特殊相対論

同義語:特殊相対性理論special relativityspecial theory of relativity

概要

特殊相対論(special relativity)とは、慣性系の座標の変換を、物理法則はどの慣性系でも同じ形をとるという相対性原理と、光の速さ $c$ はどの慣性系でも同じであるという光速度不変の原理から決める理論である。座標の変換は光錐を保つアフィン写像になり、相反性と等方性を合わせると Lorentz 変換 $t'=\gamma(t-vx/c^2)$、$x'=\gamma(x-vt)$ が導かれ、同時刻の相対性・時間の遅れ・長さの縮みが従う。粒子の状態は Minkowski 空間の 4 元運動量 $p=(E,\boldsymbol{p})$ で表され、$E^2=|\boldsymbol{p}|^2+m^2$($c=1$)が成り立ち、逆三角不等式から反応が起こるためのエネルギーのしきい値が決まる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Minkowski空間, 線形写像, 双曲線関数

特殊相対論(special relativity)は、互いに等速で動く観測者(慣性系)のあいだの座標の変換を、「物理法則はどの慣性系でも同じ形をとる」という相対性原理と「真空中の光の速さはどの慣性系でも同じ値 $c$ である」という光速度不変の原理から決める理論である。2 つの原理を数学の言葉に直すと、慣性系の座標の変換は光錐を保つアフィン写像であり、そこから Lorentz 変換が出てくる。時間と空間は別々の絶対的な量ではなく、Minkowski空間 という 1 つの 4 次元の幾何の 2 つの見え方になる。
この記事では、まず 2 つの原理から Lorentz 変換を導き、同時刻の相対性・時間の遅れ・長さの縮みを示す。次に 4 元運動量を導入し、逆三角不等式を光的なベクトルまで広げて、粒子の反応が起こるためのエネルギーのしきい値を求め、質量の変わらない粒子が光子を 1 個だけ吸収・放出することはできないことを示す。曲がった時空と重力は 時空・Einstein方程式 で、スピン $\frac12$ の粒子を表す 2 成分のスピノルは Weylスピノル で扱う。

慣性系と 2 つの原理

事象(ある場所である時刻に起こること)の全体を $\mathcal{E}$ と書く。慣性系は各事象に時刻 $t$ と位置 $(x,y,z)$ を割り当てる全単射 $\varphi\colon\mathcal{E}\to\mathbb{R}^4$ である。時間を長さの単位で測るため $x^0:=ct$ とおき、$X=(x^0,x^1,x^2,x^3)=(ct,x,y,z)$ と書く。$\mathbb{R}^4$ に
$$ \langle X,Y\rangle:=-x^0y^0+x^1y^1+x^2y^2+x^3y^3 $$
を考える。これは時間の座標を最初に書いた $4$ 次元の Minkowski 空間であり(時空 の流儀。座標の順を入れ替えれば Minkowski空間 の $\mathbb{R}^{3,1}$)、$\langle\ ,\ \rangle$ を保つ線形変換の群を Lorentz 群 $\mathrm{O}(1,3)$ と書く。$0$ でない $X$ は $\langle X,X\rangle<0$ のとき時間的、$=0$ のとき光的、$>0$ のとき空間的であり、時間的または光的で $x^0>0$ のものを未来向きという。

特殊相対論の原理

慣性系の集まりが次の 2 つを満たすとする。

  1. (相対性原理と一様性) 2 つの慣性系 $\varphi,\varphi'$ の座標の変換 $F:=\varphi'\circ\varphi^{-1}\colon\mathbb{R}^4\to\mathbb{R}^4$ はアフィンな全単射である。すなわち可逆な線形写像 $L$ と $a\in\mathbb{R}^4$ によって $F(X)=LX+a$ と書ける。
  2. (光速度不変の原理) 異なる 2 つの事象 $p,q$ が光の信号で結べることは、ある(したがってすべての)慣性系 $\varphi$ で $\langle\varphi(p)-\varphi(q),\varphi(p)-\varphi(q)\rangle=0$ となることと同値である。
    1 つ目は、空間と時間に特別な点や向きがなく、等速直線運動が等速直線運動に写ることを表す。2 つ目は、光が各慣性系で速さ $c$ の直線上を進む($|\Delta\boldsymbol{x}|=c\,|\Delta t|$)ことを表す。
慣性系の間の変換

def-sr-postulates のもとで、2 つの慣性系の座標の変換 $F(X)=LX+a$ の線形部分は、ある $\lambda>0$ と $\Lambda\in\mathrm{O}(1,3)$ によって $L=\lambda\Lambda$ と書ける。

光的なベクトル $N$ をとる。$\varphi$ で $X$ と $X+N$ に写る 2 つの事象は、原理 2 により光の信号で結べる。$\varphi'$ ではこれらは $F(X)$ と $F(X+N)$ に写るので、原理 2 を $\varphi'$ に使うと $F(X+N)-F(X)=LN$ は光的である。よって $L$ は光的なベクトルの全体を光的なベクトルの全体に写す線形同型である。空間の次元は $3\ge2$ なので、Minkowski空間 の定理「光錐を保つ線形写像」により $L=\lambda\Lambda$($\lambda>0$、$\Lambda\in\mathrm{O}(1,3)$)である。$\square$

この定理の写像 $X\mapsto\Lambda X+a$($\lambda=1$ の場合)のなす群が Poincaré 群である(Minkowski空間)。尺度 $\lambda$ は 2 つの原理だけでは決まらず、次の節で「相反性」と「等方性」を加えて $\lambda=1$ を出す。

Lorentz 変換

慣性系 $S'$ が慣性系 $S$ に対して $x$ 軸の向きに一定の速さ $v$ で動き、時刻 $0$ に両者の原点が重なっている状況を考える。

標準配置

$v\in\mathbb{R}$ とする。$S$ から $S'$ への座標の変換 $F$ が次を満たすとき、$S'$ は $S$ に対して速度 $v$ の 標準配置 にあるという。

  1. $F(0)=0$(したがって $F=L$ は線形)。
  2. $S'$ の原点の世界線は、$S$ では $x=vt$、$y=z=0$ である。
  3. $L$ は $(x^0,x^1)$ 平面をそれ自身に写し、正の数 $\alpha,\alpha'$ によって $Le_2=\alpha e_2$、$Le_3=\alpha'e_3$ である($y$ 軸・$z$ 軸は向きを変えずに平行)。
  4. $L$ は未来向きのベクトルを未来向きのベクトルに写し、$Le_1$ の $x^1$ 成分は正である($x$ 軸の向きを変えない)。
    ここで $e_0,\dots,e_3$ は標準基底である。

$\beta:=v/c$、$\gamma:=1/\sqrt{1-\beta^2}$($|\beta|<1$ のとき)とおき、線形変換 $B(v)$ を
$$ ct'=\gamma(ct-\beta x),\qquad x'=\gamma(x-\beta ct),\qquad y'=y,\qquad z'=z $$
で定める。これを速度 $v$ の Lorentz 変換(boost)という。$\theta:=\operatorname{artanh}\beta$ とおくと $\gamma=\cosh\theta$、$\beta\gamma=\sinh\theta$ であり、$B(v)$ は Minkowski空間 の例「boost と速度の合成」の boost(向きは逆)である。

Lorentz 変換の導出

$S'$ が $S$ に対して速度 $v$ の標準配置にあるとする。

  1. $|v|< c$ であり、ある $\lambda(v)>0$ によって $L=\lambda(v)B(v)$ と書ける。
  2. さらに、尺度 $\lambda$ は速度だけで決まる($\lambda=\lambda(v)$ は慣性系の組によらない)とし、$S$ に対して速度 $v$ で動く系から見て速度 $-v$ で動く系は $S$ と一致する(相反性:$L(-v)L(v)=I$)、および $\lambda(v)=\lambda(-v)$(等方性:動く向きを逆にしても横方向の尺度は変わらない)を仮定すると、$\lambda(v)=1$、すなわち $L=B(v)$ である。

1.thm-sr-poincare により $L=\lambda\Lambda$($\lambda>0$、$\Lambda\in\mathrm{O}(1,3)$)である。標準配置の 3 から $\Lambda e_2=(\alpha/\lambda)e_2$ で、$\langle\Lambda e_2,\Lambda e_2\rangle=\langle e_2,e_2\rangle=1$ から $\alpha=\lambda$ である。同様に $\alpha'=\lambda$ である。また $\Lambda$ は $(x^0,x^1)$ 平面 $P$ をそれ自身に写す。
$w:=\Lambda e_0\in P$ は $\langle w,w\rangle=-1$ をみたし、標準配置の 4 から $w^0>0$ なので、$(w^0)^2-(w^1)^2=1$ より $w=(\cosh\phi,\sinh\phi)$ となる $\phi\in\mathbb{R}$ がただ 1 つある。$\Lambda e_1\in P$ は $w$ と直交し $\langle\Lambda e_1,\Lambda e_1\rangle=1$ をみたす。$P$ の中で $w$ に直交するベクトルは $(\sinh\phi,\cosh\phi)$ の実数倍で、その長さの条件から $\Lambda e_1=\pm(\sinh\phi,\cosh\phi)$ であり、標準配置の 4 から符号は $+$ である。よって
$$ x'^0=\lambda(\cosh\phi\,x^0+\sinh\phi\,x^1),\qquad x'^1=\lambda(\sinh\phi\,x^0+\cosh\phi\,x^1) $$
である。標準配置の 2 から、$(x^0,x^1)=(ct,vt)$ に対し $x'^1=\lambda t(c\sinh\phi+v\cosh\phi)=0$ がすべての $t$ で成り立つので、$\tanh\phi=-v/c$ である。$\tanh$ の値は $(-1,1)$ に入るので $|v|< c$ であり、$\cosh\phi=\gamma$、$\sinh\phi=-\beta\gamma$ となる。これを代入すると $L=\lambda B(v)$ を得る。
2.$B(v)$ は $\phi=-\operatorname{artanh}\beta$ の双曲回転なので、$\cosh$・$\sinh$ の加法定理から $B(-v)B(v)=I$ である。相反性から $I=L(-v)L(v)=\lambda(-v)\lambda(v)I$、すなわち $\lambda(v)\lambda(-v)=1$ である。等方性と合わせて $\lambda(v)^2=1$ で、$\lambda(v)>0$ から $\lambda(v)=1$ である。$\square$

1 の証明が示すとおり、2 つの原理と標準配置から「慣性系は光より速くは動けない」ことが従う。2 の論法(相反性と等方性から尺度を $1$ に決める)は Ein05 §3 にある。$y'=\lambda y$ なので、$\lambda$ は運動に垂直な方向の長さの尺度であり、2 は「運動に垂直な長さは変わらない」ことを言っている。

Galilei 変換Lorentz 変換
時刻$t'=t$$t'=\gamma(t-vx/c^2)$
位置$x'=x-vt$$x'=\gamma(x-vt)$
保つもの時間差 $\Delta t$ と同時刻での距離$-c^2\Delta t^2+\lvert\Delta\boldsymbol{x}\rvert^2$
光の速さ系により $c\pm v$どの系でも $c$
$c\to\infty$ の極限Galilei 変換になる

同時刻の相対性・時間の遅れ・長さの縮み

以下 $L=B(v)$、$v\ne0$、$|v|< c$ とする。逆変換は $v$ を $-v$ にしたもの $t=\gamma(t'+vx'/c^2)$、$x=\gamma(x'+vt')$ である。

運動学の 3 つの効果
  1. (同時刻の相対性) $S$ で同時刻 $t$ に位置 $x_1\ne x_2$ で起こる 2 つの事象は、$S'$ では時刻の差 $t'_2-t'_1=-\gamma v(x_2-x_1)/c^2\ne0$ をもつ。
  2. (時間の遅れ) $S'$ の 1 点 $x'=\text{一定}$ に静止した時計が時間 $\Delta t'$ を刻む間に、$S$ の時刻は $\Delta t=\gamma\Delta t'$ だけ進む。
  3. (長さの縮み) $S'$ に静止し両端が $x'_1< x'_2$ にある棒の長さを $\ell_0:=x'_2-x'_1$ とする。$S$ で同じ時刻に測った両端の位置の差は $\ell=\ell_0/\gamma$ である。

1 は $t'=\gamma(t-vx/c^2)$ に $t$ を固定して $x_1,x_2$ を代入すればよい。2 は逆変換 $t=\gamma(t'+vx'/c^2)$ で $x'$ を固定すれば $\Delta t=\gamma\Delta t'$ である。3 は $x'=\gamma(x-vt)$ で $t$ を固定すれば $\Delta x'=\gamma\Delta x$、すなわち $\ell_0=\gamma\ell$ である。$\square$

$\gamma>1$ なので、動いている時計は遅れ、動いている棒は運動の向きに縮んで見える。どちらも「どの事象を同時とみなすか」が系によって違うこと(1)の帰結であり、互いに相手の時計が遅れて見えることに矛盾はない。時計を往復させたときの経過時間の差(双子のパラドックス)は、Minkowski空間 の例「双子のパラドックス」で逆三角不等式から説明されている。

速く動く不安定な粒子

静止しているときの平均寿命が $\tau_0$ の不安定な粒子が、速さ $v=0.995c$ で飛ぶとする。$\gamma=1/\sqrt{1-0.995^2}\approx10.0$ なので、prop-sr-kinematics の 2 により地上の時計では平均寿命は約 $10\tau_0$ になり、平均で約 $0.995c\times10\tau_0\approx10\,c\tau_0$ の距離を飛ぶ。時間の遅れを考えなければ $c\tau_0$ 程度しか飛ばないはずで、10 倍の違いが出る。粒子とともに動く系から見れば、寿命は $\tau_0$ のままで、代わりに地上の距離が $1/\gamma$ に縮んでいる(prop-sr-kinematics の 3)。

速度の合成則 $(v_1+v_2)/(1+v_1v_2/c^2)$ は、boost の双曲角が加法的であることから従う(Minkowski空間 の例「boost と速度の合成」)。

4 元運動量

以下、単位を選んで $c=1$ とする($x^0=t$)。未来向きの時間的・光的なベクトル $p$ について $|p|:=\sqrt{-\langle p,p\rangle}\ge0$ とおく(光的なら $|p|=0$)。

固有時間・4 元速度・4 元運動量

質量をもつ粒子の世界線を、接ベクトルがつねに未来向きで時間的な滑らかな曲線 $X(s)$ とする。$\tau(s):=\int_{s_0}^s|X'(\sigma)|\,d\sigma$ を 固有時間(粒子とともに動く時計の示す時間)といい、$\tau$ で径数づけたときの $u:=dX/d\tau$ を 4 元速度 という。$\langle u,u\rangle=-1$ である。質量 $m>0$ の粒子の 4 元運動量 を $p:=mu$ と定め、慣性系での成分を $p=(E,\boldsymbol{p})$ と書いて $E$ を エネルギー、$\boldsymbol{p}$ を 運動量 という。光子のような質量 $0$ の粒子の 4 元運動量は、$0$ でない未来向きの光的なベクトルである。どちらの場合も $m=|p|$ である。

慣性系で粒子の速度を $\boldsymbol{v}=d\boldsymbol{x}/dt$($|\boldsymbol{v}|<1$)とすると、$X=(t,\boldsymbol{x}(t))$ から $d\tau=\sqrt{1-|\boldsymbol{v}|^2}\,dt$ であり、$\gamma:=1/\sqrt{1-|\boldsymbol{v}|^2}$ として
$$ u=\gamma(1,\boldsymbol{v}),\qquad E=m\gamma,\qquad \boldsymbol{p}=m\gamma\boldsymbol{v} $$
となる。$d\tau=dt/\gamma$ は prop-sr-kinematics の 2 を各瞬間に当てはめたものである。

エネルギーと運動量の関係

質量 $m\ge0$ の粒子について $E^2=|\boldsymbol{p}|^2+m^2$ である。$m>0$ なら、$|\boldsymbol{v}|\to0$ で
$$ E=m+\frac12m|\boldsymbol{v}|^2+O(|\boldsymbol{v}|^4) $$
である。

$m^2=|p|^2=-\langle p,p\rangle=E^2-|\boldsymbol{p}|^2$ である。後半は $(1-x)^{-1/2}=1+\frac12x+O(x^2)$ に $x=|\boldsymbol{v}|^2$ を代入すればよい。$\square$

$c$ を戻すと、静止した粒子のエネルギーは $E=mc^2$ であり、第 2 項は Newton 力学の運動エネルギーである。質量がエネルギーの尺度であることは Ein05b(p. 641)で述べられた。
物理法則として、粒子の衝突や崩壊の前後で 4 元運動量の総和が保存される ことを認める。成分で言えばエネルギーの保存と運動量の保存をまとめたものである。この法則と次の不等式から、反応が起こるための条件が決まる。

光的なベクトルを含む逆三角不等式

$p,q$ を $0$ でない未来向きの時間的または光的なベクトルとする。

  1. $-\langle p,q\rangle\ge|p||q|$ である。とくに $-\langle p,q\rangle\ge0$ である。
  2. $p$ が時間的で $q$ が光的なら $-\langle p,q\rangle>0$ である。
  3. $p+q$ は未来向きの時間的または光的なベクトルで、$|p+q|\ge|p|+|q|$ である。
    したがって、$0$ でない未来向きの時間的または光的なベクトル $p_1,\dots,p_k$ の和 $P$ について $|P|\ge|p_1|+\dots+|p_k|$ である。

$p=(a,\boldsymbol{a})$、$q=(b,\boldsymbol{b})$ と書くと、仮定は $a\ge|\boldsymbol{a}|$、$b\ge|\boldsymbol{b}|$、$a,b>0$ である。
1.Cauchy–Schwarz の不等式から $-\langle p,q\rangle=ab-\boldsymbol{a}\cdot\boldsymbol{b}\ge ab-|\boldsymbol{a}||\boldsymbol{b}|\ge0$ である。さらに
$$ \bigl(ab-|\boldsymbol{a}||\boldsymbol{b}|\bigr)^2-\bigl(a^2-|\boldsymbol{a}|^2\bigr)\bigl(b^2-|\boldsymbol{b}|^2\bigr)=\bigl(a|\boldsymbol{b}|-b|\boldsymbol{a}|\bigr)^2\ge0 $$
で、両辺の正の平方根をとると $ab-|\boldsymbol{a}||\boldsymbol{b}|\ge|p||q|$ を得る。
2.$a>|\boldsymbol{a}|$、$b=|\boldsymbol{b}|>0$ なので $ab-|\boldsymbol{a}||\boldsymbol{b}|=b(a-|\boldsymbol{a}|)>0$ である。
3.$a+b\ge|\boldsymbol{a}|+|\boldsymbol{b}|\ge|\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b}|$ かつ $a+b>0$ なので $p+q$ は未来向きの時間的または光的である。1 から
$$ |p+q|^2=|p|^2+|q|^2-2\langle p,q\rangle\ge|p|^2+|q|^2+2|p||q|=(|p|+|q|)^2 $$
である。最後の主張は 3 を $k$ についての帰納法で使えばよい。$\square$

両方が時間的な場合は Minkowski空間 の定理「逆三角不等式」である。ここでは光子を含む反応を扱うため、光的なベクトルも許した。

反応のしきい値

質量 $m_1\ge0$、エネルギー $E$ の粒子 1 が、静止した質量 $m_2>0$ の粒子 2 に当たり、質量 $M_1,\dots,M_k>0$($k\ge2$)の粒子が生じる反応を考え、$M:=M_1+\dots+M_k$ とおく。始状態の 4 元運動量の和を $P$ とし、$s:=|P|^2$ とおく。

  1. $s=m_1^2+m_2^2+2m_2E$ である。
  2. 4 元運動量の総和を保つ終状態($|q_i|=M_i$ をみたす未来向きの時間的なベクトル $q_1,\dots,q_k$ で $q_1+\dots+q_k=P$ となるもの)があることは、$s\ge M^2$ と同値である。
    したがって、この反応が起こりうるための条件は
    $$ E\ge E_{\mathrm{th}}:=\frac{M^2-m_1^2-m_2^2}{2m_2} $$
    である。

1.$p_1=(E,\boldsymbol{p}_1)$、$p_2=(m_2,\boldsymbol{0})$ なので $\langle p_1,p_2\rangle=-m_2E$ であり、$s=-\langle p_1+p_2,p_1+p_2\rangle=m_1^2+m_2^2-2\langle p_1,p_2\rangle=m_1^2+m_2^2+2m_2E$ である。
2.(必要性)そのような $q_i$ があれば、lem-sr-causal により $\sqrt s=|P|=|q_1+\dots+q_k|\ge M_1+\dots+M_k=M$ である。
(十分性)$s\ge M^2$ とする。$P$ は lem-sr-causal の 3 により未来向きで、$|P|^2=s\ge M^2>0$ なので時間的である。$P/|P|$ は未来向きで $\langle\ ,\ \rangle$ の値が $-1$ のベクトルなので、これを $e_0$ に写す順時 Lorentz 変換 $\Lambda$ がある(Minkowski空間 の定理「Lorentz 群の連結成分」の証明の 1 で作った boost の逆)。$\Lambda P=(\sqrt s,\boldsymbol{0})$ である(重心系)。$\rho\ge0$ の関数
$$ f(\rho):=\sqrt{M_1^2+\rho^2}+\sqrt{M_2^2+\rho^2}+M_3+\dots+M_k $$
は連続で、$f(0)=M\le\sqrt s$、$\rho\to\infty$ で $f(\rho)\to\infty$ なので、中間値の定理 により $f(\rho)=\sqrt s$ となる $\rho$ がある。重心系で
$$ q'_1:=\bigl(\sqrt{M_1^2+\rho^2},\rho\boldsymbol{n}\bigr),\quad q'_2:=\bigl(\sqrt{M_2^2+\rho^2},-\rho\boldsymbol{n}\bigr),\quad q'_i:=(M_i,\boldsymbol{0})\ (i\ge3) $$
とおく($\boldsymbol{n}$ は空間の単位ベクトル)。これらは未来向きの時間的で $|q'_i|=M_i$、和は $(\sqrt s,\boldsymbol{0})=\Lambda P$ である。$q_i:=\Lambda^{-1}q'_i$ とおけば、$\Lambda^{-1}$ は $\langle\ ,\ \rangle$ と未来向きを保つので、$q_i$ が求めるものである。
最後の主張は 1 と 2 から $m_2E\ge\frac12(M^2-m_1^2-m_2^2)$ を書き直したものである。$\square$

$E=E_{\mathrm{th}}$ のとき $s=M^2$ で、重心系ではすべての生成粒子が静止している(重心系での粒子 $i$ の運動量を $\boldsymbol{q}_i$ とすると、そのエネルギーは $\sqrt{M_i^2+\lvert\boldsymbol{q}_i\rvert^2}\ge M_i$ で、和が $\sqrt s=M$ なので等号が成り立ち、$\boldsymbol{q}_i=\boldsymbol{0}$ である)。始状態のエネルギーのうち重心の運動に使われる分は反応に使えないので、しきい値での運動エネルギー
$$ E_{\mathrm{th}}-m_1=\frac{M^2-(m_1+m_2)^2}{2m_2}=\frac{(M-m_1-m_2)(M+m_1+m_2)}{2m_2} $$
は、静止エネルギーの差 $M-m_1-m_2$ の $\frac{M+m_1+m_2}{2m_2}$ 倍である。$m_1$ と $M$ を固めると、この倍率は標的が軽いほど大きい。また倍率から $1$ を引いた $\frac{(M-m_1-m_2)+2m_1}{2m_2}$ は、標的の質量 $m_2$ が $m_1$ と $M-m_1-m_2$ の両方に比べて大きいときに小さく、そのとき倍率は $1$ に近い(ex-sr-antiproton では $3$ 倍)。

反陽子の生成

陽子の質量を $m$ とし、静止した陽子に陽子を当てて陽子 3 個と反陽子 1 個(質量 $m$)を作る反応を考える。$m_1=m_2=m$、$M=4m$ なので
$$ E_{\mathrm{th}}=\frac{16m^2-2m^2}{2m}=7m $$
であり、運動エネルギー $E-m$ にして $6m$ が要る。$m$ を約 $0.94\,\mathrm{GeV}$ とすると約 $5.6\,\mathrm{GeV}$ である。重心系で正面衝突させれば、各陽子の運動エネルギーは $m$ ずつで足りる。

自由な粒子は光子を 1 個だけ吸収できない

$m>0$ とする。$|p|=|p'|=m$ をみたす未来向きの時間的なベクトル $p,p'$ と、$0$ でない未来向きの光的なベクトル $k$ で $p+k=p'$ となるものはない。同様に $p=p'+k$ となるものもない。したがって質量 $m$ の粒子が光子 1 個を吸収または放出して質量 $m$ のまま残る反応は起こらない。

$p+k=p'$ なら、$\langle k,k\rangle=0$ と lem-sr-causal の 2 から $m^2=|p'|^2=|p|^2-2\langle p,k\rangle>m^2$ となり矛盾する。$p=p'+k$ のときは $p'$ と $k$ について同じ議論をすればよい。$\square$

電子が光子を吸収・放出するには、原子核のような第 3 の物体か、質量の違う状態(原子の励起状態)が要る。

条件を外したときの反例

外す条件反例成り立たなくなること
光速度不変の原理(thm-sr-poincare)Galilei 変換 $t'=t$、$x'=x-vt$($v\ne0$)線形部分が $\lambda\Lambda$ の形
等方性 $\lambda(v)=\lambda(-v)$(thm-sr-lorentz の 2)$L(v)=e^{\kappa v}B(v)$($\kappa\ne0$)$\lambda(v)=1$
終状態の粒子が 2 個以上(thm-sr-threshold)$m_1=m_2=m$、終状態が質量 $2m$ の粒子 1 個、$E>m$$s\ge M^2$ なら反応が起こりうる
終状態の質量が始状態と同じ(prop-sr-no-photon)質量 $m$ の原子が光子を吸収して質量 $M>m$ の励起状態になる光子 1 個の吸収が起こらない
表の反例の確かめ

各行を確かめる。

確認を開く

1 行目:Galilei 変換はアフィンな全単射なので原理 1 を満たす。光的なベクトル $(1,1,0,0)$ を $(1,1-v,0,0)$ に写し、これは $v\ne0$ なら光的でない。よって線形部分は光錐を保たず、$\lambda\Lambda$ の形でない。

2 行目:$L(v)=e^{\kappa v}B(v)$ は標準配置の 1〜4 を満たし、$L(-v)L(v)=e^{-\kappa v}e^{\kappa v}B(-v)B(v)=I$ なので相反性も満たす。しかし $\lambda(v)=e^{\kappa v}\ne1$($v\ne0$)である。

3 行目:$s=2m^2+2mE>4m^2=M^2$ であるが、終状態の粒子が 1 個なら $q_1=P$ で $|q_1|^2=s\ne4m^2$ となり、$|q_1|=2m$ にできない。1 個の場合に起こりうるのは $s=M_1^2$ のときだけである。

4 行目:原子の静止系で $p=(m,\boldsymbol{0})$、$k=(\omega,\omega e)$($\omega>0$)とすると、$p':=p+k$ は未来向きの時間的で $|p'|^2=(m+\omega)^2-\omega^2=m^2+2m\omega$ である。$M:=\sqrt{m^2+2m\omega}>m$ とおけば、質量 $M$ の状態への吸収は 4 元運動量の保存と両立する。

補足:電磁気学と一般相対論

特殊相対論は、Maxwell の方程式が Lorentz 変換で形を変えないことと合わせて成立した。その変換則は Ein05 §6 で導かれている(この記事では証明しない)。特殊相対論では重力を扱えない。重力を時空の曲がりとして取り込むと、平坦な Minkowski 空間は一般の 時空(Lorentz 多様体)に置き換わり、計量は Einstein方程式 で決まる。各点の接空間は Minkowski 空間であり、局所的にはこの記事の内容がそのまま成り立つ。また、Lorentz 群の恒等成分 $\mathrm{SO}^+(1,3)$ は $\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})$ で二重に被覆され(SL(2,C)とSO^+(1,3))、その 2 次元の表現であるスピノルが電子などスピン $\frac12$ の粒子を記述する(Weylスピノル)。

関連項目

参考文献

[1]
Albert Einstein, Zur Elektrodynamik bewegter Körper, Annalen der Physik (4) 17 (1905), 891–921, 1905, §3(座標の変換の導出と尺度 φ(v)=1 の決定)、§4(長さの縮みと時計の遅れ)、§6(Maxwell–Hertz の方程式の変換)
[2]
Albert Einstein, Ist die Trägheit eines Körpers von seinem Energieinhalt abhängig?, Annalen der Physik (4) 18 (1905), 639–641, 1905, p. 641(質量はエネルギーの尺度であるという結論)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する