直線化と非直線化

同義語:直化と非直化straightening and unstraightening

概要

直線化と非直線化(straightening and unstraightening)とは、単体的集合 $S$ 上の右ファイブレーションと、$S$ から作る単体的圏 $\mathfrak C[S]$ 上の単体的集合値の反変関手とを行き来する Lurie の随伴関手の組 $\mathrm{St}_S\dashv\mathrm{Un}_S$ である。直線化定理によりこの随伴は反変モデル構造と射影モデル構造の Quillen 同値を与え、$S$ 上の右ファイブレーションの∞圏は空間値前層の∞圏 $\mathrm{Fun}(S^{\mathrm{op}},\mathcal S)$ と同値になる。前層と元の圏が対応する Grothendieck 構成の∞圏版であり、標識付きの版は Cartesian ファイブレーションと∞圏値の関手を対応させる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 左ファイブレーションと右ファイブレーション, 前層(∞圏), ホモトピー整合的脈体, 空間の∞圏

通常の圏 $\mathcal B$ の上の集合値の前層 $P\colon\mathcal B^{\mathrm{op}}\to\mathbf{Set}$ は、その元の圏 $\int P\to\mathcal B$ という「$\mathcal B$ の上に載った圏」と同じ情報をもつ。関手を値の族と整合性で与える代わりに、射影の持ち上げの性質で与えるのである。∞圏では関手の値が空間や∞圏になり、合成の整合性が無限に続くホモトピーの列になるので、関手を直接書き下すのは難しい。一方、ファイブレーションは単体的集合の写像という具体的な対象である。
直線化と非直線化(straightening and unstraightening)は、単体的集合 $S$ の上の 左ファイブレーションと右ファイブレーション の右ファイブレーションと、$S$ から作る単体的圏 $\mathfrak C[S]$ 上の単体的前層とを結ぶ Lurie の随伴関手の組 $\mathrm{St}_S\dashv\mathrm{Un}_S$ である。直線化定理によりこの随伴は Quillen 同値であり、$S$ 上の右ファイブレーションの∞圏は空間値の前層の∞圏 $\operatorname{Fun}(S^{\mathrm{op}},\mathcal S)$(前層(∞圏))と同値になる。こうして∞圏の関手はファイブレーションとして扱える。なお、ベクトル場の流れを座標で真っすぐにする整流定理(ベクトル場の流れ)とは別の概念である。
この記事では、通常の圏での対応と、左ファイブレーションがホモトピー圏の上の関手を定めることを証明し、構成と直線化定理を述べる。

通常の圏:前層と離散ファイブレーション

離散ファイブレーション

小さい圏の間の関手 $F\colon\mathcal E\to\mathcal B$ が 離散ファイブレーション(discrete fibration)であるとは、$\mathcal E$ のすべての対象 $x$ と、$\mathcal B$ のすべての射 $g\colon b\to F(x)$ について、$F(f)=g$ となる $\mathcal E$ の射 $f\colon x'\to x$ がただ 1 つあることをいう。$\mathcal B$ 上の離散ファイブレーションと、その間の $\mathcal B$ 上の関手($F'\circ G=F$ となる $G$)のなす圏を $\mathbf{DFib}(\mathcal B)$ と書く。

$f$ を $g$ の $x$ への持ち上げという。$\mathcal B$ の恒等射の持ち上げは恒等射に限るので、各対象 $b$ の上のファイバー($b$ の上の対象と、$\mathrm{id}_b$ の上の射のなす部分圏)は離散的な圏、つまり集合である。左ファイブレーションと右ファイブレーション の定義「亜群でファイバー付けられた圏」と比べると、離散ファイブレーションとはファイバーが離散的な、亜群でファイバー付けられた圏である。
前層 $P\colon\mathcal B^{\mathrm{op}}\to\mathbf{Set}$ の元の圏 $\int P$ は、対象を組 $(b,x)$($x\in P(b)$)、$(b',x')$ から $(b,x)$ への射を $P(g)(x)=x'$ を満たす $\mathcal B$ の射 $g\colon b'\to b$ とする圏であり、射影 $\pi_P\colon\int P\to\mathcal B$ をもつ(左ファイブレーションと右ファイブレーション の例「前層の元の圏」)。自然変換 $\alpha\colon P\to P'$ は $\mathcal B$ 上の関手 $\int\alpha\colon(b,x)\mapsto(b,\alpha_b(x))$ を定める。

前層と離散ファイブレーションの対応

小さい圏 $\mathcal B$ について、$P\mapsto(\pi_P\colon\int P\to\mathcal B)$ は圏同値
$$ {\textstyle\int}\colon\operatorname{Fun}(\mathcal B^{\mathrm{op}},\mathbf{Set})\xrightarrow{\ \simeq\ }\mathbf{DFib}(\mathcal B) $$
を与える。準逆は、離散ファイブレーション $F\colon\mathcal E\to\mathcal B$ に、$b$ の上の対象の集合 $P_F(b)$ と、射 $g\colon b'\to b$ について「$x\in P_F(b)$ に $g$ の $x$ への持ち上げの始点を対応させる写像」$P_F(g)$ からなる前層を対応させる。

持ち上げの一意性ですべてが決まる

要点:持ち上げの一意性から、元の圏が離散ファイブレーションであること、関手 $\int$ が充満忠実であること、離散ファイブレーションが持ち上げの始点で前層 $P_F$ を定め $\int P_F$ と同型になることが順に従う。

詳しい証明を開く

$\int P$ は離散ファイブレーション。 $(b,x)$ と $g\colon b'\to b$ について、$g$ の上の $(b,x)$ への射の始点は $(b',P(g)(x))$ に限られ、射は $g$ そのものなので、持ち上げはただ 1 つである。$\int\alpha$ が射を射に送ることは、$\alpha$ の自然性 $P'(g)(\alpha_b(x))=\alpha_{b'}(P(g)(x))$ による。

充満忠実。 $\mathcal B$ 上の関手 $G\colon\int P\to\int P'$ は、対象を $G(b,x)=(b,\alpha_b(x))$ の形に送り、写像 $\alpha_b\colon P(b)\to P'(b)$ を定める。$g\colon(b',x')\to(b,x)$ は $\mathcal B$ の同じ射 $g$ の上の射 $(b',\alpha_{b'}(x'))\to(b,\alpha_b(x))$ に送られるので $P'(g)(\alpha_b(x))=\alpha_{b'}(x')=\alpha_{b'}(P(g)(x))$ であり、$\alpha$ は自然変換である。$\int P'$ の射は $\mathcal B$ の射とその両端で決まるので $G=\int\alpha$ であり、$\alpha$ は $G$ から一意に決まる。

本質的全射。 離散ファイブレーション $F$ について、$P_F$ が前層であることを確かめる。$\mathrm{id}_x$ は $\mathrm{id}_b$ の持ち上げなので $P_F(\mathrm{id}_b)=\mathrm{id}$ である。$g\colon b'\to b$、$h\colon b''\to b'$ と $x\in P_F(b)$ について、$g$ の $x$ への持ち上げ $f\colon x'\to x$ と $h$ の $x'$ への持ち上げ $f'$ の合成 $f\circ f'$ は $g\circ h$ の $x$ への持ち上げなので、一意性から $P_F(g\circ h)=P_F(h)\circ P_F(g)$ である。関手 $\Phi\colon\int P_F\to\mathcal E$ を、対象 $(b,x)\mapsto x$、射 $g\colon(b',x')\to(b,x)$ を $g$ の $x$ への持ち上げ(始点は $P_F(g)(x)=x'$)に送るものとして定める。合成は持ち上げの一意性で保たれ、$F\circ\Phi=\pi_{P_F}$ である。$\Phi$ は対象について全単射($x$ から $b=F(x)$ が決まる)であり、$\mathcal E$ の射 $f\colon x'\to x$ はちょうど $F(f)$ の $x$ への持ち上げなので、射についても全単射である。よって $\Phi$ は $\mathcal B$ 上の同型である。$\square$

$\mathcal B$ の対象が 1 つで射が群 $G$ のとき、前層は右 $G$ 集合 $Y$ であり、$\int Y$ はその作用亜群(対象 $Y$、$y\cdot g\to y$ を射とする圏)である。値を集合から圏に替えると、圏値の関手 $\mathcal B^{\mathrm{op}}\to\mathbf{Cat}$ と Grothendieck のファイバー付き圏の対応になる(Grothendieck構成、Cartesianファイブレーション の例「関手の Grothendieck 構成」)。

左ファイブレーションの輸送

∞圏では、ファイバーの間の写像は厳密には決まらず、ホモトピーを除いて決まる。この節では左ファイブレーションの場合にそれを確かめる。記号は 左ファイブレーションと右ファイブレーション の節「相対指数とホモトピー持ち上げ」に従い、$p\colon X\to S$ と頂点 $s$ について $X_s=X\times_S\{s\}$ をファイバーとする。

持ち上げの存在と一意性

$p\colon X\to S$ を左ファイブレーション、$n\ge1$、$\sigma\colon\Delta^n\to S$ を $n$ 単体、$A$ を単体的集合、$g\colon A\to X_{\sigma(0)}$ を写像とする。$H|_{A\times\{0\}}=g$ かつ $p\circ H=\sigma\circ\mathrm{pr}_2$ となる写像 $H\colon A\times\Delta^n\to X$ を $(g,\sigma)$ の持ち上げという。

  1. $(g,\sigma)$ の持ち上げは存在する。
  2. $(g,\sigma)$ の 2 つの持ち上げ $H,H'$ について、$H|_{A\times\{n\}}$ から $H'|_{A\times\{n\}}$ へのホモトピー $A\times\Delta^1\to X_{\sigma(n)}$ がある。
相対指数が自明 Kan ファイブレーションになることを使う

$\{n\}\subset\Delta^n$ は右アノダインであり(右アノダイン射 の系「錐点と最後の頂点」)、頂点の順序を反転すると $\{0\}\subset\Delta^n$ は左アノダインである。左ファイブレーションと右ファイブレーション の命題「相対指数」の 2 により、制限と $p$ との合成が定める
$$ r\colon X^{\Delta^n}\to X\times_SS^{\Delta^n} $$
は自明 Kan ファイブレーションである。写像 $A\to X^{\Delta^n}$ は写像 $A\times\Delta^n\to X$ と同じであり、$(g,\sigma)$ の持ち上げは、$r$ との合成が $u=(g,c_\sigma)\colon A\to X\times_SS^{\Delta^n}$($c_\sigma$ は頂点 $\sigma\in S^{\Delta^n}$ への定値写像)になる写像 $A\to X^{\Delta^n}$ にほかならない。
1:自明 Kan ファイブレーションはすべての単射に対して右持ち上げ性質をもつ(Kan–Quillenモデル構造 の系「単射とアノダイン拡大の特徴づけ」の 1)ので、$\emptyset\subset A$ に対して $u$ が持ち上がる。
2:$H,H'$ は $A\times\partial\Delta^1\to X^{\Delta^n}$ を定め、これは $u\circ\mathrm{pr}_1\colon A\times\Delta^1\to X\times_SS^{\Delta^n}$ の上にある。単射 $A\times\partial\Delta^1\subset A\times\Delta^1$ に対する持ち上げで $\Theta\colon A\times\Delta^1\times\Delta^n\to X$ を得る。$p\circ\Theta=\sigma\circ\mathrm{pr}_3$ なので、$\Theta$ を $A\times\Delta^1\times\{n\}$ に制限すると $X_{\sigma(n)}$ に値をとる求めるホモトピーになる。$\square$

ファイバー $X_s\to\Delta^0$ は左ファイブレーションの引き戻しなので左ファイブレーションであり、左ファイブレーションと右ファイブレーション の定理「Kan 複体の上の右ファイブレーション」により Kan ファイブレーション、つまり $X_s$ は Kan複体 である。Kan 複体 $K$ への写像 $f,f'\colon A\to K$ について「$f$ から $f'$ へのホモトピー $A\times\Delta^1\to K$ がある」という関係は同値関係である。実際、同じ命題「相対指数」の 1 により $K^A\to\Delta^0$ は左ファイブレーション、したがって $K^A$ は Kan 複体であり、ホモトピーは $K^A$ の辺である。Kan 複体のホモトピー圏は亜群なので(∞圏のホモトピー圏 の例「Kan複体の基本亜群」)、辺で結ばれることは同値関係になる。ホモトピー類を $[A,K]$ と書き、Kan 複体を対象、$[A,K]$ を射とする圏を $\mathcal H$ とする。
$S$ の辺 $e\colon s\to s'$ について、$(\mathrm{id}_{X_s},e)$ の持ち上げ $h_e$ を 1 つ選び、$e_!=h_e|_{X_s\times\{1\}}\colon X_s\to X_{s'}$ とおく。これを $e$ に沿った輸送という。lem-st-lift の 2 により、類 $[e_!]$ は選び方によらない。さらに、任意の $g\colon A\to X_s$ について $h_e\circ(g\times\mathrm{id})$ は $(g,e)$ の持ち上げなので、
$$ (g,e)\text{ の任意の持ち上げ }H\text{ について}\quad H|_{A\times\{1\}}\simeq e_!\circ g \qquad(\ast) $$
が成り立つ。

輸送関手

$S$ を∞圏(準圏)、$p\colon X\to S$ を左ファイブレーションとする。対象 $s$ を $X_s$ に、辺 $e$ の類 $[e]$ を $[e_!]$ に送る対応は、関手
$$ T_p\colon hS\to\mathcal H $$
を定める。ここで $hS$ は $S$ のホモトピー圏(∞圏のホモトピー圏)である。右ファイブレーションについては、向きを逆にして関手 $hS^{\mathrm{op}}\to\mathcal H$ が定まる。

2 単体の上で持ち上げ、3 つの辺に制限する

恒等射。 頂点 $s$ の退化した辺 $\mathrm{id}_s$ について、包含と射影の合成 $X_s\times\Delta^1\to X_s\subset X$ は $(\mathrm{id}_{X_s},\mathrm{id}_s)$ の持ち上げなので、$(\mathrm{id}_s)_!\simeq\mathrm{id}_{X_s}$ である。
2 単体の関係。 $\sigma\colon\Delta^2\to S$ を $2$ 単体とし、辺を $e=\sigma|_{\{0,1\}}\colon s_0\to s_1$、$e'=\sigma|_{\{1,2\}}$、$e''=\sigma|_{\{0,2\}}$ とする。lem-st-lift の 1 により $(\mathrm{id}_{X_{s_0}},\sigma)$ の持ち上げ $H\colon X_{s_0}\times\Delta^2\to X$ がある。$H_i=H|_{X_{s_0}\times\{i\}}$ とおく。

  • $H$ を $X_{s_0}\times\Delta^{\{0,1\}}$ に制限すると $(\mathrm{id},e)$ の持ち上げなので、$(\ast)$ により $H_1\simeq e_!$。
  • $X_{s_0}\times\Delta^{\{1,2\}}$ に制限すると $(H_1,e')$ の持ち上げなので、$(\ast)$ により $H_2\simeq e'_!\circ H_1\simeq e'_!\circ e_!$。
  • $X_{s_0}\times\Delta^{\{0,2\}}$ に制限すると $(\mathrm{id},e'')$ の持ち上げなので、$H_2\simeq e''_!$。
    よって $[e''_!]=[e'_!]\circ[e_!]$ である。

$hS$ の上で定まること。 ∞圏のホモトピー圏 の定義「2単体によるホモトピー」により、辺 $e,\tilde e\colon s\to s'$ が同じ射を表すのは、$d_2\sigma=e$、$d_0\sigma=\mathrm{id}_{s'}$、$d_1\sigma=\tilde e$ となる $2$ 単体 $\sigma$ があるときである。上の 2 つの段から $[\tilde e_!]=[(\mathrm{id}_{s'})_!]\circ[e_!]=[e_!]$ となり、$T_p$ は射の上で定まる。$hS$ の合成は $d_2\sigma=e$、$d_0\sigma=e'$ となる $2$ 単体の $d_1\sigma$ の類で与えられるので(同記事の命題「合成は代表と2単体の選び方によらない」)、2 単体の関係は $T_p$ が合成を保つことを意味する。右ファイブレーションについては、lem-st-lift の持ち上げを最後の頂点 $\{n\}$ で指定するものに替えれば、$\{n\}\subset\Delta^n$ が右アノダインであることと命題「相対指数」の右ファイブレーションの場合から同じ議論が通り、輸送の向きが逆になる。$\square$

$T_p$ は輸送をホモトピー類としてしか覚えていない。直線化は、この関手を、ホモトピーの間のホモトピーまで含めた∞圏の関手 $S\to\mathcal S$ として取り出す操作である。ホモトピー類だけでは情報が足りないことは ex-st-hopf で見る。

直線化関手と非直線化関手

構成は右ファイブレーション(反変な関手)について述べる。単体的集合 $S$ に対し、$\mathfrak C[S]$ はホモトピー整合的脈体の左随伴が与える単体的圏である(ホモトピー整合的脈体 の定義「単体的集合から生成される単体的豊穣圏」)。$\mathcal C$ を単体的圏、$\varphi\colon\mathfrak C[S]\to\mathcal C^{\mathrm{op}}$ を単体的関手とし、単体的関手 $\mathcal C\to\mathbf{sSet}$ の圏を $\mathbf{sSet}^{\mathcal C}$ と書く。

直線化関手と非直線化関手

$S$ 上の単体的集合 $X\to S$ について、右錐 $X^{\triangleright}=X\star\Delta^0$ の錐点を $v$ とし、押し出しの単体的圏
$$ \mathcal M=\mathfrak C[X^{\triangleright}]\amalg_{\mathfrak C[X]}\mathcal C^{\mathrm{op}} $$
を作る($\mathfrak C[X]\to\mathcal C^{\mathrm{op}}$ は $\mathfrak C[X]\to\mathfrak C[S]$ と $\varphi$ の合成)。単体的関手
$$ \mathrm{St}_\varphi X\colon\mathcal C\to\mathbf{sSet},\qquad(\mathrm{St}_\varphi X)(C)=\operatorname{Map}_{\mathcal M}(C,v) $$
を $X$ の 直線化(straightening)という。$X\mapsto\mathrm{St}_\varphi X$ は関手 $\mathrm{St}_\varphi\colon\mathbf{sSet}_{/S}\to\mathbf{sSet}^{\mathcal C}$ をなし、右随伴 $\mathrm{Un}_\varphi$ をもつ。$\mathrm{Un}_\varphi$ を 非直線化(unstraightening)という(HTT09 §2.2.1、pp. 73–74)。$\mathcal C=\mathfrak C[S]^{\mathrm{op}}$、$\varphi=\mathrm{id}$ のとき $\mathrm{St}_S$、$\mathrm{Un}_S$ と書く。

$X$ の頂点 $x$ が $s=p(x)$ の上にあれば、錐の辺 $x\to v$ が $(\mathrm{St}_\varphi X)(\varphi(s))$ の頂点を与える。$(\mathrm{St}_SX)(s)$ は「$s$ の上の $X$ の点」を、$S$ の射に沿って整合的に動かせる形にまとめたものである。

非直線化の単体

単体的関手 $F\colon\mathcal C\to\mathbf{sSet}$ について、$\mathrm{Un}_\varphi F$ の $n$ 単体は、$S$ の $n$ 単体 $\sigma$ と、自然変換 $\eta\colon\mathrm{St}_\varphi(\sigma)\to F$ の組 $(\sigma,\eta)$ と、$[n]$ について自然に 1 対 1 に対応し、$S$ への射影は $(\sigma,\eta)\mapsto\sigma$ である。ここで $\mathrm{St}_\varphi(\sigma)$ は $\sigma\colon\Delta^n\to S$ を $S$ 上の単体的集合とみたものの直線化である。とくに、値がすべて $\Delta^0$ の関手 $\ast$ について、射影 $\mathrm{Un}_\varphi(\ast)\to S$ は同型である。

米田の補題により、$\mathrm{Un}_\varphi F$ の $n$ 単体で $\sigma$ の上にあるものは、$S$ 上の写像 $(\Delta^n,\sigma)\to\mathrm{Un}_\varphi F$ と 1 対 1 に対応する。随伴により、これは自然変換 $\mathrm{St}_\varphi(\sigma)\to F$ と 1 対 1 に対応し、対応は $\Delta^n$ についての随伴の自然性により面・退化と両立する。$F=\ast$ なら自然変換 $\mathrm{St}_\varphi(\sigma)\to\ast$ はただ 1 つなので、各 $\sigma$ の上の $n$ 単体はただ 1 つである。$\square$

底が一点 $S=\Delta^0$ のときは、直線化は余単体的単体的集合 $Q^\bullet$ による実現 $K\mapsto\lvert K\rvert_{Q^\bullet}$ になり、各 $Q^n$ は弱可縮で、自然な写像 $\lvert K\rvert_{Q^\bullet}\to K$ は弱ホモトピー同値である(HTT09 §2.2.2 と Proposition 2.2.2.7、pp. 76–77)。その右随伴を $\operatorname{Sing}_{Q^\bullet}$ と書くと、$S$ の頂点 $s$ の上のファイバーについて同型 $(\mathrm{Un}_\varphi F)\times_S\{s\}\cong\operatorname{Sing}_{Q^\bullet}F(\varphi(s))$ があり、$F(\varphi(s))$ が Kan 複体なら標準的な写像 $F(\varphi(s))\to(\mathrm{Un}_\varphi F)_s$ はホモトピー同値である(同 Remark 2.2.2.11、p. 77)。つまり非直線化のファイバーは、関手の値そのものである。

定値関手の非直線化は積

Kan 複体 $K$ について、値がすべて $K$ の定値関手 $\underline K\colon\mathcal C\to\mathbf{sSet}$ の非直線化は、$S$ 上で積 $S\times\operatorname{Sing}_{Q^\bullet}K\to S$ と同型であり、そのファイバーはすべて $K$ とホモトピー同値である。定値関手には、自明なファイブレーションが対応する。

単体的圏の組と関手の外部積について $\mathrm{Un}_{\varphi\boxtimes\varphi'}(F\boxtimes F')\cong\mathrm{Un}_\varphi(F)\times\mathrm{Un}_{\varphi'}(F')$ が成り立ち、$\varphi'$ を $\mathfrak C[\Delta^0]$ の恒等写像とすると $\mathrm{Un}_\varphi(F\boxtimes K)\cong\mathrm{Un}_\varphi(F)\times\operatorname{Sing}_{Q^\bullet}K$ となる(HTT09 Remark 2.2.2.12、p. 78)。ここで $F\boxtimes K$ は $C\mapsto F(C)\times K$ である。$F=\ast$ とすると $\ast\boxtimes K=\underline K$ なので、prop-st-un-simplices の $\mathrm{Un}_\varphi(\ast)\cong S$ から主張の同型を得る。ファイバーについては上の Remark 2.2.2.11 による。$\square$

直線化定理

$\mathbf{sSet}_{/S}$ の反変モデル構造は、コファイブレーションが単射で、ファイブラントな対象がちょうど右ファイブレーション $X\to S$ であるモデル構造である(HTT09 §2.1.4 と Corollary 2.2.3.12、p. 85)。$\mathbf{sSet}^{\mathcal C}$ の射影モデル構造は、弱同値とファイブレーションを対象ごとに Kan–Quillen の意味で定めるモデル構造である(同 §A.3.3。Kan–Quillenモデル構造)。

直線化定理

$S$ を単体的集合、$\mathcal C$ を単体的圏、$\varphi\colon\mathfrak C[S]\to\mathcal C^{\mathrm{op}}$ を単体的関手とする(HTT09 Theorem 2.2.1.2、p. 74)。

  1. $(\mathrm{St}_\varphi,\mathrm{Un}_\varphi)$ は、反変モデル構造と射影モデル構造の間の Quillen随伴 である。
  2. $\varphi$ が単体的圏の同値なら、$(\mathrm{St}_\varphi,\mathrm{Un}_\varphi)$ は Quillen 同値である。
    この記事では証明しない。

$S$ 上の右ファイブレーションの間の写像が反変モデル構造の弱同値であることは、各頂点の上のファイバーの間でホモトピー同値であることと同値である(HTT09 Corollary 2.2.3.13、p. 86)。$\varphi=\mathrm{id}$ に定理を当て、両ファイブラントな対象の単体的圏の脈体をとると、∞圏の同値
$$ \operatorname{Fun}(S^{\mathrm{op}},\mathcal S)\simeq\bigl(S\text{ 上の右ファイブレーションの∞圏}\bigr) $$
を得る(同 Proposition 5.1.1.1、pp. 316–317)。左ファイブレーションは反対単体的集合に移して関手 $S\to\mathcal S$ と対応する。すべての左ファイブレーション $X\to S$($X$ と $S$ は小さい)は、ある写像 $S\to\mathcal S$ に沿った、一点を始点とする余スライス $\mathcal S_{\ast/}\to\mathcal S$ の引き戻しと同値である(同 Corollary 3.3.2.8、p. 213)。このとき $X$ の $s$ の上のファイバーは、$s$ の像の空間 $K$ からなる $\operatorname{Map}_{\mathcal S}(\ast,K)$ と同値であり、これは $K$ と同値である(左ファイブレーションと右ファイブレーション の例「スライスのファイバーと写像空間」を反対に移したものと、空間の∞圏 の命題「一点からの写像空間とホモトピー圏」)。
同じ構成を標識付き単体的集合で行うと、Cartesianファイブレーション と∞圏値の関手の対応が得られる。

Cartesian ファイブレーションの直線化
  1. 標識付き版の直線化 $\mathrm{St}^+_\varphi$ と非直線化 $\mathrm{Un}^+_\varphi$ は、$(\mathbf{sSet}^+)_{/S}$ の Cartesian モデル構造と $(\mathbf{sSet}^+)^{\mathcal C}$ の射影モデル構造の間の Quillen 随伴であり、$\varphi$ が単体的圏の同値なら Quillen 同値である(HTT09 Theorem 3.2.0.1、p. 169)。
  2. 小さい単体的集合の間の Cartesian ファイブレーション $X\to S$ は、関手 $S\to\mathcal Cat_\infty^{\mathrm{op}}$ によって分類され、分類する関手は同値を除いて一意である(同 Definition 3.3.2.2・Remark 3.3.2.3、p. 211)。$X\to S$ が右ファイブレーションであることは、分類する関手が $\mathcal S^{\mathrm{op}}\subset\mathcal Cat_\infty^{\mathrm{op}}$ を通ることと同値である(同 Proposition 3.3.2.5、p. 212)。
    この記事では証明しない。

直線化は∞圏論の多くの基本定理の土台である。表現可能な前層 $\operatorname{Map}_{\mathcal C}(-,c)$ に対応するのはスライス $\mathcal C_{/c}\to\mathcal C$ であり、一般に右ファイブレーションの全空間が終対象をもつことと、それを分類する前層が表現可能であることは同値である(HTT09 Proposition 4.4.4.5、p. 300。米田の補題(∞圏))。随伴の存在をファイブレーションの引き戻しで判定する基準(同 Proposition 5.2.4.2、pp. 350–351)もこの対応を通して前層の表現可能性に言い換えられ、表示可能∞圏 の随伴関手定理に使われる。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
thm-st-discrete の「持ち上げがただ 1 つ」2 対象が同型で結ばれた亜群 $I$ から一点の圏への関手集合値の前層の元の圏と同型であること
thm-st-transport の「左ファイブレーション」包含 $\{0\}\subset\Delta^1$辺 $0\to1$ に沿った輸送 $X_0\to X_1$ があること
thm-st-main の 2 の「$\varphi$ が同値」$S=\Delta^1$、$\mathcal C$ は一点の単体的圏、$\varphi$ は唯一の関手$(\mathrm{St}_\varphi,\mathrm{Un}_\varphi)$ が Quillen 同値であること
表の反例の確認を開く

1 行目:$I$ の対象を $x,y$ とし、射は恒等射と互いに逆な同型 $x\to y$、$y\to x$ とする。$x$ への $\mathrm{id}$ の持ち上げとして $\mathrm{id}_x$ と $y\to x$ の 2 つがあるので、離散ファイブレーションでない。元の圏 $\int P\to[0]$ のファイバーには恒等射しかないので、ファイバー $I$ をもつ関手はそれと同型にならない。一方 $N(I)$ は Kan 複体で、$N(I)\to\Delta^0$ は右ファイブレーションである(左ファイブレーションと右ファイブレーション の定理「脈体が右ファイブレーションになる条件」)。ファイバーが集合でない対象には、空間に値をとる前層が要る。

2 行目:$p\colon\{0\}\subset\Delta^1$ は右ファイブレーションだが左ファイブレーションでない(左ファイブレーションと右ファイブレーション の反例の表の 2 行目)。ファイバーは $X_0=\Delta^0$、$X_1=\emptyset$ であり、写像 $\Delta^0\to\emptyset$ はない。

3 行目:$\mathcal C=\mathfrak C[\Delta^0]$ とすると $\mathbf{sSet}^{\mathcal C}=\mathbf{sSet}$ である。$\pi\colon\mathfrak C[\Delta^1]^{\mathrm{op}}\to\mathcal C$ を唯一の関手とすると $\varphi=\pi^{\mathrm{op}}$ であり、直線化の関手性 $\mathrm{St}_{\pi^{\mathrm{op}}}\cong\pi_!\circ\mathrm{St}_{\Delta^1}$(HTT09 Proposition 2.2.1.1 の (2)、p. 74)の右随伴をとると $\mathrm{Un}_\varphi(K)\cong\mathrm{Un}_{\Delta^1}(\underline K)$ である。ex-st-constant によりこれは $\Delta^1\times\operatorname{Sing}_{Q^\bullet}K$ と同型で、頂点 $0$ と $1$ の上のファイバーはどちらも $\operatorname{Sing}_{Q^\bullet}K$ である。Quillen 同値なら、右ファイブレーション $Y=(\{0\}\subset\Delta^1)$(両ファイブラント)はある Kan 複体 $K$ について $\mathrm{Un}_\varphi(K)$ とホモトピー圏で同型であり、両ファイブラントな対象の間の同型は弱同値な写像 $Y\to\mathrm{Un}_\varphi(K)$ で実現される。HTT09 Corollary 2.2.3.13 によりこれはファイバーごとのホモトピー同値なので、$\Delta^0\simeq\operatorname{Sing}_{Q^\bullet}K\simeq\emptyset$ となり矛盾する。$\varphi$ は 2 対象の $\mathfrak C[\Delta^1]$ を 1 対象の圏に送り、ホモトピー圏 $[1]$ と $[0]$ が同値でないので、単体的圏の同値でない。$\square$

反例:輸送関手だけでは左ファイブレーションは決まらない

Hopfファイブレーション $h\colon S^3\to S^2$ と射影 $q\colon S^2\times S^1\to S^2$ の特異単体的集合をとり、$p=\operatorname{Sing}h$、$p'=\operatorname{Sing}q$ を $S=\operatorname{Sing}S^2$ の上の写像とする。$p,p'$ は左ファイブレーションで、thm-st-transport の輸送関手は $T_p\cong T_{p'}$ を満たすが、$p$ と $p'$ を結ぶ $S$ 上の弱同値はない。

要点:ファイバー束なので Kan ファイブレーションになり、$S^2$ が単連結なので輸送関手はファイバーだけで決まる。一方、全空間の $\pi_2$ が $0$ と $\mathbb Z$ で異なる。

詳しい証明を開く

$h$ は Hopfファイブレーション の定理「Hopf ファイブレーションは円周束」によりファイバー束であり、$q$ も自明なファイバー束なので、どちらも Serre ファイブレーションである(Serreファイブレーション の定理「ファイバー束は Serre ファイブレーション」)。Kanファイブレーション の定理「Serre ファイブレーションの特異単体的集合」により $p,p'$ は Kan ファイブレーションであり、したがって左ファイブレーションである(左ファイブレーションと右ファイブレーション の命題「基本性質」の 2)。$S$ は Kan 複体なので∞圏である。

$S^2$ は単連結なので、$hS$(基本亜群)では任意の 2 対象の間の射がただ 1 つである。どちらのファイバーも $\operatorname{Sing}S^1$ と同型なので、頂点 $s_0$ を固定して $\mathcal H$ での同型 $a\colon T_p(s_0)\to T_{p'}(s_0)$ を選び、各 $s$ について $s_0$ から $s$ へのただ 1 つの射 $\gamma$ を使って $a_s=T_{p'}(\gamma)\circ a\circ T_p(\gamma)^{-1}$ とおくと、射がただ 1 つであることから $a_s$ は自然であり、$T_p\cong T_{p'}$ である。

一方、$S$ 上の写像 $f\colon\operatorname{Sing}S^3\to\operatorname{Sing}(S^2\times S^1)$ が左ファイブレーションの間の弱同値(共変モデル構造の弱同値)なら、HTT09 Corollary 2.2.3.13 を反対単体的集合に移したものによりファイバーごとのホモトピー同値であり、2 つの Kan ファイブレーションのホモトピー群の長完全列を $f$ で比べると、5 項補題により $f$ は $\pi_2$ の同型を導く。ところが 球面のホモトピー群 の命題「消滅域と対角線」により $\pi_2(S^3)=0$、$\pi_2(S^2\times S^1)\cong\pi_2(S^2)\times\pi_2(S^1)\cong\mathbb Z$ なので、そのような $f$ はない。逆向きの $S$ 上の写像についても、同じ議論で弱同値でないことが分かる。$T_p$ は輸送をホモトピー類としてしか見ないので、ファイバーを $S^2$ の上で回す高次の情報(Hopf 束のねじれ)を失っている。$\square$

関連項目

参考文献

[1]
Jacob Lurie, Higher Topos Theory, Annals of Mathematics Studies 170, Princeton University Press, 2009, §2.1.4、§2.2.1(pp. 73–74)、Proposition 2.2.1.1・Theorem 2.2.1.2(p. 74)、§2.2.2・Proposition 2.2.2.7(pp. 76–77)、Remark 2.2.2.11(p. 77)、Remark 2.2.2.12(p. 78)、Corollary 2.2.3.12(p. 85)、Corollary 2.2.3.13(p. 86)、Theorem 3.2.0.1(p. 169)、Definition 3.3.2.2・Remark 3.3.2.3(p. 211)、Proposition 3.3.2.5(p. 212)、Corollary 3.3.2.8(p. 213)、Proposition 4.4.4.5(p. 300)、Proposition 5.1.1.1(pp. 316–317)、Proposition 5.2.4.2(pp. 350–351)、§A.3.3

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