固有写像(proper map)とは、位相空間の間の連続写像 $f\colon X\to Y$ で、$Y$ の任意のコンパクト集合 $K$ の逆像 $f^{-1}(K)$ がコンパクトであるもののことである。無限遠へ逃げる点列を無限遠へ逃がす写像であり、局所コンパクト Hausdorff 空間の間では、一点コンパクト化へ $\infty\mapsto\infty$ で連続に延長できることと同値で、とくに閉写像になる。多項式 $p\colon\mathbb{C}\to\mathbb{C}$ が典型例である。可微分多様体の単射なはめ込みは、固有であるとき、そしてそのときに限り閉埋め込みであり、Whitney の埋め込み定理で使われる。
コンパクト空間からの連続写像は扱いやすい。像はコンパクトであり、終域が Hausdorff 空間なら閉写像になる。しかし実数直線や Euclid 空間のようにコンパクトでない空間からの写像にも、同じように扱える写像がある。多項式 $p(z)$ は $\lvert z\rvert\to\infty$ のとき $\lvert p(z)\rvert\to\infty$ となり、有界な範囲に写る点はまた有界な範囲にしかない。この「無限遠へ行く点は無限遠へ行く」という性質を、コンパクト集合の逆像がコンパクトであることとして定式化したものが固有写像である。可微分多様体の単射なはめ込みは、固有であるとき、そしてそのときに限り閉埋め込みになる。これは Whitney の埋め込み定理で埋め込みを作るときの基本の道具である。
この記事では、位相空間の部分集合 $K$ がコンパクトであるとは、$K$ に相対位相を入れた空間の任意の開被覆が有限部分被覆をもつことをいう(コンパクト空間。Hausdorff 性は含めない)。
位相空間の間の連続写像 $f\colon X\to Y$ が固有写像(proper map)である、あるいは固有であるとは、$Y$ の任意のコンパクト部分集合 $K$ に対し、逆像 $f^{-1}(K)$ が $X$ のコンパクト部分集合であることをいう。
$Y$ がコンパクトなら、$Y$ 自身の逆像 $X$ がコンパクトでなければならない。したがって、コンパクトでない空間からコンパクト空間への連続写像は固有でない。$X\subset\mathbb{R}^k$、$Y\subset\mathbb{R}^n$ の場合、部分集合がコンパクトであることは周りの Euclid 空間の有界閉集合であることと同値なので(コンパクト空間 の記事の定理(有界閉集合とコンパクト性の一致))、固有であることは「$Y$ に含まれる $\mathbb{R}^n$ の有界閉集合の逆像が $\mathbb{R}^k$ の有界閉集合」ということである。
「proper」の意味は文献により異なる。
$X$ がコンパクトでない距離空間のとき、$X$ の点列には「無限遠へ逃げていく」もの(どの部分列も収束しないもの)がある。固有写像とは、そのような点列を $Y$ でも無限遠へ逃がす写像である。実際、$Y$ のコンパクト集合 $K$ に像がとどまる点列は、コンパクト集合 $f^{-1}(K)$ にとどまるので逃げられない。一点コンパクト化で無限遠点 $\infty$ を付け加えると、この直感は「$f$ は $\infty$ を $\infty$ に写すことで連続に延長できる」と正確に言い直せる(thm-proper-map-one-point)。
$f\colon X\to Y$、$g\colon Y\to Z$ を連続写像とする。
1:$K\subset Z$ がコンパクトなら $g^{-1}(K)$ はコンパクトであり、$(g\circ f)^{-1}(K)=f^{-1}(g^{-1}(K))$ もコンパクトである。
2:$K\subset Y$ がコンパクトなら $f|_A^{-1}(K)=f^{-1}(K)\cap A$ は、コンパクト空間 $f^{-1}(K)$ の閉集合なのでコンパクトである。
3:$K\subset Y$ をコンパクトとする。$g(K)$ はコンパクトなので $C:=(g\circ f)^{-1}(g(K))$ はコンパクトであり、$f^{-1}(K)\subset C$ である。$Y$ は Hausdorff なので $K$ は閉集合であり、$f^{-1}(K)$ は $X$ の閉集合である。したがって $f^{-1}(K)=f^{-1}(K)\cap C$ はコンパクト空間 $C$ の閉集合でありコンパクトである。$\square$
$X$ を局所コンパクト Hausdorff 空間とし、$X^*=X\cup\{\infty\}$ をその一点コンパクト化とする。$X^*$ の開集合は、$X$ の開集合と、$X$ のコンパクト集合 $K$ に対する $X^*\setminus K$ であり、$X^*$ はコンパクト Hausdorff 空間である(局所コンパクト空間 の記事の定理(一点を付け加えるコンパクト化))。$\infty$ を含む開集合は後者の形のものに限る。
$X,Y$ を局所コンパクト Hausdorff 空間、$f\colon X\to Y$ を連続写像とし、$f^*\colon X^*\to Y^*$ を $f^*|_X=f$、$f^*(\infty)=\infty$ で定める。このとき $f$ が固有であることと、$f^*$ が連続であることは同値である。
$Y^*$ の開集合の逆像を調べる。$U\subset Y$ が開集合なら $(f^*)^{-1}(U)=f^{-1}(U)$ は $X$ の開集合なので $X^*$ でも開である。$K\subset Y$ がコンパクトなら
$$
(f^*)^{-1}(Y^*\setminus K)=\{\infty\}\cup(X\setminus f^{-1}(K))=X^*\setminus f^{-1}(K)
$$
である。
$f$ が固有なら $f^{-1}(K)$ は $X$ のコンパクト集合なので、右辺は $X^*$ の開集合である。よって $f^*$ は連続である。
逆に $f^*$ が連続なら、$X^*\setminus f^{-1}(K)$ は $\infty$ を含む $X^*$ の開集合なので、$X$ のあるコンパクト集合 $K'$ により $X^*\setminus K'$ と書ける。補集合をとると $f^{-1}(K)=K'$ であり、$f^{-1}(K)$ はコンパクトである。$\square$
$X,Y$ を局所コンパクト Hausdorff 空間とすると、固有写像 $f\colon X\to Y$ は閉写像である。とくに像 $f(X)$ は $Y$ の閉集合である。
thm-proper-map-one-point により $f^*\colon X^*\to Y^*$ は連続であり、$X^*$ はコンパクト、$Y^*$ は Hausdorff なので、閉写像 の記事の定理(コンパクト空間から Hausdorff 空間への連続写像は閉写像)により $f^*$ は閉写像である。$C\subset X$ を閉集合とすると、$X^*\setminus(C\cup\{\infty\})=X\setminus C$ は $X$ の開集合なので $C\cup\{\infty\}$ は $X^*$ の閉集合であり、$f^*(C\cup\{\infty\})=f(C)\cup\{\infty\}$ は $Y^*$ の閉集合である。$Y$ は $Y^*$ の部分空間なので、$f(C)=(f(C)\cup\{\infty\})\cap Y$ は $Y$ の閉集合である。$\square$
この系は、定義域の局所コンパクト性を仮定しない形で 完全写像 の記事の命題(固有写像との関係)が示している:終域 $Y$ が局所コンパクト Hausdorff 空間なら、連続写像 $f$ が固有であることと、$f$ が閉写像で各ファイバーがコンパクトであることは同値である。終域の条件を外すと固有写像は閉写像とは限らない。同じ記事は、離散位相の $\mathbb{R}$ から余可算位相の $\mathbb{R}$ への恒等写像が、固有だが閉写像でない例を挙げている。
$X\subset\mathbb{R}^k$ を閉集合、$f\colon X\to\mathbb{R}^n$ を連続写像とする。次は同値である。
コンパクト集合と有界閉集合が一致すること(コンパクト空間 の記事の定理(有界閉集合とコンパクト性の一致))を使う。
1 ⇒ 2:$\|x_j\|\to\infty$ だが $\|f(x_j)\|\to\infty$ でないとすると、ある $R>0$ と部分列 $(x_{j_i})$ で $\|f(x_{j_i})\|\le R$ となるものがある。閉球 $\bar B(0,R)\subset\mathbb{R}^n$ はコンパクトなので $f^{-1}(\bar B(0,R))$ はコンパクト、とくに有界であるが、これは $\|x_{j_i}\|\to\infty$ に反する。
2 ⇒ 1:$K\subset\mathbb{R}^n$ をコンパクトとする。$f^{-1}(K)$ は $X$ の閉集合であり、$X$ は $\mathbb{R}^k$ の閉集合なので、$f^{-1}(K)$ は $\mathbb{R}^k$ の閉集合である。有界でないとすると、$\|x_j\|\to\infty$ となる点列 $x_j\in f^{-1}(K)$ がとれ、2 により $\|f(x_j)\|\to\infty$ となるが、$f(x_j)\in K$ で $K$ は有界なので矛盾する。よって $f^{-1}(K)$ は有界閉集合であり、コンパクトである。$\square$
$p(z)=a_dz^d+\dots+a_1z+a_0$($d\ge1$、$a_d\neq0$)を複素係数の多項式とし、$\mathbb{C}=\mathbb{R}^2$ とみる。$R_0:=\max\{1,\ 2\sum_{i< d}\lvert a_i\rvert/\lvert a_d\rvert\}$ とおくと、$\lvert z\rvert\ge R_0$ のとき $i\le d-1$ に対し $\lvert z\rvert^i\le\lvert z\rvert^{d-1}$ なので
$$
\lvert p(z)\rvert\ge\lvert a_d\rvert\lvert z\rvert^d-\sum_{i< d}\lvert a_i\rvert\lvert z\rvert^{d-1}=\lvert z\rvert^{d-1}\Bigl(\lvert a_d\rvert\lvert z\rvert-\sum_{i< d}\lvert a_i\rvert\Bigr)\ge\frac{\lvert a_d\rvert}{2}\lvert z\rvert
$$
である。よって prop-proper-map-euclid により $p\colon\mathbb{C}\to\mathbb{C}$ は固有であり、cor-proper-map-closed により像 $p(\mathbb{C})$ は閉集合である。一方、定数でない正則関数は開写像なので(開写像定理(複素解析) の記事の定理(正則写像の開写像定理))、$p(\mathbb{C})$ は開集合でもある。$\mathbb{C}$ は連結で $p(\mathbb{C})$ は空でないので $p(\mathbb{C})=\mathbb{C}$ であり、とくに $p$ は根をもつ。これは代数学の基本定理の一つの証明である。
同様に $f(x)=\|x\|^2$ で定まる $f\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}$ は固有であり、$\mathbb{R}^n$ の閉集合からの写像 $x\mapsto(x,g(x))$(グラフ写像)も、$\|(x,g(x))\|\ge\|x\|$ なので固有である。
ここからは、可微分多様体 の記事と同じく Hausdorff かつ第 2 可算な $C^\infty$ 級多様体を考える。はめ込み(各点で微分が単射な $C^\infty$ 級写像)と埋め込み(像への同相写像であるはめ込み)の定義は はめ込みと埋め込み(可微分多様体) の記事による。
多様体 $N$ は局所コンパクト Hausdorff 空間である。実際、点 $q$ のまわりの座標近傍 $(V,\psi)$ と、$\psi(q)$ を中心とし $\psi(V)$ に含まれる閉球 $\bar B$ をとると、$\psi^{-1}(\bar B)$ はコンパクト集合 $\bar B$ の連続像なのでコンパクトであり、$q$ を含む開集合 $\psi^{-1}(B)$($B$ は同じ中心・半径の開球)を含むので、$q$ のコンパクト近傍である。
$M,N$ を多様体、$F\colon M\to N$ を単射なはめ込みとする。次は同値である。
1 ⇒ 2:$M$ と $N$ は局所コンパクト Hausdorff 空間なので、cor-proper-map-closed により $F$ は閉写像である。$F$ は単射な連続写像で閉写像なので、閉写像 の記事の命題(単射な閉写像と閉な埋め込み)により、$F(M)$ は $N$ の閉集合で $F\colon M\to F(M)$ は同相写像である。$F$ ははめ込みなので、閉埋め込みである。
2 ⇒ 1:$K\subset N$ をコンパクトとする。$F(M)$ は閉集合なので、$K\cap F(M)$ はコンパクト空間 $K$ の閉集合でありコンパクトである。$g\colon M\to F(M)$ を $F$ の終域を制限した同相写像とすると、$F^{-1}(K)=g^{-1}(K\cap F(M))$ は、コンパクト集合の連続写像 $g^{-1}$ による像なのでコンパクトである。
最後の主張は、はめ込みと埋め込み(可微分多様体) の記事の定理(埋め込みの像は部分多様体)による。$\square$
$M$ がコンパクトなら、任意の連続写像 $M\to N$ は固有なので(ex-proper-map-basic)、この定理は「コンパクトな多様体からの単射はめ込みは閉埋め込み」を含む。単射であること、はめ込みであること、固有であることは、いずれも外せない(次の表の最初の 4 行)。表の最後の行は、cor-proper-map-closed の終域の仮定を外した反例である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 固有 | 8 の字 $t\mapsto(\sin2t,\sin t)$($-\pi< t<\pi$) | 単射なはめ込みだが、像への同相写像でない |
| 固有 | $(0,1)\hookrightarrow\mathbb{R}$ | 埋め込みだが、像が閉でない |
| 単射 | 円周からの 8 の字 $[t]\mapsto(\sin2t,\sin t)$($t\in\mathbb{R}/2\pi\mathbb{Z}$) | 固有なはめ込みだが、埋め込みでない |
| はめ込み | $t\mapsto(t^2,t^3)$($\mathbb{R}\to\mathbb{R}^2$) | 固有で単射、像への同相写像だが、像は部分多様体でない |
| 終域が局所コンパクト Hausdorff | 離散位相の $\mathbb{R}$ から余可算位相の $\mathbb{R}$ への恒等写像 | 固有だが閉写像でない |
$C^\infty$ 級写像 $F\colon M\to N$ が局所微分同相写像であるとは、各点 $p\in M$ が、$F(U)$ が開集合で $F|_U\colon U\to F(U)$ が微分同相写像となる開近傍 $U$ をもつことをいう。逆関数定理 の記事の定理(可微分多様体の間の写像の局所可逆性)により、$\dim M=\dim N$ で各点の微分が全単射な写像は局所微分同相写像である。
$M\neq\emptyset$ とし、$N$ を連結な多様体、$F\colon M\to N$ を固有な局所微分同相写像とする。このとき $F$ は全射であり、各ファイバー $F^{-1}(q)$ は有限集合である。
$F(M)$ は開集合である:各点 $p$ の開近傍 $U$ で $F(U)$ が開集合となるものがあり、$F(M)$ はそれらの和集合だからである。$F(M)$ は閉集合でもある:cor-proper-map-closed による。$F(M)$ は空でなく、$N$ は連結なので $F(M)=N$ である。
$q\in N$ とする。$F^{-1}(q)$ は一点集合 $\{q\}$ の逆像なのでコンパクトである。各点 $p\in F^{-1}(q)$ に対し、$F|_U$ が単射となる開近傍 $U$ をとると $U\cap F^{-1}(q)=\{p\}$ なので、$F^{-1}(q)$ は相対位相で離散である。コンパクトな離散空間は、一点集合からなる開被覆が有限部分被覆をもつので有限集合である。$\square$
$F\colon\mathbb{C}\setminus\{0\}\to\mathbb{C}\setminus\{0\}$、$F(z):=z^2$ は、実 2 次元の写像として Jacobi 行列式が $\lvert2z\rvert^2\neq0$ なので局所微分同相写像である。$K\subset\mathbb{C}\setminus\{0\}$ がコンパクトなら、ある $0< r< R$ で $r\le\lvert w\rvert\le R$($w\in K$)であり、$F^{-1}(K)$ は $\mathbb{C}$ の閉集合で $\sqrt r\le\lvert z\rvert\le\sqrt R$ に含まれるので、$\mathbb{C}\setminus\{0\}$ のコンパクト集合である。よって $F$ は固有であり、prop-proper-map-local-diffeo のとおり全射で、各ファイバーは 2 点である。
一方、指数関数 $\exp\colon\mathbb{C}\to\mathbb{C}\setminus\{0\}$ も局所微分同相写像で全射だが、ファイバー $\exp^{-1}(1)=2\pi i\mathbb{Z}$ は無限集合である。これは $\exp$ が固有でない(一点集合 $\{1\}$ の逆像がコンパクトでない)ことの現れであり、prop-proper-map-local-diffeo の固有性を外すと「ファイバーが有限」が成り立たなくなる。開区間の包含 $(0,1)\hookrightarrow\mathbb{R}$ は、固有性を外すと全射性も成り立たなくなる例である。
実は、prop-proper-map-local-diffeo の仮定のもとで $F$ は有限次の被覆空間の射影(被覆写像)である(この記事では証明しない。Ehresmannの補題 の記事の例(自明な束と被覆写像))。これは Ehresmannの補題(固有な沈め込みは局所自明なファイバー束である)の、ファイバーが 0 次元の場合にあたる。
固有写像は、コンパクト台の概念と相性がよい。固有写像 $f\colon X\to Y$ と、$Y$ 上のコンパクト台の連続関数 $\varphi$ に対し、合成 $\varphi\circ f$ の台は $f^{-1}(\operatorname{supp}\varphi)$ に含まれる($f^{-1}(\operatorname{supp}\varphi)$ は $\{\varphi\circ f\neq0\}$ を含む閉集合だから)。$\operatorname{supp}\varphi$ はコンパクトなので $f^{-1}(\operatorname{supp}\varphi)$ はコンパクトであり、閉集合 $\operatorname{supp}(\varphi\circ f)$ はその閉部分集合としてコンパクトである。このため、コンパクト台の関数・微分形式・コホモロジーは固有写像について引き戻せる。
Whitney の埋め込み定理(Whitneyの埋め込み定理)の証明では、まず単射なはめ込み $M\to\mathbb{R}^N$ を作り、それが固有になるように調整することで、thm-proper-map-injective-immersion により閉埋め込みを得る。代数幾何学では、スキームの射について「分離的かつ普遍閉」という条件で固有射を定義する。$\mathbb{C}$ 上の有限型スキームの射が固有射であることと、複素数値点の間の連続写像が(分離的かつ普遍閉という意味で)固有であることは同値である(Stacks26 Section 17 の冒頭(Tag 005M)が SGA 1 を引いて述べている。この記事では証明しない)。
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