階数(線形代数)(rank)とは、体 $K$ 上の行列の列ベクトルが張る部分空間の次元、また有限次元のベクトル空間からの線形写像の像の次元のことであり、行列 $A$ の階数を $\operatorname{rank}A$ と書く。独立な列の本数と独立な行の本数はつねに等しく、零行列でなければ階数は $0$ でない小行列式の次数の最大値とも一致する。連立1次方程式の解の存在と自由度、正方行列の正則性を判定する基本量であり、$m\times n$ 行列を左右から正則行列を掛けて分類すると階数だけが不変量として残る。一方、正方行列 $A,B$ でも $AB$ と $BA$ の階数は等しいとは限らない。
行列
$$
M=\begin{pmatrix}1&2&3\\2&4&6\\1&0&1\end{pmatrix}
$$
は 3 行 3 列だが、第 2 行は第 1 行の $2$ 倍なので、本当に独立な行は第 1 行と第 3 行の 2 本しかない。列で見ても、第 3 列 $(3,6,1)^{\top}$ は第 1 列と第 2 列の和であり、独立な列は 2 本である。この「独立な行の本数」と「独立な列の本数」がいつでも一致する、というのが線形代数の基本定理の 1 つであり、その共通の値を行列の 階数(rank)という。$M$ の階数は $2$ である。$M$ を連立1次方程式の係数行列とみれば、3 つの式のうち実質的な条件は 2 つであり、写像 $x\mapsto Mx$ とみれば、$\mathbb{R}^3$ 全体が原点を通るある平面の上に押しつぶされる。
階数は積とも関係する。$A=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$、$B=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}$ では $AB=O$ で階数 $0$、$BA=A$ で階数 $1$ であり、掛ける順序で階数が変わりうる。
本記事では、体 $K$ 上の行列と、有限次元のベクトル空間の間の線形写像の階数を扱う。列の階数と行の階数が等しいこと、積の階数の不等式(Sylvester の不等式を含む)、小行列式による特徴づけ、階数 1 の行列の形、正則行列を両側から掛けて得られる標準形を証明する。「階数」は自由加群・自由群・局所自由層などでも使われる語であるが、それらは別の概念である(rem-rank-la-other-meanings)。
以下、$K$ は体とし、$K$ の元を成分とする $m\times n$ 行列の全体を $M_{m,n}(K)$、$n$ 次正方行列の全体を $M_n(K)$ と書く。$K^n$ の元は列ベクトルとし、$A^{\top}$ で $A$ の転置行列を表す。
$Ax=x_1a_1+\cdots+x_na_n$ なので、$A$ の列空間は線形写像 $L_A\colon K^n\to K^m$、$x\mapsto Ax$ の像であり、$\operatorname{rank}A=\operatorname{rank}L_A$ である。$V$ が有限次元なら $\operatorname{im}T$ は $\dim V$ 個以下のベクトル $T(v_1),\dots,T(v_n)$($v_1,\dots,v_n$ は $V$ の基底)で張られるので有限次元であり、$\operatorname{rank}T\le\dim V$ である。$\operatorname{rank}A\le\min(m,n)$ も同様に従う(列は $n$ 本で、列空間は $m$ 次元の $K^m$ の部分空間である)。行階数が列階数に等しいこと(thm-rank-la-row-column)により、「行の階数」と「列の階数」を区別する必要はない。
階数は、線形写像が「何次元分の情報を残すか」を測る。$T\colon V\to W$ は $V$ の中の $\ker T$(核(線形写像))の方向を $0$ に潰し、残りの $\dim V-\dim\ker T$ 次元分を $W$ の中に忠実に写す(線形代数学 の記事の定理「次元定理」)。階数はこの残る次元である。行列で言えば、階数は独立な列の本数であり、同時に独立な行の本数でもある。連立1次方程式 $Ax=b$ では、階数は「実質的に独立な式の本数」にあたり、解の自由度は未知数の個数から階数を引いた値になる(連立1次方程式 の記事の定理「解全体は特殊解と斉次方程式の解の和」)。
階数は行列を「どれだけ小さな行列に分解できるか」も表す。$A$ の階数が $r$ なら $A$ は $m\times r$ 行列と $r\times n$ 行列の積に書け(prop-rank-la-factorization)、とくに階数 1 の行列は列ベクトルと行ベクトルの積である(prop-rank-la-one)。
$A=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$、$B=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}$ では $AB=O$、$BA=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$ であり、$\operatorname{rank}(AB)=0$、$\operatorname{rank}(BA)=1$ である。この例は「$A,B$ が同じ大きさの正方行列である」を満たすが「$\operatorname{rank}(AB)=\operatorname{rank}(BA)$」を満たさないので、正方行列どうしでも $\operatorname{rank}(AB)=\operatorname{rank}(BA)$ は成り立たない。成り立つのは不等式 $\operatorname{rank}(AB)\le\min(\operatorname{rank}A,\operatorname{rank}B)$ と、どちらかが正則行列の場合の等式である(prop-rank-la-product)。なお、$AB$ と $BA$ の固有多項式は等しい(固有多項式 の記事の定理「$AB$ と $BA$ の固有多項式」)ので、この例は固有多項式が等しくても階数が違いうることも示している。
$\mathbb{C}^2$ のベクトル $a=\begin{pmatrix}1\\i\end{pmatrix}$ を $2\times1$ 行列とみると $\operatorname{rank}a=1$ だが、$a^{\top}a=1^2+i^2=0$ なので $\operatorname{rank}(a^{\top}a)=0$ である。この例は「$\operatorname{rank}(A^{\top}A)=\operatorname{rank}A$」が、成分が実数の行列では成り立つ(prop-rank-la-gram)が、成分が複素数の行列では成り立たないことを示す。複素数の場合は転置の代わりに共役転置 $a^*=\overline{a}^{\top}$ を使えば $a^*a=1+1=2$ となり、等式が回復する。
$A\in M_{m,n}(K)$ の階数を $r\ge1$ とすると、$C\in M_{m,r}(K)$ と $R\in M_{r,n}(K)$ で $A=CR$ となるものが存在する。ここで $C$ の列は $A$ の列空間の基底にとれる。
$A$ の列 $a_1,\dots,a_n$ から、列空間の基底になるものを選ぶ($a_1$ から順に、それまでに選んだものの線形結合でないものだけを残せばよい。残したものは線形独立 の記事の命題「一ベクトルの追加」により線形独立であり、残さなかった列は残したものの線形結合なので、残したものは列空間を張る)。その個数は列空間の次元 $r$ である。それらを並べた $m\times r$ 行列を $C=(c_1\ \cdots\ c_r)$ とする。各 $a_k$ は列空間に入るので $a_k=\sum_{j=1}^r\rho_{jk}c_j$ と書ける。$R:=(\rho_{jk})\in M_{r,n}(K)$ とおくと、$CR$ の第 $k$ 列は $\sum_j\rho_{jk}c_j=a_k$ であり、$A=CR$ である。$\square$
任意の $A\in M_{m,n}(K)$ について、$A$ の列階数と行階数は等しい。すなわち $\operatorname{rank}A=\operatorname{rank}A^{\top}$ である。
$A$ の列階数を $r$ とする。$r=0$ なら $A=O$ で行階数も $0$ である。$r\ge1$ とし、prop-rank-la-factorization により $A=CR$($C\in M_{m,r}(K)$、$R\in M_{r,n}(K)$)と書く。$A$ の第 $i$ 行は
$$
(a_{i1},\dots,a_{in})=\sum_{j=1}^rc_{ij}\,(\rho_{j1},\dots,\rho_{jn})
$$
であり($a_{ik}=\sum_jc_{ij}\rho_{jk}$)、$R$ の $r$ 本の行の線形結合である。よって行空間は $R$ の $r$ 本の行が張る空間に含まれ、その次元は $r$ 以下である($r$ 本のベクトルで張られる空間では、その $r$ 本が生成系なので、基底と次元 の記事の命題「有限次元空間における独立系と生成系」の 2 により次元は $r$ 以下であり、部分空間の次元はさらにそれ以下である(同命題の 3))。したがって「行階数 $\le$ 列階数」がすべての行列について成り立つ。これを $A^{\top}$ に使うと、$A^{\top}$ の行は $A$ の列、$A^{\top}$ の列は $A$ の行なので、「$A$ の列階数 $\le$ $A$ の行階数」を得る。2 つの不等式から両者は等しい。$\square$
この証明は Axl24 3.56・3.57 のものである。行基本変形による別証(簡約階段形の $0$ でない行の本数を数える)は Bee15 の Theorem RMRT にある。双対空間と双対写像を使う別証もある(Axl24 3.133。双対空間(線形代数) の記事の系「列ランクと行ランクの一致」)。
$V,W$ を有限次元のベクトル空間、$T\colon V\to W$ を線形写像とする。$V,W$ の基底をどのように選んでも、それらに関する $T$ の表現行列 $A$ について $\operatorname{rank}A=\operatorname{rank}T$ である。
$V$ の基底 $v_1,\dots,v_n$、$W$ の基底 $w_1,\dots,w_m$ に関する表現行列を $A$ とし、$W$ の座標写像を $\varphi\colon W\to K^m$ とする。$\varphi$ は線形な全単射である(線形代数学 の記事の定義「基底と次元」の後の段落)。$A$ の第 $j$ 列は $\varphi(T(v_j))$ なので、$A$ の列空間は $\varphi(\operatorname{span}\{T(v_1),\dots,T(v_n)\})=\varphi(\operatorname{im}T)$ である。単射な線形写像は線形独立な族を線形独立な族に写す(線形独立 の記事の命題「単射線形写像による保存」)ので、$\operatorname{im}T$ の基底は $\varphi$ で $\varphi(\operatorname{im}T)$ の基底に写り、両者の次元は等しい。$\square$
したがって行列の階数を求めれば線形写像の階数がわかり、逆もまた成り立つ。線形代数学 の記事の定理「次元定理」は、$V$ が有限次元なら
$$
\dim V=\dim\ker T+\operatorname{rank}T
$$
であることを述べる。行列では、$A\in M_{m,n}(K)$ について $n=\dim\ker A+\operatorname{rank}A$ である($\ker A:=\{x\in K^n\mid Ax=0\}$)。$\dim\ker A$ を $A$ の 退化次数(nullity)ということがある。
$A\in M_{m,n}(K)$、$B\in M_{n,p}(K)$ とする。
2 から、行基本変形(左から基本行列を掛けること)と列基本変形(右から掛けること)は階数を変えない。また相似(行列の相似)な正方行列($P^{-1}AP$)の階数は等しい。
$A\in M_{m,n}(K)$、$B\in M_{n,p}(K)$ について
$$
\operatorname{rank}A+\operatorname{rank}B-n\le\operatorname{rank}(AB)
$$
が成り立つ。
$U:=\operatorname{im}B\subset K^n$ とおく。prf-rank-la-product の 1 と同じく $\operatorname{rank}(AB)=\dim A(U)=\dim U-\dim(U\cap\ker A)$ である。$U\cap\ker A$ は $\ker A$ の部分空間なので $\dim(U\cap\ker A)\le\dim\ker A=n-\operatorname{rank}A$(次元定理)である。よって
$$
\operatorname{rank}(AB)\ge\operatorname{rank}B-(n-\operatorname{rank}A)
$$
である。$\square$
$A=B=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$ では $\operatorname{rank}A+\operatorname{rank}B-2=0=\operatorname{rank}(A^2)$ で等号が成り立つ。とくに $n$ 次正方行列 $A,B$ が $AB=O$ を満たせば $\operatorname{rank}A+\operatorname{rank}B\le n$ である。
$A,B\in M_{m,n}(K)$ について $\operatorname{rank}(A+B)\le\operatorname{rank}A+\operatorname{rank}B$ である。
$(A+B)x=Ax+Bx$ なので $\operatorname{im}(A+B)\subset\operatorname{im}A+\operatorname{im}B$ である。基底と次元 の記事の命題「部分空間の和と共通部分の次元」により $\dim(\operatorname{im}A+\operatorname{im}B)\le\dim\operatorname{im}A+\dim\operatorname{im}B$ である。$\square$
$A\in M_{m,n}(K)$ から $s$ 本の行 $i_1<\cdots< i_s$ と $s$ 本の列 $j_1<\cdots< j_s$ を選んで得られる $s\times s$ 行列 $(a_{i_pj_q})_{p,q}$ の行列式を、$A$ の $s$ 次の小行列式(minor)という。
$A\in M_{m,n}(K)$ が零行列でないとき、$\operatorname{rank}A$ は、$0$ でない $s$ 次の小行列式が存在するような $s$ の最大値に等しい。
$r:=\operatorname{rank}A$ とする。
$s$ 次の小行列式が $0$ でないなら $s\le r$ であること。行 $I=\{i_1,\dots,i_s\}$、列 $J=\{j_1,\dots,j_s\}$ の小行列式が $0$ でないとし、その $s\times s$ 行列を $S$ とする。行列式 の記事の定理「正則性の判定」により $S$ の列は線形独立である。$A$ の列 $a_{j_1},\dots,a_{j_s}$ について $\sum_qx_qa_{j_q}=0$ とすると、第 $i_1,\dots,i_s$ 成分だけを見れば $S$ の列の線形関係 $\sum_qx_qs_q=0$($s_q$ は $S$ の第 $q$ 列)が得られ、$x_1=\cdots=x_s=0$ である。よって $A$ の $s$ 本の列が線形独立であり、$s\le r$ である(基底と次元 の記事の命題「有限次元空間における独立系と生成系」の 1 を列空間に使う)。
$0$ でない $r$ 次の小行列式が存在すること。prop-rank-la-factorization の証明のように、$A$ の列から列空間の基底 $a_{j_1},\dots,a_{j_r}$ を選び、これを並べた $m\times r$ 行列を $C$ とする。$C$ の列階数は $r$ なので、thm-rank-la-row-column により $C$ の行階数も $r$ である。$C$ の $m$ 本の行は $C$ の行空間を張るので、同じ方法で行空間の基底になる $r$ 本の行 $i_1<\cdots< i_r$ を選べる。これらの行からなる $r\times r$ 行列 $S$ は行が線形独立なので、「正則性の判定」により $\det S\ne0$ である。$S$ は $A$ の行 $i_1,\dots,i_r$ と列 $j_1,\dots,j_r$ から得られるので、$\det S$ は $A$ の $0$ でない $r$ 次の小行列式である。$\square$
とくに $n$ 次正方行列 $A$ では、$\operatorname{rank}A=n$ と $\det A\ne0$ は同値である(正則行列 の記事の定理「正則性の同値条件」)。
$K$ を体 $L$ の部分体とし、$A\in M_{m,n}(K)$ とする。$A$ を $L$ の元を成分とする行列とみたときの階数は、$K$ の上での階数に等しい。
$A$ の小行列式は成分の和と積で計算されるので、$K$ で計算しても $L$ で計算しても同じ元であり、$0$ かどうかも同じである。$A=O$ ならどちらでも階数は $0$ であり、そうでなければ thm-rank-la-minors により、どちらの階数も「$0$ でない小行列式の次数の最大値」に等しい。$\square$
たとえば有理数を成分とする行列の階数は、実数や複素数の行列とみても変わらない。
$A\in M_{m,n}(K)$ について、$\operatorname{rank}A=1$ であることと、$0$ でない $u\in K^m$ と $0$ でない $v\in K^n$ で $A=uv^{\top}$ と書けることは同値である。
$\operatorname{rank}A=1$ とすると、列空間は $0$ でないある $u$ で張られるので、各列は $a_j=v_ju$($v_j\in K$)と書ける。$v:=(v_1,\dots,v_n)^{\top}$ とおくと $uv^{\top}$ の第 $j$ 列は $v_ju=a_j$ なので $A=uv^{\top}$ であり、$A\ne O$ なので $v\ne0$ である。逆に $A=uv^{\top}$($u,v\ne0$)なら、第 $j$ 列は $v_ju$ なので列空間は $\operatorname{span}\{u\}$ に含まれ、$v_j\ne0$ となる $j$ の列 $v_ju$ は $0$ でないので、列空間は $1$ 次元である。$\square$
prop-rank-la-factorization を列ごとに分ければ、階数 $r$ の行列は階数 1 の行列 $r$ 個の和 $A=\sum_{j=1}^rc_j\rho_j$($c_j$ は $C$ の第 $j$ 列、$\rho_j$ は $R$ の第 $j$ 行)に書ける。逆に階数 1 の行列 $r$ 個の和の階数は prop-rank-la-sum により $r$ 以下なので、階数は「階数 1 の行列の和として書くのに必要な最小の個数」とも言える。
$A\in M_{m,n}(K)$ の階数を $r$ とする。正則行列 $P\in M_m(K)$、$Q\in M_n(K)$ で
$$
PAQ=\begin{pmatrix}I_r&O\\O&O\end{pmatrix}
$$
となるものが存在する(右辺は $m\times n$ 行列で、$I_r$ は $r$ 次単位行列)。したがって $A,B\in M_{m,n}(K)$ について、正則行列 $P,Q$ で $B=PAQ$ となるものが存在することと、$\operatorname{rank}A=\operatorname{rank}B$ であることは同値である。
$r=0$ なら $A=O$ で $P=I_m$、$Q=I_n$ でよい。$r\ge1$ とする。次元定理により $\dim\ker A=n-r$ である。$\ker A$ の基底 $u_{r+1},\dots,u_n$ をとり、線形代数学 の記事の補題「部分空間の基底と基底の延長」の 2 により $u_1,\dots,u_r$ を付け加えて $K^n$ の基底 $u_1,\dots,u_n$ にする。$w_i:=Au_i$($i=1,\dots,r$)とおく。$\operatorname{im}A$ の元は $A(\sum_ic_iu_i)=\sum_{i\le r}c_iw_i$ なので $w_1,\dots,w_r$ は $\operatorname{im}A$ を張り、$\dim\operatorname{im}A=r$ なので $\operatorname{im}A$ の基底である(基底と次元 の記事の命題「有限次元空間における独立系と生成系」の 2)。これを $K^m$ の基底 $w_1,\dots,w_m$ に延長する。
$Q:=(u_1\ \cdots\ u_n)$、$R:=(w_1\ \cdots\ w_m)$ は列が基底をなすので正則である(正則行列 の記事の定理「正則性の同値条件」)。$AQ$ の列は $Au_1,\dots,Au_n=w_1,\dots,w_r,0,\dots,0$ であり、これは $R\begin{pmatrix}I_r&O\\O&O\end{pmatrix}$ の列と一致する。よって $P:=R^{-1}$ とおけば $PAQ=\begin{pmatrix}I_r&O\\O&O\end{pmatrix}$ である。
後半について。$B=PAQ$ なら prop-rank-la-product の 2 により $\operatorname{rank}B=\operatorname{rank}A$ である。逆に階数が等しければ、前半により $A$ と $B$ はどちらも同じ行列 $\begin{pmatrix}I_r&O\\O&O\end{pmatrix}$ に $P_1AQ_1=P_2BQ_2$ の形で写るので、$B=(P_2^{-1}P_1)A(Q_1Q_2^{-1})$ である。$\square$
この定理は、$m\times n$ 行列を「左右から正則行列を掛ける」操作(基底を定義域と終域で独立に取り替えること)で分類すると、階数だけが不変量として残ることを示す。定義域と終域の基底を同時に取り替える相似(行列の相似)による分類はずっと細かく、固有値やJordan標準形が必要になる。
$A\in M_{m,n}(\mathbb{R})$ なら $\operatorname{rank}(A^{\top}A)=\operatorname{rank}(AA^{\top})=\operatorname{rank}A$ である。$A\in M_{m,n}(\mathbb{C})$ なら、共役転置 $A^*=\overline{A}^{\top}$ について $\operatorname{rank}(A^*A)=\operatorname{rank}(AA^*)=\operatorname{rank}A$ である。
複素数の場合を示す(実数の場合は $A^*=A^{\top}$ である)。$Ax=0$ なら $A^*Ax=0$ である。逆に $A^*Ax=0$ なら、$y:=Ax$ について
$$
0=x^*A^*Ax=(Ax)^*(Ax)=\sum_{i=1}^m|y_i|^2
$$
なので $y=0$、すなわち $Ax=0$ である。よって $\ker(A^*A)=\ker A$ であり、どちらも $n$ 列の行列なので、次元定理により $\operatorname{rank}(A^*A)=n-\dim\ker A=\operatorname{rank}A$ である。$AA^*$ については、$A^*$ に同じことを使って $\operatorname{rank}(AA^*)=\operatorname{rank}(A^{**}A^*)=\operatorname{rank}A^*$ であり、$\operatorname{rank}A^*=\operatorname{rank}A^{\top}=\operatorname{rank}A$ である(成分の共役をとっても列の線形関係は係数の共役をとって保たれ、転置は thm-rank-la-row-column による)。$\square$
$\sum_i|y_i|^2=0$ から $y=0$ を導くところで、実数・複素数の性質(正の数の和は $0$ にならない)を使っている。ex-rank-la-complex-transpose は、複素数の行列で $A^*$ の代わりに $A^{\top}$ を使うとこの議論が壊れることを示している。$A^{\top}A$ は最小二乗法の正規方程式に現れる行列であり、この命題は「$A$ の列が線形独立なら $A^{\top}A$ は正則」を含む。
連立1次方程式 $Ax=b$ が解をもつことは $\operatorname{rank}A=\operatorname{rank}(A\mid b)$ と同値であり、解をもつとき解全体は $n-\operatorname{rank}A$ 次元の部分空間 $\ker A$ を平行移動したものである(連立1次方程式 の記事の定理「解の存在と階数」「解全体は特殊解と斉次方程式の解の和」)。階数は行基本変形で簡約階段形にしたときの $0$ でない行の本数として計算できる(同記事の命題「階数は先頭成分の個数に等しい」)。正方行列 $A\in M_n(K)$ が正則であることは $\operatorname{rank}A=n$ と同値である(正則行列 の記事の定理「正則性の同値条件」)。実対称行列を対角化したときの $0$ でない係数の個数は階数に等しい(2次形式 の記事の定理「実2次形式の係数の符号の不変性」の後の段落)。
列階数・行階数の定義は Axl24 3.52(§3C、p. 77)、列階数による分解と列階数・行階数の一致は 3.56・3.57(p. 78)、階数の定義は 3.58(p. 79)、線形写像の像の次元と表現行列の列階数の一致は 3.78(§3D、p. 90)、双対写像による別証は 3.133(§3F、p. 114)にある(同書は $\mathbf{F}=\mathbb{R},\mathbb{C}$ で述べている)。行基本変形の立場からの扱いは Bee15 の Section D の Definition ROM・Theorem RPNC(階数と退化次数の和が列の個数)、Section PD の Theorem RMRT(転置の階数)にある(同書は複素数を成分とする行列で述べている)。本記事の証明は四則演算と次元の議論だけを使うので、prop-rank-la-gram を除き任意の体でそのまま成り立つ。
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