擬指標(位相)(pseudocharacter)とは、$T_1$ 空間 $X$ の点 $x$ について、共通部分がちょうど $\{x\}$ になる開集合の族の最小濃度($\aleph_0$ 以上に補正したもの)$\psi(x,X)$ のことであり、その上限 $\psi(X)$ を空間の擬指標という。つねに指標以下で、$\psi(x,X)=\aleph_0$ は一点集合 $\{x\}$ が $G_\delta$-集合であることと同値である。局所コンパクト Hausdorff 空間では擬指標と指標が一致し、その帰結として、すべての点が $G_\delta$ であるコンパクト Hausdorff 空間は第1可算で、濃度は連続体濃度以下になる。濃度を評価する基数不等式で指標の代わりに現れる基数関数である。
位相空間の点 $x$ のまわりを調べるとき、まず考えるのは $x$ の近傍をいくつ用意すれば近傍全体を代表できるか、つまり基本近傍系の大きさである。これを測るのが 基数関数 の 指標(character)$\chi(x,X)$ だった。これより弱い問い方として、開集合をいくつ用意すれば共通部分がちょうど $\{x\}$ になるか、つまり点 $x$ を開集合で「切り出す」のに何個要るかを考えることができる。この最小の個数が 擬指標(pseudocharacter)$\psi(x,X)$ である。
基本近傍系は共通部分が $\{x\}$ になる開集合族の一例なので($T_1$ 空間の場合)、つねに $\psi(x,X)\le\chi(x,X)$ である。擬指標が $\aleph_0$ であることは、一点集合 $\{x\}$ が G_δ-集合 であることにほかならない。一般には $\psi$ は $\chi$ よりずっと小さくなりうるが、局所コンパクト空間(とくにコンパクト Hausdorff 空間)では両者は一致する。この記事ではこの一致を証明し、その帰結として「すべての点が $G_\delta$ であるコンパクト Hausdorff 空間は第1可算で、濃度は連続体濃度以下である」ことを導く。
なお、Hecke 指標の文脈で「擬指標」と訳される quasi-character(Hecke指標とHecke L関数)は、この記事の概念とは無関係である。
この記事では、基数関数 の記事と同じく、基数関数の値をすべて $\aleph_0$ 以上に補正する。T1空間 とは、一点集合がすべて閉集合である位相空間のことである。
$X$ を $T_1$ 空間、$A\subset X$ とする。$X$ の開集合の族 $\mathcal{V}$ で $\bigcap\mathcal{V}=A$ となるものを、$A$ の $\psi$ 基($\psi$-base)という。$A$ の $\psi$ 基の濃度の最小値を $\psi_0(A,X)$ とし、
$$
\psi(A,X):=\max\{\psi_0(A,X),\aleph_0\}
$$
を $A$ の $X$ における 擬指標(pseudocharacter)という。点 $x\in X$ について $\psi(x,X):=\psi(\{x\},X)$ と書き、
$$
\psi(X):=\sup_{x\in X}\psi(x,X)
$$
を $X$ の 擬指標 という($X=\emptyset$ のときは $\psi(X):=\aleph_0$ とする)。
$T_1$ 空間では、点 $x$ について $\{x\}=\bigcap_{y\ne x}(X\setminus\{y\})$ であり、各 $X\setminus\{y\}$ は開集合である。したがって $\psi$ 基はつねに存在し、$\psi_0(x,X)$ は意味をもつ。$T_1$ でない空間では、$\{x\}$ が開集合の共通部分として書けるとは限らない(たとえば 2 点の密着位相)。開集合の共通部分はつねに $x$ のすべての近傍の共通部分を含むので、$\{x\}$ がある開集合族の共通部分になることは、$x$ の近傍全体の共通部分が $\{x\}$ になることと同じである。
比べる相手として、基数関数 の定義「character」を思い出す。$x$ の開基本近傍系の濃度の最小値を $\chi_0(x,X)$ とし、$\chi(x,X):=\max\{\chi_0(x,X),\aleph_0\}$、$\chi(X):=\sup_x\chi(x,X)$ である。$\chi(x,X)=\aleph_0$ は $x$ で第1可算公理が成り立つことと同じである。
$\chi(x,X)$ は「$x$ に近づく様子」を記述するのに要る情報の量であり、$\psi(x,X)$ は「$x$ をほかの点から区別する」のに要る情報の量である。基本近傍系 $\mathcal{B}$ は、どの近傍 $O$ に対しても $O$ に含まれる元をもつ。$\psi$ 基 $\mathcal{V}$ に要求されるのは、$x$ 以外の各点 $y$ について、$y$ を含まない元が一つあることだけである。$\psi$ 基の有限個の元の共通部分が、与えられた近傍 $O$ に収まるとは限らない。
両者の差は、点の近くに「無限遠に逃げる方向」がたくさんあるときに現れる。後で見る $\mathbb{R}/\mathbb{Z}$(整数全体を 1 点につぶした空間)では、つぶした点は可算個の開集合で切り出せるが、その点に近づく方向が整数の個数だけあって、近傍を可算個で代表することはできない。コンパクト性はこの逃げ道をふさぐ。共通部分が $\{x\}$ になる閉集合族は、コンパクト空間の中では有限個の共通部分の段階で $x$ の任意の近傍に収まる。これが thm-psc-locally-compact の要点である。
$X$ を $T_1$ 空間、$x\in X$ とする。
4 により、擬指標は部分空間に遺伝する。たとえば $\psi(X)=\aleph_0$ なら、$X$ のすべての部分空間で一点集合は $G_\delta$ である。また 1 により、第1可算な $T_1$ 空間(とくに距離空間)では $\psi(X)=\aleph_0$ である。
$X$ を局所コンパクト空間(Hausdorff で、各点がコンパクトな近傍をもつ空間)とする。このとき各点 $x\in X$ について $\psi(x,X)=\chi(x,X)$ であり、したがって $\psi(X)=\chi(X)$ である。とくにコンパクト Hausdorff 空間では $\psi(X)=\chi(X)$ である。
$\psi(x,X)\le\chi(x,X)$ は prop-psc-basic の 1 である。逆向きを示すため、$x$ の $\psi$ 基 $\mathcal{V}$ を一つとり、$\kappa:=\max\{|\mathcal{V}|,\aleph_0\}$ とおく。$x$ の開基本近傍系で濃度 $\kappa$ 以下のものを作れば $\chi(x,X)\le\kappa$ となり、$\mathcal{V}$ は任意だったので $\chi(x,X)\le\psi(x,X)$ が従う。
(準備)$X$ の全体を $x$ の開近傍として $\mathcal{V}$ に加えても、$\psi$ 基であることは変わらず、$\kappa$ も変わらない。そこで $X\in\mathcal{V}$ としてよい。
(閉包がコンパクトな開集合に縮める)局所コンパクト空間 の定理「コンパクト近傍の同値な形」の 3 により、各 $V\in\mathcal{V}$ について、開集合 $W_V$ で
$$
x\in W_V\subset\overline{W_V}\subset V,\qquad \overline{W_V}\text{ はコンパクト}
$$
となるものがある。$\mathcal{V}$ の各元について一つずつ選ぶ(選択公理を使う)。$\overline{W_V}\subset V$ なので
$$
\bigcap_{V\in\mathcal{V}}\overline{W_V}\subset\bigcap\mathcal{V}=\{x\}
$$
であり、左辺は $x$ を含むので $\{x\}$ に等しい。
(有限個の共通部分が基本近傍系になる)$\mathcal{W}$ を、$W_{V_1}\cap\dots\cap W_{V_n}$($n\ge1$、$V_i\in\mathcal{V}$)の形の集合全体とする。各元は $x$ を含む開集合であり、$\mathcal{V}$ の有限部分集合の全体の濃度は $\kappa$ 以下なので $|\mathcal{W}|\le\kappa$ である。$\mathcal{W}$ が $x$ の基本近傍系であることを示す。$O$ を $x$ の開近傍とする。$V_0:=X\in\mathcal{V}$ に対する $K:=\overline{W_{V_0}}$ はコンパクトである。$K$ の閉集合の族
$$
\mathcal{F}:=\{\overline{W_V}\cap K\setminus O\mid V\in\mathcal{V}\}
$$
を考えると、その共通部分は $\{x\}\setminus O=\emptyset$ である。コンパクト空間 $K$ の閉集合の族で共通部分が空なものは、有限個の元の共通部分がすでに空になる(コンパクト空間 の命題「有限交叉性による言い換え」)。よって $V_1,\dots,V_n\in\mathcal{V}$ があって
$$
K\cap\overline{W_{V_1}}\cap\dots\cap\overline{W_{V_n}}\subset O
$$
となる。$W_{V_0}\cap W_{V_1}\cap\dots\cap W_{V_n}$ は $\mathcal{W}$ の元で、左辺に含まれるので $O$ に含まれる。したがって $\mathcal{W}$ は濃度 $\kappa$ 以下の開基本近傍系であり、$\chi_0(x,X)\le\kappa$ である。$\square$
この定理は Engelking89 Theorem 3.3.4(pp. 148–149)にあり、コンパクト Hausdorff 空間の場合は Juh80 1.15(p. 8)に「よく知られた事実」として述べられている。証明で使ったのは、閉包がコンパクトな近傍を十分たくさん取れることと、コンパクト集合の中で閉集合族の共通部分が有限個で決まることだけである。
$X$ を局所コンパクト空間、$x\in X$ とする。
2 は、点を切り出すのに可算個の開集合で足りるという弱い仮定だけから、コンパクト Hausdorff 空間の大きさが連続体濃度で抑えられることを述べている。この仮定は、すべての点で第1可算であるという仮定よりも見かけ上ずっと弱いが、コンパクト Hausdorff 空間の中では同じになる。
距離空間 や $\mathbb{R}^n$ のような第1可算な $T_1$ 空間では、prop-psc-basic の 1 により $\psi(X)=\chi(X)=\aleph_0$ である。可算な $T_1$ 空間でも、prop-psc-basic の 2 により $\psi(X)=\aleph_0$ である。
$\omega_1$ を最小の非可算順序数とし、$[0,\omega_1]$ に順序位相を入れる。これはコンパクト Hausdorff 空間である(順序位相 の命題「順序位相は Hausdorff」「閉順序数区間のコンパクト性」)。終点 $\omega_1$ について $\psi(\omega_1,[0,\omega_1])=\chi(\omega_1,[0,\omega_1])=\aleph_1$ であり、$\{\omega_1\}$ は $G_\delta$-集合でない。
実際、$\omega_1$ を含む開集合の可算族 $\{V_n\}$ をとると、各 $V_n$ は $(\beta_n,\omega_1]$ の形の集合を含む($\beta_n<\omega_1$)。可算個の可算順序数の上限は可算なので $\beta:=\sup_n\beta_n<\omega_1$ であり、$\beta+1\in\bigcap_nV_n$ となる。よって $\bigcap_nV_n\ne\{\omega_1\}$ であり、$\psi(\omega_1,[0,\omega_1])\ge\aleph_1$ である。一方 $|[0,\omega_1]|=\aleph_1$ なので、prop-psc-basic の 2 により $\psi\le\aleph_1$ である。$\chi$ との一致は thm-psc-locally-compact による(順序位相 の命題「非可算終点と点列」は、終点が第1可算でないことを直接示している)。
$\mathbb{R}$ の部分集合 $\mathbb{Z}$ を 1 点 $\ast$ につぶした商空間を $X=\mathbb{R}/\mathbb{Z}$ とし、$q\colon\mathbb{R}\to X$ を商写像とする。$U\subset X$ が開であることは $q^{-1}(U)$ が $\mathbb{R}$ の開集合であることである。このとき $X$ は Hausdorff で、$\psi(\ast,X)=\aleph_0$ だが $\chi(\ast,X)>\aleph_0$ である。
(Hausdorff)$\mathbb{Z}$ に属さない 2 点は、$\mathbb{Z}$ と交わらない十分小さい開区間で分離できる。$t\notin\mathbb{Z}$ と $\ast$ は、$r:=\min_{n\in\mathbb{Z}}\lvert t-n\rvert/2>0$ として、$q((t-r,t+r))$ と $q\bigl(\bigcup_{n\in\mathbb{Z}}(n-r,n+r)\bigr)$ で分離できる。どちらも逆像が開集合で(逆像はそれぞれ $(t-r,t+r)$ と $\bigcup_n(n-r,n+r)$)、互いに交わらない。
($\psi(\ast,X)=\aleph_0$)$k\ge2$ について $U_k:=q\bigl(\bigcup_{n\in\mathbb{Z}}(n-1/k,n+1/k)\bigr)$ とおくと、逆像は $\bigcup_n(n-1/k,n+1/k)$ なので $U_k$ は開集合であり、$\bigcap_k q^{-1}(U_k)=\mathbb{Z}$ から $\bigcap_kU_k=\{\ast\}$ である。
($\chi(\ast,X)>\aleph_0$)$\ast$ の開近傍の可算族 $\{N_k\}_{k\ge1}$ を任意にとる。各 $q^{-1}(N_k)$ は $\mathbb{Z}$ を含む開集合なので、各 $n\ge1$ について $(n-\varepsilon_{k,n},n+\varepsilon_{k,n})\subset q^{-1}(N_k)$ となる $0<\varepsilon_{k,n}<1/2$ がある。$n\ge1$ について $\delta_n:=\varepsilon_{n,n}/2$、$n\le0$ について $\delta_n:=1/4$ とおき、$N:=q\bigl(\bigcup_{n\in\mathbb{Z}}(n-\delta_n,n+\delta_n)\bigr)$ とする。$N$ は $\ast$ の開近傍である。各 $k\ge1$ について $t_k:=k+\tfrac34\varepsilon_{k,k}$ とおくと、$t_k\in q^{-1}(N_k)$ で $t_k\notin\mathbb{Z}$ である。また $\lvert t_k-k\rvert=\tfrac34\varepsilon_{k,k}>\delta_k$ であり、$n\ne k$ については $\lvert t_k-n\rvert\ge1-\tfrac38>\tfrac14\ge\delta_n$ なので、$t_k\notin q^{-1}(N)$ である。よって $q(t_k)\in N_k\setminus N$ であり、どの $N_k$ も $N$ に含まれない。したがって可算な基本近傍系は存在しない。$\square$
この $X$ は局所コンパクトでない(局所コンパクトなら thm-psc-locally-compact により $\chi(\ast,X)=\psi(\ast,X)=\aleph_0$ となる)。点 $\ast$ に近づく方向が整数の個数だけあり、それぞれの方向の近づき方を独立に選べることが、上の対角線的な議論で使われている。
$\kappa$ を非可算基数とし、2 点の離散空間の直積 $D^\kappa:=\{0,1\}^\kappa$(直積位相)を考える。これはコンパクト Hausdorff 空間であり(Tychonoffの定理)、各点で $\psi(x,D^\kappa)=\kappa$ である。
$x$ を含む開集合は、有限個の座標で $x$ と一致する点全体からなる基本開集合を含む。$\kappa$ より少ない個数の開集合の族 $\mathcal{V}$ をとり、各 $V\in\mathcal{V}$ についてそのような有限集合 $S_V\subset\kappa$ を一つ選ぶと、$S:=\bigcup_VS_V$ の濃度は $\max\{|\mathcal{V}|,\aleph_0\}$ 以下であり、$\kappa$ は非可算なのでこれは $\kappa$ より小さい。$\alpha\in\kappa\setminus S$ を一つとり、$x$ の座標 $\alpha$ だけを取り替えた点 $x'$ は $\bigcap\mathcal{V}$ に属する。よって $\psi_0(x,D^\kappa)\ge\kappa$ である。逆に、座標 $\alpha$ で $x$ と一致する点全体 $\{y\mid y_\alpha=x_\alpha\}$($\alpha<\kappa$)は濃度 $\kappa$ の $\psi$ 基である。cor-psc-g-delta-compact の 3 は $|D^\kappa|=2^\kappa\le2^{\psi(D^\kappa)}=2^\kappa$ となり、等号で成り立つ。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 局所コンパクト(thm-psc-locally-compact、Hausdorff は残す) | $\mathbb{R}/\mathbb{Z}$(ex-psc-quotient) | $\psi(x,X)=\chi(x,X)$ |
| 局所コンパクト(cor-psc-g-delta-compact の 1) | $\mathbb{R}/\mathbb{Z}$ の点 $\ast$ | 一点集合が $G_\delta$ ならその点で第1可算 |
| コンパクト(cor-psc-g-delta-compact の 2・3) | 濃度が $2^{\aleph_0}$ を超える離散空間 | $\lvert X\rvert\le2^{\psi(X)}$ |
3 行目の離散空間 $X$ では各一点集合が開集合なので $\psi(X)=\aleph_0$ だが、$|X|>2^{\aleph_0}$ である。離散空間は局所コンパクト Hausdorff 空間なので、3 行目は「局所コンパクト」に弱めても 3 が成り立たないことも示している。
定義どおり、閉集合 $F$ の擬指標 $\psi(F,X)$ も考えられる。Juh80 1.15(p. 8)は、コンパクト Hausdorff 空間では閉集合 $F$ について $\psi(F,X)=\chi(F,X)$(右辺は $F$ の近傍基の最小濃度)が成り立つと述べている。証明は thm-psc-locally-compact と同じく、閉包が $F$ の近傍に収まる開集合をとって有限交叉性を使えばよい。同じ箇所で、閉包の共通部分が $\{x\}$ になる開集合族で測る閉擬指標 $\psi_c$(Hausdorff 空間で定義される)や、対角線 $\Delta\subset X\times X$ の擬指標 $\psi_\Delta(X):=\psi(\Delta,X\times X)$ も導入されている。
擬指標は、位相空間の濃度を評価する不等式で指標の代わりに現れる。Arhangel’skiiの不等式 は Hausdorff 空間 $X$ について $|X|\le2^{\chi(X)L(X)}$ を述べるが、その記事の注意「関連する基数不等式」にあるように、$\chi(X)$ を $\psi(X)$ と tightness $t(X)$ の積に置き換えた Arhangel’skii–Šapirovskii の不等式も知られている(この記事では証明しない)。コンパクト Hausdorff 空間では thm-psc-locally-compact により $\psi=\chi$ なので、cor-psc-g-delta-compact の 3 は Arhangel’skii の不等式そのものから従った。
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