弱可縮空間(weakly contractible space)とは、空でなく弧状連結で、すべての点ですべてのホモトピー群が自明な位相空間のことであり、一点空間への写像が弱ホモトピー同値になる空間、球面からの任意の写像が円板に延長できる空間とも言い換えられる。可縮空間は弱可縮であり、弱可縮性は直積・レトラクト・弱ホモトピー同値で保たれる。CW複体やCW複体とホモトピー同値な空間ではWhiteheadの定理により弱可縮と可縮が一致し、無限次元球面の可縮性もここから従うが、ワルシャワ円は弱可縮であって可縮でない。単体的集合や∞圏論で写像空間が可縮であるというときの意味もこの条件にあたる。
弱可縮空間は、空でなく、弧状連結で、すべての点ですべてのホモトピー群が自明な位相空間である。言い換えると、一点空間への写像が弱ホモトピー同値になる空間であり、球面からの写像で探る限り一点と区別できない空間である。可縮空間は弱可縮であるが、逆は一般には成り立たない。ワルシャワ円は弱可縮であるが可縮でない。一方、CW複体や CW 複体とホモトピー同値な空間では、Whiteheadの定理により二つの条件は一致する。
この記事では、弱可縮性のいくつかの言い換え(thm-wc-equivalent)、CW 複体のホモトピー型をもつ空間での可縮性との一致(thm-wc-cw)、直積・レトラクト・増大列の和による弱可縮性の保存を扱う。
位相空間 $X$ が弱可縮(weakly contractible)であるとは、$X$ が空でなく、弧状連結であり、すべての点 $x\in X$ とすべての $n\ge1$ について $\pi_n(X,x)$ が自明な群であることをいう。弱可縮な位相空間を弱可縮空間という。
これは 弱ホモトピー同値の記事の定義、可縮空間の記事の注意「弱可縮性との区別」と同じ定義である。空集合はすべての点で(点がないので)条件を満たしてしまうので、「空でない」ことを明示する。
$\pi_n(X,x)$ は、$n$ 次元球面を基点を止めて $X$ に写したものを、変形で分類したものである。弱可縮性は、どの次元の球面を $X$ のどこに投げ込んでも、それが一点に縮むことを言う。可縮性はさらに強く、空間全体を一度に、連続的に一点へ縮められることを要求する。球面はコンパクトなので、球面の像は空間のごく一部しか見ない。空間の「大域的な一周」が、どのコンパクトな道でもたどれないような空間では、二つの条件が分かれる。CW 複体は円板を貼り合わせてできているので、円板ごとの縮め方をつなぎ合わせれば空間全体が縮み、二つの条件が一致する。
次の定理の 5 で、$S^0$ は二点 $\{\pm1\}$、$D^1=[-1,1]$ であり、$S^0$ から $X$ への写像が $D^1$ に延長できることは、二点が道で結べることである。
位相空間 $X$ について、次は同値である。
1 ⇔ 2:1 ⇒ 2 は明らかである。2 を仮定し、$x\in X$ をとる。$X$ は弧状連結なので $x_0$ から $x$ への道 $\gamma$ があり、道に沿った基点の取り替え $\beta_\gamma\colon\pi_n(X,x)\to\pi_n(X,x_0)$ は群の同型である(ホモトピー群の記事の命題「被覆空間と$n$-単純性」)。よって $\pi_n(X,x)$ も自明である。
1 ⇔ 3:$c_*\colon\pi_0(X)\to\pi_0(\{\ast\})$ が全単射であることは、$\pi_0(X)$ がちょうど一点であること、すなわち $X$ が空でなく弧状連結であることと同値である。$\pi_n(\{\ast\},\ast)$ は自明な群なので、$c_*\colon\pi_n(X,x)\to\pi_n(\{\ast\},\ast)$ が同型であることは $\pi_n(X,x)$ が自明であることと同値である。
3 ⇔ 4:$X\ne\emptyset$ のとき、各 $p\in X$ について $c\circ\iota_p=\operatorname{id}_{\{\ast\}}$ は弱ホモトピー同値である。弱ホモトピー同値の記事の定理「2 つのうち 2 つの性質」により、$c$ が弱ホモトピー同値なら $\iota_p$ もそうであり、ある一つの $\iota_p$ が弱ホモトピー同値なら $c$ もそうである。3 から $X\ne\emptyset$ は $\pi_0$ の全単射性から従う。
1 ⇒ 5:$n=0$ では、弧状連結性により $S^0$ の二点の像が道で結べる。$n\ge1$ では、写像 $\varphi\colon S^n\to X$ を基点 $s_0$ から $\varphi(s_0)$ への基点付き写像とみると、$[\varphi]\in\pi_n(X,\varphi(s_0))$ は自明なので、CW近似の記事の補題「円板への延長と零ホモトピー」により $\varphi$ は $D^{n+1}$ に延長できる。
5 ⇒ 1:$S^0$ からの写像が $D^1$ に延長できるので、$X$ の任意の二点は道で結べる。$n\ge1$ と $x\in X$、基点付き写像 $\varphi\colon(S^n,s_0)\to(X,x)$ について、$\varphi$ は $D^{n+1}$ に延長できるので、同じ補題により $[\varphi]=0$ である。
3 ⇒ 6:Whiteheadの定理の記事の定理「弱ホモトピー同値とホモトピー類」により、$c_*\colon[K,X]\to[K,\{\ast\}]$ は全単射であり、$[K,\{\ast\}]$ は一点である。
6 ⇒ 5:$K=\{\ast\}$ とすると $[\{\ast\},X]$ が空でないので $X\ne\emptyset$ である。点 $x\in X$ をとる。$n\ge0$ と連続写像 $\varphi\colon S^n\to X$ について、$S^n$ は CW 複体なので、6 により $\varphi$ は定値写像 $x$ とホモトピックである。$H\colon S^n\times I\to X$ を $H(\cdot,0)=\varphi$、$H(\cdot,1)\equiv x$ となるホモトピーとすると、CW近似の記事の補題「円板への延長と零ホモトピー」の証明の後半と同じく、$c(s,u):=(1-u)s$ による商 $S^n\times I\to D^{n+1}$ を通じて $H$ は $\varphi$ の延長 $D^{n+1}\to X$ を定める(後半の議論は基点を使っていない)。$\square$
5 は、基点やホモトピー群を使わずに弱可縮性を述べる形であり、以下で弱可縮性の保存を示すときに使う。
1:可縮空間 $X$ は空でなく、一点空間とホモトピー同値である(可縮空間の記事の命題「一点とのホモトピー同値による特徴づけ」)。$c\colon X\to\{\ast\}$ はホモトピー同値なので弱ホモトピー同値であり(弱ホモトピー同値の記事の命題「ホモトピー同値は弱ホモトピー同値」)、thm-wc-equivalent の 3 により $X$ は弱可縮である。
2:$X$ は空でないので $0$ 胞体をもつ。実際、$0$ 骨格が空なら、空でない $S^{n-1}$($n\ge1$)から空集合への写像はないので、帰納的にすべての骨格が空になる。$0$ 胞体 $x_0$ をとる。thm-wc-equivalent の 4 により、包含 $\{x_0\}\hookrightarrow X$ は弱ホモトピー同値であり、$\{x_0\}$ は $X$ の部分複体である。Whiteheadの定理の記事の定理「Whitehead の定理」の 2 により、$\{x_0\}$ は $X$ の強変位レトラクトである。その強変位レトラクションは $\operatorname{id}_X$ から定値写像 $x_0$ へのホモトピーなので、$X$ は可縮である。
3:可縮なら弱可縮であることは 1 による。逆に、CW 複体 $K$ とホモトピー同値写像 $a\colon K\to X$ があり、$X$ が弱可縮とする。$a$ は弱ホモトピー同値で、$c\colon X\to\{\ast\}$ も弱ホモトピー同値なので、$c\circ a\colon K\to\{\ast\}$ は弱ホモトピー同値であり、$K$ は弱可縮である(thm-wc-equivalent の 3)。2 により $K$ は可縮で、一点とホモトピー同値である。ホモトピー同値は同値関係なので(ホモトピー同値の記事の命題「合成と同値関係」)、$X$ も一点とホモトピー同値であり、可縮である。$\square$
2 は Hat02 §4.1, p. 348 に述べられている。3 の CW 型という仮定は外せない(ex-wc-warsaw)。
thm-wc-equivalent の 5 を使う。
1:各 $X_\lambda$ は空でないので、選択公理により直積は空でない。連続写像 $\varphi\colon S^n\to\prod_\lambda X_\lambda$ は、射影との合成 $\varphi_\lambda\colon S^n\to X_\lambda$ の族と一対一に対応する(直積位相の普遍性)。各 $\varphi_\lambda$ は $\Phi_\lambda\colon D^{n+1}\to X_\lambda$ に延長でき、$\Phi:=(\Phi_\lambda)_\lambda\colon D^{n+1}\to\prod_\lambda X_\lambda$ は連続で $\varphi$ の延長である。
2:$X$ は空でないので $A\ni r(x)$ も空でない。$\iota\colon A\hookrightarrow X$ を包含とし、連続写像 $\varphi\colon S^n\to A$ をとる。$\iota\circ\varphi$ は $\Phi\colon D^{n+1}\to X$ に延長でき、$r\circ\Phi\colon D^{n+1}\to A$ は $r\circ\iota\circ\varphi=\varphi$ の延長である。
3:一点への写像を $c_X,c_Y$ とすると $c_Y\circ f=c_X$ である。弱ホモトピー同値の記事の定理「2 つのうち 2 つの性質」により、$c_X$ が弱ホモトピー同値であることと $c_Y$ が弱ホモトピー同値であることは同値であり、thm-wc-equivalent の 3 により主張が従う。ホモトピー同値は弱ホモトピー同値である(同記事の命題「ホモトピー同値は弱ホモトピー同値」)。$\square$
1 の二つの空間の直積の場合は、弱ホモトピー同値の記事の命題「直積」からも従う。可縮空間についての対応する事実は 可縮空間の記事の命題「直積の可縮性」にある。
位相空間 $X$ が部分空間の増大列 $X_1\subset X_2\subset\cdots$ の和で、次の 3 条件を満たすとする。
$X$ は (a) により空でない。$n\ge0$ と連続写像 $\varphi\colon S^n\to X$ をとる。$\varphi(S^n)$ はコンパクトなので、(b) によりある $X_i$ に含まれる。(c) のホモトピー $X_i\times I\to X_{i+1}$ と $\varphi$ を合成し、$X_{i+1}\hookrightarrow X$ と合成すると、$\varphi$ は $X$ の中で定値写像とホモトピックになる。thm-wc-equivalent の 6 ⇒ 5 の証明と同じく、定値写像へのホモトピーから $\varphi$ の延長 $D^{n+1}\to X$ が得られる。thm-wc-equivalent の 5 により $X$ は弱可縮である。
$X$ が CW 複体で $X_i$ が部分複体のとき、$X$ のコンパクト部分集合は有限部分複体に含まれる(CW複体の記事の定理「コンパクト集合は有限部分複体に含まれる」)。部分複体は胞体の和なので、各胞体はそれと交わる $X_i$ に丸ごと含まれ、有限個の胞体は十分大きな $X_i$ に含まれる。よって (b) が成り立つ。thm-wc-cw の 2 により $X$ は可縮である。$\square$
CW 複体の場合の主張は Hat02 §4.1 の演習 11(pp. 358–359)である。
$S^n\subset\mathbb{R}^{n+1}$ を $\mathbb{R}^{n+2}$ の最後の座標が $0$ の部分とみて $S^n\subset S^{n+1}$ とし、$S^\infty:=\bigcup_nS^n$ に、各 $S^n$ を部分複体とする CW 構造(各次元に二つの半球を胞体とする構造)を入れる。包含 $S^n\hookrightarrow S^{n+1}$ の像は閉じた北半球 $N:=\{x\in S^{n+1}\mid x_{n+2}\ge0\}$ に含まれ、北極を $e$ として
$$
H(x,t):=\frac{(1-t)x+te}{\|(1-t)x+te\|}\qquad(x\in N,\ t\in I)
$$
は $N$ の恒等写像から定値写像 $e$ へのホモトピーである。分母は、$t=0$ では $\|x\|=1$、$t>0$ では最後の座標が $(1-t)x_{n+2}+t>0$ なので $0$ にならない。よって包含 $S^n\hookrightarrow S^{n+1}$ は定値写像とホモトピックであり、prop-wc-union により $S^\infty$ は可縮である。
可縮空間の記事の例「二つの無限次元球面」は、同じ空間の可縮性を明示的な収縮で示している。上の議論は、Whitehead の定理を使えば各段の包含が縮むことだけを確かめればよいことを示している。Hat02 §4.1 の演習 11(pp. 358–359)は、CW 複体の繰り返し懸垂の和も同じ形の例として挙げている。
位相幾何学者の正弦曲線の記事の注意「ワルシャワ円との関係」のワルシャワ円 $W$ は、同記事の命題「ワルシャワ円のホモトピー群と可縮性」により、弧状連結ですべての $\pi_n$($n\ge1$)が自明であり、可縮でない。よって $W$ は弱可縮であるが可縮でない。thm-wc-cw の 3 により、$W$ はどの CW 複体ともホモトピー同値でない。また prop-wc-operations の 1 により、$W\times W$ や $W\times S^\infty$ も弱可縮である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| CW 複体のホモトピー型をもつこと(thm-wc-cw) | ワルシャワ円 $W$ | 弱可縮なら可縮であること |
| 空でないこと | 空集合 | 弧状連結性と各点の $\pi_n$ の自明性から弱可縮性が従うこと |
| 弧状連結性 | $S^0$ | 各点の $\pi_n$($n\ge1$)の自明性から弱可縮性が従うこと |
| $\pi_1$ の自明性 | $S^1$ | 弧状連結性と $\pi_n$($n\ge2$)の自明性から弱可縮性が従うこと |
| $\pi_n$($n\ge2$)の自明性 | $S^2$ | 単連結性から弱可縮性が従うこと |
| コンパクト集合が $X_i$ に収まること(prop-wc-union の (b)) | 円周を増大する閉弧 $A_i$ の和とみたもの | 増大列の和が弱可縮であること |
| 包含が定値写像とホモトピックであること(prop-wc-union の (c)) | $X_i:=S^1$(すべての $i$) | 増大列の和が弱可縮であること |
1 行目:ex-wc-warsaw による。2–5 行目:ex-wc-non-examples の 5・4・2・3 による。
6 行目:$i\ge1$ について $A_i:=\{(\cos\theta,\sin\theta)\mid0\le\theta\le2\pi(1-\tfrac1{i+1})\}$ とする。$A_i$ は閉区間と同相で可縮なので、$\operatorname{id}_{A_i}$ は定値写像とホモトピックであり、包含 $A_i\hookrightarrow A_{i+1}$ もそうである。$\theta\in[0,2\pi)$ はある $A_i$ に入るので $\bigcup_iA_i=S^1$ であり、$A_1\ne\emptyset$ である。しかし $S^1$ は弱可縮でない。コンパクト集合 $S^1$ 自身はどの $A_i$ にも含まれず、(b) が成り立たない。
7 行目:$X_i=S^1$ なら (a)(b) は成り立つ($X=S^1$ のコンパクト集合は $X_1$ に含まれる)が、包含は恒等写像 $S^1\to S^1$ で、$\pi_1$ に恒等写像 $\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}$ を誘導するので定値写像とホモトピックでない。和 $S^1$ は弱可縮でない。
弱可縮性は、ホモトピー論の多くの場面で「一点と同じ」という条件として使われる。分類空間の記事では、普遍束の全空間のホモトピー群がすべて消えること、つまり全空間が弱可縮であることが示され、全空間が CW 複体のホモトピー型をもてば thm-wc-cw により可縮になる。単体的集合の弱可縮性は、一点への射が単体的集合の弱ホモトピー同値であることで定まり、∞ 圏論で写像空間が「可縮である」というときの意味になっている(可縮空間の記事の節「単体的集合と∞圏における対応概念」、弱ホモトピー同値の記事の節「単体的集合と ∞ 圏での弱ホモトピー同値」)。位相空間についてはワルシャワ円のように二つの意味が分かれるので、どちらの意味かに注意する。
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