部分束・商束・双対束

同義語:ベクトル束の部分束・商束・双対束subbundle, quotient bundle and dual bundle

概要

部分束・商束・双対束(subbundle, quotient bundle and dual bundle)とは、ベクトル束の各ファイバーで部分空間・商空間・双対空間をとり、底空間の点について連続に動かして得られるベクトル束である。束写像の核と像は階数が一定のときちょうど部分束になり、部分束による商は局所枠を延長して局所自明化でき、核が部分束を含む束写像を一意に通す。計量があれば直交補束が商束と同型になり、パラコンパクト Hausdorff 空間上の短完全列は分裂する。双対束では消滅束が商束の双対と同型であり、実ベクトル束は計量により自分の双対と同型になるが、複素では一般に成り立たない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ベクトル束, ベクトル束の直和・テンソル積, 商空間(線形代数), 双対空間(線形代数)

ベクトル空間には部分空間・商空間・双対空間という基本の操作がある。これをベクトル束のファイバーごとに行い、底空間の点について連続に動かしたものが部分束(subbundle)・商束(quotient bundle)・双対束(dual bundle)である。多様体の接束の中の部分多様体の接束、沈め込みのファイバー方向の接ベクトル、法束、余接束などはすべてこの形で現れる。
一点の上では線形代数そのものだが、束として意味をもつには「ファイバーが連続に動く」こと、すなわち局所自明性が必要である。束写像の核や像は一般には束にならず、階数が一定であることがちょうど必要十分になる。この記事では、部分束を局所的な枠で判定する方法、階数一定の束写像の核と像が部分束になること、商束の局所自明性と普遍性、計量による直交補束と商束の同型、双対束での消滅部分束と商束の双対の関係を証明する。

定義と記号

以下 $\mathbb{K}$ は $\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$ とし、ベクトル束・束写像・切断の定義と記号は ベクトル束 の記事に従う。とくにベクトル束の階数は一定であり、$\varepsilon^N:=B\times\mathbb{K}^N$ を自明束と書く。束 $E\to B$ と開集合 $U\subset B$ について $E|_U:=\pi^{-1}(U)$ とおく。
$U$ 上の $E$ の連続な切断 $s_1,\dots,s_r$($r$ は $E$ の階数)で、各 $u\in U$ について $s_1(u),\dots,s_r(u)$ が $E_u$ の基底となるものを $U$ 上の局所枠という。ベクトル束 の記事の命題「自明性の判定」を $E|_U$ に当てると、局所枠は局所自明化 $U\times\mathbb{K}^r\to E|_U$、$(u,a)\mapsto\sum_ia_is_i(u)$ を与える。とくに、連続な切断 $s$ を局所枠で $s=\sum_ia_is_i$ と書いたときの係数 $a_i$ は連続関数である。

部分束

$E\to B$ を階数 $r$ のベクトル束とする。部分集合 $F\subset E$ が $E$ の部分束(subbundle)であるとは、各 $b$ について $F_b:=F\cap E_b$ が $E_b$ の線形部分空間であり、$F$ に $E$ からの相対位相と射影の制限を与えたものがベクトル束になることをいう。

部分束 $F$ の階数を $k$ とすると、各 $F_b$ は $k$ 次元である。包含写像 $F\to E$ は束写像である。部分束の判定には次の 2 つの補題を使う。

線形独立性は開条件

$t_1,\dots,t_k$ を開集合 $U$ 上の $E$ の連続な切断とし、ある $b_0\in U$ で $t_1(b_0),\dots,t_k(b_0)$ が線形独立とする。このとき $b_0$ の開近傍 $V\subset U$ があって、各 $b\in V$ で $t_1(b),\dots,t_k(b)$ は線形独立である。

要点:局所枠で係数行列を作ると、ある小行列式が $b_0$ で $0$ でなく、連続性によりその近くでも $0$ でない。

詳細

$b_0$ の近くの局所枠 $e_1,\dots,e_r$ をとり、$t_j=\sum_ia_{ij}e_i$ と書くと、$a_{ij}$ は連続関数である。$t_j(b_0)$ が線形独立なので、$r\times k$ 行列 $(a_{ij}(b_0))$ のある $k$ 次小行列式は $0$ でない。その小行列式は $b$ の連続関数なので、$b_0$ の近傍 $V$ 上で $0$ でなく、そこで $t_j(b)$ は線形独立である。$\square$

部分束の局所枠による判定

$F\subset E$ を、各 $F_b$ が $E_b$ の $k$ 次元部分空間であるような部分集合とする。$F$ が部分束であるための必要十分条件は、各点 $b_0$ の開近傍 $U$ と $U$ 上の $E$ の連続な切断 $s_1,\dots,s_k$ で、各 $u\in U$ について $s_1(u),\dots,s_k(u)$ が $F_u$ の基底になるものが存在することである。

要点:局所自明化で $E$ を直積に移し、ベクトル束 の記事の補題「直積の部分束と局所的な枠」に帰着させる。

詳細

必要性:$F$ の局所枠は $F$ への連続写像であり、包含 $F\to E$ と合成すると $E$ の連続な切断になる。

十分性:$U$ を縮めて $E|_U$ の局所自明化 $\phi\colon E|_U\to U\times\mathbb{K}^r$ があるとしてよい。$\phi$ は同相写像なので、$F|_U$ の相対位相は $\phi(F|_U)\subset U\times\mathbb{K}^r$ の相対位相と $\phi$ で対応する。$\phi(F|_U)$ の $u$ 上のファイバーは連続写像 $\mathrm{pr}_2\circ\phi\circ s_i$($i=1,\dots,k$)の値で張られるので、ベクトル束 の記事の補題「直積の部分束と局所的な枠」により $\phi(F|_U)$ は $U$ 上の階数 $k$ のベクトル束であり、$F|_U$ もそうである。$F|_U=F\cap E|_U$ は $F$ の開集合なので、これらの局所自明化が $F$ の局所自明化を与える。$\square$

束写像の核と像

$f\colon E\to F$ を同じ底空間 $B$ 上の束写像とする。$\ker f:=\bigsqcup_b\ker f_b\subset E$、$\operatorname{im}f:=\bigsqcup_bf_b(E_b)\subset F$ とおく。$b\mapsto\operatorname{rank}f_b$ を $f$ の階数という。

階数一定の束写像の核と像

$E$、$F$ を階数 $m$、$n$ のベクトル束、$f\colon E\to F$ を束写像とし、$f$ の階数 $b\mapsto\operatorname{rank}f_b$ が一定値 $k$ であるとする。このとき $\ker f$ は $E$ の階数 $m-k$ の部分束、$\operatorname{im}f$ は $F$ の階数 $k$ の部分束である。逆に $\ker f$ または $\operatorname{im}f$ が部分束なら、$f$ の階数は一定である。

枠の取り替え

逆の主張は、部分束の階数が一定であることと、$\dim\ker f_b+\operatorname{rank}f_b=m$ による。
$b_0\in B$ を固定し、$b_0$ の近くの $E$ の局所枠 $s_1,\dots,s_m$ と $F$ の局所枠 $t_1,\dots,t_n$ をとる。番号を付け替えて、$fs_1(b_0),\dots,fs_k(b_0)$ が $\operatorname{im}f_{b_0}$ の基底であり、さらに $fs_1(b_0),\dots,fs_k(b_0),t_{k+1}(b_0),\dots,t_n(b_0)$ が $F_{b_0}$ の基底であるとしてよい。$fs_i:=f\circ s_i$ は $F$ の連続な切断なので、lem-sqd-open-independence により $b_0$ の開近傍 $V$ 上で
$$ fs_1,\dots,fs_k,\ t_{k+1},\dots,t_n $$
は $F$ の局所枠である。
像:$b\in V$ で $fs_1(b),\dots,fs_k(b)$ は $\operatorname{im}f_b$ の線形独立な $k$ 個の元であり、$\dim\operatorname{im}f_b=k$ なので基底である。lem-sqd-subbundle-frames により $\operatorname{im}f$ は部分束である。
核:$i>k$ について、$V$ 上の局所枠で
$$ fs_i=\sum_{j=1}^ka_{ij}\,fs_j+\sum_{l=k+1}^nc_{il}\,t_l $$
と書くと、係数 $a_{ij}$、$c_{il}$ は $V$ 上の連続関数である。$fs_i(b)\in\operatorname{im}f_b$ は $fs_1(b),\dots,fs_k(b)$ で張られるので、基底による表示の一意性から $c_{il}=0$ である。そこで
$$ s_i':=s_i-\sum_{j=1}^ka_{ij}\,s_j\qquad(i=k+1,\dots,m) $$
とおくと、$s_i'$ は $V$ 上の $E$ の連続な切断で $fs_i'=0$ を満たす。$s_1,\dots,s_m$ は各点で基底なので、$s_{k+1}',\dots,s_m'$ は各点で線形独立である($s_{k+1},\dots,s_m$ の係数が単位行列になる)。$\dim\ker f_b=m-k$ なので、これらは $\ker f_b$ の基底であり、lem-sqd-subbundle-frames により $\ker f$ は部分束である。$\square$

階数が局所定数なだけのときは、階数が $k$ に等しい点の集合 $B_k$ は開かつ閉であり、各 $B_k$ の上で定理を当てると $\ker f$、$\operatorname{im}f$ の $B_k$ 上の部分は部分束になる($B$ 全体では階数が一定でないので、この記事の意味の部分束ではない)。同じ主張と証明は Swa62 Proposition 1(p. 265)にあり、MS74 Problem 3-C(p. 35)は演習として挙げている。

商束

$F\subset E$ を階数 $k$ の部分束、$E$ の階数を $r$ とする。各ファイバーの商空間を集めた集合
$$ E/F:=\bigsqcup_{b\in B}E_b/F_b $$
に、射影 $q\colon E\to E/F$、$q(v):=v+F_{\pi(v)}$ による商位相を入れる。$E/F\to B$ を $v+F_b\mapsto b$ で定める。

商束の局所自明性と普遍性

$F\subset E$ を部分束とする。

  1. $E/F$ は階数 $r-k$ のベクトル束であり、$q$ は全射な束写像である。各点の近傍 $V$ 上に、$F$ の局所枠 $s_1,\dots,s_k$ と $E$ の切断 $t_{k+1},\dots,t_r$ で $s_1,\dots,s_k,t_{k+1},\dots,t_r$ が $E$ の局所枠となるものがあり、$q\circ t_{k+1},\dots,q\circ t_r$ は $E/F$ の局所枠である。
  2. 束写像 $g\colon E\to G$ が $g(F)=0$ を満たすなら、束写像 $\bar g\colon E/F\to G$ で $\bar g\circ q=g$ となるものがただ 1 つある。
枠の延長と商位相
  1. $b_0\in B$ の近くの $F$ の局所枠 $s_1,\dots,s_k$ と $E$ の局所枠 $e_1,\dots,e_r$ をとる。$s_1(b_0),\dots,s_k(b_0)$ に $e_j(b_0)$ のうち $r-k$ 個を加えて $E_{b_0}$ の基底にでき、それらを $t_{k+1},\dots,t_r$ とする。lem-sqd-open-independence により、$b_0$ の開近傍 $V$ 上で $s_1,\dots,s_k,t_{k+1},\dots,t_r$ は $E$ の局所枠であり、
    $$ \Phi\colon V\times\mathbb{K}^k\times\mathbb{K}^{r-k}\to E|_V,\qquad \Phi(b,a,c):=\sum_ia_is_i(b)+\sum_jc_jt_j(b) $$
    は同相写像である。$\Psi\colon V\times\mathbb{K}^{r-k}\to(E/F)|_V$、$\Psi(b,c):=q\bigl(\sum_jc_jt_j(b)\bigr)$ とおくと、$F_b$ が $s_i(b)$ で張られることから $\Psi$ は全単射でファイバーごとに線形同型であり、$\mathrm{pr}(b,a,c):=(b,c)$ について
    $$ q\circ\Phi=\Psi\circ\mathrm{pr} $$
    である。$E|_V$ は $q$ で飽和した開集合なので、$q$ の $E|_V$ への制限は $(E/F)|_V$($E/F$ の開集合)への商写像であり、$q\circ\Phi$ も商写像である。$\mathrm{pr}$ は連続な開全射なので商写像である。$q\circ\Phi$ と $\mathrm{pr}$ は同じ点どうしを同一視するので、$\Psi$ とその逆写像はどちらも連続であり、$\Psi$ は局所自明化である。$q$ は連続でファイバーごとに線形なので束写像である。
  2. 各ファイバーで $g_b$ は $F_b$ 上で $0$ なので、線形写像 $\bar g_b\colon E_b/F_b\to G_b$ で $\bar g_b\circ q_b=g_b$ となるものがただ 1 つある。$\bar g:=\bigsqcup_b\bar g_b$ について $\bar g\circ q=g$ は連続であり、$q$ は商写像なので $\bar g$ は連続である。一意性は $q$ が全射であることによる。$\square$

階数が一定の束写像 $f\colon E\to F$ について、thm-sqd-kernel-image と thm-sqd-quotient により余核 $\operatorname{coker}f:=F/\operatorname{im}f$ もベクトル束である。部分束 $F\subset E$ について、ファイバーごとに完全な束写像の列
$$ 0\to F\xrightarrow{\ i\ }E\xrightarrow{\ q\ }E/F\to0 $$
をベクトル束の短完全列という(短完全列)。

計量と直交補束

ベクトル束の計量

ベクトル束 $E$ の計量とは、各ファイバー $E_b$ の内積($\mathbb{K}=\mathbb{C}$ なら第 1 変数について線形で第 2 変数について共役線形な Hermite 内積)$\langle\cdot,\cdot\rangle_b$ の族で、$E\times_BE:=\{(v,w)\mid\pi(v)=\pi(w)\}$ 上の関数 $(v,w)\mapsto\langle v,w\rangle_{\pi(v)}$ が連続なものをいう。実ベクトル束の計量を Euclid 計量、複素ベクトル束の計量を Hermite計量 ともいう。

局所枠 $s_1,\dots,s_r$ について $\langle s_i,s_j\rangle$ は連続関数であり、逆にすべての局所枠についてこれが連続なら族は計量である。各点で Gram–Schmidt の直交化を行うと、計量に関して正規直交な局所枠が得られる(Gram–Schmidtの直交化。係数は内積の連続関数で書ける)。

計量の存在

$B$ がパラコンパクト空間で Hausdorff なら、$B$ 上の任意のベクトル束は計量をもつ。

要点:局所自明化の上の標準内積を 1 の分割で貼り合わせる。

詳細

$E$ を自明化する開被覆 $\{U_\alpha\}$ と局所自明化 $\phi_\alpha$ をとり、パラコンパクト空間 の記事の定理「1 の分割の存在」により、$\{U_\alpha\}$ に従属する 1 の分割 $\{\rho_\alpha\}$($\operatorname{supp}\rho_\alpha\subset U_\alpha$、台は局所有限)をとる。$U_\alpha$ 上で $\langle v,w\rangle^\alpha:=(\mathrm{pr}_2\phi_\alpha v)\cdot\overline{(\mathrm{pr}_2\phi_\alpha w)}$($\mathbb{K}^r$ の標準内積)とおき、$\langle v,w\rangle_b:=\sum_\alpha\rho_\alpha(b)\langle v,w\rangle^\alpha$($b\notin U_\alpha$ の項は $0$)と定める。各点の近傍で和は有限個の連続関数の和であり、$\rho_\alpha\langle\cdot,\cdot\rangle^\alpha$ は $\operatorname{supp}\rho_\alpha$ の外で $0$ なので $E\times_BE$ 全体で連続である。各点で正定値な内積の、非負係数で和が $1$ の結合なので、各点で内積である。$\square$

計量をもつ束の部分束 $F\subset E$ について、$F_b^\perp:=\{v\in E_b\mid\langle v,w\rangle=0\ (w\in F_b)\}$ とおき、$F^\perp:=\bigsqcup_bF_b^\perp$ を $F$ の直交補という。

直交補束と商束

$E$ を計量をもつベクトル束、$F\subset E$ を部分束とする。

  1. 各ファイバーで $F_b$ への直交射影をとる写像 $P\colon E\to E$ は束写像である。
  2. $F^\perp=\ker P$ は $E$ の部分束であり、$F\oplus F^\perp\to E$、$(u,w)\mapsto u+w$ は束同型である。
  3. 商写像の制限 $q|_{F^\perp}\colon F^\perp\to E/F$ は束同型である。
直交射影の連続性
  1. $F$ の局所枠 $s_1,\dots,s_k$ をとる。$v\in E_b$ の射影は $P(v)=\sum_jc_js_j(b)$ で、係数 $c=(c_j)$ は連立一次方程式
    $$ \sum_{j=1}^k\langle s_j(b),s_i(b)\rangle\,c_j=\langle v,s_i(b)\rangle\qquad(i=1,\dots,k) $$
    の解である。係数行列(Gram 行列)は $s_j(b)$ が線形独立なので正則で、成分は $b$ の連続関数である。右辺は $v$ の連続関数なので、逆行列の連続性により $c$ は $v$ について連続であり、$P$ は束写像である。
  2. $P_b$ の階数は $k$ で一定なので、thm-sqd-kernel-image により $\ker P=F^\perp$ は部分束である。$(u,w)\mapsto u+w$ は連続でファイバーごとに線形同型($E_b=F_b\oplus F_b^\perp$)なので、ベクトル束の直和・テンソル積 の補題「ファイバーごとに同型な束写像は束同型」により束同型である。
  3. $q|_{F^\perp}$ は連続な束写像で、各ファイバーで $F_b^\perp\to E_b/F_b$ は線形同型なので、同じ補題により束同型である。$\square$

2 は MS74 Theorem 3.3(p. 28、Gram–Schmidt の直交化による証明)と Swa62 Proposition 2(p. 266)にあり、3 と商束の局所自明性は MS74 Problem 3-B(p. 35)の演習である。計量の存在は Swa62 Lemma 2(p. 266)にある。

短完全列の分裂

$B$ をパラコンパクト Hausdorff 空間とする。$B$ 上のベクトル束の短完全列 $0\to F\to E\xrightarrow{p}Q\to0$(束写像の列でファイバーごとに完全なもの)があれば $E\cong F\oplus Q$ である。

要点:$\ker p$ は部分束で $F$ と同型、$E/\ker p\cong Q$ であり、計量による直交補で分裂させる。

詳細

$F$ の像は $\ker p$ であり、$p$ の階数は一定なので thm-sqd-kernel-image により部分束で、$F$ と同型である(ファイバーごとに同型な束写像)。thm-sqd-quotient の 2 により $p$ は $\bar p\colon E/\ker p\to Q$ を誘導し、$\bar p$ はファイバーごとに同型なので束同型である。lem-sqd-metric-existence で $E$ に計量を入れ、thm-sqd-orthogonal を当てると $E\cong\ker p\oplus(\ker p)^\perp\cong F\oplus E/\ker p\cong F\oplus Q$ である。$\square$

双対束

$E$ の双対束 $E^*$ は、ファイバーが双対空間 $(E_b)^*=\operatorname{Hom}_{\mathbb{K}}(E_b,\mathbb{K})$ であるベクトル束で、ベクトル束の直和・テンソル積 の定理「ファイバーごとの構成の局所自明性」で構成される。$E$ の局所自明化 $\phi$ に対し、$E^*$ の局所自明化は $\lambda\in E_b^*\mapsto(b,(\phi_b^{-1})^{\mathsf T}\lambda)$ であり、変換関数は $(g_{\alpha\beta}^{-1})^{\mathsf T}$ である。局所枠の言葉では、$E$ の局所枠 $s_1,\dots,s_r$ の各点での双対基底 $s^1,\dots,s^r$($s^i(s_j)=\delta_{ij}$)が $E^*$ の局所枠になる($\phi$ を枠 $s_i$ から作ると $(\phi_b^{-1})^{\mathsf T}s^i(b)$ は $b$ によらない)。$E^*$ の切断は、各ファイバー上で線形な連続関数 $E\to\mathbb{K}$ と同じものである(同じ記事の命題「準同型束の切断と束写像」)。

束写像の転置

束写像 $f\colon E\to F$ に対し、$f^{\mathsf T}\colon F^*\to E^*$、$\lambda\in F_b^*\mapsto\lambda\circ f_b$ は束写像であり、$\operatorname{rank}f^{\mathsf T}_b=\operatorname{rank}f_b$ である。

要点:双対の局所枠を通すと $f^{\mathsf T}$ は転置行列による掛け算になる。

詳細

$E$、$F$ の局所枠 $s_i$、$t_l$ について $f(s_i)=\sum_la_{li}t_l$ と書くと、$a_{li}$ は連続関数である。双対基底について $f^{\mathsf T}(t^l)=\sum_ia_{li}s^i$ なので、局所枠 $t^l$、$s^i$ を通すと $f^{\mathsf T}$ は $(b,c)\mapsto(b,A(b)^{\mathsf T}c)$ と書けて連続である。行列とその転置の階数は等しい。$\square$

部分束 $F\subset E$ について、$F_b^0:=\{\lambda\in E_b^*\mid\lambda|_{F_b}=0\}$ とおき、$F^0:=\bigsqcup_bF_b^0\subset E^*$ を $F$ の消滅束(annihilator)という。

消滅束と商束の双対

$F\subset E$ を階数 $k$ の部分束、$i\colon F\to E$ を包含、$q\colon E\to E/F$ を商写像とする。

  1. $F^0$ は $E^*$ の階数 $r-k$ の部分束であり、$q^{\mathsf T}\colon(E/F)^*\to F^0$ は束同型である。
  2. $i^{\mathsf T}\colon E^*\to F^*$(制限)は全射な束写像で核は $F^0$ であり、束同型 $E^*/F^0\cong F^*$ を誘導する。

要点:$q^{\mathsf T}$ と $i^{\mathsf T}$ はどちらも階数一定の束写像なので、thm-sqd-kernel-image と thm-sqd-quotient に帰着する。

詳細

1. prop-sqd-transpose により $q^{\mathsf T}$ は束写像で、$q_b$ が全射なので $q^{\mathsf T}_b$ は単射、階数は $r-k$ で一定である。線形代数により $q_b^{\mathsf T}((E_b/F_b)^*)=F_b^0$ なので、thm-sqd-kernel-image により $F^0=\operatorname{im}q^{\mathsf T}$ は部分束である。$q^{\mathsf T}$ は $F^0$(相対位相)への連続写像でファイバーごとに線形同型なので、ベクトル束の直和・テンソル積 の補題「ファイバーごとに同型な束写像は束同型」により束同型である。

2. $i_b$ が単射なので $i^{\mathsf T}_b$ は全射で階数は $k$、核は $F_b^0$ である。thm-sqd-quotient の 2 により $i^{\mathsf T}$ は束写像 $E^*/F^0\to F^*$ を誘導し、これはファイバーごとに線形同型なので束同型である。$\square$

計量があれば、双対束はもとの束(複素の場合はその共役)と同型になる(実の場合は MS74 Problem 3-D(p. 35)の演習、複素の場合は MS74 §14(pp. 168–169))。複素ベクトル束 $E$ の共役束 $\bar E$ とは、同じ実ベクトル束にスカラー倍 $\lambda\cdot v:=\bar\lambda v$ を入れた複素ベクトル束である。

計量による双対束の同一視

$E$ を計量 $\langle\cdot,\cdot\rangle$ をもつベクトル束とする。$v\in E_b\mapsto\langle\cdot,v\rangle_b\in E_b^*$ は、$\mathbb{K}=\mathbb{R}$ なら束同型 $E\cong E^*$、$\mathbb{K}=\mathbb{C}$ なら束同型 $\bar E\cong E^*$ を与える。この同型で部分束 $F$ の直交補 $F^\perp$ は消滅束 $F^0$ に移る。

要点:局所枠で係数が内積の連続関数として書けるので連続であり、ファイバーごとに同型な束写像は束同型である。

詳細

写像は各ファイバーで(複素なら $\bar E_b$ から)線形な単射であり、次元が等しいので線形同型である。局所枠 $s_i$ と双対の枠 $s^j$ で $\langle\cdot,v\rangle=\sum_j\langle s_j,v\rangle s^j$ と書け、係数は $v$ の連続関数なので連続である。補題「ファイバーごとに同型な束写像は束同型」により束同型である。$v\in F_b^\perp$ と $\langle\cdot,v\rangle|_{F_b}=0$ は同じ条件である。$\square$

例

球面の接束と法束

$n\ge1$ とし、$\mathbb{R}^{n+1}$ の標準内積を自明束 $\varepsilon^{n+1}=S^n\times\mathbb{R}^{n+1}$ の計量とする。ベクトル束 の記事の命題「球面の接束は安定的に自明」により、$TS^n=\{(x,v)\mid\langle x,v\rangle=0\}$ は $\varepsilon^{n+1}$ の階数 $n$ の部分束である。その直交補は $\nu:=\{(x,tx)\mid t\in\mathbb{R}\}$ で、至るところ $0$ でない切断 $x\mapsto(x,x)$ をもつので自明な直線束である。thm-sqd-orthogonal により
$$ \varepsilon^{n+1}/TS^n\cong\nu\cong\varepsilon^1,\qquad TS^n\oplus\varepsilon^1\cong\varepsilon^{n+1} $$
である。prop-sqd-metric-dual により余接束 $T^*S^n$ は $TS^n$ と同型である。一方、商束 $\varepsilon^{n+1}/TS^n$ が自明でも $TS^n$ 自身は自明とは限らない($n$ が偶数なら 毛玉の定理 により自明でない)。

トートロジー直線束とその直交補

実射影空間 $\mathbb{R}\mathrm{P}^n$ 上のトートロジー直線束 $\gamma=\{(\ell,v)\mid v\in\ell\}$ は、ベクトル束 の記事の命題「トートロジー束は直線束」により $\varepsilon^{n+1}=\mathbb{R}\mathrm{P}^n\times\mathbb{R}^{n+1}$ の部分束である。直交補 $\gamma^\perp$(ファイバーは $\ell^\perp$)は階数 $n$ の部分束で、$\gamma\oplus\gamma^\perp\cong\varepsilon^{n+1}$ である。さらに $\mathbb{R}\mathrm{P}^n$ の接束は準同型束 $\operatorname{Hom}(\gamma,\gamma^\perp)$ と同型である(MS74 Lemma 4.4、p. 43。この記事では証明しない)。複素射影空間でも同じ構成ができる。

沈め込みの核束

$f\colon M\to N$ を滑らかな多様体の間の沈め込み(各点で微分 $df_x$ が全射)とする。$df$ は束写像 $TM\to f^*TN$、$v\in T_xM\mapsto(x,df_x(v))$ を与え(接束 の記事の命題「写像の微分は滑らかな束写像」)、その階数は $\dim N$ で一定である($M$、$N$ は連結で次元一定とする)。thm-sqd-kernel-image により $K_f:=\ker df$ は $TM$ の階数 $\dim M-\dim N$ の部分束であり、各点 $x$ でのファイバーは部分多様体 $f^{-1}(f(x))$ の接空間である(正則値定理)。thm-sqd-quotient の 2 により $TM/K_f\cong f^*TN$ であり、$M$ に Riemann計量 を入れると thm-sqd-orthogonal により
$$ TM\cong K_f\oplus K_f^\perp\cong K_f\oplus f^*TN $$
である(MS74 Problem 3-A、p. 35)。

双対束と同型でない複素直線束

$S^2\subset\mathbb{R}^3$ の接束 $TS^2$ に $J_xv:=x\times v$(外積)で複素数 $i$ の作用を入れたものを $E$ とする。$J_x$ は $T_xS^2$ の $90^\circ$ 回転で $J_x^2=-1$ なので、$E$ は複素直線束である。このとき $E^*$ は $E$ と同型でない。

要点:$E^*\cong E$ なら共役束との同型 $E\cong\bar E$ ができ、それは各点で $J$ と反可換な実線形同型なので「鏡映」であり、その固定方向が $S^2$ 上の連続な接線の場を与え、毛玉の定理に反する。

詳細

$S^2$ はコンパクト Hausdorff なので lem-sqd-metric-existence により $E$ は Hermite 計量をもち、prop-sqd-metric-dual により $E^*\cong\bar E$ である。$E\cong E^*$ と仮定すると複素線形な束同型 $\psi\colon E\to\bar E$ があり、これは $TS^2$ の実の束同型で $\psi J=-J\psi$ を満たす。

$x\in S^2$ と単位ベクトル $u\in T_xS^2$ をとると、$(u,J_xu)$ は $T_xS^2$ の正規直交基底で、$J_x$ の行列は $\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}$ である。$\psi_x$ の行列を $\begin{pmatrix}a&c\\b&d\end{pmatrix}$ とおくと、$\psi_xJ_x=-J_x\psi_x$ から $c=b$、$d=-a$ が出る。よって $\psi_x$ は対称で固有値 $\pm\rho(x)$、$\rho(x)=\sqrt{a^2+b^2}=\sqrt{-\det\psi_x}>0$ をもつ。$\det\psi_x$ は $x$ の連続関数なので $\rho$ は連続であり、$\psi+\rho\,\mathrm{id}$ は階数が $1$ で一定の束写像 $TS^2\to TS^2$ である。thm-sqd-kernel-image により $L:=\operatorname{im}(\psi+\rho\,\mathrm{id})$ は $TS^2$ の直線部分束である。

$L$ の単位ベクトル全体 $S(L)$ は、$L$ の局所枠 $s$ の上で $\{\pm s(x)/\|s(x)\|\}$ となるので、$S^2$ の $2$ 重の被覆空間である。$S(L)$ が弧状連結なら、被覆空間 の記事の定理「基本群との関係」の 2 により、ファイバーの点の個数 $2$ は $\pi_1(S^2)=1$ の部分群の指数に等しくなり矛盾する(単連結空間 の記事の命題「球面の単連結性」)。よって $S(L)$ は弧状連結でない。$S(L)$ は局所的に $U\times\{\pm1\}$($U$ は円板)と同相なので、弧状連結成分 $C$ は開かつ閉であり、各 $x$ について $C\cap S(L)_x$ の点の個数は $x$ の近傍で一定である。$S^2$ は連結なのでこの個数は一定で、$C\ne\emptyset$ なので $1$ か $2$ であり、$2$ なら $C=S(L)$ が弧状連結になるので $1$ である。よって $C\to S^2$ は連続な全単射な局所同相写像で、その逆写像は $L$ の至るところ $0$ でない切断、すなわち $S^2$ の至るところ $0$ でない連続な接ベクトル場を与え、毛玉の定理 に反する。$\square$

実ベクトル束では計量により $E\cong E^*$ がいつも成り立つ(パラコンパクト Hausdorff な底の上)ので、この例は $\mathbb{K}=\mathbb{C}$ に固有の現象である。$E$ は、向きを保つ同一視 $S^2\cong\mathbb{C}\mathrm{P}^1$ のもとで複素射影直線の接束と同じものである。MS74 §14(pp. 167–168)は、$E$ が共役束 $\bar E$ と同型でないことを同じく接線の場の非存在から導いており、Problem 14-A(p. 170)は Chern 類による別の証明を演習として挙げている。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
束写像の階数が一定(thm-sqd-kernel-image)$B=\mathbb{R}$、$f\colon\varepsilon^1\to\varepsilon^1$、$f(b,v)=(b,bv)$$\ker f$、$\operatorname{im}f$ は部分束である
部分空間の族が局所枠で張られる(lem-sqd-subbundle-frames)$B=\mathbb{R}$、$F_b=\mathbb{R}e_1$($b\le0$)、$F_b=\mathbb{R}e_2$($b>0$)、$F\subset\varepsilon^2$ファイバーの次元が一定な $F$ は部分束である
係数体が $\mathbb{R}$(prop-sqd-metric-dual)$S^2$ 上の複素直線束 $(TS^2,J)$(ex-sqd-complex-not-self-dual)$E\cong E^*$
表の反例の確かめ

1 行目:$\ker f_b$ は $b=0$ で $1$ 次元、$b\ne0$ で $0$ 次元であり、部分束ならファイバーの次元は局所定数なので部分束でない。$\operatorname{im}f$ も同様である。
2 行目:各 $F_b$ は $1$ 次元である。$F$ が部分束なら $0$ の近くに $F$ の局所枠 $s$ があり、$s$ は $\varepsilon^2$ の連続な切断である。$b\le0$ で $s(b)\in\mathbb{R}e_1$、$b>0$ で $s(b)\in\mathbb{R}e_2$ なので、$s(0)$ は右からの極限として $\mathbb{R}e_2$ に、それ自身として $\mathbb{R}e_1$ に属し、$s(0)=0$ となって枠であることに反する。

補足

  • 代数幾何では、局所自由層の部分層の商は局所自由とは限らない。たとえば射影直線上で点 $p$ のイデアル層 $\mathcal{O}(-p)\subset\mathcal{O}$ の商は $p$ に台をもつ層である。これは thm-sqd-kernel-image の階数の条件が破れる現象にあたり、商が局所自由になる部分層を部分束という。
  • パラコンパクト Hausdorff 空間上では、すべての部分束は直和因子である(cor-sqd-splitting、Swa62 Proposition 2、p. 266)。コンパクト Hausdorff 空間 $B$ 上では、ファイバーの次元が局所定数の束まで含めると、ベクトル束は連続関数環 $C(B)$ 上の有限生成射影加群と対応し、部分束の直和分解は射影加群の直和分解に対応する(Serre–Swanの定理)。

関連項目

参考文献

[1]
John W. Milnor, James D. Stasheff, Characteristic Classes, Annals of Mathematics Studies 76, Princeton University Press, 1974, §3 Theorem 3.3(直交補束、p. 28)、Problem 3-A〜3-D(p. 35);§4 Lemma 4.4(p. 43);§14 共役束と双対束(pp. 167–169)、Problem 14-A(p. 170)
[2]
Richard G. Swan, Vector bundles and projective modules, Transactions of the American Mathematical Society, 1962, §1 Proposition 1(p. 265)、Lemma 2・Proposition 2(p. 266)

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