基本予想(Hauptvermutung)とは、同相な 2 つの有限単体複体は細分すると同型になる(組合せ同値である)だろう、という組合せ位相幾何学の予想である。組合せ同値は多面体が PL 同相であることと同じで、予想は「同相な多面体は PL 同相か」と言い換えられる。2 次元以下の多面体と 3 次元以下の多様体では成り立つ。一般の多面体では Milnor が 1961 年に否定した:内部が PL 同相な 2 つのコンパクト多様体の境界を 1 点につぶすと同相な多面体が得られ、特異点のリンクが PL の違いを担う。PL 多様体に限っても 5 次元以上では成り立たず、Kirby–Siebenmann の理論により PL 構造は $H^3(M;\mathbb{Z}/2)$ で数えられ、この群が消えれば成り立つ。
前提知識: 単体複体, 重心細分, PL多様体, 三角形分割可能な多様体, h同境定理
基本予想(Hauptvermutung)は、「多面体の位相がその組合せ構造を決める」という予想である。正確には、同相な 2 つの有限単体複体は、細分すると同型になる(組合せ同値である)だろう、というもので、Steinitz と Tietze が 1908 年に定式化した。ドイツ語の die Hauptvermutung der kombinatorischen Topologie(組合せ位相幾何学の主予想)の略である(Ran96 §1、p. 1、Rud01 序論、p. 11)。
単体ホモロジーや単体的な基本群が位相不変量であることは、単体近似定理によって示される(単体近似定理)。しかし単体近似は連続写像を PL 写像にホモトピーで取り替えるだけで、同相写像を PL 同相写像に取り替えることはしない。基本予想はこの隙間を問うものである。
答えは次のとおりである。
| 対象 | 次元 | 結果 |
|---|---|---|
| 多面体一般 | $2$ 以下 | 成り立つ(Papakyriakopoulos) |
| 多面体一般 | 高次元 | 成り立たない(Milnor 1961) |
| 閉 PL 多様体 | $3$ 以下 | 成り立つ(閉曲面の分類、Moise) |
| 閉 PL 多様体 | $4$ | 成り立たない(滑らかな $4$ 次元多様体の理論による) |
| 閉 PL 多様体 | $5$ 以上 | 成り立たない(Kirby–Siebenmann 1969) |
この記事では、組合せ同値と PL 同相の関係、多面体の点のリンクによる PL 同相の障害、Milnor の反例の骨組み(境界をつぶした商と一点コンパクト化)を完全に証明し、多様体の基本予想が $H^3(M;\mathbb{Z}/2)=0$ のとき成り立つことを、Kirby–Siebenmann の分類定理から導く。Milnor の反例そのもの(Whitehead ねじれによる判定)と Kirby–Siebenmann の定理は、所在を示して引用する。
単体複体は $\mathbb{R}^N$ の中の有限な幾何的単体複体とし、$K$ の多面体を $|K|$ と書く。$K'$ が $K$ の細分であるとは、$|K'|=|K|$ で $K'$ の各単体が $K$ のある単体に含まれることをいう(重心細分 の記事の定義「単体複体の細分」)。PL 写像と PL 同相写像は PL多様体 の記事の定義「PL 写像と PL 同相写像」にしたがう。PL 同相写像の合成と逆写像はまた PL 同相写像である(同じ記事の命題「PL 写像と PL 同相写像の基本性質」)。単体写像 $f\colon K\to L$ は、その多面体の上の写像 $|f|$(各単体の上でアフィン)も同じ記号で書く。
有限単体複体 $K$、$L$ が組合せ同値(combinatorially equivalent)であるとは、$K$ の細分 $K'$ と $L$ の細分 $L'$ で、単体複体として同型なもの(頂点の全単射で、単体を単体に、単体でないものを単体でないものに写すもの)があることをいう。
有限単体複体 $K$、$L$ について、次は同値である。
1 ⇒ 2. 細分 $K'$、$L'$ と同型 $\phi\colon K'\to L'$ をとる。$\phi$ の多面体の上の写像 $|\phi|\colon|K'|\to|L'|$ は、各単体の上で頂点を頂点へ写すアフィン写像であり、逆写像 $|\phi^{-1}|$ も同様なので、PL 同相写像である。$|K'|=|K|$、$|L'|=|L|$ である。
2 ⇒ 1. $g\colon|K|\to|L|$ を PL 同相写像とする。PL 写像はある細分について単体写像になる:$K$、$L$ の細分 $K'$、$L'$ で、$g\colon K'\to L'$ が単体写像となるものがある(RS82 Theorem 2.14、p. 17)。$g$ が単体複体の同型であることを示す。
(a) $g$ は頂点の集合の上で単射である($|g|$ が単射だから)。単体写像は単体の頂点を 1 つの単体の頂点へ写すので、$K'$ の $k$ 単体 $\sigma=[w_0,\dots,w_k]$ の像の頂点 $g(w_0),\dots,g(w_k)$ は相異なり、$L'$ の $k$ 単体 $g(\sigma)$ を張る。$|g|$ は $\sigma$ の上で、アフィン独立な頂点をアフィン独立な頂点へ写すアフィン写像なので、$\sigma$ を $g(\sigma)$ の上へ同相に写し、相対内部を相対内部へ写す。
(b) $L'$ の各単体 $\tau$ は、ある $\sigma\in K'$ の像である。実際、$\tau$ の重心 $b$ は $\tau$ の相対内部にあり、$|g|$ は全射なので $b=|g|(x)$ となる $x$ がある。$x$ を相対内部に含む $K'$ の単体を $\sigma$ とすると、(a) により $b$ は $g(\sigma)$ の相対内部にある。単体複体の異なる単体の相対内部は交わらないので、$g(\sigma)=\tau$ である。
(c) $g(\sigma)=g(\sigma')$ なら、$|g|(\sigma)=|g|(\sigma')$ と $|g|$ の単射性から $\sigma=\sigma'$ である。
(a)〜(c) により、$\sigma\mapsto g(\sigma)$ は $K'$ の単体と $L'$ の単体の間の全単射で、頂点の全単射 $g$ と整合する。よって頂点の逆写像も単体を単体へ写し、$g\colon K'\to L'$ は単体複体の同型である。
同値関係であること. 反射律と対称律は定義から明らかで、推移律は 2 の形では PL 同相写像の合成が PL 同相写像であることから従う。$\square$
この命題により、多面体の基本予想 (1) は「同相な有限多面体は PL 同相である」と言い換えられる。Bry02 §9 は基本予想をこの形で扱っている。以下では組合せ同値と PL 同相を区別せずに使う。
多面体 $|K|$ の点 $x$ について、$x$ を頂点にもつ細分 $K'$(たとえば $x$ で星状に細分したもの)をとり、頂点のリンク $|\operatorname{Lk}(x,K')|$ を $x$ のリンクという。リンクの PL 同相類は $K'$ の取り方によらず、さらに PL 同相写像で保たれる:$x$ の近傍から $y$ の近傍への PL 同相写像で $x$ を $y$ へ写すものがあれば、$x$ と $y$ のリンクは PL 同相である(PL多様体 の補題「リンクの PL 不変性」、RS82 Lemma 2.19、p. 21)。PL $m$ 次元多様体(境界なし)では、どの点のリンクも PL $(m-1)$ 球面である(PL多様体 の定理「リンクの条件」)。
$P_1$、$P_2$ をコンパクトな多面体とし、$\Sigma(P_i)$ を $P_i$ の点のうちリンクが PL $(m-1)$ 球面でないものの集合とする。PL 同相写像 $F\colon P_1\to P_2$ は $\Sigma(P_1)$ を $\Sigma(P_2)$ の上へ全単射に写し、各 $x\in\Sigma(P_1)$ について $x$ のリンクと $F(x)$ のリンクは PL 同相である。
$x\in P_1$ について、$F$ は $x$ の近傍 $P_1$ から $F(x)$ の近傍 $P_2$ への PL 同相写像で $x$ を $F(x)$ へ写すので、リンクの PL 不変性により $x$ のリンクと $F(x)$ のリンクは PL 同相である。とくに一方が PL $(m-1)$ 球面であることと他方がそうであることは同値なので、$F(\Sigma(P_1))\subset\Sigma(P_2)$ であり、$F^{-1}$ に同じ議論を当てはめて逆の包含も得る。$\square$
特異点の集合とそのリンクは、PL 同相を区別する最も簡単な道具である。次の節で見るように、Milnor の反例は特異点がちょうど 1 つずつの多面体の組として作られ、PL 同相写像があるとすれば、それは特異点どうしを対応させ、そこでのリンクを PL 同相に写さなければならない(Ran96 §2、p. 7 の注意)。
Milnor の反例の骨組みは、「内部が同相な 2 つのコンパクト多様体は、境界を 1 点につぶすと同相になる」という観察である。局所コンパクト Hausdorff 空間 $X$ の一点コンパクト化を $X^+=X\sqcup\{\infty\}$ と書く。
$W$ を空でない境界 $\partial W$ をもつコンパクトな位相多様体とし、$\operatorname{int}W:=W\setminus\partial W$、商写像を $q\colon W\to W/\partial W$ とする。
1. $\partial W$ は閉集合なので $\operatorname{int}W$ は $W$ の開集合であり、局所コンパクト Hausdorff 空間である。よって $(\operatorname{int}W)^+$ はコンパクトである。$\varphi$ は明らかに全単射である。
$W/\partial W$ は Hausdorff. $\operatorname{int}W$ の 2 点は、$\operatorname{int}W$ に含まれる交わらない開集合で分けられ、これらは $q$ について飽和しているので、像は $W/\partial W$ の交わらない開集合である。$x\in\operatorname{int}W$ と $q(\partial W)$ については、コンパクト Hausdorff 空間 $W$ は正則なので、交わらない開集合 $U\ni x$、$V\supset\partial W$ がある。$U\cap\partial W=\emptyset$ なので $U$ も $V$ も飽和しており、像は交わらない開集合である。
$\varphi$ は連続. $O$ を $W/\partial W$ の開集合とする。$q(\partial W)\notin O$ なら $\varphi^{-1}(O)=q^{-1}(O)$ は $\operatorname{int}W$ の開集合である。$q(\partial W)\in O$ なら $q^{-1}(O)$ は $\partial W$ を含む $W$ の開集合で、$C:=W\setminus q^{-1}(O)$ はコンパクト $W$ の閉集合なのでコンパクトであり、$\operatorname{int}W$ に含まれる。$\varphi^{-1}(O)=(\operatorname{int}W\setminus C)\cup\{\infty\}$ は、一点コンパクト化の位相の定義により開集合である。
コンパクト空間から Hausdorff 空間への連続な全単射なので、$\varphi$ は同相写像である。
2. $g$ を $g^+(\infty):=\infty$ で延ばした $g^+\colon(\operatorname{int}W_1)^+\to(\operatorname{int}W_2)^+$ は全単射で、$\infty$ の近傍 $((\operatorname{int}W_2)\setminus C)\cup\{\infty\}$($C$ はコンパクト)の逆像は $((\operatorname{int}W_1)\setminus g^{-1}(C))\cup\{\infty\}$ で、$g^{-1}(C)$ はコンパクトなので開集合である。よって $g^+$ は連続で、$(g^{-1})^+$ も同様なので同相写像である。1 の同相写像 $\varphi_1$、$\varphi_2$ を使って $f:=\varphi_2\circ g^+\circ\varphi_1^{-1}$ とおけばよい。$\square$
$W$ をコンパクトな PL $n$ 次元多様体(境界は空でない)とし、$\partial W$ の上の錐 $c(\partial W)$(頂点を $v$ とする)を境界に沿って貼った多面体を
$$
P(W):=W\cup_{\partial W}c(\partial W)
$$
とおく。$\partial W$ のカラー $\partial W\times[0,1]\subset W$(カラー近傍定理)を使うと、$W/\partial W$ はカラーを $\partial W\times\{0\}$ でつぶした錐と、カラーの外側($W$ と同相)の和になるので、$P(W)$ と $W/\partial W$ は同相である。$v$ のリンクは $\partial W$ そのものであり、$P(W)\setminus\{v\}$ は $W$ に開いたカラー $\partial W\times(0,1]$ を貼った境界のない PL 多様体なので、$v$ 以外の点のリンクは PL $(n-1)$ 球面である。したがって、$\partial W$ が PL $(n-1)$ 球面でなければ、$P(W)$ の特異点は $v$ だけである(Ran96 §2、p. 4 は $W/\partial W$ をこの形の多面体と見て、$v$ のリンクが $\partial W$ であることを述べている)。
$W_1$、$W_2$ をコンパクトな PL $n$ 次元多様体で、境界がどちらも PL $(n-1)$ 球面でないものとする。$P(W_1)$ と $P(W_2)$ が PL 同相なら、$\partial W_1$ と $\partial W_2$ は PL 同相である。
上で見たとおり $\Sigma(P(W_i))=\{v_i\}$ で、$v_i$ のリンクは $\partial W_i$ である。PL 同相写像 $F\colon P(W_1)\to P(W_2)$ は prop-hv-link により $v_1$ を $v_2$ へ写し、$\partial W_1$ と $\partial W_2$ は PL 同相である。$\square$
prop-hv-quotient により、内部が同相なコンパクト多様体 $W_1$、$W_2$ からは同相な多面体 $P(W_1)\cong P(W_2)$ が得られる。そこで、内部は PL 同相だが、全体としては PL の意味でずれている組を作ればよい。Milnor はレンズ空間を使ってこれを実行した(Ran96 §2、pp. 5–6 の再構成による)。
多面体の基本予想は成り立たない。すなわち、多面体が同相だが組合せ同値でない有限単体複体の組がある。上の構成の同相写像 $f\colon P(W_1)\to P(W_2)$($i\ge3$、次元 $i+3\ge6$)は、PL 同相写像にホモトピックでない。
この定理が否定するのは多面体の基本予想であり、反例は特異点をもつ多面体なので、多様体の基本予想の反例ではない。主張の核心は、同相写像が存在しても、それが PL 同相写像にホモトピックでありうるとは限らない、という点にある。多様体の場合は別の定理(thm-hv-manifold-counterexample)で扱う。
これは Milnor(1961)の結果で、Ran96 §2 の Theorem(p. 4)と構成の説明(pp. 5–6)、Bry02 §9(同相だが PL 同相でない多面体を最初に構成したのは Milnor)による。この記事では証明しない。上の段 1〜3 も引用であり、この記事で証明したのは段 4(prop-hv-quotient)と、PL 同相写像があれば特異点のリンクが対応しなければならないこと(cor-hv-criterion)である。Ranicki の説明では、$f$ は h 同境 $V$ のねじれ $\tau$ を使って、ねじれ $2\tau\ne0$ をもつホモトピー同値 $L(7,1)\to L(7,2)$ の $i$ 重懸垂にホモトピックであり、ねじれが $0$ でないことが PL 同相写像にホモトピックでないことの理由である(同 p. 6)。
Stallings はこの構成を一般化し、ねじれが $0$ でない h 同境があれば多面体の基本予想の反例が得られることを示した(Ran96 §2、p. 4、p. 9)。いずれの反例も一点コンパクト化から生じ、特異点をもつので、多様体ではない(同 p. 2)。多様体に限った基本予想は別の問題として残った。
多面体の基本予想は低次元では成り立つ(Ran96 §1、p. 2)。
多様体の基本予想は、$5$ 次元以上では成り立たない。これを述べるには、位相多様体の上の PL 構造とその分類の言葉が要る。位相多様体 $M$ の PL 構造とは、座標変換が PL 写像である極大なアトラスのことで、PL 多様体の多面体からは、その PL 座標近傍の全体として PL 構造が得られる(PL多様体 の命題「多面体としての PL 多様体は PL 構造をもつ」)。$M$ の 2 つの PL 構造 $\Sigma$、$\Sigma'$ がイソトピックであるとは、$M$ の恒等写像からの位相的イソトピー $h_t$($0\le t\le1$、$h_0=1_M$)で、$h_1\colon(M,\Sigma)\to(M,\Sigma')$ が PL 同相写像となるものがあることをいう(KS77 Annex 2、pp. 299–300)。
$M$ を境界のない位相多様体で $\dim M\ge5$ とし、PL 構造 $\Sigma$ が 1 つ与えられているとする。このとき $M$ の PL 構造のイソトピー類は、$H^3(M;\mathbb{Z}/2)$ の元と一対一に対応し、$\Sigma$ は $0$ に対応する。
$H^3(M;\mathbb{Z}/2)=0$ なら、$\dim M\ge5$ の多様体の PL 構造は、イソトピーを除いてただ 1 つである。逆に、この群が $0$ でなければ、イソトピーで同じにならない PL 構造が存在する。次の系は、前者の場合に基本予想が成り立つことを述べる。
これは KS77 Annex 2(Kirby–Siebenmann 1969 の再録)の Classification theorem (I) と Structure theorem (II) から従う (2)(pp. 299–300。係数の群 $\pi_3(\mathrm{TOP}/\mathrm{PL})\cong\mathbb{Z}/2$ は同 p. 305)であり、KS77 Annex 3 の Classification theorem 5.4(p. 318)、Bry02 Theorem 9.3 にもある。コンコルダンス類で数える形は Rud01 Theorem 20.2(p. 82)である。この記事では証明しない。対応の作り方と、PL 構造の存在の障害は Kirby–Siebenmann不変量 の記事で扱う。
同相写像 $h\colon V\to M$($V$、$M$ は閉 PL 多様体、$\dim M\ge5$)に対し、$V$ の PL 構造を $h$ で $M$ へ移したものは $M$ の 2 つ目の PL 構造なので、上の対応で $H^3(M;\mathbb{Z}/2)$ の元 $\kappa(h)$ が決まる。これを $h$ の Casson–Sullivan 不変量という(Rud01 Definition 20.3、p. 83、Ran96 §4 の Theorem (iv)、p. 12)。$\kappa(h)=0$ であることは、$h$ が PL 同相写像にコンコルダントであることと同値で、$H^3(M;\mathbb{Z}/2)$ のどの元も、ある閉 PL 多様体 $V$ からの同相写像の $\kappa$ として実現される(Rud01 p. 83、Ran96 §4 の Theorem (vi)、p. 13)。
$V$、$M$ を境界のない PL 多様体で $\dim M\ge5$、$H^3(M;\mathbb{Z}/2)=0$ とする。このとき任意の同相写像 $h\colon V\to M$ は、ある PL 同相写像 $V\to M$ にイソトピックである。とくに、同相な $V$ と $M$ は PL 同相である。
$\Sigma$ を $M$ の PL 構造、$\Sigma_V$ を $V$ の PL 構造とし、$\Sigma':=\{\psi\circ h^{-1}\mid\psi\in\Sigma_V\}$($h$ で移した PL 構造)とおく。$\Sigma'$ の座標変換は $\Sigma_V$ の座標変換と同じなので、$\Sigma'$ は $M$ の PL 構造であり、定義により $h\colon(V,\Sigma_V)\to(M,\Sigma')$ は PL 同相写像である。
$H^3(M;\mathbb{Z}/2)=0$ なので、thm-hv-ks により $\Sigma$ と $\Sigma'$ はともに $0$ に対応し、イソトピックである。すなわち、恒等写像からの位相的イソトピー $h_t$ で $h_1\colon(M,\Sigma)\to(M,\Sigma')$ が PL 同相写像となるものがある。すると
$$
g:=h_1^{-1}\circ h\colon(V,\Sigma_V)\to(M,\Sigma)
$$
は PL 同相写像の合成なので PL 同相写像であり、$h_t^{-1}\circ h$ は $h$ から $g$ へのイソトピーである。$\square$
同じ議論により、$H^3(M;\mathbb{Z}/2)=0$ の閉多様体 $M$($\dim M\ge5$)の組合せ的な三角形分割は、細分すると互いに同型になる(prop-hv-pl)。単連結で $H^3(M)$ が $2$ ねじれをもたない閉 PL 多様体($\dim M\ge5$)では、任意の同相写像が PL 同相写像にホモトピックであることも知られている(Rud01 Corollary 19.3、p. 81。Sullivan による)。
$n\ge5$ とする。
どちらの例でも、$H^3(\mathbb{R}P^n;\mathbb{Z}/2)$ や $H^3(T^n;\mathbb{Z}/2)$ は $0$ でない。これは、$H^3$ が消えれば基本予想が成り立つという前の系の仮定が、この 2 つの多様体では満たされていないことと合っている。前の節の多面体の反例は特異点をもつが、ここでは多様体そのものについて、同相でも PL 同相でないことが起こる。
1 は Rud01 Example 21.1(p. 83)で、$H^3(\mathbb{R}P^n;\mathbb{Z}/2)\cong\mathbb{Z}/2$ の $0$ でない元に対応する PL 構造が、$\mathbb{R}P^n$ の自己ホモトピー同値がすべて恒等写像にホモトピックであることと Sullivan の法不変量を使って、標準的な構造と PL 同相でないことを示している。2 は Wall、Hsiang–Shaneson による PL ホモトピートーラスの分類から従う(Ran96 §4、p. 17、Bry02 Theorem 9.2)。偽トーラスの「偶数重の」被覆は標準的なトーラスと PL 同相になり、奇数重の被覆はそうならない。Kirby は前者を torus trick に使い、後者が基本予想の否定に使われた(Bry02 §9 の Theorem 9.2 の後の注意。アニュラス予想と安定同相定理)。いずれもこの記事では証明しない。
$\mathbb{R}P^n$ の例では、PL 構造のイソトピー類は $2$ つで(thm-hv-ks)、それらが互いに PL 同相でない。一方、イソトピー類が異なっても PL 同相になることはある。PL 構造を PL 自己同相写像で動かすと、イソトピー類が変わりうるからである(Rud01 序論、p. 12、Example 21.2、pp. 83–84)。したがって、同相な PL 多様体の PL 同相類の個数は、一般に $H^3(M;\mathbb{Z}/2)$ の元の個数より少ない。
$4$ 次元では、多様体の基本予想も成り立たない。$\mathbb{R}^4$ と同相で互いに PL 同相でない PL 多様体が非可算個あり、閉 $4$ 次元多様体でも、同相だが互いに PL 同相でない PL 多様体が可算無限個ある例が知られている(Rud01 Summary 2、p. 86)。$4$ 次元では PL 構造と滑らかな構造の区別はない(Rud01 Remark 6.7、p. 41)。
三角形の境界 $\partial\Delta^2$(頂点 $3$、辺 $3$)と正方形の周 $Q$(頂点 $4$、辺 $4$)は、どちらも $S^1$ の三角形分割である。$\partial\Delta^2$ の 1 辺の中点を新しい頂点にして 2 辺に分けると、頂点 $4$ の閉路になり、$Q$ と同型である(閉路の頂点を順にたどって対応させればよい)。$Q$ 自身は $Q$ の細分なので、$\partial\Delta^2$ と $Q$ は組合せ同値である。同じように、$m$ 角形と $m'$ 角形の周は、辺を分けて頂点の数をそろえれば同型になる。
$K_H$ を Poincaré ホモロジー球面の組合せ的な三角形分割とし、$K:=\partial\Delta^2*K_H$(二重懸垂)とおく。Edwards–Cannon の二重懸垂定理により $|K|$ は $S^5$ と同相である(Bry02 Theorem 9.1。この記事では証明しない)。一方 $K$ は組合せ多様体でない(三角形分割可能な多様体 の系「5 次元球面の組合せ的でない三角形分割」)。組合せ多様体であることは PL 同相で保たれる(PL多様体 の系「組合せ多様体であることは PL 同相で保たれる」)ので、$|K|$ は組合せ多様体 $\partial\Delta^6$ の多面体と PL 同相でなく、prop-hv-pl により $K$ と $\partial\Delta^6$ は組合せ同値でない。
よって、多面体の基本予想は、多面体が位相多様体である場合にも成り立たない。ただしこの反例は PL 多様体どうしの比較ではないので、多様体の基本予想 (3) の反例ではない。Bry02 §9 は、非単連結なホモロジー球面 $H$ について $S^k*H$ が標準的な球面と PL 同相でないことを、位相多様体の三角形分割の一意性が組合せ性を課さなければ崩れる例として挙げている。
$n\ge5$ のとき $H^3(\mathbb{R}P^n;\mathbb{Z}/2)\cong\mathbb{Z}/2$(Hat02 Theorem 3.19、p. 220 の $H^*(\mathbb{R}P^n;\mathbb{Z}/2)\cong\mathbb{Z}/2[\alpha]/(\alpha^{n+1})$)なので、thm-hv-ks により $\mathbb{R}P^n$ の PL 構造のイソトピー類はちょうど $2$ つある。thm-hv-manifold-counterexample の 1 は、$0$ でない方の構造を入れた PL 多様体が標準的な $\mathbb{R}P^n$ と PL 同相でないことを述べている。同相写像 $M\to\mathbb{R}P^n$ の Casson–Sullivan 不変量は $0$ でない元である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $2$ 次元以下(多面体の場合) | Milnor の $P(W_1)$、$P(W_2)$(thm-hv-milnor) | 同相な多面体は組合せ同値 |
| 組合せ多様体(多様体の場合) | $\partial\Delta^2*K_H$ と $\partial\Delta^6$(ex-hv-double-suspension) | 同相な多面体は組合せ同値 |
| $3$ 次元以下(PL 多様体の場合) | $\mathbb{R}P^n$ と同相な偽の射影空間($n\ge5$) | 同相な閉 PL 多様体は PL 同相 |
| $H^3(M;\mathbb{Z}/2)=0$ | 偽トーラス($n\ge5$) | cor-hv-h3 の結論 |
| $W$ がコンパクト | $W=[0,1)$ | $W/\partial W$ と $(\operatorname{int}W)^+$ は同相 |
1 行目は、Ran96 §1 の成り立つ範囲($2$ 次元以下の多面体)の外にある高次元の多面体で、多様体でもない。2 行目は多面体が位相多様体 $S^5$ になる場合で、「PL 多様体どうし」という条件だけが欠けている。3 行目は PL 多様体どうしの比較で、次元の条件だけが欠けている(thm-hv-manifold-counterexample)。4 行目では $H^3(T^n;\mathbb{Z}/2)$ は階数 $\binom n3>0$ の $\mathbb{Z}/2$ ベクトル空間で(Hat02 Example 3.13、p. 213 と Example 3.16、p. 216)、cor-hv-h3 の仮定が破れ、実際に結論も破れる。
5 行目:$W=[0,1)$ は境界 $\{0\}$ をもつ $1$ 次元の多様体だがコンパクトでない。$W/\partial W=W$ は $[0,1)$ でコンパクトでないが、$(\operatorname{int}W)^+=(0,1)^+$ は円周と同相でコンパクトである。prop-hv-quotient の証明では、$W$ のコンパクト性から、$\partial W$ の近傍の補集合がコンパクトになることを使っていた。
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