Cremona変換

同義語:Cremona transformationクレモナ変換

概要

Cremona変換(Cremona transformation)とは、射影空間 $\mathbb{P}^n$ から自分自身への双有理写像のことであり、その全体は合成について Cremona 群をなし、関数体 $k(t_1,\dots,t_n)$ の自己同型群と向きを逆にして同型である。平面の基本例は標準 2 次変換 $[x:y:z]\mapsto[yz:zx:xy]$ で、3 つの座標点では定義されず、3 本の座標直線を点につぶす。この変換は、$\mathbb{P}^2\times\mathbb{P}^2$ の曲面 $xu=yv=zw$ を介して、3 点のブローアップと 3 本の直線の固有変換の縮約に分解される。複素数体上の平面 Cremona 群は、射影変換と標準 2 次変換で生成される(Noether–Castelnuovo の定理)。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 双有理写像, 射影空間, ブローアップ, 関数体

射影平面 $\mathbb{P}^2$ から自分自身への双有理写像を Cremona 変換という。射影変換(1 次式で書ける自己同型)はその例だが、それだけではない。最も基本的な例は、斉次座標で
$$ \sigma\colon[x:y:z]\longmapsto[yz:zx:xy] $$
と書ける標準 2 次変換である。$\sigma$ は自分自身を逆にもつが、3 つの座標点では定義されず、3 本の座標直線をそれぞれ 1 点につぶす。非特異な射影曲線の間の双有理写像はつねに同型に延びる(非特異射影曲線と関数体の圏同値)のに対し、曲面では双有理写像が射にすらならないことを、$\sigma$ は最も簡単な形で示している。
この記事では、$\mathbb{P}^2\times\mathbb{P}^2$ の中の曲面 $X=\{xu=yv=zw\}$ を使って、$\sigma$ が「3 つの座標点のブローアップのあと、3 本の座標直線の固有変換をつぶす」ことに分解されることを、任意の体の上で証明する(thm-cremona-factorization)。あわせて、Cremona 変換のなす群(Cremona 群)が関数体の自己同型群と向きを逆にして同型であること、射影変換の群より真に大きいことを示し、Noether–Castelnuovo の定理を紹介する。

定義

以下、$k$ を体とし、$\mathbb{P}^n=\mathbb{P}^n_k$ とする。多様体・有理写像・双有理写像・定義域の語は 双有理写像 の定義に従う。

Cremona 変換と Cremona 群

$\mathbb{P}^n$ から $\mathbb{P}^n$ への双有理写像を $\mathbb{P}^n$ の Cremona 変換(Cremona transformation)という。Cremona 変換の全体は有理写像の合成について群をなす。これを Cremona 群といい、$\operatorname{Bir}(\mathbb{P}^n)$ と書く。$n=2$ のとき平面 Cremona 変換、平面 Cremona 群という。

双有理写像は支配的なので合成でき(双有理写像 の定義「双有理写像と双有理同値」のあとの説明)、双有理写像 の定理「関数体と支配的有理写像」の 1・2 により、$f\mapsto f^*$ は $\operatorname{Bir}(\mathbb{P}^n)$ から $\mathbb{P}^n$ の関数体 $k(t_1,\dots,t_n)$ の $k$ 上の自己同型の全体への全単射で、$(g\circ f)^*=f^*\circ g^*$ をみたす。結合律・単位元・逆元はこの対応から従い、
$$ \operatorname{Bir}(\mathbb{P}^n)\cong\operatorname{Aut}_k\bigl(k(t_1,\dots,t_n)\bigr)^{\mathrm{op}} $$
(右辺は積の順序を逆にした群)である。$\mathbb{P}^n$ の自己同型群 $\operatorname{Aut}(\mathbb{P}^n)$ は $\operatorname{Bir}(\mathbb{P}^n)$ の部分群である。$n=1$ では、双有理な非特異射影曲線の間の双有理写像は同型に延びるので(非特異射影曲線と関数体の圏同値 の系「圏同値の帰結」)、$\operatorname{Bir}(\mathbb{P}^1)=\operatorname{Aut}(\mathbb{P}^1)\cong PGL_2(k)$ である(有理関数体 の系「有理関数体の $K$ 上の自己同型」)。$n\ge2$ では $\operatorname{Bir}(\mathbb{P}^n)$ ははるかに大きい。

標準 2 次変換

$\mathbb{P}^2$ の斉次座標を $[x:y:z]$ とし、座標点を $e_1=[1:0:0]$、$e_2=[0:1:0]$、$e_3=[0:0:1]$、座標直線を $L_1=\{x=0\}$、$L_2=\{y=0\}$、$L_3=\{z=0\}$、開集合 $\{xyz\neq0\}$ を $U$ とする。$U$ 上の射 $[x:y:z]\mapsto[yz:zx:xy]$ が代表する有理写像 $\sigma\colon\mathbb{P}^2\dashrightarrow\mathbb{P}^2$ を標準 2 次変換(standard quadratic transformation)という。

$\sigma$ は $U$ を $U$ に写し、$U$ 上で $\sigma\circ\sigma=\mathrm{id}$ なので、$\sigma$ は Cremona 変換で $\sigma^{-1}=\sigma$ である。定義域は $\mathbb{P}^2\setminus\{e_1,e_2,e_3\}$ で、$\sigma$ は $L_1$ から $e_2,e_3$ を除いた部分を $e_1$ に写す($L_2$、$L_3$ も同様)。これらは 双有理写像 の命題「平面の Cremona 変換」で直接の計算により示されている。定義域については、下の cor-cremona-domain で別の証明を与える。
$D_+(x)$ のアフィン座標 $s:=y/x$、$t:=z/x$ で書くと、$\sigma([1:s:t])=[st:t:s]=[1:s^{-1}:t^{-1}]$ である。すなわち $\sigma$ は代数的トーラス $U=\{st\neq0\}$ の上の逆元をとる写像 $(s,t)\mapsto(s^{-1},t^{-1})$ であり、関数体の上では $\sigma^*(s)=s^{-1}$、$\sigma^*(t)=t^{-1}$ である。

主定理:ブローアップと縮約への分解

$\mathbb{P}^2\times\mathbb{P}^2$ の点を $([x:y:z],[u:v:w])$ と書き、第 2 成分の $\mathbb{P}^2$ の座標点と座標直線を $e'_1=[1:0:0]$、$e'_2$、$e'_3$、$L'_1=\{u=0\}$、$L'_2=\{v=0\}$、$L'_3=\{w=0\}$ とする。

標準 2 次変換の分解

$X\subset\mathbb{P}^2\times\mathbb{P}^2$ を双斉次式 $xu-yv$、$yv-zw$ で定まる閉部分スキーム、$p_1,p_2\colon X\to\mathbb{P}^2$ を 2 つの射影とする。

  1. $X$ は $k$ 上の非特異な射影曲面であり、アフィン平面 $\mathbb{A}^2$ と同型な 6 つの開集合で覆われる。
  2. $p_1$ は $\mathbb{P}^2\setminus\{e_1,e_2,e_3\}$ の上で同型である。各 $i$ について、$e_i$ を原点とする $\mathbb{P}^2$ のアフィン開集合 $D_+(x_i)\cong\mathbb{A}^2$($x_1=x$、$x_2=y$、$x_3=z$)の上で、$p_1$ は原点のブローアップ $\mathrm{Bl}_0\mathbb{A}^2\to\mathbb{A}^2$ と同型である。とくに $E_i:=p_1^{-1}(e_i)=\{e_i\}\times L'_i$ は射影直線である。
  3. 成分の入れ替え $([x:y:z],[u:v:w])\mapsto([u:v:w],[x:y:z])$ は $X$ の自己同型で、$p_1$ と $p_2$ を入れ替える。したがって $p_2$ についても 2 が成り立つ。$p_2$ の例外曲線 $F_i:=p_2^{-1}(e'_i)=L_i\times\{e'_i\}$ は、$p_1$ についての $L_i$ の固有変換である。
  4. $p_1$ は $p_1^{-1}(U)$ から $U$ への同型を与え、$p_1^{-1}(U)$ の上で $p_2=\sigma\circ p_1$ である。したがって有理写像として $\sigma=p_2\circ p_1^{-1}$ である。

$p_1$ を 3 点 $e_1,e_2,e_3$ のブローアップとみると(rem-cremona-global-blowup)、この定理は、$\sigma$ が「$e_1,e_2,e_3$ をブローアップして例外曲線 $E_1,E_2,E_3$ を作り、3 本の座標直線の固有変換 $F_1,F_2,F_3$ をそれぞれ点 $e'_1,e'_2,e'_3$ につぶす」ことに分解されることを述べている。

座標近傍での計算

$(x_1,x_2,x_3)=(x,y,z)$、$(u_1,u_2,u_3)=(u,v,w)$ と書くと、$X$ の式は $x_1u_1=x_2u_2=x_3u_3$ であり、添字の置換を両方の成分に同時に施しても変わらない。
1.$W_{ij}:=X\cap\bigl(D_+(x_i)\times D_+(u_j)\bigr)$ とおく。$W_{12}$ では $x=v=1$ とおいたアフィン座標 $y,z,u,w$ の上で、式は $u=y$、$y=zw$ となるので、$W_{12}=\operatorname{Spec}k[y,z,u,w]/(u-y,\ y-zw)\cong\operatorname{Spec}k[z,w]=\mathbb{A}^2$ である。添字の置換により、$i\neq j$ のすべての $W_{ij}$ は $\mathbb{A}^2$ と同型である($l$ を残りの添字として座標は $x_l/x_i$、$u_l/u_j$)。$W_{ii}$ の点では $x_iu_i\neq0$ なので、$j\neq i$ について $x_ju_j=x_iu_i\neq0$、すなわち $W_{ii}\subset W_{ij}$ である。よって $X$ は 6 つの $W_{ij}$($i\neq j$)で覆われる。どの $W_{ij}$ も、すべての座標が $0$ でない点の集合 $X^\circ$ を空でない開集合として含む($p\in U$ について $(p,[yz:zx:xy])\in X^\circ$)。既約な開集合で覆われ、どの 2 つも交わる空間は既約なので、$X$ は既約であり、局所的に $\mathbb{A}^2$ なので被約かつ非特異な 2 次元の多様体である。$X$ は $\mathbb{P}^2\times\mathbb{P}^2$ の閉部分スキームなので射影的である(Segre 埋め込み、Segre埋め込み、Vak25 §10.6)。
2.$i=1$ の場合を示す(他は添字の置換による)。$s=y/x$、$t=z/x$ を $D_+(x)\cong\mathbb{A}^2$ の座標とし、ブローアップ の例「平面の原点のブローアップ」に従って
$$ \mathrm{Bl}_0\mathbb{A}^2=\{((s,t),[\lambda:\mu])\mid s\mu=t\lambda\}\subset\mathbb{A}^2\times\mathbb{P}^1 $$
とする。$p_1^{-1}(D_+(x))$ の点では $(v,w)\neq(0,0)$ である($v=w=0$ なら $u\neq0$ だが、$x=1$ で $u=xu=yv=0$ となる)。そこで
$$ \Psi\colon([1:s:t],[u:v:w])\longmapsto((s,t),[w:v]),\qquad\Phi\colon((s,t),[\lambda:\mu])\longmapsto([1:s:t],[s\mu:\mu:\lambda]) $$
とおく。$X$ の式 $sv=tw$ から $\Psi$ の値は $\mathrm{Bl}_0\mathbb{A}^2$ に入り、$s\mu=t\lambda$ から $\Phi$ の値は $X$ の式 $xu=yv=zw$(すなわち $s\mu=s\mu=t\lambda$)をみたす。どちらも各座標近傍で多項式で与えられる射で、$\Psi\circ\Phi=\mathrm{id}$、また $u=xu=yv=sv$ から $\Phi\circ\Psi=\mathrm{id}$ であり、どちらも $D_+(x)$ への射影と両立する。よって $p_1^{-1}(D_+(x))\to D_+(x)$ は $\mathrm{Bl}_0\mathbb{A}^2\to\mathbb{A}^2$ と同型である。ブローアップは原点の外で同型であり(ブローアップ の命題「例外因子は有効Cartier因子」の 1)、$\mathbb{P}^2\setminus\{e_1,e_2,e_3\}$ は $D_+(x_i)\setminus\{e_i\}$($i=1,2,3$)で覆われるので、$p_1$ はその上で同型である。$E_1$ は $x=1$、$y=z=0$ の点で、式から $u=0$ となるので $E_1=\{e_1\}\times L'_1$ である。
3.$X$ の式は成分の入れ替えで不変である。$F_1$ の点は $v=w=0$、$u=1$ で、式 $x\cdot1=y\cdot0=z\cdot0$ から $x=0$ となるので $F_1=L_1\times\{e'_1\}$ である。一方 $L_1\setminus\{e_2,e_3\}$ の点 $[0:y:z]$($yz\neq0$)の上では $yv=zw=0$ から $v=w=0$ なので、$p_1^{-1}(L_1\setminus\{e_2,e_3\})$ は $F_1$ から 2 点を除いたものであり、その閉包が $F_1$ である。固有変換は $L_1\setminus\{e_2,e_3\}$ の逆像の閉包なので(ブローアップ の定義「全変換と固有変換」)、$F_1$ は $L_1$ の固有変換である。
4.$p=[x:y:z]\in U$ の上の点では、$u=0$ なら $yv=0$ から $v=0$、$zw=0$ から $w=0$ となって不合理なので $uvw\neq0$ であり、$[u:v:w]=[x^{-1}:y^{-1}:z^{-1}]=[yz:zx:xy]=\sigma(p)$ である。$U\subset\mathbb{P}^2\setminus\{e_1,e_2,e_3\}$ なので、2 により $p_1^{-1}(U)\to U$ は同型であり、その上で $p_2=\sigma\circ p_1$ である。$\square$

3 点のブローアップとしての $p_1$

$Z=\{e_1,e_2,e_3\}$ に被約な構造を入れた閉部分スキームに沿うブローアップ $\mathrm{Bl}_Z\mathbb{P}^2\to\mathbb{P}^2$ は、$D_+(x_i)$ に制限すると $e_i$ のブローアップである(ブローアップは底の開集合への制限と両立する。$D_+(x_i)$ は $Z$ のうち $e_i$ だけを含む)。2 の同型 $p_1^{-1}(D_+(x_i))\cong\mathrm{Bl}_Z\mathbb{P}^2|_{D_+(x_i)}$ は、2 つの $D_+(x_i)$ の共通部分の上で一致するので貼り合わさり、$X\cong\mathrm{Bl}_Z\mathbb{P}^2$($\mathbb{P}^2$ 上の同型)を与える。

一致することの確かめを開く

どちらの同型も $\mathbb{P}^2$ 上の射で、$Z$ の外では両辺の射影がともに同型なので、そこでは射影を通じた同一視そのものに一致する。$Z$ の外は共通部分の稠密な開集合であり、$X$ は被約、$\mathrm{Bl}_Z\mathbb{P}^2$ は分離的なので、双有理写像 の補題「稠密な開集合で一致する射は一致する」により 2 つの同型は共通部分の全体で一致する。

分解からは、$\sigma$ のグラフと定義域が直ちに読み取れる。

標準 2 次変換のグラフと定義域
  1. $X$ は $\sigma$ のグラフ $\{(p,\sigma(p))\mid p\in U\}$ の $\mathbb{P}^2\times\mathbb{P}^2$ における閉包である。
  2. $\sigma$ の定義域は $\mathbb{P}^2\setminus\{e_1,e_2,e_3\}$ である。
  3. $p_2(E_i)=L'_i$、$p_1(F_i)=L_i$ である。すなわち、点 $e_i$ は直線 $L'_i$ に「広げられ」、直線 $L_i$ は点 $e'_i$ に「つぶされる」。

1.thm-cremona-factorization の 4 により、グラフは $p_1^{-1}(U)$ に等しい。これは既約な $X$ の空でない開集合なので $X$ で稠密であり、$X$ は閉集合なので、グラフの閉包は $X$ である。
2.$\mathbb{P}^2\setminus\{e_1,e_2,e_3\}$ の上では $yz,zx,xy$ は同時に $0$ にならないので、$[yz:zx:xy]$ が射を定め、定義域に含まれる。$e_1$ が定義域に入ると仮定し、$e_1$ を含む開集合 $V$ と、$V\cap U$ 上で $\sigma$ に一致する射 $g\colon V\to\mathbb{P}^2$ をとる。$\mathbb{P}^2$ は分離的なので、$g$ のグラフ $\Gamma_g$ は $V\times\mathbb{P}^2$ の閉集合である。$X\cap(V\times\mathbb{P}^2)=p_1^{-1}(V)$ は既約で、$p_1^{-1}(V\cap U)$ はその空でない開集合、したがって稠密であり、$\Gamma_g$ に含まれる。よって $p_1^{-1}(V)\subset\Gamma_g$ であり、とくに $E_1\subset\Gamma_g\cap(\{e_1\}\times\mathbb{P}^2)=\{(e_1,g(e_1))\}$ となる。ところが $E_1$ は射影直線で 2 点以上を含むので矛盾する。$e_2,e_3$ も同じである。
3.thm-cremona-factorization の 2・3 の $E_i=\{e_i\}\times L'_i$、$F_i=L_i\times\{e'_i\}$ による。$\square$

例

直線の像

$\ell=\{\alpha x+\beta y+\gamma z=0\}$ を、どの座標点も通らない直線($\alpha\beta\gamma\neq0$)とする。$p\in U$ について $\sigma(p)\in\ell$ は $\alpha yz+\beta zx+\gamma xy=0$ と同値であり、$U$ の上で $\sigma=\sigma^{-1}$ なので、$\sigma(\ell\cap U)=C\cap U$、$C:=\{\alpha yz+\beta zx+\gamma xy=0\}$ である。$C$ は 3 つの座標点を通る 2 次曲線である。座標点 $e_1$ だけを通る直線 $\beta y+\gamma z=0$ は、同じ計算で $x(\beta z+\gamma y)=0$ となり、$e'_1$ を通る直線 $\beta z+\gamma y=0$ に写る。こうして $\sigma$ は、一般の直線を「3 点を通る 2 次曲線」に、1 点を通る直線を直線に、2 点を通る直線(座標直線)を点に写す。$\sigma$ の成分 $yz,zx,xy$ は、3 つの座標点を通る 2 次曲線の線形系の基底になっている(Har77 V, Example 4.2.3, pp. 397–398)。

三角形の等角共役との関係

三角形 $ABC$ の辺の長さを $a,b,c$ とし、三角形の内部の点の重心座標を $(\alpha:\beta:\gamma)$ とすると、等角共役は $(\alpha:\beta:\gamma)\mapsto(a^2\beta\gamma:b^2\gamma\alpha:c^2\alpha\beta)$ と書ける(等角共役 の定理「等角共役点の重心座標」と注意「2 次の Cremona 変換」)。この式を射影平面の有理写像とみると、これは標準 2 次変換 $\sigma$ のあとに射影変換 $D\colon[x:y:z]\mapsto[a^2x:b^2y:c^2z]$ を施したもの $D\circ\sigma$ であり、平面 Cremona 変換である。3 頂点で定義されず、辺を含む直線を頂点につぶすのは、cor-cremona-domain の 2・3 にあたる。また ex-cremona-lines を無限遠直線 $\alpha+\beta+\gamma=0$ に当てると、$\sigma$ による像は $\beta\gamma+\gamma\alpha+\alpha\beta=0$ で、$D$ で写すと $a^2\beta\gamma+b^2\gamma\alpha+c^2\alpha\beta=0$、これは外接円の重心座標による方程式である(この記事では証明しない)。

射影変換でない Cremona 変換

$\sigma$ は射でないので射影変換ではない。射影変換でない Cremona 変換は、ほかにもいくらでもある。$n\ge2$ を整数とし、$D_+(z)$ のアフィン座標 $a:=x/z$、$b:=y/z$ について $\tau_n(a,b):=(a,b+a^n)$ とおく。これは $\mathbb{A}^2$ の自己同型(逆は $(a,b-a^n)$)なので Cremona 変換であり、斉次座標では $[x:y:z]\mapsto[xz^{n-1}:yz^{n-1}+x^n:z^n]$ と書ける。$\tau_n$ が射影変換 $h$ と有理写像として等しいとすると、$h^*(b)$ は $a,b$ の 1 次以下の多項式 $l_1,l_3$($l_3\neq0$)の比 $l_1/l_3$ であり、$l_1=(b+a^n)l_3$ の次数を比べると左辺は $1$ 以下、右辺は $n\ge2$ 以上で矛盾する。

Noether–Castelnuovo の定理

平面 Cremona 群 $\operatorname{Bir}(\mathbb{P}^2_{\mathbb{C}})$ は、射影変換の群 $PGL_3(\mathbb{C})$ と標準 2 次変換 $\sigma$ で生成される。

Noether–Castelnuovo の定理の出典

この記事では証明しない(Des20 Theorem 4.1、p. 71。Alexander による証明は同 §4.1、pp. 74–)。ex-cremona-jonquieres の $\tau_n$ のような高い次数の変換も、射影変換と $\sigma$ の合成で書けるということである。

反例

非特異な曲線から射影空間への有理写像は射に延びる(代数曲線 の系「非特異な曲線からの射の延長」)。仮定を 1 つずつ外すと、延長はできなくなる。

外す条件反例成り立たなくなること
定義域が 1 次元標準 2 次変換 $\sigma\colon\mathbb{P}^2\dashrightarrow\mathbb{P}^2$$e_1,e_2,e_3$ で射に延びない
定義域が非特異尖点 3 次曲線 $\{y^2=x^3\}$ から $\mathbb{P}^1$ への $[x:y]$原点で射に延びない
行き先が射影空間$\mathbb{A}^1\to\mathbb{A}^1$、$t\mapsto1/t$原点で射に延びない

1 行目は cor-cremona-domain の 2、2・3 行目は 代数曲線 の節「射影空間への写像の延長」の表による。1 行目の $\sigma$ は非特異な射影曲面の間の双有理写像なので、曲線についての「非特異な射影曲線の間の双有理写像は同型に延びる」も次元 $2$ では成り立たない($\sigma$ は同型に延びないどころか射でもない)。双有理な非特異射影曲面が同型とは限らないことは、双有理写像 の例「反例:射影直線の積と射影平面」が示す。

注意

  • 曲面の双有理写像との関係.$k$ が代数閉体のとき、非特異な射影曲面の間の双有理写像は、点のブローアップの合成 2 つで $X\leftarrow Z\to Y$ と分解する(曲面の双有理射の分解定理 の系「曲面の双有理写像の分解」)。thm-cremona-factorization はその最も簡単な具体例で、$E_i$ と $F_i$ は自己交点数 $-1$ の射影直線($(-1)$ 曲線)である(ブローアップ の定理「$(-1)$ 曲線とCastelnuovoの縮約定理」、Har77 V, Example 4.2.3)。
  • 基礎体.thm-cremona-factorization とその系は任意の体で成り立つ。Noether–Castelnuovo の定理は複素数体の上で述べた。
  • 高次元.$n\ge2$ の $\operatorname{Bir}(\mathbb{P}^n)$ は、関数体 $k(t_1,\dots,t_n)$ の自己同型群と向きを逆にして同型であり、その構造の研究が双有理幾何学の一分野をなしている(双有理幾何学、Des20)。

関連項目

参考文献

[1]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer, 1977, I, Exercise 4.6(平面 Cremona 変換、pp. 30–31)、V, Example 4.2.3(3 点のブローアップと 2 次変換、pp. 397–398)
[2]
Ravi Vakil, The Rising Sea: Foundations of Algebraic Geometry, Princeton University Press, 2025, §10.6(射影スキームの積と Segre 埋め込み、pp. 301–302)
[3]
Julie Déserti, The Cremona group and its subgroups, arXiv:1902.03262, arXiv:1902.03262v3(2020)。のち AMS Mathematical Surveys and Monographs 252(2021)として刊行。頁は arXiv 版:Theorem 4.1(Noether–Castelnuovo の定理、p. 71)、§4.1(Alexander による証明、pp. 74–)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する