_i(B_i)$($g_i$ は平面の合同変換)が与えられたとき、$B_i\times[0,h]$ は $B\times[0,h]$ の分割、$B'_i\times[0,h]$ は $B'\times[0,h]$ の分割で、$g_i\times\mathrm{id}$ は空間の合同変換である。よって $B\times[0,h]\sim B'\times[0,h]$ である。座標軸を入れ替える合同変換により、高さの向きは 3 つの座標軸のどれにとってもよい。
段 2(直方体にする).$B$ の面積を $S$ とすると、Bolyai–Gerwienの定理 の定理「Bolyai–Gerwien の定理」により $B$ は長方形 $[0,S]\times[0,1]$ と分割合同なので、段 1 により $B\times[0,h]\sim[0,S]\times[0,1]\times[0,h]$ である。
段 3(立方体にする).$c:=(Sh)^{1/3}$ とおく。$x$ 方向と $y$ 方向の長方形 $[0,S]\times[0,1]$ は、面積の等しい長方形 $[0,c]\times[0,S/c]$ と分割合同なので、段 1(高さは $z$ 方向)により直方体は $[0,c]\times[0,S/c]\times[0,h]$ と分割合同である。次に $y$ 方向と $z$ 方向の長方形 $[0,S/c]\times[0,h]$ は面積 $Sh/c=c^2$ の正方形 $[0,c]\times[0,c]$ と分割合同なので、段 1(高さは $x$ 方向)により $[0,c]^3$ と分割合同である。prop-h3-equivalence により $B\times[0,h]\sim[0,c]^3$ である。$\square$
底面が内角 $\beta_1,\beta_2,\beta_3$ の三角形で高さ $h$ の直三角柱では、上下の面の辺の二面角は $\pi/2$、縦の 3 辺の二面角は $\beta_1,\beta_2,\beta_3$ なので、
$$
D=h\otimes[\beta_1]+h\otimes[\beta_2]+h\otimes[\beta_3]=h\otimes[\beta_1+\beta_2+\beta_3]=h\otimes[\pi]=0
$$
である。底面の角が $\pi$ の有理数倍でなくても(たとえば $\beta_1=\varphi$)$D=0$ になり、prop-h3-prism と thm-h3-invariance は食い違わない。
$\Delta:=\{\lambda\in\mathbb{R}^4\mid\lambda_i\ge0,\ \lambda_1+\lambda_2+\lambda_3+\lambda_4=2\}$ は、超平面 $\sum\lambda_i=2$(3 次元の Euclid 空間)の中の 1 辺 $2\sqrt2$ の正四面体である。和が $2$ なので $\lambda_i>1$ となる $i$ は高々 1 つで、$\Delta$ は 4 つの片 $\{\lambda\in\Delta\mid\lambda_i\ge1\}$ と、片 $\{\lambda\in\Delta\mid\lambda_j\le1\ (\text{すべての }j)\}$ に分割される。前者は $\lambda_i-1$ と置き直すと 1 辺 $\sqrt2$ の正四面体、後者は 2 つの座標が $1$ で残りが $0$ の 6 点を頂点とする 1 辺 $\sqrt2$ の正八面体である。ex-h3-values で $a=\sqrt2$ とすると
$$
4\cdot6\sqrt2\otimes[\varphi]+\bigl(-12\sqrt2\otimes[\varphi]\bigr)=12\sqrt2\otimes[\varphi]=6\cdot2\sqrt2\otimes[\varphi]=D(\Delta)
$$
となり、thm-h3-invariance の 1 と一致する。
thm-h3-invariance と thm-h3-dehn の仮定を 1 つずつ外すと、次のように結論が崩れる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 角を $\pi\mathbb{Q}$ で割る($\mathbb{R}\otimes_{\mathbb{Q}}\mathbb{R}$ で値をとる) | 立方体を 2 つの直方体に切る(ex-h3-no-quotient) | 分割で値が保たれる(thm-h3-invariance の 1) |
| 空間で考える(平面にする) | 面積の等しい正三角形と正方形 | 分割合同でない(平面では Bolyai–Gerwienの定理 により分割合同) |
| 正四面体(二面角が $\pi$ の有理数倍でない) | 立方体と体積の等しい直方体 $[0,2]\times[0,1]\times[0,\frac12]$ | 立方体と分割合同でない(prop-h3-prism により分割合同) |
$D'(K):=\sum_e\ell(e)\otimes\theta(e)\in\mathbb{R}\otimes_{\mathbb{Q}}\mathbb{R}$ とおく。1 辺 $1$ の立方体では $D'=12\cdot(1\otimes\frac\pi2)=6\,(1\otimes\pi)$ である。平面 $z=\frac12$ で切った直方体 $[0,1]^2\times[0,\frac12]$ は、長さ $1$ の辺 8 本と長さ $\frac12$ の辺 4 本をもち、二面角はすべて $\frac\pi2$ なので $D'=8\cdot(1\otimes\frac\pi2)+4\cdot(\frac12\otimes\frac\pi2)=5\,(1\otimes\pi)$ で、2 つの和は $10\,(1\otimes\pi)$ である。$1\otimes\pi\neq0$(prf-h3-nonzero と同じく、$f(1)=1$、$g(\pi)=1$ となる $\mathbb{Q}$ 線形写像の積で測る)なので、$6\,(1\otimes\pi)\neq10\,(1\otimes\pi)$ である。差は切り口の正方形の 4 辺から来る。これらは直方体では二面角 $\frac\pi2$ の辺だが、立方体では面の中にあって角 $\pi$ をもつ。$\pi$ を $0$ と同一視しない限り、この食い違いは消えない。
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