ベン図(Venn diagram)とは、$n$ 個の集合を平面の単純閉曲線の内部として描き、各集合に入るか入らないかの $2^n$ 通りの組合せのそれぞれを、空でない連結な領域として 1 つずつ表した図である。$n$ 個の部分集合は $2^n$ 個の原子に分かれ、集合演算で作った集合は真理関数が $1$ になる原子の和集合になる。そのため、ベン図の上で確かめた集合の等式はすべての集合で成り立つが、領域の欠けた Euler 図での確かめは証明にならない。ベン図は 3 つまでの集合なら円で、4 つなら楕円で描けるが、4 つ以上の円では描けない。
ベン図(Venn diagram)は、いくつかの集合を平面の閉曲線で囲まれた領域として描き、「どの集合に入り、どの集合に入らないか」のすべての組合せを 1 つずつ領域として表した図である。$n$ 個の集合のベン図には、外側の領域も含めてちょうど $2^n$ 個の領域がある。ベン図は集合演算を目で見るための道具であるだけでなく、正しく描かれたベン図の上で確かめた集合の等式は、すべての集合について成り立つ。
この記事では、ベン図と、領域が欠けることを許す Euler 図を定義し、集合が $2^n$ 個の「原子」に分かれること(原子への分解)と、ベン図の上での確かめが証明になる理由を証明する。さらに、円では 4 つ以上の集合のベン図が描けないことを示し、ベン図による数え上げの例を挙げる。
全体集合 $U$ を固定し、その部分集合 $A_1,\dots,A_n$ を考える。補集合 $A^c=U\setminus A$ をとり、$A^1=A$、$A^0=A^c$ と書く。
$\varepsilon=(\varepsilon_1,\dots,\varepsilon_n)\in\{0,1\}^n$ に対し
$$
A^{\varepsilon}:=A_1^{\varepsilon_1}\cap A_2^{\varepsilon_2}\cap\cdots\cap A_n^{\varepsilon_n}
$$
を、族 $(A_1,\dots,A_n)$ の原子という。$A^\varepsilon$ は「$\varepsilon_i=1$ の $A_i$ にはすべて入り、$\varepsilon_i=0$ の $A_i$ には入らない」元全体である。$2^n$ 個の原子がすべて空でないとき、族 $(A_1,\dots,A_n)$ は独立であるという。
平面の単純閉曲線 $C$ は、Jordanの曲線定理により平面から $C$ を除いた部分を、有界な内部 $\operatorname{int}(C)$ と非有界な外部 $\operatorname{ext}(C)$ の 2 つの連結成分に分ける。
平面の単純閉曲線 $C_1,\dots,C_n$ を考え、$X_i$ を $\operatorname{int}(C_i)$ か $\operatorname{ext}(C_i)$ のどちらかとする。$X_1\cap\cdots\cap X_n$ が、$2^n$ 通りの選び方のすべてで空でないとき、$(C_1,\dots,C_n)$ を独立な曲線の族という。さらに、この $2^n$ 個の集合がすべて連結で、曲線どうしの交点が有限個であるとき、$(C_1,\dots,C_n)$ を $n$ 個の集合のベン図という。
これは RW05 の節「What is a Venn Diagram?」の定義である。ベン図では、$\operatorname{int}(C_i)$ を集合 $A_i$ とみなし、$X_1\cap\cdots\cap X_n$ を原子 $A^\varepsilon$($X_i=\operatorname{int}(C_i)$ のとき $\varepsilon_i=1$)の描く領域と呼ぶ。全体集合は平面から曲線を除いた部分である。定義から、内部の族 $(\operatorname{int}(C_1),\dots,\operatorname{int}(C_n))$ はこの全体集合の中で独立な族である。
平面から曲線を除いた部分の各点は、各 $C_i$ について内部と外部のちょうど一方に属するので、この部分は $2^n$ 個の領域の交わらない和集合である。各領域は開集合の共通部分なので開集合であり、ほかの領域の和集合の補集合なので、曲線を除いた部分の中で閉集合でもある。空でない連結な部分集合で開かつ閉なものは連結成分なので、平面から曲線を除いた部分の連結成分は、ちょうど $2^n$ 個の領域そのものである。原子が空になることを許し、空でない原子だけを領域として描いた図を Euler 図(Euler diagram)という。たとえば $A\subset B$ を「$A$ の円を $B$ の円の内側に描く」ことで表した図は Euler 図であって、ベン図ではない($A\cap B^c$ の領域がない)。
$n$ 個の集合についての質問「元 $x$ は $A_i$ に入るか」の答えは、$0$ と $1$ の列 $\varepsilon(x)\in\{0,1\}^n$ にまとめられる。ベン図は、この $2^n$ 通りの答えのそれぞれに 1 つずつ場所を用意した図であり、元 $x$ は答え $\varepsilon(x)$ の領域に置かれる。
集合演算 $\cup,\cap,{}^c$ で作った集合に $x$ が入るかどうかは、論理の「または」「かつ」「でない」により答えの列 $\varepsilon(x)$ だけから決まる。したがって集合の等式は、$2^n$ 個の領域のそれぞれで「両辺がその領域を含むか」を比べれば確かめられる。これは命題論理の真理値表による確かめと同じことであり、ベン図は真理値表を平面に並べたものとみることもできる。
図の左と中央は、2 つの円と 3 つの円によるベン図である。各領域に書いた $0$・$1$ の列は、その領域の元が $A,B,C,D$ のそれぞれに入るか($1$)入らないか($0$)を表す。外側の領域は $00$、$000$、$0000$ である。
図: 2 つの円、3 つの円、4 つの楕円によるベン図
3 つの円 $A,B,C$ のベン図の 8 つの領域は次のとおりである。
| 列 $\varepsilon$ | 原子 | 列 $\varepsilon$ | 原子 |
|---|---|---|---|
| $111$ | $A\cap B\cap C$ | $100$ | $A\cap B^c\cap C^c$ |
| $110$ | $A\cap B\cap C^c$ | $010$ | $A^c\cap B\cap C^c$ |
| $101$ | $A\cap B^c\cap C$ | $001$ | $A^c\cap B^c\cap C$ |
| $011$ | $A^c\cap B\cap C$ | $000$ | $A^c\cap B^c\cap C^c$ |
たとえば $A\cup B$ は列の第 1 成分か第 2 成分が $1$ の 6 つの領域、$(A\cup B)\cap C$ はそのうち第 3 成分が $1$ の $111,101,011$ の 3 つの領域からなる。$(A\cap C)\cup(B\cap C)$ も同じ 3 つの領域からなるので、分配法則 $(A\cup B)\cap C=(A\cap C)\cup(B\cap C)$ が成り立つ。これが正しい証明であることは thm-vd-test が保証する。
$A,B,C$ を有限集合とし、原子 $A^\varepsilon$ の元の個数を $a_\varepsilon$ と書く。$|A|=a_{100}+a_{110}+a_{101}+a_{111}$ のように、各集合の元の個数はその集合をなす領域の個数の和である。$|A|+|B|+|C|$ では、ちょうど 2 つの集合に入る領域($110,101,011$)が 2 回、3 つすべてに入る領域 $111$ が 3 回数えられる。$|A\cap B|+|A\cap C|+|B\cap C|$ ではそれぞれ 1 回と 3 回数えられる。したがって
$$
|A\cup B\cup C|=|A|+|B|+|C|-|A\cap B|-|A\cap C|-|B\cap C|+|A\cap B\cap C|
$$
の右辺では、1 つだけに入る領域が $1$ 回、ちょうど 2 つに入る領域が $2-1=1$ 回、3 つすべてに入る領域が $3-3+1=1$ 回数えられ、左辺と一致する。一般の $n$ 個の集合の場合は 包除原理 で扱う。
変数 $X_1,\dots,X_n$ と記号 $\emptyset$、$U$ から、演算 $\cup$、$\cap$、${}^c$ を有限回使って作った式を集合の式という。たとえば $(X_1\cup X_2)\cap X_3^c$ は集合の式である。集合の式 $E$ の変数に部分集合 $A_1,\dots,A_n\subset U$ を代入した集合を $E(A_1,\dots,A_n)$、略して $E(A)$ と書く。
集合の式 $E$ の真理関数 $e\colon\{0,1\}^n\to\{0,1\}$ を、式の作り方に沿って次のように定める。$X_i$ には $e(\varepsilon)=\varepsilon_i$、$\emptyset$ には $0$、$U$ には $1$ を対応させ、$E\cup F$、$E\cap F$、$E^c$ にはそれぞれ $\max(e,f)$、$\min(e,f)$、$1-e$ を対応させる。これは $\cup,\cap,{}^c$ を「または」「かつ」「でない」と読み、真を $1$、偽を $0$ で表したものである。
$A_1,\dots,A_n\subset U$ とする。
$x\in U$ に対し、$x\in A_i$ のとき $1$、そうでないとき $0$ を第 $i$ 成分とする列を $\varepsilon(x)\in\{0,1\}^n$ とおく。$x\in A_i^{\varepsilon_i}$ は $\varepsilon(x)_i=\varepsilon_i$ と同値なので、$x\in A^\varepsilon$ は $\varepsilon(x)=\varepsilon$ と同値である。
この定理は、ベン図で集合の式を「領域を塗る」ことで表せる理由である。式 $E(A)$ は、真理関数が $1$ になる列の領域をすべて塗った部分にあたる。$n$ 変数の真理関数は $2^{2^n}$ 個あるので、$n$ 個の集合から集合演算で作れる集合は、族によらず高々 $2^{2^n}$ 個であり、族が独立ならちょうど $2^{2^n}$ 個である(原子 $A^\varepsilon$ そのものが集合の式 $X_1^{\varepsilon_1}\cap\cdots\cap X_n^{\varepsilon_n}$ で書けるので、原子の集まりの和集合はどれも集合の式で書け、原子が空でなく互いに交わらないので、異なる集まりの和集合は異なる。ここで $X^1=X$、$X^0=X^c$ とした)。
$E,F$ を $n$ 変数の集合の式とし、$e,f$ をその真理関数とする。次の 3 条件は同値である。
2 ⇒ 1 は thm-vd-atoms の 2 から従う。両辺とも同じ原子の和集合になるからである。
1 ⇒ 3:独立な族が存在することを示せばよい。$U=\{0,1\}^n$、$A_i=\{\varepsilon\in U\mid\varepsilon_i=1\}$ とおくと、原子 $A^\varepsilon$ はちょうど 1 点 $\{\varepsilon\}$ からなり、すべて空でない。
3 ⇒ 2:thm-vd-atoms の 2 により $E(A)=\bigcup_{e(\varepsilon)=1}A^\varepsilon$、$F(A)=\bigcup_{f(\varepsilon)=1}A^\varepsilon$ である。$e(\varepsilon_0)=1$ とすると、$A^{\varepsilon_0}$ は空でないので元 $x$ をもち、$x\in E(A)=F(A)$ である。$x$ が属する原子は $A^{\varepsilon_0}$ だけ(thm-vd-atoms の 1)なので、$f(\varepsilon_0)=1$ でなければならない。対称に $f(\varepsilon_0)=1$ なら $e(\varepsilon_0)=1$ であり、$e=f$ である。
包含の場合も同じ議論で、「$e(\varepsilon_0)=1$ なら $f(\varepsilon_0)=1$」すなわち $e\le f$ が得られる。$\square$
ベン図 $(C_1,\dots,C_n)$ の内部の族は独立なので、3 の条件を満たす族として使える。したがって、ベン図の上で集合の式の両辺がちょうど同じ領域からなることを確かめれば、その等式はすべての集合について成り立つ。ex-vd-three の分配法則の確かめは、この意味で完全な証明である。De Morganの法則 $(A\cup B)^c=A^c\cap B^c$ も、2 つの円のベン図で両辺がともに外側の領域 $00$ だけからなることから従う。
$A\subset B$ を表す Euler 図($A$ の円を $B$ の円の内側に描いた図)では、原子 $A\cap B^c$ の領域がない。この図の上では $A\cap B^c=\emptyset$、したがって $A\cup B=B$ が「成り立つ」ように見える。しかし $U=\{1\}$、$A=\{1\}$、$B=\emptyset$ とすると $A\cap B^c=\{1\}\neq\emptyset$ である。Euler 図の内部の族は原子 $A\cap B^c$ が空なので独立でなく、thm-vd-test の 3 の仮定を満たさない。Euler 図から言えるのは、「図と同じ包含関係を満たす集合については成り立つ」ことだけである。
原点を中心とする半径 $1$ の円 $C_1$ と、楕円 $C_2\colon x^2/4+4y^2=1$ を考える。$C_2$ は $C_1$ と 4 点で交わる($x^2+y^2=1$ と連立すると $y^2=1/5$、$x^2=4/5$)。内部どうしの共通部分は凸集合の共通部分なので連結である。一方、円の内部で楕円の外部にある部分は、上側($y>0$)と下側($y<0$)の 2 つに分かれ、楕円の内部で円の外部にある部分も左右の 2 つに分かれる。4 つの原子はすべて空でないので族は独立だが、2 つの原子が連結でないので、ベン図ではない。平面から 2 曲線を除いた部分は $6$ 個の連結成分をもち、$2^2=4$ 個より多い。
1 つ、2 つ、3 つの集合のベン図は円で描ける(図)。4 つ以上は円では描けない。
$n\ge4$ のとき、$n$ 個の円はどのように置いても $n$ 個の集合のベン図にならない。
ベン図では曲線どうしの交点が有限個なので、どの 2 つの円も一致しない。平面に $n$ 個の相異なる円をどのように置いても、平面から円を除いた部分の連結成分の個数は高々 $n^2-n+2$ である(平面を円で分ける領域の数 の節「主定理1:領域の総数」)。一方、ベン図なら連結成分はちょうど $2^n$ 個である(節「定義」)。$n\ge4$ で $n^2-n+2<2^n$ を帰納法で示す。$n=4$ では $14<16$ である。$n\ge4$ で成り立つとすると、$(n+1)^2-(n+1)+2=(n^2-n+2)+2n<2^n+2n\le2^n+2^n=2^{n+1}$ である($n\ge4$ では $2n\le2^n$)。よって $n\ge4$ では連結成分が足りない。$\square$
円の代わりに楕円を使うと、4 つの集合のベン図が描ける。図の右は 4 つの楕円によるベン図で、16 個の領域がすべて現れている。Venn 自身も 4 つの楕円によるベン図を与えている(RW05 の節「What is a Venn Diagram?」)。さらに、すべての $n$ についてベン図は存在する。新しい曲線を前の曲線に沿って波打たせ、既存のすべての領域を 2 つに分けていく Venn の構成と、Edwards の構成が知られている(同じ節の「Do they always exist?」。この記事では証明しない)。
thm-vd-test の 3 の仮定と、ベン図の定義の条件を 1 つずつ外した反例である。4 つ以上の円で描けないこと(prop-vd-circles)は、曲線の形を円に限ると定義を満たせなくなる例である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 原子がすべて空でない(独立) | $A\subset B$ を表す Euler 図(ex-vd-euler) | 図の上で成り立つ等式がすべての集合で成り立つこと |
| 各原子が連結 | 円と細長い楕円(ex-vd-not-connected) | 平面が曲線でちょうど $2^n$ 個の部分に分かれること |
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