Morse理論(Morse theory)とは、多様体の上の Morse 関数の臨界点の個数と指数から、多様体の位相を調べる理論である。劣位集合 $\{f\le a\}$ は臨界値を越えないあいだ形を変えず、指数 $\lambda$ の臨界点を越えるたびに $\lambda$ ハンドルが 1 つ付く。ここから、指数 $\lambda$ の臨界点の個数 $c_\lambda$ と Betti 数 $b_\lambda$ の間の Morse の不等式 $c_\lambda\ge b_\lambda$ と、その交代和の形の強い不等式が導かれ、交代和は Euler 標数の等式で閉じる。応用として、隣り合う指数の臨界点がない関数から複素射影空間のホモロジーが求まり、臨界点が 2 個の閉多様体は球面と同相になる(Reeb の定理)。
前提知識: Morse関数, ハンドル分解, 相対ホモロジーと長完全列, Betti数
Morse 理論(Morse theory)は、多様体の上の関数の臨界点を手がかりにして、多様体そのものの形(位相)を調べる理論である。閉じた多様体 $M$ の上の Morse関数 $f$ を山の高さと思い、水位 $a$ を下から上げていって、水に沈んだ部分 $M^a=\{f\le a\}$ がどう変わるかを見る。水位が臨界値を通らないあいだ $M^a$ の形は変わらず、指数 $\lambda$ の臨界点を通るたびに $\lambda$ 次元のハンドルが 1 つ付く。こうして多様体は臨界点の個数と指数から組み立てられる。
Morse 理論には 2 本の柱がある。第 1 の柱は 臨界値を越えるときのハンドル付け であり、ハンドル分解 の記事で証明されている。第 2 の柱は、臨界点の個数と Betti数 を結ぶ Morse の不等式 である。たとえば指数 $\lambda$ の臨界点の個数 $c_\lambda$ は、つねに $\lambda$ 次の Betti 数 $b_\lambda$ 以上である。この記事では、第 1 の柱を道具として Morse の不等式を多項式の恒等式の形で証明し、複素射影空間のホモロジーの計算と、臨界点が 2 個だけの閉多様体は球面と同相であるという Reeb の定理に応用する。
関数の極大・極小・鞍点の個数と図形の形の関係は、高校の 関数の増減と極値 や大学の 極値 で扱った話題の、多様体の上での大域版にあたる。
この記事では、多様体は Hausdorff かつ第 2 可算で、「滑らか」は $C^\infty$ 級を指す。閉多様体 とは、境界のないコンパクトな多様体のことである。$M$ を $n$ 次元($n\ge1$)の閉多様体、$f\colon M\to\mathbb{R}$ を Morse 関数とし、
$$
M^a:=f^{-1}\bigl((-\infty,a]\bigr)
$$
と書く。臨界点・非退化臨界点・指数は Morse関数 の定義「非退化臨界点・指数・Morse関数」の意味である。非退化臨界点は孤立するので(Morse関数 の系「非退化臨界点は孤立する」)、コンパクトな $M$ の上の Morse 関数の臨界点は有限個である。ホモロジーは特異ホモロジーで、$F$ は体とする。
$F=\mathbb{Q}$ のときが通常の Betti 数である(Betti数 の定理「Betti 数の言い換え」)。係数を $\mathbb{Z}/2$ にとると、より強い結論が得られることがある(ex-mt-rpn)。
劣位集合の形は臨界値でしか変わらず、変わり方は臨界点の指数で決まる。
$f$ を多様体 $M$ の上の滑らかな関数とする。
1 は ハンドル分解 の定理「臨界点のない区間」、2 は同じ記事の定理「臨界点を越える」で証明されている。
閉多様体の上の Morse 関数に 1・2 を繰り返し使うと、$M$ は、空集合から始めて、指数 $\lambda$ の臨界点 1 つにつき $\lambda$ ハンドルを 1 つずつ付けて得られる(ハンドル分解 の定理「ハンドル分解の存在」)。ホモトピー型の言葉では、$M^{c+\varepsilon}$ は $M^{c-\varepsilon}$ に $\lambda$ 次元の胞体を 1 つ貼り付けた空間とホモトピー同値であり、$M$ は指数 $\lambda$ の臨界点ごとに $\lambda$ 胞体を 1 つもつ CW複体 とホモトピー同値になる(Mil63 Theorem 3.2、p. 14、Theorem 3.5、p. 20。この記事では証明しない)。
ハンドル分解 の補題「ハンドルの相対ホモロジー」を体係数の形にしておく。
$N$ をコンパクトな境界付き多様体、$\lambda\ge1$、$X:=N\cup_{\hat h}H^\lambda$ を $N$ に $\lambda$ ハンドルを付けた多様体、$K\subset X$ を太い余芯の像とし、$A:=X\setminus K$ とおく。$\lambda=0$ のときは $X:=N\sqcup D^n$、$A:=N$ とおく。このとき、すべての $k$ について
$$
H_k(A;F)\cong H_k(N;F),\qquad H_k(X,A;F)\cong\begin{cases}F&(k=\lambda)\\0&(k\ne\lambda)\end{cases}
$$
が成り立つ。
$\lambda=0$ なら $A=N$ で、1 つめは明らかである。$\lambda\ge1$ なら、ハンドル分解 の補題「ハンドルの相対ホモロジー」の 1 により、$A$ は $N\setminus\hat h(S_\lambda)$ と同相で、包含写像 $N\setminus\hat h(S_\lambda)\to N$ はホモトピー同値である。ホモトピー同値写像は任意の係数のホモロジーに同型を引き起こす(Hat02 Corollary 2.11、p. 111。係数付きのホモロジーでも同じ証明で成り立つことは p. 153)ので、1 つめの同型を得る。
2 つめについて、同じ補題の 2($\lambda=0$ の場合は補題の後半)により、整数係数の相対ホモロジー $H_k(X,A;\mathbb{Z})$ は $k=\lambda$ で $\mathbb{Z}$、それ以外で $0$ であり、どれも自由なので、普遍係数定理(Hat02 Corollary 3A.4、p. 264)により $H_k(X,A;F)\cong H_k(X,A;\mathbb{Z})\otimes F$ となる。
普遍係数定理は、各 $k$ について分裂する完全列 $0\to H_k(X,A;\mathbb{Z})\otimes F\to H_k(X,A;F)\to\operatorname{Tor}\bigl(H_{k-1}(X,A;\mathbb{Z}),F\bigr)\to0$ を与える。$H_{k-1}(X,A;\mathbb{Z})$ は $0$ か $\mathbb{Z}$ で、どちらも自由なので $\operatorname{Tor}$ の項は $0$ である。よって $H_k(X,A;F)$ は $k=\lambda$ で $\mathbb{Z}\otimes F=F$、それ以外で $0$ である。$\square$
Morse の不等式は、長完全列の次元を数える次の補題から出てくる。
$F$ 上の有限次元ベクトル空間と線形写像の完全列
$$
\cdots\to R_{k+1}\xrightarrow{\ \partial_{k+1}\ }A_k\xrightarrow{\ i_k\ }X_k\xrightarrow{\ j_k\ }R_k\xrightarrow{\ \partial_k\ }A_{k-1}\to\cdots
$$
で、$k< 0$ と $k>N$ ではすべて $0$ のものを考え、$P_A(t):=\sum_k\dim A_k\,t^k$ などとおく。$q_k:=\operatorname{rank}\partial_{k+1}$、$Q(t):=\sum_kq_kt^k$ とおくと
$$
P_A(t)+P_R(t)-P_X(t)=(1+t)\,Q(t)
$$
が成り立つ。$Q$ の係数はすべて $0$ 以上の整数である。
次元定理(像の次元と核の次元の和が定義域の次元)と完全性($\ker i_k=\operatorname{im}\partial_{k+1}$ など)から
$$
\dim A_k=\operatorname{rank}\partial_{k+1}+\operatorname{rank}i_k,\quad\dim X_k=\operatorname{rank}i_k+\operatorname{rank}j_k,\quad\dim R_k=\operatorname{rank}j_k+\operatorname{rank}\partial_k
$$
である。よって $\dim A_k+\dim R_k-\dim X_k=\operatorname{rank}\partial_{k+1}+\operatorname{rank}\partial_k=q_k+q_{k-1}$ であり、$t^k$ を掛けて足すと
$$
P_A+P_R-P_X=\sum_kq_kt^k+\sum_kq_{k-1}t^k=Q(t)+tQ(t)
$$
を得る。$q_k$ は階数なので $0$ 以上の整数である。$\square$
$M$ を $n$ 次元の閉多様体、$f$ を $M$ の上の Morse 関数、$F$ を体とし、$c_\lambda=c_\lambda(f)$、$b_k=b_k(M;F)$ と書く。$H_k(M;F)$ はすべて有限次元で $k>n$ では $0$ であり、次が成り立つ。
証明は、ハンドル 1 つごとに lem-mt-exact を使い、得られた恒等式を足し合わせる。
段 1(ハンドル分解). ハンドル分解 の定理「ハンドル分解の存在」により、コンパクトな境界付き多様体の列 $\emptyset=M_{-1},M_0,\dots,M_m$ で、各 $M_i$ が $M_{i-1}$ に $\lambda_i$ ハンドルを付けた多様体と微分同相であり、$M_m$ が $M$ と微分同相で、指数 $\lambda$ のハンドルの個数が $c_\lambda$ であるものがある。とくに $\sum_{i=0}^mt^{\lambda_i}=\mathcal{M}_f(t)$ である。
段 2(1 つのハンドル). $i$ に関する帰納法で、$H_k(M_i;F)$ が有限次元で $k>n$ で $0$ であることと、
$$
P_{M_{i-1}}(t)+t^{\lambda_i}-P_{M_i}(t)=(1+t)\,Q_i(t)\qquad(\ast)
$$
となる係数が $0$ 以上の多項式 $Q_i$ があることを示す。$M_{-1}=\emptyset$ のホモロジーは $0$ である。$M_i$ を $X:=M_{i-1}\cup H^{\lambda_i}$ に置き換えてよい(微分同相な空間のホモロジーは同型)。lem-mt-relative の $A\subset X$ をとると、対 $(X,A)$ の長完全列(相対ホモロジーと長完全列 の定理「対の長完全列」。係数付きでも成り立つ:Hat02 p. 153)
$$
\cdots\to H_{k+1}(X,A;F)\to H_k(A;F)\to H_k(X;F)\to H_k(X,A;F)\to H_{k-1}(A;F)\to\cdots
$$
で、$H_k(A;F)\cong H_k(M_{i-1};F)$ は帰納法の仮定により有限次元で $k>n$ で $0$、$H_k(X,A;F)$ は $k=\lambda_i$ で $F$、それ以外で $0$ である。完全性から $H_k(X;F)$ は $H_k(A;F)$ の像と $H_k(X,A;F)$ の部分空間の拡大なので有限次元で、$k>n$ で $0$ である。lem-mt-exact を $A_k=H_k(A;F)$、$X_k=H_k(X;F)$、$R_k=H_k(X,A;F)$ に使うと、$P_A=P_{M_{i-1}}$、$P_R=t^{\lambda_i}$ なので $(\ast)$ を得る。
段 3(足し合わせ). $(\ast)$ を $i=0,\dots,m$ について足すと、$P_{M_{i-1}}-P_{M_i}$ の和は $P_{M_{-1}}-P_{M_m}=0-P_M$ になるので、
$$
\mathcal{M}_f(t)-P_M(t)=(1+t)\,Q(t),\qquad Q:=\sum_{i=0}^mQ_i
$$
であり、1 が示された。
段 4(係数の比較). 1 の両辺の $t^\lambda$ の係数を比べると、$q_{-1}:=0$ として
$$
c_\lambda-b_\lambda=q_\lambda+q_{\lambda-1}\qquad(\lambda\ge0)
$$
である。$(-1)^{\lambda-k}$ を掛けて $k=0,\dots,\lambda$ について足すと、右辺は隣り合う項が打ち消し合い
$$
\sum_{k=0}^\lambda(-1)^{\lambda-k}(c_k-b_k)=\sum_{k=0}^\lambda(-1)^{\lambda-k}(q_k+q_{k-1})=q_\lambda\ \ge0
$$
となる。これが 2 である。3 は $c_\lambda-b_\lambda=q_\lambda+q_{\lambda-1}\ge0$ から従い、$\lambda$ について足せば臨界点の個数の不等式になる。4 は 1 に $t=-1$ を代入すれば $\mathcal{M}_f(-1)=P_M(-1)$ であり、左辺が $\chi(M)$ に等しいことは ハンドル分解 の定理「ハンドル分解と Euler 標数」による。$\square$
2 は 3 より強い。$\lambda$ と $\lambda-1$ の強い不等式を足すと $c_\lambda\ge b_\lambda$ が得られる(Mil63 §5、p. 30)。
すべての $\lambda$ で $c_\lambda=b_\lambda(M;F)$ となる Morse 関数を、$F$ 上 完全(perfect)であるという。次の系はその十分条件である。
$M$ を閉多様体、$f$ を Morse 関数とし、どの $\lambda$ についても $c_\lambda=0$ か $c_{\lambda+1}=0$ であるとする(たとえば臨界点の指数がすべて偶数であるとする)。このとき、どの体 $F$ についても、すべての $\lambda$ で $b_\lambda(M;F)=c_\lambda$ である。
prf-mt-inequalities の段 4 の等式 $c_\lambda-b_\lambda=q_\lambda+q_{\lambda-1}$ を使う。各 $\lambda$ について $q_\lambda=0$ を示す。$c_\lambda=0$ なら $-b_\lambda=q_\lambda+q_{\lambda-1}$ で、左辺は $0$ 以下、右辺は $0$ 以上なので $q_\lambda=0$ である。$c_{\lambda+1}=0$ なら、同じことを $\lambda+1$ の等式 $-b_{\lambda+1}=q_{\lambda+1}+q_\lambda$ に使って $q_\lambda=0$ である。仮定によりどの $\lambda$ もどちらかに当たるので $Q=0$ であり、$\mathcal{M}_f(t)=P_M(t)$ である。$\square$
$\mathbb{CP}^n$ を $\mathbb{C}^{n+1}\setminus\{0\}$ の 0 でない複素数倍による商とし、$[z]=[z_0:\dots:z_n]$ と書く。$U_k:=\{z_k\ne0\}$ の上で $u_j:=z_j/z_k$($j\ne k$)は複素座標で、実部と虚部 $u_j=x_j+iy_j$ が $U_k$ から $\mathbb{R}^{2n}$ の上への座標を与える(射影空間 の命題「アフィン座標近傍と多様体構造」)。$\mathbb{CP}^n$ は $2n$ 次元の閉多様体である。
$$
f([z_0:\dots:z_n]):=\frac{\sum_{j=0}^nj\,\lvert z_j\rvert^2}{\sum_{j=0}^n\lvert z_j\rvert^2}
$$
は $\mathbb{CP}^n$ の上の Morse 関数で、臨界点はちょうど $p_k:=[e_k]$($k=0,\dots,n$、$e_k$ は標準基底)の $n+1$ 個であり、$p_k$ の指数は $2k$ である。
$f$ は $z$ を複素数倍しても変わらないので、$\mathbb{CP}^n$ の上の関数として定まる。$U_k$ の座標では、$s:=1+\sum_{j\ne k}\lvert u_j\rvert^2$ とおいて
$$
f=\frac{k+\sum_{j\ne k}j\,\lvert u_j\rvert^2}{s}
$$
であり、滑らかである。$\lvert u_j\rvert^2=x_j^2+y_j^2$ を使って偏微分すると
$$
\frac{\partial f}{\partial x_j}=\frac{2x_j\,(j-f)}{s},\qquad\frac{\partial f}{\partial y_j}=\frac{2y_j\,(j-f)}{s}\qquad(j\ne k)
$$
となる。
臨界点. 上の式から、$u_j\ne0$ となる $j$ があれば $f(u)=j$ でなければならず、これが $u\ne0$ では起こりえないことを示す。したがって $U_k$ の中の臨界点は $u=0$ だけで、臨界点は $p_0,\dots,p_n$ である。
$U_k$ の中の臨界点 $u$ で $u\ne0$ となるものがあるとする。$u_i\ne0$ となる $i\ne k$ をとると、上の式から $f(u)=i$ である。$i$ と異なる $j\ne k$ で $u_j\ne0$ なら同様に $f(u)=j\ne i$ となって矛盾するので、$u_j=0$($j\ne i,k$)である。すると $f(u)=\frac{1}{1+\lvert u_i\rvert^2}\,k+\frac{\lvert u_i\rvert^2}{1+\lvert u_i\rvert^2}\,i$ は $k$ と $i$ の重みがどちらも正の平均で、$k\ne i$ なので $i$ に等しくない。これは矛盾なので $u=0$ であり、逆に $u=0$ では偏微分がすべて $0$ である。$U_0,\dots,U_n$ は $\mathbb{CP}^n$ を覆うので、臨界点は $p_0,\dots,p_n$ である。
どの体 $F$ についても、$H_k(\mathbb{CP}^n;F)$ は $k=0,2,4,\dots,2n$ で $F$、それ以外の $k$ で $0$ である。とくに $\chi(\mathbb{CP}^n)=n+1$ である。
prop-mt-cpn の $f$ は $c_{2k}=1$($0\le k\le n$)、それ以外の $c_\lambda=0$ で、隣り合う指数をもたない。cor-mt-lacunary により $b_\lambda(\mathbb{CP}^n;F)=c_\lambda$ である。$\chi$ は thm-mt-inequalities の 4 による。$\square$
この計算では、ハンドルの貼り付け方を一切調べていない(Mil63 Corollary 5.4、p. 31 も参照)。
Morse関数 の命題「実射影空間の上の Morse 関数」により、$\mathbb{RP}^n$ には指数 $0,1,\dots,n$ の臨界点を 1 つずつもつ Morse 関数 $f$ がある。$F=\mathbb{Z}/2$ なら $H_k(\mathbb{RP}^n;F)\cong F$($0\le k\le n$)なので(Hat02 Example 2.50、p. 154)、$f$ は $\mathbb{Z}/2$ 上完全である。一方、$F=\mathbb{Q}$ なら $H_k(\mathbb{RP}^n;\mathbb{Q})$ は $k=0$ と、$n$ が奇数のときの $k=n$ でだけ $\mathbb{Q}$ である(同じ所在)。$n=2$ で $\mathbb{Q}$ 係数なら $\mathcal{M}_f(t)-P(t)=t+t^2=(1+t)\,t$ で $Q(t)=t$ となり、指数 $1$ の強い不等式は $c_1-c_0=0>-1=b_1-b_0$ と真の不等号になる。臨界点の個数の下限としては、$\mathbb{Z}/2$ 係数のほうが強い結論($n+1$ 個以上)を与える。
臨界点がいちばん少ない場合、多様体は球面に限られる。
$M$ を $n$ 次元($n\ge1$)の閉多様体とし、$M$ の上に臨界点がちょうど 2 個の Morse 関数 $f$ があるとする。このとき $M$ は球面 $S^n$ と同相である。
証明の考え方は、$M$ を最小点と最大点のまわりの 2 つの円板に分け、境界どうしの貼り合わせを円板の内部へ放射状に延ばすことである。
段 1(2 つの臨界点). $M$ はコンパクトなので $f$ は最小値と最大値をとり、最小点 $p$ と最大点 $q$ はどちらも臨界点である。$f$ が定数なら $M$ のすべての点が臨界点になるが、$n\ge1$ なので $M$ は無限個の点をもち、仮定に反する。よって $f(p)< f(q)$ で、臨界点は $p$、$q$ だけである。Morse関数 の命題「指数と極値」の 1 により $p$ の指数は $0$、$q$ の指数は $n$ である。$f(p)< c< f(q)$ をとる。
段 2(下半分は円板). $\varepsilon>0$ を $f(p)+\varepsilon< c$ ととる。thm-mt-handle の 2($\lambda=0$)により、$M^{f(p)+\varepsilon}$ は $M^{f(p)-\varepsilon}=\emptyset$ と $D^n$ の非交和、すなわち $D^n$ と微分同相である。$f^{-1}([f(p)+\varepsilon,c])$ はコンパクト $M$ の閉集合でコンパクトであり、臨界点を含まないので、thm-mt-handle の 1 により $M^c$ は $M^{f(p)+\varepsilon}$ と微分同相である。よって微分同相写像 $\varphi\colon D^n\to M^c$ がある。
段 3(上半分も円板). $-f$ も Morse 関数で、$q$ は $-f$ の最小点である。段 2 を $-f$ と値 $-c$ に使うと、$N:=\{x\in M\mid f(x)\ge c\}=\{-f\le-c\}$ について微分同相写像 $\psi\colon D^n\to N$ がある。
段 4(境界). $c$ は正則値なので、$M^c$ と $N$ はどちらも境界 $\Sigma:=f^{-1}(c)$ をもつ境界付き多様体である(境界付き多様体 の定理「正則な劣位集合は境界付き多様体」を $f$ と $-f$ に使う)。微分同相写像は境界を境界に写すので(同じ記事の補題「微分同相写像は縁を縁に写す」と定理「内部の点と境界の点は交わらない」)、$\varphi(S^{n-1})=\Sigma=\psi(S^{n-1})$ である。よって $g:=\psi^{-1}\circ\varphi|_{S^{n-1}}$ は $S^{n-1}$ からそれ自身への同相写像である。
段 5・6(放射状の延長と貼り合わせ). $g$ を円板 $D^n$ の上の同相写像 $G(rv):=r\,g(v)$ に延ばし、$S^n$ の下半球を $\varphi$ で $M^c$ に、上半球を $\psi\circ G$ で $N$ に写すと、赤道の上で 2 つが一致して、$S^n$ から $M$ への連続な全単射 $h$ が得られる。
段 5(放射状の延長). $G\colon D^n\to D^n$ を $G(0):=0$、$G(rv):=r\,g(v)$($0< r\le1$、$v\in S^{n-1}$)で定める。$\lvert G(y)\rvert=\lvert y\rvert$ なので $G$ は原点でも連続で、全単射であり、コンパクト空間から Hausdorff 空間への連続な全単射なので同相写像である。
段 6(貼り合わせ). $S^n\subset\mathbb{R}^{n+1}$ の閉じた下半球 $S_-$ と上半球 $S_+$ を、最後の座標を落とす写像 $\mathrm{pr}$ で $D^n$ と同一視する(どちらも同相写像)。$h\colon S^n\to M$ を、$S_-$ の上で $h:=\varphi\circ\mathrm{pr}$、$S_+$ の上で $h:=\psi\circ G\circ\mathrm{pr}$ と定める。赤道 $S_-\cap S_+$ の点 $x$ では $v:=\mathrm{pr}(x)\in S^{n-1}$ で、$\psi(G(v))=\psi(g(v))=\varphi(v)$ なので 2 つの定義は一致し、$h$ は連続である(2 つの閉集合の上で連続な写像の貼り合わせ)。$h$ は $S_-$ を $M^c$ の上へ、$S_+$ を $N$ の上へ全単射に写し、どちらも赤道を $\Sigma$ の上へ全単射に写す。$M=M^c\cup N$、$M^c\cap N=\Sigma$ なので、$h$ は全単射である。
結論は同相であって、微分同相ではない。$S^7$ と同相だが微分同相でない Milnor の異種球面も、臨界点が 2 個の Morse 関数をもつ(Mil63 Theorem 4.1 の後の Remark 2、pp. 25–26)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 臨界点が非退化 | $T^2=\mathbb{R}^2/(\pi\mathbb{Z})^2$ 上の $f(x,y)=\sin x\sin y\sin(x+y)$ | 臨界点の個数は $\sum_kb_k$ 以上 |
| $M$ がコンパクト | $\mathbb{R}$ 上の $f(x)=x$ | $c_0\ge b_0$ |
| $M$ が境界をもたない | 閉円板 $D^n$ 上の $f(x)=x_1$ | $c_0\ge b_0$ |
| 臨界点がちょうど 2 個 | $\mathbb{RP}^2$ の上の臨界点 3 個の Morse 関数 | $M$ は $S^n$ と同相 |
| 隣り合う指数の臨界点がない | 同じ $\mathbb{RP}^2$ の関数と $F=\mathbb{Q}$ | すべての $\lambda$ で $b_\lambda=c_\lambda$ |
1 行目:$f$ は $T^2$ の上で定まり、臨界点は最大点 $(\pi/3,\pi/3)$、最小点 $(2\pi/3,2\pi/3)$、退化臨界点 $(0,0)$ の 3 個だけである。一方 $T^2$ の Betti 数の和は $1+2+1=4$ である(ex-mt-lower-bounds の 1)。
$\sin(x+\pi)=-\sin x$ なので、$x$ を $x+\pi$ に替えると $\sin x$ と $\sin(x+y)$ の符号がともに変わり、$f$ は変わらない。$y$ についても同じなので、$f$ は $T^2$ の上の関数である。加法定理から $\partial f/\partial x=\sin y\,\sin(2x+y)$、$\partial f/\partial y=\sin x\,\sin(x+2y)$ である。$0\le x,y<\pi$ で両方が $0$ になる点を探す。$\sin y=0$ なら $y=0$ で、第 2 式から $\sin^2x=0$、$x=0$ である。$\sin x=0$ の場合も同様に $(0,0)$ になる。そうでなければ $2x+y\equiv0$、$x+2y\equiv0\pmod\pi$ で、差をとると $x\equiv y$、したがって $3x\equiv0\pmod\pi$ であり、$(x,y)=(\pi/3,\pi/3)$、$(2\pi/3,2\pi/3)$ を得る。最大値と最小値は臨界点でとられ、$f$ の値は順に $3\sqrt3/8$、$-3\sqrt3/8$、$0$ である。$(0,0)$ の近くでは $f=xy(x+y)+(\text{4 次以上})$ なので Hesse 行列は零行列である。
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