数え上げ幾何学(enumerative geometry)とは、与えられた条件をみたす幾何学的な対象の個数を問う代数幾何学の分野である。対象の全体をパラメータ空間とみなし、各条件をその部分多様体として表すと、条件が一般の位置にあるとき答えは Chow 環での積の次数として計算される。平面の 5 点を通る円錐曲線は 1 つ、空間の一般の 4 本の直線と交わる直線は 2 本であり、Bézout の定理、Schubert カルキュラス、3 次曲面の 27 本の直線、Gromov–Witten 不変量による有理曲線の数え上げへとつながる。
数え上げ幾何学とは、「与えられた条件をみたす幾何学的な対象はいくつあるか」を問う代数幾何学の分野である。平面の 5 点を通る円錐曲線はいくつあるか、空間の 4 本の直線のすべてと交わる直線は何本か、3 次曲面の上に直線は何本あるか、といった問いがその典型である。答えが有限の数として意味をもつのは、条件が「一般の位置」にあるときで、そのとき答えは対象の全体をなすパラメータ空間の上の交点数として計算される。
この記事では、数え上げの問いをパラメータ空間の交叉の計算に置き換える考え方を説明し、代表的な 2 つの数え上げ(5 点を通る円錐曲線は 1 つ、4 本の直線と交わる直線は 2 本)を完全に証明する。そのうえで、Bézout の定理・Schubert カルキュラス・3次曲面の 27 本の直線・有理曲線の数え上げへの道筋を、それぞれの記事への案内とともに示す。同じ「数え上げ」の語を含む 数え上げ組合せ論 は有限集合の元の個数を数える組合せ論の分野で、この記事の主題とは別である。
数え上げの問いは、次の 3 つの材料から成る。
$K$ を体とする。射影平面 $\mathbb{P}^2_K$ の円錐曲線とは、$0$ でない 2 次形式 $q(x_0,x_1,x_2)$ の零点集合 $V(q)$ のことで、$q$ はスカラー倍を除いて考える。$q$ が $K$ の代数閉包の上で 1 次式の積に分解しないとき、円錐曲線は非退化であるという。
$\mathbb{P}^2_K$ の相異なる 5 点 $P_1,\dots,P_5$ のどの 3 点も同一直線上にないとする。このとき 5 点を通る円錐曲線はスカラー倍を除いてただ 1 つ存在し、それは非退化である。
存在. 2 次形式は 6 個の係数をもち、点 $P_j$ を通るという条件は係数についての 1 次方程式 1 つである。5 個の 1 次方程式の解空間は 6 次元空間の中で 1 次元以上なので、$0$ でない解 $q$ がある。
一意性. 1 次独立な $q,q'$ がともに 5 点で消えるとする。$P_1,P_2$ を通る直線 $\ell$ の上に、$P_1,P_2$ と異なる点 $R$ をとる($\ell\cong\mathbb{P}^1_K$ は少なくとも 3 個の $K$ 有理点をもつ)。$q+tq'$ または $q'$ のどれかが $R$ で消えるように選べるので、5 点と $R$ で消える $0$ でない 2 次形式 $q''$ がある。$q''$ を $\ell\cong\mathbb{P}^1$ に制限すると 2 変数の 2 次形式で、3 点 $P_1,P_2,R$ で消えるので恒等的に $0$ である。よって $\ell$ を定める 1 次式 $l$ で $q''=l\,m$($m$ は 1 次式)と書ける。$P_3,P_4,P_5$ は $\ell$ の上にない($P_1,P_2$ と同一直線上にない)ので $m$ の零点で、3 点が直線 $V(m)$ の上にあることになり矛盾する。
非退化. $q$ が代数閉包の上で $q=l_1l_2$ と分解すれば、5 点は 2 直線 $V(l_1)\cup V(l_2)$ に含まれ、鳩の巣原理によりどちらかに 3 点がのって矛盾する。$\square$
円錐曲線のパラメータ空間 $\mathbb{P}^5$ では、点を通る条件は超平面なので、5 つの条件の交わりは $\mathbb{P}^5$ の 5 つの超平面の交わり、すなわち 1 点である。thm-eg-conic は、この 5 つの超平面がちょうど 1 点で交わり、その点が非退化な円錐曲線になるための十分条件が「どの 3 点も同一直線上にない」ことだと述べている。5 つの超平面が 1 点で交わるだけなら、どの 4 点も同一直線上にないことで足りる(Bezoutの定理 の 5 点を通る 2 次曲線の系)。
条件は超平面とは限らない。直線 $\ell$ に接する($q$ の $\ell$ への制限が $0$ でなく重根をもつ)という条件は、制限した 2 次式の判別式が $q$ の係数の 2 次式なので、$\mathbb{P}^5$ の 2 次超曲面を定める。したがって「4 点を通り $\ell$ に接する」の答えは、4 つの超平面と 1 つの 2 次超曲面の交点数 $2$ と予想される。
$K$ を標数 $2$ でない無限体とし、$\mathbb{P}^2_K$ の 4 点 $P_1,\dots,P_4$ のどの 3 点も同一直線上にないとする。
1:4 個の 1 次条件なので解空間は 2 次元以上である。3 次元以上なら、$P_1,\dots,P_4$ とどの 3 点も同一直線上にない第 5 の点($K$ は無限体なので、4 点を通る 6 本の直線の外にとれる)を通る 2 次形式が 2 次元以上となり、thm-eg-conic の一意性に反する。2:$(\lambda q_0+\mu q_1)|_\ell=\alpha x^2+\beta xy+\gamma y^2$ と書くと、$\alpha,\beta,\gamma$ は $\lambda,\mu$ の 1 次式で、重根をもつ条件 $\beta^2-4\alpha\gamma=0$ は $[\lambda:\mu]\in\mathbb{P}^1$ の 2 次方程式である。恒等的に $0$ でなければ解は高々 2 個である。$\square$
$K=\mathbb{Q}$ とし、4 点 $[1:0:0],[0:1:0],[0:0:1],[1:1:1]$ をとる。これらを通る 2 次形式は $q=a\,x_0x_1+b\,x_0x_2-(a+b)\,x_1x_2$ である。直線 $\ell\colon x_2=2x_0+3x_1$ に制限すると
$$
q|_\ell=2b\,x_0^2+(b-a)\,x_0x_1-3(a+b)\,x_1^2
$$
で、判別式は $(b-a)^2+24b(a+b)=a^2+22ab+25b^2$ である。$b=1$ として $a=-11\pm4\sqrt6$ の 2 つが解で、$K$ を $\mathbb{Q}(\sqrt6)$ に広げると 2 個の円錐曲線が得られる。束の中の退化した円錐曲線は $a/b\in\{\infty,0,-1\}$(直線の組 $x_1(x_0-x_2)$、$x_2(x_0-x_1)$、$x_0(x_1-x_2)$)だけなので、この 2 個は非退化である。
$K$ を代数閉体とし、$L_1,L_2,L_3$ を $\mathbb{P}^3_K$ の互いにねじれの位置にある(交わらない)直線とする。
座標. $L_1,L_2$ は交わらないので、$K^4=U_1\oplus U_2$($L_i=\mathbb{P}(U_i)$)と分解する。座標を $L_1=V(x_0,x_1)$、$L_2=V(x_2,x_3)$ にとる。$L_3=\mathbb{P}(U_3)$ は $L_1,L_2$ と交わらないので、$U_3$ は第 1 成分 $(x_0,x_1)$ への射影で $K^2$ と同型に写り、$U_3=\{(y,\varphi(y))\}$($\varphi$ は $K^2$ の可逆な 1 次変換)と書ける。$(x_2,x_3)$ を $\varphi^{-1}$ で取り替えると $L_3=V(x_2-x_0,\ x_3-x_1)$ となる。
$Q$ の一意性. 2 次形式 $f$ が $L_1$ と $L_2$ で消えるなら、$f$ はイデアル $(x_0,x_1)\cap(x_2,x_3)=(x_0,x_1)(x_2,x_3)$ に入り、$f=\sum_{i\in\{0,1\},\,j\in\{2,3\}}c_{ij}x_ix_j$、すなわち $f(x)=(x_0,x_1)\,C\,(x_2,x_3)^{\mathsf T}$ と書ける。$L_3$ の上では $f=(x_0,x_1)\,C\,(x_0,x_1)^{\mathsf T}$ が恒等的に $0$ なので、$C$ の対角成分は $0$ で $c_{03}=-c_{12}$ である。よって $f$ は $x_0x_3-x_1x_2$ のスカラー倍で、$Q=V(x_0x_3-x_1x_2)$ がただ 1 つの 2 次曲面である。
母線. $\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1\to Q$、$([s_0:s_1],[t_0:t_1])\mapsto[s_0t_0:s_1t_0:s_0t_1:s_1t_1]$ は同型である(逆写像は $[s_0:s_1]=[x_0:x_1]=[x_2:x_3]$、$[t_0:t_1]=[x_0:x_2]=[x_1:x_3]$ の、$0$ でない方で与えられる)。$t$ を固定した直線を $t$ 母線、$s$ を固定した直線を $s$ 母線という。$L_1=\{t=[0:1]\}$、$L_2=\{t=[1:0]\}$、$L_3=\{t=[1:1]\}$ は $t$ 母線である。異なる $t$ 母線どうしは交わらず、$s$ 母線と $t$ 母線はちょうど 1 点で交わる。
$Q$ の上の直線. $Q$ に含まれ点 $p\in Q$ を通る直線は、$p$ を通る $s$ 母線と $t$ 母線の 2 本だけである。実際、$s$ と $t$ に独立に $\mathrm{GL}_2(K)$ を作用させると $Q$ の 1 次変換が得られ、それは $Q$ の点に推移的に作用するので、$p=[1:0:0:0]$ としてよい。$p$ を通る直線の点 $p+\lambda w$ が $Q$ にのる条件は、$(1+\lambda w_0)\lambda w_3-\lambda^2w_1w_2=0$ がすべての $\lambda$ で成り立つこと、すなわち $w_3=0$ かつ $w_1w_2=0$ である。よって直線は $V(x_1,x_3)$($s=[1:0]$ の $s$ 母線)か $V(x_2,x_3)$($t=[1:0]$ の $t$ 母線)である。
1 の残り. 直線 $M$ が $L_1,L_2,L_3$ と交わるなら、$M$ は $Q$ と相異なる 3 点で交わり、$q:=x_0x_3-x_1x_2$ の $M$ への制限は 3 点で消える 2 変数の 2 次形式なので恒等的に $0$、すなわち $M\subset Q$ である。$M$ が $L_1$ の点 $p$ を通るので、$M$ は $p$ を通る $s$ 母線か $L_1$ 自身であり、$L_1$ は $L_2$ と交わらないので $M$ は $s$ 母線である。逆にすべての $s$ 母線は $L_1,L_2,L_3$ と交わる。
2. 1 により、求める直線は $L_4$ と交わる $s$ 母線である。$L_4\not\subset Q$ なので、$q$ の $L_4$ への制限は $0$ でない 2 変数の 2 次形式で、$L_4\cap Q$ は 1 点か 2 点である($K$ は代数閉体)。$s$ 母線が $L_4$ と交わるのは $L_4\cap Q$ の点を通るときに限り、各点を通る $s$ 母線はただ 1 本である。2 点 $p\ne p'$ を通る $s$ 母線が同じなら、$L_4$ は $p,p'$ を通るその $s$ 母線に一致して $Q$ に含まれ、仮定に反する。よって 2 点なら 2 本、1 点なら 1 本である。$\square$
Schubertカルキュラス の言葉では、「直線 $L$ と交わる直線」の全体は $\operatorname{Gr}(2,4)$ の Schubert 多様体で、その類 $\sigma_1$ について $\deg\sigma_1^4=2$ である(Schubertカルキュラス の例「$\mathbb{P}^3$ の直線」)。thm-eg-four-lines は、一般の位置の 4 本の直線についてこの交点数が実際の本数として現れることを示し、接する場合は交点が重複度 2 で数えられることを示している。
| 問い | 答え | パラメータ空間と道具 | 記事・所在 |
|---|---|---|---|
| 次数 $d$ と $e$ の平面曲線(共通成分なし)の交点 | 重複度込みで $de$ 個 | $\mathbb{P}^2$ の Chow 環 | Bezoutの定理、交叉理論 |
| 一般の 2 点を通る直線、一般の 5 点を通る円錐曲線 | 1、1 | $\mathbb{P}^2$ の直線・円錐曲線の空間 | thm-eg-conic |
| 一般の 4 本の直線と交わる直線 | 2 | $\operatorname{Gr}(2,4)$、Schubert 類 | thm-eg-four-lines、Schubertカルキュラス |
| $\operatorname{Gr}(k,n)$ の $k(n-k)$ 個の一般の特殊 Schubert 条件 | 長方形の標準盤の個数 | Schubert カルキュラス | Schubertカルキュラス の系「$\sigma_1$ の冪の次数と標準盤」 |
| 非特異 3 次曲面の上の直線 | 27 本 | 6 点のブローアップと交叉形式 | Har77 V Theorem 4.9、3次曲面 の定理「27 本の直線」 |
| 一般の $3d-1$ 点を通る次数 $d$ の有理平面曲線 | $N_1=N_2=1$、$N_3=12$、$N_4=620$ | 安定写像のモジュライと結合律 | Gromov–Witten理論、KM94 Claim 5.2.1 |
Bézout の定理は、射影平面の 2 曲線の交点を重複度込みで数え、数え上げ幾何学のもっとも基本的な答えを与える。高次元では、交叉理論 と Chow環 が「重複度込みの交点数」を一般に定式化する。
Schubert カルキュラスは、線形部分空間についての条件(「与えられた部分空間と交わる」など)の数え上げを、Grassmann 多様体の Chow 環の計算として扱う。積の規則は Pieri の公式と Littlewood–Richardson 規則で、組合せ論の計算に帰着する。
3 次曲面の 27 本の直線:代数閉体上で、$\mathbb{P}^2$ の一般の位置の 6 点をブローアップすると $\mathbb{P}^3$ の非特異 3 次曲面が得られ(Har77 V Corollary 4.7、p. 400)、その上の直線は、6 個の例外曲線、2 点を通る直線の固有変換 15 本、5 点を通る円錐曲線の固有変換 6 本の、合わせて 27 本である(Har77 V Theorem 4.9、p. 402。この記事では証明しない)。ブローアップを使わずに、直線を 1 本含む非特異 3 次曲面の直線を 1 本の直線を含む平面から数えて 27 本を出す証明は、標数 2 でない代数閉体の上で 3次曲面 の定理「27 本の直線」にある。逆に非特異 3 次曲面はすべてこの形に表せることが古典的に知られている(Har77 V Remark 4.7.1 に言明がある)。5 点を通る円錐曲線が現れるところで thm-eg-conic が使われる。
有理曲線の数え上げ:一般の $3d-1$ 点を通る次数 $d$ の有理平面曲線の個数 $N_d$ は、Gromov–Witten 不変量の結合律から得られる漸化式
$$
N_d=\sum_{k+l=d,\ k,l\ge1}N_kN_lk^2l\left[l\binom{3d-4}{3k-2}-k\binom{3d-4}{3k-1}\right]\qquad(d\ge2)
$$
と $N_1=1$ で決まる(KM94 §5.2、Claim 5.2.1 の式 (5.17)、p. 28。この記事では証明しない。$N_d$ が実際の個数に等しいことを含めた証明は Gromov–Witten理論 にある)。$d=2$ では右辺は $N_1^2\cdot1\cdot[\binom21-\binom22]=1$ となり、5 点を通る円錐曲線が 1 つであること(thm-eg-conic)と一致する。KM94 は続く値を $12,620,87304,\dots$ と記している。
数え上げの答えが交点数と一致するには、条件が一般の位置にあることが要る。そうでないと、次のように答えが崩れる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| thm-eg-conic のどの 3 点も同一直線上にないこと | 4 点 $P_1,\dots,P_4$ が直線 $\ell$ 上にあり、$P_5$ が $\ell$ の外にある | 5 点を通る円錐曲線は $\ell$ と $P_5$ を通る直線の和の全体で、1 つに決まらず、どれも退化している |
| thm-eg-four-lines の 2 で $L_4$ が $Q$ と相異なる 2 点で交わること | $L_4$ が $Q$ に接する | 求める直線は 1 本になる(交点数 2 が重複度 2 の 1 点として現れる) |
| thm-eg-four-lines の $K$ が代数閉体であること | $K=\mathbb{R}$、$L_4=V(x_0-x_3,\ x_1+x_2)$ | $L_4$ は $L_1,L_2,L_3$ とねじれの位置にあるが、$L_4\cap Q$ に実の点がなく、4 本と交わる実の直線は 1 本もない |
1 行目:$P_1,P_2,P_3\in\ell$ を通る円錐曲線は、prf-eg-conic の一意性の段落と同じ議論で $\ell$ を含み、残りの 1 次式は $P_5$ を通る直線なら何でもよい。3 行目:$L_4$ の点は $[a:b:-b:a]$ で、$x_0x_3-x_1x_2=a^2+b^2$ は実数の $(a,b)\ne(0,0)$ で $0$ にならない。$L_4$ は $L_1=V(x_0,x_1)$、$L_2=V(x_2,x_3)$、$L_3=V(x_2-x_0,x_3-x_1)$ のどれとも交わらない(交わりの条件から $a=b=0$ になる)。複素数体の上では $L_4\cap Q$ は 2 点 $[1:\pm i:\mp i:1]$ で、答えは 2 本に戻る。
実数体の上の数え上げでは、このように実の解の個数が条件の位置によって変わるので、複素数の答えのうち何個が実になりうるかが別の問題になる。また、Grassmann 多様体の部分多様体を一般の位置に動かせば横断的に交わる、という性質が保証されるのは標数 $0$ の場合で、正標数には反例がある(Sot97 §1、p. 2 の注意)。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する