接触多様体(contact manifold)とは、奇数次元 $2n+1$ の多様体と、局所的に 1 次形式 $\alpha$ の核として書ける超平面の場 $\xi$ の組で、$\alpha\wedge(d\alpha)^n$ が至るところ $0$ でないものをいう。この条件は $d\alpha$ が各超平面の上で非退化であることと同値で、$\xi$ に接する部分多様体の次元は $n$ 以下に限られる。接触形式 $\alpha$ には $\alpha(R)=1$、$\iota_Rd\alpha=0$ で定まる Reeb ベクトル場 $R$ が付随し、その流れは $\alpha$ を保つ。接触形式は各点のまわりで標準形 $dz-\sum_iy_i\,dx_i$ に書けるので(接触形式の Darboux の定理)、局所的な不変量をもたない。
前提知識: 微分形式, Frobeniusの定理(可積分性), シンプレクティック多様体, Lie微分
接触多様体(contact manifold)とは、奇数次元 $2n+1$ の多様体 $M$ と、各点で接空間の超平面($2n$ 次元の部分空間)$\xi_p$ を滑らかに指定したもの $\xi$ の組で、$\xi$ を局所的に 1 次形式 $\alpha$ の核として書いたとき $\alpha\wedge(d\alpha)^n$ が至るところ $0$ でないものをいう。$\xi$ を 接触構造 という。たとえば $\mathbb{R}^3$ の各点 $(x,y,z)$ に、1 次形式 $dz-y\,dx$ の核である平面を指定すると、平面はつねに $y$ 軸の方向を含み、$y$ 方向に進むにつれてその方向の軸のまわりに回転していき、どの点を通る曲面もこれらの平面に接しつづけることはできない。
超平面の場 $\xi=\ker\alpha$ が Frobeniusの定理(可積分性) の意味で積分可能であることは $\alpha\wedge d\alpha=0$ と同値であり、そのとき $M$ は余次元 1 の葉層構造に分かれる。接触条件 $\alpha\wedge(d\alpha)^n\ne0$ はその反対の極端で、$\xi$ に接する部分多様体の次元は $n$ 以下に限られる。接触形式 $\alpha$ には Reeb ベクトル場 と呼ばれる特別なベクトル場が付随し、その流れは $\alpha$ を保つ。この記事の主定理は、接触形式が各点のまわりで標準形 $dz-\sum_iy_i\,dx_i$ になるという 接触形式の Darboux の定理 であり、シンプレクティック多様体 の Darboux の定理と同じく、接触形式には局所的な不変量がない。
この記事では、多様体は Hausdorff かつ第 2 可算な $C^\infty$ 級多様体とし、$M$ を $2n+1$ 次元($n\ge1$)とする。外積と外微分は 微分形式 の A 方式に従い、1 次形式 $\alpha$ とベクトル場 $X,Y$ について
$$
d\alpha(X,Y)=X(\alpha(Y))-Y(\alpha(X))-\alpha([X,Y])
$$
である。$\iota_X$ は内部積である。
超平面の場 とは、$M$ の階数 $2n$ の分布 $\xi$ のことをいう。各点 $p$ の近くでは、至るところ $0$ でない 1 次形式 $\alpha$ で $\xi=\ker\alpha$ となるものがある($\xi$ の局所枠 $X_1,\dots,X_{2n}$ に $p$ で $\xi_p$ に入らないベクトル場 $X_0$ を加えると、$p$ の近くで $TM$ の局所枠になる。その双対の余枠のうち $X_0$ に対応する 1 次形式をとればよい)。これを $\xi$ の 局所定義形式 という。2 つの局所定義形式 $\alpha,\alpha'$ は、共通の定義域の上で至るところ $0$ でない関数 $f$ によって $\alpha'=f\alpha$ と書ける($f:=\alpha'(X_0)/\alpha(X_0)$)。
(i) $M$ の上の 1 次形式 $\alpha$ が 接触形式 であるとは、$2n+1$ 次形式 $\alpha\wedge(d\alpha)^n$ が至るところ $0$ でないことをいう。ここで $(d\alpha)^n$ は $d\alpha$ の $n$ 個の外積である。
(ii) 超平面の場 $\xi$ が 接触構造 であるとは、$\xi$ の局所定義形式がすべて接触形式であることをいう。組 $(M,\xi)$ を 接触多様体 という。$\xi$ の(大域的な)定義形式で接触形式であるものを $\xi$ の接触形式という。
(iii) 接触多様体の間の微分同相写像 $\varphi\colon(M,\xi)\to(M',\xi')$ で、すべての $p$ で $d\varphi_p(\xi_p)=\xi'_{\varphi(p)}$ となるものを 接触同相写像 という。
$\alpha'=f\alpha$ なら $d\alpha'=df\wedge\alpha+f\,d\alpha$ であり、$\alpha\wedge\alpha=0$ から
$$
\alpha'\wedge(d\alpha')^n=f^{n+1}\,\alpha\wedge(d\alpha)^n
$$
となる。したがって、各点のまわりで 1 つの局所定義形式が接触形式であれば、局所定義形式はすべて接触形式である。接触条件は次のように超平面の上の条件に言い換えられる。
$V$ を $2n+1$ 次元の実ベクトル空間、$a\in V^*$ を $0$ でない 1 次形式、$b$ を $V$ の上の交代 2 次形式とする。$a\wedge b^n\ne0$ であることと、$b$ の $\ker a$ への制限が非退化であることは同値である。とくに 1 次形式 $\alpha$ が接触形式であることと、各点 $p$ で $d\alpha_p$ の $\ker\alpha_p$ への制限が非退化であることは同値である。
要点:$b$ を $a\wedge\beta+b'$($b'$ は $\ker a$ の上の形式の延長)に分けると $a\wedge b^n=a\wedge(b')^n$ となり、$2n$ 次元の空間の交代形式 $b'$ が非退化であることと $(b')^n\ne0$ は同値である。
$a(e_0)=1$ となる $e_0$ と $\ker a$ の基底 $e_1,\dots,e_{2n}$ をとり、双対基底を $e^0=a,e^1,\dots,e^{2n}$ とする。$b$ を基底 $e^i\wedge e^j$ で展開し、$e^0$ を含む項をまとめると $b=a\wedge\beta+b'$ と書ける。ここで $b'$ は $e^1,\dots,e^{2n}$ だけで書ける交代形式で、$\ker a$ の上では $b'=b$ である。$a\wedge b^n$ を展開すると $a\wedge\beta$ を因子にもつ項は $a\wedge a=0$ により消えるので、$a\wedge b^n=a\wedge(b')^n$ である。$(b')^n=c\,e^1\wedge\dots\wedge e^{2n}$ と書くと $a\wedge(b')^n=c\,e^0\wedge e^1\wedge\dots\wedge e^{2n}$ なので、$a\wedge b^n\ne0$ は $(b')^n\ne0$ と同値である。$2n$ 次元の空間 $\ker a$ の上の交代形式 $b'$ について、$(b')^n\ne0$ は $b'$ が非退化であることと同値である(シンプレクティック多様体 の定理「線形シンプレクティック形式の標準形」の 3)。$\square$
$\alpha'=f\alpha$ なら $\xi$ の上で $d\alpha'=f\,d\alpha$ なので、$d\alpha_p|_{\xi_p}$ は定数倍を除いて $\xi$ だけで決まる。lem-ct-linear により、接触構造とは、各 $\xi_p$ が $d\alpha_p$ によって $2n$ 次元のシンプレクティックベクトル空間になる超平面の場である。
$\mathbb{R}^{2n+1}$ の座標を $(x_1,\dots,x_n,y_1,\dots,y_n,z)$ とし、
$$
\alpha_0:=dz-\sum_{i=1}^ny_i\,dx_i
$$
とおく。$d\alpha_0=\sum_idx_i\wedge dy_i$ であり、$(d\alpha_0)^n=n!\,dx_1\wedge dy_1\wedge\dots\wedge dx_n\wedge dy_n$ はすべての $dx_i$ を含むので、
$$
\alpha_0\wedge(d\alpha_0)^n=n!\,dz\wedge dx_1\wedge dy_1\wedge\dots\wedge dx_n\wedge dy_n\ne0
$$
である。よって $\alpha_0$ は接触形式であり、$\xi_0:=\ker\alpha_0$ を 標準接触構造 という。$\xi_0$ は $X_i:=\partial_{x_i}+y_i\,\partial_z$、$Y_i:=\partial_{y_i}$ で張られ、$[Y_i,X_i]=\partial_z\notin\xi_0$ である。$n=1$ のとき、$e_1:=\partial_y$、$e_2:=\partial_x+y\,\partial_z$、$\partial_z$ の組は $\alpha_0(\partial_z)=1$、$d\alpha_0(\partial_z,\cdot)=0$、$[e_1,e_2]=\partial_z$ をみたし、微分形式 の例「座標によらない公式による計算」の状況を与える。
$Q$ を $n$ 次元の多様体、$\lambda$ を余接束 $T^*Q$ の標準 1 形式(シンプレクティック多様体 の命題「余接束の標準シンプレクティック形式」)とする。$\mathbb{R}\times T^*Q$ の上で $\alpha:=dz-\lambda$($z$ は $\mathbb{R}$ の座標)とおくと、$Q$ の座標 $q_i$ と余接ベクトルの成分 $p_i$ について $\alpha=dz-\sum_ip_i\,dq_i$ であり、ex-ct-standard と同じ計算で $\alpha$ は接触形式である。関数 $f\colon Q\to\mathbb{R}$ について $j^1f\colon q\mapsto(f(q),df_q)$ とおくと、$(j^1f)^*\alpha=df-\sum_i(\partial f/\partial q_i)\,dq_i=0$ である。
次の例では $\mathbb{R}^{2n+2}$ の座標を $(x_1,y_1,\dots,x_{n+1},y_{n+1})$ とし、$x_j+iy_j$ を複素座標として $\mathbb{C}^{n+1}$ と同一視する。$\langle\cdot,\cdot\rangle$ を標準内積、$J$ を $i$ 倍の写像($J\partial_{x_j}=\partial_{y_j}$、$J\partial_{y_j}=-\partial_{x_j}$)とする。$J$ は内積を保ち、$J^2=-1$ であり、$\langle Ju,v\rangle=-\langle u,Jv\rangle$ である。
$S:=S^{2n+1}=\{p\in\mathbb{R}^{2n+2}\mid\lvert p\rvert=1\}$ とし、$\mathbb{R}^{2n+2}$ の 1 次形式 $\lambda:=\sum_j(x_j\,dy_j-y_j\,dx_j)$ の $S$ への引き戻しを $\alpha$ とする。$\alpha$ は $S$ の接触形式であり、$\xi_p=\ker\alpha_p$ は $p$ と $Jp$ に直交するベクトルの全体である。
要点:$\lambda_p(v)=\langle Jp,v\rangle$ と $d\lambda(u,v)=2\langle Ju,v\rangle$ により、$\xi_p$ は $J$ で保たれる部分空間で、$u\in\xi_p$ について $d\alpha(u,Ju)=2\lvert u\rvert^2$ となる。
成分を比べると $\lambda_p(v)=\sum_j(x_jv_{y_j}-y_jv_{x_j})=\langle Jp,v\rangle$ である。$T_pS=p^\perp$ であり、$\langle Jp,p\rangle=-\langle p,Jp\rangle$ より $Jp\in T_pS$、$\alpha_p(Jp)=\lvert p\rvert^2=1$ なので $\alpha$ は至るところ $0$ でなく、$\xi_p=\{v\mid\langle v,p\rangle=\langle v,Jp\rangle=0\}$ である。$v\in\xi_p$ なら $\langle Jv,Jp\rangle=\langle v,p\rangle=0$、$\langle Jv,p\rangle=-\langle v,Jp\rangle=0$ なので $Jv\in\xi_p$ である。
$d\lambda=2\sum_jdx_j\wedge dy_j$ であり、基底で比べると $\sum_jdx_j\wedge dy_j(u,v)=\langle Ju,v\rangle$ である。引き戻しは外微分と可換なので $d\alpha$ は $d\lambda$ の引き戻しであり、$0\ne u\in\xi_p$ について $Ju\in\xi_p$ かつ $d\alpha(u,Ju)=2\langle Ju,Ju\rangle=2\lvert u\rvert^2\ne0$ である。よって $d\alpha_p$ は $\xi_p$ の上で非退化であり、lem-ct-linear により $\alpha$ は接触形式である。$\square$
$\alpha$ を $M$ の接触形式とする。
要点:$A(v):=\iota_vd\alpha+\alpha(v)\,\alpha$ で定まるベクトル束の写像 $A\colon TM\to T^*M$ は、$d\alpha$ が $\xi$ の上で非退化であることから同型になり、$R:=A^{-1}(\alpha)$ が 1 の条件をみたすただ 1 つのベクトル場である。3 は Cartan の公式 $\mathcal{L}_R\alpha=d(\iota_R\alpha)+\iota_Rd\alpha=0$ による。
各点 $p$ で線形写像 $A_p\colon T_pM\to T_p^*M$ を $A_p(v):=\iota_vd\alpha_p+\alpha_p(v)\,\alpha_p$ で定める。$A_p(v)=0$ なら、$v$ に値をとらせて $d\alpha_p(v,v)+\alpha_p(v)^2=\alpha_p(v)^2=0$ となり、$v\in\xi_p$ かつ $\iota_vd\alpha_p=0$ である。とくに $d\alpha_p(v,\cdot)$ は $\xi_p$ の上で $0$ なので、lem-ct-linear の非退化性から $v=0$ である。よって $A_p$ は同型であり、$A$ はベクトル束の滑らかな同型 $TM\to T^*M$ で、局所枠で表した行列の逆行列も滑らかである。
$R:=A^{-1}(\alpha)$ とおく。$\alpha(R)=c$ とすると、$\iota_Rd\alpha=(1-c)\alpha$ に $R$ を入れて $0=(1-c)c$ である。$c=0$ なら $R\in\xi$ かつ $\iota_Rd\alpha=\alpha$ であり、$\xi$ の上では右辺は $0$ なので非退化性から $R=0$、すると $\alpha=A(0)=0$ となり矛盾する。よって $c=1$、$\iota_Rd\alpha=0$ である。逆に 1 の条件をみたす $R'$ は $A(R')=\alpha$ をみたすので、$A$ の単射性から $R'=R$ である。
2:$\iota_vd\alpha_p=0$ なら $A_p(v)=\alpha_p(v)\alpha_p=A_p(\alpha_p(v)R_p)$ なので $v=\alpha_p(v)R_p$ である。$\alpha_p(R_p)=1$ なので $R_p\notin\xi_p$ であり、$\xi_p$ は超平面なので $T_pM=\xi_p\oplus\mathbb{R}R_p$ である。
3:Lie微分 の定理「Cartan の公式」により $\mathcal{L}_R\alpha=d(\iota_R\alpha)+\iota_Rd\alpha=d(1)+0=0$ である。同記事の命題「流れによる不変性と Lie 微分」により $\varphi_t^*\alpha=\alpha$ であり、$d\varphi_t$ は $\ker\alpha$ を $\ker\alpha$ に写す。$\square$
Reeb ベクトル場は接触構造 $\xi$ だけでなく接触形式 $\alpha$ によって決まる。ex-ct-standard の $\alpha_0$ の Reeb ベクトル場は $\partial_z$ であり、流れは $z$ 方向の平行移動である。ex-ct-sphere の $\alpha$ の Reeb ベクトル場は $R_p=Jp$ である($\alpha(Jp)=1$、$v\in T_pS$ について $d\alpha(Jp,v)=2\langle J^2p,v\rangle=-2\langle p,v\rangle=0$)。その流れは $p\mapsto e^{it}p$ で、軌道は Hopfファイブレーション のファイバーである円周 $\{e^{it}p\}$ である。
$(M,\xi)$ を $2n+1$ 次元の接触多様体とする。
要点:1 は $\alpha([X,Y])=-d\alpha(X,Y)$ と $d\alpha|_\xi$ の非退化性による。2 は $\iota^*\alpha=0$ から $\iota^*d\alpha=0$ となり、$T_qN$ が $2n$ 次元のシンプレクティックベクトル空間 $(\xi_q,d\alpha_q)$ の等方部分空間になることによる。
1:$\alpha(X)=\alpha(Y)=0$ なので、外微分の式から $\alpha([X,Y])=-d\alpha(X,Y)$ であり、$p$ で $0$ でない。空でない開集合 $U$ と $p\in U$ をとり、$p$ の近くの $\xi$ の局所枠 $X_1,\dots,X_{2n}$ をとる。lem-ct-linear により $d\alpha_p$ は $\xi_p$ の上で非退化なので($n\ge1$ に注意)、定数 $a_i,b_i$ で $X:=\sum_ia_iX_i$、$Y:=\sum_ib_iX_i$ が $d\alpha_p(X_p,Y_p)\ne0$ をみたすものがある。$X,Y$ は $\xi$ に値をとるが $[X,Y]_p\notin\xi_p$ なので、$\xi$ は $U$ の上で包合的でない。
2:$q\in N$ のまわりで局所定義形式 $\alpha$ をとり、包含写像を $\iota$ とする。$T N\subset\xi$ なので $\iota^*\alpha=0$ であり、引き戻しと外微分の可換性から $\iota^*d\alpha=d\iota^*\alpha=0$ である。よって $W:=T_qN$ は $2n$ 次元のシンプレクティックベクトル空間 $(\xi_q,d\alpha_q)$ の等方部分空間($W\subset W^{\omega}$)であり、シンプレクティック多様体 の定理「線形シンプレクティック形式の標準形」の 2 により $2\dim W\le\dim W+\dim W^\omega=2n$ である。$\square$
接触多様体 $(M,\xi)$ の $n$ 次元のはめ込まれた部分多様体 $N$ で、各点 $q$ で $T_qN\subset\xi_q$ となるものを Legendre 部分多様体 という。$n=1$ のとき Legendre 曲線 ともいう。
ex-ct-standard では $\{y=0,\ z=0\}$ と $\{x=c,\ z=c'\}$ が Legendre 部分多様体であり($\alpha_0$ の引き戻しが $0$)、ex-ct-jet の $j^1f$ の像も Legendre 部分多様体である。thm-ct-legendre の 2 から、接触構造は余次元 1 の葉層構造の接分布にはなりえない。
$\alpha$ を $2n+1$ 次元の多様体 $M$ の接触形式、$p\in M$ とする。$p$ のまわりの座標 $(x_1,\dots,x_n,y_1,\dots,y_n,z)$ で、$p$ を原点に写し、その定義域の上で
$$
\alpha=dz-\sum_{i=1}^ny_i\,dx_i
$$
となるものがある。
証明の考え方は、Reeb ベクトル場の方向をまっすぐにし、それに横断的な $2n$ 次元の切り口の上では $d\alpha$ がシンプレクティック形式になることを使うものである。切り口で シンプレクティック多様体 の Darboux の定理を使い、その座標を Reeb ベクトル場の方向に一定に延ばすと、$\alpha+\sum_iy_i\,dx_i$ が閉形式になり、その原始関数が残りの座標 $z$ になる。
段 1(Reeb ベクトル場をまっすぐにする). $R$ を $\alpha$ の Reeb ベクトル場とする。$R_p\ne0$ なので、ベクトル場の流れ の定理「整流定理」により、$p$ のまわりの座標 $(V;u^0,u^1,\dots,u^{2n})$ で $V$ の上で $R=\partial/\partial u^0$ となるものがある。平行移動して $u(p)=0$ とし、$V$ を小さくして $u(V)=(-\varepsilon,\varepsilon)\times B$($B$ は $\mathbb{R}^{2n}$ の原点中心の開球)としてよい。$Y:=\{u^0=0\}$ は $V$ の $2n$ 次元の部分多様体で、$(u^1,\dots,u^{2n})$ がその座標を与える。包含写像を $j\colon Y\to M$ とする。
段 2(切り口のシンプレクティック形式). $\sigma:=j^*d\alpha=d(j^*\alpha)$ は $Y$ の上の閉形式である。非退化性を示す。$q\in Y$ と $v\in T_qY$ について、$v$ が $T_qY$ のすべての元と $d\alpha_q$ の値 $0$ をとるとする。$T_qM=T_qY\oplus\mathbb{R}R_q$ であり、$d\alpha_q(v,R_q)=-d\alpha_q(R_q,v)=0$ なので $\iota_vd\alpha_q=0$ である。thm-ct-reeb の 2 により $v\in\mathbb{R}R_q$ であり、$v\in T_qY$ なので $v=0$ である。よって $\sigma$ は $Y$ のシンプレクティック形式である。
段 3(切り口の Darboux 座標を延ばす). シンプレクティック多様体 の定理「Darboux の定理」により、$p$ を原点に写す $Y$ の座標 $(\hat x_1,\dots,\hat x_n,\hat y_1,\dots,\hat y_n)$ で $\sigma=\sum_id\hat x_i\wedge d\hat y_i$ となるものがある。$B$ を小さくして、この座標が $Y$ の $u$ 座標で $\{0\}\times B$ にあたる部分の上で定義されているとしてよい。$V$ の上の関数 $x_i,y_i$ を、$u$ 座標が $(u^0,u')$ の点での値が $u$ 座標が $(0,u')$ の点での $\hat x_i,\hat y_i$ の値になるように定める。これらは $u^0$ によらないので $Rx_i=Ry_i=0$ であり、$j^*x_i=\hat x_i$、$j^*y_i=\hat y_i$ である。
段 4(差が閉じていること). $V$ の上で $\beta:=\alpha+\sum_iy_i\,dx_i$ とおき、$\eta:=d\beta=d\alpha-\sum_idx_i\wedge dy_i$ が $0$ であることを示す。$\iota_R(dx_i\wedge dy_i)=(Rx_i)\,dy_i-(Ry_i)\,dx_i=0$ と $\iota_Rd\alpha=0$ から $\iota_R\eta=0$ である。$u$ 座標で $\eta=\sum_{a< b}\eta_{ab}\,du^a\wedge du^b$ と書くと、$\iota_R\eta=\sum_{b>0}\eta_{0b}\,du^b=0$ なので $\eta_{0b}=0$ である。$d\eta=0$ の $du^0\wedge du^a\wedge du^b$($0< a< b$)の係数をみると
$$
\partial_0\eta_{ab}-\partial_a\eta_{0b}+\partial_b\eta_{0a}=0
$$
なので $\partial_0\eta_{ab}=0$ であり、$\eta_{ab}$ は $u^0$ によらない。$u^0=0$ では $\eta_{ab}$($0< a< b$)は $j^*\eta=\sigma-\sum_id\hat x_i\wedge d\hat y_i=0$ の成分なので $0$ である。よって $V$ の上で $\eta=0$ である。
段 5($z$ を作る). $u(V)=(-\varepsilon,\varepsilon)\times B$ は凸なので、微分形式 の定理「Poincaré の補題」により $\beta=dz$ となる関数 $z$ が $V$ の上にある。定数を引いて $z(p)=0$ とする。このとき $V$ の上で $\alpha=dz-\sum_iy_i\,dx_i$ である。
段 6(座標であること). $p$ では $y_i(p)=0$ なので $dz(R_p)=\alpha(R_p)=1$ であり、$dx_i(R_p)=dy_i(R_p)=0$ である。$\sum_i(a_i\,dx_i+b_i\,dy_i)+c\,dz=0$ が $p$ で成り立つとすると、$R_p$ に値をとらせて $c=0$ であり、$T_pY$ に制限すると $\hat x_i,\hat y_i$ が座標であることから $a_i=b_i=0$ である。よって $2n+1$ 個の関数の微分は $p$ で 1 次独立であり、逆関数定理により $(x,y,z)$ は $p$ の近くの座標で、$p$ を原点に写す。$\square$
とくに $(M,\xi)$ の各点のまわりには、$\xi$ を標準接触構造 $\xi_0$ に写す接触同相写像がある。この座標で $\partial_z$ は Reeb ベクトル場になる。
$\alpha$ を $M$ の接触形式とし、$\mathbb{R}\times M$ の上で $t$ を $\mathbb{R}$ の座標、$\alpha$ を射影による引き戻しとみる。2 次形式 $\omega:=d(e^t\alpha)$ は $\mathbb{R}\times M$ のシンプレクティック形式である。$N\subset M$ が Legendre 部分多様体なら、$\mathbb{R}\times N$ の包含写像は $(\mathbb{R}\times M,\omega)$ への Lagrange はめ込みであり、とくに $N$ が部分空間位相をもつ部分多様体なら $\mathbb{R}\times N$ は Lagrange部分多様体 である。
要点:$\omega=e^t(dt\wedge\alpha+d\alpha)$ について $\omega^{n+1}=(n+1)e^{(n+1)t}\,dt\wedge\alpha\wedge(d\alpha)^n\ne0$ である。
$\omega=e^t(dt\wedge\alpha+d\alpha)$ は完全形式なので閉じている。$A:=dt\wedge\alpha$、$B:=d\alpha$ は偶数次なので互いに可換で、$A\wedge A=0$ であるから、$(A+B)^{n+1}=B^{n+1}+(n+1)A\wedge B^n$ である。$B^{n+1}$ は $2n+1$ 次元の $M$ の上の $2n+2$ 次形式の引き戻しなので $0$ である。$A\wedge B^n=dt\wedge\alpha\wedge(d\alpha)^n$ は、$M$ の座標 $u$ と $t$ を合わせた座標で $dt$ と $0$ でない $(2n+1)$ 次形式 $\alpha\wedge(d\alpha)^n$ の外積なので $0$ でない。よって $\omega^{n+1}=(n+1)e^{(n+1)t}\,dt\wedge\alpha\wedge(d\alpha)^n\ne0$ であり、シンプレクティック多様体 の定理「線形シンプレクティック形式の標準形」の 3 により $\omega$ は各点で非退化である。
$N$ が Legendre 部分多様体なら、包含写像 $\iota\colon N\to M$ ははめ込みなので $\mathrm{id}\times\iota\colon\mathbb{R}\times N\to\mathbb{R}\times M$ もはめ込みである。$e^t\alpha$ の $\mathbb{R}\times N$ への引き戻しは $0$ なので $\omega$ の引き戻しも $0$ であり、$\dim(\mathbb{R}\times N)=n+1$ は $\dim(\mathbb{R}\times M)=2n+2$ の半分である。よって $\mathrm{id}\times\iota$ は Lagrange はめ込みである。$N$ が部分空間位相をもつ部分多様体なら、$\iota$ は像の上への同相写像なので $\mathrm{id}\times\iota$ もそうであり、$\mathbb{R}\times N$ は部分空間位相をもつ部分多様体(はめ込みと埋め込み(可微分多様体) の定理「埋め込みの像は部分多様体」)で、Lagrange 部分多様体である。$\square$
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $\alpha\wedge d\alpha$ が至るところ $0$ でない | $\mathbb{R}^3$ の $\alpha=dz+x^2\,dy$($x=0$ で $\alpha\wedge d\alpha=0$) | Reeb ベクトル場の一意性 |
| $\alpha\wedge d\alpha\ne0$($\alpha\ne0$ だけにする) | $\mathbb{R}^3$ の $\alpha=dz$ | $\xi$ に接する部分多様体の次元は $n$ 以下 |
| Reeb ベクトル場の条件 $\iota_Rd\alpha=0$ | $(\mathbb{R}^3,\alpha_0)$ の $X=\partial_z+\partial_y$ | 流れが $\alpha$ を保つ |
1 行目:$d\alpha=2x\,dx\wedge dy$、$\alpha\wedge d\alpha=2x\,dx\wedge dy\wedge dz$ は $x\ne0$ では $0$ でないが(満たす性質:その範囲で接触形式)、$x=0$ で $0$ になる(満たさない性質)。$x=0$ の点では $d\alpha=0$ なので、$\alpha(v)=1$ をみたすベクトル、たとえば $\partial_z$ と $\partial_z+\partial_x$ のどちらも $\iota_vd\alpha=0$ をみたし、Reeb ベクトル場の条件をみたすベクトルは 1 つに決まらない。同じ理由で、$x=0$ の点のまわりに thm-ct-darboux の座標はない(その座標では $\alpha\wedge d\alpha\ne0$ となる)。
2 行目:$\alpha=dz$ は至るところ $0$ でないが $d\alpha=0$ なので $\alpha\wedge d\alpha=0$ である。平面 $\{z=c\}$ は $\ker\alpha$ に接する 2 次元の部分多様体で、$n=1$ を超える。
3 行目:$\alpha_0=dz-y\,dx$ について $\alpha_0(X)=1$ だが(満たす性質)、$\iota_Xd\alpha_0=\iota_{\partial_y}(dx\wedge dy)=-dx\ne0$ である(満たさない性質)。Cartan の公式により $\mathcal{L}_X\alpha_0=d(1)-dx=-dx\ne0$ なので、Lie微分 の命題「流れによる不変性と Lie 微分」により $X$ の流れは $\alpha_0$ を保たない。
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