整列順序

概要

整列順序(Well-order)とは、全順序集合の中でも特に構造が強く、「空でない任意の部分集合が必ず最小元を持つ」という性質を満たす順序のことである。これは自然数 $\mathbb{N}$ が持つ性質を一般化したものであり、数学的帰納法を無限の彼方まで拡張した「超限帰納法」を適用するための基礎となる。すべての順序数(Ordinal number)は整列順序集合であり、また選択公理を仮定すれば、どのような集合にも整列順序を入れることが可能である(整列可能定理)。

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定義

集合 $X$ とその上の全順序関係 $\le$ の組 $(X, \le)$整列順序集合(Well-ordered set)であるとは、以下の条件を満たすことをいう。

整列順序の定義

$X$ の空でない任意の部分集合 $A$ に対して、$A$最小元が存在する。
$$\forall A \subseteq X, (A \neq \emptyset \implies \exists m \in A \text{ s.t. } \forall x \in A, m \le x)$$

この定義は一見シンプルだが、非常に強力な制約を含んでいる。

  1. 最小元の存在: 全体 $X$ 自身も部分集合なので、$X$ 全体にも最小元(始点)が存在しなければならない。
  2. 無限降下列の禁止: $x_1 > x_2 > x_3 > \dots$ のように、無限に小さくなり続ける点列は存在し得ない(もし存在すれば、その点列の集合は最小元を持たないため)。

直感的理解と具体例

「全順序(一直線に並ぶ)」であることと、「整列順序(最小元を持つ)」であることの違いは、具体例を見ると明確になる。

整列順序である例
  • 自然数 $\mathbb{N} = \{0, 1, 2, \dots\}$:
    どのような部分集合(例えば「偶数全体」「100より大きい素数」など)をとっても、必ず「一番小さい数」が存在する。これが整列順序の原型である。
  • 有限な全順序集合:
    有限個の要素を一列に並べれば、必ず最小元があるため、常に整列順序である。
  • 順序数 $\omega + 1 = \{0, 1, 2, \dots, \omega\}$:
    自然数の列の後ろに無限大 $\omega$ を一つ付けたもの。これも任意の部分集合が最小元を持つ。
整列順序ではない全順序の例
  • 整数 $\mathbb{Z} = \{\dots, -2, -1, 0, 1, 2, \dots\}$:
    全順序だが整列順序ではない。
    理由:$\mathbb{Z}$ 自身(あるいは負の整数全体)が最小元を持たない(いくらでも小さい数が存在する)。
  • 正の実数 $\mathbb{R}_{>0} = (0, \infty)$:
    下に有界だが整列順序ではない。
    理由:開区間 $(0, 1)$ という部分集合をとると、これに含まれる最小の実数は存在しない(どんなに小さい数をとっても、さらに小さい数が存在する)。

数学的意義:帰納法への足場

整列順序が重要視される最大の理由は、超限帰納法(Transfinite Induction)が可能になるからである。
通常の数学的帰納法は「$0$ が成立」「$n$ が成立すれば $n+1$ も成立」というドミノ倒しだが、これは「次(Successor)」が定義できる自然数のような構造に依存している。
整列順序集合においては、「最小元がある」という性質を使うことで、これを一般の順序構造まで拡張できる。

  • 直観: 「反例が存在するなら、その中の最小の反例をとる」という論法(無限降下法)が使える。もし最小の反例が矛盾を生まないなら、そもそも反例は存在しないことになる。

整列可能定理

整列順序に関して、直観に反する驚くべき定理がある。

整列可能定理 (Zermelo's well-ordering theorem)

任意の集合 $X$ に対して、適切な順序 $\le$ を定義すれば、$(X, \le)$ を整列順序集合にすることができる。

これは選択公理(またはZornの補題)と同値である。

  • 実数の整列化: この定理によれば、実数全体の集合 $\mathbb{R}$ にも整列順序を入れることができる。しかし、それは通常の大小関係 $\le$ とは全く異なる順序であり、具体的にどのような順序か書き下すことは人類には不可能である(非構成的証明)。

順序の階層構造

順序構造の制約の強さは以下の通りである。

順序の強さ

整列順序 $\subset$ 全順序 $\subset$ 半順序

  1. 半順序: 分岐や合流がある(比較不能あり)。
  2. 全順序: 一直線に並ぶ(比較不能なし)。
  3. 整列順序: 一直線に並び、かつ始点があり、無限に降下しない(離散的なステップの積み重ねに見える)。

関連項目