始位相(initial topology)とは、集合 $X$ から位相空間 $Y_i$ への写像族 $f_i\colon X\to Y_i$ をすべて連続にする最も粗い位相である。開集合の逆像 $f_i^{-1}(U)$ の全体を準開基として構成でき、位相空間 $Z$ から $X$ への写像 $g$ が連続であることは、各 $f_i\circ g$ が連続であることと同値になる。直積位相は射影の族の始位相、相対位相は包含写像の始位相であり、写像族が空なら始位相は $\{\emptyset,X\}$ である。写像族が点を分離すれば、$x\mapsto(f_i(x))_i$ は $X$ を直積 $\prod_i Y_i$ に埋め込む。
$X$ と $I$ を集合とし、各 $i\in I$ に対して位相空間 $(Y_i,\tau_i)$ と写像 $f_i:X\to Y_i$ が与えられているとする。
すべての $f_i$ を連続にする $X$ 上の位相のうち、包含関係で最小のものを、この写像族に関する 始位相(initial topology)という。
ここでは $X=\emptyset$ も $I=\emptyset$ も許す。
「最も粗い」は開集合が最も少ないという意味であり、位相の強弱でいう最も弱い位相に当たる。最小の位相が本当に存在することは、次の節で具体的に構成して示す。標準的な定義は Eng89 Proposition 1.4.8、Mun00 §19 Exercise 10 も参照できる。
準開基 の記事の命題(準開基が生成する位相)とその証明を、この逆像族 $\mathcal S$ に適用する。
構成を確かめると、$\emptyset=\bigcup\emptyset$ と $X\in\mathcal B$ から $\emptyset,X\in\tau$ である。
$\tau$ は任意の合併について閉じている。
$B,C\in\mathcal B$ なら $B\cap C\in\mathcal B$ なので、分配律 $(\bigcup\mathcal A)\cap(\bigcup\mathcal C)=\bigcup_{(B,C)\in\mathcal A\times\mathcal C}(B\cap C)$ により $\tau$ は二つの元の共通部分についても閉じている。
したがって $\tau$ は位相であり、$\mathcal B$ はその開基である。
各 $f_i^{-1}(U)$ は $\mathcal B$ に属するので、各 $f_i:(X,\tau)\to(Y_i,\tau_i)$ は連続である。
$\sigma$ がすべての $f_i$ を連続にする別の位相なら、$\mathcal S\subset\sigma$ であり、有限共通部分と任意合併を取ることにより $\tau\subset\sigma$ となる。
よって $\tau$ は求める最小の位相であり、最小の位相は包含関係の反対称性により一意である。
$f_i(x)\in U$ という条件を $X$ の中で読むと、$x\in f_i^{-1}(U)$ になる。
有限個のこのような条件を同時に課してから、そのように得た集合を合併すると、始位相の開集合が得られる。
一般には、準開基の元だけを合併してもすべての開集合は得られない。
言い換えると、始位相で点 $x$ に「近い」とは、有限個の $f_i$ で測って $f_i(x)$ に近いということである。写像族が見分けない違いは、始位相も見分けない。この見方は、後の節の収束の判定と点の分離の結果にそのまま現れる。
$X$ に写像族 $(f_i)_{i\in I}$ の始位相 $\tau$ を入れ、$Z$ を位相空間、$g:Z\to X$ を写像とする。
このとき $g$ が連続であることと、すべての $i\in I$ について $f_i\circ g$ が連続であることは同値である。
図式で書けば、各 $i$ について次の三角形の対角の写像 $f_i\circ g$ がすべて連続なら、$g$ 自身が連続になる、という主張である。
$$
\xymatrix{
Z \ar[r]^{g} \ar[dr]_{f_i\circ g} & X \ar[d]^{f_i} \\
& Y_i
}
$$
$g$ が連続なら、各 $f_i$ が連続なので $f_i\circ g$ も連続である。
逆にすべての $f_i\circ g$ が連続なら、$U\in\tau_i$ に対して $g^{-1}(f_i^{-1}(U))=(f_i\circ g)^{-1}(U)$ は $Z$ で開である。
逆像は有限共通部分と任意合併を保つので、$\tau$ のどの開集合の逆像も開であり、$g$ は連続である。
空の共通部分 $X$ の逆像は $Z$ であり、この場合も開である。
これは準開基 の記事の命題(連続性の準開基による判定)とその証明の、この逆像族への適用でもある。
この性質は始位相を特徴づける。すなわち、上の同値が成り立つ位相は始位相しかない。
$X$ 上の位相 $\tau'$ について、次の二条件は同値である。
1 から 2 は前の定理である。2 を仮定し、$\tau$ を始位相とする。
まず $Z=(X,\tau')$、$g=\mathrm{id}_X$ とする。$g$ は連続なので、条件 2 により各 $f_i=f_i\circ\mathrm{id}_X$ は $\tau'$ に関して連続である。始位相の最小性から $\tau\subset\tau'$ である。
次に $Z=(X,\tau)$、$g=\mathrm{id}_X\colon(X,\tau)\to(X,\tau')$ とする。各 $f_i\circ g=f_i$ は $\tau$ に関して連続なので、条件 2 により $g$ は連続である。これは $\tau'$ の各開集合が $\tau$ の開集合であること、すなわち $\tau'\subset\tau$ を意味する。
二つの包含から $\tau'=\tau$ である。$\square$
写像が一つだけの場合、$f:X\to(Y,\sigma)$ の始位相は $\{f^{-1}(U):U\in\sigma\}$ そのものである。
実際、この族は $\emptyset=f^{-1}(\emptyset)$ と $X=f^{-1}(Y)$ を含み、$f^{-1}(U)\cap f^{-1}(V)=f^{-1}(U\cap V)$ と $\bigcup_kf^{-1}(U_k)=f^{-1}(\bigcup_kU_k)$ により有限共通部分と任意合併で閉じているので、逆像からの構成の命題の $\tau$ に一致する。位相の強弱 の記事の命題(写像が誘導する位相と連続性)も同じ内容である。
直積集合 $X=\prod_{i\in I}Y_i$ の射影 $\pi_i:X\to Y_i$ に関する始位相は、直積位相である(Eng89 §2.3 はこれを直積位相の定義とする)。
連続性の判定は直積位相 の記事の定理(直積位相の普遍性)に当たり、Mun00 Theorem 19.6 でもある。
例えば通常の実数直線への二つの座標射影 $\mathbb R^2\to\mathbb R$ の逆像準開基は、$U,V$ を $\mathbb R$ の開集合として、縦の帯 $U\times\mathbb R$ と横の帯 $\mathbb R\times V$ からなる。
$(0,1)\times(0,1)$ は二つの帯の共通部分として開だが、非空の帯を一つも含まないので、帯だけの合併としては表せない。
集合 $S$ と位相空間 $Y$ について、$S$ から $Y$ への写像全体 $Y^S$ に、各 $s\in S$ での評価写像 $\mathrm{ev}_s:Y^S\to Y$、$\mathrm{ev}_s(\varphi)=\varphi(s)$ の族に関する始位相を入れる。$Y^S=\prod_{s\in S}Y$ と見れば $\mathrm{ev}_s$ は第 $s$ 射影なので、これは直積位相そのものである。後の節の収束の判定から、この位相での収束はちょうど各点収束になる。そのためこの位相を各点収束の位相と呼ぶ。
実数体上のノルム空間 $E$ の連続線形汎関数全体を $E^*$ とする。$E$ に、族 $(\varphi)_{\varphi\in E^*}$、$\varphi:E\to\mathbb R$ に関する始位相を入れたものを $E$ の弱位相という。各 $\varphi$ はノルムの位相で連続なので、始位相の最小性から弱位相はノルムの位相より粗い。
始位相を二段階に分けて取っても、一度に取っても同じ位相になる。これは直積の部分空間や、直積の直積を扱うときに繰り返し使う。
$X$ を集合とし、$f_i:X\to Y_i$($i\in I$)を写像とする。各 $Y_i$ には、写像族 $g_{i,j}:Y_i\to Z_{i,j}$($j\in J_i$、$Z_{i,j}$ は位相空間)に関する始位相が入っているとする。このとき、$(f_i)_{i\in I}$ に関する $X$ の始位相は、合成の族
$$
(g_{i,j}\circ f_i)_{i\in I,\ j\in J_i}
$$
に関する始位相と一致する。
$\tau$ を $(f_i)$ に関する始位相とし、$\tau$ が合成の族について前の定理の条件 2 を満たすことを示す。位相空間 $Z$ と写像 $g:Z\to X$ を取る。始位相への写像の連続性の定理を $X$ に使うと、$g$ が連続であることは、すべての $i$ について $f_i\circ g:Z\to Y_i$ が連続であることと同値である。同じ定理を $Y_i$ に使うと、$f_i\circ g$ が連続であることは、すべての $j\in J_i$ について $g_{i,j}\circ f_i\circ g$ が連続であることと同値である。二つを合わせると、$g$ が連続であることは、すべての $(i,j)$ について $(g_{i,j}\circ f_i)\circ g$ が連続であることと同値になる。普遍性による特徴づけの定理により、$\tau$ は合成の族に関する始位相である。$J_i=\emptyset$ の場合も、$Y_i$ の位相は $\{\emptyset,Y_i\}$ であり、上の議論はそのまま通る。$\square$
相対位相は包含写像 $j:A\to\prod_iY_i$ に関する始位相であり(例「部分集合の包含写像」)、直積位相は射影の族に関する始位相である(例「射影族」)。推移性の定理を $f=j$、$g_i=\pi_i$ に使うと、$A$ の相対位相は $(\pi_i\circ j)_i=(\pi_i|_A)_i$ に関する始位相である。$\square$
始位相での収束は、各 $f_i$ で写した先の収束で判定できる。点列だけでは一般の位相を捉えきれないので、ネット(有向集合で添字付けた点の族)で述べる。点列は添字集合が $\mathbb N$ のネットである。
$X$ に写像族 $(f_i)_{i\in I}$ の始位相を入れる。$X$ のネット $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ と点 $x\in X$ について、$x_\lambda\to x$ であることと、すべての $i\in I$ について $Y_i$ で $f_i(x_\lambda)\to f_i(x)$ であることは同値である。
$x_\lambda\to x$ とし、$i\in I$ と $f_i(x)$ を含む開集合 $U\subset Y_i$ を取る。$f_i^{-1}(U)$ は $x$ を含む開集合なので、ある $\lambda_0$ があって $\lambda\geq\lambda_0$ なら $x_\lambda\in f_i^{-1}(U)$、すなわち $f_i(x_\lambda)\in U$ である。よって $f_i(x_\lambda)\to f_i(x)$ である。
逆に、すべての $i$ で $f_i(x_\lambda)\to f_i(x)$ とし、$W$ を $x$ を含む開集合とする。逆像からの構成の命題により、$x\in B\subset W$ となる開基の元
$$
B=f_{i_1}^{-1}(U_1)\cap\cdots\cap f_{i_k}^{-1}(U_k)
$$
がある($k=0$ なら $B=X$)。各 $m=1,\ldots,k$ について $f_{i_m}(x)\in U_m$ なので、ある $\lambda_m$ があって $\lambda\geq\lambda_m$ なら $f_{i_m}(x_\lambda)\in U_m$ となる。$\Lambda$ は有向集合なので、$\lambda_1,\ldots,\lambda_k$ のすべて以上の $\lambda_0\in\Lambda$ がある($k=0$ なら $\Lambda$ の任意の元を取る)。$\lambda\geq\lambda_0$ なら $x_\lambda\in B\subset W$ である。よって $x_\lambda\to x$ である。$\square$
この判定では、有限個の $f_{i_m}$ しか同時に見ていないことが要になる。無限個の座標を同時に制限する位相(箱位相)では、各座標の収束から全体の収束が従わない。
例「各点収束の位相」の $Y^S$ で、ネット $(\varphi_\lambda)$ が $\varphi$ に収束することは、上の命題により、すべての $s\in S$ について $\varphi_\lambda(s)\to\varphi(s)$ となることと同値である。例えば $Y=\mathbb R$、$S=[0,1]$ とし、$\varphi_n(s)=s^n$ とおくと、$\varphi_n$ は $s< 1$ で $0$、$s=1$ で $1$ をとる不連続な写像に、この位相で収束する。
写像族 $(f_i)_{i\in I}$ が点を分離するとは、相異なる $x,y\in X$ に対して $f_i(x)\neq f_i(y)$ となる $i$ があることをいう。
$X$ に写像族 $(f_i)_{i\in I}$ の始位相 $\tau$ を入れる。
写像族を一つの写像にまとめると、始位相は直積の部分空間として実現できる。写像 $e:X\to\prod_{i\in I}Y_i$ を $e(x)=(f_i(x))_{i\in I}$ で定める(Eng89 §2.3 の対角写像)。定義から $\pi_i\circ e=f_i$ である。
$\prod_iY_i$ に直積位相を入れる。$X$ の $(f_i)$ に関する始位相は、単一の写像 $e$ に関する始位相 $\{e^{-1}(W):W\text{ は }\prod_iY_i\text{ の開集合}\}$ に等しい。さらに写像族が点を分離するなら、$e$ は $X$(始位相)から $e(X)$(直積位相からの相対位相)への同相写像である。
直積位相は射影の族 $(\pi_i)$ に関する始位相なので、推移性の定理を単一の写像 $e$ と族 $(\pi_i)$ に使うと、$e$ に関する始位相は $(\pi_i\circ e)=(f_i)$ に関する始位相に等しい。単一写像の例により、それは $\{e^{-1}(W)\}$ である。
写像族が点を分離するなら、$x\neq y$ に対して $f_i(x)\neq f_i(y)$ となる $i$ があり、$e(x)\neq e(y)$ である。よって $e$ は $X$ から $e(X)$ への全単射である。$e(X)$ の相対位相の開集合は $W\cap e(X)$ の形であり、$e$ が単射だから
$$
e\bigl(e^{-1}(W)\bigr)=W\cap e(X),\qquad e^{-1}\bigl(W\cap e(X)\bigr)=e^{-1}(W)
$$
である。したがって全単射 $e:X\to e(X)$ は $X$ の開集合全体と $e(X)$ の開集合全体を互いに写し合い、同相写像である。$\square$
Eng89 Theorem 2.3.20(対角定理)は、はじめから位相の入った空間 $X$ について、連続写像の族が点を分離し、さらに点と閉集合を分離するなら $e$ が埋め込みであることを述べる。上の定理は、$X$ の位相を写像族から作る場合に、点の分離だけで埋め込みが得られることを述べている。
$I=\emptyset$ なら $\mathcal S=\emptyset$、$\mathcal B=\{X\}$ であり、始位相は $\{\emptyset,X\}$ である。
この場合、任意の写像 $g:Z\to X$ は連続であり、普遍性の右辺も空の添字族について自動的に成り立つ。
$X=\emptyset$ なら、与えられた写像族に関する始位相は $\{\emptyset\}$ である。
$X=\emptyset$ のとき、写像 $g:Z\to X$ が存在するのは $Z=\emptyset$ の場合だけである。
始位相の性質のうち、どれがどの条件に依存しているかを、条件を一つ外した反例で確かめる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 位相が最小であること | $\{0,1\}$ の離散位相と一点空間への写像 | 合成の連続性から $g$ の連続性が従うこと(普遍性) |
| 写像族が点を分離すること | $\mathbb R$ 上の $f(x)=x^2$ に関する始位相 | $T_0$ 性・Hausdorff 性、$e$ が埋め込みであること、極限の一意性 |
| 各 $Y_i$ が Hausdorff であること | 密着位相の $\{0,1\}$ への恒等写像 | 点を分離していても Hausdorff であること |
| (始位相でも成り立たない) | 同じ $f(x)=x^2$ | $f_i$ が開写像であること |
| 有限共通部分を取ること | $\mathbb R^2$ の縦と横の帯 | 準開基の元の合併だけで開集合がすべて得られること |
1 行目は注意「連続にするだけでは始位相とは限らない」で、5 行目は例「射影族」で確かめた。残りの行を次の例で確かめる。
$X=\mathbb R$ に、$f:\mathbb R\to\mathbb R$、$f(x)=x^2$(値域は通常の位相)に関する始位相 $\tau$ を入れる。単一写像の例により $\tau=\{f^{-1}(U):U\text{ は }\mathbb R\text{ の開集合}\}$ であり、その元はすべて $x\mapsto-x$ で不変な集合である。
$X=\{0,1\}$、$Y=\{0,1\}$ に密着位相 $\{\emptyset,Y\}$ を入れ、$f=\mathrm{id}:X\to Y$ とする。$f$ は単射なので写像族 $\{f\}$ は点を分離する。しかし始位相は $\{f^{-1}(\emptyset),f^{-1}(Y)\}=\{\emptyset,X\}$ であり、$X$ は Hausdorff でない($T_0$ でもない)。したがって分離性の命題の 2 で、各 $Y_i$ が Hausdorff という仮定は外せない。この例は、分離性の命題の 1 の逆(点を分離するなら $T_0$)が一般には成り立たないことも示す。
始位相は $f_i:X\to Y_i$ の始域 $X$ に位相を入れる構成であり、写像族の終域に位相を入れる終位相とは向きが異なる。始位相は写像を連続にする最も粗い位相、終位相は最も細かい位相である。
本記事では「弱位相」や「誘導位相」を、始位相の無条件の同義語としては使わない。「弱位相」はノルム空間の例のような特定の始位相を指すことが多く、「誘導位相」は相対位相を指す文献もあるからである。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する