単射半径

同義語:injectivity radius

概要

単射半径(injectivity radius)とは、Riemann 多様体の点 $p$ で、指数写像 $\exp_p$ が接空間の半径 $a$ の球からその像への微分同相になるような $a$ の上限 $\mathrm{inj}(p)$ で、その下限を $\mathrm{inj}(M)$ と書く。これは共役点までの距離と測地ループの長さの半分以下であり、$\mathrm{inj}(M)>0$ なら多様体は完備である。完備で連結なら $\mathrm{inj}(p)$ は $p$ から切断跡までの距離に等しく連続で、コンパクトなら正の最小値をとる。単位球面では $\pi$、平坦なトーラス $\mathbb R^2/\mathbb Z^2$ では $1/2$、双曲空間では $\infty$ で、尖点のある双曲曲面は完備でも $\mathrm{inj}(M)=0$ である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 正規座標, 測地線, 共役点, Hopf–Rinowの定理

Riemann 多様体の点 $p$ のまわりでは、指数写像 $\exp_p$ が接空間 $T_pM$ の原点の近くを $M$ の中へ微分同相に写し、これが 正規座標 を与える。どこまで大きな球の上でこの写し方が微分同相のままでいられるか、その限界の半径を $p$ での単射半径(injectivity radius)という。単位球面では、北極から出る測地線は南極で再び出会うので、単射半径は $\pi$ である。平坦なトーラスでは、測地線が一周して戻ってくるところで写し方が単射でなくなる。
単射半径は、点 $p$ のまわりで「接空間の言葉で計算してよい範囲」の大きさを測る量であり、共役点(指数写像の微分が退化する点)と、2 本の最短測地線が出会う点の両方に制限される。この記事では、単射半径を定義し、共役点・測地ループによる上からの評価、単射半径が一様に正なら完備であること、完備な場合の切断跡による表示を述べ、Euclid 空間、球面、平坦なトーラス、双曲空間、尖点をもつ双曲曲面で値を求める。

定義

以下 $(M,g)$ を境界のない Riemann 多様体とし、$p\in M$ について、$\gamma_v(1)$ が定義される $v\in T_pM$ の全体を $\mathcal E_p$ とする。指数写像 $\exp_p\colon\mathcal E_p\to M$ は 正規座標 の節「指数写像と正規近傍」のとおりである。$B_a(0)=\{v\in T_pM\mid|v|_g< a\}$ と書く($a=\infty$ なら $T_pM$ 全体)。

単射半径

$p\in M$ について、$B_a(0)\subset\mathcal E_p$ であり $\exp_p$ が $B_a(0)$ からその像への微分同相であるような $a>0$ の上限を、$p$ での単射半径といい $\mathrm{inj}(p)$ と書く(そのような $a$ に上限がなければ $\mathrm{inj}(p)=\infty$)。$\mathrm{inj}(M):=\inf_{p\in M}\mathrm{inj}(p)$ を $M$ の単射半径という。

$\exp_p$ が $B_a(0)$ の上で微分同相なら、それより小さい球の上でも微分同相なので、条件を満たす $a$ の全体は区間 $(0,\mathrm{inj}(p))$ を含み、$\mathrm{inj}(p)$ より大きい $a$ は条件を満たさない。また $a<\mathrm{inj}(p)$ について $\exp_p(B_a(0))$ は半径 $a$ の測地球である(正規座標 の定義「正規近傍と正規座標」)。定義は Lee18 pp. 165–166 に従う。

単射半径は正

どの $p\in M$ についても $\mathrm{inj}(p)>0$ である。

正規座標 の命題「指数写像の原点での微分」により、$0$ の近傍 $V\subset T_pM$ があって $\exp_p|_V$ は微分同相である。$V$ は $\mathcal E_p$ に含まれ、ある $\varepsilon>0$ について $B_\varepsilon(0)\subset V$ なので、$\mathrm{inj}(p)\ge\varepsilon$ である。$\square$

一方、$\mathrm{inj}(M)$ は $0$ になりうる(ex-ir-cusp)。

上からの評価

測地線 $\gamma\colon[0,1]\to M$ で $\gamma(0)=\gamma(1)=p$ となる定数でないものを、$p$ での測地ループという。長さは $|\gamma'(0)|$ である。閉測地線($\gamma'(0)=\gamma'(1)$ も満たすもの)は測地ループの特別な場合である。

共役点と測地ループによる上界

$p\in M$ とする。

  1. 単位ベクトル $v\in T_pM$ について $\gamma_v(t_0)$($t_0>0$)が $\gamma_v$ に沿って $p$ に共役なら、$\mathrm{inj}(p)\le t_0$ である。
  2. $p$ での長さ $\ell$ の測地ループがあれば、$\mathrm{inj}(p)\le\ell/2$ である。

1:$a>t_0$ で $B_a(0)\subset\mathcal E_p$ とすると $t_0v\in B_a(0)$ であり、共役点 の定理「共役点と指数写像の臨界点」により $(d\exp_p)_{t_0v}$ は単射でない。よって $\exp_p$ は $B_a(0)$ の上で微分同相でなく、$\mathrm{inj}(p)\le t_0$ である。
2:測地ループを $\gamma$、$v=\gamma'(0)$ とすると $\gamma(t)=\exp_p(tv)$ である。逆向きの曲線 $\beta(t)=\gamma(1-t)$ は初速度 $w=-\gamma'(1)$ の測地線で、$|w|=|v|=\ell$ であり、$\exp_p\bigl(\tfrac12v\bigr)=\gamma\bigl(\tfrac12\bigr)=\beta\bigl(\tfrac12\bigr)=\exp_p\bigl(\tfrac12w\bigr)$ である。もし $v=w$ なら測地線の一意性から $\beta=\gamma$、すなわち $\gamma(t)=\gamma(1-t)$ で、$t=\frac12$ で微分すると $\gamma'(\frac12)=-\gamma'(\frac12)$ となり、速さが一定の $\ell>0$ であることに反する。よって $\frac12v\ne\frac12w$ で、どちらも長さ $\ell/2$ である。$a>\ell/2$ なら $\exp_p$ は $B_a(0)$ の上で単射でないので、$\mathrm{inj}(p)\le\ell/2$ である。$\square$

曲率による上界もある。Ricci 曲率が $\mathrm{Ric}(v,v)\ge(n-1)/R^2$(単位ベクトル $v$、$R>0$)を満たす $n$ 次元 Riemann 多様体では、長さ $\pi R$ 以上の測地線の線分は共役点をもち、すべての点で $\mathrm{inj}(p)\le\pi R$ である(Lee18 Theorem 11.16・Corollary 11.17、p. 339。この記事では証明しない)。

単射半径が正なら完備

単射半径が一様に正な多様体は完備

$\mathrm{inj}(M)>0$ なら $M$ は測地的に完備である。とくに $M$ が連結なら、$(M,d_g)$ は完備な距離空間である。

$0<\delta<\mathrm{inj}(M)$ をとると、すべての $p\in M$ で $B_\delta(0)\subset\mathcal E_p$ である。すなわち、どの点から出る単位速さの測地線も、時刻の区間 $(-\delta,\delta)$ の上で定義される($\exp_p(tv)=\gamma_v(t)$)。単位速さの極大測地線 $\gamma\colon(\alpha,\beta)\to M$ で $\beta<\infty$ となるものがあったとする。$t_0\in(\alpha,\beta)$ を $\beta-t_0<\delta/2$ となるようにとり、$p=\gamma(t_0)$、$v=\gamma'(t_0)$ とおくと、$t\mapsto\gamma_v(t-t_0)$ は $|t-t_0|<\delta$ で定義される測地線で、$t_0$ での初期条件が $\gamma$ と同じなので $\gamma$ と一致する(測地線 の命題「測地線の局所存在と一意性」)。これは $\gamma$ を $t_0+\delta$($\beta+\delta/2$ より先)まで延ばし、極大性に反する。$\alpha>-\infty$ も同様に起こらない。速さが一定の測地線は単位速さのものの定数倍の速さなので、すべての測地線が $\mathbb R$ 全体で定義される。連結なら Hopf–Rinowの定理 の定理「Hopf–Rinow の定理」により距離空間として完備である。$\square$

逆は成り立たない。完備でも $\mathrm{inj}(M)=0$ となる例がある(ex-ir-cusp)。

切断跡による表示

この節では $(M,g)$ を完備で連結とする。単位ベクトル $v\in T_pM$ について
$$ t_{\mathrm{cut}}(p,v):=\sup\{b>0\mid\gamma_v|_{[0,b]}\text{ は長さ最小}\}\in(0,\infty] $$
を切断時刻、$t_{\mathrm{cut}}(p,v)<\infty$ のとき $\gamma_v(t_{\mathrm{cut}}(p,v))$ を $\gamma_v$ に沿う $p$ の切断点、切断点の全体 $\mathrm{Cut}(p)$ を $p$ の切断跡(cut locus)という(Lee18 pp. 307–308)。たとえば単位球面では $\mathrm{Cut}(p)=\{-p\}$ である(同書 Example 10.30)。

単射半径と切断跡

$(M,g)$ を完備で連結な Riemann 多様体とする。

  1. $\mathrm{inj}(p)=d_g(p,\mathrm{Cut}(p))=\inf\{t_{\mathrm{cut}}(p,v)\mid|v|=1\}$ である(切断跡が空なら $\mathrm{inj}(p)=\infty$)。
  2. 関数 $\mathrm{inj}\colon M\to(0,\infty]$ は連続である。
  3. $\mathrm{Cut}(p)$ は閉集合である。また $t_{\mathrm{cut}}(p,v)<\infty$ なら $\gamma_v$ は $[0,t_{\mathrm{cut}}(p,v)]$ の上で長さ最小であり、切断点 $q=\gamma_v(t_{\mathrm{cut}}(p,v))$ は $\gamma_v$ に沿って $p$ に共役であるか、$p$ から $q$ への単位速さの最短測地線が 2 本以上あるかの少なくとも一方を満たす。
切断跡の定理の出典

この記事では証明しない。1 は Lee18 Proposition 10.36(p. 312)とその次の命題の証明の冒頭(p. 312)、2 は同 Proposition 10.37(pp. 312–313)、3 は同 Theorem 10.34 (a)(p. 311)と Proposition 10.32 (b)(p. 308)にある。どれも、切断時刻 $t_{\mathrm{cut}}$ が単位接束の上で連続であること(同 Theorem 10.33、p. 309)を使う。

単射半径を実現する点

$(M,g)$ を完備で連結とし、$\mathrm{inj}(p)<\infty$ とする。このとき $d_g(p,q)=\mathrm{inj}(p)$ となる点 $q$ で、次の少なくとも一方を満たすものがある。

  1. $q$ は $p$ から $q$ への最短測地線に沿って $p$ に共役である。
  2. $p$ から $q$ への単位速さの最短測地線が 2 本以上ある。

thm-ir-cut-locus の 1 により $\mathrm{Cut}(p)$ は空でなく、$d_g(p,\mathrm{Cut}(p))=\mathrm{inj}(p)$ である。$\mathrm{Cut}(p)$ と閉球 $\{x\mid d_g(p,x)\le\mathrm{inj}(p)+1\}$ の共通部分は有界な閉集合なので、Hopf–Rinowの定理 によりコンパクトであり、空でない。そこで連続関数 $d_g(p,\cdot)$ は最小値をとり、その点 $q$ について $d_g(p,q)=\mathrm{inj}(p)$ である。$q$ はある単位ベクトル $v$ について $\gamma_v$ に沿う切断点であり、thm-ir-cut-locus の 3 により $\gamma_v|_{[0,t_{\mathrm{cut}}]}$ は $p$ から $q$ への最短測地線で、1 か 2 が成り立つ。$\square$

コンパクトな多様体

$M$ がコンパクトで連結なら、$0<\mathrm{inj}(M)<\infty$ であり、$\mathrm{inj}(M)=\mathrm{inj}(p_0)$ となる点 $p_0$ がある。

コンパクトな Riemann 多様体は完備である(Hopf–Rinowの定理 の系「コンパクトなリーマン多様体は完備」)。thm-ir-cut-locus の 2 により $\mathrm{inj}$ は連続で、prop-ir-positive により各点で正である。$M$ の直径を $D<\infty$ とすると、長さが $D$ を超える測地線の線分は長さ最小でないので、どの単位ベクトルについても $t_{\mathrm{cut}}(p,v)\le D$ であり、thm-ir-cut-locus の 1 から $\mathrm{inj}(p)\le D$ である。よって $\mathrm{inj}$ は $M$ から $(0,D]$ への連続関数で、コンパクト集合の上で正の最小値をとる。$\square$

コンパクトな場合の正値性は、一様正規近傍を使っても示せる(Lee18 Lemma 6.16、p. 166)。

例

Euclid 空間・球面・双曲空間
  1. $\mathbb R^n$ では $\exp_p(v)=p+v$ は $T_pM$ 全体から $\mathbb R^n$ への微分同相なので、$\mathrm{inj}(p)=\infty$ である。
  2. 単位球面 $S^n$ では、正規座標 の例「単位球面の正規座標」により $\exp_p$ は $B_\pi(0)$ から $S^n\setminus\{-p\}$ への微分同相である。一方、$\{|v|=\pi\}$ の上で $\exp_p(v)=-p$ であり、共役点 の例「球面の共役点」のとおり $-p$ は $p$ に共役なので、prop-ir-upper-bounds の 1 から $\mathrm{inj}(p)\le\pi$ である。よって $\mathrm{inj}(p)=\pi$、半径 $R$ の球面では $\pi R$ である。
  3. 双曲空間 $H^n$ は完備で単連結であり(双曲空間 の定義「Minkowski 空間と双曲空間」とその後の注意、定理「測地線と距離の公式」)、断面曲率は $-1$ である。Riemann幾何学 の定理「Cartan–Hadamard の定理」により $\exp_p\colon T_pH^n\to H^n$ は被覆写像で、$H^n$ が単連結なので全単射、したがって微分同相である。よって $\mathrm{inj}(p)=\infty$ である。同じ理由で、完備・単連結・断面曲率 $\le0$ の Riemann 多様体の単射半径は $\infty$ である。
平坦なトーラス

$T^2=\mathbb R^2/\mathbb Z^2$ に Euclid の計量から誘導される計量を入れ、$\pi\colon\mathbb R^2\to T^2$ を射影とする。$\pi$ は局所等長なので、$p=\pi(\tilde p)$ について $\exp_p(v)=\pi(\tilde p+v)$($v\in\mathbb R^2=T_pT^2$)である。どの点でも $\mathrm{inj}(p)=1/2$ である。
実際、$a\le1/2$ とし、$v,w\in B_a(0)$ が $\exp_pv=\exp_pw$ を満たせば $v-w\in\mathbb Z^2$ で $|v-w|< 2a\le1$ なので $v=w$ である。$\exp_p$ は局所微分同相で $B_a(0)$ の上で単射なので、その上で像への微分同相である。よって $\mathrm{inj}(p)\ge1/2$ である。逆に $t\mapsto\pi(\tilde p+te_1)$($0\le t\le1$)は長さ $1$ の測地ループ(実は閉測地線)なので、prop-ir-upper-bounds の 2 から $\mathrm{inj}(p)\le1/2$ である。トーラスの断面曲率は $0$ なので共役点はなく(共役点 の定理「非正曲率なら共役点はない」)、単射半径を決めているのは cor-ir-realized の 2 の状況、すなわち $\pi(\tilde p\pm\frac12e_1)$ に向かう 2 本の最短測地線である。

尖点をもつ双曲曲面

上半平面 $U^2=\{x+iy\mid y>0\}$ に計量 $y^{-2}(dx^2+dy^2)$(双曲空間 の定理「上半空間モデルと球体モデル」、$a=1$、$n=2$)を入れ、平行移動 $\tau(z)=z+1$ の生成する群 $\langle\tau\rangle\cong\mathbb Z$ で割った $M=U^2/\langle\tau\rangle$ を考える。$\tau$ は等長写像で、$\langle\tau\rangle$ は自由かつ固有に作用するので、$M$ には射影 $\pi\colon U^2\to M$ が Riemann 被覆になる計量が入る(Lee18 Proposition 2.32、p. 25)。$U^2$ は完備なので $M$ も完備である(同 Corollary 6.24、p. 173)。
$p=\pi(x+iy)$ をとる。$U^2$ で $x+iy$ と $x+1+iy$ を結ぶ測地線の線分を $\pi$ で写すと、$p$ での測地ループになる($\pi$ は局所等長なので測地線を測地線に写す)。その長さ $\ell(y)$ は 双曲空間 の系「上半空間の距離」により
$$ \cosh\ell(y)=1+\frac1{2y^2} $$
を満たし、$y\to\infty$ のとき $\ell(y)\to0$ である。prop-ir-upper-bounds の 2 から $\mathrm{inj}(p)\le\ell(y)/2$ なので、$\mathrm{inj}(M)=0$ である。$M$ は完備だが、尖点($y\to\infty$ の側)に向かって単射半径が $0$ に近づく。

条件を外したときの反例

外す条件反例成り立たなくなること
$M$ が完備である$\mathbb R^2$ の開円板 $D=\{x\mid x_1^2+x_2^2< 1\}$$\mathrm{inj}(p)=d_g(p,\mathrm{Cut}(p))$(切断跡が空なら $\infty$)
$M$ がコンパクトである尖点をもつ双曲曲面 $U^2/\langle z\mapsto z+1\rangle$$\mathrm{inj}(M)>0$
$M$ が単連結である平坦なトーラス $\mathbb R^2/\mathbb Z^2$完備で断面曲率 $\le0$ なら $\mathrm{inj}=\infty$
断面曲率 $\le0$単位球面 $S^2$完備で単連結なら $\mathrm{inj}=\infty$
反例の確かめ

1 行目:$p\in D$ で $\mathcal E_p=D-p$($p+tv$ が $t\in[0,1]$ で $D$ に入る $v$ の全体。$D$ は凸)なので、$B_a(0)\subset\mathcal E_p$ と $a\le1-|p|$ は同値で、そのとき $\exp_p(v)=p+v$ は微分同相である。よって $\mathrm{inj}(p)=1-|p|<\infty$ である。一方、$D$ の中の線分はつねに長さ最小なので、$t_{\mathrm{cut}}$ を同じ式で定めると $\gamma_v|_{[0,b]}$ は定義される限り長さ最小で、切断点は 1 つもなく、共役点もない。完備でないと、単射半径は測地線が「外へ出てしまう」ことでも制限される。
2 行目:ex-ir-cusp により $M$ は完備で連結だが $\mathrm{inj}(M)=0$ である。cor-ir-compact の正値性にはコンパクト性が要り、thm-ir-complete の逆は成り立たない。
3 行目:ex-ir-torus により $\mathrm{inj}=1/2$ である。トーラスは完備で平坦だが単連結でなく、$\exp_p$ は被覆写像ではあっても単射でない。
4 行目:ex-ir-model-spaces の (2) により $\mathrm{inj}=\pi$ である。$S^2$ は完備で単連結だが、断面曲率 $1$ のため距離 $\pi$ に共役点がある。

補足

下からの評価。 コンパクトな Riemann 多様体で、断面曲率が $1/R^2$ 以下、閉測地線の長さがすべて $L$ 以上なら、$\mathrm{inj}(M)\ge\min(\pi R,\ L/2)$ である。これは Klingenberg の補題として知られ、Lee18 では演習 Problem 11-4(p. 343)に回されている。この記事では証明しない。
正規座標が使える範囲。 $a<\mathrm{inj}(p)$ なら、半径 $a$ の測地球の上に正規座標がとれ、そこでは測地線の最短性・Gauss の補題などの 正規座標 の結果が使える。$\mathrm{inj}(M)\ge a>0$ なら、この大きさの測地球がすべての点のまわりで一様にとれる。

関連項目

参考文献

[1]
John M. Lee, Introduction to Riemannian Manifolds, Graduate Texts in Mathematics 176, Springer, 2018, Proposition 2.32(等長な群作用による商、p. 25)、Corollary 6.24(Riemann 被覆と完備性、p. 173)、pp. 165–166(単射半径の定義)と Lemma 6.16(p. 166)、pp. 307–308(切断時刻と切断跡)、Example 10.30・Proposition 10.32(p. 308)、Theorem 10.33(p. 309)、Theorem 10.34(p. 311)、Propositions 10.36–10.37(pp. 312–313)、Theorem 11.16・Corollary 11.17(p. 339)、Problem 11-4(p. 343)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する