円分多項式(cyclotomic polynomial)とは、$1$ の原始 $n$ 乗根をすべて単根としてもつモニック多項式 $\Phi_n(x)$ のことであり、次数は $\varphi(n)$ で係数は整数、$x^n-1=\prod_{d\mid n}\Phi_d(x)$ を満たす。$\Phi_n$ は有理数体上既約で、$1$ の原始 $n$ 乗根の最小多項式になり、円分体 $\mathbb{Q}(\zeta_n)$ の次数が $\varphi(n)$ であることが従う。$n$ を割らない素数 $p$ を法とすると、$\Phi_n$ は $p$ の $n$ を法とする位数を次数とする相異なる既約因子に分かれる。ここから $\Phi_n(a)$ の素因数は $n$ を割るか $n$ を法として $1$ に合同であり、$n$ を法として $1$ に合同な素数が無数にあることが従う。
$x^n-1$ の根は複素平面の単位円を $n$ 等分する $n$ 個の点であり、それぞれの根は「何乗して初めて $1$ に戻るか」という位数をもつ。位数がちょうど $n$ の根、すなわち原始 $n$ 乗根だけを集めて作ったモニック多項式が 円分多項式(cyclotomic polynomial)$\Phi_n$ である。$x^n-1$ は約数 $d$ ごとの $\Phi_d$ の積に分かれ、$\Phi_n$ は整数係数で、有理数体 $\mathbb{Q}$ 上既約である(thm-cyclo-poly-irreducible)。既約性から、$1$ の原始 $n$ 乗根 $\zeta_n$ の最小多項式が $\Phi_n$ であり、円分体 $\mathbb{Q}(\zeta_n)$ の次数が $\varphi(n)$ であることが従う。一方で係数を $n$ を割らない素数 $p$ を法として還元すると、$\Phi_n$ は同じ次数の既約因子に分かれ、その次数は $p$ の $n$ を法とする位数で決まる(thm-cyclo-poly-mod-p)。この還元から、$\Phi_n(a)$ の素因数は $n$ を割るか $n$ を法として $1$ に合同であるという制約が出て(thm-cyclo-poly-prime-divisor)、$n$ を法として $1$ に合同な素数が無数にあることが証明できる。
$n\ge1$ とし、$\zeta_n:=e^{2\pi i/n}$ とおく。$1$ の $n$ 乗根は $\zeta_n^k$($0\le k\le n-1$)の $n$ 個であり、そのうち原始 $n$ 乗根(位数がちょうど $n$ のもの)は $\gcd(k,n)=1$ となる $\zeta_n^k$ である(1の冪根 の記事の命題「原始 $n$ 乗根の決定と個数」)。
$n\ge1$ について
$$
\Phi_n(x):=\prod_{\substack{1\le k\le n\\ \gcd(k,n)=1}}\bigl(x-\zeta_n^k\bigr)
$$
を $n$ 番目の円分多項式($n$-th cyclotomic polynomial)という。$\Phi_n$ の根は $1$ の原始 $n$ 乗根の全体で、どれも単根である。$\Phi_n$ はモニックで、次数はEulerのφ関数の値 $\varphi(n)$ である。
円分多項式の最も基本的な 2 つの性質は、1の冪根 の記事の命題「円分多項式の積と整数係数」で証明されている。
$x^n-1$ を因数分解するとき、最初に見える因子 $x-1$ や $x^d-1$($d\mid n$)はどれも「$n$ より小さい周期で $1$ に戻る根」を集めたものである。それらを全部取り除いた残りが $\Phi_n$ であり、「ちょうど $n$ 等分の点」だけを根にもつ。たとえば $x^{12}-1$ の 12 個の根は、位数 $1,2,3,4,6,12$ の 6 つの群に分かれ、それぞれが $\Phi_1,\Phi_2,\Phi_3,\Phi_4,\Phi_6,\Phi_{12}$ の根になる。
$\mathbb{Q}$ の上では、原始 $n$ 乗根どうしを区別する手段がない。どの原始 $n$ 乗根 $\zeta$ も、$\gcd(a,n)=1$ となる $a$ について $\zeta\mapsto\zeta^a$ と動かすと他のすべての原始 $n$ 乗根に移り、この動きが多項式の関係を保つ。それが $\Phi_n$ の $\mathbb{Q}$ 上の既約性の中身である。既約性の証明では、この動きを $a$ の素因数 $p$ ごとに分け、$\zeta\mapsto\zeta^p$ が $p$ を法とする世界の Frobenius 写像 $y\mapsto y^p$ と一致することを使う。
素数 $p$ を法として見ると状況は変わる。有限体 $\mathbb{F}_p$ の上では Frobenius 写像 $y\mapsto y^p$ が原始 $n$ 乗根を $\beta\mapsto\beta^p$ と動かすだけで、$\beta\mapsto\beta^a$ のすべては実現されない。このため $\bar\Phi_n$ は、Frobenius 写像の軌道ごとの既約因子に分かれる。
| $n$ | $\Phi_n(x)$ | $n$ | $\Phi_n(x)$ |
|---|---|---|---|
| $1$ | $x-1$ | $7$ | $x^6+x^5+x^4+x^3+x^2+x+1$ |
| $2$ | $x+1$ | $8$ | $x^4+1$ |
| $3$ | $x^2+x+1$ | $9$ | $x^6+x^3+1$ |
| $4$ | $x^2+1$ | $10$ | $x^4-x^3+x^2-x+1$ |
| $5$ | $x^4+x^3+x^2+x+1$ | $11$ | $x^{10}+x^9+\dots+x+1$ |
| $6$ | $x^2-x+1$ | $12$ | $x^4-x^2+1$ |
素数 $p$ については $x^p-1=\Phi_1(x)\Phi_p(x)$ から $\Phi_p(x)=x^{p-1}+x^{p-2}+\dots+x+1$ である。$n\le104$ では係数は $0,\pm1$ だけだが、$\Phi_{105}$(次数 $48$)では $x^{41}$ と $x^7$ の係数が $-2$ になる。
$k\ge0$ について、$2^{k+1}$ の約数は $2^j$($0\le j\le k+1$)なので $x^{2^{k+1}}-1=(x^{2^k}-1)\,\Phi_{2^{k+1}}(x)$ であり、
$$
\Phi_{2^{k+1}}(x)=x^{2^k}+1
$$
である。したがって Fermat数 $F_k=2^{2^k}+1$ は $\Phi_{2^{k+1}}(2)$ に等しい。後の thm-cyclo-poly-prime-divisor を $n=2^{k+1}$、$a=2$ に使うと、$F_k$ は奇数なので素因数 $p$ は $n$ を割らず、$p\equiv1\pmod{2^{k+1}}$ が従う。たとえば $F_5=2^{32}+1=641\cdot6700417$ で、$641=5\cdot2^7+1$ は $2^6=64$ を法として $1$ に合同である。
| $n$ | $a$ | $\Phi_n(a)$ | 素因数分解 | $n$ を法とする素因数 |
|---|---|---|---|---|
| $5$ | $2$ | $31$ | $31$ | $31\equiv1$ |
| $7$ | $2$ | $127$ | $127$ | $127\equiv1$ |
| $12$ | $2$ | $13$ | $13$ | $13\equiv1$ |
| $8$ | $3$ | $82$ | $2\cdot41$ | $2\mid8$、$41\equiv1$ |
| $6$ | $2$ | $3$ | $3$ | $3\mid6$ |
最後の 2 行のように、$n$ を割る素数は $n$ を法として $1$ に合同でなくても $\Phi_n(a)$ を割りうる。thm-cyclo-poly-prime-divisor はこの例外を除いた素因数について合同式 $p\equiv1\pmod n$ を主張する。
$n\ge1$ とし、$p$ を素数とする。
要点:2–4 は、両辺がモニックで次数が等しく、根がすべて単根で一致することを、根の位数を数えて確かめる。1 は根の集合が $\zeta\mapsto\zeta^{-1}$ で保たれることから、5 は $1+x+\dots+x^{n-1}=\prod_{d\mid n,\,d>1}\Phi_d(x)$ に $x=1$ を代入した式 $n=\prod_{d\mid n,\,d>1}\Phi_d(1)$ についての帰納法から従う。
複素数 $z\neq0$ の乗法群での位数を $\operatorname{ord}z$ と書く。位数 $m$ の $z$ について $\operatorname{ord}(z^p)=m/\gcd(m,p)$ である。2 つのモニック多項式が同じ次数をもち、一方の根がすべて単根で他方の根でもあるなら、両者は等しい(1の冪根 の記事の命題「$x^n-1$ の 1 次式への分解」の証明と同じく、根で順に割ればよい)。2–4 はこの方針で示す。
1. 原始 $n$ 乗根 $\zeta$ の逆数 $\zeta^{-1}$ も原始 $n$ 乗根であり、$\zeta\mapsto\zeta^{-1}$ は原始 $n$ 乗根の全体の上の全単射である。よって$$x^{\varphi(n)}\Phi_n(1/x)=\prod_{\zeta}(1-\zeta x)=\Bigl(\prod_\zeta(-\zeta)\Bigr)\prod_\zeta\bigl(x-\zeta^{-1}\bigr)=c\,\Phi_n(x),\qquad c:=\prod_\zeta(-\zeta)$$である。$n=2$ なら $\zeta=-1$ だけなので $c=1$ である。$n\ge3$ なら $\zeta^2\neq1$ だから $\zeta\neq\zeta^{-1}$ で、原始 $n$ 乗根は $\{\zeta,\zeta^{-1}\}$ の組に分かれる。各組の積は $1$ なので $\prod_\zeta\zeta=1$ であり、組の個数から $\varphi(n)$ は偶数なので $c=(-1)^{\varphi(n)}=1$ である。$\Phi_n(0)$ は左辺の最高次の係数に等しく $1$ である。
2. $\Phi_n(x^p)$ の根 $z$ は $z^p$ が原始 $n$ 乗根となる複素数である。$m:=\operatorname{ord}z$ とすると $m/\gcd(m,p)=n$ である。$p\nmid m$ なら $m=n$ となり $p\mid n$ に反するので、$p\mid m$ で $m=pn$ である。逆に原始 $pn$ 乗根 $z$ について $z^p$ の位数は $n$ である。よって $\Phi_n(x^p)$ の根の全体は原始 $pn$ 乗根の全体である。各原始 $n$ 乗根 $w$ について $z^p=w$ の解は相異なる $p$ 個なので、$\Phi_n(x^p)$ の根はすべて単根であり、次数は $p\varphi(n)$ である。$p\mid n$ のとき $\varphi(pn)=p\varphi(n)$ なので、$\Phi_{pn}$ と $\Phi_n(x^p)$ は次数が等しいモニック多項式で、根の集合も一致し、等しい。
3. 2 と同じく $\operatorname{ord}z=m$ について $m/\gcd(m,p)=n$ を解くと、$p\nmid n$ のときは $m=n$ または $m=pn$ である。逆に $\gcd(p,n)=1$ なら原始 $n$ 乗根 $z$ の $z^p$ も原始 $n$ 乗根である。よって $\Phi_n(x^p)$ の根の全体は原始 $n$ 乗根と原始 $pn$ 乗根の全体(交わりはない)であり、いずれも単根である。次数は $p\varphi(n)=\varphi(n)+(p-1)\varphi(n)=\varphi(n)+\varphi(pn)$ で、左辺 $\Phi_{pn}\Phi_n$ と一致する。
4. $n$ が奇数のとき、$z$ が原始 $2n$ 乗根であることと $-z$ が原始 $n$ 乗根であることは同値である。実際、どちらの条件の下でも $z^{2n}=(-z)^{2n}=1$ なので、$z=\zeta_{2n}^k$($0\le k<2n$)と書け、$-1=\zeta_{2n}^n$ から $-z=\zeta_{2n}^{k+n}$ である。$z$ が原始 $2n$ 乗根であることは $\gcd(k,2n)=1$、すなわち「$k$ が奇数で $\gcd(k,n)=1$」と同値である。一方 $-z$ が $1$ の $n$ 乗根であることは $k+n$ が偶数、すなわち($n$ が奇数なので)$k$ が奇数であることと同値で、そのとき $-z=\zeta_n^{(k+n)/2}$ が原始 $n$ 乗根であることは $\gcd\bigl((k+n)/2,n\bigr)=\gcd(k+n,n)=\gcd(k,n)=1$ と同値である($n$ が奇数なので $2$ で割っても $n$ との最大公約数は変わらない)。よって $\Phi_n(-x)=\prod_\zeta(-x-\zeta)=(-1)^{\varphi(n)}\prod_\zeta\bigl(x-(-\zeta)\bigr)$ であり、$n\ge3$ では $\varphi(n)$ は偶数なので右辺は $\Phi_{2n}(x)$ に等しい。
5. $n\ge2$ のとき $x^n-1=(x-1)\prod_{d\mid n,\,d>1}\Phi_d(x)$ を $x-1$ で割ると $1+x+\dots+x^{n-1}=\prod_{d\mid n,\,d>1}\Phi_d(x)$ であり、$x=1$ を代入して$$n=\prod_{d\mid n,\,d>1}\Phi_d(1)$$を得る。$n$ についての帰納法で主張を示す。$n$ より小さい $d\ge2$ では主張が成り立つとし、$n=p_1^{e_1}\cdots p_r^{e_r}$ と素因数分解する。$1< d< n$ の約数 $d$ のうち、素数冪でないものの $\Phi_d(1)$ は $1$ である。$r=1$ なら、$1< d< n$ の素数冪の約数は $p_1^j$($1\le j< e_1$)なので、上の等式は $p_1^{e_1}=\Phi_n(1)\,p_1^{e_1-1}$ となり $\Phi_n(1)=p_1$ である。$r\ge2$ なら、素数冪の約数 $p_i^j$($1\le j\le e_i$)はすべて $n$ より小さく、その $\Phi$ の値の積は $\prod_ip_i^{e_i}=n$ なので、$\Phi_n(1)=1$ である。$\square$
1 から、$n\ge2$ の $\Phi_n$ は相反方程式の左辺になる。5 の値は、円分体 の記事の命題「素数冪の円分体」で $p=\prod(1-\zeta^a)$ として使われる。
次の定理が円分多項式の中心の性質である。証明では、整数係数のモニック多項式どうしの割り算と、$\mathbb{F}_p[x]$ での分解だけを使う。
すべての $n\ge1$ について、$\Phi_n$ は $\mathbb{Q}$ 上既約である。したがって $\Phi_n$ は任意の原始 $n$ 乗根の $\mathbb{Q}$ 上の最小多項式であり、$[\mathbb{Q}(\zeta_n):\mathbb{Q}]=\varphi(n)$ である。
整数係数への帰着。 $\zeta$ を原始 $n$ 乗根とし、$f\in\mathbb{Q}[x]$ をその最小多項式(モニック)とする。$\Phi_n(\zeta)=0$ なので $f$ は $\Phi_n$ を割り切り、$\Phi_n=fg$ となるモニックな $g\in\mathbb{Q}[x]$ がある。既約多項式 の記事の定理「Gauss の補題」の 3 により、$\lambda\in\mathbb{Q}^\times$ で $\lambda f,\ \lambda^{-1}g\in\mathbb{Z}[x]$ となるものがある。両者の最高次の係数 $\lambda,\lambda^{-1}$ がともに整数なので $\lambda=\pm1$ であり、$f,g\in\mathbb{Z}[x]$ である。
主張:$p\nmid n$ なる素数 $p$ と $f$ の根 $\alpha$ について、$\alpha^p$ も $f$ の根である。 $\alpha$ は $\Phi_n$ の根なので原始 $n$ 乗根であり、$\gcd(p,n)=1$ から $\alpha^p$ も原始 $n$ 乗根で、$\Phi_n=fg$ の根である。$f(\alpha^p)\neq0$ と仮定すると $g(\alpha^p)=0$ であり、$\alpha$ は $g(x^p)$ の根になる。$f$ は $\alpha$ の最小多項式(モニックで既約、$\alpha$ を根にもつ)なので、$\mathbb{Q}[x]$ で $f$ は $g(x^p)$ を割り切る。$f$ はモニックな整数係数の多項式なので、$\mathbb{Z}[x]$ での割り算 $g(x^p)=f(x)h(x)+r(x)$($\deg r<\deg f$)の商と余りは $\mathbb{Q}[x]$ での商と余りに一致し、$r=0$、$h\in\mathbb{Z}[x]$ である。
係数を $p$ を法として還元し、$\mathbb{F}_p[x]$ で考える。$\mathbb{F}_p$ の元 $c$ は $c^p=c$ を満たし、$\mathbb{F}_p[x]$ では $(u+v)^p=u^p+v^p$ なので(有限体 の記事の命題「Frobenius写像の性質」)、$\bar g(x^p)=\bar g(x)^p$ である。よって $\bar f\mid\bar g^{\,p}$ である。$\bar f$ はモニックで次数 $\deg f\ge1$ なので、モニックな既約因子 $q\in\mathbb{F}_p[x]$ をもつ。$q$ は $\bar g^{\,p}$ を割り切り、$\mathbb{F}_p[x]$ は単項イデアル整域なので既約元 $q$ は素元であり、$q\mid\bar g$ である。すると $q^2$ は $\bar f\bar g=\bar\Phi_n$ を割り切り、したがって $x^n-1$ を $\mathbb{F}_p[x]$ で割り切る。
$x^n-1=q^2u$ と書いて微分すると $nx^{n-1}=q\,(2q'u+qu')$ なので、$q$ は $x^n-1$ と $nx^{n-1}$ の両方を割り切る。ところが $p\nmid n$ なので $n$ は $\mathbb{F}_p$ で可逆で、
$$
x\cdot n^{-1}\cdot nx^{n-1}-(x^n-1)=1
$$
から $q\mid1$ となり、$q$ が次数 $1$ 以上であることに反する。よって $f(\alpha^p)=0$ である。
結論。 $\gcd(a,n)=1$ となる $1\le a\le n$ を素因数分解して $a=p_1p_2\cdots p_s$ と書く($a=1$ なら $s=0$)。各 $p_j$ は $n$ を割らない。$\zeta$ は $f$ の根なので、主張を繰り返して $\zeta^{p_1},\ \zeta^{p_1p_2},\ \dots,\ \zeta^a$ はすべて $f$ の根である。$\zeta^a$ はすべての原始 $n$ 乗根を動くので、$f$ は $\varphi(n)$ 個の相異なる根をもち、$\deg f\ge\varphi(n)=\deg\Phi_n$ である。$f\mid\Phi_n$ でどちらもモニックなので $f=\Phi_n$ である。$\zeta$ は任意だったので、$\Phi_n$ は各原始 $n$ 乗根の最小多項式で、とくに $\mathbb{Q}$ 上既約であり、$[\mathbb{Q}(\zeta_n):\mathbb{Q}]=\deg\Phi_n=\varphi(n)$ である。$\square$
この証明は Dedekind による証明の型であり、DF04 §13.6 Theorem 41(p. 554)も同じ方針である。$n$ が素数冪 $p^k$ のときは、$\Phi_{p^k}(x+1)$ が Eisenstein 多項式になることからも既約性が分かる(円分体 の記事の命題「素数冪の円分体」の 1)。
主張の段で $p\nmid n$ を使ったのは、$x^n-1$ が $\mathbb{F}_p[x]$ で重複因子をもたないことを示す箇所だけである。$p\mid n$ ではこれが崩れ、たとえば $\mathbb{F}_3[x]$ で $\bar\Phi_3=x^2+x+1=(x-1)^2$ となる。
$p$ を $n$ を割らない素数とする。$p^f\equiv1\pmod n$ となる最小の $f\ge1$ を $p$ の $n$ を法とする位数といい、$\operatorname{ord}_n(p)$ と書く。これは群 $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times$ での $p$ の位数なので $\varphi(n)$ を割り切る。
$p$ を素数、$n\ge1$ を $p\nmid n$ なる整数とし、$f:=\operatorname{ord}_n(p)$ とおく。$L$ を $x^n-1$ の $\mathbb{F}_p$ 上の分解体とする。
たとえば $n=7$、$p=2$ では $2^3=8\equiv1\pmod7$ なので $f=3$ であり、$\mathbb{F}_2[x]$ で $\Phi_7=(x^3+x+1)(x^3+x^2+1)$ と 2 つの 3 次式に分かれる。$n=5$、$p=11$ では $f=1$ で $\Phi_5$ は 1 次式 4 つに、$p=19$ では $19^2=361\equiv1\pmod5$ なので 2 次式 2 つに、$p=2$ では $f=4$ なので既約のままである。
$\Phi_8=x^4+1$ は thm-cyclo-poly-irreducible により $\mathbb{Q}$ 上既約である。一方、どの素数 $p$ についても $\bar\Phi_8$ は $\mathbb{F}_p[x]$ で可約である。$p=2$ なら $x^4+1=(x+1)^4$ である。$p$ が奇数なら $p^2\equiv1\pmod8$ なので $f=\operatorname{ord}_8(p)\in\{1,2\}$ であり、thm-cyclo-poly-mod-p により $\bar\Phi_8$ は 1 次式か 2 次式の積である。たとえば $\mathbb{F}_3[x]$ では $x^4+1=(x^2+x-1)(x^2-x-1)$ である。
この例は、整数係数の多項式の既約性を「ある素数を法として既約」から示す方法(DF04 §9.4 Proposition 12、p. 309)が、既約な多項式すべてに使えるわけではないことを示している。
$n\ge1$、$a\in\mathbb{Z}$ とし、素数 $p$ が $\Phi_n(a)$ を割り切るとする。このとき $p\mid n$ であるか、$p\equiv1\pmod n$ である。
$p\nmid n$ とする。$\Phi_n(a)\equiv0\pmod p$ なので、$a$ の $\mathbb{F}_p$ での像 $\bar a$ は $\bar\Phi_n$ の根である。thm-cyclo-poly-mod-p の 1 により $\bar a$ は $L^\times$ の位数 $n$ の元であり、$\bar a\in\mathbb{F}_p^\times$ なので、位数 $n$ は群 $\mathbb{F}_p^\times$ の位数 $p-1$ を割り切る(Lagrange の定理)。よって $p\equiv1\pmod n$ である。$\square$
$n\ge1$ について、$p\equiv1\pmod n$ を満たす素数 $p$ は無数にある。
$n=1$ なら素数が無数にあることにほかならないので、$n\ge2$ とする。$p\equiv1\pmod n$ を満たす素数が有限個 $p_1,\dots,p_r$($r=0$ も許す)しかないと仮定し、$N:=n\,p_1\cdots p_r$ とおく。$\Phi_n$ は次数 $\varphi(n)\ge1$ のモニック多項式なので $|\Phi_n(t)|\to\infty$($t\to\infty$)であり、正の整数 $k$ で $|\Phi_n(kN)|>1$ となるものがある。その素因数 $q$ をとる。prop-cyclo-poly-formulas の 1 により $\Phi_n(0)=1$ なので、整数係数の多項式の性質から $\Phi_n(kN)\equiv\Phi_n(0)=1\pmod N$ であり、$q\nmid N$ である。とくに $q\nmid n$ なので、thm-cyclo-poly-prime-divisor により $q\equiv1\pmod n$ である。ところが $q$ はどの $p_i$ とも異なり、仮定に反する。$\square$
これは DF04 §13.6 Exercises 16–17(p. 557)の内容である(演習 16 は $p$ を奇素数に限って述べている)。一般に $\gcd(a,n)=1$ なら $p\equiv a\pmod n$ を満たす素数が無数にある(Dirichlet の算術級数定理。DF04 p. 557 に言及がある)が、その証明には Dirichlet指標 の $L$ 関数を使い、この記事の方法で扱えるのは $a\equiv1$ の場合である。
円分多項式は、円分体 $\mathbb{Q}(\zeta_n)$ を作る多項式である。役割を分けると次のようになる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 係数体が $\mathbb{Q}$(有限体に替える) | $\mathbb{F}_3[x]$ で $x^4+1=(x^2+x-1)(x^2-x-1)$ | $\Phi_8$ の既約性 |
| 係数体が $\mathbb{Q}$($\mathbb{Q}(i)$ に替える) | $x^4+1=(x^2-i)(x^2+i)$ | $\Phi_8$ の既約性 |
| $p\nmid n$ | $\mathbb{F}_3[x]$ で $\bar\Phi_3=(x-1)^2$ | 重根をもたないこと(thm-cyclo-poly-mod-p の 1) |
| $n\ge2$ | $\Phi_1=x-1$ で $x\,\Phi_1(1/x)=1-x=-\Phi_1(x)$ | 係数の対称性と $\Phi_n(0)=1$ |
| 原始 $n$ 乗根だけを根にもつ | $x^4-1=(x-1)(x+1)(x^2+1)$ | $\mathbb{Q}$ 上の既約性 |
3 行目では、$\mathbb{F}_3$ の中の $1$ が位数 $3$ の元にならない($\mathbb{F}_3^\times$ の位数は $2$)ので、$\bar\Phi_3$ の根は位数 $n$ の元になれず、既約性の証明の主張の段も使えない。ex-cyclo-poly-values の $\Phi_6(2)=3$ も、$p\mid n$ の素因数が合同式 $p\equiv1\pmod n$ を満たさない例である。
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