モジュラー群

同義語:楕円モジュラー群modular group

概要

モジュラー群(modular group)とは、整数を成分とする行列式 $1$ の $2$ 次正方行列の群 $\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ のことであり、1 次分数変換として上半平面に作用する。$\pm I$ で割った $\operatorname{PSL}_2(\mathbb{Z})$ は位数 $2$ と位数 $3$ の巡回群の自由積であり、ここから表示、位数 $12$ と $6$ のアーベル化、有限位数の元の共役類が決まる。法 $N$ への還元は全射で、合同部分群 $\Gamma(N)$、$\Gamma_1(N)$、$\Gamma_0(N)$ の指数は明示的に計算できる。格子・楕円曲線・モジュラー形式の理論の土台となる群である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 特殊線形群, 群の作用, 自由積, 上半平面

モジュラー群(modular group)は、整数を成分とする行列式 $1$ の $2$ 次正方行列の群 $\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ である。1 次分数変換 $\tau\mapsto(a\tau+b)/(c\tau+d)$ として上半平面に作用し、格子の形・楕円曲線・モジュラー形式の理論の土台になる。群としては驚くほど単純で、$\pm I$ で割った $\operatorname{PSL}_2(\mathbb{Z})$ は位数 $2$ と位数 $3$ の巡回群の自由積である(thm-mod-free-product)。ここから表示・アーベル化・有限位数の元がすべて決まる(cor-mod-sl2-presentation、cor-mod-abelianization、thm-mod-torsion)。また、成分を $N$ で割った余りで条件を付けた合同部分群 $\Gamma(N)$、$\Gamma_0(N)$、$\Gamma_1(N)$ の指数は、法 $N$ への還元が全射であること(thm-mod-reduction)から明示的に計算できる(cor-mod-index)。
上半平面への作用の基本、とくに基本領域と生成元 $S,T$ は 上半平面 の記事で扱う。この記事はその結果を引いて、群としての構造と合同部分群を調べる。

定義

モジュラー群

$$ \operatorname{SL}_2(\mathbb{Z}):=\left\{\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\ \middle|\ a,b,c,d\in\mathbb{Z},\ ad-bc=1\right\} $$
をモジュラー群という。中心 $\{\pm I\}$ による剰余群
$$ \operatorname{PSL}_2(\mathbb{Z}):=\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})/\{\pm I\} $$
を射影モジュラー群ともいう。$\gamma\in\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ の $\operatorname{PSL}_2(\mathbb{Z})$ での像を $\bar\gamma$ と書く。特別な元
$$ S:=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix},\qquad T:=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix},\qquad U:=ST=\begin{pmatrix}0&-1\\1&1\end{pmatrix} $$
を固定する。

$\gamma=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ は $\mathbb{R}\cup\{\infty\}$ と上半平面 $\mathfrak{H}$ に 1 次分数変換 $\gamma x=(ax+b)/(cx+d)$ で作用し、$\pm I$ は自明に働くので、この作用は $\operatorname{PSL}_2(\mathbb{Z})$ の作用とみなせる。$\operatorname{PSL}_2(\mathbb{Z})$ の作用は忠実である(上半平面 の記事の命題「作用の基本性質」の 3)。$S x=-1/x$、$T x=x+1$、$U x=-1/(x+1)$ である。

呼び方の違い

$\operatorname{PSL}_2(\mathbb{Z})$ のほうをモジュラー群と呼ぶ文献も多い(特殊線形群 の記事もその流儀である)。$\mathfrak{H}$ に忠実に作用するのは $\operatorname{PSL}_2(\mathbb{Z})$ だからである。この記事では、行列の群を指すときは $\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$、変換の群を指すときは $\operatorname{PSL}_2(\mathbb{Z})$ と書き分ける。行列式 $\pm1$ の整数行列の群 $\operatorname{GL}_2(\mathbb{Z})$ を拡大モジュラー群と呼ぶこともある。

合同部分群

正の整数 $N$ に対し、$\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ の部分群
$$ \begin{aligned} \Gamma(N)&:=\left\{\gamma\in\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})\ \middle|\ \gamma\equiv\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}\pmod N\right\},\\ \Gamma_1(N)&:=\left\{\gamma\in\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})\ \middle|\ \gamma\equiv\begin{pmatrix}1&*\\0&1\end{pmatrix}\pmod N\right\},\\ \Gamma_0(N)&:=\left\{\gamma\in\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})\ \middle|\ \gamma\equiv\begin{pmatrix}*&*\\0&*\end{pmatrix}\pmod N\right\} \end{aligned} $$
を定める(合同は成分ごと、$*$ は任意)。$\Gamma(N)$ を主合同部分群(principal congruence subgroup)という。ある $N$ について $\Gamma(N)$ を含む部分群を合同部分群(congruence subgroup)という。

$\Gamma(N)$ は環準同型 $\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/N\mathbb{Z}$ が引き起こす群準同型 $\pi_N\colon\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})\to\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})$ の核なので正規部分群であり、$\Gamma(N)\subset\Gamma_1(N)\subset\Gamma_0(N)\subset\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ である。$\Gamma_0(N)$ は $\Gamma(N)$ を含むので合同部分群である。

直感

$\operatorname{GL}_2(\mathbb{Z})$ は、平面の格子 $\mathbb{Z}^2$ の基底の取り替えの全体である。基底を取り替えても基本平行四辺形の面積は変わらないので行列式は $\pm1$ であり(1次変換と行列式:面積の拡大率)、向きも保つものが $\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ である。格子の形を基底の比 $\tau\in\mathfrak{H}$ で表すと、基底の取り替えは $\tau$ への 1 次分数変換になる。
$\mathfrak{H}$ の上で、$S$ は点 $i$ のまわりの半回転、$U$ は点 $\rho=e^{2\pi i/3}$ のまわりの $1/3$ 回転のようにふるまう。$\mathfrak{H}$ は基本領域の像で隙間なく敷き詰められ、群の元はこの敷き詰めの中の道をたどる。道は戻らない限り元の場所に帰れないので、$S$ と $U$ の間には $S^2=U^3=1$($\operatorname{PSL}_2(\mathbb{Z})$ の中で)以外の関係がない。これが自由積の構造である。証明では、この直観を実数直線上の「正の無理数」と「負の無理数」の行き来に置き換える。

生成元と自由積の構造

$\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ は $S$ と $T$ で生成される(特殊線形群 の記事の命題「$\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})$ の 2 つの生成元」。上半平面 の記事の定理「$\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ の生成元」は基本領域による別証明)。$T=S^{-1}U$ なので $S$ と $U$ でも生成される。行列の積で
$$ S^2=-I,\qquad U^2=\begin{pmatrix}-1&-1\\1&0\end{pmatrix},\qquad U^3=-I $$
となるから、$\bar S$ の位数は $2$、$\bar U$ の位数は $3$ である。

$\operatorname{PSL}_2(\mathbb{Z})$ は自由積

位数 $2$ の巡回群 $C_2=\langle a\rangle$ と位数 $3$ の巡回群 $C_3=\langle b\rangle$ の自由積から $\operatorname{PSL}_2(\mathbb{Z})$ への準同型 $\varphi$ で $\varphi(a)=\bar S$、$\varphi(b)=\bar U$ となるものがただ 1 つあり、$\varphi$ は同型である:
$$ \operatorname{PSL}_2(\mathbb{Z})\cong C_2\ast C_3=\langle a,b\mid a^2,\ b^3\rangle . $$

$\bar S^2=1$、$\bar U^3=1$ なので、自由積の普遍性(自由積 の記事の命題「自由積は群の圏の余積」)から $\varphi$ がただ 1 つ定まる。$\operatorname{PSL}_2(\mathbb{Z})$ は $\bar S,\bar U$ で生成されるので $\varphi$ は全射である。
単射性を示す。$C_2\ast C_3$ の単位元でない元は、$a$ と $b^{e}$($e\in\{1,2\}$)を交互に並べた簡約語でただ 1 通りに書ける(自由積 の記事の定理「簡約語の集合は群をなす」)。無理数全体 $\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q}$ を考える。有理数係数の 1 次分数変換は無理数を無理数に移すので、$\operatorname{PSL}_2(\mathbb{Z})$ は $\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q}$ に作用する。正の無理数の集合を $P$、負の無理数の集合を $N$ とすると、次が成り立つ。

  • $x\in N$ なら $Sx=-1/x\in P$。
  • $x\in P$ なら $Ux=-1/(x+1)\in(-1,0)$、$U^2x=-1-1/x\in(-\infty,-1)$ で、どちらも $N$ に入る。
    (i) $g=b^{e_1}ab^{e_2}a\cdots ab^{e_k}$($k\ge1$、両端が $b$ の冪)の形のとき。右から順に作用させると、$b^{e_k}$ で $P$ が $N$ に入り、$a$ で $N$ が $P$ に入り、…と交互に移って、最後の $b^{e_1}$ で $N$ に入る。よって $\varphi(g)(P)\subset N$ である。$P\neq\emptyset$、$P\cap N=\emptyset$ なので $\varphi(g)$ は恒等変換でなく、$\varphi(g)\neq1$ である。
    (ii) 残りの形は (i) に帰着する。$g=a$ なら $\varphi(g)=\bar S\neq1$。$g=aha$ の形(両端が $a$、$h$ は (i) の形)なら $\varphi(g)$ は $\varphi(h)\neq1$ の共役である。$g=ab^{e_1}\cdots ab^{e_k}$(左端が $a$、右端が $b^{e_k}$)なら、$e\in\{1,2\}$ を $e\neq e_k$ に選ぶと
    $$ b^{e}gb^{-e}=b^{e}ab^{e_1}\cdots ab^{e_k-e} $$
    は $e_k-e\not\equiv0\pmod 3$ なので (i) の形の簡約語であり、$\varphi(g)$ はその像の共役だから $1$ でない。左端が $b$ の冪で右端が $a$ の語は、逆元がこの形である。以上で $\varphi$ の核は自明である。$\square$

Voi21 Remark 35.1.20(p. 655)によれば、無理数への作用を使うこの証明は Alperin による。$\mathfrak{H}$ の敷き詰めを使う証明は Voi21 Lemma 35.1.17(pp. 653–654)にある。

$\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ の表示

$s\mapsto S$、$u\mapsto U$ により
$$ \operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})\cong\langle s,u\mid s^4,\ s^2u^{-3}\rangle $$
である。すなわち $\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ は $S,U$ で生成され、関係はすべて $S^4=I$ と $S^2=U^3$ から従う。

右辺を $H$ とする。$S^4=I$、$S^2=-I=U^3$ なので準同型 $\psi\colon H\to\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ が定まり、$S,U$ が生成するので全射である。$z:=s^2$ は $s$ と可換で、$z=u^3$ なので $u$ とも可換だから、$H$ の中心に入り、$z^2=s^4=1$ である。$H/\langle z\rangle$ は関係子 $s^2$ を加えた表示 $\langle s,u\mid s^2,\ u^3\rangle$ をもち(群の表示 の記事の命題「関係子を加える操作」)、これは $C_2\ast C_3$ である(自由積 の記事の系「群の表示による自由積の記述」)。$\psi$ と $\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})\to\operatorname{PSL}_2(\mathbb{Z})$ の合成は $H/\langle z\rangle\to\operatorname{PSL}_2(\mathbb{Z})$ を引き起こし、これは thm-mod-free-product の同型 $\varphi$ である。よって $\ker\psi\subset\langle z\rangle=\{1,z\}$ で、$\psi(z)=S^2=-I\neq I$ なので $\ker\psi=\{1\}$ である。$\square$

この表示は、$\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ が位数 $4$ の巡回群 $\langle S\rangle$ と位数 $6$ の巡回群 $\langle U\rangle$ の、共通の部分群 $\{\pm I\}$ での融合積であることを示している(自由積 の記事の注意「融合積への一般化」)。

モジュラー群のアーベル化

$\operatorname{PSL}_2(\mathbb{Z})$ のアーベル化は位数 $6$ の巡回群、$\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ のアーベル化は位数 $12$ の巡回群で、どちらも $T$ の像で生成される。とくに交換子部分群の指数はそれぞれ $6$ と $12$ である。

表示からアーベル化を計算する(アーベル化 の記事の命題「表示からのアーベル化の計算」)。$\operatorname{PSL}_2(\mathbb{Z})$ では $\mathbb{Z}/2\oplus\mathbb{Z}/3\cong\mathbb{Z}/6$ で、$\bar T=\bar S\bar U$ の像は $(1,1)$ なので生成元である(自由積 の記事の例「位数2と位数3の群の自由積とモジュラー群」も参照)。$\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ では、加法的に書いて $4s=0$、$2s=3u$ を関係とするアーベル群 $A=\mathbb{Z}^2/\langle(4,0),(2,-3)\rangle$ になる。行列式 $\lvert4\cdot(-3)-0\cdot2\rvert=12$ なので $\lvert A\rvert=12$ である(Smith標準形)。$s\mapsto3$、$u\mapsto2$ は関係を保つ準同型 $A\to\mathbb{Z}/12$ を与え、$3-2=1$ が像に入るので全射、位数が等しいので同型である。$T=S^{-1}U$ の像は $-3+2=-1$ で、生成元である。$\square$

有限位数の元

$\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ の有限位数の元は、$\pm I$、$\pm S$、$\pm U$、$\pm U^2$ のいずれかと共役である。とくに有限位数の元の位数は $1,2,3,4,6$ のいずれかで、位数 $2$ の元は $-I$ だけである。

要点:$\gamma\neq\pm I$ が有限位数なら固有値は $1$ でない 1 の冪根の組 $\lambda,\bar\lambda$ で、トレースは $\lvert\operatorname{tr}\gamma\rvert\le1$ を満たす整数である。すると $\gamma$ は $\mathfrak{H}$ に固定点をもち、それを基本領域へ移せば、固定部分群の決定(上半平面 の記事の定理「基本領域」の 3)に帰着する。

詳しい証明を開く

$\gamma=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ を $\pm I$ でない有限位数の元とし、$t:=a+d$ とおく。$\gamma^m=I$ なら $\gamma$ の固有値 $\lambda,\lambda^{-1}$ は 1 の $m$ 乗根で、$t=\lambda+\lambda^{-1}$ は絶対値 $2$ 以下の整数である。$t=\pm2$ なら $\lambda=\lambda^{-1}=\pm1$ となり、有限位数の複素行列は対角化可能なので(最小多項式 $x^m-1$ が重根をもたない)$\gamma=\pm I$ となって仮定に反する。よって $t\in\{-1,0,1\}$ である。$c=0$ なら $ad=1$ から $t=\pm2$ なので $c\neq0$ である。$\gamma\tau=\tau$ は $c\tau^2+(d-a)\tau-b=0$ と同値で、その判別式は $(d-a)^2+4bc=t^2-4<0$ なので、$\mathfrak{H}$ の中に根 $\tau_0$ がちょうど 1 つある。

基本領域 $\mathcal{F}$ への簡約(上半平面 の記事の定理「基本領域」の 1)により $\delta\in\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ で $\delta\tau_0\in\mathcal{F}$ となるものがある。$\delta\gamma\delta^{-1}$ は $\delta\tau_0$ を固定し $\pm I$ でないので、同定理の 3 により $\delta\tau_0\in\{i,\rho,\rho+1\}$ で、$\delta\gamma\delta^{-1}$ は $\langle S\rangle=\{\pm I,\pm S\}$、$\langle U\rangle=\{\pm I,\pm U,\pm U^2\}$、$\langle TS\rangle$ のいずれかに入る。$TS=TUT^{-1}$ なので $\langle TS\rangle=T\langle U\rangle T^{-1}$ である。よって $\gamma$ は $\pm S$、$\pm U$、$\pm U^2$ のいずれかと共役である。位数は $S$ が $4$、$U$ が $6$、$-U$ が $3$、$U^2$ が $3$、$-U^2$ が $6$ で、$-S$ は $4$ である。位数 $2$ の元はこの中になく、$\pm I$ のうち $-I$ だけである。$\square$

$\operatorname{PSL}_2(\mathbb{Z})$ に移すと、有限位数の元は $\bar S$、$\bar U$、$\bar U^2$ のいずれかと共役である。自由積 $C_2\ast C_3$ の側から見ると、有限位数の元が因子 $\langle a\rangle$、$\langle b\rangle$ の元の共役に限られることを、この定理は具体的に示している。

合同部分群と指数

法 $N$ への還元の全射性

正の整数 $N$ について、還元写像 $\pi_N\colon\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})\to\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})$ は全射である。したがって $\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})/\Gamma(N)\cong\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})$ である。

要点:整数 $a,b,c,d$ で $ad-bc\equiv1\pmod N$ となる持ち上げをとる。鍵の一段は、$c$ を法 $N$ で取り替えて $\gcd(c,d)=1$ にできることである。そうすれば $ud-vc=(1-(ad-bc))/N$ を満たす整数 $u,v$ がとれ、$a+uN$、$b+vN$ に取り替えると行列式がちょうど $1$ になる。

詳しい証明を開く

$\bar\gamma=\begin{pmatrix}\bar a&\bar b\\\bar c&\bar d\end{pmatrix}\in\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})$ をとり、代表の整数 $a,b,c,d$ を $1\le d\le N$ となるように選ぶ(とくに $d\neq0$)。$ad-bc\equiv1\pmod N$ なので $\gcd(c,d,N)=1$ である。

段 1.$d$ を割り切る素数のうち $c$ を割り切らないものすべての積を $t$ とし(なければ $t=1$)、$c':=c+tN$ とおく。$\gcd(c',d)=1$ を示す。素数 $p$ が $d$ を割り切るとする。$p\mid c$ なら、$p\nmid t$($t$ の定め方)かつ $p\nmid N$($\gcd(c,d,N)=1$)なので $p\nmid tN$、したがって $p\nmid c'$ である。$p\nmid c$ なら $p\mid t$ なので $p\mid tN$、したがって $p\nmid c'$ である。いずれにせよ $p\nmid c'$ で、$\gcd(c',d)=1$ である。$c'\equiv c\pmod N$ なので、$c$ を $c'$ に替えてよい。

段 2.$ad-bc=1-kN$($k\in\mathbb{Z}$)と書く。$\gcd(c,d)=1$ なので、整数 $u,v$ で $ud-vc=k$ となるものがある(Bézoutの等式)。$\gamma:=\begin{pmatrix}a+uN&b+vN\\c&d\end{pmatrix}$ とおくと$$\det\gamma=ad-bc+N(ud-vc)=1-kN+kN=1$$であり、$\gamma\in\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$、$\pi_N(\gamma)=\bar\gamma$ である。最後の同型は準同型定理による。$\square$

還元写像の全射性は Voi21 35.4.2(p. 658)にもある。これを使うと、合同部分群の指数は有限群 $\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})$ の中の計算になる。$(\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})^2$ の行ベクトル $(c,d)$ で、$c,d$ が $\mathbb{Z}/N\mathbb{Z}$ 全体をイデアルとして生成するもの($\gcd(c,d,N)=1$ と同値)を原始的という。

合同部分群の指数

$p$ が $N$ の素因数を動くとき、
$$ [\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z}):\Gamma_0(N)]=N\prod_{p\mid N}\Bigl(1+\frac1p\Bigr),\qquad [\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z}):\Gamma_1(N)]=N^2\prod_{p\mid N}\Bigl(1-\frac1{p^2}\Bigr), $$
$$ [\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z}):\Gamma(N)]=\lvert\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})\rvert=N^3\prod_{p\mid N}\Bigl(1-\frac1{p^2}\Bigr). $$

要点:$\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})$ は原始的な行ベクトルの集合に右からの積で推移的に作用し、$(0,1)$ の固定部分群は $\pi_N(\Gamma_1(N))$、直線 $(\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})^\times(0,1)$ の固定部分群は $\pi_N(\Gamma_0(N))$ である。軌道と固定部分群の関係から、指数は原始的なベクトルの個数 $J_2(N)=N^2\prod(1-p^{-2})$ と、それを $\varphi(N)$ で割った射影直線の点の個数になる。

詳しい証明を開く

$\pi_N$ は全射(thm-mod-reduction)で $\Gamma(N)=\ker\pi_N\subset\Gamma_1(N)\subset\Gamma_0(N)$ なので、各指数は $\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})$ での像の指数に等しい。

個数.$J_2(N)$ を原始的なベクトルの個数とする。中国剰余定理により $\mathbb{Z}/N\mathbb{Z}\cong\prod\mathbb{Z}/p^k\mathbb{Z}$($p^k\,\|\,N$)で、原始的であることは各成分で原始的であることと同値である。$\mathbb{Z}/p^k\mathbb{Z}$ では、原始的でないのは $c,d$ がともに $p$ の倍数のときなので $J_2(p^k)=p^{2k}-p^{2k-2}=p^{2k}(1-p^{-2})$ である。よって $J_2(N)=N^2\prod_{p\mid N}(1-p^{-2})$ である。

推移性.原始的な $(c,d)$ について、$xc+yd+zN=1$ となる整数 $x,y,z$ をとると $\begin{pmatrix}y&-x\\c&d\end{pmatrix}$ の行列式は $yd+xc\equiv1$ で、$(0,1)$ にこの行列を右から掛けると $(c,d)$ になる。行列式 $1$ の行列は原始的なベクトルを原始的なベクトルに移す(逆行列で戻せる)ので、作用は原始的なベクトルの集合の上で推移的である。$(0,1)\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}=(c,d)$ なので、$(0,1)$ の固定部分群は $c=0$、$d=1$(したがって $a=1$)の行列の全体で、ちょうど $\pi_N(\Gamma_1(N))$ である。よって $[\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z}):\Gamma_1(N)]=J_2(N)$。この固定部分群は $\begin{pmatrix}1&b\\0&1\end{pmatrix}$($b\in\mathbb{Z}/N\mathbb{Z}$)の $N$ 個からなるので $\lvert\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})\rvert=N\cdot J_2(N)$ である。

$\Gamma_0(N)$.単数 $\lambda\in(\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})^\times$ による掛け算は原始的なベクトルに自由に作用する($\lambda(c,d)=(c,d)$ なら $\lambda=\lambda(xc+yd)=xc+yd=1$)。軌道の集合(射影直線の点)は $J_2(N)/\varphi(N)$ 個で、$\varphi(N)=N\prod(1-p^{-1})$(Euler関数)から $N\prod(1+p^{-1})$ 個である。$\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})$ はこの集合にも推移的に作用し、$(0,1)$ の軌道 $\{(0,\lambda)\}$ を保つのは $c=0$ の行列、すなわち $\pi_N(\Gamma_0(N))$ である。$\square$

$-I\in\Gamma(N)$ となるのは $N\le2$ のときだけなので、$N\ge3$ では $\operatorname{PSL}_2(\mathbb{Z})$ の中での $\Gamma(N)$ の像の指数は上の値の半分になる。

小さい法の例

$N=2$ では $[\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z}):\Gamma(2)]=6$ で、$\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})/\Gamma(2)\cong\operatorname{SL}_2(\mathbb{F}_2)$ は 3 次の対称群と同型である($\mathbb{F}_2^2$ の $0$ でない 3 つのベクトルの置換)。$[\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z}):\Gamma_0(2)]=3$ である。素数 $p$ では $[\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z}):\Gamma_0(p)]=p+1$ で、これは $\mathbb{F}_p$ 上の射影直線の点の個数である。$\Gamma(2)$ の元 $A=\begin{pmatrix}1&2\\0&1\end{pmatrix}$、$B=\begin{pmatrix}1&0\\2&1\end{pmatrix}$ は階数 $2$ の自由群を生成する。

自由群であることの確認を開く

prf-mod-free-product と同じ方法を使う。$X:=\{x\in\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q}\mid\lvert x\rvert>1\}$、$Y:=\{x\in\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q}\mid\lvert x\rvert<1\}$ とおく。$n\neq0$ のとき $A^nx=x+2n$ は $Y$ を $X$ に移し、$B^nx=x/(2nx+1)$ は $X$ を $Y$ に移す($\lvert x\rvert>1$ なら $\lvert2n+1/x\rvert\ge2\lvert n\rvert-1/\lvert x\rvert>1$)。$A,B$ の自由群の単位元でない簡約語 $w$ で、両端が $A$ の冪のものは、右から作用させると $Y$ を $X$ に移すので恒等変換でない。両端が $B$ の冪の語は $A^kwA^{-k}$($k\neq0$)が、左端が $A^{n}$ で右端が $B$ の冪の語は $A^kwA^{-k}$($k\notin\{0,-n\}$)が、左端が $B$ の冪で右端が $A^{n}$ の語は $A^kwA^{-k}$($k\notin\{0,n\}$)がこの形になる。よって $w$ の行列としての値は単位行列でなく、$\langle A,B\rangle$ は自由群である。

反例

各行は、記事の主張の仮定を 1 つだけ外したときに結論が崩れる例である。

外す条件反例成り立たなくなること
$\pm I$ で割る(thm-mod-free-product)$\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$$C_2\ast C_3$ と同型であること
成分が整数(thm-mod-torsion)$\operatorname{SL}_2(\mathbb{R})$ の回転 $\begin{pmatrix}\cos\frac{2\pi}5&-\sin\frac{2\pi}5\\\sin\frac{2\pi}5&\cos\frac{2\pi}5\end{pmatrix}$有限位数の元の位数が $1,2,3,4,6$ に限られること
行列式が $1$(thm-mod-reduction)$\operatorname{GL}_2(\mathbb{Z})\to\operatorname{GL}_2(\mathbb{Z}/5\mathbb{Z})$還元写像の全射性
生成元に $T$ を含む(特殊線形群 の記事の命題「$\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})$ の 2 つの生成元」)$S$ と $T^2$ の生成する部分群$\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ 全体を生成すること
反例の確認

各行で、外した条件以外は満たされている。

各行の確認を開く

1 行目:cor-mod-abelianization により $\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ のアーベル化は位数 $12$、$C_2\ast C_3$ のアーベル化は位数 $6$ なので同型でない。2 行目:この行列は実数成分で行列式 $1$ をもち、位数は $5$ である。3 行目:$\operatorname{GL}_2(\mathbb{Z})$ の元の行列式は $\pm1$ なので、像の行列式は $\pm1\bmod5$ に限られ、$\begin{pmatrix}2&0\\0&1\end{pmatrix}\in\operatorname{GL}_2(\mathbb{Z}/5\mathbb{Z})$ は像に入らない。4 行目:$S\equiv\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$、$T^2\equiv I\pmod2$ なので、$\langle S,T^2\rangle$ の $\operatorname{SL}_2(\mathbb{F}_2)$ での像は位数 $2$ の部分群 $\{I,\bar S\}$ である。$\pi_2$ は全射で $\operatorname{SL}_2(\mathbb{F}_2)$ の位数は $6$ なので、$\langle S,T^2\rangle$ は $\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ 全体でない(指数は $3$ 以上である)。

補足

$\mathfrak{H}$ 上の正則関数で $\Gamma_0(N)$ や $\Gamma_1(N)$ の元に対して $f(\gamma\tau)=(c\tau+d)^kf(\tau)$ を満たし、尖点での増大条件を満たすものが、レベル $N$ のモジュラー形式である。商 $\Gamma_0(N)\backslash\mathfrak{H}$ に尖点を加えたものがモジュラー曲線 $X_0(N)$ である(Voi21 35.4.5, p. 658)。
有限指数の部分群がすべて合同部分群であるわけではなく、どの $\Gamma(N)$ も含まない有限指数の部分群(非合同部分群)が存在する(Voi21 Remark 35.4.4, p. 658)。

関連項目

参考文献

[1]
John Voight, Quaternion Algebras (Graduate Texts in Mathematics 288), 1st ed., Springer, 2021, §35.1, Lemma 35.1.17(pp. 653–654)、Remark 35.1.20(p. 655);§35.4, 35.4.2・Remark 35.4.4・35.4.5(p. 658)

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