Lefschetzの(1,1)定理(Lefschetz (1,1) theorem)とは、コンパクト Kähler 多様体 $X$ の整係数の 2 次コホモロジー類が正則直線束の第 1 Chern 類になるための必要十分条件は、複素係数に移した類が Hodge 分解の $(1,1)$ 成分に入ることである、という定理である。より一般に任意の複素多様体で、整数的な de Rham 類をもつ実の閉 $(1,1)$ 形式は、ある正則直線束のある Hermite 計量の曲率形式に形式として一致する。帰結として、コンパクト Kähler 多様体の Néron–Severi 群は有限生成で階数が $h^{1,1}$ 以下であり、連結なら第 1 Chern 類が $0$ の直線束の群は $h^{0,1}$ 次元の複素トーラスになる。
前提知識: 第1Chern類, 正則直線束, Hermite計量, Čech–de Rham複体, Dolbeault–Grothendieckの補題, Hodge分解
Lefschetzの(1,1)定理(Lefschetz (1,1) theorem)は、複素多様体 $X$ の整係数の 2 次コホモロジー類のうち、どれが正則直線束の第 1 Chern 類になるかを答える定理である。コンパクト Kähler 多様体では、答えは「複素係数に移したとき Hodge 分解の $(1,1)$ 成分に入る整係数類」、すなわち整係数 $(1,1)$ 類の全体であり、第 1 Chern 類の像として Néron–Severi 群が定まる。
この記事では、定理を次の形で証明する。任意の複素多様体について、整係数類 $\alpha$ が正則直線束の第 1 Chern 類であることと、$\alpha$ の実係数の de Rham 類が実の閉 $(1,1)$ 形式を含むことは同値であり、しかもその形式は、ある Hermite 計量の曲率形式としてそのまま実現できる。証明は、局所的なポテンシャル $\varphi_a$ を Čech 余鎖の言葉で貼り合わせ、整数の障害をちょうど与えられた類に合わせる、という具体的な構成である。コンパクト Kähler 多様体での古典的な形と、$\operatorname{Pic}^0(X)$ が複素トーラスであることは、そこから Hodge 分解を通して従う。
$X$ を複素次元 $n$ の複素多様体(Hausdorff で第 2 可算)とする。正則直線束 $L$ の局所枠 $e_a$(開集合 $U_a$ 上)の変換関数 $g_{ab}\in\mathcal O^*(U_a\cap U_b)$ を $e_b=g_{ab}e_a$ で定め、Hermite 計量 $h$ について $h_a:=h(e_a,e_a)$ とおくと $h_b=|g_{ab}|^2h_a$ である。$L$ の第 1 Chern 類 $c_1(L)\in H^2(X;\mathbb Z)$、曲率形式
$$
\Theta_h:=\frac{i}{2\pi}\,\bar\partial\partial\log h_a\qquad(U_a\text{ 上})
$$
は 第1Chern類 の定義「指数完全列による定義」「曲率形式による定義」のとおりとする。$\Theta_h$ は実の閉 $(1,1)$ 形式である。Čech 余鎖は交代的なものを使い、$U_{ab}:=U_a\cap U_b$ などと書き、差分作用素は $(\delta f)_{abc}=f_{bc}-f_{ac}+f_{ab}$ である。
$C^\infty$ 級多様体の開被覆が良い被覆であるとは、空でない有限個の交わりがどれも $\mathbb R^{2n}$ と微分同相であることをいう。良い被覆は開被覆のなかで共終である(Čech–de Rham複体 の定義「良い被覆と被覆の Čech コホモロジー」の後の段落)。良い被覆 $\mathfrak U$ については、Čech–de Rham複体 の定理「de Rham と Čech の同型」により同型
$$
\Psi_{\mathfrak U}:=i_*^{-1}\circ r_*\colon H^\bullet_{dR}(X;\mathbb R)\xrightarrow{\ \cong\ }\check H^\bullet(\mathfrak U,\mathbb R)
$$
があり、交わりの上の定数層は正の次数のコホモロジーをもたないので、Lerayの定理(非輪状被覆) により $\check H^\bullet(\mathfrak U,\mathbb Z)\cong H^\bullet(X;\mathbb Z)$、$\check H^\bullet(\mathfrak U,\mathbb R)\cong H^\bullet(X;\mathbb R)$ である。
1 の $\alpha_{\mathbb R}$ は良い被覆のとり方によらず、層コホモロジーの係数の拡大 $H^2(X;\mathbb Z)\to H^2(X;\mathbb R)$ と de Rham の定理の合成に一致する(2 つの良い被覆の共通の細分となる良い被覆をとり、Čech–de Rham 複体の細分写像が増大写像 $r$ と包含 $i$ の両方と両立することによる)。以下ではこの記述だけを使う。指数完全列の長完全列(第1Chern類 の定義「指数完全列による定義」の後の段落)により
$$
\operatorname{NS}(X)=\ker\bigl(H^2(X;\mathbb Z)\to H^2(X,\mathcal O_X)\bigr),\qquad \operatorname{Pic}^0(X)=\operatorname{Im}\bigl(H^1(X,\mathcal O_X)\to\operatorname{Pic}(X)\bigr)
$$
である。
$X$ を複素多様体、$\alpha\in H^2(X;\mathbb Z)$ とする。
$X$ をコンパクト Kähler 多様体とする。
1 と後の thm-lef11-pic0 は Dem12 Ch. VI §9.1(pp. 314–315)の記述にあたる。1 の最初の 2 条件の同値は、Kähler でないコンパクト複素多様体でも同じ証明で成り立つ。Kähler の仮定は、2 の階数の評価と 3 の言い換えで、Hodge 分解と Hodge 対称性を使うために要る。
$\Delta(r)\subset\mathbb C^n$ を多重円板、$\omega$ を $\Delta(r)$ 上の実の閉 $(1,1)$ 形式とする。$\Delta(r')\Subset\Delta(r)$ となる多重円板の上で、実数値 $C^\infty$ 関数 $\varphi$ で $\omega=\frac{i}{2\pi}\partial\bar\partial\varphi$ となるものがある。
要点:Poincaré の補題で $\omega=d\eta$($\eta$ は実)と書き、$\eta$ の $(0,1)$ 成分を Dolbeault–Grothendieck の補題で $\bar\partial f$ と書くと、$\omega=\partial\bar\partial(f-\bar f)$ となる。
$\Delta(r)$ は中心について星型なので、Poincaréの補題 の定理「Poincaré の補題($C^\infty$ 版)」により実の 1 形式 $\eta$ で $d\eta=\omega$ となるものがある。$\eta=\eta^{1,0}+\eta^{0,1}$ と型に分けると、$\eta$ が実なので $\eta^{1,0}=\overline{\eta^{0,1}}$ である。$d\eta$ の $(0,2)$ 成分は $\bar\partial\eta^{0,1}$ で、$\omega$ は型 $(1,1)$ なので $\bar\partial\eta^{0,1}=0$ である。Dolbeault–Grothendieckの補題 の定理「Dolbeault–Grothendieck の補題」($p=0$、$q=1$)により、$\Delta(r')$ 上の複素数値関数 $f$ で $\bar\partial f=\eta^{0,1}$ となるものがある。共役をとって $\eta^{1,0}=\partial\bar f$ である。$\partial^2=\bar\partial^2=0$ と $\bar\partial\partial=-\partial\bar\partial$ から$$\omega=d\eta=(\partial+\bar\partial)(\partial\bar f+\bar\partial f)=\bar\partial\partial\bar f+\partial\bar\partial f=\partial\bar\partial(f-\bar f)=2i\,\partial\bar\partial\operatorname{Im}f$$であるから、$\varphi:=4\pi\operatorname{Im}f$ とおけばよい。$\square$
$U$ を連結な複素多様体で $H^1_{dR}(U;\mathbb C)=0$ を満たすもの、$u$ を $U$ 上の実数値 $C^\infty$ 関数で $\partial\bar\partial u=0$ を満たすものとする。このとき $U$ 上の正則関数 $F$ で $2\operatorname{Re}F=u$ となるものがある。
要点:閉な $(1,0)$ 形式 $\partial u$ の原始関数 $F$ は正則で、$F+\bar F$ と $u$ の差は定数になる。
$(1,0)$ 形式 $\partial u$ は $d(\partial u)=\partial^2u+\bar\partial\partial u=-\partial\bar\partial u=0$ を満たす閉形式なので、仮定から $C^\infty$ 関数 $F$ で $dF=\partial u$ となるものがある。$dF$ は型 $(1,0)$ なので $\bar\partial F=0$、すなわち $F$ は正則である。$u$ が実なので $\overline{\partial u}=\bar\partial u$ であり、$d(F+\bar F)=\partial u+\bar\partial u=du$ となる。$U$ は連結なので $F+\bar F-u$ は実の定数 $c$ であり、$F$ を $F-c/2$ に取り替えれば $2\operatorname{Re}F=u$ である。$\square$
良い被覆の空でない交わり $U_{ab}$ は $\mathbb R^{2n}$ と微分同相なので、連結で $H^1_{dR}(U_{ab};\mathbb C)=0$ を満たし、lem-lef11-pluriharmonic が当てはまる。
次の命題が証明の中心である。曲率形式の de Rham 類を、局所ポテンシャルの差から作った実数の Čech コサイクルで表す。
$\mathfrak U=\{U_a\}$ を $X$ の良い被覆、$\varphi_a$ を $U_a$ 上の実数値 $C^\infty$ 関数とし、$X$ 上の 2 形式 $\omega$ で各 $U_a$ 上 $\omega=\frac{i}{2\pi}\partial\bar\partial\varphi_a$ となるものがあるとする。各 $U_{ab}$ 上の正則関数 $f_{ab}$ の交代的な族で
$$
2\operatorname{Re}f_{ab}=\varphi_b-\varphi_a\qquad(U_{ab}\text{ 上})
$$
を満たすものをとる。
$\omega$ は実の閉 $(1,1)$ 形式である。実際、$\varphi_a$ が実なので $\overline{\partial\bar\partial\varphi_a}=\bar\partial\partial\varphi_a=-\partial\bar\partial\varphi_a$ から $\bar\omega=\omega$ であり、$d\partial\bar\partial=\bar\partial\partial\bar\partial=0$ から閉である。
要点:1 は $\delta f$ の実部が消えることから従う。2 は、$A_a:=\frac{i}{4\pi}(\bar\partial\varphi_a-\partial\varphi_a)$ と $\sigma_{ab}:=\frac1{2\pi}\operatorname{Im}f_{ab}$ について $dA_a=\omega$、$A_b-A_a=d\sigma_{ab}$、$\delta\sigma=m$ を確かめ、Čech–de Rham 複体で $D(A+\sigma)=r(\omega)+i(m)$ とすることによる。
1:$U_{abc}$ 上で $2\operatorname{Re}(\delta f)_{abc}=(\varphi_c-\varphi_b)-(\varphi_c-\varphi_a)+(\varphi_b-\varphi_a)=0$ である。実部が $0$ の正則関数は、Cauchy–Riemann の方程式から微分が $0$ なので、連結な $U_{abc}$ の上で純虚数の定数である。そこで $(\delta f)_{abc}=2\pi i\,m_{abc}$($m_{abc}\in\mathbb R$)と書ける。$\delta^2=0$ から $\delta m=0$ である。
2:$U_a$ 上の実の 1 形式 $A_a:=\frac{i}{4\pi}(\bar\partial\varphi_a-\partial\varphi_a)$ と、$U_{ab}$ 上の実数値関数 $\sigma_{ab}:=\frac{1}{2\pi}\operatorname{Im}f_{ab}$ を考える($A_a$ が実であることは共役をとればわかる)。まず$$dA_a=\frac{i}{4\pi}(\partial\bar\partial\varphi_a-\bar\partial\partial\varphi_a)=\frac{i}{2\pi}\partial\bar\partial\varphi_a=\omega$$である。次に、$f_{ab}$ は正則なので $\partial f_{ab}=df_{ab}$、$\bar\partial\bar f_{ab}=d\bar f_{ab}$、$\bar\partial f_{ab}=\partial\bar f_{ab}=0$ であり、$\varphi_b-\varphi_a=f_{ab}+\bar f_{ab}$ から$$A_b-A_a=\frac{i}{4\pi}(\bar\partial-\partial)(f_{ab}+\bar f_{ab})=\frac{i}{4\pi}\,d(\bar f_{ab}-f_{ab})=\frac{1}{2\pi}\,d\operatorname{Im}f_{ab}=d\sigma_{ab}$$となる。また $(\delta\sigma)_{abc}=\frac1{2\pi}\operatorname{Im}(\delta f)_{abc}=m_{abc}$ である。
Čech–de Rham 複体 $K^{p,q}=C^p(\mathfrak U,\Omega^q)$ の全複体の微分は $D=\delta+(-1)^pd$ である(Čech–de Rham複体 の定義「Čech–de Rham 複体」)。$A=(A_a)\in K^{0,1}$、$\sigma=(\sigma_{ab})\in K^{1,0}$ について、上の 3 式から$$DA=\delta A+dA=d\sigma+r(\omega),\qquad D\sigma=\delta\sigma-d\sigma=i(m)-d\sigma$$であり、$D(A+\sigma)=r(\omega)+i(m)$ となる。よって全複体のコホモロジーで $r_*[\omega]=-i_*[m]$ であり、$\Psi_{\mathfrak U}[\omega]=i_*^{-1}r_*[\omega]=-[m]$ である。$\square$
1.$L$ の局所枠をもつ開集合の被覆を細分する良い被覆 $\mathfrak U=\{U_a\}$ をとり、局所枠 $e_a$、変換関数 $g_{ab}$ を固定する。$U_{ab}$ 上には正則関数 $F_{ab}$ で $e^{2\pi iF_{ab}}=g_{ab}$ となるものがある。実際、閉形式 $\frac{1}{2\pi i}g_{ab}^{-1}dg_{ab}$ は $H^1_{dR}(U_{ab};\mathbb C)=0$ から $dG$ と書け、$G$ は($dG$ が型 $(1,0)$ なので)正則で、$g_{ab}e^{-2\pi iG}$ は微分が $0$ なので零でない定数 $e^{2\pi iw}$ に等しく、$F_{ab}:=G+w$ とおけばよい。$F_{ba}=-F_{ab}$、$F_{aa}=0$ と選んで交代的にしておく。第1Chern類 の定義「指数完全列による定義」により、$c_1(L)$ は整数コサイクル $c:=\delta F$ の類である。
$\varphi_a:=-\log h_a$、$f_{ab}:=-2\pi iF_{ab}$ とおく。$|g_{ab}|^2=e^{-2\operatorname{Re}f_{ab}}$ と $h_b=|g_{ab}|^2h_a$ から $2\operatorname{Re}f_{ab}=\varphi_b-\varphi_a$ であり、$\Theta_h=\frac{i}{2\pi}\bar\partial\partial\log h_a=\frac{i}{2\pi}\partial\bar\partial\varphi_a$ である。prop-lef11-cech を $\omega=\Theta_h$ に当てはめると、$\delta f=-2\pi i\,c$ から $m=-c$ であり、$\Psi_{\mathfrak U}[\Theta_h]=-[m]=[c]$ となる。これは def-lef11-integral の 1 により $[\Theta_h]=c_1(L)_{\mathbb R}$ を意味する。
2.各点 $x\in X$ について、$x$ を中心とする座標多重円板 $P_x$ で、lem-lef11-local-potential により $P_x$ 上の実数値関数 $\varphi_x$ が $\omega=\frac{i}{2\pi}\partial\bar\partial\varphi_x$ を満たすものをとる。被覆 $\{P_x\}$ を細分する良い被覆 $\mathfrak U=\{U_a\}$ をとり、$U_a\subset P_{x(a)}$ となる $x(a)$ を選んで $\varphi_a:=\varphi_{x(a)}|_{U_a}$ とおく。$U_{ab}$ 上で $\partial\bar\partial(\varphi_b-\varphi_a)=0$ なので、lem-lef11-pluriharmonic により正則関数 $f_{ab}$ で $2\operatorname{Re}f_{ab}=\varphi_b-\varphi_a$ となるものがある。添字に全順序を入れて $a$ が $b$ より前の組について選び、$f_{ba}:=-f_{ab}$、$f_{aa}:=0$ とすれば交代的である。
prop-lef11-cech により $\delta f=2\pi i\,m$、$\Psi_{\mathfrak U}[\omega]=-[m]$ である。$\alpha$ を整数コサイクル $n$ で表すと、仮定 $[\omega]=\alpha_{\mathbb R}$ から $\Psi_{\mathfrak U}[\omega]=[n]$ なので、$\check H^2(\mathfrak U,\mathbb R)$ で $[m+n]=0$、すなわち実数の交代的な族 $c=(c_{ab})$ で $m+n=\delta c$ となるものがある。
$$
f'_{ab}:=f_{ab}-2\pi i\,c_{ab},\qquad g_{ab}:=e^{-f'_{ab}}
$$
とおく。$c_{ab}$ は実の定数なので、$f'_{ab}$ は正則で $2\operatorname{Re}f'_{ab}=\varphi_b-\varphi_a$ のままであり、$\delta f'=2\pi i(m-\delta c)=-2\pi i\,n$ である。したがって $g_{bc}g_{ac}^{-1}g_{ab}=e^{-(\delta f')_{abc}}=e^{2\pi in_{abc}}=1$、すなわち $g_{ab}g_{bc}=g_{ac}$ であり、$g_{aa}=1$ である。よって $(g_{ab})$ は $\mathcal O^*$ に係数をもつコサイクルで、局所枠 $e_a$ と $e_b=g_{ab}e_a$ をもつ正則直線束 $L$ が定まる(第1Chern類 の定義「正則直線束とその変換関数」)。
$F_{ab}:=-f'_{ab}/(2\pi i)$ は $e^{2\pi iF_{ab}}=g_{ab}$ を満たすので、$c_1(L)$ は $\delta F=n$ の類、すなわち $c_1(L)=\alpha$ である。計量を $h_a:=e^{-\varphi_a}$ で定める。$|g_{ab}|^2h_a=e^{-(\varphi_b-\varphi_a)}e^{-\varphi_a}=h_b$ なので、これは局所枠のとり方によらない $L$ の Hermite 計量であり、その曲率形式は
$$
\Theta_h=\frac{i}{2\pi}\bar\partial\partial(-\varphi_a)=\frac{i}{2\pi}\partial\bar\partial\varphi_a=\omega
$$
である。
3.冒頭の注意のとおり、1 と 2 から従う。$\square$
1 の計算の符号は、本記事の規約($e_b=g_{ab}e_a$、$e^{2\pi iF_{ab}}=g_{ab}$、Čech–de Rham 複体の微分 $D=\delta+(-1)^pd$、同型 $\Psi_{\mathfrak U}=i_*^{-1}r_*$)のもとで $c_1(L)_{\mathbb R}=+[\Theta_h]$ を与える。2 で $c_1(L)=\alpha$ と $\Theta_h=\omega$ が同時に成り立つのは、1 の等式 $c_1(L)_{\mathbb R}=[\Theta_h]$ と同じ符号の規約で計算しているからである。
要点:1 は実の類の共役不変性で型 $(1,1)$ の代表を実の代表に取り替え、thm-lef11-general の 2 を使う。2 は $H^2(X;\mathbb Z)$ の有限生成性と Hodge 対称性、3 は Hodge 分解が直和であることと Hodge 対称性による。
1.$\alpha=c_1(L)$ なら、thm-lef11-general の 1 により $\alpha_{\mathbb C}$ は型 $(1,1)$ の閉形式 $\Theta_h$ で代表され、$H^{1,1}(X)$ に入る。逆に $\alpha_{\mathbb C}=[\eta]$($\eta$ は型 $(1,1)$ の閉形式)とする。$H^2(X;\mathbb C)=H^2(X;\mathbb R)\otimes_{\mathbb R}\mathbb C$ の複素共役は形式の共役で与えられ、$\alpha_{\mathbb C}$ は実の類なので $[\bar\eta]=\alpha_{\mathbb C}$ である。$\omega:=\frac12(\eta+\bar\eta)$ は実の閉 $(1,1)$ 形式で $[\omega]=\alpha_{\mathbb C}$ であり、$H^2_{dR}(X;\mathbb R)\to H^2_{dR}(X;\mathbb C)$ は単射なので実係数でも $[\omega]=\alpha_{\mathbb R}$ である。thm-lef11-general の 2 により $\alpha$ は $c_1$ の像に入る。$H^2(X,\mathcal O_X)$ での像による言い換えは、def-lef11-integral の後の等式による。
2.$X$ はコンパクトなので有限の良い被覆 $\mathfrak U$ をもち、$H^2(X;\mathbb Z)\cong\check H^2(\mathfrak U,\mathbb Z)$ は有限生成自由アーベル群の複体のコホモロジーとして有限生成である。有限生成アーベル群の部分群は有限生成なので $\operatorname{NS}(X)$ も有限生成である。$\mathbb R$ は $\mathbb Z$ 上平坦なので、有限の Čech 複体について $\check H^2(\mathfrak U,\mathbb Z)\otimes\mathbb R\cong\check H^2(\mathfrak U,\mathbb R)$ であり、部分群 $\operatorname{NS}(X)$ について $\operatorname{NS}(X)\otimes\mathbb R\to H^2(X;\mathbb R)$ は単射である。その像は 1 により $H^{1,1}(X)\cap H^2(X;\mathbb R)$ に入る。Hodge 対称性(Hodge分解 の定理「Hodge 分解定理」の 2)により $H^{1,1}(X)$ は共役で閉じているので、その実の部分の実次元は $h^{1,1}(X)$ である。よって $\rho(X)\le h^{1,1}(X)$ である。
3.Hodge 分解は直和なので、$\alpha_{\mathbb C}\in H^{1,1}(X)$ は $\alpha^{2,0}=\alpha^{0,2}=0$ と同値である。$\alpha_{\mathbb C}$ は実の類なので Hodge 対称性から $\overline{\alpha^{0,2}}=\alpha^{2,0}$ であり、一方が $0$ なら他方も $0$ である。1 と合わせて主張を得る。$\square$
thm-lef11-kahler の 1 により、コンパクト Kähler 多様体の Picard 群は、離散的な部分 $\operatorname{NS}(X)$ と連続的な部分 $\operatorname{Pic}^0(X)$ の拡大
$$
0\to\operatorname{Pic}^0(X)\to\operatorname{Pic}(X)\xrightarrow{\ c_1\ }H^{1,1}(X)\cap H^2(X;\mathbb Z)\to0
$$
になる。連続的な部分は次のとおり複素トーラスである。
$X$ を連結なコンパクト Kähler 多様体とし、$q:=h^{0,1}(X)$ とする。$H^1(X;\mathbb Z)\to H^1(X,\mathcal O_X)$ は単射で、その像は $H^1(X,\mathcal O_X)\cong\mathbb C^q$ の(実ベクトル空間としての)格子である。したがって
$$
\operatorname{Pic}^0(X)\cong H^1(X,\mathcal O_X)/H^1(X;\mathbb Z)
$$
は $q$ 次元の複素トーラスであり、$q=\frac12b_1(X)$ である。
要点:指数完全列の頭で $H^0(X,\mathcal O_X)\to H^0(X,\mathcal O_X^*)$ が全射になることと、$H^1(X;\mathbb R)\to H^1(X,\mathcal O_X)$ が実線型同型であること(Hodge 分解の実構造)の 2 つから従う。
連結なコンパクト複素多様体の上の正則関数は、絶対値が最大になる点の近くで最大値の原理により定数になり、定数になる点の集合が開かつ閉なので定数である。よって $H^0(X,\mathcal O_X)=\mathbb C$、$H^0(X,\mathcal O_X^*)=\mathbb C^*$ で、$z\mapsto e^{2\pi iz}$ は $\mathbb C\to\mathbb C^*$ の全射である。指数完全列の長完全列 $H^0(\mathcal O_X)\to H^0(\mathcal O_X^*)\to H^1(X;\mathbb Z)\to H^1(X,\mathcal O_X)\to\operatorname{Pic}(X)\xrightarrow{c_1}H^2(X;\mathbb Z)$ から、$H^1(X;\mathbb Z)\to H^1(X,\mathcal O_X)$ は単射で、$\operatorname{Pic}^0(X)=\ker c_1\cong H^1(X,\mathcal O_X)/H^1(X;\mathbb Z)$ である。
層の包含 $\mathbb R\subset\mathbb C\subset\mathcal O_X$ が誘導する $H^1(X;\mathbb R)\to H^1(X,\mathcal O_X)$ は、de Rham の同型と Dolbeault の同型のもとで、実の閉 1 形式 $\xi$ の類をその $(0,1)$ 成分 $\xi^{0,1}$ の $\bar\partial$ コホモロジー類に送る写像になる(形式をその $(0,q)$ 成分に射影する写像が de Rham 分解から Dolbeault 分解への複体の射になることによる。Dem12 Lemma (9.4) の証明、p. 314)。Hodge 分解 $H^1(X;\mathbb C)=H^{1,0}(X)\oplus H^{0,1}(X)$ で、実の類 $\xi$ は $\xi^{1,0}=\overline{\xi^{0,1}}$ を満たすので、$\xi^{0,1}=0$ なら $\xi=0$ である。実次元はどちらも $b_1=h^{1,0}+h^{0,1}=2q$(Hodge 対称性)なので、この写像は実線型同型である。
thm-lef11-kahler の 2 の証明と同じく $H^1(X;\mathbb Z)$ は有限生成で $H^1(X;\mathbb Z)\otimes\mathbb R\cong H^1(X;\mathbb R)$ である。$H^1(X;\mathbb Z)$ の捩れ元は単射 $H^1(X;\mathbb Z)\to H^1(X,\mathcal O_X)$ でベクトル空間の捩れ元に移るので $0$ であり、$H^1(X;\mathbb Z)\cong\mathbb Z^{b_1}$ の基底は $H^1(X;\mathbb R)$ の基底に移る。よってその像は $H^1(X;\mathbb R)$ の格子であり、実線型同型で $H^1(X,\mathcal O_X)$ の格子に移る。格子による商は $q$ 次元の複素トーラスである(複素トーラス の定義「複素トーラス」)。$\square$
$\mathbb{CP}^n$ では $h^{0,1}=h^{0,2}=0$ なので(Hodge分解 の例「複素射影空間の Hodge 数」)、$\operatorname{Pic}^0(\mathbb{CP}^n)=0$ で、$H^2(\mathbb{CP}^n;\mathbb Z)\cong\mathbb Z$ のすべての元が整係数 $(1,1)$ 類である。生成元は超平面束 $\mathcal O(1)$ の第 1 Chern 類なので(第1Chern類 の例「射影空間の超平面束」)、$\operatorname{Pic}(\mathbb{CP}^n)\cong\mathbb Z$ で、どの正則直線束もある $\mathcal O(k)$ に同型である(Dem12 Corollary (9.7)、p. 315)。
$X$ を連結なコンパクト Riemann面 とする。複素次元が $1$ なので、すべての 2 形式は型 $(1,1)$ であり、$c_1\colon\operatorname{Pic}(X)\to H^2(X;\mathbb Z)\cong\mathbb Z$ は全射である。さらに、実の 2 形式 $\omega$ で $\int_X\omega=d\in\mathbb Z$ となるものは、次数 $d$ のある正則直線束のある Hermite 計量の曲率形式に等しい。
点 $p$ の定める直線束 $\mathcal O(p)$ は次数 $1$ なので(第1Chern類 の定理「曲線上の第1Chern類と次数」)、$g:=c_1(\mathcal O(p))$ について $\int_Xg_{\mathbb R}=1$ である。$b_2(X)=1$ なので $H^2_{dR}(X;\mathbb R)\to\mathbb R$、$[\omega]\mapsto\int_X\omega$ は同型であり、$[\omega]=d\,g_{\mathbb R}=(dg)_{\mathbb R}$ である。thm-lef11-general の 2 により $c_1(L)=dg$、$\Theta_h=\omega$ となる $(L,h)$ があり、同じ定理により $\deg L=\int_X\Theta_h=d$ である。
$\alpha\in H^2(X;\mathbb Z)$ が捩れ元なら $\alpha_{\mathbb R}=0$ は形式 $\omega=0$ を含むので、thm-lef11-general の 2 により、$c_1(L)=\alpha$ で曲率形式が恒等的に $0$ の Hermite 計量をもつ正則直線束 $L$ がある。たとえば Enriques 曲面 $S$ の標準束 $K_S$ は $c_1(K_S)\ne0$、$2c_1(K_S)=0$ を満たす(第1Chern類 の例「反例:第1Chern類が捩れ元になる直線束」)。$S$ は射影的で $h^{0,1}(S)=0$ なので(Enriques曲面 の命題「Betti 数・Hodge 数・Picard 群」)、thm-lef11-pic0 により $\operatorname{Pic}^0(S)=0$、すなわち $c_1$ は単射であり、$c_1(L)=c_1(K_S)$ となる $L$ は $K_S$ に同型である。よって $K_S$ は曲率が $0$ の Hermite 計量をもつ。曲率の de Rham 類だけからは、このような捩れの情報は読み取れない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| thm-lef11-general の 2 で $[\omega]$ が整数的であること | 楕円曲線 $E=\mathbb C/\Lambda$ 上の $\omega=\frac{1}{2A}\,dx\wedge dy$($A$ は基本平行四辺形の面積) | $\Theta_h=\omega$ となる正則直線束と計量の存在 |
| thm-lef11-kahler の 1 で $\alpha$ が整係数 $(1,1)$ 類であること | 2 次元の複素トーラス $X=\mathbb C^2/\Lambda$ | すべての整係数類が第 1 Chern 類であること |
| thm-lef11-pic0 で $X$ が Kähler であること | Hopf 曲面 $X=(\mathbb C^2\setminus\{0\})/\langle z\mapsto2z\rangle$ | $\operatorname{Pic}^0(X)$ が $\frac12b_1(X)$ 次元の複素トーラスであること |
要点:1 行目は次数の整数性、2 行目は $H^{2,0}\ne0$ と整係数類が $H^2(X;\mathbb C)$ を張ること、3 行目は $\operatorname{Pic}^0(X)\cong\mathbb C^*$ による。
1 行目:$\omega$ は実の閉 $(1,1)$ 形式で $\int_E\omega=\frac12$ である。$\Theta_h=\omega$ なら 第1Chern類 の定理「曲線上の第1Chern類と次数」により $\int_E\Theta_h=\deg L\in\mathbb Z$ となり矛盾する。
2 行目:$X$ は平坦な計量で Kähler である。$\Omega:=dz_1\wedge dz_2$ は平行移動で不変なので $X$ 上の閉 $(2,0)$ 形式を定め、$\Omega\wedge\bar\Omega$ は零でない定数倍の体積形式なので $\int_X\Omega\wedge\bar\Omega\ne0$ である。$\Omega=d\beta$ なら $\Omega\wedge\bar\Omega=d(\beta\wedge\bar\Omega)$ で、Stokes の定理から積分が $0$ になり矛盾する。よって $H^{2,0}(X)\ne0$ で、Hodge 分解は直和なので $H^{1,1}(X)\ne H^2(X;\mathbb C)$ である。一方、thm-lef11-kahler の 2 の証明と同じく $H^2(X;\mathbb Z)$ の像は $H^2(X;\mathbb R)$ を実ベクトル空間として張り、したがって $H^2(X;\mathbb C)$ を複素ベクトル空間として張る。すべての整係数類が複素部分空間 $H^{1,1}(X)$ に入れば $H^{1,1}(X)=H^2(X;\mathbb C)$ となるので、$\operatorname{NS}(X)$ に入らない整係数類がある。
3 行目:Hopf曲面 によれば $X$ は $S^1\times S^3$ に微分同相で $b_1(X)=1$、$h^{0,1}(X)=\dim H^1(X,\mathcal O_X)=1$ であり、$X$ は Kähler でない。prf-lef11-pic0 の最初の段落は Kähler を使わないので、$H^1(X;\mathbb Z)\cong\mathbb Z$ は $H^1(X,\mathcal O_X)\cong\mathbb C$ に単射に入り、$\operatorname{Pic}^0(X)$ は $\mathbb C$ を階数 $1$ の部分群 $\mathbb Zv$($v\ne0$)で割った群 $\mathbb C/\mathbb Zv\cong\mathbb C^*$ になる。これはコンパクトでなく、$\frac12b_1(X)$ は整数でもない。
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