八元数

同義語:octonionCayley数

概要

八元数(octonion)とは、四元数の組 $(a,b)$ に $(a,b)(c,d)=(ac-\bar db,\ da+b\bar c)$ で積を入れた実 8 次元の多元環 $\mathbb O$ の元である。積は可換でも結合的でもないが、絶対値が積を保ち($|xy|=|x||y|$)、2 つの元から生成される部分は結合的(交代性)で、$0$ でない元で割り算ができる。単位元をもち絶対値が積を保つ有限次元の実多元環は実数・複素数・四元数・八元数に限る(Hurwitz の定理)。単位球面 $S^7$ の平行化、7 次元のベクトル積、Hopf 束 $S^7\to S^{15}\to S^8$、例外 Lie 群 $G_2$ に現れる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 四元数, 多元環, 内積

複素数は実数の組 $(a,b)$ に掛け算を入れたもの、四元数は複素数の組に掛け算を入れたものとみなせる。同じ手順をもう一度、四元数の組に当てはめると、8 次元の 八元数(octonion)が得られる。八元数の積は可換でも結合的でもないが、絶対値は積を保ち($|xy|=|x||y|$)、$0$ でない元で割り算ができる。単位元をもち絶対値が積を保つ有限次元の実多元環は、実数・複素数・四元数・八元数の 4 つしかない(Hurwitz の定理)。八元数はその最後のものであり、7 次元のベクトル積、7 次元球面 $S^7$ の平行化、Hopf 束 $S^7\to S^{15}\to S^8$、例外型の Lie 群 $G_2$ などに現れる。
この記事では、四元数の組として八元数を定義し、絶対値が積を保つこと、結合法則の弱い形(交代性)が成り立つこと、割り算ができることを完全に証明する。応用として、$S^7$ の平行化と 7 次元のベクトル積を導く。分類定理や例外 Lie 群との関係は引用にとどめる。

定義

四元数 の記事の記号に従い、$\mathbb H$ を四元数の全体、$\bar q$ を共役、$|q|$ を絶対値、$\mathrm{Re}\,q$ を実部とする。$\mathbb H$ は結合的で、$\overline{pq}=\bar q\bar p$、$q\bar q=\bar qq=|q|^2$、$|pq|=|p||q|$ をみたす(四元数 の定理「四元数は斜体である」)。$\mathrm{Re}(p\bar q)$ は $\mathbb H\cong\mathbb R^4$ の標準内積であり、積の公式 $pq=(ab-v\cdot w)+(\cdots)$($p=a+v$、$q=b+w$)から $\mathrm{Re}(pq)=\mathrm{Re}(qp)$ である(同記事の命題「スカラー部とベクトル部による積の公式」)。

八元数

実 8 次元ベクトル空間 $\mathbb O:=\mathbb H\times\mathbb H$ に、双線形な積
$$ (a,b)(c,d):=(ac-\bar d\,b,\ da+b\,\bar c)\qquad(a,b,c,d\in\mathbb H) $$
を入れたものを 八元数(octonion、Cayley 数)の多元環という。$x=(a,b)$ について、共役を $\bar x:=(\bar a,-b)$、絶対値を $|x|:=\sqrt{|a|^2+|b|^2}$、実部を $\mathrm{Re}\,x:=\mathrm{Re}\,a$ と定める。

$|x|$ は $\mathbb O=\mathbb R^8$ の標準のノルムで、対応する内積は $\langle(a,b),(c,d)\rangle=\mathrm{Re}(a\bar c)+\mathrm{Re}(b\bar d)$ である。$\mathrm{Re}\,x=\langle x,1\rangle$ である。

  • $1:=(1,0)$ は両側の単位元である:$(1,0)(c,d)=(c,d)$、$(a,b)(1,0)=(a,b)$。
  • $a\mapsto(a,0)$ により $\mathbb H\subset\mathbb O$ とみなせる。$(a,0)(c,0)=(ac,0)$ なので積も一致する。実数 $r$ は $(r,0)(c,d)=(rc,dr)=(c,d)(r,0)$ をみたし、スカラー倍と一致する。
  • $\ell:=(0,1)$ とおくと $(a,0)\ell=(0,a)$ なので、$(a,b)=a+b\ell$ と書ける。
    同じ式を $\mathbb R$ の組に当てはめると $\mathbb C$、$\mathbb C$ の組に当てはめると $\mathbb H$ が得られる。この倍々の構成を Cayley–Dickson 構成という。共役の置き方が違う式を使う文献もある(Bae02 §2.2, pp. 8–9)。

基底と掛け算の表

$e_0:=1$、$e_1:=i$、$e_2:=j$、$e_3:=k$、$e_4:=\ell$、$e_5:=i\ell$、$e_6:=j\ell$、$e_7:=k\ell$ とおくと、$e_0,\dots,e_7$ は $\mathbb O$ の正規直交基底である。定義の式から計算すると、$e_a^2=-1$($1\le a\le7$)であり、$a\ne b$ のとき $e_ae_b=-e_be_a=\pm e_c$ となる。$e_ae_b=e_c$ となる 3 つ組 $(a,b,c)$ は
$$ (1,2,3),\ (1,4,5),\ (1,7,6),\ (2,4,6),\ (2,5,7),\ (3,4,7),\ (3,6,5) $$
とその巡回置換で尽くされ、順序を逆にすると符号が変わる。たとえば $e_2e_4=(j,0)(0,1)=(0,j)=e_6$、$e_4e_2=(0,1)(j,0)=(0,\bar j)=-e_6$ である。7 つの 3 つ組は、7 点からなる Fano 平面($\mathbb F_2$ 上の射影平面)の 7 本の直線にあたる(Bae02 §2.1, pp. 6–7 は別の番号付けで同じ形の図を与える)。

$e_1$$e_2$$e_3$$e_4$$e_5$$e_6$$e_7$
$e_1$$-1$$e_3$$-e_2$$e_5$$-e_4$$-e_7$$e_6$
$e_2$$-e_3$$-1$$e_1$$e_6$$e_7$$-e_4$$-e_5$
$e_3$$e_2$$-e_1$$-1$$e_7$$-e_6$$e_5$$-e_4$
$e_4$$-e_5$$-e_6$$-e_7$$-1$$e_1$$e_2$$e_3$
$e_5$$e_4$$-e_7$$e_6$$-e_1$$-1$$-e_3$$e_2$
$e_6$$e_7$$e_4$$-e_5$$-e_2$$e_3$$-1$$-e_1$
$e_7$$-e_6$$e_5$$e_4$$-e_3$$-e_2$$e_1$$-1$

(行の元 × 列の元の値。)

主定理

絶対値は積を保つ

すべての $x,y\in\mathbb O$ について $|xy|=|x||y|$ である。

交差項が消える

$x=(a,b)$、$y=(c,d)$ とする。$\mathbb H$ の標準内積は $\langle p,q\rangle=\mathrm{Re}(p\bar q)$ なので、$|p\pm q|^2=|p|^2+|q|^2\pm2\,\mathrm{Re}(p\bar q)$ である。$\overline{\bar db}=\bar bd$、$\overline{b\bar c}=c\bar b$ と $|pq|=|p||q|$ を使うと
$$ |ac-\bar db|^2=|a|^2|c|^2+|b|^2|d|^2-2\,\mathrm{Re}(ac\bar bd),\qquad |da+b\bar c|^2=|a|^2|d|^2+|b|^2|c|^2+2\,\mathrm{Re}(dac\bar b) $$
である。$\mathbb H$ は結合的で $\mathrm{Re}(pq)=\mathrm{Re}(qp)$ なので、$p=d$、$q=ac\bar b$ として $\mathrm{Re}(d\,ac\bar b)=\mathrm{Re}(ac\bar b\,d)$ となり、交差項は打ち消し合う。よって
$$ |xy|^2=|a|^2|c|^2+|b|^2|d|^2+|a|^2|d|^2+|b|^2|c|^2=(|a|^2+|b|^2)(|c|^2+|d|^2)=|x|^2|y|^2 $$
である。$\blacksquare$

絶対値が積を保つことだけから、内積と積の関係がいくつも出る。次の補題は、単位元をもち $|xy|=|x||y|$ をみたす有限次元の実多元環ならどれでも同じ証明で成り立つ。

内積と積の関係

$x,y,z,w\in\mathbb O$ について次が成り立つ。

  1. $\langle xy,xz\rangle=|x|^2\langle y,z\rangle$、$\langle yx,zx\rangle=\langle y,z\rangle|x|^2$。
  2. $\langle xy,wz\rangle+\langle wy,xz\rangle=2\langle x,w\rangle\langle y,z\rangle$。
  3. $\bar x=2\langle x,1\rangle1-x$ であり、$\langle xy,z\rangle=\langle y,\bar xz\rangle$、$\langle yx,z\rangle=\langle y,z\bar x\rangle$。
偏極する

1:thm-oct-norm より $|x(y+z)|^2=|x|^2|y+z|^2$ である。積の双線形性で左辺を展開すると $|xy|^2+|xz|^2+2\langle xy,xz\rangle$、右辺は $|x|^2(|y|^2+|z|^2+2\langle y,z\rangle)$ であり、$|xy|=|x||y|$、$|xz|=|x||z|$ を引くと第 1 式を得る。第 2 式は $|(y+z)x|^2=|y+z|^2|x|^2$ から同様に得る。
2:1 の第 1 式で $x$ を $x+w$ に替えると $\langle(x+w)y,(x+w)z\rangle=|x+w|^2\langle y,z\rangle$ である。両辺を展開し、1 の第 1 式($x$ の場合と $w$ の場合)を引くと $\langle xy,wz\rangle+\langle wy,xz\rangle=2\langle x,w\rangle\langle y,z\rangle$ を得る。
3:$x=(a,b)$ について $\langle x,1\rangle=\mathrm{Re}\,a$ であり、$\mathbb H$ では $a+\bar a=2\,\mathrm{Re}\,a$ なので $2\langle x,1\rangle1-x=(\bar a,-b)=\bar x$ である。2 で $w=1$ とし $y,z$ の役を入れ替えると $\langle xy,z\rangle+\langle xz,y\rangle=2\langle x,1\rangle\langle y,z\rangle$ となり、
$$ \langle xy,z\rangle=\langle y,\ 2\langle x,1\rangle z-xz\rangle=\langle y,\bar xz\rangle $$
である。1 の第 2 式で $x$ を $x+w$ に替えて同じく偏極すると $\langle yx,zw\rangle+\langle yw,zx\rangle=2\langle y,z\rangle\langle x,w\rangle$ を得る。$w=1$ とおけば $\langle yx,z\rangle=\langle y,2\langle x,1\rangle z-zx\rangle=\langle y,z\bar x\rangle$ である。$\blacksquare$

交代性と割り算

$x,y\in\mathbb O$ について次が成り立つ。

  1. $\bar x(xy)=|x|^2y=(yx)\bar x$。とくに $x\bar x=\bar xx=|x|^2$ である。
  2. (交代性)$x(xy)=(xx)y$、$(yx)x=y(xx)$。
  3. $x\neq0$ なら、$y\mapsto xy$ と $y\mapsto yx$ は $\mathbb O$ の線形同型であり、$x^{-1}:=\bar x/|x|^2$ について $x^{-1}(xy)=y=(yx)x^{-1}$ が成り立つ。とくに $\mathbb O$ には零因子がない($xy=0$ なら $x=0$ または $y=0$)。
内積で係数を比べる

1:任意の $z$ について、lem-oct-inner の 3 を $\bar x$ に使い($\bar{\bar x}=x$)、続けて 1 を使うと
$$ \langle\bar x(xy),z\rangle=\langle xy,xz\rangle=|x|^2\langle y,z\rangle $$
である。内積は非退化なので $\bar x(xy)=|x|^2y$ である。$\langle(yx)\bar x,z\rangle=\langle yx,zx\rangle=|x|^2\langle y,z\rangle$ から $(yx)\bar x=|x|^2y$ も同様である。$y=1$ とおくと $\bar xx=x\bar x=|x|^2$ である。
2:$\bar x=2\langle x,1\rangle-x$ を 1 の $\bar x(xy)=|x|^2y$ に代入すると
$$ x(xy)=2\langle x,1\rangle\,xy-|x|^2y $$
である。$y=1$ とおくと $xx=2\langle x,1\rangle x-|x|^2$ であり、右から $y$ を掛けると $(xx)y=2\langle x,1\rangle\,xy-|x|^2y$ となる。2 式を比べて $x(xy)=(xx)y$ を得る。$(yx)\bar x=|x|^2y$ から同様に $(yx)x=y(xx)$ を得る。
3:thm-oct-norm により $|xy|=|x||y|$ なので、$x\neq0$ なら $y\mapsto xy$ は単射な線形写像であり、$\mathbb O$ は有限次元なので同型である。$y\mapsto yx$ も同じである。$x^{-1}(xy)=\bar x(xy)/|x|^2=y$、$(yx)x^{-1}=y$ は 1 による。$\blacksquare$

結合法則は成り立たない。$x=i=(i,0)$、$y=j=(j,0)$、$z=\ell=(0,1)$ とすると
$$ (xy)z=(k,0)(0,1)=(0,k),\qquad x(yz)=(i,0)(0,j)=(0,ji)=(0,-k) $$
であり、$(ij)\ell=-i(j\ell)$ となる。可換法則も成り立たない($ij=k=-ji$)。
交代性は「2 つの元から生成される部分多元環は結合的である」ことと同値である(Artin の定理。Bae02 §1.1, p. 4。この記事では証明しない)。上の例は 3 つの元 $i,j,\ell$ を使っており、交代性と矛盾しない。とくに 1 つの元 $x$ の冪 $x^n$ は括弧の付け方によらず定まる。

単位八元数と 7 次元球面

絶対値 $1$ の八元数の全体 $S^7=\{x\in\mathbb O\mid|x|=1\}$ は、thm-oct-norm により積で閉じている。積は多項式で書けるので連続であり、$1\in S^7$ は両側の単位元である。したがって $S^7$ は(単位元を厳密にもつ)H 空間である(Hat02 §3.C, pp. 281–282)。しかし $(e_1e_2)e_4=-e_1(e_2e_4)$ なので、この積で $S^7$ は群にならない。$S^1\subset\mathbb C$ と $S^3\subset\mathbb H$ は同じ積で群になる。$(-x)y=-(xy)=x(-y)$ なので、この積は $\pm$ の同一視と両立し、$\mathbb{RP}^7=S^7/\{\pm1\}$ にも連続な積を誘導する。

$S^7$ の平行化

$x\in S^7$ と $1\le a\le7$ について $v_a(x):=e_ax$ とおく。$v_1(x),\dots,v_7(x)$ は $x$ における $S^7$ の接空間 $\{v\in\mathbb O\mid\langle v,x\rangle=0\}$ の正規直交基底であり、$x$ について連続である。したがって $S^7$ の接束は自明である。

右から掛ける写像は等長

lem-oct-inner の 1 の第 2 式により、$\langle e_ax,e_bx\rangle=\langle e_a,e_b\rangle|x|^2=\delta_{ab}$、$\langle e_ax,x\rangle=\langle e_ax,1x\rangle=\langle e_a,1\rangle|x|^2=0$ である。よって 7 つのベクトルは接空間(7 次元)の中で正規直交であり、基底をなす。積は連続なので $v_a$ は連続なベクトル場である。$\blacksquare$

同じ構成を $\mathbb C$、$\mathbb H$ で行うと $S^1$、$S^3$ の平行化が得られる。球面 $S^n$ が平行化可能なのは $n=0,1,3,7$ に限る(n次元球面、Hat02 §4.B, p. 428。この記事では証明しない)。

虚部と 7 次元のベクトル積

実部が $0$ の八元数、すなわち $1$ に直交する元の全体を $\mathrm{Im}\,\mathbb O\cong\mathbb R^7$ と書く。$u\in\mathrm{Im}\,\mathbb O$ なら $\bar u=-u$ である。

虚部の積の分解

$u,v\in\mathrm{Im}\,\mathbb O$ について
$$ uv=-\langle u,v\rangle+u\times v,\qquad u\times v:=\tfrac12(uv-vu)\in\mathrm{Im}\,\mathbb O $$
と書け、$u\times v$ は $u$ と $v$ に直交し、$|u\times v|^2=|u|^2|v|^2-\langle u,v\rangle^2$ をみたす。

内積の関係式から

lem-oct-inner の 3 により $\mathrm{Re}(uv)=\langle uv,1\rangle=\langle v,\bar u\rangle=-\langle u,v\rangle$ である。$\mathrm{Re}(vu)$ も同じ値である。$w\in\mathrm{Im}\,\mathbb O$ について $ww=-w\bar w=-|w|^2$(thm-oct-alternative の 1)なので、$(u+v)^2$ を展開すると $uv+vu=-|u+v|^2+|u|^2+|v|^2=-2\langle u,v\rangle$ である。よって $uv$ の虚部を $c$ とおくと、$vu$ の虚部は $-c$ であり、$c=\frac12(uv-vu)=u\times v$、$uv=-\langle u,v\rangle+u\times v$ である。lem-oct-inner の 1 から $\langle uv,u\rangle=\langle uv,u1\rangle=|u|^2\langle v,1\rangle=0$、$\langle uv,v\rangle=\langle uv,1v\rangle=\langle u,1\rangle|v|^2=0$ なので、$\langle u\times v,u\rangle=\langle uv,u\rangle+\langle u,v\rangle\langle1,u\rangle=0$、同様に $\langle u\times v,v\rangle=0$ である。最後に $|u|^2|v|^2=|uv|^2=\langle u,v\rangle^2+|u\times v|^2$ である。$\blacksquare$

これは ベクトル積 の定理「双線形なベクトル積が存在する次元」の $n=7$ の場合の存在にあたる。$\mathbb H$ の純部で同じことをすると 3 次元の通常のベクトル積が得られる(四元数 の命題「スカラー部とベクトル部による積の公式」)。

分類と位置づけ

ここからは引用である。この節の主張はこの記事では証明しない。

  • Hurwitz の定理。 単位元をもち $|xy|=|x||y|$ をみたす有限次元の実多元環は、$\mathbb R$、$\mathbb C$、$\mathbb H$、$\mathbb O$ に限る(Bae02 §1.1 Theorem 1, p. 5)。単位元をもつ交代的な実多元体も同じ 4 つに限る(同 Theorem 2)。零因子のない有限次元の実多元環の次元は、単位元を仮定しなくても $1,2,4,8$ に限る(Kervaire、Bott–Milnor。Hat02 p. 173・p. 428。単位元をもつ場合は Bae02 Theorem 3, p. 5)。
  • Hopf 束と射影平面。 $\mathbb O^2$ の単位球面 $S^{15}$ から $S^8$ への Hopf 写像が定まり、$S^7\to S^{15}\to S^8$ はファイバー束になる(Hat02 Example 4.47, p. 378、Hopf束)。$S^8$ にこの写像で 16 胞体を貼ると八元数射影平面 $\mathbb{OP}^2$ が得られるが、結合法則がないため $n\ge3$ の $\mathbb{OP}^n$ は同じ方法では作れない(同 p. 379)。$\mathbb{OP}^2$ の整数係数のコホモロジー環は $\mathbb Z[\alpha]/(\alpha^3)$($|\alpha|=8$)で、その貼り付け写像の Hopf 不変量は $\pm1$ である(同 p. 427)。
  • 例外 Lie 群。 $\mathbb O$ の多元環としての自己同型群は、例外型の単純 Lie 群のうち最小の $G_2$ である(Bae02 §4.1, p. 35)。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
積の結合法則$\mathbb O$ の単位球面 $S^7$絶対値 $1$ の元の全体が積で群になること($\mathbb C$、$\mathbb H$ では成り立つ)
次元が $8$ 以下であること(Cayley–Dickson 構成を $\mathbb O$ にもう一度行う)16 次元の多元環 $\mathbb O\times\mathbb O$零因子がないこと、絶対値が積を保つこと
Cayley–Dickson 構成で倍にするもとの多元環の可換法則可換でない $\mathbb H$ の組から作った $\mathbb O$倍にした多元環が結合的になること(可換な $\mathbb C$ の組から作った $\mathbb H$ は結合的)
反例の確かめ
  1. $e_1,e_2,e_4\in S^7$ について $(e_1e_2)e_4=e_3e_4=e_7$、$e_1(e_2e_4)=e_1e_6=-e_7$ である(掛け算の表)。積が結合的でない集合は群にならない。
  2. Cayley–Dickson の式を $\mathbb O$ の組に当てはめた 16 次元の多元環で、$x:=(e_1,e_2)$、$y:=(e_4,-e_7)$ とおく。$\overline{-e_7}=e_7$、$\overline{e_4}=-e_4$ なので、掛け算の表から
    $$ xy=\bigl(e_1e_4-e_7e_2,\ (-e_7)e_1+e_2(-e_4)\bigr)=(e_5-e_5,\ e_6-e_6)=(0,0) $$
    である。$x,y\neq0$ なので零因子があり、$|xy|=|x||y|$ も成り立たない(左辺 $0$、右辺 $2$)。この 16 次元の多元環にも零因子があることは Bae02 §2.2(p. 10)が述べている。
  3. 一般に、もとの多元環が可換かつ結合的であることは、Cayley–Dickson 構成で倍にした多元環が結合的であることと同値である(Bae02 §2.2 Proposition 3, p. 9。Baez の式は $(a,b)\mapsto(a,\bar b)$ で本記事の式に移る。この記事では証明しない)。$\mathbb C$ は可換なので、$\mathbb C$ の組から同じ式で作った $\mathbb H$ は結合的である。$\mathbb H$ は可換でないので、その組から作った $\mathbb O$ では本文の例 $(ij)\ell=-i(j\ell)$ のように結合法則が破れる。ここで破れる仮定は「もとの多元環の可換性」だけである($\mathbb H$ 自身は結合的)。

補足

文献

Cayley–Dickson 構成、Fano 平面による掛け算の覚え方、Hurwitz の定理、Artin の定理、$G_2$ は Bae02(§1.1, §2.1, §2.2, §4.1)にある。$S^7$ の H 空間の構造、Hopf 束、$\mathbb{OP}^2$ は Hat02 §3.C・§4.2・§4.B にある。thm-oct-norm の計算は、四元数の性質から直接組み立てたものである。lem-oct-inner・thm-oct-alternative・prop-oct-parallel・prop-oct-cross の証明は、絶対値が積を保つことだけから組み立てたものである。

関連項目

参考文献

[1]
John C. Baez, The octonions, Bulletin of the American Mathematical Society 39 (2002), 2002, arXiv:math/0105155v4 の頁:§1.1(p. 4 交代性と Artin の定理、Theorem 1・2・3, p. 5)、§2.1(pp. 6–7 Fano 平面)、§2.2(pp. 8–10 Cayley–Dickson 構成、Proposition 3 p. 9、16 次元の多元環の零因子)、§4.1(p. 35 G2)
[2]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002, p. 173(多元体の次元)、§3.C(pp. 281–282、球面の H 空間の構造)、Example 4.47(p. 378、Hopf 束 S^7→S^15→S^8)、p. 379(八元数射影平面)、§4.B(pp. 427–428、Hopf 不変量 1 と Adams の定理)

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