複素空間の被約化(reduction of a complex space)とは、複素空間 $X$ の構造層を、各点で冪零な芽のなすイデアルの層 $\mathcal{N}_X$ で割って得られる、同じ台の被約な複素空間 $X_{\mathrm{red}}$ のことである。$\mathcal{N}_X$ はすべての点で値が $0$ になる芽の層にほかならず、$X_{\mathrm{red}}$ の正則関数は値で決まり、被約な空間からの正則写像はただ 1 通りに $X_{\mathrm{red}}$ を経由する。$X$ が Stein であることは $X_{\mathrm{red}}$ が Stein であることと同値で、そのとき $X_{\mathrm{red}}$ 上の正則関数はすべて $X$ 上の正則関数に持ち上がる。
前提知識: 複素解析空間, 冪零根基, Rückertの零点定理, 連接層, Stein空間
複素解析空間(複素空間)は構造層に冪零元を許すので、同じ点集合の上に「厚み」の違う空間がいくつも載る。たとえば $\mathbb{C}^2$ の中の $\{w=0\}$ と $\{w^2=0\}$ は同じ直線を台にもつが、後者の構造層は直線の法線方向の 1 次の無限小を覚えている。被約化 は、この厚みを取り除いて、正則関数が値だけで決まる空間を作る操作である。各点で冪零な芽は構造層のイデアルの層 $\mathcal{N}_X$ をなし、商 $X_{\mathrm{red}}=(X,\mathcal{O}_X/\mathcal{N}_X)$ が $X$ の被約化である。
この記事では、$\mathcal{N}_X$ がちょうど「すべての点で値が $0$ になる芽」の層であること(prop-csr-values)、被約な空間からの正則写像が被約化をただ 1 通りに経由すること(thm-csr-universal)、非被約点と非正規点の集合の関係(prop-csr-loci)を示す。主定理は、$X$ が Stein であることと $X_{\mathrm{red}}$ が Stein であることが同値で、そのとき $X$ 上の正則関数が $X_{\mathrm{red}}$ 上の正則関数をすべて持ち上げることである(thm-csr-stein)。スキームの場合の同じ構成は 被約スキーム にある。
この記事で 複素空間 とは、複素解析空間 の定義「複素解析空間と正則写像」の意味の複素解析空間(Hausdorff で第 2 可算公理を満たし、各点が局所模型と同型な近傍をもつ局所環付き空間)をいい、正則写像も同じ記事の意味とする。開集合 $U$ 上の正則関数 $s\in\mathcal{O}_X(U)$ の点 $x$ での値 $s(x)\in\mathbb{C}$ は、芽 $s_x$ の剰余体 $\mathcal{O}_{X,x}/\mathfrak{m}_x=\mathbb{C}$ での像である。環 $R$ の冪零元の全体を $\operatorname{nil}(R)$ と書く(冪零根基)。
$X$ を複素空間とする。開集合 $U\subset X$ に対し
$$
\mathcal{N}_X(U):=\{s\in\mathcal{O}_X(U)\mid \text{すべての }x\in U\text{ で芽 }s_x\text{ が冪零}\}
$$
とおく。$s_x^k=0$ なら $x$ のある近傍の上で $s^k=0$ となり、その近傍の各点で $s$ の芽は冪零である。したがって $\mathcal{N}_X$ は $\mathcal{O}_X$ のイデアルの層で、茎は $\mathcal{N}_{X,x}=\operatorname{nil}(\mathcal{O}_{X,x})$ である。これを $X$ の 冪零元の層 という。
$\mathcal{O}_{X_{\mathrm{red}},x}=\mathcal{O}_{X,x}/\operatorname{nil}(\mathcal{O}_{X,x})$ は局所環で、剰余体は $\mathbb{C}$ のままである。$X_{\mathrm{red}}$ が複素空間であることは次の定理による。
複素空間 $X$ の冪零元の層 $\mathcal{N}_X$ は連接である。したがって $X_{\mathrm{red}}$ は $X$ と同じ台をもつ $X$ の閉解析的部分空間(複素解析空間 の意味)であり、とくに複素空間である。また $N(X)$ は $X$ の解析的部分集合である。
これは H. Cartan と岡潔(Kiyoshi Oka)による基本定理で、この記事では証明しない(主張は GR79 第 A 章 §3.7、p. 20。証明の文献は 複素解析空間 の注意「出典と帰結」が挙げる)。局所模型 $V=V(f_1,\dots,f_r)\subset D$、$\mathcal{O}_V=(\mathcal{O}_D/\mathcal{J})|_V$($\mathcal{J}=(f_1,\dots,f_r)\mathcal{O}_D$)の上では、$V$ 上で消える芽のイデアル層を $\mathcal{I}_V$ とすると $\mathcal{N}_V=(\mathcal{I}_V/\mathcal{J})|_V$ である(prop-csr-values の証明)。よって $V_{\mathrm{red}}=(V,(\mathcal{O}_D/\mathcal{I}_V)|_V)$ は台 $V$ に被約な構造を入れたもので、定理の中身は $\mathcal{I}_V$ の連接性(Cartan)である(複素解析空間 の注意「出典と帰結」)。
正則関数は各点で値をもつが、被約でない空間では値だけでは関数が決まらない。2 重点 $\{w^2=0\}\subset\mathbb{C}$ の関数 $a+b\varepsilon$($\varepsilon^2=0$)の値は $a$ だけで、$b$ は「点から出る方向の 1 次の変化」を記録する。被約化はこの $b$ を忘れ、関数を値の関数(連続関数)として見る(prop-csr-values)。被約でない空間は、ファイバー・交叉・変形を扱うと避けられないが、点集合や位相、正則凸性のように値だけで決まる性質は $X$ と $X_{\mathrm{red}}$ で変わらない。
Stein 性は層のコホモロジーの消滅(Cartanの定理A・B)で特徴づけられる性質で、一見すると冪零元の情報に左右されそうに見える。しかし $X_{\mathrm{red}}$ が Stein なら、冪零元のつくるフィルトレーション $\mathcal{N}_X\supset\mathcal{N}_X^2\supset\cdots$ の各段の商が $X_{\mathrm{red}}$ 上の連接層になり、定理 B で 1 段ずつ関数を持ち上げられる。このため Stein 性は被約化だけで判定できる(thm-csr-stein)。
$\mathbb{C}^2$ の座標を $(z,w)$ とする。
$n\ge2$ について $X_n$ を $n$ 重点 $V(w^n)\subset\mathbb{C}$(1 点に構造層 $\mathbb{C}[\varepsilon]/(\varepsilon^n)$ を載せたもの)とし、$X:=\coprod_{n\ge2}X_n$ を可算個の互いに交わらない開部分空間の和とする。$\mathcal{O}(X)=\prod_{n\ge2}\mathbb{C}[\varepsilon]/(\varepsilon^n)$ であり、$s:=(\varepsilon,\varepsilon,\dots)$ は各点で芽が冪零なので $s\in\Gamma(X,\mathcal{N}_X)$ である。しかし $m\ge1$ について $s^m$ の $X_{m+1}$ の成分は $\varepsilon^m\ne0$ なので、$s$ は環 $\mathcal{O}(X)$ の冪零元ではない。したがって $\Gamma(X,\mathcal{N}_X)\ne\operatorname{nil}(\mathcal{O}(X))$ である。
$X$ がコンパクトなら $\Gamma(X,\mathcal{N}_X)=\operatorname{nil}(\mathcal{O}(X))$ である。実際、$\supset$ は明らかで、$s\in\Gamma(X,\mathcal{N}_X)$ なら各点 $x$ の近傍 $U_x$ で $s^{k_x}=0$ となり、有限個の $U_{x_1},\dots,U_{x_m}$ が $X$ を覆うので $k:=\max_ik_{x_i}$ について $s^k=0$ である。ex-csr-global-nilpotent はコンパクト性を外すとこれが崩れることを示す。
$Y:=\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$、$U_1:=\{z_1\ne0\}$、$U_2:=\{z_2\ne0\}$、$U_{12}:=U_1\cap U_2$ とし、$h:=1/(z_1z_2)\in\mathcal{O}(U_{12})$ とおく。2 重点 $D_2$ との積 $U_i\times D_2$ の構造層は $\mathcal{O}_{U_i}\oplus\varepsilon\,\mathcal{O}_{U_i}$($\varepsilon^2=0$)である。$U_{12}\times D_2$ の構造層の自己同型を
$$
\theta(f+\varepsilon g):=f+\varepsilon\Bigl(g+h\,\frac{\partial f}{\partial z_1}\Bigr)
$$
で定める。積を保つことは Leibniz 則 $\partial(ff')/\partial z_1=f\,\partial f'/\partial z_1+f'\,\partial f/\partial z_1$ からわかる。$U_1\times D_2$ と $U_2\times D_2$ を $U_{12}$ の上で $\theta$ によって貼り合わせた複素空間を $X$ とする。台は $Y$ で、$X_{\mathrm{red}}=Y$ である。
$X$ の大域正則関数は、$U_i$ 上の $f_i+\varepsilon g_i$ の組で、$U_{12}$ の上で $f_2+\varepsilon g_2=\theta(f_1+\varepsilon g_1)$ となるもの、すなわち $f_1=f_2=:f$、$g_2-g_1=h\,\partial f/\partial z_1$ を満たすものである。$f=z_1\in\mathcal{O}(Y)$ が持ち上がるなら $g_2-g_1=1/(z_1z_2)$ となるが、Stein空間 の命題「原点を除いた $\mathbb{C}^2$ の正則関数と第 1 コホモロジー」の証明の 3 と同じく、$\mathcal{O}(U_1)$ の元の Laurent 展開は $z_2$ の負冪を、$\mathcal{O}(U_2)$ の元は $z_1$ の負冪を含まないので、差に $z_1^{-1}z_2^{-1}$ の項は現れない。よって $\rho_X^\sharp\colon\mathcal{O}(X)\to\mathcal{O}(X_{\mathrm{red}})$ は全射でない。$Y$ は Stein でないので、thm-csr-stein とは矛盾しない。
$X$ を複素空間、$U\subset X$ を開集合、$s\in\mathcal{O}_X(U)$ とする。
要点:冪零な芽の値は $0$ である。逆は、局所模型で値が $0$ の関数に Rückertの零点定理 を当てる。
1:$s_x^k=0$ なら剰余体で $s(x)^k=0$ なので $s(x)=0$ である。逆に、$U$ の上で値がすべて $0$ だとし、$x\in U$ をとる。$x$ の近傍を局所模型 $V=V(f_1,\dots,f_r)\subset D$ と同一視し、$s$ を $x$ の近くで $D$ 上の正則関数 $g$ の類として表す。$s$ の $y\in V$ での値は $g(y)$ なので、$g$ は $x$ の近くで $V$ の上で $0$ である。Rückertの零点定理 の定理「Rückert の零点定理」により、ある $k$ で $g_x^k\in(f_1,\dots,f_r)\mathcal{O}_{D,x}$ となり、$s_x^k=0$ である。
2:値をとる写像は $\mathbb{C}$ 代数の層の準同型で、1 によりその核は $\mathcal{N}_X$ である。$\mathcal{N}_{X,x}\subset\mathfrak{m}_x$ なので $\mathcal{O}_{X_{\mathrm{red}},x}$ の剰余体も同じ $\mathbb{C}$ で、$s$ と $\rho_X^\sharp(s)$ の値は一致する。3 は 2 から従う。$\square$
1 の証明で示したことを局所模型で言い直すと、$\mathcal{N}_V=(\mathcal{I}_V/\mathcal{J})|_V$ である(rem-csr-cartan-source)。
$X$ を複素空間、$T$ を被約な複素空間、$\varphi\colon T\to X$ を正則写像とする。このとき $\rho_X\circ\psi=\varphi$ となる正則写像 $\psi\colon T\to X_{\mathrm{red}}$ がただ 1 つ存在する。
$$
\xymatrix{
T \ar@{.>}[r]^-{\psi} \ar[dr]_{\varphi} & X_{\mathrm{red}} \ar[d]^{\rho_X} \\
& X
}
$$
要点:$T$ は被約なので $\varphi^\sharp$ は冪零な芽を $0$ に送り、商層 $\mathcal{O}_X/\mathcal{N}_X$ を経由する。一意性は $\rho_X^\sharp$ が茎ごとに全射であることによる。
存在。$\rho_X$ は位相空間の恒等写像なので、$\psi$ の位相空間の写像は $\varphi$ とする。$s\in\mathcal{N}_X(U)$ について、$\varphi^\sharp(s)\in\mathcal{O}_T(\varphi^{-1}(U))$ の点 $t$ での芽は $\varphi^\sharp_t(s_{\varphi(t)})$ で、$s_{\varphi(t)}$ は冪零なのでこれも冪零であり、$T$ は被約なので $0$ である。芽がすべて $0$ なので $\varphi^\sharp(s)=0$ である。よって $\varphi^\sharp\colon\mathcal{O}_X\to\varphi_*\mathcal{O}_T$ は $\mathcal{N}_X$ を $0$ に送り、商層の普遍性により $\psi^\sharp\colon\mathcal{O}_X/\mathcal{N}_X\to\varphi_*\mathcal{O}_T$ で $\psi^\sharp\circ\rho_X^\sharp=\varphi^\sharp$ となるものが一意に定まる。茎の写像について $\varphi^\sharp_t=\psi^\sharp_t\circ\rho^\sharp_{X,x}$($x=\varphi(t)$)であり、$\rho^\sharp_{X,x}$ は全射で $\mathfrak{m}_x$ を極大イデアルの上へ写すので、$(\psi^\sharp_t)^{-1}(\mathfrak{m}_t)=\rho^\sharp_{X,x}\bigl((\varphi^\sharp_t)^{-1}(\mathfrak{m}_t)\bigr)=\rho^\sharp_{X,x}(\mathfrak{m}_x)$ は $\mathcal{O}_{X_{\mathrm{red}},x}$ の極大イデアルである。よって $\psi^\sharp_t$ は局所準同型で、$\psi=(\varphi,\psi^\sharp)$ は正則写像である。
一意性。$\psi'$ も $\rho_X\circ\psi'=\varphi$ を満たせば、位相空間の写像は $\varphi$ に等しく、$\psi'^\sharp\circ\rho_X^\sharp=\varphi^\sharp=\psi^\sharp\circ\rho_X^\sharp$ である。$\rho_X^\sharp$ は各茎で全射なので $\psi'^\sharp$ と $\psi^\sharp$ の茎はすべて一致し、層の射は茎で決まるので $\psi'^\sharp=\psi^\sharp$ である。$\square$
正則写像 $\varphi\colon X\to Y$ に対し、$\rho_Y\circ\varphi_{\mathrm{red}}=\varphi\circ\rho_X$ となる正則写像 $\varphi_{\mathrm{red}}\colon X_{\mathrm{red}}\to Y_{\mathrm{red}}$ がただ 1 つあり、その位相空間の写像は $\varphi$ と同じである。$(\mathrm{id}_X)_{\mathrm{red}}=\mathrm{id}$、正則写像 $\eta\colon Y\to Z$ について $(\eta\circ\varphi)_{\mathrm{red}}=\eta_{\mathrm{red}}\circ\varphi_{\mathrm{red}}$ が成り立ち、$(X_{\mathrm{red}})_{\mathrm{red}}=X_{\mathrm{red}}$ である。また $X$ が被約であることと $\rho_X$ が同型であることは同値である。
要点:$X_{\mathrm{red}}$ は被約なので thm-csr-universal を $\varphi\circ\rho_X$ に当て、残りは一意性から従う。
$\mathcal{O}_{X_{\mathrm{red}},x}=\mathcal{O}_{X,x}/\operatorname{nil}(\mathcal{O}_{X,x})$ は被約環なので $X_{\mathrm{red}}$ は被約であり、thm-csr-universal を $T=X_{\mathrm{red}}$、正則写像 $\varphi\circ\rho_X\colon X_{\mathrm{red}}\to Y$ に当てれば $\varphi_{\mathrm{red}}$ がただ 1 つ得られ、その位相空間の写像は $\varphi$ である。恒等写像と合成の規則は、両辺が同じ条件を満たすことと一意性による。被約環の冪零根基は $0$ なので $\mathcal{N}_{X_{\mathrm{red}}}=0$、すなわち $(X_{\mathrm{red}})_{\mathrm{red}}=X_{\mathrm{red}}$ である。最後に、$\rho_X$ が同型なら $\mathcal{O}_X\cong\mathcal{O}_{X_{\mathrm{red}}}$ の茎は被約で、逆に $\mathcal{N}_X=0$ なら $\rho_X^\sharp$ は層の同型である。$\square$
点 $x$ で $\mathcal{O}_{X,x}$ が被約で、その全商環の中で整閉(正規環)であるとき、$X$ は $x$ で 正規 であるという(GR79 第 A 章 §3.8、p. 21)。正規でない点の全体を $NN(X)$ と書く。
複素空間 $X$ について $NN(X)=N(X)\cup NN(X_{\mathrm{red}})$ である。とくに、$X$ が被約で $X_{\mathrm{red}}$ が正規なら $X$ は正規である。
$x\in N(X)$ なら $\mathcal{O}_{X,x}$ は被約でないので $x\in NN(X)$ である。$x\notin N(X)$ なら $\mathcal{N}_{X,x}=0$ なので $\rho^\sharp_{X,x}\colon\mathcal{O}_{X,x}\to\mathcal{O}_{X_{\mathrm{red}},x}$ は同型であり、$x$ で $X$ が正規であることと $X_{\mathrm{red}}$ が正規であることは同値である。2 つを合わせると等式が得られる。後半は $N(X)=\emptyset$ の場合である。$\square$
2 重直線 $L_2$(ex-csr-double-line の 1)では $(L_2)_{\mathrm{red}}=\mathbb{C}$ は正規だが $NN(L_2)=N(L_2)=L_2$ であり、prop-csr-loci の後半で被約性を外せないことがわかる。
複素空間 $X$ のコンパクト集合 $K$ の正則凸包 $\widehat K_X$ と、正則凸性・Stein 性は Stein空間 の定義「正則凸包と正則凸性」「Stein 空間」の意味とする。正則凸包は大域正則関数の値だけを使って定義されている。
$X$ を複素空間とする。
$\mathcal{N}:=\mathcal{N}_X$ と書き、$i\ge1$ について $\mathcal{O}_i:=\mathcal{O}_X/\mathcal{N}^i$ とおく($\mathcal{N}^i$ は $\mathcal{N}$ の切断の $i$ 個の積が局所的に生成するイデアルの層)。$\mathcal{O}_1=\mathcal{O}_{X_{\mathrm{red}}}$ である。
段 1(各段の商)。$\mathcal{N}$ は連接で(thm-csr-cartan)局所的に有限個の切断で生成されるので、$\mathcal{N}^i$ もその積で局所的に有限生成であり、連接層 $\mathcal{O}_X$ の有限型の部分層として連接である。自然な全射 $\varepsilon_i\colon\mathcal{O}_{i+1}\to\mathcal{O}_i$ の核 $\mathcal{G}_i:=\mathcal{N}^i/\mathcal{N}^{i+1}$ は連接な $\mathcal{O}_X$ 加群で、$\mathcal{N}$ を掛けると $0$ になる。$\mathcal{O}_X^{\oplus p}\to\mathcal{O}_X^{\oplus q}\to\mathcal{G}_i\to0$ を局所的な表示とすると、$\mathcal{N}$ による商をとって $\mathcal{O}_1^{\oplus p}\to\mathcal{O}_1^{\oplus q}\to\mathcal{G}_i/\mathcal{N}\mathcal{G}_i=\mathcal{G}_i\to0$ が得られるので、$\mathcal{G}_i$ は $X_{\mathrm{red}}$ 上の連接層でもある。層コホモロジーは台の位相空間と Abel 群の層だけで決まるので、$H^1(X,\mathcal{G}_i)$ は $X_{\mathrm{red}}$ 上の連接層のコホモロジーである。
段 2(1 の証明)。$X_{\mathrm{red}}$ が Stein なら、Cartan の定理 B(Stein空間 の定理「Cartan の定理 A・B」)により $H^1(X,\mathcal{G}_i)=0$ で、短完全列 $0\to\mathcal{G}_i\to\mathcal{O}_{i+1}\to\mathcal{O}_i\to0$ の長完全列から $\Gamma(X,\mathcal{O}_{i+1})\to\Gamma(X,\mathcal{O}_i)$ は全射である。$h_1\in\mathcal{O}(X_{\mathrm{red}})=\Gamma(X,\mathcal{O}_1)$ が与えられたら、$\varepsilon_i(h_{i+1})=h_i$ となる $h_i\in\Gamma(X,\mathcal{O}_i)$ を順に選ぶ。
$X_i:=\{x\in X\mid(\mathcal{N}^i)_x=0\}$ とおく。連接層の茎が $0$ なら、近傍の生成元がその近傍で $0$ になるので、$X_i$ は開集合で、$X_1\subset X_2\subset\cdots$ である。各 $x$ で $\mathcal{N}_x$ は Noether 環 $\mathcal{O}_{X,x}$ の有限生成なイデアルで、生成元がすべて冪零なので、ある $i$ で $(\mathcal{N}_x)^i=(\mathcal{N}^i)_x=0$ となり、$\bigcup_iX_i=X$ である。$X_i$ の上では $\mathcal{N}^i=\mathcal{N}^{i+1}=0$ なので $\mathcal{O}_i=\mathcal{O}_{i+1}=\mathcal{O}_X$ であり、$\varepsilon_i$ は恒等写像である。よって $h_{i+1}|_{X_i}=h_i|_{X_i}$ が $\mathcal{O}_X(X_i)$ の元として成り立ち、$h|_{X_i}=h_i|_{X_i}$ となる $h\in\mathcal{O}(X)$ が貼り合わせで定まる。$\rho_X^\sharp=\varepsilon_1\circ\cdots\circ\varepsilon_{i-1}\circ(\mathcal{O}_X\to\mathcal{O}_i)$ なので、$X_i$ の上で $\rho_X^\sharp(h)=\varepsilon_1\cdots\varepsilon_{i-1}(h_i)=h_1$ であり、$i$ を動かして $\rho_X^\sharp(h)=h_1$ を得る。
段 3(2 の証明)。prop-csr-values の 2 により、$f\in\mathcal{O}(X)$ と $\rho_X^\sharp(f)$ は同じ値の関数を定める。したがって、$\mathcal{O}(X)$ の関数の値の関数の全体 $A_X$ と、$\mathcal{O}(X_{\mathrm{red}})$ の関数の値の関数の全体 $A_{\mathrm{red}}$ について $A_X\subset A_{\mathrm{red}}$ であり、$\rho_X^\sharp$ が全射なら $A_X=A_{\mathrm{red}}$ である。正則凸包と点の分離は値の関数の族だけで決まり、族が大きいほど凸包は小さく、分離はしやすい。
$X$ が Stein なら、$\widehat K_{X_{\mathrm{red}}}\subset\widehat K_X$ はコンパクトな集合の閉部分集合なのでコンパクトで、$X$ で点を分離する関数の値は $A_{\mathrm{red}}$ にも属する。よって rem-csr-criterion により $X_{\mathrm{red}}$ は Stein である。逆に $X_{\mathrm{red}}$ が Stein なら、1 により $A_X=A_{\mathrm{red}}$ なので、$X$ は $X_{\mathrm{red}}$ と同じく正則凸で点を分離し、rem-csr-criterion により Stein である。$\square$
段 2 の議論は、$H^1(X,\mathcal{N}^i/\mathcal{N}^{i+1})=0$ がすべての $i$ で成り立てば、Stein 性を仮定しなくても $\rho_X^\sharp$ が全射になることを示している(GR79 第 V 章 §4.3、p. 154 の注意)。ex-csr-no-lift では $X_{\mathrm{red}}=\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$ で $H^1(X_{\mathrm{red}},\mathcal{O})\ne0$ であり($\mathcal{N}_X=\varepsilon\,\mathcal{O}_Y\cong\mathcal{O}_Y$)、実際に全射性が崩れている。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $T$ が被約 | $T=X=D_2$(2 重点)、$\varphi=\mathrm{id}$ | 被約化を経由すること(thm-csr-universal) |
| $X_{\mathrm{red}}$ が Stein | ex-csr-no-lift の $X$ | $\mathcal{O}(X)\to\mathcal{O}(X_{\mathrm{red}})$ の全射性(thm-csr-stein の 1) |
| $X$ がコンパクト | ex-csr-global-nilpotent の $X$ | 芽がすべて冪零な大域切断は冪零(rem-csr-compact) |
| $X$ が被約 | 2 重直線 $L_2$ | $X_{\mathrm{red}}$ が正規なら $X$ も正規(prop-csr-loci) |
1 行目:$D_2$ の構造層は $\mathbb{C}[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$、$(D_2)_{\mathrm{red}}$ は 1 点 $(\{0\},\mathbb{C})$ である。$\rho\circ\psi=\mathrm{id}$ なら、構造層の上で $\mathrm{id}=\psi^\sharp\circ\rho^\sharp$ は $\mathbb{C}[\varepsilon]/(\varepsilon^2)\to\mathbb{C}\to\mathbb{C}[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ と分解し、$\varepsilon$ を $0$ に送ってしまう。$D_2$ は被約でないので、thm-csr-universal の仮定のうち $T$ の被約性だけが破れている。
2 行目:ex-csr-no-lift で示した。3 行目:ex-csr-global-nilpotent で示した。$X$ は離散で、コンパクトでないことだけが rem-csr-compact の仮定から外れている。4 行目:ex-csr-double-line の 1 と prop-csr-loci の後の段落で示した。
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