2次形式

同義語:二次形式quadratic form

概要

2次形式(quadratic form)とは、$x^2+4xy+y^2$ のように、各項が変数の 2 次の単項式の定数倍である多項式、またはベクトル空間上で双線形形式 $f$ から $q(v)=f(v,v)$ で定まる関数のことである。係数の体の標数が $2$ でなければ、2 次形式は対称行列 $A$ により $x^{\top}Ax$ とただ 1 通りに書け、平方完成(Lagrange の方法)によって変数の可逆な 1 次変換で平方の重み付き和に直せる。実数の場合は直交行列で対角化でき(主軸定理)、係数は $A$ の固有値になる。実数の場合、どう対角化しても正と負の係数の個数は変わらず(Sylvester の慣性法則)、正定値であることは固有値がすべて正であること、左上の小行列式がすべて正であることと同値である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 行列, 双線形写像, 固有値

2 つの変数の式 $x^2+2xy+3y^2$ は、平方完成すると
$$ x^2+2xy+3y^2=(x+y)^2+2y^2 $$
となるので、$(x,y)=(0,0)$ 以外ではつねに正である。一方 $x^2+4xy+y^2=(x+2y)^2-3y^2$ は、$(x,y)=(1,0)$ で $1$、$(x,y)=(-2,1)$ で $-3$ となり、正にも負にもなる。どちらも各項が変数の 2 次式($x^2$、$xy$、$y^2$ の定数倍)の和であり、このような式を 2次形式 という。2 次形式 $x^2+4xy+y^2$ は対称行列を使って
$$ x^2+4xy+y^2=\begin{pmatrix}x&y\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&2\\2&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix} $$
と書け、この行列の固有値は $3$ と $-1$(固有ベクトル $(1,1)$ と $(1,-1)$)である。実際 $(x,y)=(1,1)$ では値 $6=3\cdot2$、$(1,-1)$ では $-2=(-1)\cdot2$ であり、固有値の符号が 2 次形式の値の符号を決めている。
2 次形式は、多変数関数の極値の判定(2 次の項)、2 次曲線・2 次曲面の分類、力学のエネルギー、統計の分散、整数論の「どの整数が $x^2+y^2$ の形に書けるか」といった問題に現れる。本記事では、体の標数が $2$ でない場合に 2 次形式と対称行列が 1 対 1 に対応すること、平方完成(Lagrange の方法)によって変数の 1 次変換で平方の和に直せること、実対称行列が直交行列で対角化できること(主軸定理)、対角化したときの正の係数と負の係数の個数が変わらないこと(Sylvester の慣性法則)、正定値であるための判定条件を証明する。

定義

以下、$K$ は体とする。標数が $2$ でないこと($2\ne0$、すなわち $\frac12\in K$)を仮定するときはそのつど明記する。$K^n$ の元は列ベクトルとし、$A^{\top}$ で転置行列を表す。

数ベクトル空間上の2次形式

$c_{ij}\in K$($1\le i\le j\le n$)を係数とする $n$ 変数の同次 2 次式
$$ q(x)=\sum_{1\le i\le j\le n}c_{ij}x_ix_j\qquad(x=(x_1,\dots,x_n)^{\top}\in K^n) $$
を $K^n$ 上の 2次形式(quadratic form)という。より一般に、$K$ 上の有限次元ベクトル空間 $V$ 上の双線形形式 $f$ から $q(v):=f(v,v)$ で定まる写像 $q\colon V\to K$ を $V$ 上の 2 次形式という。

基底 $e_1,\dots,e_n$ をとって $v=\sum_ix_ie_i$ と書くと、$f(v,v)=\sum_{i,j}f(e_i,e_j)x_ix_j$ は座標の同次 2 次式なので、2 つの定義は基底を通じて一致する。可換環上の加群の 2 次形式の一般の定義($q(ax)=a^2q(x)$ で、極形式 $q(x+y)-q(x)-q(y)$ が双線形であること)は 双線形写像 の記事の定義「加群上の2次形式と極形式」にある。双線形形式 $f$ から作った $f(v,v)$ はその意味の 2 次形式であり、$2$ が可逆なら逆に 2 次形式は対称な双線形形式とただ 1 つずつ対応する(同記事の命題「双線形形式から得られる2次形式」)。整数を係数とし整数の値を代入する 2 次形式(たとえば $x^2+y^2$)は整数論で扱われる(rem-qf-integer)。

実2次形式の符号

$K=\mathbb{R}$ とし、$q$ を $\mathbb{R}^n$(または有限次元の実ベクトル空間 $V$)上の 2 次形式とする。

  1. すべての $x\ne0$ で $q(x)>0$ のとき 正定値(positive definite)、すべての $x$ で $q(x)\ge0$ のとき 半正定値 という。
  2. すべての $x\ne0$ で $q(x)<0$ のとき 負定値、すべての $x$ で $q(x)\le0$ のとき 半負定値 という。
  3. 正の値と負の値の両方をとるとき 不定値(indefinite)という。
    実対称行列 $A$ は、2 次形式 $x^{\top}Ax$ が正定値のとき正定値行列であるという(半正定値なども同様)。

冒頭の $x^2+2xy+3y^2$ は正定値、$x^2+4xy+y^2$ は不定値である。

直感

1 変数の 2 次式 $ax^2$ の符号は $a$ の符号だけで決まる。変数が増えると $xy$ のような交差項が現れて符号が見えにくくなるが、座標を取り替えれば交差項を消し、$d_1y_1^2+\cdots+d_ny_n^2$ という平方の重み付き和に直すことができる(thm-qf-lagrange)。こうなれば符号は係数 $d_i$ の符号で決まる。
交差項の消し方は 2 通りある。平方完成を繰り返す方法は計算が簡単だが、座標軸の長さや角度を変えてしまう。実数の場合には、対称行列の固有ベクトルからなる正規直交基底をとる方法もあり、こちらは長さと角度を保ったまま(回転と鏡映だけで)交差項を消す(thm-qf-principal-axis)。2 次曲線 $q(x,y)=1$ で言えば、後者は楕円や双曲線の軸(主軸)を座標軸に合わせることにあたる。どちらの方法でも、正の係数と負の係数の個数は同じになる(thm-qf-sylvester)。これが 2 次形式の「符号」の正体である。

例と反例

平方完成で係数の符号を読む

$\mathbb{R}^3$ 上の $q=x^2+2y^2+z^2+2xy+2xz+6yz$ を考える。$x$ を含む項をまとめると
$$ q=(x+y+z)^2+y^2+4yz=(x+y+z)^2+(y+2z)^2-4z^2 $$
である(右辺を展開すると $q$ に戻る)。$y_1=x+y+z$、$y_2=y+2z$、$y_3=z$ とおけば $q=y_1^2+y_2^2-4y_3^2$ であり、この変数変換は逆に $z=y_3$、$y=y_2-2y_3$、$x=y_1-y_2+y_3$ と解けるので可逆である。係数は正が 2 個、負が 1 個なので $q$ は不定値である($(x,y,z)=(1,0,0)$ で $1$、$(1,-2,1)$ で $-4$)。$q$ の対称行列 $\begin{pmatrix}1&1&1\\1&2&3\\1&3&1\end{pmatrix}$ の固有値はおよそ $5.034$、$0.513$、$-1.548$ で、やはり正が 2 個、負が 1 個である(thm-qf-sylvester)。

対角成分がすべて 0 の場合

$q(x,y)=xy$ には $x^2$ も $y^2$ もないので、そのままでは平方完成できない。$x=u+v$、$y=u-v$ とおくと $q=u^2-v^2$ となる。この変換は $u=\frac{x+y}2$、$v=\frac{x-y}2$ と逆に解けるので、標数が $2$ でない体の上で可逆である。$\mathbb{R}$ 上では $xy$ は不定値であり($(1,1)$ で $1$、$(1,-1)$ で $-1$)、曲線 $xy=1$ は座標 $u,v$ で見ると双曲線 $u^2-v^2=1$ である。

反例:対角成分が正でも正定値とは限らない

$A=\begin{pmatrix}1&2\\2&1\end{pmatrix}$ の対角成分はどちらも正だが、冒頭で見たとおり $x^{\top}Ax=x^2+4xy+y^2$ は $(1,-1)$ で $-2<0$ となり、正定値でない。正定値な $q$ では $q(e_i)=a_{ii}>0$ なので対角成分はすべて正であるが、この例は「対角成分がすべて正」を満たすが「正定値である」を満たさず、逆の含意が成り立たないことを示す。正定値であるための正しい判定条件は thm-qf-positive-definite である(この $A$ では $\det A=-3<0$)。

反例:標数 2 では対称行列で表せない 2 次形式がある

2 元体 $\mathbb{F}_2$ 上の 2 次形式 $q(x,y)=xy$ は、どんな対称行列 $A=\begin{pmatrix}a&b\\b&d\end{pmatrix}$ を使っても $x^{\top}Ax$ と書けない。実際 $x^{\top}Ax=ax^2+2bxy+dy^2=ax^2+dy^2$($2=0$)であり、$\mathbb{F}_2$ では $x^2=x$ なので関数として $ax+dy$ である。$(x,y)=(1,0),(0,1),(1,1)$ で $xy$ の値は $0,0,1$ だから $a=d=0$ でなければならないが、そのとき $(1,1)$ での値は $0\ne1$ である。この例は「2 次形式である」を満たすが「対称行列 $A$ により $x^{\top}Ax$ と書ける」を満たさず、prop-qf-matrix の標数の仮定が省けないことを示す(双線形写像 の記事の例「反例:標数 2 では対称な双線形形式から来ない2次形式がある」も参照)。

性質

対称行列による表示

2次形式と対称行列の対応

$K$ の標数は $2$ でないとする。

  1. $K^n$ 上の任意の 2 次形式 $q$ に対し、すべての $x\in K^n$ で $q(x)=x^{\top}Ax$ となる対称行列 $A$($A^{\top}=A$)がただ 1 つ存在する。$q=\sum_{i\le j}c_{ij}x_ix_j$ なら $a_{ii}=c_{ii}$、$a_{ij}=a_{ji}=\frac12c_{ij}$($i< j$)である。
  2. $P\in M_n(K)$ について、$q(Py)=y^{\top}(P^{\top}AP)y$ であり、$P^{\top}AP$ も対称行列である。
交差項を半分ずつ分ける
  1. 存在:上の $A$ について $x^{\top}Ax=\sum_{i,j}a_{ij}x_ix_j=\sum_ia_{ii}x_i^2+\sum_{i< j}2a_{ij}x_ix_j=\sum_{i\le j}c_{ij}x_ix_j$ である。一意性:対称行列 $A,B$ がすべての $x$ で $x^{\top}Ax=x^{\top}Bx$ を満たすとする。$C:=A-B$ は対称で $x^{\top}Cx=0$ である。$x=e_i$(標準基底)とすると $c_{ii}=0$、$x=e_i+e_j$($i\ne j$)とすると $c_{ii}+2c_{ij}+c_{jj}=2c_{ij}=0$ であり、$2\ne0$ なので $c_{ij}=0$ である。よって $A=B$ である。
  2. $(Py)^{\top}A(Py)=y^{\top}P^{\top}APy$(行列 の記事の命題「転置と演算の関係」)であり、$(P^{\top}AP)^{\top}=P^{\top}A^{\top}P=P^{\top}AP$ である。$\square$

$A$ を $q$ の 行列 という。有限次元のベクトル空間 $V$ 上の 2 次形式 $q(v)=f(v,v)$ では、基底 $e_1,\dots,e_n$ に関する $q$ の行列を、対称な双線形形式 $\frac12\bigl(f(u,v)+f(v,u)\bigr)$ の行列 $\bigl(\tfrac12(f(e_i,e_j)+f(e_j,e_i))\bigr)$ と定める。2 の $P$ が正則行列のとき、$x=Py$ は変数の可逆な 1 次変換、すなわち基底の取り替え($P$ の列が新しい基底)であり、行列は $A$ から $P^{\top}AP$ に変わる(双線形写像 の記事の命題「基底による行列表示」の 3)。$P^{\top}AP$ の形の関係を行列の 合同 という。相似 $P^{-1}AP$ とは違い、合同では固有値は一般に変わる。

平方和への変形

平方完成による対角化

$K$ の標数は $2$ でないとする。$K^n$ 上の任意の 2 次形式 $q$(行列 $A$)に対し、正則行列 $P$ と $d_1,\dots,d_n\in K$ が存在して
$$ q(Py)=d_1y_1^2+d_2y_2^2+\cdots+d_ny_n^2,\qquad\text{すなわち}\qquad P^{\top}AP=\operatorname{diag}(d_1,\dots,d_n) $$
となる。

変数の個数についての帰納法

変数の可逆な 1 次変換を続けて行っても、合成はまた可逆な 1 次変換である(正則行列の積は正則。正則行列 の記事の命題「逆行列と演算」)ので、$q$ を可逆な 1 次変換で平方の重み付き和に直せばよい。$n$ についての数学的帰納法で示す。$n=1$ では $q=c_{11}x_1^2$ で既に平方の形である。$n\ge2$ とし、$n-1$ 変数では正しいとする。$q=0$ なら $P=I_n$ でよいので、$q\ne0$ とする。
場合 1:ある $a_{ii}\ne0$ のとき。変数の番号を入れ替えて(これも可逆な 1 次変換である)$a_{11}\ne0$ としてよい。$q$ のうち $x_1$ を含む項は $a_{11}x_1^2+\sum_{j\ge2}2a_{1j}x_1x_j$ なので
$$ q(x)=a_{11}\Bigl(x_1+\sum_{j\ge2}\frac{a_{1j}}{a_{11}}x_j\Bigr)^2+q'(x_2,\dots,x_n) $$
と書ける。ここで $q'$ は $q$ から右辺第 1 項を引いたもので、$x_1$ を含む項が打ち消し合うので $x_2,\dots,x_n$ だけの 2 次形式である。$z_1:=x_1+\sum_{j\ge2}(a_{1j}/a_{11})x_j$、$z_j:=x_j$($j\ge2$)は可逆な 1 次変換(逆は $x_1=z_1-\sum_{j\ge2}(a_{1j}/a_{11})z_j$)で、$q=a_{11}z_1^2+q'(z_2,\dots,z_n)$ となる。帰納法の仮定により $z_2,\dots,z_n$ の可逆な 1 次変換で $q'$ を平方の重み付き和にでき、$z_1$ はそのままにすれば全体も可逆である。
場合 2:すべての $a_{ii}=0$ のとき。$q\ne0$ なので $a_{ij}\ne0$($i< j$)がある。$x_i=u+v$、$x_j=u-v$ とおき、他の変数はそのままにする。これは可逆な 1 次変換(逆は $u=\frac{x_i+x_j}2$、$v=\frac{x_i-x_j}2$。ここで $2\ne0$ を使う)であり、新しい 2 次形式の $u^2$ の係数は、$u=1$、他の新しい変数を $0$ としたときの値、すなわち $x_i=x_j=1$、他を $0$ としたときの $q$ の値 $a_{ii}+2a_{ij}+a_{jj}=2a_{ij}\ne0$ である。よって新しい 2 次形式は場合 1 に帰着する。$\square$

この手順が Lagrange の方法 であり、ex-qf-lagrange と ex-qf-xy はその実行例である。対角化の結果の係数 $d_i$ は一意ではない。たとえば $y_1$ を $2y_1$ に取り替えれば $d_1$ は $4d_1$ に変わる。$\mathbb{R}$ 上では $d_i\ne0$ を $|d_i|$ の平方根で割って、係数を $1,-1,0$ だけにできる(線形代数学 の記事の定理「実2次形式の慣性法則」の形)。変わらないのは次の定理が示すとおり、正の係数と負の係数の個数である。

実対称行列の直交対角化

実対称行列の主軸定理

$A\in M_n(\mathbb{R})$ を対称行列とする。このとき $A$ の固有値はすべて実数であり、直交行列 $Q$($Q^{\top}Q=I_n$)が存在して
$$ Q^{\top}AQ=\operatorname{diag}(\lambda_1,\dots,\lambda_n) $$
となる。ここで $\lambda_1,\dots,\lambda_n$ は重複を込めた $A$ の固有値であり、$Q$ の第 $i$ 列 $u_i$ は固有値 $\lambda_i$ の固有ベクトルで、$u_1,\dots,u_n$ は $\mathbb{R}^n$ の正規直交基底である。したがって 2 次形式 $q(x)=x^{\top}Ax$ は $x=Qy$ によって $q=\lambda_1y_1^2+\cdots+\lambda_ny_n^2$ となる。

実の固有ベクトルを 1 つずつ取り出す

第 1 段:固有値は実数であり、実の固有ベクトルがある。$\lambda\in\mathbb{C}$ を $A$ の固有多項式 $p_A$ の複素数の根とし(代数学の基本定理)、$A$ を複素行列とみて $Av=\lambda v$ となる $v\in\mathbb{C}^n$、$v\ne0$ をとる(固有値 の記事の命題「固有空間と特性方程式」の 2)。$v^*:=\overline{v}^{\top}$ とすると $v^*Av=\lambda\,v^*v$ で、$v^*v=\sum_i|v_i|^2>0$ である。一方、$A$ は実対称なので $\overline{v^*Av}=v^{\top}A\overline{v}=(v^{\top}A\overline{v})^{\top}=\overline{v}^{\top}A^{\top}v=v^*Av$($1\times1$ 行列は転置で変わらない)であり、$v^*Av$ は実数である。よって $\lambda=v^*Av/v^*v$ は実数である。$\lambda$ が実数なので $\det(\lambda I_n-A)=0$ を実行列の等式とみて、同じ命題により $Au=\lambda u$ となる $u\in\mathbb{R}^n$、$u\ne0$ がとれる。$u$ を長さ $1$ に正規化しておく。
第 2 段:$n$ についての帰納法。$n=1$ では $Q=(1)$ でよい。$n\ge2$ とする。第 1 段の $u$ を、内積空間 の記事の定理「Gram–Schmidtの直交化法」により $\mathbb{R}^n$ の正規直交基底 $u,w_2,\dots,w_n$ に延長し、これらを列とする行列を $Q_1$ とする。$Q_1$ は直交行列である(正規直交基底 の記事の定理「正規直交基底の取り替えとユニタリ行列」を標準基底に当てはめる)。$B:=Q_1^{\top}AQ_1$ は対称であり($B^{\top}=Q_1^{\top}A^{\top}Q_1=B$)、$Q_1^{\top}Q_1=I_n$ から $Q_1^{\top}u=e_1$ なので、$B$ の第 1 列は $Be_1=Q_1^{\top}Au=\lambda Q_1^{\top}u=\lambda e_1$ である。$B$ は対称なので第 1 行も $(\lambda,0,\dots,0)$ であり、
$$ B=\begin{pmatrix}\lambda&0\\0&A'\end{pmatrix}\qquad(A'\in M_{n-1}(\mathbb{R})\text{ は対称}) $$
となる。帰納法の仮定により直交行列 $Q'$ で $Q'^{\top}A'Q'$ は対角行列になる。$S:=\begin{pmatrix}1&0\\0&Q'\end{pmatrix}$ は列が正規直交なので直交行列であり、$Q:=Q_1S$ も直交行列である($(Q_1S)^{\top}(Q_1S)=S^{\top}Q_1^{\top}Q_1S=S^{\top}S=I_n$)。区分けした行列の積により $Q^{\top}AQ=\begin{pmatrix}\lambda&0\\0&Q'^{\top}A'Q'\end{pmatrix}$ は対角行列である。
最後に、$Q^{\top}=Q^{-1}$ なので $Q^{\top}AQ$ は $A$ に相似(行列)であり、固有多項式は等しい(固有値 の記事の命題「固有多項式の相似不変性」)。対角行列 $D=\operatorname{diag}(\lambda_i)$ の固有多項式は $\prod_i(x-\lambda_i)$ なので、$\lambda_i$ は重複を込めた $A$ の固有値である。$AQ=QD$ の第 $i$ 列を比べて $Au_i=\lambda_iu_i$ である。$\square$

2 次形式の言葉では、正規直交基底 $u_1,\dots,u_n$ を新しい座標軸にとると交差項が消え、$q=\sum\lambda_iy_i^2$ となる。この座標軸を $q$ の 主軸 という。平方完成(thm-qf-lagrange)と違い、この変換は長さと角度を保つ($\|Qy\|=\|y\|$)。複素数の場合の一般化(正規行列のユニタリ対角化)は 線形代数学 の記事の定理「正規行列のユニタリ対角化」と スペクトル定理 に譲る。

慣性法則と符号数

実2次形式の係数の符号の不変性

$q$ を $n$ 次元の実ベクトル空間 $V$ 上の 2 次形式とし、$V$ の 2 つの基底 $f_1,\dots,f_n$ と $g_1,\dots,g_n$ について
$$ q\Bigl(\sum_iy_if_i\Bigr)=\sum_id_iy_i^2,\qquad q\Bigl(\sum_iy_ig_i\Bigr)=\sum_id'_iy_i^2\qquad(d_i,d'_i\in\mathbb{R}) $$
であるとする。このとき $d_1,\dots,d_n$ のうち正のものの個数と $d'_1,\dots,d'_n$ のうち正のものの個数は等しく、負のものの個数も等しい。とくに $V=\mathbb{R}^n$、$q(x)=x^{\top}Ax$ なら、どの対角化でも正の係数の個数は $A$ の正の固有値の個数(重複を込める)に、負の係数の個数は負の固有値の個数に等しい。

正の部分と非正の部分の次元を比べる

$d_i>0$ となる $i$ の個数を $p$、$d'_i>0$ となる $i$ の個数を $p'$ とし、$p>p'$ と仮定して矛盾を導く。$U:=\operatorname{span}\{f_i\mid d_i>0\}$、$W:=\operatorname{span}\{g_i\mid d'_i\le0\}$ とおくと、$\dim U=p$、$\dim W=n-p'$ である。$u=\sum_{d_i>0}y_if_i\in U$ が $0$ でなければ、ある $y_i\ne0$ なので $q(u)=\sum_{d_i>0}d_iy_i^2>0$ である。$w=\sum_{d'_i\le0}y_ig_i\in W$ なら $q(w)=\sum_{d'_i\le0}d'_iy_i^2\le0$ である。基底と次元 の記事の命題「部分空間の和と共通部分の次元」と $\dim(U+W)\le n$ により
$$ \dim(U\cap W)=\dim U+\dim W-\dim(U+W)\ge p+(n-p')-n=p-p'>0 $$
なので、$0$ でない $v\in U\cap W$ がある。すると $q(v)>0$ かつ $q(v)\le0$ となり矛盾する。よって $p\le p'$ であり、2 つの基底の役割を入れ替えて $p'\le p$ を得る。負の係数の個数については $-q$ に同じ議論を使えばよい。
後半は、thm-qf-principal-axis により $x=Qy$($Q$ の列 $u_1,\dots,u_n$ が基底)で $q=\sum\lambda_iy_i^2$ と対角化され、係数が重複を込めた固有値であることから従う。$\square$

この定理が Sylvester の慣性法則である。正の係数の個数 $p$ と負の係数の個数 $r$ の組 $(p,r)$ を $q$ の 符号数(signature、慣性指数)という($p-r$ を符号数と呼ぶ流儀もある)。$0$ の係数の個数は $n-p-r$ であり、$p+r$ は $A$ の階数(線形代数)に等しい($P$ が正則なら $P^{\top}AP$ と $A$ の階数は等しく、対角行列の階数は $0$ でない対角成分の個数だから)。$q$ が正定値であることは $(p,r)=(n,0)$、負定値であることは $(0,n)$、不定値であることは $p\ge1$ かつ $r\ge1$ と同値である。ex-qf-lagrange の $q$ の符号数は $(2,1)$ である。線形代数学 の記事の定理「実2次形式の慣性法則」は同じ内容を行列 $P^{\top}AP$ の形で述べたもので、対角化の存在は thm-qf-principal-axis(各 $y_i$ を $\sqrt{|\lambda_i|}$ で割り直せば係数は $1,-1,0$ になる)、$(p,r)$ の一意性と固有値の個数との一致は本定理が証明を与える。

正定値の判定

正定値であるための条件

$A\in M_n(\mathbb{R})$ を対称行列とし、$A_k$ を $A$ の左上の $k$ 次正方行列($k=1,\dots,n$)とする。次は同値である。

  1. $A$ は正定値である($x\ne0$ なら $x^{\top}Ax>0$)。
  2. $A$ の固有値はすべて正である。
  3. $\det A_k>0$($k=1,\dots,n$)。
主軸定理と次元の議論

1 ⇔ 2:thm-qf-principal-axis により $x=Qy$ で $x^{\top}Ax=\sum_i\lambda_iy_i^2$ である。$Q$ は正則なので $x\ne0$ と $y\ne0$ は同値である。すべての $\lambda_i>0$ なら $y\ne0$ で右辺は正である。ある $\lambda_i\le0$ なら $y=e_i$ で右辺は $\lambda_i\le0$ である。
1 ⇒ 3:$x=(x',0,\dots,0)$($x'\in\mathbb{R}^k$)とすると $x^{\top}Ax=x'^{\top}A_kx'$ なので、$A_k$ も正定値である。1 ⇒ 2 を $A_k$ に使うと $A_k$ の固有値はすべて正で、$A_k$ は主軸定理により対角行列に相似なので $\det A_k$ は固有値の積であり(相似な行列の行列式は等しい)、正である。
3 ⇒ 1:$n$ についての帰納法で示す。$n=1$ では $A=(a_{11})$、$a_{11}=\det A_1>0$ である。$n\ge2$ とすると、$A_{n-1}$ は $\det(A_{n-1})_k=\det A_k>0$($k\le n-1$)を満たすので、帰納法の仮定により正定値である。主軸定理の正規直交基底 $u_1,\dots,u_n$ と固有値 $\lambda_1,\dots,\lambda_n$ をとる。$0$ 以下の固有値が 2 つ以上、たとえば $\lambda_1,\lambda_2\le0$ だとする。$W:=\operatorname{span}\{u_1,u_2\}$(2 次元)の元 $w=c_1u_1+c_2u_2$ では $w^{\top}Aw=\lambda_1c_1^2+\lambda_2c_2^2\le0$ である($u_i^{\top}Au_j=\lambda_j\delta_{ij}$)。$H:=\{x\in\mathbb{R}^n\mid x_n=0\}$($n-1$ 次元)とすると、thm-qf-sylvester の証明と同じく $\dim(W\cap H)\ge2+(n-1)-n=1$ なので、$0$ でない $w\in W\cap H$ がある。ところが $H$ の $0$ でない元 $x=(x',0)$ では $x^{\top}Ax=x'^{\top}A_{n-1}x'>0$ であり、矛盾する。よって $0$ 以下の固有値は高々 1 つである。ちょうど 1 つなら、$\det A=\lambda_1\cdots\lambda_n$ は正の数と $0$ 以下の数 1 つの積で $0$ 以下となり、$\det A=\det A_n>0$ に反する。よって固有値はすべて正であり、1 ⇔ 2 により $A$ は正定値である。$\square$

条件 3 は Sylvester の判定法 と呼ばれる。$n=2$、$A=\begin{pmatrix}a&b\\b&c\end{pmatrix}$ では「$a>0$ かつ $ac-b^2>0$」であり、冒頭の $x^2+2xy+3y^2$($a=1$、$b=1$、$c=3$、$ac-b^2=2$)は正定値、$x^2+4xy+y^2$($ac-b^2=-3$)は正定値でない。負定値の判定は $-A$ に適用すればよく、条件は $(-1)^k\det A_k>0$ となる。

反例:半正定値は左上の小行列式では判定できない

$A=\begin{pmatrix}0&0\\0&-1\end{pmatrix}$ の左上の小行列式は $\det A_1=0$、$\det A_2=0$ で、どちらも $0$ 以上である。しかし $x^{\top}Ax=-x_2^2$ は $(0,1)$ で $-1$ となり、半正定値でない。この例は「左上の小行列式がすべて $0$ 以上」を満たすが「半正定値」を満たさないので、thm-qf-positive-definite の条件 3 の不等号 $>$ を $\ge$ に置き換えた判定法は成り立たない。半正定値であることは、固有値がすべて $0$ 以上であることと同値である(thm-qf-principal-axis から 1 ⇔ 2 と同じ議論で従う)。

補足

2次曲線の分類との関係

$q(x,y)=ax^2+2bxy+cy^2$($a,b,c\in\mathbb{R}$)について、主軸定理により回転(と鏡映)で座標を取り替えると $q=\lambda_1u^2+\lambda_2v^2$ となり、$\lambda_1\lambda_2=\det\begin{pmatrix}a&b\\b&c\end{pmatrix}=ac-b^2$ である。したがって曲線 $q(x,y)=1$ は、$ac-b^2>0$ かつ $a>0$ なら楕円($\lambda_1,\lambda_2>0$)、$ac-b^2<0$ なら双曲線($\lambda_1,\lambda_2$ の符号が異なる)である。$ac-b^2>0$ かつ $a<0$ なら $q$ は負定値で、曲線は空集合である。2 次曲面や、多変数関数の極値の判定(Hesse行列の定値性)も同じ考え方による。

整数係数の2次形式

整数論では、整数を係数とする 2 次形式にどの整数が「表現される」か(整数を代入して値として現れるか)が問題になる。たとえば $x^2+y^2$ が表す素数は $2$ と $4$ で割って $1$ 余る素数であり(Fermatの二平方定理)、$x^2+y^2+z^2+w^2$ はすべての自然数を表す(Lagrangeの四平方定理)。整数の範囲で考えるときは、変数の変換も整数係数で逆も整数係数のもの(行列式が $\pm1$ の整数行列。一般線形群 $\mathrm{GL}_n(\mathbb{Z})$)に限る。2 変数の整数係数の 2 次形式は $ax^2+bxy+cy^2$($xy$ の係数を $2b$ としない)と書き、判別式 $b^2-4ac$ で分類するのが普通である。

文献

2 次形式の定義と数ベクトル空間での表示は Axl24 9.18・9.20(p. 341)、対称な双線形形式による特徴づけは 9.21(p. 342)、基底をとって平方の重み付き和にできること(実内積空間では正規直交基底でできること)は 9.23(p. 343)とその前提の 9.12(p. 337)・9.13(p. 339)、実数の場合のスペクトル定理は 7.29(§7B、p. 245)にある(同書は $\mathbf{F}=\mathbb{R},\mathbb{C}$ で述べている)。本記事の慣性法則と正定値の判定の証明は、主軸定理と次元の議論から自前で組み立てたものである。

関連項目

参考文献

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