代数関数体

同義語:代数函数体algebraic function field

概要

代数関数体(algebraic function field)とは、体 $k$ 上有限生成な拡大体 $K$ のことで、$k$ 上の超越次数を変数の個数という。1 変数の代数関数体は有理関数体 $k(x)$ の有限次拡大であり、代数曲線の関数体にあたる。$k$ が代数閉体で $K$ が 1 変数のとき、$K$ の $k$ 上の離散付値環(素点)は $K$ を関数体とする非特異射影曲線の閉点と 1 対 1 に対応し、定数でない元 $x$ の零点と極は、位数を込めてそれぞれちょうど $[K:k(x)]$ 個ある。この対応により、1 変数の代数関数体の理論は非特異射影曲線の理論と同じものになる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 体の拡大, 超越次数, 離散付値環, 関数体, 代数曲線

有理関数体 $k(x)$ の元 $f$ は、射影直線の各点 $a$ で「何位の零点か、何位の極か」という整数 $v_a(f)$ をもち、$v_a$ は体 $k(x)$ の離散付値になる。逆に $k$ が代数閉体なら、$k$ の上で自明な $k(x)$ の離散付値は、こうして射影直線の点から来るものに限られる(prop-aff-rational)。つまり射影直線の点は、体 $k(x)$ だけから離散付値として取り出せる。この見方を $k(x)$ の有限次拡大へ広げると、曲線の点を体の離散付値として定義でき、体の言葉だけで代数曲線の理論を組み立てられる。その舞台が 代数関数体(algebraic function field)である。
関数体 の記事は、スキームや多様体 $X$ から体 $K(X)$ を作る方向を扱った。この記事は逆に体 $K$ から出発する。$k$ が代数閉体のとき、1 変数の代数関数体 $K$ の $k$ 上の離散付値環の全体は、$K$ を関数体とする非特異射影曲線の点の全体と 1 対 1 に対応する。
この記事では、まず有理関数体 $k(x)$ の離散付値環をすべて決定する。次に、定数でない元 $x$ の零点と極が、重複度を込めてちょうど $[K:k(x)]$ 個ずつあることを証明する。最後に、$k(x)$ の整閉包を 2 枚貼り合わせて非特異射影曲線を作り、その点が離散付値環と対応することを証明する。

定義

$k$ を体とする。体の拡大 $K/k$ が 有限生成 であるとは、有限個の元 $\alpha_1,\dots,\alpha_m\in K$ で $K=k(\alpha_1,\dots,\alpha_m)$ となることをいう。

代数関数体

$k$ 上有限生成な拡大体 $K$ を、$k$ 上の 代数関数体 という。超越次数 $\operatorname{trdeg}_kK$ を $K$ の 変数の個数 といい、$\operatorname{trdeg}_kK=1$ のとき $K$ を 1 変数の代数関数体 という。$K$ の中で $k$ 上代数的な元の全体 $\tilde k$ を $K/k$ の 定数体 という。

$K$ が 1 変数の代数関数体で $x\in K$ が $k$ 上超越的なら、$\{x\}$ は超越基底なので $K/k(x)$ は代数拡大であり、有限生成なので有限次である。つまり 1 変数の代数関数体とは、有理関数体 $k(x)$ の有限次拡大体にほかならない。$k$ 上の多様体 $X$ の関数体 $k(X)$ は $\dim X$ 変数の代数関数体であり、逆にどの代数関数体もあるアフィン多様体の関数体である(関数体 の節「代数関数体」)。
定数体 $\tilde k$ は $k$ を含む体である。$k$ が代数閉体なら $\tilde k=k$ である。一般の $k$ でも次が成り立つ。

定数体は有限次

$K$ を $k$ 上の代数関数体とすると、定数体 $\tilde k$ は $k$ の有限次拡大体である。

要点:超越基底 $t$ をとり $L=k(t)$ とおくと、$\tilde k$ の有限次部分拡大 $k'$ の $k$ 上の基底は $L$ 上一次独立なので、$[k':k]\le[K:L]<\infty$ となる。

詳しい証明を開く

$t_1,\dots,t_r$ を $K/k$ の超越基底とし、$L:=k(t_1,\dots,t_r)$ とおく。$K$ は $L$ 上代数的かつ有限生成なので $[K:L]<\infty$ である。$\tilde k$ の任意の有限次部分拡大 $k'$ について $[k':k]\le[K:L]$ を示せば、$\tilde k$ の有限次部分拡大の次数が有界になり、次数が最大のものが $\tilde k$ 全体に一致するので主張が従う。

$e_1,\dots,e_s$ を $k'$ の $k$ 上の基底とし、これが $L$ 上一次独立であることを示す。$\sum_jc_je_j=0$($c_j\in L$)とし、分母を払って $c_j\in k[t_1,\dots,t_r]$ としてよい。$c_j=\sum_{\mu}c_{j,\mu}t^{\mu}$($c_{j,\mu}\in k$、$t^\mu$ は単項式)と展開すると $\sum_\mu\bigl(\sum_jc_{j,\mu}e_j\bigr)t^\mu=0$ である。$t_1,\dots,t_r$ は $k'$ 上でも代数的に独立なので($k'(t)$ は $k(t)$ 上代数的で、超越次数は $r$ のまま)、単項式 $t^\mu$ は $k'$ 上一次独立であり、各 $\mu$ で $\sum_jc_{j,\mu}e_j=0$、よって $c_{j,\mu}=0$ である。したがって $e_1,\dots,e_s\in K$ は $L$ 上一次独立で、$s\le[K:L]$ である。$\square$

1 変数の代数関数体の幾何は、次の離散付値環で表される。

素点と位数

$K$ を $k$ 上の代数関数体とする。離散付値環 $R\subset K$ で、商体が $K$ に等しく $k\subset R$ となるものを、$K/k$ の 離散付値環、または 素点 という。その全体を $\Sigma_K$ と書く。$R\in\Sigma_K$ の正規化された付値を $v_R\colon K^\times\to\mathbb{Z}$ とし、$x\in K^\times$ について $v_R(x)>0$ のとき $R$ を $x$ の 零点、$v_R(x)<0$ のとき 極 といい、$|v_R(x)|$ をその 位数 という。

$c\in k^\times$ なら $c,c^{-1}\in k\subset R$ なので $c$ は $R$ の単元であり、$v_R(c)=0$ である。すなわち定数は零点も極ももたない。

有理関数体の素点

素点の決定には、離散付値環が「より大きい局所環に支配されない」ことを使う。局所環 $R\subset R'$ について $\mathfrak{m}_{R'}\cap R=\mathfrak{m}_R$ のとき、$R'$ は $R$ を 支配する という。

離散付値環の極大性

$K$ を体、$R\subset K$ を商体が $K$ の離散付値環、$R'\subset K$ を $R$ を支配する局所環とする。このとき $R'=R$ である。

$\pi$ を $R$ の一意化元とする。$f\in R'\setminus R$ があったとすると、$f=u\pi^{-n}$($u\in R^\times$、$n\ge1$)と書ける。$u^{-1}\in R\subset R'$、$\pi^{n-1}\in R'$ なので $\pi^{-1}=fu^{-1}\pi^{n-1}\in R'$ である。一方 $\pi\in\mathfrak{m}_R\subset\mathfrak{m}_{R'}$ なので $1=\pi\cdot\pi^{-1}\in\mathfrak{m}_{R'}$ となり、矛盾する。$\square$

有理関数体の素点

$k$ を体、$K=k(x)$ を 1 変数の有理関数体とする。$K/k$ の素点は次のものですべてであり、互いに異なる。

  1. モニックな既約多項式 $\pi\in k[x]$ ごとの局所化 $R_\pi:=k[x]_{(\pi)}$。
  2. $y:=1/x$ についての局所化 $R_\infty:=k[y]_{(y)}$。その付値は $v_\infty(g/h)=\deg h-\deg g$($g,h\in k[x]\setminus\{0\}$)である。
    とくに $k$ が代数閉体なら、$K/k$ の素点は $R_{x-a}$($a\in k$)と $R_\infty$ であり、射影直線 $\mathbb{P}^1_k$ の閉点 $a\in\mathbb{A}^1(k)$ と $\infty$ に 1 対 1 に対応する。

1・2 の環が素点であることは、離散付値環 の例「有理関数体の離散付値」による(単項イデアル整域の $0$ でない素イデアルでの局所化は離散付値環で、商体は $K$)。$R_\pi$ は $x$ を含み、$R_\infty$ は $x$ を含まない($v_\infty(x)=-1$)。$R_\pi$ の極大イデアルと $k[x]$ の交わりは $(\pi)$ なので、$\pi$ が異なれば $R_\pi$ も異なる。
逆に $R\in\Sigma_K$ とする。$x\in R$ の場合、$\mathfrak{p}:=\mathfrak{m}_R\cap k[x]$ は $k[x]$ の素イデアルである。$\mathfrak{p}=0$ なら $k[x]$ の $0$ でない元はすべて $R$ の単元となり $K\subset R$ となるが、離散付値環は体でないので矛盾する。よって $\mathfrak{p}=(\pi)$($\pi$ はモニックな既約多項式)である。$k[x]\setminus(\pi)$ の元は $\mathfrak{m}_R$ に入らないので $R$ の単元であり、$R_\pi\subset R$ である。$\mathfrak{m}_R\cap R_\pi$ は $\pi$ を含む真のイデアルなので、$R_\pi$ の極大イデアル $\pi R_\pi$ に等しい。すなわち $R$ は $R_\pi$ を支配し、lem-aff-dominate により $R=R_\pi$ である。$x\notin R$ の場合、付値環の性質から $y=x^{-1}\in\mathfrak{m}_R$ である。同じ議論を $k[y]$ と $\mathfrak{m}_R\cap k[y]\ni y$ に使うと、$y$ を含む $k[y]$ の素イデアルは $(y)$ だけなので $R=k[y]_{(y)}=R_\infty$ である。
$k$ が代数閉体ならモニックな既約多項式は $x-a$ の形だけである。$\square$

零点と極の個数

以下、この節と次の節では $k$ を代数閉体 とし、$K$ を $k$ 上の 1 変数の代数関数体とする。このとき定数体は $k$ であり、$x\in K\setminus k$ は $k$ 上超越的である($k$ 上代数的なら $k$ に属する)。

零点と極の個数

$x\in K\setminus k$ とし、$n:=[K:k(x)]$ とおく。$B$ を $k[x]$ の $K$ における整閉包とする。

  1. $B$ は Dedekind 整域であり、階数 $n$ の自由 $k[x]$ 加群である。
  2. $x$ の零点である素点は、$x$ を含む $B$ の極大イデアル $\mathfrak{n}$ による局所化 $B_{\mathfrak{n}}$ でちょうど尽くされ、有限個である。$\Sigma_K$ のすべての素点の剰余体は $k$ である。
  3. 零点と極の位数の和はどちらも $n$ に等しい。
    $$ \sum_{v_R(x)>0}v_R(x)=n=\sum_{v_R(x)<0}\bigl(-v_R(x)\bigr) $$

段 1($B$ の構造).$k[x]$ は体上有限生成な整域なので、$B$ は有限 $k[x]$ 加群である(整閉包の有限性 の定理「体上有限生成な整域の整閉包の有限性」)。$B\subset K$ はねじれをもたないので、単項イデアル整域 の定理「単項イデアル整域上の加群」の 4(有限生成加群の構造定理)により自由加群である。$\alpha\in K$ は $k(x)$ 上代数的なので、モニックな最小多項式の分母を払う $0$ でない $c\in k[x]$ について $c\alpha$ は $k[x]$ 上整であり、$c\alpha\in B$ である。よって $B\otimes_{k[x]}k(x)=K$ で、$B$ の階数は $n$、商体は $K$ である。
$B$ は Noether 環(Noether 環上の有限加群)で、$K$ の中で整閉である(整の推移性)。$\mathfrak{p}\neq0$ を $B$ の素イデアルとし、$0\neq b\in\mathfrak{p}$ をとる。$b$ の $k[x]$ 上のモニックな最小多項式の定数項は $0$ でなく、$\mathfrak{p}\cap k[x]$ に入るので、$\mathfrak{p}\cap k[x]$ は $0$ でない素イデアル $(x-a)$ である。$B/\mathfrak{p}$ は $k[x]/(x-a)=k$ 上有限次元の整域なので体であり(有限次元の整域では $0$ でない元の倍写像が全射)、$k$ は代数閉体なので $B/\mathfrak{p}=k$ である。よって $0$ でない素イデアルはすべて極大で剰余体は $k$ である。局所化 $B_{\mathfrak{n}}$ は 1 次元の整閉な Noether 局所整域なので離散付値環であり(離散付値環 の定理「整閉性による特徴づけ」)、$B$ は Dedekind 整域である。
段 2(零点の素点).$R\in\Sigma_K$ を $x$ の零点とする。$x\in R$ で、付値環は整閉なので $B\subset R$ である。$\mathfrak{n}:=\mathfrak{m}_R\cap B$ は $x$ を含む $0$ でない素イデアルなので極大であり、$B_{\mathfrak{n}}\subset R$ で、$R$ は $B_{\mathfrak{n}}$ を支配する。lem-aff-dominate により $R=B_{\mathfrak{n}}$ である。逆に、$x\in\mathfrak{n}$ となる極大イデアル $\mathfrak{n}$ について $B_{\mathfrak{n}}$ は $x$ の零点である素点であり、$\mathfrak{n}=\mathfrak{n}B_{\mathfrak{n}}\cap B$ なので $\mathfrak{n}$ が異なれば素点も異なる。$x$ を含む極大イデアルは $B/xB$ の極大イデアルに対応し、$B/xB\cong(k[x]/(x))^{n}=k^n$ は $n$ 次元の $k$ 代数なので有限個である。
剰余体について:$R\in\Sigma_K$ を任意にとる。$x\in R$ なら上と同じく $R=B_{\mathfrak{m}_R\cap B}$ で($\mathfrak{m}_R\cap B=0$ なら $B$ の $0$ でない元がすべて単元となって $K\subset R$ となるので、$\mathfrak{m}_R\cap B\neq0$)、剰余体は段 1 により $k$ である。$x\notin R$ なら $1/x\in R$ で、$1/x$ について同じ議論をすればよい。
段 3(位数の和).$\mathfrak{n}_1,\dots,\mathfrak{n}_s$ を $x$ を含む極大イデアルとし、$e_i:=v_{B_{\mathfrak{n}_i}}(x)$ とおく。$A:=B/xB$ は $n$ 次元の $k$ 代数なので Artin 環であり、Artin環 の定理「Artin環の構造定理」により局所 Artin 環の直積に分かれる。各因子は局所環なので、その因子は $A$ の対応する極大イデアル $\mathfrak{n}_i/xB$ での局所化に等しく、$A\cong\prod_iA_{\mathfrak{n}_i}=\prod_iB_{\mathfrak{n}_i}/xB_{\mathfrak{n}_i}$ である。$t_i$ を $B_{\mathfrak{n}_i}$ の一意化元とすると $xB_{\mathfrak{n}_i}=t_i^{e_i}B_{\mathfrak{n}_i}$ であり、$B_{\mathfrak{n}_i}/t_i^{e_i}$ は商 $t_i^jB_{\mathfrak{n}_i}/t_i^{j+1}B_{\mathfrak{n}_i}\cong B_{\mathfrak{n}_i}/\mathfrak{n}_iB_{\mathfrak{n}_i}=k$($0\le j< e_i$)をもつ部分空間の列で切れるので、$k$ 上 $e_i$ 次元である。よって
$$ n=\dim_kB/xB=\sum_{i=1}^se_i=\sum_{v_R(x)>0}v_R(x) $$
である。極については、$y:=1/x\in K\setminus k$ に同じことを使う。$v_R(x)<0$ と $v_R(y)>0$ は同値で $v_R(y)=-v_R(x)$ であり、$k(y)=k(x)$ なので $[K:k(y)]=n$ である。$\square$

この定理は、非特異射影曲線から $\mathbb{P}^1$ への有限射の次数の公式(Har77 II, Proposition 6.9, p. 138)を、$x$ の定める射 $C\to\mathbb{P}^1$ の $0$ と $\infty$ のファイバーに当てはめたものにあたる。主因子の次数が $0$ であること(同 Corollary 6.10)も同じ内容である。$k$ が代数閉体でないと、剰余体 $\kappa(R)$ が $k$ より大きい素点があり、位数の和は $[K:k(x)]$ に一致しないことがある(下の反例の表の 1 行目)。一般の $k$ では、各素点の位数に剰余体の次数 $[\kappa(R):k]$ を掛けて足すと $[K:k(x)]$ になる(この記事では証明しない)。

零点と極の帰結

$K$ を代数閉体 $k$ 上の 1 変数の代数関数体とする。

  1. $x\in K^\times$ について、$v_R(x)\neq0$ となる素点 $R$ は有限個である。$x\notin k$ なら $x$ は零点と極を少なくとも 1 つずつもつ。極をもたない元は $k$ に属する。
  2. $x\in K\setminus k$ について、$K=k(x)$ であるための必要十分条件は、$x$ の極がただ 1 つで、その位数が $1$ であることである。
  3. $\Sigma_K$ は無限集合である。

1:$x\in k^\times$ なら $v_R(x)=0$ がすべての $R$ で成り立つ。$x\notin k$ なら thm-aff-degree の 2 と 3 から、零点と極は有限個で、位数の和がどちらも $n\ge1$ なので少なくとも 1 つずつある。対偶をとれば、極をもたない $0$ でない元は $k$ に属する。
2:thm-aff-degree の 3 により、極の位数の和は $[K:k(x)]$ である。和が $1$ であることは $[K:k(x)]=1$、すなわち $K=k(x)$ と同値である。
3:$x\in K\setminus k$ をとる。$a\in k$ ごとに $x-a\notin k$ なので零点 $R_a$ をもつ。$a\neq b$ で $R_a=R_b$ なら $x-a,x-b\in\mathfrak{m}_{R_a}$ から $a-b\in\mathfrak{m}_{R_a}\cap k^\times$ となり、定数が単元であることに反する。代数閉体は無限体なので $\Sigma_K$ は無限集合である。$\square$

楕円曲線の関数体

$k$ を標数 $2$ でない代数閉体とし、$K:=\operatorname{Frac}A$、$A:=k[x,y]/(y^2-x^3+x)$ とする。関数体 の命題「3 次曲線の関数体」により $[K:k(x)]=2$ である。
$A$ は $k[x]$ の $K$ における整閉包 $B$ に等しい。実際、$y$ は $k[x]$ 上整なので $A\subset B$ であり、$f=y^2-x^3+x$ の偏微分 $3x^2-1$、$2y$ が同時に $0$ になる $f=0$ 上の点はない($y=0$ から $x\in\{0,\pm1\}$ で、そこで $3x^2-1\in\{-1,2\}$ は $0$ でない)ので、$\operatorname{Spec}A$ は非特異で $A$ は整閉である(代数曲線 の定理「Jacobi の判定法(平面曲線)」と離散付値環 の定理「離散付値環の特徴づけ」)。
$x$ の零点:$x$ を含む $A$ の極大イデアルは $y^2=x^3-x$ から $y$ も含み、$(x,y)$ だけである。原点では $x^2-1$ が単元で $x=y^2/(x^2-1)$ なので、極大イデアルは $y$ で生成され、$v(y)=1$、$v(x)=2$ である。零点の位数の和は $2=[K:k(x)]$ で、thm-aff-degree のとおりである。
$x$ の極:$v_R(x)<0$ なら $v_R(1-x^{-2})=0$ なので、$y^2=x^3(1-x^{-2})$ から $2v_R(y)=3v_R(x)$ であり、$v_R(x)$ は偶数である。極の位数の和は $2$ なので、$x$ の極はただ 1 つで $v_R(x)=-2$、$v_R(y)=-3$ である。この素点が射影閉包の無限遠点 $[0:1:0]$ にあたる。

非特異射影曲線との対応

thm-aff-degree の整閉包 $B$ を、$x$ の代わりに $1/x$ についても作って貼り合わせると、$K$ を関数体とする非特異射影曲線ができ、その点が素点になる。

代数関数体と非特異射影曲線

$k$ を代数閉体、$K$ を $k$ 上の 1 変数の代数関数体、$x\in K\setminus k$ とし、$B,B'$ をそれぞれ $k[x]$、$k[1/x]$ の $K$ における整閉包とする。

  1. $K$ の中で $B[1/x]=B'[x]$ である。$\operatorname{Spec}B$ と $\operatorname{Spec}B'$ をこの共通の開集合 $\operatorname{Spec}B[1/x]$ で貼り合わせたスキーム $C_K$ は、$k$ 上の非特異射影曲線で、関数体は $K$ である。
  2. 閉点 $P\in C_K$ にその局所環 $\mathcal{O}_{C_K,P}\subset K$ を対応させる写像は、$C_K$ の閉点の全体から $\Sigma_K$ への全単射である。
  3. $K$ を関数体とする非特異射影曲線は $C_K$ と同型である。さらに $C\mapsto K(C)$ は、$k$ 上の非特異射影曲線と全射な $k$ 射のなす圏から、$k$ 上の 1 変数の代数関数体と $k$ 上の体の準同型のなす圏の反対圏への圏同値を与える。

1 の等式.$B[1/x]$ は $k[x,1/x]$ 上整である。$K$ の中で整閉であることを示す。$\alpha\in K$ が $\alpha^r+b_1\alpha^{r-1}+\cdots+b_r=0$($b_i\in B[1/x]$)をみたすとき、$x^Nb_i\in B$ となる $N$ をとり $x^{Nr}$ を掛けると、$x^N\alpha$ は $B$ 上整、したがって $k[x]$ 上整なので $x^N\alpha\in B$、$\alpha\in B[1/x]$ である。よって $B[1/x]$ は $k[x,1/x]$ の $K$ における整閉包である。同じ議論で $B'[x]$ も $k[1/x,x]=k[x,1/x]$ の整閉包であり、両者は等しい。
1 の曲線であること.$\operatorname{Spec}B[1/x]$ は $\operatorname{Spec}B$ の開集合 $D(x)$ であり、$\operatorname{Spec}B'$ の開集合 $D(1/x)$ でもあるので、貼り合わせて $C_K$ ができる。$B,B'$ は商体 $K$ の整域で、共通部分は空でないので、$C_K$ は整である。$\mathbb{P}^1_k=D_+(x_0)\cup D_+(x_1)$ の座標を $x=x_1/x_0$ とすると、$\operatorname{Spec}B\to\operatorname{Spec}k[x]=D_+(x_0)$ と $\operatorname{Spec}B'\to\operatorname{Spec}k[1/x]=D_+(x_1)$ は共通部分の上で一致し、射 $f\colon C_K\to\mathbb{P}^1_k$ を定める。$f^{-1}(D_+(x_0))=\operatorname{Spec}B$、$f^{-1}(D_+(x_1))=\operatorname{Spec}B'$ であり($\operatorname{Spec}B'$ のうち $D_+(x_0)$ に写る部分は $1/x$ が可逆な部分 $\operatorname{Spec}B'[x]$ で、これは $\operatorname{Spec}B$ に含まれる)、$B,B'$ はそれぞれ $k[x]$、$k[1/x]$ 上の有限加群なので(thm-aff-degree の 1)、$f$ は有限射である。有限射は固有であり(Vak25 Proposition 11.4.3, p. 325)、$\mathbb{P}^1_k$ は $k$ 上固有なので、$C_K$ は $k$ 上固有である。閉点の局所環は $B$ または $B'$ の極大イデアルでの局所化で、thm-aff-degree の 1 により離散付値環、すなわち正則な 1 次元局所環である。よって $C_K$ は $k$ 上の完備な非特異曲線であり、完備な非特異曲線は射影的である(Har77 II, Proposition 6.7, p. 136)。関数体は $\operatorname{Frac}B=K$ である。
2.閉点 $P$ の局所環は $B_{\mathfrak{n}}$ または $B'_{\mathfrak{n}'}$ の形で、$k$ を含み商体が $K$ の離散付値環なので $\Sigma_K$ に属する。全射:$R\in\Sigma_K$ について、$x\in R$ なら thm-aff-degree の証明の段 2 の議論により $R=B_{\mathfrak{m}_R\cap B}$ で、これは $\operatorname{Spec}B$ の閉点 $\mathfrak{m}_R\cap B$ の局所環である。$x\notin R$ なら $1/x\in R$ で、$B'$ について同じことが言える。単射:2 点 $P\neq Q$ がともに $\operatorname{Spec}B$ にあれば、極大イデアルは $\mathfrak{n}_P=\mathfrak{m}_{\mathcal{O}_P}\cap B$ と局所環から復元されるので、局所環は異なる。$P\in\operatorname{Spec}B$ で $Q\notin\operatorname{Spec}B$ なら、$Q$ は $\operatorname{Spec}B'$ の点で $D(1/x)$ に入らないので $1/x\in\mathfrak{m}_{\mathcal{O}_Q}$ であり、$x\notin\mathcal{O}_Q$ だが $x\in B\subset\mathcal{O}_P$ である。2 点がともに $\operatorname{Spec}B'$ にある場合も同様である。
3.この記事では証明しない。非特異射影曲線どうしは、関数体が同型なら同型であり(代数曲線 の注意「双有理な非特異射影曲線は同型である」)、関数体の準同型は支配的な有理写像を与え(双有理写像 の定理「関数体と支配的有理写像」)、それは 代数曲線 の系「非特異な曲線からの射の延長」により射に延びる。圏同値の全体は Har77 I, Corollary 6.12(p. 45)と Vak25 Theorem 16.3.3 にある。1 は、この圏同値の本質的な全射性(どの $K$ も非特異射影曲線の関数体であること)を直接与えている。$\square$

$C_K$ を、$\mathbb{P}^1_k$ の $K$ における 正規化 ともいう。Har77 I §6 では、$\Sigma_K$ そのものに「有限集合と全体を閉集合とする位相」と正則関数を入れた「抽象非特異曲線」を作り、それが非特異射影曲線と同型であることを示している(同 Theorem 6.9, p. 44)。2 はその対応を、整閉包を使って直接実現したものである。とくに prop-aff-rational の素点は $C_{k(x)}=\mathbb{P}^1_k$ の点である($B=k[x]$、$B'=k[1/x]$)。
この対応のもとで、1 変数の代数関数体の言葉と非特異射影曲線の言葉は次のように読み替えられる。

代数関数体 $K/k$非特異射影曲線 $C$
素点 $R\in\Sigma_K$閉点 $P\in C$
付値 $v_R$点 $P$ での零点・極の位数
$x\in K\setminus k$有限射 $C\to\mathbb{P}^1_k$
$[K:k(x)]$その射の次数
1 変数の代数関数体 $L$ で $L\subset K$ となるもの全射な射 $C\to C_L$
$K\cong k(t)$$C\cong\mathbb{P}^1_k$

反例

thm-aff-degree と cor-aff-consequences の仮定を 1 つずつ外すと、次のように結論が崩れる。

外す条件反例成り立たなくなること
$k$ が代数閉体$k=\mathbb{R}$、$K=\mathbb{R}(t)$、$x=t^2+1$零点の位数の和が $[K:k(x)]$ に等しいこと(和は $1$、$[K:k(x)]=2$)、剰余体が $k$ であること
超越次数が $1$$K=k(u,w)$、$x=1/u$極が有限個であること(極は無限個)
有限生成$K=\overline{k(t)}$($k(t)$ の代数閉包)$\Sigma_K$ が無限集合であること($\Sigma_K=\emptyset$)
反例の確かめ

1 行目は剰余体 $\mathbb{C}$ の素点が 1 つだけ現れること、2 行目は平面の点ごとの「重複度」の付値、3 行目は付値の値がすべての整数で割り切れることによる。

3 行の確かめを開く

1 行目:$\mathbb{R}(x)\subset\mathbb{R}(t)$ は $t^2-(x-1)=0$ による 2 次拡大である。$x=t^2+1$ の零点は、prop-aff-rational により $v_{R}(t^2+1)>0$ となる素点 $R_\pi$($\pi$ はモニックな既約多項式)で、$\pi$ が $t^2+1$ を割るものだけである。$t^2+1$ は $\mathbb{R}$ 上既約なので $\pi=t^2+1$ だけで、$v(x)=1$ である。位数の和は $1\neq2$ であり、剰余体は $\mathbb{R}[t]/(t^2+1)\cong\mathbb{C}$ である。剰余体の次数 $2$ を掛ければ $1\cdot2=2$ となる。

2 行目:$k$ を代数閉体、$K=k(u,w)$ を 2 変数の有理関数体とする。$b\in k$ ごとに、$0$ でない多項式 $g\in k[u,w]$ を点 $(0,b)$ のまわりで展開したときの最低次の斉次部分の次数を $\operatorname{ord}_b(g)$ とする。最低次の部分どうしの積は多項式環で $0$ にならないので $\operatorname{ord}_b(gh)=\operatorname{ord}_b(g)+\operatorname{ord}_b(h)$、また $\operatorname{ord}_b(g+h)\ge\min$ である。$\operatorname{ord}_b(g/h):=\operatorname{ord}_b(g)-\operatorname{ord}_b(h)$ は $K$ の離散付値で、$k$ の上では $0$ であり、その付値環は $K/k$ の離散付値環である。$\operatorname{ord}_b(u)=1$ なので $x=1/u$ はこれらすべてで極をもち、$b$ ごとに付値は異なる($\operatorname{ord}_b(w-b)=1$、$\operatorname{ord}_{b'}(w-b)=0$)。$k$ は無限体なので極は無限個である。

3 行目:$v$ を $K$ の離散付値で $k$ の上で $0$ のものとする。$y\in K^\times$ と $m\ge1$ について、$K$ は代数閉体なので $z^m=y$ となる $z\in K$ があり、$v(y)=mv(z)$ はすべての $m$ で割り切れるので $v(y)=0$ である。よって $v$ は自明な付値で、離散付値環を与えない。すなわち $\Sigma_K=\emptyset$ である。$K/k$ の超越次数は $1$ だが、$K$ は $k$ 上有限生成でない。

関連項目

参考文献

[1]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Graduate Texts in Mathematics 52, Springer, 1977, I §6(Lemma 6.5–Corollary 6.12、pp. 41–45。Theorem 6.9 は p. 44)、II, Proposition 6.7(p. 136)、II, Proposition 6.9・Corollary 6.10(p. 138)
[2]
Ravi Vakil, The Rising Sea: Foundations of Algebraic Geometry, Princeton University Press, 2025, Proposition 11.4.3(p. 325、有限射は固有)、Theorem 16.3.3(p. 467、曲線の圏の同値)

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