標準滑らかな代数(standard smooth algebra)とは、環 $A$ 上の多項式環 $A[x_1,\dots,x_n]$ を $c$ 個の多項式 $f_1,\dots,f_c$($c\le n$)で割った代数のうち、最初の $c$ 変数についての $f_1,\dots,f_c$ の Jacobi 行列式の像が商の単元になるものである。相対微分加群は階数 $n-c$ の自由加群であり、この性質は底変換・局所化・合成で保たれる。基礎環 $A$ に Noether 性を仮定しなくても、標準滑らかな代数は $A$ 上平坦であり、各素イデアル上のファイバーは幾何的に正則である。有限表示の形式的に滑らかな代数は、各点の近傍でこの形の表示をもつ。
標準滑らかな代数(standard smooth algebra)とは、環 $A$ 上の多項式環を $c$ 個の多項式 $f_1,\dots,f_c$ で割った代数のうち、最初の $c$ 変数についての $f_1,\dots,f_c$ の Jacobi 行列式が商の中で単元になるものである。陰関数定理では、方程式の個数と同じ個数の変数について Jacobi 行列式が $0$ でなければ、解の集合は残りの変数を座標として局所的に表せる。標準滑らかな代数はこの状況を任意の環の上で代数的に述べたもので、「残りの $n-c$ 変数の方向に滑らかに広がる」代数のいちばん具体的な形である。
この記事では、定義と局所化を許した表示との関係、相対微分加群が自由であること、底変換・局所化・合成で保たれることを示したあと、主定理として、標準滑らかな代数は任意の基礎環 $A$ の上で平坦であり(thm-standard-smooth-flat)、そのファイバーは幾何的に正則である(thm-standard-smooth-fibers)ことを証明する。基礎環に Noether 性を仮定しないので、証明には Noether 環への帰着が入る。持ち上げの性質(形式的滑らかさ)との関係は Jacobian判定法 が扱い、有限表示の形式的に滑らかな代数は局所的に標準滑らかな代数になる。
環は単位元をもつ可換環、環準同型は単位元を保つものとする。$A$ を環、$n\ge c\ge0$ を整数とし、$A[x]=A[x_1,\dots,x_n]$ と書く。偏導関数 $\partial f/\partial x_i$ は多項式の形式的な微分である。
$f_1,\dots,f_c\in A[x_1,\dots,x_n]$ について、最初の $c$ 変数についての Jacobi 行列式
$$
\Delta:=\det\Bigl(\frac{\partial f_j}{\partial x_i}\Bigr)_{1\le i,j\le c}
$$
の像が $B:=A[x_1,\dots,x_n]/(f_1,\dots,f_c)$ の単元であるとき、$B$ を $A$ 上の標準滑らかな代数といい、この表示を標準 Jacobi 表示という。$A$ 代数 $S$ がある標準滑らかな代数と $A$ 代数として同型であるとき、$S$ は $A$ 上標準滑らかである、あるいは環準同型 $A\to S$ は標準滑らかであるという。
$c=0$ のとき $\Delta$ は空の行列式 $1$ であり、多項式環 $A[x_1,\dots,x_n]$ 自身が標準滑らかである。$B=0$ の場合(たとえば $f_1=1$)も定義に含まれる。この定義は Stacks Definition 10.137.5(Tag 00T6)のものである。
最初の $c$ 変数に限ることと局所化をしないことは見かけの制限で、次の命題により、局所化した多項式環の上で任意の $c$ 変数を選んだ表示も標準滑らかな代数を与える。局所化 $A[x]_h$ の上の偏導関数は、商の微分の公式 $\partial(g/h^m)/\partial x_i=(h\,\partial g/\partial x_i-m\,g\,\partial h/\partial x_i)/h^{m+1}$ でただ 1 通りに延びた $A$ 導分である。
$h\in A[x_1,\dots,x_n]$、$f_1,\dots,f_c\in A[x]_h$ とし、$B':=A[x]_h/(f_1,\dots,f_c)$ とおく。相異なる添字 $i_1,\dots,i_c$ があって、行列式 $\det(\partial f_j/\partial x_{i_r})_{1\le r,j\le c}$ の像が $B'$ の単元であるとする。このとき $B'$ は $A$ 上標準滑らかである。逆に、標準 Jacobi 表示は $h=1$、$(i_1,\dots,i_c)=(1,\dots,c)$ の場合である。
共通の $m\ge0$ をとり、$F_j:=h^mf_j$ が $A[x]$ の元(の像)になるようにする。$A[x]_h\cong A[x,y]/(hy-1)$($y\mapsto1/h$)であり、$h^m$ は $A[x]_h$ の単元なので $(f_1,\dots,f_c)=(F_1,\dots,F_c)$ である。したがって
$$
B'\cong A[x_1,\dots,x_n,y]/(F_1,\dots,F_c,G),\qquad G:=hy-1
$$
である。変数 $x_{i_1},\dots,x_{i_c},y$ についての $F_1,\dots,F_c,G$ の Jacobi 行列は、$\partial F_j/\partial y=0$、$\partial G/\partial y=h$ なので
$$
\begin{pmatrix}\bigl(\partial F_j/\partial x_{i_r}\bigr)_{r,j}&\bigl(\partial G/\partial x_{i_r}\bigr)_r\\0&h\end{pmatrix}
$$
の形であり、行列式は $h\cdot\det(\partial F_j/\partial x_{i_r})$ である。$A[x]_h$ の中で $\partial F_j/\partial x_i=h^m\,\partial f_j/\partial x_i+m\,h^{m-1}(\partial h/\partial x_i)f_j$ であり、$B'$ では $f_j=0$ だから、この行列式の $B'$ での像は $h^{mc+1}\det(\partial f_j/\partial x_{i_r})$ の像で、単元である。最後に変数の番号を付け替えて $x_{i_1},\dots,x_{i_c},y$ を最初の $c+1$ 個にすると(変数の置換は多項式環の $A$ 代数の自己同型である)、$B'$ は $n+1$ 変数・$c+1$ 個の式の標準 Jacobi 表示をもつ。逆の主張は定義そのものである。$\square$
この形の表示は Stacks Example 10.137.7(Tag 00T8)にもある。局所化を許すと、たとえば $h=\Delta$ として「$\Delta$ が単元になる開集合」をそのまま表示できる。
$B=A[x_1,\dots,x_n]/(f_1,\dots,f_c)$ を標準 Jacobi 表示とする。
要点:1 は可逆な $c\times c$ 行列で $dx_1,\dots,dx_c$ を残りの $dx_l$ で書き表すこと、2 は右完全性、3 は prop-standard-smooth-localized、4 はブロック三角の Jacobi 行列による。$\square$
1:Kähler微分の基本完全列 の系「多項式環の商の微分加群」により、$\Omega_{B/A}$ は $\bigoplus_{i=1}^nB\,dx_i$ を $df_j=\sum_i(\partial f_j/\partial x_i)\,dx_i$($j=1,\dots,c$)の生成する部分加群 $N$ で割ったものである。$J:=(\partial f_j/\partial x_i)_{1\le i,j\le c}$ の $B$ での像は可逆なので、$i\le c$ について $\sum_j(J^{-1})_{ji}\,df_j=dx_i+\sum_{l>c}\beta_{il}\,dx_l$($\beta_{il}\in B$)となり、左辺の $c$ 個の元も $N$ を生成する。$dx_i\mapsto-\sum_{l>c}\beta_{il}dx_l$($i\le c$)、$dx_l\mapsto dx_l$($l>c$)で定まる写像 $\bigoplus_iB\,dx_i\to\bigoplus_{l>c}B\,dx_l$ は $N$ を $0$ に送り、包含 $\bigoplus_{l>c}B\,dx_l\to\Omega_{B/A}$ と互いに逆写像を誘導する。
2:テンソル積の右完全性により $A'\otimes_AB\cong A'[x]/(f_1',\dots,f_c')$ である($f_j'$ は係数を $A'$ に移した多項式)。この表示の行列式は $\Delta$ の像であり、単元の像は単元である。
3:$b$ を $\beta\in A[x]$ に持ち上げると $B_b\cong A[x]_\beta/(f_1,\dots,f_c)$ であり、最初の $c$ 変数についての行列式 $\Delta$ の像は $B_b$ の単元である。prop-standard-smooth-localized による。
4:$C=B[y_1,\dots,y_m]/(g_1,\dots,g_d)$ を標準 Jacobi 表示とし、$g_j$ を $G_j\in A[x,y]$ に持ち上げると $C\cong A[x,y]/(f_1,\dots,f_c,G_1,\dots,G_d)$ である。$\partial f_j/\partial y_i=0$ なので、変数 $x_1,\dots,x_c,y_1,\dots,y_d$ についての Jacobi 行列はブロック三角で、行列式は $\Delta\cdot\det(\partial G_j/\partial y_i)_{i,j\le d}$ である。$C$ での像は、単元 $\Delta$ の像と、単元 $\det(\partial g_j/\partial y_i)$ の像の積なので単元である。変数を $x_1,\dots,x_c,y_1,\dots,y_d,x_{c+1},\dots,x_n,y_{d+1},\dots,y_m$ の順に並べればよい。
1〜4 は Stacks Lemma 10.137.6(Tag 00T7)の (2)・(4)・(5) と Lemma 10.137.8(Tag 00T9)にあたる。持ち上げについては、標準滑らかな代数は $A$ 上形式的に滑らかであり、$c=n$ なら形式的エタールである(Jacobian判定法 の命題「標準滑らかな代数の形式的滑らかさ」)。平方零の誤差を、可逆な $c\times c$ 行列の逆行列で 1 次の補正として打ち消す Newton 法の議論である。
体の上では、標準 Jacobi 表示の式は局所環の中で「独立な座標」として振る舞う。
$K$ を体、$Q$ を $K[x_1,\dots,x_n]$ の素イデアル、$R:=K[x]_Q$ とする。$f_1,\dots,f_c\in Q$ について、最初の $c$ 変数についての Jacobi 行列式 $\Delta$ が $Q$ に属さないなら、$f_1,\dots,f_c$ は $R$ の正則列であり、$R/(f_1,\dots,f_c)R$ は次元 $\dim R-c$ の正則局所環である。
$R$ は正則局所環である(幾何的正則性 の命題「有限変数多項式環と係数拡大」)。その極大イデアルを $\mathfrak m=QR$、剰余体を $\kappa=R/\mathfrak m$ とし、$g\in R$ の像を $\bar g\in\kappa$ と書く。写像 $\delta\colon\mathfrak m\to\kappa^n$、$g\mapsto(\overline{\partial g/\partial x_i})_{i=1}^n$ は加法的で、$g\in\mathfrak m$、$r\in R$ について $\delta(rg)=\bar r\,\delta(g)+\bar g\,\delta(r)=\bar r\,\delta(g)$ である。とくに $\delta(\mathfrak m^2)=0$ なので、$\delta$ は $\kappa$ 線形写像 $\mathfrak m/\mathfrak m^2\to\kappa^n$ を誘導する。$\delta(f_1),\dots,\delta(f_c)$ の最初の $c$ 成分を並べた行列の行列式は $\bar\Delta\ne0$($\Delta\notin Q=\mathfrak m\cap K[x]$)なので、これらは 1 次独立であり、$f_1,\dots,f_c$ の $\mathfrak m/\mathfrak m^2$ での像も 1 次独立である。
正則局所環 の補題「正則パラメータ系の一部による商」を $f_1,\dots,f_j$($0\le j\le c$)に使うと、$R_j:=R/(f_1,\dots,f_j)$ は次元 $\dim R-j$ の正則局所環であり、同じ記事の命題「正則局所環は整域」により整域である。$f_{j+1}$ の像は $(f_1,\dots,f_j)+\mathfrak m^2$ に属さないので $R_j$ の中で $0$ でなく、整域の $0$ でない元として非零因子である。$R_c\ne0$ でもあるので、$f_1,\dots,f_c$ は正則列である(正則列 の定義「加群上の正則列」)。$\square$
$B=A[x_1,\dots,x_n]/(f_1,\dots,f_c)$ を標準 Jacobi 表示とする。任意の素イデアル $\mathfrak p\subset A$ と任意の体拡大 $K/\kappa(\mathfrak p)$ について、$B\otimes_AK$ の任意の素イデアルでの局所化は正則局所環である。とくに各ファイバー $B\otimes_A\kappa(\mathfrak p)$ は $\kappa(\mathfrak p)$ 上幾何的に正則である(幾何的正則性 の定義「幾何的正則性」の意味で)。
prop-standard-smooth-basic の 2 を $A\to K$ に使うと、$D:=B\otimes_AK=K[x]/(\bar f_1,\dots,\bar f_c)$ は $K$ 上の標準 Jacobi 表示で、$\bar\Delta$ は $D$ の単元である。$D$ の素イデアル $\mathfrak q$ は $(\bar f_1,\dots,\bar f_c)$ を含む $K[x]$ の素イデアル $Q$ に対応し、$\bar\Delta$ は $D$ の単元だから $\bar\Delta\notin Q$ である。局所化は剰余と交換するので $D_{\mathfrak q}\cong K[x]_Q/(\bar f_1,\dots,\bar f_c)$ であり、lem-standard-smooth-field により正則局所環である。後半:有限次拡大 $K'/\kappa(\mathfrak p)$ について $(B\otimes_A\kappa(\mathfrak p))\otimes_{\kappa(\mathfrak p)}K'\cong B\otimes_AK'$ であり、前半からこの Noether 環のすべての局所化は正則である。$\square$
証明から、局所環 $D_{\mathfrak q}$ の次元は $\dim K[x]_Q-c$ である。ファイバーの次元が $n-c$ であること(Stacks Lemma 10.137.6(Tag 00T7)の (7))は、体上の有限型代数の次元論を使うので、この記事では証明しない。
平坦性の証明の鍵は、閉ファイバーでの正則列を全体の正則列へ持ち上げる次の補題である(Mat89 Theorem 22.5 を、$g$ 倍の写像に使った形)。
$(A,\mathfrak m,k)\to(P,\mathfrak n)$ を Noether 局所環の局所準同型、$M$ を有限生成 $P$ 加群で $A$ 上平坦なものとし、$g\in\mathfrak n$ とする。$g$ 倍が $M/\mathfrak mM$ の上で単射なら、$g$ 倍は $M$ の上でも単射であり、$M/gM$ は $A$ 上平坦である。
単射性:$M$ は平坦なので $\mathfrak m^r\otimes_AM\cong\mathfrak m^rM$ であり、$0\to\mathfrak m^{r+1}\to\mathfrak m^r\to\mathfrak m^r/\mathfrak m^{r+1}\to0$ にテンソル積の右完全性を使うと
$$
\mathfrak m^rM/\mathfrak m^{r+1}M\cong(\mathfrak m^r/\mathfrak m^{r+1})\otimes_AM\cong(\mathfrak m^r/\mathfrak m^{r+1})\otimes_k(M/\mathfrak mM)
$$
である。右辺は $M/\mathfrak mM$ の有限個の直和なので、$g$ 倍はその上で単射である。$gx=0$ とし、$x\in\mathfrak m^rM$ と仮定すると、$x$ の $\mathfrak m^rM/\mathfrak m^{r+1}M$ での類は $g$ で $0$ になるので $0$ であり、$x\in\mathfrak m^{r+1}M$ である。帰納法により $x\in\bigcap_r\mathfrak m^rM\subset\bigcap_r\mathfrak n^rM$ であり、Krullの交叉定理 の 2 により $x=0$ である。
平坦性:完全列 $0\to M\xrightarrow{g}M\to M/gM\to0$ の Tor の長完全列(Tor関手)と $\operatorname{Tor}_1^A(k,M)=0$ から
$$
\operatorname{Tor}_1^A(k,M/gM)\cong\ker\bigl(g\colon M/\mathfrak mM\to M/\mathfrak mM\bigr)=0
$$
である。$M/gM$ は有限生成 $P$ 加群なので、局所平坦性判定 の系「有限加群についての局所平坦性判定」($I=\mathfrak m$)により $A$ 上平坦である。$\square$
任意の環 $A$ 上の標準滑らかな代数 $B$ は、$A$ 上平坦である。
$B=A[x_1,\dots,x_n]/(f_1,\dots,f_c)$ を標準 Jacobi 表示とする。
段 1($A$ が Noether 環の場合):$B$ の素イデアル $\mathfrak q$ をとり、$\mathfrak p:=\mathfrak q\cap A$、$Q'$ を $\mathfrak q$ の $A[x]$ での逆像とし、$P:=A[x]_{Q'}$ とおく。$P$ は Noether 局所環であり(Hilbertの基底定理)、$Q'\cap A=\mathfrak p$ なので $A_{\mathfrak p}\to P$ は局所準同型である。$A[x]$ は自由 $A$ 加群なので $A_{\mathfrak p}[x]$ は $A_{\mathfrak p}$ 上平坦であり、その局所化 $P$ も $A_{\mathfrak p}$ 上平坦である。閉ファイバーは $P/\mathfrak pP\cong\kappa(\mathfrak p)[x]_{\bar Q}$($\bar Q$ は $Q'$ の像)であり、$f_j$ の像はその極大イデアルに入り、$\Delta$ は $B$ の単元なので $\Delta\notin Q'$、すなわち $\bar\Delta\notin\bar Q$ である。lem-standard-smooth-field により、$f_1,\dots,f_c$ の像は $P/\mathfrak pP$ の正則列である。
$M_j:=P/(f_1,\dots,f_j)P$ とおく。$M_0=P$ は $A_{\mathfrak p}$ 上平坦で、$M_j/\mathfrak pM_j=(P/\mathfrak pP)/(f_1,\dots,f_j)$ の上で $f_{j+1}$ 倍は単射である。lem-standard-smooth-lifting を $A_{\mathfrak p}\to P$ に使うと $M_{j+1}=M_j/f_{j+1}M_j$ も平坦であり、帰納法により $M_c\cong B_{\mathfrak q}$ は $A_{\mathfrak p}$ 上平坦、したがって $A$ 上平坦である。
最後に $B$ 自身の平坦性を示す。$A$ 加群の単射 $N'\to N$ について、$N'\otimes_AB\to N\otimes_AB$ の核を $L$ とする。局所化は完全なので、$B$ の各素イデアル $\mathfrak q$ で $L_{\mathfrak q}$ は $N'\otimes_AB_{\mathfrak q}\to N\otimes_AB_{\mathfrak q}$ の核であり、$0$ である。$0$ でない $z\in L$ があれば、真のイデアル $\operatorname{Ann}_B(z)$ を含む極大イデアル $\mathfrak q$ で $z/1\ne0$ となって矛盾する。よって $L=0$ である。
段 2(一般の場合):$\Delta$ は $B$ の単元なので、$v,u_1,\dots,u_c\in A[x]$ で
$$
v\Delta+u_1f_1+\cdots+u_cf_c=1
$$
となるものがある。$f_j,v,u_j$ の係数をすべて含む、$\mathbb Z$ の像の上で有限生成な部分環を $A_0\subset A$ とする。$A_0$ は有限変数の多項式環 $\mathbb Z[t_1,\dots,t_N]$ の商なので Noether 環である(Hilbertの基底定理)。上の等式は $A_0[x]$ の中で成り立ち、$\Delta$ は $A_0[x]$ で計算しても同じなので、$B_0:=A_0[x]/(f_1,\dots,f_c)$ は $A_0$ 上の標準 Jacobi 表示であり、段 1 により $A_0$ 上平坦である。右完全性により $B\cong A\otimes_{A_0}B_0$ であり、$A$ 加群の単射 $N'\to N$ について $N'\otimes_AB\cong N'\otimes_{A_0}B_0$ だから、$A_0$ 加群の単射として $B_0$ とのテンソル積は単射である。よって $B$ は $A$ 上平坦である。$\square$
Stacks は同じ結論を、標準滑らかな代数が相対的な大域的完全交叉であること(Lemma 10.137.6 の (7)、Definition 10.136.5(Tag 00SP))と、それが平坦であること(Lemma 10.136.13(Tag 00SW))の 2 段で示している。
有限表示の形式的に滑らかな代数は各素イデアルの近傍で局所化を許した標準 Jacobi 表示をもつ(Jacobian判定法 の命題「局所標準表示の存在」)。上の証明の段 1 の最後の段落と同じく平坦性は局所で確かめられるので、Jacobian判定法 の系「有限表示形式的滑らか代数の平坦性」は、prop-standard-smooth-localized とこの定理から従う。ファイバーの幾何的正則性も同様に thm-standard-smooth-fibers から従う。
$a,b\in A$ とし、$2$ と $4a^3+27b^2$ が $A$ の単元であるとする。$F:=y^2-x^3-ax-b$、$B:=A[x,y]/(F)$ とおく。$A[x]$ の中の恒等式
$$
(27b-18ax)(x^3+ax+b)+(6ax^2-9bx+4a^2)(3x^2+a)=4a^3+27b^2
$$
は展開して確かめられる。$B$ では $x^3+ax+b=y^2=2y\cdot(y/2)$ なので、$2y$ と $3x^2+a$ は $B$ の単位イデアルを生成し、$\operatorname{Spec}B$ は 2 つの開集合 $D(2y)$、$D(3x^2+a)$ で覆われる。$B_{2y}=A[x,y]_{2y}/(F)$ では $\partial F/\partial y=2y$ が単元、$B_{3x^2+a}=A[x,y]_{3x^2+a}/(F)$ では $\partial F/\partial x=-(3x^2+a)$ が単元なので、prop-standard-smooth-localized により両方とも標準滑らかである。$B$ の各素イデアルでの局所化はどちらかの局所化なので平坦であり、thm-standard-smooth-flat の証明の段 1 の最後の段落と同じ議論により $B$ は $A$ 上平坦である。$A$ が標数 $2$ でない体のときは、$B$ は判別式が $0$ でない 楕円曲線 から無限遠点を除いたアフィン部分である。
次の表の各行は、定義の条件「$\Delta$ が $B$ の単元」だけを外すか弱めた例である。$k$ は体とする。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $\Delta$ が単元 | $A=k[t]$、$B=k[t][x]/(tx)$($\Delta=t$) | $B$ が $A$ 上平坦 |
| $\Delta$ が単元 | $A=k$、$B=k[x]/(x^2)$($\Delta=2x$) | ファイバーの局所環が正則 |
| $\Delta$ が単元を「$\Omega_{B/A}$ が自由」に弱める | 標数 $p>0$、$A=k$、$B=k[x]/(x^p)$ | $B$ が正則・形式的に滑らか |
| $\Delta$ が単元を「$B$ が正則」に弱める | $k=\mathbb F_p(s)$、$B=k[u]/(u^p-s)$ | $B$ が $k$ 上幾何的に正則 |
1 行目:$t$ 倍 $A\to A$ は単射だが、$B$ の中で $t\cdot x=0$、$x\ne0$ なので、これに $B$ をテンソルした $t$ 倍 $B\to B$ は単射でない。よって $B$ は平坦でない。
2 行目:$B$ は極大イデアル $(x)\ne0$ をもつ $0$ 次元の局所環なので、正則局所環 の定義「正則局所環と正則パラメータ系」により正則でない。
3 行目:$d(x^p)=px^{p-1}dx=0$ なので $\Omega_{B/k}=B\,dx$ は自由であるが、$B$ は $0$ 次元で極大イデアルが $0$ でないので正則でなく、形式的にも滑らかでない(Jacobian判定法 の例「反例:微分加群の自由性だけでは不十分」)。
4 行目:$B$ は体なので正則であるが、$B\otimes_kB\cong B[X]/((X-u)^p)$ は冪零元 $X-u$ をもち、正則でない(幾何的正則性 の例「正則な体が幾何的に正則でない反例」)。thm-standard-smooth-fibers により、$B$ は $k$ 上標準滑らかでない。
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